いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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魔女教大罪司教ペテルギウス先生

 

 レムが共感覚にてラムの不安の感情を感じ取ったその次の瞬間、操作していた地竜の首が吹き飛び、それによって竜車はバランスを崩して横転する。

 

「はぁ!?な、何が起きたんだよ!?」

 

「一瞬だったが、鋭利な刃物で地竜の首が斬られたようだな」

 

「しかも、あの黒衣装が見えたことから、あの連中と鉢合わせてしまったみたいだな」

 

 低ステータスのカズマには視認出来なかったが、常日頃から銃弾飛び交う戦場を生きるターニャと、盾の勇者として敵の攻撃を見極める目を持つ尚文はあの一瞬の出来事を捉え、何が起きたのかを理解する。

 レムとスバルが再び登場した黒衣装の連中に襲撃された事で、部屋の中の空気も再びピリピリついたものが流れ始めた。

 

「ってか!今のってかなりマズくねえか!?かなりの速度で2人が吹っ飛んじまったけど、あんなのウチのダクネスじゃなきゃ下手すりゃ死ぬぞ!」

 

「黙りなさい、カズマ。今は大人しく観ておくことね」

 

 映像越しでもかなりの速度で走っていた竜車から投げ出された2人の心配を声高らかに叫ぶカズマを、それを宥めるアルベドが鋭い口調で一喝する。

 彼女も前回のループでのレムの死因であろう黒装束の連中の登場にピリついているのだろう。

 スバルがどうなるかは置いておいて、あの程度でレムがどうにかなる筈がないと確証があるものの、やはり不安が胸をよぎるのは止められない。

 

『あふぅ、うぐふっ……っああ』

 

 勢いよく竜車から地面に叩き落されたことで体中に痛みが走っているのだろう。

 幸いなことに、重傷ではなく軽傷だったのだろうが、今の状態のスバルは幼子のように痛みに涙して短い悲鳴を上げ続けている。

 

「っ!スバル!!」

 

「カズマ、落ち着いてください。またさっきみたいに暴走なんてことになったら……」

 

「ああ、分かってる。一応は冷静さを残しているつもりだよ」

 

 ある程度の衝撃でこの部屋の洗脳染みた効果を跳ね除けられるのならばと、カズマは必死に荒ぶりそうな感情を押さえつけるために、自分が出来る精一杯の痛みを自分に与える為に太ももを抓ることで自我を守ろうと必死に耐える。

 

『──ラ』

 

 黒衣装の男が聞き取りずらい声で何やら呟いた。

 

「今何を口にした?」

 

「音がボヤけて正確に聞き取れなかったが、最後にラと口にしたのは間違いないはずだ」

 

「これはスバルが聞き取れていないからボヤけているのか?それとも、意図的にこれを流している存在がボヤかしているのか?」

 

 音のボヤけを考察する尚文、ターニャ、アインズだが、それを考える間もなく、事態は動き続ける。

 

『──しぃっ!』

 

 竜車から吹き飛ばされて怪我を負い、その青髪を血に染めた鬼が鉄球を操り黒衣装の連中を次々に葬っていく。

 突然の奇襲に、黒衣装の連中は即座に対応するが、それ以上にレムの攻撃は苛烈で、次々に黒衣装の数は減っていく。

 

『スバルくんには、なにもさせません』

 

 その覇気の籠った声に改めてレムという少女が戦闘メイドであると思い知らされる。

 

「へぇ、魔獣との戦いでも随分と強い子だとは思ってはいたけれど、あの身のこなしはやっぱり本物ね。私達プレアデス程じゃないにしろ、流石はアルベド様のご友人と言ったところね」

 

「っすね!あんな風にビュンビュン!ってモーニングスターを振り回して敵を一掃するのは見ていて気持ちいいっす!まあ、もっと気持ちいいのは、果実のように真っ赤に潰れていく虫ケラの死に様だけれども」

 

 ソリュシャンの感想に、ルプスレギナは同意するように頷き、恍惚とした表情で黒衣装の連中が肉塊へと変わっていく様を見て興奮している。

 

 しかし、完全にレムの無双とはいかず、仲間が殺されていっているのに動揺の一つも起こさない黒衣装の連中は数の利でレムを囲いながら、死角からナイフを飛ばして着実にダメージを稼ぎにいっている。

 

『魔女教徒……ッ』

 

 腹の底から響くような怨嗟の声に、敵対していないにも関わらず、カズマはゾクリとしたものを感じてしまう。

 それはカズマだけに限らず、他にもレムの怨嗟の声にビビッているのが何人かチラホラ見える。

 だが、中にはそんな声など意にも返さず、ただ淡々とした態度でレムの言葉から状況を推理する猛者もそこそこにいた。

 

「ふむ、魔女教か……。なるほど納得だな。確か、魔女に魅入られた者の総称だったな」

 

「世界中で恐れられている嫉妬の魔女を信仰する連中ってことなら、恨みの1つや2つは買っていそうだしな」

 

「以前の屋敷でのループの際にも、レムがスバルに対して魔女教かどうか確認した事があったが、どうにも因縁浅からぬ関係のようらしいな」

 

 猛者3人衆たるターニャ、尚文、アインズは傷つくレムの姿を目にしながらも、動揺や憤りを一切見せることなく、両者の間にある因縁と関係性を考察し、状況をより理解しようとしている。

 

『しま──ッ』

 

 油断あるいは怒りで冷静さを損なっていたせいか、不用意に跳躍してしまったせいで、魔法が使える者に狙い撃ちされてしまう。

 

『ヒューマ!!』

 

 避けられないのならばと、飛んでくる魔法を防がんと、同じく魔法で防御に徹する。

 しかし、威力は減衰できたものの、至近距離で魔法の衝突を受けたレムの腕は真っ赤な火傷を負い、この先の戦闘でとても使えるような状態ではなくなってしまう。

 

「この!私ならあんな傷、ヒール1発で治してあげられるのに!!」

 

 水の女神として、目の前で傷つくレムの腕を見ていられなくなったアクアが、憤りの声を上げる。

 しかし、所詮は映像の中の世界。ただ見ているだけしか出来ないアクアにはどうすることもできない。

 

『──スバルくん!?』

 

 敵の魔法に気を取られて、スバルから目を離した隙に姿が搔き消えていた。

 何処へ行ったのかと周囲に目を配ると、魔女教の人数が1人足りないことに気が付き、スバルはそいつに連れ去られたのだと悟った。

 

 そして、倒れた竜車の向こう側に、スバルを担いだ魔女教が走り去っていく姿が見えた。

 慌ててスバルの名を叫び追いかけようとするが、行く手を遮るように魔女教がレムの前に立ちふさがる。

 

『お前……たちは……。レムから、生きる理由を奪っただけじゃ飽き足らず……。今、この場で死にに行く理由すら奪うのか──!!』

 

「レム──」

 

 主を守る為ならば、己の命など幾らでも捧げても構わない。至高の存在に生み出されたNPCにとってはその思考は当たり前であり、それを邪魔する者など万死に値する。

 友として、そして同じ志を持つ者同士として、今こうして傷付き死する理由すらも奪われようとするレムの姿に、アルベドは表情を一切変えることなく、されどその金色の瞳は不気味なほどに鈍く輝きながら映像を見据える。

 

 ピチョン

 

 連れ去られたスバルが気を失ったことで、映像は一時的に何も映さなくなったが、水滴が落ちる音が聞こえたと同時に、ゆっくりとスバルの目が開かれたのか、映像にボヤけながらも何かが映し出された。

 

『なぁるぅほぉどぉ……こぉれはこれは、確かに、興味深いデスね』

 

 不気味な瘦せすぎな男。あるいは不審者の擬人化とも言える存在がスバルを覗き込むように目の前に立っていた。

 

「っ!?ペテルギウス先生!?」

 

 その正体を知っているアルベドは何故ここに映っているとばかしに声を出す。

 

「なに、先生?学園の教師か?しかし、あんな人物見た覚えがないが?」

 

「ペテルギウス先生は以前のバレンタインデーなる日に、チョコ作りだけでなく、共に愛とは何かへの理解を深めあった間柄です!」

 

「そ、そうか。チョコ作りということは、家庭科の先生か?」

 

「いえ、アインズ様。彼はバレンタインデーの日に学園に勝手に侵入してきた不審者でございます」

 

「えっ!?」

 

 アルベドの返答から、アインズはてっきり彼は家庭科を担当する先生かと思い込んだが、即座にセバスからの否定の声に素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「う~ん、ではあれか?彼は学園に不法侵入した挙句、家庭科室でチョコ作りをしていたアルベドと共にチョコ作りをしていただけの人物だと」

 

「その通りでございます」

 

 2人の証言を纏めることによって、アインズはアルベドが口にした人物について改めて正体を知ろうとし、それにセバスも肯定の意志を見せる。

 

「やはり、見た目同様に怪しい人物だということですか?ん、どうしましたか、カズマ?」

 

「いや、別に……。(あの時、変に関わり合いにならなくて本当によかった)」

 

 騒ぐ3人の会話を盗み聞きする形で聞いていためぐみんは、映像に映る人物が見た目通りの不審者であることに納得していると、隣に座るカズマの様子が少しだけおかしい事に気が付いて声を掛ける。

 しかし、カズマの返答も素っ気なく、先程までのように混乱している様子ではないため、めぐみんはそれ以上気にすることもなく画面に視線を戻すのだった。

 

『あぁなぁた……まさか、『傲慢』ではありませんデスよね?』

 

「傲慢?この場合は、文字通りの意味合いではなさそうだが……」

 

「考えられる中で一番可能性がありそうなのは、七つの大罪だろうな」

 

 ペテルギウスの発した傲慢という言葉に、ターニャは勘繰り、尚文は己の盾を見つめながらその言葉の意味を考える。

 大罪はキリスト教の用語で「七つの罪源」とも言われ、人を罪へと導くとされる欲望の総称。

 憤怒・怠惰・強欲・色欲・暴食・嫉妬・そして傲慢の7つの欲望。最近では罪へと導く欲望ではなく、アニメや漫画で強力なスキルや能力の類として描かれる事の多い七つの大罪だが、その恩恵を受けている尚文にとって、ペテルギウスの発した傲慢という言葉はとても無視できるようなものではなかった。

 

『あぁ、そうデスか。これはこれは、失礼をしておりました。ワタシとしたことが、まだご挨拶をしていないではないデスか』

 

 演劇者のような立ち振る舞いでありながら、狂気を感じさせる彼の一挙手一投足はSAN値をゴリゴリ削られる感覚に陥らされる。

 

『ワタシは魔女教、大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!』

 

「うう……。あのおじちゃん、槍の人みたいにすっごく気持ち悪い!」

 

 まるで人形のようなカクついた動作のペテルギウスの動きに、素直に元康と同じレベルで気持ち悪いと吐くフィーロ。

 まあ、そんなフィーロの言葉には尚文もラフタリアも声に出さずとも、内心で首を大きく縦に振っていた。

 

「にしても、やはり出たか大罪、そして怠惰。こうなると、スバルがあの世界に呼び出された理由は……」

 

「まだ埋まっていない傲慢の担当にする為……か?」

 

「あの世界に召喚したのが嫉妬の魔女であるというのであれば、その線はなくはないだろう。それに、王都に召喚されたスバルが都合よく世界でも忌避される銀髪のハーフエルフと出会う。それは一体、どんな確率なのだろうな?」

 

 偶然にしては出来過ぎている。やはり何かしらの運命的というよりも、作為的なモノが絡んでいるとしか思えなかった。

 まだスバルが魔女教の傲慢であると確定した訳ではないが、今後の……あるいは学園に戻った後もスバルの動向により厳しい目を向ける必要性があるかもしれないと、ターニャと尚文とアインズは心の中でそう決意する。

 

『そう……デス! 試練! 試練! これは試練! 全てはワタシたちが御心に沿うための試練なのデス! 照らせ、輝けぇ……あぁ、脳が震える!』

 

 狂うスバルの目の前で、更なる狂騒を持ってしてペテルギウスの演説は続いていく。

 配下の魔女教の1人が影から姿を現し、ボソボソと何事かをペテルギウスに呟くと、それを聞き取ったペテルギウスは更に熱を上げてイナバウアしながら脳が震えると狂気に浸り興奮する。

 しかし、それは次の報告を聞いた瞬間、その態度は豹変する。

 

『生・死・不・明……デス、か。アナタ、『怠惰』デスね?』

 

 ペテルギウスが報告してきた魔女教の1人を怠惰であると認識すると、その頭を掴んで地面へと叩きつける。

 そして、無慈悲にも胸倉を掴み上げて起き上がらせ、その細腕の何処にそんなパワーがあるのか不思議なほどに黒衣装の顔面に強烈なラッシュを叩き込んだ。

 

「ひ……ひでぇ、仮にも仲間にあんな仕打ちをするのかよ」

 

「まんま悪の親玉って感じの振る舞いね!」

 

「ですが、殴られているのにも関わず、本人が無抵抗なのもそうですが、囲の者達は誰一人として止める素振りを見せませんね」

 

「なんて奴らだ……。仲間意識の欠片もないのか!?」

 

 映像越しとはいえ、仲間の魔女教徒を容赦なく殴り付けるペテルギウスの暴挙にカズマ達はドン引きする。

 

「恐ろしいものだな。信仰するのが神か魔女かの違いはあれど、狂信者は得てして常識を疑うような行動を取る。やはり、宗教などロクなものじゃない」

 

「しょ、少佐!あまりそう言う事は大っぴらに口に出すものでは──」

 

 チラリと向こう側に座るルーデルドルフ校長とゼートゥーア副校長を見ながら、内心でドキドキと怒られるのではないかと不安を抱えるヴィーシャは、声を潜めながら隣のターニャに苦言する。

 だが、そんな心配も余所に、校長と副校長はまるで変わらない表情のまま、映像を見続けている。

 

「安心したまえ、セレブリャコーフ中尉。この程度でわざわざ腰を動かす程、閣下達の腰は軽くはないさ」

 

「し、しかし~!?」

 

 恐れ知らずなのか、あるいは計算の上での言動なのか、恐らく……というより十中八九後者なのだろう。

 騒ぐヴィーシャの唇に指を当てて、これ以上は騒ぐなとジェスチャーで伝えると、ヴィーシャも心配するだけ少佐には無駄かと観念して鑑賞に戻る。

 

『福音書に、アナタのことは記されていない。無論、この大いなる試練の前に生じた問題のことも、今のことはなにひとつ! それは! つまりぃ!アナタのことは、取るに足らないことであるということデス! 福音書に記されることのないアナタの存在は、ワタシに委ねられているということデス! それほどに深い深い深い深い深かかかかかかかかぁい、寵愛を受けていながら……アナタはなんと矛盾しているのか! あぁ、脳が、脳が、脳がぁぁぁぁ』

 

 発狂したように叫び出すペテルギウスの狂気に当てられ、心の弱い者はひっ!と小さな悲鳴を上げて隣に座る者の服を摘まむ、あるいは抱きつくなどの反応をとる。

 

「福音書……、そして記されていないという発言。その2つを組み合わせて考えるとすると」

 

「あれは預言書の類であると言いたいのか?ただの指示内容を書かれた本の可能性も大いにあるぞ?」

 

「異世界なのだ、魔法あるいはスキルでそういった特別なアイテムを生み出したやもしれんな。それにただの指示書にしては名前が少々大げさすぎる気がするな」

 

 預言書、あるいは未来を予知する魔法やスキルがある可能性は十分に考えられる。

 もしそんな代物が存在するとなれば、その効果次第ではペテルギウスの危険度は大幅に上げられる。

 とはいえ、スバルの存在が記されていないとすれば、そこまで細かな預言は記されていない。あるいは、本当に尚文の言う通り、ただの指示書の可能性もある。

 

『お聞きするのデスが。──なぜ、アナタ、狂ったふりなどしているのデスかね?』

 

 質問しても答えてくれないスバルに業を煮やしたペテルギウスは、真剣な、それこそ噓は許さないといった眼光でスバルを見据え、その質問に誰もが息を呑んだ。

 そしてそれはスバルも例外ではなかったのか、手枷の鎖を鳴らしながら身を震わせる。

 

「それって、スバルは今まで狂ったふりをしてたってのか?」

 

「でも、それも仕方ないことかもしれません。あんな事が立て続けに起こったのなら、自己防衛みたいなものでしょう」

 

 カズマはペテルギウスの言葉に信じられないといった反応をするが、めぐみんは薄っすらと発狂したにしては大人しすぎるスバルの態度に疑問を抱いていたため、その言葉を疑うようなことはなく、同時にスバルの狂ったふりにも理解を示した。

 

『いやいやいやいやいやいやいや、実際のところ疑問なんデスよ。なぜに何故になんのために、狂気に染まったようなふりをしているのデスかね』

 

 淡々と現実を突き付けてくるペテルギウスの言葉に、スバルは狂ったふりを続けたまま動揺を悟られないように手枷を鳴らし、意識を切り離さんとする。

 

「やっぱりそうっすよね!いや~、スバルに聞いてくれる人がいてよかったっす!」

 

「あなた、最初から分かっていたの?」

 

「そりゃ勿論っすよ!本当に狂った人間ってのは、もっと私にとって愉快な存在なんですから」

 

 ユリからの疑問に、ルプスレギは人あたりのいい笑顔の仮面を外して、残忍で狡猾な本性を見せる笑顔でそう答える。

 その返答にユリが眉を顰めるのを見て、ルプスレギはいたずらが成功した子供のような笑顔で舌を出した。

 

『あぁ、滑稽、滑稽なりデス! なぜ、アナタは狂人のふりなどしているのデスか!? 本当に外れたものからすれば、そんな上っ面はすぐに剥げる、見える、そしておかしくてたまらないというのに!』

 

 つらつらとスバルの必死に逸らしていた心の弱い部分を、言葉という刃で貫いてくるペテルギウス。

 その鋭すぎる痛みはスバルの心を傷付け、涙を流しながら苦しむスバルを無理矢理に過酷な現実へと引き戻そうとしてくる。

 

『あぁ、あぁ、あぁ、アナタ……『怠惰』デスね!』

 

「怠惰を担当する輩が、怠惰を忌避しているのか?そっちの方が滑稽に思えるがな」

 

 先程殴りつけた魔女教の1人に対しても、今も狂人のふりを続けるスバルに対しても、ペテルギウスは怠惰だと見下して怒りを見せつける。

 そんなペテルギウスの有り様に、尚文は鼻を鳴らして嘲笑する。

 それはただ見ていることしか出来ない自分の無力さや不甲斐なさからくる、自己嫌悪を隠すための皮肉なのかもしれない。

 

『おややぁ?何事デスかね?』

 

 突然、魔女教の1人が吹き飛んで転がってきたことでスバルから注意が逸れる。

 その魔女教の1人が飛んできた先を見ると、負傷しながらも額に角を生やしたレムが覚悟を決めた顔で現れた。

 

『──見つけ、ました』

 

「1人だけか?ラムやロズワールはいない?」

 

「捕らえられたスバルを救出する為に、スピードを優先したのか」

 

「メイドである以上は主人に迷惑を掛けられないもの。当然の判断ね。けれど、敵の戦力が不明の現状じゃ、それは明らかな悪手だわ。けれど、しょうがないわよね。愛する殿方を奪われて悠長に時間を掛けて助けるなんて発想、貴方に出来る筈がないもの」

 

 たった1人で現れたレムに対して、尚文とターニャは彼女の行動原理を推察する。

 そしてアルベドはレムの行動を理解し、悪手であると判断した上で、それは仕方ないことだと評価した。

 

『その人に、触るな!』

 

 無気力に倒れるスバルの髪を引っ掴み、見せびらかすように持ち上げるペテルギウスに、憤怒の激情を燃やしてレムが叫ぶ。

 

「レム、ペテルギウス先生。正直、私にはどちらもこの学園生活で出会った大切な存在です。そんな2人の戦いを前に、私はどちらを応援していいものか……」

 

「……いや、ここはレムを応援していた方がいいんじゃないか?(ペテルギウスって人、明らかに言動とかヤバイし、セバスが不審者って言ってるからな)」

 

「アインズ様がそうおっしゃられるなら!!」

 

「そうですね!アインズ様が言うなら私達もレムの応援をします!」

 

「わっちも!アインズ様が応援するレムの応援をするでありんすえ!」

 

「あっ、うん。いいんじゃないか……」

 

 悩むアルベドに軽いアドバイス感覚で助言を与えれば、アウラとシャルティアも一緒になって飛びついてきたことに、アインズは若干引き気味に答えた。

 

 前回は数の有利を取れる外だからこそ死角を突かれたが、今回は狭い洞窟の中だ。いくら数が多くとも、攻められる人数は限られる。

 そうなれば、戦闘力では断然勝るレムに魔女教が敵う道理はなく、次々にレムの鉄球に粉砕されていく魔女教徒ら。

 

『……れむ』

 

『脳が、震える』

 

 瀕死の重傷を負いながらも戦うレムの姿に、スバルはようやく彼女の名前を口に出した。

 だが、それを口に出すのは少しばかり、否、かなり遅すぎたのかもしれない。

 

 ゴキュッ!

 

 それは骨が折れる音だったのか、はたまた肉が潰れる音だったのだろうか?

 どちらにせよ、その音の発生源となった少女は、見えない何かに吊るされたかのように、宙で十字架に磔にされたかのようなポーズで殺されていた。

 

『『怠惰』なる権能──見えざる手、デス』

 

「え?はっ!?なんで?急にどうして!?」

 

「落ち着いてください!カズマ!!」

 

「こ、これが!おち……落ち着けって!!?うっ……!!?」

 

 あまりにも無慈悲、あまりにも不条理、あまりにも残酷な光景に、カズマも怒ればいいのか、悲しめばいいのか、ぐちゃぐちゃになった感情が答えを見出せずにカズマの胸の中で暴れ続ける。

 

「噓!そんな、レムさん……」

 

「ご、ご主人様さま~……」

 

「っ!あのクソ野郎!!」

 

 死んだレムの遺体を弄ぶように、見えないナニカがレムの四肢を捻じり、子供が無理矢理に人形の首を回らない角度まで回そうとする。

 それを見てしまったラフタリアとフィーロは、人の狂気と悪意にやられて涙を浮かべ、尚文はその外道な行いに歯を食いしばりながら怒りを燃やす。

 

「死者を冒涜する行い。断じて看過することが出来んな」

 

「しょ、少佐!少佐!!レムさんが……レムさんがぁぁぁ!!!」

 

「言いたい事は分かるし、考えていることも察しているつもりだ。だが、ここでは我々は無力であり、これは既に過去の映像だ。嘆くのも、感傷的になるのも許そう。だが、決して感情のままに行動して愚行を犯すなよ。まあ、敵の術中にハマって場をかき乱した私が言えた義理はないがな……」

 

「っ……はい!」

 

 感情的になるヴィーシャに、ターニャは諭すように淡々と話す。

 しかし、そう淡々と語るターニャの顔に、普段の彼女らしさはなかった。普段の無感情さも、悪魔のように嗤うでもなく、ただ憎しげに神を呪う言葉を吐く時と同じ顔を浮かべていたのだ。

 それがターニャの感情の表れであると思うと、ヴィーシャは不謹慎ながらも親近感を懐いたのだった。

 だからこそ、ヴィーシャもまたターニャに倣って感情を押し殺し、溢れた涙を拭って姿勢を正した。

 

「アインズ様……」

 

「ん……?」

 

「やはり、アインズ様のお言葉は全て正しかったようです。アレは……敵です!」

 

 今も映像に映り続けるペテルギウスを、最初にその姿を見た時と違い、まるで道端に落ちている虫の死骸を見るような冷たい目で見ながら、アルベドはアインズに断言した。

 それを聞いたアインズもまた、ペテルギウスに対して不快さと怒りによって、その眼窩の中に宿る赤い光を強く燃やした。

 

『──ペテルギウスぅぅぅぅぅ!!』

 

『あぁ、やっと名前を呼んでもらえたじゃないデスか。嬉しいデスよ!』

 

『殺す、殺してやる……殺す、殺す、お前は殺す、絶対に殺す。殺してやる。殺してやる! 殺して、殺して……死ね、殺させろ、死ね、死ね、死ねよぉぉぉ!』

 

「そうだ!殺せ!ぶっ殺しちまえぇぇぇ!!!」

 

「やるのならば徹底的に……っく!」

 

「こいつは……、スバルの殺意か!?」

 

 スバルが正気に戻るほどの殺意は、容易にカズマを飲み込み、その精神を汚染する。

 同じく、ターニャもまたその殺意に飲み込まれそうになったが、辛うじて理性を取り戻し、その殺気の濁流を何とか耐えきった。

 尚文は2人と違い、殺意にこそ飲まれなかったが、頭を抱えて必死に内側から湧き上がる殺意を押しとどめる。

 

「これは、再び私の出番というわけか」

 

 言いながら、アインズが立ち上がった。

 その闇夜を思わせるローブの裾を揺らし、手に持ったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで床を叩き、この部屋全員の意識を自分に向けさせる。

 

「私を見ろ!そして我が声を聞け!敵の策略に惑わされるな!!正気に戻るのだ、お前たち!!!」

 

「「「っっっ!!!」」」

 

 その衝撃は完全に殺意に飲み込まれていたカズマさえもショックで正気に戻りる程であり、ターニャと尚文に至っては湧き上がっていた殺意が綺麗さっぱりと消えていた。

 

「すまん、アインズ君。油断しているつもりはなかったが、不覚を取った」

 

「礼を言う。あのままだと、俺も飲み込まれそうになってたからな。にしてもカズマは……」

 

 完全に正気に戻れた2人はアインズに感謝の言葉を伝えると、未だ殺意が残っているカズマを見る。

 

「私だけでは完全に戻すのは無理か。……バニル先生。前回のように、また頼めますか?」

 

「仕方あるまい。恐らくは、そういう役割も求められて、我輩はここに呼び出されたのだろうからな」

 

 アインズの助力を求める声に、バニルは軽くため息を付いて席から立ち上がる。そして、殺意によって意識の濁ったカズマの前で立ち止まり、そっと自分の物ではない殺意に苦しむカズマの耳元に口を近づける。

 

「ふむ、ここ最近お気に入りの夜の店が使えなくなり、日々の夜を悶々としながら過ごしている小僧よ。同じサキュバスにしても衣装の過激さが今一つ足りないと」

 

「おわああああああーっ!!」

 

 突然、カズマは叫び声を上げてバニルの言葉を遮った。

 先程まで溢れん程の殺意で苦しんでいたカズマだが、今は別の感情で苦しんだ表情をする。

 

「最低ね、カズマ」

 

「先程までの私達の心配を返してもらおうか」

 

「アルベドをそんな目で見るなど!それならば私を──っ!!」

 

「カズマさん。……最低です」

 

「フィーロ!今後、決して1人でカズマさんの近くに行っちゃダメだからね!」

 

「……?」

 

「あの愚かな人間め!頭を握り潰して脳みそを引きずりだしてやろうか!」

 

「あっひゃっひゃっひゃ!いいじゃありんせんか!な・ん・せ!サキュバスなんでありんすから!!」

 

 女性陣のカズマを見る目が心配から一気に汚物や変態を見る目へと変わり、それを受けたカズマはバニルに対して怒りの表情を浮かべる。

 

「てっめえ!なんてこと言いやがる!」

 

「ふはははは!極上の羞恥の込もった悪感情、実に美味である」

 

 怒るカズマをさらりと受け流しながら、バニルはアインズに向き直る。

 

「さて、これでいいのかな?アインズ君」

 

「えっ、いや、もっと別の方法とか……。その、すまん、カズマ」

 

 事の発端となったアインズをカズマは睨み付け、流石に罪悪感が湧いたのかアインズも気まずそうに謝る。

 

 そんな馬鹿なやり取りの間に、映像からはペテルギウスら魔女教は皆いなくなり、後は鎖に繋がれて放置されるスバル1人だけが残った。

 そして呪詛のように殺すとだけ呟き続けるスバルの前に、死んだと思われたレムが折れて捻じれ曲がった四肢で必死に這いずり、鎖に繋がれたままのスバルの前に移動した。

 

『レム、レム……?』

 

 スバルの呼びかけに答えることなく、ただ黙々と這って近づくレムからは生気が一切感じ取れずにいた。

 やがて、スバルの顔が触れられる距離まで近づいたレムを、スバルはメイド服のヒラヒラした部分を口で咥えて引っ張り上げ、ボロボロとなったレムを抱擁する。

 

『──マ』

 

 恐らくはヒューマと唱えたのだろう。スバルを縛り上げていた手枷の拘束はそれによって解かれ、自由になった両手で改めてレムを抱きしめるが、その感触が生者ではなくまるで死者を思わせる冷たさだった。

 

『レム……待て、レム。待って……俺を』

 

『い、きて』

 

『────!』

 

『だ、す……きぃ……』

 

 最後まで情けない姿を晒す男に、レムは失望することなく、死ぬ直前まで愛を呟いてその命を終わらした。

 

「レム、立派な最期だったわよ。本当に友人として心から憧れるような生き様だったわ」

 

 カズマの事など、とうに記憶の片隅に追いやったアルベドは最後まで己の愛を貫き通したレムに尊敬に近しい感情を抱きながら、慈愛の笑みを浮かべて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回の伏線回収は賛否両論のうち否が多かったので、今度からはもうしません。
ですが、あれは結構作者の中では重要だったんです。
まず、伏線ありますよというアピールなのですが、気づかれないと結構シンドくて、あの決裂の兆しでターニャとか辛辣なセリフを吐いたキャラが上から目線すぎって意見が多かったので、言い訳作りみたいな感じで始めたのが1つ目の理由ですね。

あと1つが、同じく決裂の兆しの回なんですけれども、キャラ同士がスバルの醜態とかで意見が割れて喧嘩しだすんですけれども、その喧嘩の落としどころを作るのが難しくて、だから結構な期間が空いたんです。
なので、前回の伏線を回収する際に3つの布石を打たせてもらいました。

1つは、カズマが謝罪することで仲直りをするという前例作り。
2つ目は、ヒートアップしたキャラは実は部屋の効果で暴走していたという設定。
3つ目が、悪いのは全部部屋に送り込んだ存在(作者のせい)とすることで、怒りの矛先を向かわせやすくして、今後のこの小説を書きやすくしたという訳です。

長々と作者の言い訳を読んでくださり、ありがとうございます。

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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