いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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マジで更新が遅れてごめんなさい。難産過ぎて途中からダンダダンの方に走っちゃいました。

本当にキャラが多過ぎて、誰に視点を当てて会話させるか悩みながら、ストーリーを進めつつ、ユリウスとの決闘での反応とかしんど過ぎる。

春風先生はそこらへんスキップしてるから、ガチで自分一人だけで頑張らないとってなったし、書いている途中で、俺もこの時のスバルと一緒でひとりやなって自虐しながら書き進めてました。


決裂の兆し

 

『俺の名前はナツキ・スバル! ロズワール邸の下男にして、こちらにおわす王候補──エミリア様の一の騎士!』

 

 あまりにも場違いすぎるスバルの挙動は場の空気を白けさせるのには充分なインパクトがあった。

 その仕草は騎士というよりも道化の類のそれであり、今この部屋にいる誰もがスバルが芸人根性だけで暴走染みた行為に走っているなと短くない付き合いから理解した。

 

「馬鹿者が……」

 

 スバルのやらかしに頭痛が痛いとばかしにターニャが頭を押さえながら、大人としての視点からどこまでも愚かな子供であるスバルに、酷く渇いたような声でポツリとその失態を乏しめる言葉を漏らす。

 

 好きになった子に対して精一杯の虚勢を張るいじらしさは認めよう。惚れた女性に並び立ちたいがゆえに無茶や無謀に走る蛮勇も元男としてほんの少しだが共感もしてやれる。

 だが、それだけを目的として突っ走った結果、周りだけじゃなく、肝心のエミリアまで置いてけぼりにして悲しませるのは間違いであると、ターニャは言葉にせずに内心で苦く思った。

 

『わかっているのかい、君。君はたった今、自分が騎士であると表明したんだ。──恐れ多くも、ルグニカ王国の近衛騎士団が勢揃いしているこの場でだ』

 

 その場に集う騎士団を代表する形でユリウスがスバルの前に立ち踏み出し、真剣な面持ちでそう問いかけた。

 この時点で、この部屋の多くの者がこの後の展開に色々と察して険しい顔になる。

 

『俺の実力が不足してんのは百も承知だ。俺は剣もろくに振れなきゃ、魔法だって手習い以下。財テクがすげぇわけでもねぇし、秘められた謎の力とも無縁。さっきロズワールの挙げた条件にあてはめたら、もう全然足りねぇだろうさ』

 

 あれだけの啖呵を切りながら、その当の本人が自身の無能さ加減を自信満々に語ることに、さしものユリウスも困惑が隠せないでいた。

 

『けど、忠義だの忠誠心だのって話があったな。ああ、確かに俺の実力は全然足りねぇよ、笑っちまうぐらい。でも、それでもだ。忠誠心って言葉とは違う気がするけど、俺はエミリアた……エミリア様を、王にしたい。いや、王にする。他の誰でもない、俺の手で』

 

「よっし!よく言ったぞ、スバル!!」

 

 いけすかないイケメンのユリウスに正面から堂々と自身の覚悟を言い放つスバルに、カズマは興奮して拳を握りしめて叫ぶ。

 カズマのように口には出していないが、尚文もまた国やら騎士団とやらと色々と確執があった為、スバルの啖呵には胸がスカッとする部分があった。

 しかし、そんな2人と違い。ターニャとアインズは険しい顔のままだ。いや、2人だけでなく、他にも何人かがスバルの言動に不快感、あるいは不穏さを覚えているような気配がある。

 

「ふん、勢いだけの軽い言葉だな。まさにガキの言い分だ」

 

「ヌウ!確カニ、ターニャノ言ウ通リ、軽イ言葉カモシレヌ。ナニヨリ、主ト仰グエミリアノ事ヲ何モ見テイナイ。スバルハ少々忠義ヤ忠誠心ノ言葉ヲ軽ク見テイルトシカ思エン!!」

 

 フシュ~!っと冷気を吐きながら、武人としての設定を持つコキュートスがターニャに便乗してスバルに憤慨する。

 そんなコキュートスの意見にアインズを除き、ナザリック勢は誰も彼もが頷き、スバルに厳しい視線と意識を向けた。

 

 それは映像の中のユリウスもまた同様であり、売り言葉に買い言葉だとはいえ、スバルは自分で自分の行為を最底辺へと陥れた。

 そしてスバルは気がつく、周囲の人の白けたような視線に。それを受けてスバルはまるで怯えた子供のような反応を取る。それだけで、いかにスバルがこの場の状況に無知で不釣り合いなのかが明々白々となった。

 だが、スバルはそれでも挫けない。挫けるわけにはいかなかった。

 

 しかし、現実は非情であり小さな子供の我儘を許すような者はここには誰一人としていなかった。

 ユリウスの正論も、エミリアの失望も、自身のちっぽけさも全てがスバルの心に突き刺さる。

 それでも、スバルは歯を食い縛り、声を大にして叫んだ。騎士のありようを乏しめ、精一杯の虚勢を張る。

 自分は騎士なんかと違って親の七光りなんかじゃないと叫んでも、そんな子供の挑発にユリウスは乗ることなく「美しくない」と一刀両断した。

 

 もう決着はついた。どちらが正しくて、どちらが間違っているのか、それは誰の目から見ても明らかだった。

 

『もう、いいでしょう。スバル』

 

 今まで聞いたことのないようなエミリアの暗い声に、誰もが口を閉ざす。

 

『不要なお時間をとらせて申し訳ありません。すぐに下がらせます』

 

 本来、下げさせてはならない主人の頭を自分のやらかしで下げさせた事実はスバルの心に大きな影を作る。

 

『あなたが世に恐れられる、ハーフエルフとは違うのだと少なくとも彼は示した。──よい、従者をお持ちですな』

 

 賢人会の1人がお世辞かどうかは分からないが、それでもただ1人だけスバルの暴挙を美談として認めた。

 だけどそれは、エミリアにとって認められないもので、感情の凍えた冷たい目とばっさりと切り捨てる銀色の声音ではっきりと告げる。

 

『──スバルは、私の、従者なんかじゃありません』

 

 そう告げられたスバルの顔はまるで裏切られた、あるいは見捨てられたかのような悲痛で、絶望に満ちた顔だった。

 

「ひでぇ……」

 

「酷い?それはエミリアのことか?それともスバルのことか?」

 

「そんなの……!?」

 

 今の一連のやり取りを見終わったカズマはその胸中を口からポロリとこぼした。

 そんなカズマの呟きを耳ざとく拾ったターニャが、スバルとエミリア、どちらに対しての言葉かを問うてくる。

 カズマはそれに答えようとして、しかし言葉に詰まってしまう。

 

 理性ではスバルのせいで今後の王選が不利になってしまったのはエミリアで、彼女も悪意ではなく歪んで遠回りな善意からの否定なのだと分かっている。だけど、感情ではスバルの行動に共感、あるいは同情しているからこそ、スバルのやらかしを否定ではなく肯定してやりたいと強く思っているし、いくらエミリアの不器用な優しさからの否定であっても、今のスバルを突き放つその言い草はないと怒りも覚える。

 そんなカズマの心中を察していてなお、ターニャは何も言わずにカズマの答えを待つ。

 

「あ~、ゴホン!双方、それくらいでいいだろう。理屈も感情もどちらも正しくとも場によって間違いなことは現実ではよくあることだ。今この場であの場での正解、不正解を論じても意味はあるまい」

 

 そんな2人の間に、アインズが場を収めるような発言をして割り込んだ。

 そしてターニャはアインズの発言に軽く目を丸くし、カズマはどこかバツの悪そうな顔で頭を掻くと視線をそらす。

 

「そうだな。すまない、アインズ君。私も少々冷静さを欠いてしまっていたようだ」

 

「俺もごめん、アインズ。ちょっとスバルがバカにされ過ぎてムカついてた……」

 

 止めてくれたアインズに2人は感謝と謝罪をして席に着く。

 

 そして、映像は進み、広間から追い出されたスバルが案内された控室で項垂れるスバルと、王選開始によって広間での集いが終わったラインハルトとフェリスがあの後の事の報告と慰めを言いに来ていた。

 またしても自分の知らない所で物語が動き出していたことを知って歯嚙みするスバル。

 そんなスバルの元に、先程広間で言い争いをしたユリウスが尋ねに来た。そんなユリウスにスバルは気に入らないと態度で示し、不良のような対応で出迎える。

 

「まったく、先のあれで懲りることなくあの態度か……」

 

「ですが少佐、スバルも男です。引くに引けぬ事というのも……」

 

「黙れ、グランツ少尉。そんなものは言い訳にはならん。男だなんだの前にスバルがエミリアの従者、いや騎士だと表明した以上、その発言には相応の覚悟と責任が伴う。それをあの体たらくで、私はあれを男とは認めない」

 

 元男であるターニャからして見ても、スバルの言動は目に余る行為だ。

 当然、ユリウスもそんなスバルの態度に嫌味ったらしくも、それによって主人の品格を疑われると正論をぶつける。

 

『それでけっきょく、お前はなにをしにここにきたんだよ』

 

『ここにきた理由はもちろん、君に会いにきた。少し、付き合ってもらいたいところがあってね』

 

『場所と目的がわからねぇとノゥともいいえともお断りしますとも言えねぇよ。言えるけど』

 

『場所は練兵場、目的は……そうだな。目的は──君に現実を教えてあげること、というのはどうだろうか?』

 

 そうして連れてこられた練兵場には数多くのユリウスと同じ制服を身に纏う騎士が詰めかけており、まるでアニメで見るような拳闘奴隷にでもなったかのような気分になりながらも、合法的にユリウスをぶちのめせるとなったスバルは入念なストレッチで準備を整えている。

 

 反対側に立つユリウスは、スバルとは逆に一切の準備運動をせず、その隣に立つラインハルトと会話をしていた。

 会話を聞くに、ラインハルトがユリウスに決闘を止めるべきだと進言しているようだが、ユリウスとしても先の場でのスバルの発言は許すことのできないものだったらしく、その進言を拒否して木剣を持って練兵場の中心に立ち、周りの騎士達に聴こえるように高らかに宣言する。

 

『──これより、騎士の誇りを汚した不逞の輩に誅を下す! 否やあるか!』

 

 この言葉と共に、部屋中に大勢の騎士の歓声が鳴り響いた。それだけで、スバルがどれだけのアウェイに立たされているのかが分かる光景だった。

 

「これって……」

 

 映像を見ていたカズマは、この後スバルがどうなるのか容易に想像がつき、思わず息を飲む。

 

 そして始まる決闘だが、開始早々にスバルが仕掛ける。当然、スバルも剣道をかじっていたとはいえ、ほぼ素人の自分が本職の騎士に真っ正面から敵うとは思っていないのだろう。

 ユリウスに突っ込みながら、よろけたふりをして地面の砂を掴み目くらましで相手の顔にぶちまける。卑怯卑劣な手であるが有効な手段である。

 ただし、それが通用する相手ならばの話だが。

 

『君にはどうやら本当に誇りがないらしい。卑俗で実に生きやすいことだろう。──哀れでならない』

 

 奇襲を仕掛けた筈のスバルが、逆にユリウスから痛恨の一撃を貰う。

 素人目から見ても両者の差は絶対的であり、スバルの勝ち筋は無いに等しいものであった。

 

「なんだよ大人げねえ……」

 

「……ちっ」

 

 カズマはユリウスの手加減が見当たらない攻撃に毒を吐き、尚文はかつての元康との決闘を思い出して舌打ちをする。

 

 剣を構えるも即座に叩き落されて木剣で殴られるスバルの顔に青あざが増えていく。

 いくら刃のない木で出来た剣とはいえ、訓練で使われる程度には硬く、当たり所が悪ければ人の命を容易に落とすそれをスバルは何十回と数え切れない程に喰らう。

 その度に周囲の観客である騎士はユリウスの強さを誇り、自身ら騎士を侮辱したスバルの惨めさを嗤うように歓声を上げる。

 

「──っ!やり過ぎだろ!!」

 

 歯ぎしりしながらカズマはスクリーンに映るユリウスを睨む。

 勿論、これは決闘で、ユリウスに否がないことはカズマも承知している。しかし、ここまで一方的に、それも目を腫らし、頬に青あざを作り、鼻から血を垂らしたスバルの姿を前に、カズマはユリウスに怒りを向けずにいられなかった。

 

「やり過ぎ?それは少し違うな」

 

 しかし、そんなカズマに対してターニャが冷静な意見をぶつける。

 

「これは騎士の決闘だ。ならば、この程度の負傷は許容範囲だろう」

 

「なんだよその言い方!?お前!あれを見て許容範囲?許容範囲だぁ!?ふっざけんじゃねえ!!!」

 

 ターニャのその冷徹な物言いにカズマがキレた。今も映像の中でユリウスに木剣で殴り飛ばされ、地面に転げ倒れるスバルの姿を見ていながら、それを許容範囲だと言い切るターニャに、カズマは激情を抑えられずに唾を吐きながら喚き立てる。

 

「やられっぱなしで!あいつに一方的に殴られて、それで何が許容範囲だ!スバルのあんな姿を見てよくもまあそんな事が言えるよな!?」

 

「ああ、言えるとも。戦場ではあの程度の傷は傷のうちにも入らん。貴様も元の世界で冒険者をしていたというのなら、あの程度の傷は日常茶飯事ではなかったのか?」

 

「そういう話じゃねえだろ!!傷の深さがどうこうじゃなくて、あんな一方的にやられて、それで良い訳ねえって言ってんだ!」

 

「傲慢な言い方だな。それならば、双方共に傷だらけならばお前は満足するとでも言うのか?」

 

「っっっ!!」

 

 まるであの広間で見せたスバルとユリウスのやり取りを彷彿させるカズマとターニャの言い争いに、後ろの席で見ていたルプスレギナがは口角を吊り上げる。

 

「ああ、本当に人間って愚かで哀れな生き物ね……」

 

 うっとりとした表情でスクリーンに映るスバルの無様さと、目の前で言い争う2人のやり取りにルプスレギナがそう呟いた。

 だが、そんな嗜虐趣味を持つルプスレギナと違い、真っ当な感性を持つ他の人間はこの場に漂い始めた険悪な空気感に押しつぶされそうになっていた。

 

「どうする?少佐殿を止めるべきか?」

 

「いや、無理でしょう。冷静さを保っているように見えますけれども、ああ見えて結構頭に血が上ってますよ」

 

「まあでも、ここで下手に止めに入ればこっちまで被害を被りそうですからな」

 

「しかし、流石にこれ以上は……」

 

 ターニャを止めるかどうか悩むヴァイスらの視線の先で、カズマとターニャの言い争いはヒートアップしていく。

 

「カズマ、そろそろ止めた方が……」

 

「いいや!こんなの我慢ならねえ!!」

 

 めぐみんの静止も振り切って、カズマはターニャに喰って掛かる。

 

「はん!そもそも、国家を守護する立場である騎士を侮辱するということは、国家を敵に回すも同意だ。それをエミリアの従者であるという立場で守られているのを理解もせず、自身の感情のみで決闘に応じた。そんな馬鹿な小僧がスバルだ!」

 

「んだとぉ!もう一回言ってみろ!金髪ロリだろうが俺は容赦なくブン殴るぞ!!」

 

「ほぉ!それは面白い!!カズマ程度の実力でこの私を殴ると?はん!ならば、やってみるがいい!!」

 

 両手を広げて挑発するターニャに、カズマが拳を握って立ち上がる。

 そんなカズマの暴走をめぐみんが後ろから羽交い絞めにして抑え、アクアとダクネスがカズマとターニャとの間に立ち塞がる。

 

「放せ!あの野郎一発殴ってやらねえと俺の気が済まねえ!!」

 

「落ち着いてくださいカズマ!確かにターニャも口が悪いですが、これ以上は流石にマズイですって!」

 

「そうだ!いいから落ち着けカズマ」

 

「そうよ!それに、どうせあんたじゃターニャにやられちゃうのがオチなんだから、いくら怒っても無茶よ!」

 

「んだと、この駄女神が!!!」

 

 アクアの止めに入っているのか煽っているのか分からない発言に、今度はそっちに怒りを向けるカズマ。

 

「少佐も!あまりカズマを挑発しないでください」

 

「……そうだな。少々熱が入り過ぎた。やれやれ、アインズ君に言われたばかりだというのにな」

 

 ヴァイスからの静止の声にターニャもようやく表面上だけでなく、冷静さを取り戻したように頭を振って席に座る。

 とはいえ、カズマへの謝罪も訂正の言葉もない。軍人であるターニャからすればユリウスこそが正しく、今もあがくスバルは自業自得のなにものでもないからだ。

 

 だが、その考えをただの冒険者であるカズマに理解させようとした自分もまた傲慢であったと反省はしている。

 だからこそ、今は仲間に宥められて恨めしい視線を送りながら席に座るカズマに、ターニャはそれ以上は何も言わなかった。

 

「「………………」」

 

 互いに鉾を収めながらも、その腹の中で未だに消化出来ない苛立ちが残っていた。

 

『────クソのクソ濡れのクソ溜まりのクソが』

 

 腫れ上がった顔と怒りによって歪んだ表情が組み合わさって、鬼神あるいは悪鬼羅刹の如き形相のスバルがユリウスを罵る。

 

「ひぃっ!?」

 

 スクリーンに映し出されたスバルのそんな顔に、フィーロが怯えた声を上げる。

 怖がりながら尚文にしがみつく。そんなフィーロの頭を撫でながら、尚文はスクリーンに映るスバルに険しい視線を向ける。

 

「まるで昔の俺だな……」

 

 決闘の理由こそ違うものの、まるで敵わないその実力差とリンチ同然の行いに、尚文は元康との決闘を思い出していた。

 元康はまだ戦いなんて素人同然で、ステータスに差があっても、戦い方次第で勝ちは拾えた相手だった。

 しかし、ユリウスはステータスだけでなく、戦闘の経験からセンスまで、スバルに何一つ勝ち目など存在しなかった。

 唯一優っている点はずる賢さだけだろうが、そんなスバルの卑怯な手もユリウスの前には一切通用していなかった。

 

 尚文もユリウスとの決闘となれば憤怒の盾を使わなければ一切勝ち目がない強さだと断言できるほどであり、正直、さっさと降参すればいいのにと思う反面、自身の納得できない世の理不尽さへの怒りの気持ちは誰よりも分かっているからこそ、スバルのその無謀さを笑いも侮辱もせずにただ黙って鑑賞を続けている。

 

『なぜそうまで意地を張る? すでに君では私に敵わないことはよくわかっているはずだろう。いや、君がすでに私に勝てないことを自覚しているのはわかっている』

 

 攻撃の手を止めて、ユリウスが膝をつくスバルに言葉を投げかける。

 それは確認というよりも、演説……スバルの今の胸中の代弁のように声を上げる。

 

『君にとっての勝利条件は私を打ち倒すことではなく、『私に一矢報いること』だろう? それが一度でも木剣を届かせることか、あるいは私に土を付けることなのかまでは私にはわからないが』

 

『────ッ!』

 

 図星だったのだろう。もっとも、そんなスバルの考えなどユリウスに言われるまでもなく、スバル自身だけでなく鑑賞していた皆が分かっていたことだ。

 とはいえ、それを言葉として他者に指摘されれば、屈辱と恥辱が湧き上がってくる。

 スバルは反射的に言い訳を紡ごうとした口を縫い留め、睨みつけるだけで返す。そんなスバルを多少は見直すも、ユリウスは降伏勧告と一緒に今のスバルがもっとも言われたくない言葉を投げつける。

 

『エミリア様の側から、自ら身を引くことを──!』

 

「あの野郎!なんてこと言いやがる!!!」

 

「流石にこれは……」

 

「何も知らんとはいえ、本当に命を投げだしてまで救った相手から身を引けなどと……」

 

「聞いてるだけでむかっ腹が立ってくるわね」

 

 スバルが怒りを向けるのと同じように、ユリウスの言葉に対してカズマ達が怒りを露わにする。

 

「「「「………………」」」」

 

 それとは逆に、ターニャ達帝国軍人らはユリウスの言葉に口にはしないまでも、その言葉を正しいと判断していた。

 戦場では1つの判断ミスが命取りであり、感情だけで行動した結果がどういう結末を辿るのか知っているからだ。なにより、無能な部下の頑張り程厄介なものはないというのは組織に所属する者ならば誰でも知っていることだ。

 

「やれやれ、どちらを応援するべきか……」

 

「尚文様……」

 

 正直、ここからスバルがどう頑張ろうともユリウスに勝てる訳もなく、尚文もユリウスの言葉に内心で同意している。

 無能の頑張りの結果、どれだけの貧乏くじを引いてきたか。自分を除く3人の勇者によるしわ寄せの経験から、先の広間でのスバルの失態を見ている為に、カズマ達のように同情してユリウスにキレることもなく、さりとてスバルの境遇に理解や共感もしている為に、ターニャ達のように見放す気にもなれなかった。

 

「……子供だな」

 

「アインズ様?」

 

()()()大人と子供の戦い……ではない。()()()が正しいとアインズはそう感じた。

 それは実力の差ではなく、精神の差からくる感想だった。スバルはユリウスに勝てない。それは誰が見ても一目瞭然であり、はっきりと結果が分かる戦いだ。

 だが、その戦いを挑むスバルの心根には子供のような感情しかない。

 

 最初はきっとエミリアの侮辱に対する怒りからだっただろう、しかし今はその怒りは別の理由に書き換わっている。

 自身にはない、命を賭してまで戦う姿に、覚悟を決めた者の瞳をしたスバルに好感を抱いていたアインズは、ひっそりと失望の声を発した。

 そんな声を出すアインズにアルベドは心配そうに顔を向ける。

 

「ああ、大丈夫だ。私はな……」

 

 そう言って、再びスクリーンに目をやりスバルを見る。

 今も無謀に攻めかかり、その身に傷を増やしながらも戦い続けるスバルの姿に、映像の中の騎士達から最初とは違う懇願の声が出始めた。

 

 血を流し、地面を鮮血に染めてなおも立ち上がるスバルの姿に、無価値な意地を見せ続けるスバルの姿に、騎士達やターニャを除く帝国軍人らも自らの考えが段々と変わっていっていた。

 

 決してスバルを認めるわけではないが、それでもその意地を……覚悟を下らないものだと、口だけの小僧ではないと認識しだしたのだ。

 やがて、幾度目かの衝突の果てに、スバルはうつ伏せとなって、とてもではないが戦闘続行できる状態には見えなかった。

 

 それでもなお、ユリウスは剣を構えたまま、その切っ先をスバルへと向け続けていた。

 そしてそれは正しく、ヨロヨロと力なくスバルは木剣を支えにふらつきながらも、その目に戦う意思を宿してユリウスを睨み付ける。

 

 恐らく、次が正真正銘の最後の一撃になる。

 それはスバル自身だけでなく、この戦いを見守り続けた多くの者が確信していた。

 だからこそ、スバルは全身全霊を賭す覚悟で、ユリウスに全神経を集中させた。

 故に気が付くことはなかったのだろう。

 

『────スバル!!』

 

『──シャマク!!』

 

 いや、あるいは気がつけばもう取り返しのつかないと分かってしまっているからこそ、その声を振り切るように叫んでのだろう。

 

 決して使ってはない魔法の使用。文字通り最後の切り札として取っておいたスバルの渾身の一撃。

 しかし──、

 

『低級の『陰』魔法など自分より格下の相手か、あるいは知能のない獣でもない限りは通用しない。私にはもちろん、近衛騎士の誰ひとりにすら、この策は通じなかったことだろう』

 

 たかが魔法を覚えて数日ちょっとの素人の魔法が、戦場を潜り抜けてきた騎士に通じるはずもなかった。

 剣の一振りでシャマクによる黒雲は打ち払われ、真っ正面から飛び込んできたスバルにユリウスは手加減なく、その木剣を振るいスバルを打ちのめした。

 

 そうして、スバルは地面に大の字で倒され、ユリウスの聞きたくもない自らの弱さを突き付ける言葉を聞きながら、あの時叫んでいた声の持ち主を……、銀色の髪の少女が観客席からこちらを見つめていることに気が付いたスバルは、今まで切れなかったなにかの糸が切れる音が聞こえた気がしたのと同時に、意識を失った。

 

 そうして、スクリーンは何も映さなくなり、真っ暗な画面が映し出される。

 

「「「「………………」」」」

 

 誰も何も発さなかった。あの決闘からくる気まずさとスバルが死に戻りしてしまったのではないかと、そんな恐怖からくる静寂が広間を支配する。

 やがて、誰も言葉を発しない為に気まずい空気の中、スクリーンに映像が映し出された。

 

『死ななかった……ってことか』

 

 治療されてはいるものの、あの決闘で負った傷痕がある以上は死に戻りした訳ではなさそうだ。

 

『スバル、起きたの?』

 

 目が覚めたスバルに気づいたエミリアが声を掛けてきた。

 普段ならば寝起きとともに、軽口の1つでも叩いているスバルだが、流石に今はそれもできないようだ。

 

 いつものスバルらしくないテンションでエミリアと会話を続ける2人のやり取りに、見ているこっちが痛々しく感じてしまう。

 やがて、エミリアがその会話を打ち切って、スバルの顔をジッと見つめる。

 

『──話を、しましょう』

 

 その言葉にスバルだけならず、鑑賞しているカズマを始めとした何人かが、その重たい声色に無意識に唾を飲んだ。

 

『なにかきっと理由が、あったんでしょ? スバルのことだから、きっと大事な……』

 

『理由、か……』

 

 そんなものはない。いや、あるといえばある。だがそれは、到底エミリアが納得できないような、男としての意地からくる理由だ。

 ぶっちゃけ、男の意地なんてかっこつけて言っても、実際はガキの我儘みたいなもの。結局、その我儘もユリウス相手にまったく通用せず、こうして好きな相手にまた迷惑を掛けてしまった。

 そうした後悔と自責の念がまた強くスバルを苛む。だから、そんな負の感情に押されて本音が腹の底からポロリと口へと押し出されたのだろう。

 

『一矢、報いてやりたかったんだよ』

 

『……え?』

 

 それから語りだすスバルの(まご)うことなき本音の数々に、エミリアは意図せず失望したかのように『そんな、ことのために?』と口にしてしまった。

 

「ああ、クソォ!そんなことでも、男には結構重要なことなんだよ!!」

 

 やはり双方で食い違う価値観の違いに、カズマが思わず文句を口にする。もし、あの場に自分がいたら「これだから女は!」なんて差別染みた言葉を吐いてしまうかもしれない。

 それぐらい、今のカズマは我慢が限界にきていた。

 それでも、まだ今は席を立って怒りをぶちまけるまではいかなかった。そう、まだ……。

 

『……だってスバルは、私がいるとそうやって無理をするんでしょ?』

 

 またすれ違う2人の認識の差、あるいは大切に思っているからこそ、互いの為に自らを犠牲にしてしまう歪んだ慈愛の精神が話をややこしくしてしまう。

 

『俺はただ、エミリアたんのために、なにかしてあげたいって、そうやって』

 

『私の、ために?』

 

 ああ、ダメだ……。一体これは誰の心の中での声だったのか。あるいはカルマ値マイナス組を除いた全員の声だったかもしれない。

 

『──自分の、ためでしょう?』

 

「言ってしまったか……」

 

 エミリアの言葉に、アインズが失言だと頭に手を当てて、これから先の未来を予見する。

 そう、かつてのギルド、アインズ・ウール・ゴウン内での仲違いが起きた時と同様の内容を……。

 

「ゲームでも現実でも、人間関係の悲劇は慣れないものだな……」

 

 そう、これはスバルとエミリアの認識の違いが生んだ悲劇だ。

 スバルはただ単に好きな女の子の前で、見栄を張って格好をつけたいだけ。だがエミリアは純粋にスバルのことを思って、その行いを諌めようとし……そしてすれ違っているのだ。

 それはまるで子供同士の喧嘩のようなすれ違いで、すべてを知って見ている方としてはこれほどもどかしいものはない。

 

『俺、は……ただ、君の、ために……』

 

『そうやってなにもかも、私のためだって嘘をつくのはやめてよ──っ』

 

「これは酷いな……」

 

「とてもじゃないが見てられん……」

 

 ますます悪化する2人のやり取りに、尚文とターニャが顔を手で覆って唸る。

 お互いに悪意はなく、ただの善意と好意からくる行動と言葉に、大人側として立つ2人は揃って溜息を吐いた。

 

 涙声でお願いを破ったスバルを責めるエミリアの事も、スバルなりにエミリアを助けようとして行動したスバルの事も、どちらも間違っているなんて口に出来ない。

 だがそれでも、どちらが本当に悪いと言われたならば、この場で見ている者のどれだけがスバルの方に、あるいはエミリアの方に味方につくだろうか?

 

「この部屋に我々を呼び出した者の性格からしてきっといつかは……」

 

 きっとそうなればこっち側もまたモメるのだろうなと、アインズは静かに前の席に座るターニャ、カズマ、尚文らを後ろから眺めた。

 そして、スバルとエミリアのすれ違いはまだまだ続く。

 

『俺が君のためになにかしたいと思うのは、君が俺を助けてくれたからだ……』

 

『──わからないって、言ってるの!』

 

 まさに荒唐無稽、エミリアの記憶にはスバルに助けてもらった記憶はあれど、助けた記憶はない。

 まるで自分じゃない自分を語るスバルに、エミリアは怒るような気持ちで分からないを連呼する。

 

 当然だ、エミリアがスバルを助けた記憶なんてのは死に戻りしたスバルの頭の中にしか存在しないのだから。

 しかも、それを説明しようものならば、スバルの心臓に直接魔女が警告を出してくるのだ。

 

『……また、なにも言ってくれないのね』

 

「違っ……、スバルは言わないんじゃなくて、言えないだけだってのに」

 

 もどかしいスバルの死に戻りの制約にカズマは歯噛みする。そしてそれは、カズマだけでなく、アクア達やその他にも、尚文らやターニャとルーデルドルフ校長とゼートゥーア副校長を除いた帝国軍人らも似たような顔をしていた。

 ただアインズらは誰一人としてスバル達のやり取りに歯嚙みなどしていなかった。ただ、セバスやユリは表情こそ取り繕っているものの、その胸中ではカズマらと似たようなことにはなっていた。

 

『俺は、エミリアなら……君ならわかってくれるって、思って……っ』

 

『スバルの中の、私はすごいね。なにもかも、全部すべて、聞かされなくてもわかってあげられる。スバルの苦しみも、悲しみも、怒りも、自分のことみたいに思ってあげられる』

 

『俺の……』

 

「ああ……、これはもうダメね」

 

 エミリアのその表情と声に、ナツキ・スバルの幻想は……ありもしない信用も信頼も全てが否定され、醜い人間の独り善がりで傲慢さな言葉が出始めようとした。

 それを感じ取ったアルベドが呆れと失望を織り交ぜたような顔で唾棄する。

 

 別にアルベドにとってスバルの事なんて友人であるレムの思い人程度の認識であり、隣に座っているアインズと比べるまでもない存在だ。

 それでも、先の魔獣騒動での活躍に、人間にしてはとアルベドの中では割と高評価をつけていたのだが、今のスバルを見てその高評価は白紙に消えた。

 

『これまで、全部……。──俺のおかげで、どうにかなってきただろ!?』

 

「スバ……ル……」

 

 スバルの叫びにカズマは胸が痛めた。目頭が熱くなって視界が涙でぼやけてきだした。とめどなく溢れるスバルの激情に、カズマだけでなく多くの者が失望と憐憫、そして今ここで何もできずに見ていることだけしか出来ない自分へのバカな怒りが渦巻いた。

 

『徽章が盗られた盗品蔵でだって! クソ危ねぇ殺人鬼から助けた! 体張った! 全部、君が大事だったからだ!!』

 

「馬鹿め……。人を助けたのを理由に、善意を押し付けるのはヒーローなどではなく、詐欺師か自己満足に浸りたいだけの偽善者でしかない」

 

 ターニャは醜く自らの手柄を賢しらに語るスバルに、今度こそ地の底まで失望した。

 

『屋敷でのことだってそうだ! あちこち齧られて、必死だった! 頭割られて、首吹っ飛ばされて、それでも村のみんなを助けたじゃねぇか! レムだって、ラムだって、きっと一番いい形になったはずだ! 俺が、俺がいたからだろ!?』

 

「そうだな。お前は充分にエミリアを救ってきた。だけど、それを無条件に全て理解してもらえるのは、ただの傲慢だろうが……」

 

 尚文は自らの憤怒とは違う原罪を背負ったスバルに、憐れみと悲哀の目を向ける。

 

『俺がいなけりゃもっとひどいことになってた! 誰も助かりゃしなかった! 誰も誰も誰も! 全部全部全部! みんな俺が! 俺がいたからだ!』

 

「スバルよ……、それが全て事実であったとしても、今の君は救世主でもなければ、騎士でもない。ただの我儘で……本当に愚かな子供だよ」

 

 かつて元の世界で2度、死を覚悟してもなお進む人の意思たる強い目を見せたガゼフ・ストロノーフ。そして、立場や強さは違えども、同じく強い意志を宿した瞳を持ったネイア・バラハ。そんな2人と同じ目をしてみせたスバルに、アインズは内心で大いに期待と評価を上げていた。しかし、今この瞬間、アインズは自らの興味の対象から完全にスバルを外した。

 

『お前は俺に、返し切れないだけの借りがあるはずだ──!!』

 

『そう、よね。私はスバルに、すごい、いっぱい、たくさんの、借りがある』

 

「やめ……ろ……。それは……、スバルを傷つける」

 

 カズマにとってスバルは自分が思い描く異世界転生の主人公……だった。

 自分よりも恵まれた仲間と共に、日本ではない異世界で順風満帆な日々を送っている成功者そのもの。そう誤解していた。

 

 それを、この長くも短い時間でスバルへの認識は大きく塗り替えられていった。

 強大な敵を倒すチート能力も、背中を任せられる頼れる仲間も、いざという時に全て丸く収められるご都合主義の展開も全てなかった。

 あったのは、死というカズマにとって何度も味わった辛い経験を繰り返し、泥臭く足搔いた結果の今だった。

 

 だから、そんな努力の対価がまるで見合っていないスバルをこれ以上傷つけるなと、カズマは叫び出したかった。

 それでも、まるでカズマの喉が映像に映るスバルと()()()()()()()()渇いて張り付き、たどたどしい言葉にしか出来ないでいた。

 

『だからそれを全部返して、終わりにしましょう』

 

「────っ」

 

 そうエミリアにはっきりと告げられたスバルと同じ顔をカズマはしていたのかもしれない。

 カズマはヨロヨロと席を立ち、もう何も見たくないとばかりに、その拳をスクリーンに叩きつける。

 けど、それでも──、

 

『違う……違う、違う違う違う、そんなことが言いたかったわけじゃ……』

 

 スバルの縋りつくような否定の言葉も──、

 

『もう、いいよ。──ナツキ・スバル』

 

 エミリアの拒絶の言葉も──、

 

「どうして……消えてくんねんだよ」

 

 聞きたくないのに、もう見たくもないのに、映像は何も変わらずにナツキ・スバルの人生をただ淡々と流すだけだった。

 

 

 




今回でスバルの株価が大暴落してましたけれど、皆さん的にこの展開で良かったですか?
もっと深めに失望するんじゃない?とか、このキャラはこんな反応じゃないとかの感想あったら、ちゃんと読みますんで送ってください。

あっ、この作品が読みやすくて、キャラの特徴をしっかりと書けているっていう意見も頑張れる材料として読んでいますんで、そっち方面の感想もどしどし送ってね♪

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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