いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
毎日投稿できてたあの頃に戻りたい(涙)
慌てたレムからクルシュと共に事情を聞くと、どうも双子のレムとラムは共感覚なるものでロズワール邸に危機が迫っているという漠然とした内容を告げられる。
それに対して、即座にエミリアの元へ駆けつけようとするスバルに、クルシュが少々突き放したような言い方で止めに入る。が、それを勘違いしたスバルの傲岸不遜な物言いにブチ切れたフェリスの無情な現実の突き付けによって、堪忍袋の緒が切れたスバルは怒りのままに行動を開始した。
そんなスバルに、クルシュが再び声を掛ける。
『悪いが、当家の長距離移動用の竜車は全て出払っている。貸し出せるのは運搬用の足の遅いものと、中距離間で地竜を取り替えながら走ることを前提としているものしかない』
『クルシュ様の切り替えの凄まじさにはフェリちゃんいつもクラクラにゃんですけどぅ……今回はほら、スバルきゅんも竜車を貸し出すお話までしてくれるとは思ってなかったんじゃにゃいですか?』
「彼女はもっと知的でクールな女性かと思ったのだが、王選候補者は天然が多いのか?いや、そういえばあの広間でも割と天然な醜態を晒していたな」
会話が繋がっていそうで微妙に繋がっていないクルシュの発言に、ターニャが呆れと同時に王選候補者の性格はみんな天然が入っているのかと危惧する。
『ちょっと聞きたいんだけど、王都からだとロズワールの屋敷までどれぐらいだ?』
『竜車を乗り継ぐことも考えると……二日、ないしは三日かかるはずだ』
『三日!? でも、くるときは半日かからなかったぞ!?』
「ん?だよな。俺の記憶違いじゃなけりゃ、そんなに日数なんてなかった気が……んー?」
「スバルが御しやすいと考えて噓を吐いた?いや、あのクルシュなる人物はそういうのからもっとも程遠い清廉潔白さの塊のような者の筈だが」
「これは、いつも通りの問題事の予感だな」
スバルの驚きの声にカズマもまた自分の記憶に齟齬がないか考え込み、ターニャが訝しんでいると、アインズが眼窩の中に宿る赤い光を燃やして、独り言のように呟く。
『来るときに使えたリーファウス街道が今は使えません。時期悪く『霧』が発生する期に入ってしまって……ですから、街道を迂回しないと』
『霧がなんだってんだよ。そんなもん突っ切っちまえば……』
『霧を生むのは白鯨にゃんだよ? 万一、遭遇したら命がにゃい。そんなこと、言われるまでもない常識じゃないの』
もの知らぬ愚者を相手するようなフェリスの口ぶりにスバルがムカっとしたような表情をとる。
「霧?白鯨って、街道に出るような生き物じゃねえだろ?ってことは、モンスターの名前かなんかか?」
「だとすると、国家でも対処するのは難しい、あるいは討伐するのは不可能に等しいモンスターだろうな」
「霧か……。元の世界ならカッツェ平原でのアンデットが印象が強いが。あちらの世界では霧は白鯨を指す言葉なのか。もし仮に白鯨がアンデット系のモンスターだった場合、この先の未来にスバル……あるいは別の人物が白鯨を討伐したならば……。この先の展開は注意して観ておいた方がよさそうだな」
カズマとターニャの考察を余所に、アインズはスバルが白鯨を討伐する未来があるのかと考える。
仮に討伐できた場合、その討伐方法云々によっては、自分やシャルティアにユリとアンデットに属する種族である自分達の身の危険に関わる問題だと警戒の色を強める。
そんなアインズの警戒を余所に、スクリーンの映像は進み続ける。
『こちらが当家に残った竜車の中で、もっとも足の速い地竜になります。それでも辺境伯が利用される地竜とでは大きく格が下がりますが、お許し願いたい』
『貸し出してもらえるだけで御の字ッスよ。必ず返します……ってのは、このあとはもう難しいんですかね?』
見送りとしてヴィルヘルムただ1人だけなのが、クルシュ陣営の決別の色を見せる。
『私も立場上、クルシュ様のご判断に従うより他にありません。屋敷を出てしまったあと、私の主とスバル殿の主の関係は先刻の発言通りとなるでしょう。──竜車は治療と、剣の指南が中途で終わることを含めてせめてもの餞別です』
『そんなこと……屋敷出るときは一言も言ってなかったと思ったけどな』
映像に映った最後の2人の言葉にそんな想いは一切なかったように見られるが、それでも出来の悪い子供を見送るような挨拶だったのはこの場にいる全員に印象深く残っている。
「やれやれ、手間のかかるガキなことだ」
「ふん、あの程度ならまだマシな方だ。自分は全て知っていて、さもなんでも出来ますと言った顔で余計な手間を増やすバカと違ってな」
「あの~、尚文様。それってもしかしなくても、槍とか剣とか弓の勇者様のことだったりして……」
ターニャの物言いに尚文が鼻を鳴らし、ラフタリアがおずおずと手を上げて質問する。
そのやり取りにターニャはやるせない顔で「お前も随分と自分の世界で苦労したんだな」と口にする。
やがて、ぶつくさと自分がいればどうにか出来るとのたまうスバルと竜車を操縦するレムが宿屋へ到着し一泊する。
「さて、無気力な状態からは戻ったみたいだが、これはいい復活の仕方かどうか?」
「十中八九、悪い復活だろうな。あの目と口元のニヤつきからして、アレでまともだったという思い出は一度もない」
「同感だな。私も尚文の言いようは概ね同意する」
ターニャと尚文の二人の意見が一致し、アインズもそれに同調した声を出す。
そんな3人のやり取りの間に、レムがゲートの治療と称して眠りにつかせる。
そして映像はスバルが眠りに就いて翌日となった昼に切り替わった。
レムがいなくなった宿屋でスバルが慌てて探すが何処にも姿はなく、宿屋の主人に聞けば深夜にレムが既に旅立ったと判明し、レムからの置き手紙を受け取る。
「まさか!レムの奴、スバルを置いて自分1人だけで領に戻ったのか!?」
「まあ、当然と言えば当然の選択だな。前回の魔獣退治も結局はロズワールが解決したようなものだろうし、今のスバルは見た目はともかく色々と負傷した身だ。置いていく方が賢明だろう」
「だ、だけどよ!だからって黙って置いてかれたスバルの気持ちはどうなるんだよ!」
「気持ちだと?くだらんな。足手纏いを引き連れて敵戦力も状況も分からん戦場に行くのと天秤に掛ければ、どちらが正解かは考えるまでもない。それともなんだ?お前はあのメイドに、足手纏いを背負って死地に向かえとでも言いたいのか?」
「っ!だから、そういう話じゃねえだろ。それにスバルだって死に戻りっていう能力があるんだ!!足手纏いなんて言い方は──」
「それを、あのメイドが知っているのか?」
「っぐ!」
スバルの死に戻りは誰にも話せない。そういう一方的な制約のせいで本人以外は誰もスバルが死に戻りの能力を持っていることを知らない。
それを突かれてはカズマも口を噤むしかなかった。
「ええ、ターニャの言う通りね。そもそも、レムは主人であるロズワール先生やエミリアからスバルの王都での治療の見張りの任を受けているのだし、それを切り上げて領に一緒に戻ろうとした時点で十分にあのスバルの気持ちを汲んでいると言えるわね。まあ、ロズワール先生の方は他にもまだ隠している狙いはありそうだけれども」
ターニャを援護するように、アルベドもまたレムの取った行動に理解を示す。
カズマは納得出来そうにない表情をしていたが、2対1の構図で、ましてや自分よりも地頭が格段にいい相手を前に口論で勝ち目はないと諦めて、不貞腐れたまま席に座った。
『徒歩は却下。竜車を借りられる店はない。……なにか、方法はねぇのか、考えろ……』
「くそ!ここでも霧のせいで足止めか。だったら、店じゃなくて個人で竜車を持っている奴を探すか……?」
どうにも、ここでも霧の影響で足が手に入らない状況のようだ。
それに歯嚙みするのはスバルだけでなく、似たような気持ちになっているカズマもまた自分ならばあの状況ならばどうするのかと考えるだけ無意味なことに頭を回す。
やがて、カズマの閃きに遅れてスバルも同じ考えに辿り着く。
しかし、そのアイデアも肝心な部分、霧の存在と商人として稼ぐ場所が問題となって難航する。
現に、スバルが素人ながらも持ち前のコミュ力で商人との仲を築いて交渉に当たるも、その返事はどれも望むようなものではなかった。
だが、何事においても例外は存在するもので、交渉を断られた商人から、その要望を聞いてくれるやもしれない人物に心当たりがあると言って呼びに行ってくれた。
『ただいまぁ、ご紹介に与りましたぁ、オットーと……うえ、申します。うえ。ひっく。うえ』
「これ、大丈夫か……?」
ベロンベロンに酔っているスバルとあまり年齢の離れていなさそうな青年が呂律の回っていない挨拶を交わす。
その醜態と年齢からダメ人間だなと、早々にダメ人間ホイホイなカズマが訝しんだ目で映像に映るオットーを凝視する。
「ん?というかコイツ、つい最近ウチのクラスに転校してきた奴の1人じゃないか?」
「ふむ、確かにそうだな。名はオットー・スーウェンと言ったか。しかし、教室で見た時とは随分と違うようだが、まるで……」
「ん?なによ、私に言いたいことでもあるの!?」
「いや、別に……」
酔ってだらしない顔となっているので、初見ですぐには気付けなかったが、よくよく見て見れば確かにその青年はつい最近になってウチのクラスに転校してきたばかりの者だった。
ターニャの言葉にアインズもそこでようやく思い出し、同時になぜこんな醜態を晒しているのかという疑問が湧く。あとついでに、まるでの後にアクアの方をジッと無言で見つめていたのは、彼や彼女の名誉のためにも追及しない方がいいだろう。
「ああ、あの影の薄そうな奴でありんすね」
「そういえば、あの地味な人間の他にも、獣人種っぽいのも一緒に転校してきたけど」
「ええ、獣人種の方の名はガーフィール・ティンゼル。これで、現状まだ我々が知っているスバルの世界の者で登場していないのは彼だけになりましたね」
アインズの思い出した声に続くように、シャルティアも少々無礼な言い方で思い出し、更に続いてアウラもまた転校してきた2人組の事を思い出す。
そんなアウラの口にした事を補足するようにデミウルゴスが口を挟み、現時点でスバルの学園にいる知り合いで未登場なのがガーフィールだけというのを再確認する。
「なら、少なくともこの悪趣味な上映会とやらは、そのガーフィールって奴が出てくるまで続くって訳か?」
「恐らくですがね。まあ、確証はありませんので、参考程度にとどめておいてください」
尚文の口にした予想に、デミウルゴスは苦笑を漏らしながら答える。
そのデミウルゴスの意味深にも取れる態度に、いけ好かないとばかりに鼻を鳴らす尚文は、それを最後にこの話題はもう終わりと口を閉じる。
『オットー! こら、起きろ、てめえ。現状を変える一発逆転の手があったら紹介しろつってたのはお前だろが! 酒で台無しにするか、ええ!?』
『一発大逆転の手──!?』
一発逆転と聞いた次の瞬間、オットーの様子が一変した。
先程までの酔ってダメな態度から、キリッとした商人らしい佇まいに切り替わった。
「お~、あの状態から素に戻れるもんなんだな」
「けれどあれね、せっかくお酒で酔ってたのに、あんな一瞬で酔いが覚めちゃうのはもったいない気がするわね!ああいうのは酔って寝落ちするまでが楽しいものなのに!」
「いや、それは悪い酒の飲み方だろ。下手をしなくても近いうちに肝臓が死ぬぞ」
オットーの変わり身の早さにカズマが変に感心した声を上げ、酔うこと自体を楽しむアクアと悪い酒の飲み方に苦言を呈するターニャ。
結果として、商売に失敗していたオットーは意地の悪い商人の真似事をするが、そんな舌戦にスバルは乗ることなく、素直に最初の提示した条件で了承した為に、梯子を外されたみたくオットーが肩透かしを食らう。
やがて、交渉は成立し、スバルとオットーの2人が竜車に乗ってメイザース領へと出発した。
道中でオットーの失敗談や白鯨についての恐ろしさを聞くことになったりと、スバルが聞き手となっての会話が展開される。
そうして出立してから半日が過ぎ、周りがすっかり夜の帳に包まれ、目的のメイザース領まで到着した。
後は屋敷を目指して向かうだけとなった途端、竜車が不意の急停車をかました。
『ナツキさん……僕は、ここまでで許してもらえませんか?』
突然のオットーの申し出にスバルのみならず、ここまでの一連の流れをただ見ていた多くの者が頭に?を浮かべた。
「突然どうしたんだ、オットーの奴?」
「う~ん、多分だけど、地竜が怖がっちゃってるからじゃないかな?」
オットーの変わり身に、カズマが首をかしげると、テイマーであるアウラが映像に映る地竜の怯えた様子を見てそう予想する。
その予想は見事に的中しており、唸り声を上げる地竜を見ながら説明するオットーの言葉にスバルは納得して竜車を飛び降りる。
『色々と世話になった。恐い思いさせて悪かったな、オットー』
『──ナツキさん!』
オットーの引き止める声を無視して、スバルは走って暗闇の森の中を突き走った。
「少佐……」
「奴め、死に戻りがあると高を括って無茶に走りよったな!」
危険があると分かっていながら身一つで走るスバルに苛立ちを隠そうともしない声でターニャが吐き捨てる。
やがて、森を駆け抜けている途中、ふいにスバルの足が止まる。
『静かすぎる、だろ』
夜中にしても、否、夜中だからこそ森から動物はおろか虫の鳴き声すら聞こえなかったのが不気味で仕方なかった。
そんな違和感にスバルが足を止めて周囲を警戒していると、不意にスバルの目の前に黒い装束に覆った得体の知れない人間が立っていた。
「怖っ!?」
「これが地竜が怖がっていた原因か?」
「少なくとも、無関係とは思えんな」
突然出現した黒い装束に驚きの悲鳴を上げるカズマ。そんなカズマと違ってこういったことには胆力のあるアインズは顎に手を当てて、この黒い装束の男が今回の騒動と関係があると見抜き、その予測にターニャも同意の声を上げる。
「しかし、服の趣味の悪い連中だ」
「連中……?」
尚文の言葉に引っ掛かったカズマが映像に目を戻すと、後ろに一歩足を下がらせたスバルを取り囲むように、同じ黒装束がズラリと現れた。
不気味なのは、その連中が一言も発することなく、ただ無言でスバルを見つめていることだろう。
まるで品定めをしているかのような連中の対応に、見ているカズマも緊張でゴクリと口の中に溜まった唾を飲み込む。
それを合図にしたかのように、映像の黒装束の連中が全員がスバルに対して、恭しく頭を垂れて去っていった。
「何だったんだ……?」
「さてな。だが、経験上ああいった手合いの連中がロクな事をしているとは思えん。しかも、奴らが現れたのは村へ続く道だ」
「だとしたら、既に村があの連中に何かされた可能性もありそうだな」
「じゃあ、まさかレムやエミリア達は……!?っ、スバル……」
経験談からロクな連中ではないと語る尚文と、かつてのカルネ村のような惨劇がもう既に行われている可能性に思い至るアインズ。2人のその言葉に状況をよく飲み込めていなかったカズマがサッと青褪めて、映像の中のスバルの身を……更に言うなら、これからスバルが見る事になるだろう村の惨劇を思って身震いする。
そして、映像の中のスバルも再度走り出し、息を切らして辿り着いた村は既に壊滅していた。
「嘘、村の人達が皆……」
「死んでいるな。それも随分と派手な殺し方だ。まるで一方的な虐殺を行った戦場跡だな……」
ヴィーシャの詰まったような言葉に、ターニャは感情を殺した声で応じる。
その言葉通り、映像に映し出された村はまさに凄惨たる有様であった。
生きている者の気配を一切感じさせない静寂に包まれた村。その村のあちこちに、まるでゴミのように村人達の死体が積み重ねられて捨てられている。
「うぉえぇ──っ!!」
あまりにもグロ過ぎる死体の山に、直視してしまったカズマが生理的な嫌悪感から吐き気を催して口を手で押さえて我慢する。
幸い、吐しゃ物を吐くことにはならなかったのは、これまで多くのスバルの死体を見て耐性が出来たおかげだろう。
それが本当に幸運であることかどうかは別にして、だ。
カズマが吐き気を堪えている間にも、死体の山の中から目当ての人物がいないかをスバルが探すように視線を向けるが、血みどろになった死体などいくら死線を何度も潜り抜けたとはいえ、元々はただのひきこもりだったスバルが耐えられる筈もなく。
ただ絶望に打ちひしがれながら、スバルは荒い息と共に「レムは……」と口にしながら、なるべく死体全体ではなく、顔だけを確認しながら村中を歩き回っていった。
「これが、スバルの世界での仕打ちって訳か……。俺も元の世界では裏切りに無能な勇者共のやらかしと、随分と酷い目にあってきたと思ってたが、これはそんなレベルじゃないな……」
「おい、待てよ。あれって……」
映像の中で突然転んだスバルの足元の死体。それがなんなのか、カズマがいち早くその正体に気が付く。
それは目玉が無くなったペトラの死体だった。それがスバルの限界を迎えさせた。
『あああああぁぁぁぁぁぁぁッ──!!』
絶望と恐怖、そして胸を締め付ける自らの怠惰による罪悪感がスバルを襲い掛かる。
そうして腹の奥底から響き渡る絶叫は、それを観ている多くの心に痛みを与えた。
「ペトラちゃん、死んじゃったの?」
「フィーロ……」
「胸糞悪い殺し方をしやがって!」
スバルの慟哭に、ペトラの死体を見たフィーロが悲しそうな声で尚文の服を掴みながら胸を痛める。
それにラフタリアは何も言えず、尚文はただただぶつけようのない怒りが渦巻いていた。
「酷い。あんな小さな子を……」
「あっ、あっ、あっ……」
「……おい、誰かグランツの目を塞いでやれ」
軍人でもない大量の一般人の死と幼い少女の無惨な死体に、かつてのアレーヌ市でのトラウマが蘇りだすグランツ。それをターニャが介護するようにと命令を下す。
恐らく、あの瞳のない空洞となったペトラの目に、かつての戦火に包まれた避難民の憎悪の目を幻視してしまったのだろう。
介護にあたったヴァイス、ケーニッヒ、ノイマンもそれを分かっているからこそ、世話の焼ける後輩だと軽口を叩きながらもグランツに優しく寄り添っている。
「……何も浮かばんか」
かつて助けに行ったカルネ村の時以上に凄惨な殺戮現場に、アインズは憐憫も憤怒も焦燥も湧かないでいる己の感情に、つくづく自分が化け物になったのだと改めて実感を得る。
隣を見れば、自身と同じ様に何の感情も宿していなさそうなアルベドに、村人たちの死体に若干の興奮を見せるシャルティアと妖しく笑みを浮かべるルプスレギナ。
後はちょっと何を考えているのか分からない悪巧みしてそうなデミウルゴスと、罪なき人の死を前に何も出来ない自分の不甲斐なさから、顔には出さずとも静かに拳を握って震えるセバスが見える。
「これはちょっと、いえ、かなり見るに耐えられませんね」
「魔王軍でも、これほどまでに騎士道に欠けるような残虐な真似はしないと聞いているぞ」
「女神の私がいれば皆を生き返らせてあげられるんだけれど。それにしても、カズマさん大丈夫?」
「……っ、ちょっと、いや、かなり辛い」
湧き上がる不快感と絶望感、そしてなによりもただ見ているだけしか出来ない自身への罪悪感のようなものがカズマの胸を締め付ける。
それらが不調として汗となってカズマの顔に浮かび上がる。それを心配そうにアクアがカズマに寄り添ってケアにあたる。
『そうだ……レム……レム……レムは……』
誰よりも一番この状況に心痛めている筈のスバルは、先に出発して屋敷に到着している筈のレムの安否の確認の為だけにノロノロと亀のような速度で足を動かして屋敷へと辿り着く。
そこで目にしたのは元の美しさをカケラも保っていないボロボロの屋敷だった。その光景を目にして最初に思い浮かんだのは、レムが実はまだ屋敷に戻れていないんじゃないかという楽観だった。
彼女がいれば、屋敷がこんな風になる筈がないと、根拠のない願望だ。そんなスバルの期待は、屋敷の庭に踏み込んだ際に粉々となって吹き飛んだ。
『──レム』
体中におびただしいまでの傷と刃を付けられたレムが血を流して倒れていたのだ。
「っっ!!レム──っ!!」
その死体を見て一番に感情を爆発させたのはアルベドだった。金色の瞳孔が大きく見開かれ、座席の肘掛けを壊さんばかりに握り締めて激情を抑え込もうとしていた。
「アルベド」
そんなアルベドを落ち着けせるように、アインズが肩に手をやると、ビクッと大きく震えたアルベドが一度大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
「見苦しい様をお見せして申し訳ありません。アインズ様」
「構わん。あのような友人の姿を見れば怒りに震えるのは仕方のないことだ。お前の全てを私は許そう」
「寛大なお言葉ありがとうございます」
普段であれば、アインズに接触されでもすれば舞い上がるほどに喜ぶアルベドだが、流石に今の状況ではそれも出来ないようだ。
倒れたレムの遺体の場所の不自然さに気が付いたスバルが、少し離れた場所にある倉庫を発見する。
映像越しでは分からないが、倉庫に近づくスバルの顔が歪んだ様からして、きっと死臭でも嗅いでしまったのだろう。
案の定とでもいうべきか、倉庫の扉を開けた先ではペトラと一緒に遊んでいた村の子供達が無惨な死体となって転がっていた。
それを見てしまったスバルは反射的に倉庫から飛び出して逃げ、胃の中のもの全てを庭にぶちまけた。
『違う……違う、違う違う違う違う……』
思い描いていた理想も、ここに至るまでに考えていた妄想ともまるで違う絶望的な光景に、スバルはただただ壊れた機械のように違うと繰り返して叫んでいた。
そんな、涙を流して胃の中のもの全てをぶちまけて膝を屈するスバルに、誰しもが悲痛な目を向けていた。
「誰も生き残りがいねえのかよ……」
「文字通りの全滅か。軍人たる私が言えた義理ではないが、少々やり過ぎだな」
スバルの嘆きに、映像からでも伝わる村人達の無残な死に方をした光景にカズマはやるせない絶望を抱え、ターニャもまた爪を噛んで庭先に転がるレムが殺したであろう黒装束の死体を睨み付ける。
『誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か……』
誰かに自分を見つけて欲しくて、言い続けていなければ心が死んでしまいそうになるから。
ただ無機質に感情の籠っていない声で繰り返しながら、スバルが屋敷へと目指す。
屋敷の中に入れば、屋内の状態は庭園と違い、まるで争いごとの形跡のないものだった。
もしかしたら、ここには賊が踏み込んでいなくて、誰かが──エミリアとベアトリスが無事に避難しているのではと淡い期待を抱く。
『くそ……くそ! なんでだ……なんで、誰も……いつもだったら……』
いつもならば簡単に引き当てられる禁書庫も今回ばかりは当たりを引けず、何度も扉を開けてを繰り返す。
『出てこい……出てこいよ……頼む、頼むから……助けてくれ……助けてくれぇ……!!』
そんなスバルの声に応じて出てきたのは、血塗れになったラムの死体だった。
「っ、ラムも殺されてしまったのか」
「もしや、ロズワール先生も殺されたのですか?」
「で、でも、あの先生って魔獣を一方的に魔法でやっつけちゃったし、ほとんど紅魔族かそれ以上の魔法使いよ!もしここに居たら、村や屋敷がこんな目になるかしら?」
映像の中でラムもまた無惨な死体になっていることに憤りを感じるダクネス。めぐみんもまた、ラムが殺された事からロズワールの安否を気にするが、あの強さを持つロズワールがそう簡単にやられる訳がないとアホのアクアでさえ分かる自明の理を説いた。
「んなの、もう関係あるかよ。はは……、ここまできたんだ。もう完全に死に戻り案件だろ」
学友たる彼女らの死に、カズマはスバルと同じような死んだ目で項垂れながら、力なく笑った。
「カズマ、お前──っ!?」
その言葉に憤慨したダクネスが立ち上がってカズマへと詰め寄ろうとするが、カズマから漂う
前の世界でも3億エリスの借金や魔王軍幹部との対決でも絶望してヤケくそになることは多々あったが、逆にこんな自暴自棄みたいな酷い状態にはなることはなかった。
そんなカズマの様子に心配していると、スバルがロズワールの執務室に隠されてある凍り付いた隠し通路を発見し、そこに足を踏み入れる。
『──ぁがぅぁ!』
隠し通路の先にある扉を開けようと取っ手を掴んだ途端、スバルは悲鳴を上げて振り払う。
「「「ひぃっ!?」」」
その振り払ったスバルの手に何本か指がなかった。そんな生々しい傷痕に、心の弱い者は小さな悲鳴をあげた。
逆に、そういった事に耐性のある者達は冷静に、スバルの指が取れた原因に注視する。
「凍傷による欠損か?にしても急すぎる」
「大方、魔法かなんかの効果だろ」
「だとするならば、触れた相手の生命力を奪い取るといった効果が付与されている可能性があるな」
ターニャ、尚文、アインズが冷静に分析する中、映像の中ではスバルの足が凍って砕けて欠落し、それを皮切りにどんどんとスバルの体が崩壊していった。
『──もう、遅すぎたよ』
全身が凍ってしまい、映像も白一色となって何も映さなくなった中で、最後に聞こえてきた声だけがやけにはっきりと耳に届いた。
「最後のあの声……、あれはパックの声か?」
「だとすると、あの通路を凍らせていたのはパックの魔法か……」
映像の中の最後に聞こえたパックの声から、ターニャとアインズはあの通路を凍り付かせた魔法がパックのものだと推測する。
(触れた者の生命力を奪う効果。ゲームならば凍結が該当するけれど、パックの魔法の効果がそれに該当するか分からない以上、ユグドラシルの状態無効のアイテムの効果も貫通する可能性がある。やはり、学園生活のルールやモラルだけでなく、敵対行動はなるべく避けなければならないな)
もはや学友であるスバルの死を当然のように受け入れ、スバルが死んだ原因であるパックの魔法にどう対抗すべきか思案するアインズ。
友と言える存在であっても、アインズの中の重要度はナザリックとNPC達が一番であることは揺らぎなく、その次に学友たる皆と自分の身が優先となる。
だから、もし仮にこの学園のメンバーで争いあうような事態になったとしても、アインズは最後の最後まで他に方法がないか思案した結果、戦うしか道が無いと分かれば、一切の容赦もなく勝ちを狙って殺しにかかるだろう。
『──いちゃん?』
死に戻りが発動したスバルの目の前に、あの果物屋の店主の顔が映る。
「また、あの店主か……」
「最初のループでもあの店主の目の前から再スタートだったが、やはり死に戻りのループ地点には何か条件があって、あの店主の目の前というのが何かしらの条件に当てはまっているのか?」
アインズの呟きに、ターニャが自らの考察を口にする。
だが、考えようにも判断材料が少なすぎる為に、頭の片隅でぼんやりと考察する程度に留める。
『ふへっ……ひひ、はは。へひ、ひははは……』
色々と限界だったのだろう。王都での一件のみならず、問題さえ起これば自分ならどうにか出来るという根拠のない自信があっさりと現実という絶望で黒く塗りつぶされたことによってスバルの精神が死を迎えた。
部屋中に木霊するスバルの狂った笑い声と時折混ざる泣き声に、そこに行きつくまでの過程を知る者達は唇を嚙みしめるように同情する。
そして、その映像はここで終わりではなく、壊れた人形のようになったスバルは今度は違う道筋を辿って屋敷へと再び戻る。
「今回は心が壊れたスバルの為に屋敷へ戻るのか」
「前回はこの時点ならまだクルシュの屋敷で世話になっていた筈だが、この違いがこの先の展開にどう影響するのか?」
「だが、時間的にあの黒衣装の連中と鉢合せる可能性が大いにある。もしかしたら屋敷に辿り着くよりも先に連中と出くわす可能性もあるな」
「なあ……」
前回の映像との違いを冷静に分析し、どのような事態が待ち受けているのかを考えようとする尚文とアインズとターニャに、カズマは口ごもるように3人に話しかける。
「なんで、お前らはそんな平気なんだよ……」
「平気とは?それはスバルが死んだのに、平然としているように見えるからか?だとしたら、それは見当違いも甚だしいな」
不愉快さと不機嫌さが入り混じったような顔で答えるターニャに、小市民たるカズマは思わずビクッと質問したことを後悔したような顔をしたが、それでも今も時折スクリーンの中で壊れたように笑うスバルの声に心を痛めつけられるのと同時に奮い立たせた。
「そ、そうは見えねえけどもな!」
「カズマ、こんな時にどうした?さっきから様子がおかしいぞ!?」
「そうよ、いつもならターニャに逆らおうなんてしないのに、ちょっと様子が変よカズマさん!?」
「2人の言う通りです。少し落ち着いてください。どうしたんですか、カズマ?」
震える声でなおも糾弾しようとするカズマをダクネス、アクア、めぐみんが落ち着かせようと声をかける。
しかし、そんな声が聞こえていないのか、カズマは虚ろな目になりながらターニャを罵倒する。
「どうせあれだろ!軍人さんは人を殺すのがお仕事だから、誰が死のうが関係ねえってんだろ!殺人集団には人の心なんてねえから!」
「っカズマぁぁぁ!!!」
その罵倒に反応したのはターニャではなくヴァイスだった。
ヴァイスが立ち上がると一緒に、ターニャとヴィーシャを除く3人も立ち上がってカズマを睨み付ける。
「どういう意味だ、それは!?言って良いことと悪いことがあるぞ!」
「流石のカズマといえど、その発言は見過ごせんな!」
「俺も同じ意見だな!」
カズマの発言に、グランツとケーニッヒとノイマンが怒りを露わにし、まさに一発触発の危機へと陥った。
ああ、怒りだ。
今この場には怒りで満ち溢れている。その怒りは病気のように人から人へと感染し、やがて怒りに呑まれ侵される人々は争うのだろう。
「っ!」
「やるか!?」
自暴自棄のような状態に陥ったカズマは拳を握り、そのカズマの対応に、ヴァイスらも帝国式の徒手格闘の構えを見せる。
「なっ、待てお前ら!」
「カズマの無礼な発言が悪いのは認めますが、流石に戦うとなればこちらとしても見過ごせません!」
「ちょっ、本当にやめなさいよ!」
そんなカズマらの間にダクネスとめぐみんが割って入り、アクアが止めようと立ちはだかる。
だがそれでも、両者の間にある怒りは微塵も消えておらず、今にも戦いが始まりそうなピリピリした空気が漂っていた。
「ちぃ!おい、お前らいい加減に──」
「──騒々しい、静かにせよ!」
尚文が苛立ったように止めようと声を荒げようとしたその時、突如鋭い声が響いて皆一斉に黙り込んだ。
全員が声のする方へと目を向ければ、そこにはアインズが支配者然とした態度で腕を振り払ったようなポーズで立っていた。
その貫禄はまさに絶対的支配者という言葉が相応しいほどに威風堂々とした姿であり、思わず誰もが見惚れてしまうほどのカリスマ性を宿していた。
「ん?すまんな、尚文。割って入ってしまった形になってしまって」
「……いや、いい。もし俺が止めに入ったとしても、余計に悪化してたかもしれないからな」
止めに入ろうと中途半端に立ち上がろうとした尚文は、その言葉と共に席に座り直した。
きっと、尚文もまたこの部屋の空気に当てられていたのだろう。
だが、アインズはアンデッド、すなわち死者だ。死者は病に感染しない。
そして、他者からもたらされる怒りすら、彼のアンデッドとしての特性の前には抑制されて露と消える。
「さて、事の発端はカズマだが……。どうにも様子がおかしいが?」
「恐らくですが、アインズ様。カズマ……いえ、カズマだけでなく、ターニャ殿もこの部屋の仕掛けに狂わされたのでしょう」
「仕掛けだと……?」
「ですよね。バニル先生?」
アインズが首を傾げる中、デミウルゴスがずっと沈黙してこちらを観察していたバニルへと声をかける。
その呼びかけに、バニルは口元をニヤつかせてゆっくりと立ち上がる。
「ふふふ、気づいていたか同胞よ。ふむ、ここで語らぬのも無粋の極み。ならばこの見通す悪魔たるバニルが語って聞かせよう!」
と、芝居がかった口調で高らかに宣言すると、バニルが悪魔らしくニヤリと口元を歪めて嗤う。
というわけで、気になる伏線回収は次回のお楽しみ!
いや~、やっとアインズ様の騒動しい、静かにせよを書けました。
ぶっちゃけ、3章を書く際にはこのセリフを言わせたいと思いながらここまで書いてきましたからね。
これからも応援コメントを送ってくれたら本気で書いていきますので、どうぞ応援よろしくです!
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル