いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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今回は尚文回と思って書いてます。


恐怖の正体と希望の存在

 ラムと共に森へ乗り込んだスバル。啖呵を切って森へ突入したまでは良かったが、そもそも冷静に考えるとスバルが魔獣との戦いで役に立てる場面が存在しない。

 案の定、ラムに罵倒されながら森の中を疾走するスバル。

 

「っく!羨ましいと思ってはいけないというのに……っ!!!」

 

「お前、なんか調子戻ってきたな、ダクネス。あと、身をクネクネさせんな。色んな意味で目の毒だ!」

 

「はぅ!!カズマの方こそ、言葉に鋭さが出てきたじゃないか!!」

 

「ちょっと、そこの変態2人。スバルが元気出したからって、変な元気出さないでください!」

 

「出してねえよ!全部あっちのドMクルセイダーの方だ!!」

 

 と、調子が戻って来たダクネスにカズマが食ってかかり、その騒がしい様子にめぐみんがため息をつく。

 だが、これだけ騒げるのも、今回でスバルが全員の死のループを終わらせられると、どこか確信めいたものを感じているからだろう。

 

『バルス、千里眼を使うわ。少し待ちなさい!』

 

「千里眼──遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)をスキル化したようなものか?」

 

「ですが、見た感じでは高位の能力とは思えません。それに鳥や虫の視界に映るものを共有して見るという性質上、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)よりもずっと扱いが低いものと感じられます」

 

 アインズの疑問の声にデミウルゴスがすかさず答える。

 その答えにアインズもなるほどと頷くと、千里眼を使用中のラムへと向き直る。

 

 ただ、残念ながら、スクリーンの映像はスバルを中心としたものしか映さず、千里眼を使っているラムの視点は映されないため、どのように見えているかは不明だ。

 

『──バルス、なにかがこっちを見てるわ』

 

 その言葉通り、森の中に潜んでいたウルガルムが襲撃を掛けてきた。

 それをあっさりと風魔法で始末するラムに、改めて双子メイドの実力を目の当たりにした皆は感嘆の息を漏らす。

 

「ほぉ、鳥や虫以外にも魔獣の視界とも共有出来るのか。それに個人の実力も相応にある。アウラと組ませれば大きな戦力になりそうだな」

 

「確かに、フェン達と一緒に戦わせれば面白そうですね!」

 

 アインズの考えを聞きつけたアウラが目を輝かせる。きっと、配下の魔獣にラムと一緒に森を駆ける姿を想像したのだろう。マーレもそうだが、アウラも学園で随分と友好関係を築けているなと内心で微笑むアインズ。

 

 それから、角なしだというラムの秘密とレムの姉という矜持が語られ、スバルが自身に纏わりつく魔女の臭いを強める為に死に戻りの秘密をバラそうとして森中の魔獣を呼び寄せる。

 

「あ~!あの馬鹿は!?自己犠牲が冴えたやり方だと思っているのか、まったく……」

 

「これは、陣営に引き入れる前に、その精神性から叩き直した方がよさそうだな」

 

 カッコつけて囮大作戦なんて宣うスバルの無茶な賭けに、ターニャとアインズは揃ってため息を漏らす。

 

「くひひひ、馬鹿っす!とびきりの馬鹿っすよ!!」

 

「だから、その笑い声も止めておきなさい。ルプー、誰も気づいていないからって、気を抜いていい訳じゃないのよ……」

 

 スバルの無茶な行動に押し殺したように嗤うルプスレギナに、ユリが苦言を何度も呈している。

 とはいえ、聞くのは最初の方だけで、スバルが彼女の琴線に触れる度に本性が顔を見せるの繰り返しだ。

 

『戦えるっていうから信頼したらこれだよ!』

 

『戦えていたでしょう、実際。思ったよりラムの体力がもたなかっただけで』

 

『危ない橋とかかっこよく渡る的発言したよな!?』

 

『ラムの想像を越えて危なかったのよ。渡る前に落ちかけてたわ』

 

 お荷物状態が逆転した2人、それを見ている者らは慌てる者と呆れる者の2パターンに綺麗に分かれる。

 

「はぁ~、他人任せでこうも威張れるのも、ある種の才能だな……」

 

「しかし、それもスバルのいいところ……だと、私は思うぞ。うん……」

 

「フォローを入れるなら、せめて言い淀まずに言いたまえよ、アインズ君」

 

 歯切れの悪そうにアインズがフォローを入れるが、あまりフォローになっていない。

 正直、ターニャとしてはスバルの評価は下がる一方だ。だが、それでも所々で挽回の活躍を見せるスバルに期待しているのも事実。

 

『しまっ──!』

 

 森を抜けた先が崖という、スバルの凡ミスが連発し、急な坂道を転げ落ちていく。

 なんとか完全落下する前に、斜面に剣を突き刺してブレーキを効かせるが、一度は止まったものの、2人分の体重を支えられる程、剣の強度は高くなかったようで、ポッキリと折れて自由落下する。

 

『──エル・フーラ!!』

 

 間一髪のところでラムの魔法により、地面のシミになることは防げたが、変わりにラムが完全に意識を失い、更には魔獣の群れに四方八方から囲まれる事態に陥った。

 

「うおーい!ラムは意識ねえし!魔獣に囲まれてるし!剣は折れて使い道無くなっちまってるし、絶体絶命じゃんかよ!!?」

 

「こ、これは、流石にもうどうしようもないピンチなのでは!?」

 

「噓よ!噓ぉ!!あんなに勝ち確フラグ立てといて、負けるのなんてありえないわ!!!」

 

「しかし、アクアよ、これは流石に無理というものじゃ……」

 

 今まで多くのピンチを経験してきたカズマ達も、今のスバルの状況が最悪であると感じ取ったのだろう。

 悲壮な声を上げるが、その次の瞬間、スバルが落ちてきた崖の上から、小さな岩と共に鬼化したレムが飛び降りてきた。

 

「これはセーフというやつでしょうか、少佐?」

 

「さてな?レムの正気がどれだけ残っているかによるが。最悪の場合、魔獣と共に正気を失ったレムまでスバルを殺しにかかる展開もありえるな」

 

 瞬間、助けに来たと思われたレムが、魔獣ではなくスバルを標的に攻撃を仕掛けてきた。

 幸いにも、レムの攻撃なら文字通り死ぬほど受けた経験を持つスバルは、ギリギリのところで回避に成功する。

 

「結局、過程は違えど、スバルは死んでラムもレムに殺される。そして、またループか……」

 

「っ!尚文様!?その言い方は流石に……。それに、まだそうなると決まったわけでは」

 

 尚文の歯に衣着せぬ言い方に、ラフタリアが異を唱える。

 だが、尚文の言う通り、レムの攻撃を避けはしたが、スバルには余裕なんてものはない。このまま避け続けるのも限度があるだろう。

 このままでは遠くない未来に、尚文の言う通りの結果が待っている。

 

『今のうちに──』

 

 しかし、幸いなことと言っていいのか、魔獣は暴走するレムと協力する筈もなく、スバルを無視してレムへと襲いかかる。

 その隙を狙ってスバルがその場から離脱せんと走り出した。

 

「あのクソ犬共がぁ!!」

 

「お、落ち着け、アルベド。あれは過去の映像だからな!」

 

 レムに群がって危害を加える魔獣に、アルベドが静かに怒りを燃やしながら、椅子の手摺を握力のみで砕く。(砕かれてすぐに修復されていった)

 アインズがそれを宥める中、レムは魔獣の爪や牙に傷つけられながらも、次々と自身に傷つけてくる魔獣を葬っていく。

 

 しかし、魔獣は続々と森の中から無限に湧き出るかのように現れていき、鬼化したレムも多勢に無勢と押され始めてくる。

 そんな状況で、スバルがただ黙ってこのまま見過ごして逃げるはずもない。

 

『だから恐い顔してねぇで、笑えレム。──俺は『死に……』

 

「ちっ、せめてラムを安全な場所に──、いや、そんなことに頭を回している余裕もないのか……」

 

「少佐~……」

 

「ええい!情けない声を出すな、貴様も帝国軍人だろ!しかし、ナツキ・スバル~っ、今度学園で会ったなら帝国式の軍事訓練に強制参加させてやろうか~──!!」

 

 親指を噛みながら、ターニャは無茶無謀を繰り返し続けるスバルに業を煮やしていた。

 今もペナルティのせいで激痛に脂汗を流しながらも、スバルはその選択を後悔も反省もしていなかった。

 

 三つ巴というには、1つだけ不釣り合いが過ぎるほどに脆弱ではあるが、今の局面ではそれ以上に似合う言葉はなかった。

 レムと魔獣が互いに潰しあいをしながら、逃げるスバルを追い掛ける。

 

『──角よ』

 

『目、覚めたのか』

 

 この乱闘の騒がしさが原因で目が覚めたかは不明だが、今まで意識を失っていたラムがポツリと呟いた。

 この状況を──、暴走するレムを正気に戻せるであろう切っ掛けをラムが提示する。

 

「ふむ、鬼族の強さの象徴であり器官でもある角こそが弱点部位というわけか……」

 

「俺なら『狙撃』で恐らく1発で狙えるけど、剣しか持っていないスバルじゃ無理だろ。魔法を使えるラムも戦闘不能状態だし、どうすんだよ?」

 

 アインズの呟きに、カズマが疑問の声を漏らす。

 まさに万事休すの状態でどうするのか、誰もが固唾を飲みながら、そしてどこか期待を抱きながらスバルのこの後の行動を見守る。

 

『どうにかできそうな方法は実は思い浮かんでんだけど──』

 

「おお!なんかあんのか!!」

 

「きっとあれよ!石の投擲とか、カズマさんみたく小ズルい策でレムを正気に戻すんだわ!」

 

「おい、待て。なんだ小ズルいってのは……?」

 

 スバルの発言に、カズマとアクアが期待に満ちた声を上げる。

 一部不適切な発言があったが、それでも長い付き合いなので頬を抓るだけで深くは言及はしなかった。

 

『でも、きっとお前は怒るし』

 

『それで妹が正気に戻るならラムは怒ったりしないわ』

 

『ロズっちに誓って?』

 

『……そこを選ぶとは命知らずね。ええ、ロズワール様に誓って』

 

「「「「ん……?」」」」

 

 なんでここでロズワールが出てくるんだと何人かが首を傾げている間にも、2人のやり取りは続いていく。

 そして、逃げることを止めたスバルがレムと向き合い、そして──

 

『おおぉぉ、えすっ!』

 

『──は?』

 

「「「な、投げたぁぁぁ!!?」」」

 

「あ~、確かにそれなら動きは止めれるな」

 

 レムに向かって力の限りラムを投げ飛ばしたことに、多くの者が驚愕の声を上げる中、カズマだけが納得とばかしに頷く。

 まあ、カズマもよくアクアを囮にしてジャイアント・トードを狩っていたからこその共感であり、理解なのだろう。

 なにも相手が憎くてしているわけでは──、3割ぐらいはあるかもしれない。

 ただ、それも相手を信用してのもの。誰とも知らない相手に、事前予告してから、そんな真似が出来るわけがない。

 だから、スバルがこの行動を取ったのはラムを──、そして、レムを信用していたからだとカズマは察した。

 

 結果、その信用は正しかったようで、飛んできたラムをレムは受け止めた。

 攻撃するでも、避けるでもなく、抱きしめて受け止めたのだ。それを分かっていたからこそ、してくれると信じていたからこそ、スバルはその場の誰よりも先にレムの方へと辿り着けた。

 

『──あふ』

 

 しかし、正気でいられるのはラムの場合のみで、向かってくるスバルには鋭い視線を飛ばしてきた。

 そのせいで、殺された恐怖心も相まって、一歩分だけ踏み込みが足らなかった。

 

『ビビっちまったぁ! あと一歩、勇気が足りんかったぁ!!』

 

「戦場デ恐怖ニ負ケルトハ、武人ニアルマジキ精神ダ!!」

 

「いや、別にスバルは武人じゃないだろ……」

 

 コキュートスの苦言に、思わずカズマがツッコミを入れてしまう。

 そんな馬鹿なやり取りの間に、空振りしたスバルの足元に爆発が起こる。

 

 空中に吹っ飛ばされたスバルの眼下に映るのは、吹き飛んだスバルを見ながら小さな尻尾をフリフリさせてる子犬。

 ムカつく感情は大いにあるが、それよりもレムの方を優先したのだろう。スバルの視界が子犬からレムの方へと切り替わる。

 

『笑え、レム。──今日の俺は、鬼より鬼がかってるぜ』

 

 その叫びと共に、スバルの剣がレムの角を叩きつけた。

 

「「「「スバル!!!」」」」

 

 まさかの逆転劇に、カズマ達だけでなく、ターニャを除くヴィーシャらも立ち上がって声を上げた。

 相も変わらず冷静に事態の展開を見守り続けるナザリック勢と、複雑な顔でスバルの活躍を目にし続ける尚文とそれを心配するラフタリア。ターニャは横で大はしゃぎする部下達に、注意の1つでも飛ばそうか悩みながらも、これから先の展開次第ではメンタルに多大なダメージを負うかもしれんからと見逃すことにした。

 

 角に衝撃を受けて気絶したレムをスバルが脇に抱えて全力でこの場から離脱した。

 当然、獲物を逃がさんと魔獣達も追い掛ける。ロズワールの従者として森についてはスバルよりも地理が詳しいラムの先導の元、魔獣の群れから必死になって逃げる。

 

『──バルス、正面の折れた木を右へ! 足が遅い!』

 

『無茶、言うな……っ。はぁ、全力、疾走だ……っつんだよ!』

 

『……スバル、くん。なにを』

 

 逃げている道中でレムが目を覚ます。

 まだ完全に意識が戻ってきていないのだろう。どこかぼんやりとした目でスバルを見る。

 

「さて、これで森に入った目的の1つは完了しましたが、残りのナツキ・スバルにかけられた呪いの方は一体どうするのか?」

 

「既ニ日ハ沈ミカケ、タイムリミットノ半日ガ後ドレ程残ッテイルカ……」

 

 コキュートスがスバルの現状を危ぶむ中、デミウルゴスはスバル達の逃走劇に真剣な面持ちで、しかし、どことなく面白くなってきたなという好奇心を隠せない様子で観察を続ける。

 

『フーラ!』

 

 正面から魔獣が迫り、それをラムの魔法で一刀両断した後に、近くの茂みに身を隠す。

 そこから先はレムの中にある罪悪感の懺悔とスバルの叱咤激励によるやり取り。

 

『色々とお前はバカだけど、特にバカなことが三つある。わかるか?』

 

「ちっ!偉そうなこと言いやがって、自分を殺した相手を命懸けで助けに行く方がよっぽどバカだろうが!!」

 

「でも、それだけレムさんとラムさん。お屋敷での日々がスバルさんにとって大切だったってことなんじゃないでしょうか?」

 

 憤慨する尚文の隣で、ラフタリアが微笑みながら言う。

 確かに、ここに至るまでの道筋を、一から十まで見届けてきた。だから、ラフタリアが言っていることを頭から完全に否定する言葉を尚文は持ち合わせていない。

 けれど……、だからといって、ナツキ・スバルがどうしてそこまで命を懸けられるのか?その感情による1点のみが岩谷尚文にはどうしても理解出来ないのだ。

 いや、あるいは理解出来かけてるからこそ、どうしようもなく自身の心がそれを否定したがっているのかもしれない。

 

「見届けましょう、尚文様。例えそれが正解でも、間違っていても、()()()()()()()()()()ですから」

 

「……っ!」

 

 優しくその手を握るラフタリアの温かさに、尚文は少しだけ心を落ち着ける。

 そして同時に、何故自分がスバルの行動にこうまで恐怖心を抱いていたのかを知る。

 

 怖かったのだ。これで自分がしてきたことが間違いだと証明されてしまえば。

 もし、自分が勇者たり得ないと仲間に思われれば、自分はまた孤独に戻ってしまうのではないかと恐れていたのだ。

 そんなことはないと、頭では分かっていても尚文の心は不安に揺れていた。

 

 けれど、そんな自分をまたもや救ってくれたのはラフタリアだった。

 いいや、ラフタリアだけじゃない。

 

「フィーロもずっとご主人様と一緒だよ!」

 

「ふふ、そうね!私もフィーロも、これからもずっと尚文様と一緒です!」

 

 不安に揺れて凍てつきかけていた尚文の心を、両脇に座る仲間の手の温かさと言葉の優しさが溶かしてくれた。それだけで、尚文は救われたような気持ちになれた。

 

「……悪かったな。ラフタリア、フィーロ。もう……大丈夫だ!」

 

「「尚文様(ご主人様)!!」」

 

 2人の手を離し、ようやくいつもの笑みを取り戻した尚文がそれぞれの頭に手をポンと置き、スバルの活躍に今度こそ変に目を背けずに見届けようと意識を前に向けた。

 

『レムをラムに突き飛ばし、俺はひとりで結界の彼方まで無情にも逃げ去る──というシナリオはどうだ?』

 

『魔女の臭いでウルガルムを引きつける囮になるから、その間にレムを連れてラムたちに逃げろと。わかったわ』

 

 スバルが考えた、超絶分かりやす過ぎるツンデレ策を、ラムが無情にもバラしてしまう。

 

「スバルがツンデレとか、似合わねえ~」

 

「そういうカズマも、時々ああいう風に捻くれたやり方を提案してきますよ」

 

「なんだかんだで、カズマさんもスバルも似た者同士なのよね」

 

「それって俺も主人公らしいってことか?」

 

「そうじゃないか?カズマは時折、主人公らしいことをしているぞ?」

 

 カズマの疑問に、ダクネスが優しい微笑と共に肯定する。

 まあ、カズマが本当に主人公らしい行動を取ったことは片手で数えられる程度だが。

 とはいえ、ダクネスの発言に満更でもないといった様子のカズマは鼻の下を指で擦りながら、照れたように視線を逸らしていた。

 

『俺の人生初デートの相手だ。見捨てるような薄情はできねぇな』

 

「あちゃ~。どこもかしこも、ラブラブっすね!見ているだけで、アチチってやつっすよ!」

 

「はぁ~、はしたない言い方はやめなさい」

 

 手で顔を覆うポーズをしながら、指の隙間から尚文とカズマ達、そして傷だらけのメイドにカッコつけたスバルの様子を窺うルプスレギナ。

 そんな何度言っても態度を改めない次女に、長女であるユリが軽く叱りつける。

 

 ラムとレムを結界の方へと逃がし、スバルがその反対方向へと走り出す。

 そして目の前には散々に手を焼かされた子犬が立ち塞がる。

 

『そろそろお前とも最後にしたいもんだな……』

 

 また魔法でもくるのかと身構えるスバルの予想に反して、唸り声を上げる子犬の体がみるみるうちにデカくなり、他の魔獣より抜きん出た大きさに肥大化した。

 

「まさかの魔法使いの子犬じゃなくて、魔法使いの初心者殺しかよ……」

 

「いえ、あのデカさなら上級者殺し*1に匹敵しますよ!?」

 

 もはや子犬とは呼べない姿に変貌した魔獣に、カズマとめぐみんが驚きの声を上げる。

 

 そして、映像からは双子のメイドの姿は見えなくなっているが、部屋中に泣いてスバルの名を叫ぶレムの声が響き渡る。

 

『──スバルくん!!』

 

「そう、レム。貴方はこの時に──」

 

 悲痛の声の中にある、今までのスバルに対して込められていなかった想いに、アルベドは納得したように目を瞑って頷いた。自分とは違う過程。されど、自分と同じ愛を、想いを手に入れたレムに祝福に近い気持ちを抱いて。

 

『──シャマク!!』

 

 スバルが唯一使用できる陰魔法のシャマク。本来は目くらましで何も見えなくなる筈だというのに、映像はまるでサーモグラフィのように、ハッキリと走るスバルと棒立ちになる巨躯の魔獣の喉元に半分に折れた剣が突き刺さる瞬間が見えた。

 

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 

 まさにジャイアントキリングを果たした英雄を目の当たりにし、カズマを筆頭にヴァイスら男組が惜しみない喝采を上げる。

 

『……感謝しといてやるぜ、ガキ共』

 

「なるほど、MP回復アイテムを貰っていたのか。これはとんだ伏線だったな」

 

 森に入る前に子供達から貰った物の中の1つが切り札であったことに、アインズは感心の声をもらす。

 

『──あ?』

 

 だが、そんな勝利もまやかしだと言わんばかりに、シャマクの中から未だに生きていた巨躯の魔獣が、スバルの背後から襲い掛かる。

 完全に意識から外れていたところからの攻撃に、スバルは簡単に押しつぶされる。

 

「噓だろぉ!まだ生きてんのかよ!?」

 

 カズマの悲鳴染みた叫びに、ヴァイスらも先程の喝采もどこへやら、ここに来ての絶望の展開に顔を青ざめる。

 だが、スバルは巨躯の魔獣が嚙みつこうとするよりも先に、首筋に刺さった剣を引き抜き、迫りくる魔獣の口内に突き立てた。

 

 しかし、それでも一瞬怯ませた程度、すぐさま魔獣から距離を取り、対峙するスバル。

 手負いとはいえ、それはスバルも同じこと。逃れきれない絶体絶命のピンチに、救いの手が差し込む。

 

『──ウル・ゴーア』

 

 森を焼き尽くす程の火力の魔法が天から降り注いだ。

 いったい何が起きたのか、スバルが突然の事に惚けていると、空から聞き馴染んだふざけた声が笑いながら降り注いでくる。

 

『いやいやぁ、しぃかし考えたものだねぇ。本来は目くらましとして使うシャマクを、敢えて目印として利用するとは』

 

『くんの超絶遅ぇよ、ロズっち。俺がなんべん死を覚悟したと思ってやがる』

 

「マジか~、ロズワール先生って、多分強いんだろうなって思ってたけど、下手すりゃ紅魔族よりも、よっぽど魔法のエキスパートじゃん」

 

「ぬぬぬ……、紅魔族としてその評価に異議申し立てをしたいところですが、ぶっころりーとかと比べてみれば、少々可哀想なのでやめておきましょう。しかし!爆裂魔法に関してならば、私が劣る筈がないということだけは明言しておきましょう!!」

 

 画面の惨状を見たカズマの漏らした感想に、めぐみんが里のニートと頭の中で比べて惨敗した為に口を閉ざす。ただし、自身の爆裂魔法だけに関しては負けじと反論していた。

 

「今のは第7位階魔法の焼夷(ナパーム)か?威力や効果で見れば同じ魔法のように思えるが……」

 

「あちらの世界では魔法の系統別に呼び名が変わり、威力ごとに頭につく名も変化します。そして、ゴーアは火の呼び名であり、ウルは上から数えて2番目の威力を差す名であったかと……」

 

 アインズの穴だらけの知識をしれっとデミウルゴスが補足してくれる。

 これはこれで有難いのだが、いつ自分の無知を皆に知られるのか不安になる為、少々無い肝が冷える思いだ。

 

『ロズワール様──っ』

 

 スバルが振り返ると、どうやら無事の様子の双子のメイドの姿に、深くため息をこぼして安堵する。

 

『──スバルくん!』

 

 魔獣という危機が去り、レムからの熱い抱擁を受けて潰れたカエルのような悲鳴を上げるスバル。

 

「賢い私はもう分かったわ!屋敷の皆の信頼をゲットして、悪い呪術師のモンスターも退治したんだから、これから先は皆幸せのハッピーエンドってやつよ!!」

 

「いや、こんなん誰だってわかるだろ。それに、スバルがこんだけ体張って頑張ったんだ。ハッピーエンドが存在しないなんて認めてたまるか!」

 

 明るい顔でハッピーエンドを断言するアクアに、カズマもまた同じ様な顔で断言する。

 一方で、カズマ達の後ろの席に座っているアインズ達の方が騒がしさを増していた。

 

「そうよ、レム!そのまま押し倒した状態で一気に服を脱がせて既成事実まで持込んじゃいなさい!!」

 

「よ、よせ!アルベド!!れ、冷静にだな!!」

 

 興奮で顔を赤らめながら、拳を強く握ってとんでもないことを言い出すアルベドを、慌てた様子のアインズが後ろから羽交い絞めにしようと押し留める。

 だが、それが良くなかった。興奮しているアルベドに羽交い絞めという形で密着したことにより、アルベドの対象がアインズへと移る。

 

「くふ~!アインズ様!!不肖、このアルベド!アインズ様の寵愛を受け取りたく──」

 

「おんどりゃ~!!アルベド!!なにサラッと抜け駆けしようとしてるでありんすか!!?」

 

「あら、私ったら──。レムの幸せが私の心を惑わしてつい本音が……」

 

「白々しいにも程があるでありんす!!」

 

 遅れて状況を把握したシャルティアに責められるアルベドだったが、どこ吹く風だ。

 

「私は知らん。知らんぞ……」

 

「ほえ~、レムさんもアルベドさんもシャルティアさんも、皆さん素敵?な恋をしてるんですね。それに比べて私なんか……」

 

「あ~、あれを参考にせん方がいいぞ。そもそも、恋愛なんてものは望む望まぬで始まるものではないからな」

 

 恋愛経験が皆無なヴィーシャの呟きに、ターニャは諭すように優しく語りかける。

 そうして、ドタバタと揉めているうちに、何度目かのスバルの気絶により、映像は暗転する。

 

『──起きて、くれましたか』

 

 一瞬、死に戻りしてしまったのではと心配になるスバルの格好だったが、その傍に心配そうにスバルの手を握るレムの姿を見て、ホッと安堵する。

 事の顛末は全てレムから聞かされ、スバルの呪いはロズワールが全ての魔獣を一掃して解呪されたようだ。

 

 後の会話は、スバルの謝罪とレムの後悔による泣き言だった。

 だけど、そんな会話を吹き飛ばすぐらい、スバルは明るく元気に振る舞う。あとついでにセクハラ発言も口にする。

 

『レムがいてくれてよかったよ。ありがとう』

 

 俯いてばかりのレムを否定するスバルの感謝の言葉に、レムは顔を上げる。

 

『笑えよ、レム。しけた面してないで、笑え。笑いながら、未来の話をしよう。お前がこれまで後ろ向いてたもったいない分を、今後は前向いてお話しようぜ。とりあえずは、明日のことからでも』

 

『……明日の、こと』

 

『そう、明日のこと。なんでもいいぜ? たとえば、明日の朝食のメニューは和食にするか洋食にするか、靴下は右足から履くか左足から履くかなんてくだらないんでもいい。どんなつまらねぇ話でも、明日があるからできる明日の話だよ』

 

「こりゃ、誰もが認めるハッピーエンドってやつだな」

 

「だね。私もスバルのこと、今回のでかなり見直したよ」

 

 画面の中で笑いながら明日の話をするスバルにつられて、カズマもクリスも笑みを浮かべていた。

 

『レムは、とても弱いです。ですからきっと、寄りかかってしまいますよ』

 

『いいんじゃん? 俺も弱くて頭悪くて目つき悪くて空気読めなくて自分で言ってて我ながら凹むけど、そこらへんは周りにフォロー期待しながら他力本願で生きてっからさぁ。お互いに寄りかかって進めばいいよ』

 

「そう……だな……。弱いなら、誰かに寄りかかって進めばいい。当然のこと、なんだよな……」

 

「ええ、そうです。尚文様が倒れそうな時は私が!私が倒れそうな時は尚文様が!2人共倒れちゃいそうな時はフィーロが!!皆で互いに支えあって進みましょう!!」

 

「フィーロ!ご主人様とラフタリアお姉ちゃんが倒れそうってなったら、馬車に乗せて移動させてあげるね!」

 

「おいおい、それは意味合いが違うだろう。だけども、その時はよろしくな……」

 

 いつもと違う、いつも以上に優しい微笑みを浮かべた尚文が、苦笑しながらフィーロの頭を撫でる。その横ではラフタリアが、フィーロだけずるいと言わんばかりに頬を膨らませていた。

 

『笑いながら肩組んで、明日って未来の話をしよう。俺、鬼と笑いながら来年の話すんの、夢だったんだよ』

 

『……鬼がかってますね』

 

 レムが泣きながら頬を赤らめ、満面の笑顔をスバルに見せる。

 

「鬼がかりね……。いい言葉じゃないかしら」

 

 レムが愛を知った切っ掛けともなった言葉を反芻し、アルベドが微笑む。

 

*1
~希望の迷宮と集いし冒険者たち~に登場




尚文の心情を考えながら執筆してたら遅くなりました。
正直、1章で異世界メンバーに衝撃、2章で尚文にメンタルショック、3章はターニャを主役にしつつ、4章でアインズ様をハートブレイクさせる予定っす!

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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