いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
1人の少女の美しい愛が男を暗い洞窟に縛り付ける鎖から解放した。
それはなんて素敵な物語だろう。だが、人魚姫は王子を助けても声を失い最後に泡になったように、この少女もまた悲恋の運命を辿り、その命の輝きは消えてしまった。
「これからどうなんだよ?死に戻りの能力持ちのスバルに生きろだなんて……」
「レムの遺言に従うか。それとも、それを無視して死に戻りを発動させるか。本当に、酷い話だよ……」
スバルが、レムが命と引き換えに繋いだ命を、摘み取るか否か。その判断を委ねられているのだ。
彼女の善意がスバルに過酷な選択を強いている現状に、カズマとアインズは同情を禁じ得ない。
『いこう、レム』
涙が枯れ果てるまで泣き喚いたスバルは、レムを抱き上げてロズワールの屋敷へと戻る。
「うっ、ぐすっ……!」
「うわぁぁぁん!青髪のお姉ちゃんが死んじゃったぁぁぁ!!!」
この悲恋にラフタリアとフィーロが涙を零し、他の者たちも沈鬱な表情で涙目になっている。
特に、ラフタリアとフィーロは、まだ幼いが故に感受性が強い。その涙の量も人一倍だ。
そんな涙する者たちの中、精神的屈強な帝国の悪魔や、異形種集団は涙一つ零していない。
「それにしても、あのペテルギウスなる男がレムを殺したと思われる際に発した、あの言葉」
「怠惰の権能なる見えざる手ですか……。言葉通りに受け止めるのであれば、不可視の手による攻撃でしょうね。問題は見えぬことよりも、その手の数と力の2つ。あれだけではまだ権能なる力の脅威を測れませんね」
ターニャの疑問に、デミウルゴスは顎に手を当てて推測する。
アルベドとセバスの話から、あの学園にもペテルギウスは転移されている。不意の接触の際に、敵の能力を知っているというアドバンテージの重要さ。それを考えれば、あの場でスバルとレムにもっと敵の力を引き出して欲しいところであったが、今ここでそれを口に出すほど人の心が分からない両者ではない。
(特に、今のアルベドの精神状態でそれを口に出そうものなら、少々手を焼く事態になりそうですからね)
守護者統括の地位に着くアルベドの強さを知るデミウルゴスからして、下手に地雷に触れて暴走されること。なにより、それでアインズの手を煩わせる事態に陥ることを危惧していた。
『ペトラ。ミルド。リュカ。メイーナ。カイン、ダイン……』
前回のループと同じ、いや、より残酷で悪辣な惨状に化していた。
それまでレムの死に涙していた者達も、この無情過ぎる光景に涙も引っ込んだ。
「にしても、雪が降っているな」
「ああ、前回のループでのスバルの死因は凍死によるもの。ならば、この雪もパックの魔法によるものか?」
「可能性が高そうなのは確かだな。だが、何故今回は雪なんだ?前回のループとの違いといえばペテルギウスの奴と遭遇したぐらいだが、そこで大きく変化したのか?」
村人たちの死体が映る映像を見ながら、現実主義過ぎる価値観を持つ猛者3人衆はそれに映り込む雪に注目していた。
ターニャと尚文は前回のループとの相違点を探すために注視していたが、アインズは別の視点でその雪を見ていた。
(天候を変える魔法ならいくつかあるが、俺が知っている中なら
そんなアインズの不安は的外れだとでも言うように、映像の中のスバルは雪に触れながら歩いているが、凍るような気配はなく、アインズもやはり
『殺す、殺す、殺す、殺す、殺してやる……。ペテルギウス』
今のスバルのバラバラになりそうな心を繋ぎ止めるのは、狂気ではなく殺意。
それに再びカズマ達が蝕まれないか心配する周囲の者だったが、その心配とは裏腹に、カズマ達の感情は一定のところで綺麗に蓋をされたかのように静まっていく。
「さっきは飲み込まれそうになるくらい激しい殺意が湧いてきたんだが?」
「今回はそういう傾向は出ていないな」
「俺も同じだ。これはどうなっているんだ?」
今も映像ではスバルはペテルギウスへの呪詛を吐きながら、屋敷へと足を進ませている。
どう見ても、その殺意は偽物ではないようだが、では何故今回はその殺意が流れ込んでこないのか?
「ふむ、前回も考察した通り、この部屋に我々を呼んだ存在が、この上映会を観せるというのが目的であるならば、この先の展開を我々に一切の邪魔なく観て欲しいのではないのでしょうか?」
「ナルホド、ソレナラバ今回、カズマ達ガ暴走シナイ理由ニモ納得ガイク!」
デミウルゴスの言葉にコキュートスが納得の声を上げた。
コキュートスだけでない、他にも知恵者たるデミウルゴスの推察に多くの者が納得した顔をしていた(アインズは特に)。
屋敷に近付くほどに雪は多くなり、やがて屋敷の目の前に辿り着いた頃には吹雪となっていた。
そして屋敷の庭に足を踏み入れたスバルが見たのは、大量の魔女教徒の死体と共に息絶えたラムの姿だった。
『ペテルギウス──!』
「やっぱり、今回も生存者はなしってことかよ!」
「いや、注目する所はそこではない」
カズマの悔し気な声に、ターニャは冷静に指摘する。
すると、映像の中で突如として屋敷が崩壊する音が聞こえた。その音に反応してスバルもラムへと向けていた視線を屋敷に向けると、そこには屋敷を突き破って一頭の巨大な獣が存在した。
『眠れ──我が娘とともに』
その言葉と共に、スバルの体は氷像と化し、吹きすさぶ吹雪の勢いにその首はポロリと地面に転がり落ちた。
こうして、ナツキ・スバルは王都から帰還しての2度目の死を迎えた。
「今の声……」
「あれは……、パックなのか?」
「だろうな。パックは精霊だ。姿形など本人の自由に変えられるのだろう。問題は、何故にパックが巨大化しスバルを殺したのか?」
「そもそも、あれ程の力があるのならば、村を襲われて対処が遅れるというのは理解出来るが、屋敷にまで侵入されてラムが殺されるという事態に陥ることが不可思議だ?」
「なら、ここは定番のあれか?誓約やら何やらで縛り事をされているパターン。あるいは、あのパックが実は魔女教と繋がっていて……は、魔女教徒がラムの周りで死んでいる事への説明がつかないな」
一瞬、パックはロズワールを相手にしていたのではとも考えたが、それにしては周りの被害状況が軽微過ぎた。
仮に、不意を突いてロズワールの動きを封じて暗殺したならば、それはそれでラムを殺すのはパックでいい筈だ。わざわざ配下を無駄に死なせる理由はない。
そもそもの話、前回のループでスバルが死ぬ間際にいた廊下には凍死した魔女教の死体が転がっていたことから、やはりパックは魔女教の仲間ではないという証拠ではなかろうか?
「しかし、今までの映像を見る限り、パックさんはエミリアさんに非常に好意的でしたし。とても、魔女教なんかと繋がっているようには……」
「だろうな。ならば、尚文が最初に言った誓約による何らかの形での行動の阻害が現実的か。だとしても、それが何故に魔女教に働く?」
「少なくとも、現状では情報が少なすぎる。学園で全員が生きていたのを考えると、スバルが何らかの形で魔女教を撃退したのだろうし、上映を見続けるしかないだろう」
尚文の結論に、ヴィーシャとターニャは否を唱えることなく再び映像へと視線を向ける。
そこではまた果物屋の店主の目の前で目を覚ますスバルが映る。
『れむ……』
『どうしたんですか? まるで死人に会ったような顔をしていますよ。心配されなくても、レムはちゃんとここにいます。スバルくんのレムですよ』
彼女の言葉はスバルだけでなく、先のループを見た者にとってはまったく笑えない言葉だった。
「死に戻りの記憶は本人のみしか引き継がれないのはある意味メリットの筈なのだが、こうしてジョークを笑い飛ばせない状況になるのはデメリットだな」
「ああ、まったくその通りだな。だがいつか、ちゃんとジョークを笑える未来は存在するさ」
大人組であるターニャとアインズは、2人の間にある認識の違いを実感しながら、映像に意識を向ける。
『レム、俺は……』
『なあ!お熱いとこ悪いんだが、そこでいちゃつかれてると商売にならん』
しっしっ!と野良犬を追い払うように果物屋の店主に言われて、スバルはレムの手を引いてその場から去っていった。
「なぁ~~~っ!!あのおっさん、いいとこで邪魔しやがって!!」
「死んじゃったレムと生きて再び会えたんだもん!もうちょっとくらい空気読みなさいよね!!」
「いや、店主にしてみれば急にスバルがレムとイチャつき始めたようにしか見えないのだし、しょうがないのではないか?」
「そうですね。ダクネスの言う通り、急に死に戻りしたスバルの事情なんてあの怖い顔の店主が知りようがないんですから、許してあげましょうよ」
ダクネスとめぐみんの言い分に、カズマとアクアは若干の不満を残しつつもブーイングを止める。
そうして、スバルはレムの手を引いて王都を歩く映像が続く。
「それにしても、スバルさんは凄いですね。あんな死に方をした後だというのに、あんな風に笑ってられるだなんて」
「ああ、本当にな。よ~く分かるよ。ああやって笑顔の仮面をつけて平然を保てるなんざな」
「えっ?」
今もレムと一緒に楽しそうに会話するスバルの姿に、ラフタリアは心底感心した声で褒めるが、尚文はそれとは違い、その道化を演じきっているスバルの精神性にこそ褒める。
ただそれは、過去で尚文が絶望で染まった時期に、あんな風に虚勢であろうとも笑えなかった事からの、皮肉混じりの賞賛でもあった。
そして、そんな尚文の言葉が正しいのだと言わんばかりに、レムから顔を逸らして正面を見つめるスバルの顔は、先程までの笑顔を一切消して、憎悪に染まったかのような修羅の面構えに変わった。
「っ、スバルさん」
「あの黒髪のお兄ちゃん。すっごくお顔が怖いよ……」
穏やかだった顔が一変して恐ろしいまでの復讐者の顔に切り替わる様は、ラフタリアやフィーロにとって見るに耐えないものであった。
だが、そんなスバルの復讐心を理解し、共感出来る存在がこの部屋の中にはいた。
尚文は言うまでもなく、その共感できる立場の人間で、以外ではないだろうが、ターニャもまたスバルの復讐を応援する立場として観ている。
やがて、2人がクルシュの屋敷に戻ると、そこではヴィルヘルムと見知らぬ人物が話をしていた。
「こんな奴、今までで出てきたか?」
カズマが首を捻って前回と前々回のループに現れていない人物に疑問を抱くが、その答えはすぐにもたらされた。
「恐らく、スバルが出会っていないだけで、これまでの2回のループで交渉はしていたのだろう」
「ふむ、ターニャ殿の言う事は一理ありますね。わざわざ客とはいえ、敵の陣営の者に紹介する義務もないでしょうからね。それにこの屋敷の持ち主である彼女はどうにも王選候補者の中でも一番人気の人物、顔合わせの1つでもしたいと考える人物は多いでしょうし、入れ違いになるのは無理もないでしょう」
ターニャの推測に、デミウルゴスが補足を入れてその考えが正しいだろうと説明を入れる。
知恵者たる2人が言うなら、きっとその通りだと皆が納得する。
『スバル殿。なにか、下で心境の変化でもありましたか?』
『ええ? 急にどしたってんですよ。なんか変わって見えます?』
「う~ん、やっぱり見る目のある人にとっては死に戻りした後のスバルって違って見えるんだな」
「その点で言えば、カズマだったら目の前でスバルが死に戻っても普通に気づかず会話とかしそうよね」
「はっはっは、そう言うお前も女神の癖に、気づかずに酒飲んでそうだな」
「「はっはっはっはっは!!!」」
お互い笑いあった後、すぐさま相手の頬っぺたを摘まんで引っ張り合いの喧嘩が始まった。
「もう、2人とも馬鹿なことしてたら、またアルベド辺りから怒られますよ。特に、今のアルベドは──」
そこで言葉を止めためぐみんに、カズマとアクアが気になって、ふとアルベドの方に視線を送る。
「………………」
「よし、悪かったな、アクア」
「いえいえ、こちらこそ悪く言っちゃってごめんなさいね、カズマさん」
秒で仲直りを決断させる程に、カズマとアクアを睨み付けるアルベドの迫力は凄まじく、魔王軍幹部と直接戦う方がマシなレベルだと思わせる殺気が籠められていた。
互いに頬を引っ張っていた手はお互いの肩に回され、今は笑顔でいるが、2人の顔には冷や汗がダラダラと流れ出ていた。
そんな2人の様子を見ながら、アルベドはふと視線を映像に戻し、スバルの隣で大人しく立ち尽くすレムの姿を見た。
四肢が捻じ曲がってはおらず、顔色も良好で、目も虚ろではない。
そのレムの姿を見て、アルベドの中にあったスバルに対する怒りが急速に萎んでいった。
友であるレムが惚れた男だというのに、あれ程の醜態を晒しておいて、終いには生かしてもらっておきながら、結局は死んでしまったスバルにアルベドは口には出さずとも、密かに大きな殺意と怒りが渦巻いていた。
しかし、こうして映像越しであるが、元の元気な傷1つないレムの姿に、アルベドの中にあった怒りの炎は緩やかに鎮火されていったのだ。
「…………レム、私は──っ」
友の恋は応援したい。けれど、本当にあのスバルという男に惚れているレムを応援し続けるのが正解なのか、アルベドはアインズという完璧(笑)な相手に恋慕している為に、その答えが出せずに言葉を詰まらせる。
『今日の最後の訪問者が卿、というのも面白い趣向だな』
『魔女教って連中が、ロズワールの領地の襲撃を企んでる。それを叩き潰すために、クルシュさんの力が借りたい』
腹の探り合いも一切ないスバルのストレートな言葉に、皆は様々なリアクションを取った。
「やれやれ、スバルは交渉というものを知らんのか?」
「いや、下手に探り合いではただの一般人であるスバルがどうこう出来る相手ではあるまい。ならば、ここはある意味変化球なストレートをぶつける方が効果はあるんじゃないか?」
「それに、もし失敗したなら、死に戻りがあると高を括ってるんだろう」
「にしても度胸あり過ぎだろ。俺なら死ぬぐらいならもっとごますって協力を願い出るね。なんだったら、土下座することすら構わない!」
「「「いや、それはちょっと……」」」
「「「「うわぁ~……」」」」
「なんで引いてんだよ!あと、お前らも!?」
カズマのドン引き発言にアインズ達ならず、同じパーティーのアクア達までカズマのその発言に引いた態度を示している。
日本人なら土下座くらい普通にするだろうと反論したが、一瞬アインズが反応しただけで、他は?を浮かべていた。
まあ、異世界人に日本の話を振っても理解はされないだろう。あとなんか、ターニャは土下座に嫌な思い出でもあるのか、ナーベラルと同じ虫ケラを見るような目をしていた。
『どうした? 言ったはずだぞ、卿が話をする場面だと』
『いや、だから……それは言った通りで……』
『まさか、要求を突きつけただけで終わりとでも言う気か? その要求をなぜ求めるのか、要求を切り出す根拠はなんなのか。その要求に応じることで、こちらにどんなメリットがあるのか。それらを示されなければ交渉とは言えん』
あまりにも正論過ぎて、絶句するスバル。この屋敷での好意にあまりにも甘え過ぎた結果、クルシュという人物は助けを乞い願えば聞き入れてくれるかもと錯覚していたようだ。
更に、クルシュから手を貸すという事は、エミリアの王選敗退を意味すると告げられ、スバルは一瞬悩むもそれでもと助力を求める。
『──それならば、カルステン家は一切の戦力を卿には貸し出さない』
「やはり、王選候補者の中でも最も優秀と思われる人物ですね。私も、同じ立場ならあの提案は断っていたでしょう」
「だな。スバルの頭の中は少々平和過ぎる」
あまりにも幼稚な交渉の仕方に、デミウルゴスとターニャは溜息混じりにスバルの評価を更に下げる。
相手の善意を期待するような交渉は、それだけで品格に欠ける行いだ。交渉とは、如何に自身と相手との双方の利益を引き出し合うのかが問われるのだ。
あるいは、相手を騙し服従させる。これもまた交渉で求められるテクであると知っている2人からして、スバルの行動は欲しい物を買ってもらえない子供の駄々にしか見えないでいた。
いや、事実その通りなのだろう。交渉が決裂したスバルが取った行動は魔女教が如何に存在してはならないのかと叫び散らかすという、これまた交渉以前の問題だ。
「魔女教の悪辣さは映像越しで見ている俺らですら胸糞が悪くなるものだ。けど、それと同じレベルで奴らの厄介さも知っている」
「だから、無暗に助力を受けねえってクルシュって奴の言葉が正しいって言いたいのかよ」
殺意が籠ったスバルの目を見てしまった尚文の呟きに、カズマが不貞腐れた態度で嚙みつく。
それに対して尚文が反論しようと口を開きかけたその時、映像でクルシュが決定的なことを口にする。
『──卿は一度も、エミリアを助けたいと口にしていない』
その言葉はスバルだけでなく、部屋の中の時間さえも止まったのではないかと思わせる程の衝撃をもたらした。
今までスバルはエミリアを助けることだけを理由にあの苦難を乗り越え続けてきた。そんなスバルの行動がいつの間にか魔女教を殺すという理由に置き換わっていたことに、多くが絶句する程の痛みに近しい衝撃を受けたのだ。
無論、クルシュがそれを口にするまでもなく気が付いた者も部屋の中には何人もいた。それは幼女であったり、悪魔であったり、人狼であったりと情に流されない、或いは人の情を熟知する者達だ。
結果として、スバルは自分の受け入れがたい醜い心の内を知っただけで交渉は決裂という形で終わりを迎えた。
「助けて……やりてえよ。スバル……」
「それはまあ、同感だな……」
悪鬼のような顔で部屋を去るスバルの姿に、カズマと尚文は心からの同情を口にした。
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル