いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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モンハンもストーリークリアして、装備も完璧に仕上げたからようやく前みたいに本格的に執筆が進められるぜ!!!
これまでちょっぴしスパンが空いてしまって読者の皆様に深い謝罪を申し上げます。


白鯨という化け物

 クルシュの屋敷を出たスバル達は適当な宿屋の一室を借り受け、そこで今後の動きを考えている。

 

「ふむ、敵は魔女教だと考えて、怠惰がいるならば、他にも憤怒、強欲、嫉妬、暴食、色欲がいる可能性もあるな」

 

「傲慢が入ってないのは、スバルがその候補だからでいいんだよな?」

 

「無論、候補は候補。もしかしたら、あのペテルギウスの言葉は的外れで、他に傲慢を担当する魔女教大罪司教が生まれる可能性はある。だが、あの口ぶりでは現時点ではまだ存在していないのだろう」

 

 アインズの考察にカズマが相槌を打てば、アインズの補足めいた返答が返る。

 

『ラインハルトなら力を貸してくれるんじゃないのか!?』

 

『昨日、ご挨拶の折に王都にはしばらくご不在だとおっしゃっていました』

 

 とっておきとも思える切り札がない事に、スバルはどうしようもない現状に怒りをぶつける。

 

「ラインハルトがいれば、あの程度の敵なぞなんなく対処することが出来るだろうに」

 

「それが不在なのはかなり痛いですね」

 

 さらに追い込まれたスバルの現状に、ターニャとヴィーシャが苦い顔になる。

 あれほどの強さを持つ存在が不在という危機的状況に、当事者でなくとも危機感は募ろうというものだ。

 

 そして翌朝、スバルがもう1人の王選候補者であるプリシラの屋敷に足を運ぶ。客人でもない突然の訪問なぞ、早々に突き返されるかと危惧していたが、驚くほどすんなりと謁見の許可が下りた。

 アルに案内されるまま、スバル1人でプリシラのいる部屋へと通され、魔女教の討伐の助力を乞い願う。

 

『貴様の行いを笑うだけで追い返すのはさすがの妾もしのばれる。じゃから、機会を与える』

 

「うん?なんか不穏な気配がするような……」

 

「カズマも感じるか。私もなにやらあのプリシラという女から得も言われぬ気配をビンビンに感じてっ……!!」

 

 ダクネスの気色悪い声に、この先の展開がどうなるかなんとなく読めたカズマは、ひきつった表情でスバルへと同情の目を向ける。

 

『舐めろ』

 

 ほらやっぱり!と言いたげにカズマは絶句する。隣を見れば、不謹慎さと己の欲望で葛藤しているダクネスの様子が伺えた。

 

「ラフタリアお姉ちゃん!何も見えないよ!!」

 

「フィーロはまだこういうのは見ちゃいけません!!」

 

「あ、アインズ様?このまま目を瞑っていればいいんですか?」

 

「あ、あの、耳も塞がなきゃなんですか?」

 

「と、とりあえず、私が許可するまで絶対に見たり聞いたりしてはいかんぞ!!」

 

 周りを見れば、保護者に当たるクラスメイトが、まだ幼い仲間の情操教育に悪いと判断して、それぞれで配慮している。

 カズマのパーティーはそういった年頃の仲間はいないので、そういった配慮はしなくて済んでいる。

 ただ、若干怪しい年齢であるめぐみんの視界を塞ごうかともカズマは懸念したが、ダクネスという変態と常日頃から接触しているし、見た目と違ってめぐみんの精神年齢は大人びているから心配はないかと判断した。

 

『わ、わか……った』

 

『ああ、本当に貴様──つまらん男になり下がったんじゃな』

 

「あっ!!?」

 

 そう発したのは誰だったのか、スバルがプリシラの足を舐めようとした直前、プリシラの差し出した足がスバルの鼻面を蹴り飛ばした。

 そのことに怒りの声を上げようとしたカズマだったが、直後に映像に映る憤怒に燃えるプリシラの表情に言葉を止めた。

 

『貴様のそれは忠義でも忠誠心でもない。もっと薄汚い、犬のような依存と豚のような欲望じゃ。欲しがるだけの怠惰な豚め。豚の欲望がもっとも醜い』

 

「ほお、ただの我儘貴族の娘かと思いきや、腐っても王選候補者に選ばれた逸材というわけか。随分と人を……いや、人の内面を見る目を持ち合わせているようだな」

 

 今のスバルの行動理念を見抜いたプリシラの慧眼に、ターニャは若干驚いたようにプリシラへの評価を改め、ただの我儘貴族の娘という認識から上方修正する。

 

 結局、プリシラ陣営との交渉も破綻し、スバルは鼻血を拭って王都の通りをズカズカと乱暴に歩く。

 そんなスバルの元に、幼い白いローブを纏った獣人の少女が話しかけてきた。最初は初対面で随分と失礼というか、遠慮なしな少女の態度に呆気にとらわれるスバルだったが、その少女の後ろから声を掛けて来た女性にスバルはさらに困惑したような声を上げる。

 

『アナスタシア・ホーシン……』

 

「ここで彼女が出てくるか……」

 

「相手は商人だ。それも王選候補者に選ばれる存在。それが偶然王都を歩いていたら遭遇する。その確率は数字にすると一体どれくらいなんだろうな?」

 

 ターニャと尚文は、この出会いが偶然ではなく、彼女の仕掛けた計略の1つだと疑って見る。

 事実、彼女の目下最大の敵であるクルシュの動向を調べるのが目的であり、場所を変えたカフェにいた客は全て彼女の私兵団である鉄の牙の者であった。

 

「交渉の秘訣は、交渉のテーブルに着く前にどれだけ準備出来るかで決まる……か。ぷにっと萌えさんと同じ考え方の軍師……いや、商人か。味方であるならば頼もしいが、敵にしたらこれ程恐ろしい相手もいないな」

 

 かつてのギルメンと同じタイプのアナスタシアに、アインズは内心でその脅威度を上げる。

 勿論、敵対しないことが一番なのだが、こうした訳の分からない状況にさせられている現状で、なんであろうと警戒心を持つことは必要であると考える。

 

 その後、レムとも合流を果たしたスバルだが、結果は騎士団の助力も得られないという報告のみだった。

 こうなった以上、魔女教の討伐は諦めて、魔女教からエミリアとラムだけでも避難させると決断する。

 その道中でオットーと出会い、互いの情報を交換する場を設けた。

 

「これは渡りに船というやつか」

 

「あの竜車一台だけでは、エミリアとラムぐらいしか乗せて走れなかっただろうからな。それにエミリアなら事情を話せば村の住人を置いて自分だけ逃げられないと言い出しかねん」

 

「だが、もしここでオットーら商人連中の協力を得ることが出来たなら、上手くいけば村の住人全員を乗せて避難することが可能になるだろう」

 

 戦うという選択から、逃走するという選択へ切り替えた瞬間に、こうして幸運が舞い降りてきたことで、これが正解のルートなのではと誰もが思った。

 結果は、商人達の買収に成功。これならば魔女教の動き次第ではあるが、エミリア達を全員連れて逃げ出すことも不可能ではなくなった。

 

 しかしそれはフリューゲルの大樹が見えるまでの間だった。

 

『あれ、さっきまで右側走ってたバンダナのおっさんはどこいった?』

 

『なにを言ってるんですか、ナツキさん。僕の反対側なんて、誰も走ってませんでしたよ』

 

 オットーのその返答に、不気味で薄ら寒い悪寒が走った。

 

「は?いやだって、確かにスバルを挟んで2台の竜車が走ってた筈だぞ!?」

 

「……霧が出てきたな」

 

 カズマがオットーの返答に困惑していると、アインズが霧が出てきたことに気付く。

 何故いきなり霧が?と疑問を抱くと、そこで最初のループでクルシュが白鯨の出没の話をしていたことを思い出す。

 

 その直後、動物の鳴き声のようなものが聞こえたスバルが持っていた携帯で辺りを照らす。

 すると、そこにはギョロッと巨大な生き物の目がスバルを見つめていた。

 そして、突如として目の前に謎の巨大生物が現れたことに、スバルが恐怖心で悲鳴を上げると、それに反応して謎の巨大生物が咆哮と共に大量の霧を生み出した。

 

「な、なんだよアレ?」

 

「恐らく、アレが最初のループでクルシュが言っていた白鯨とやらだろう」

 

 謎の巨大生物の出現にカズマが驚いたように困惑の声を上げると、それにアインズが推測を語る。

 そんな中、暴風に晒されて、洗濯機に入れられた衣服のように宙で振り回されるスバルをレムが首を掴んで助けに入る。

 

『な、なにがあったんだ!? いったい、こいつは……』

 

『わからないんですか!?夜霧が出ています! 霧を伴って、あんな巨体で空を泳ぐ存在だなんてひとつしかない!──白鯨です!!』

 

 アインズの推測通り、オットーの口から白鯨だと告げられる。

 

「暗くてよく分かんねえけど、かなりの大きさだな。本物の海の鯨くらいか?」

 

「それが宙を飛んで泳ぐなぞ、まさにファンタジーだな。しかし──」

 

「その程度の脅威に、この世界の者達が手をこまねいているのはおかしいといったところか?」

 

「確かに、あの巨体は中々に脅威ではあるが、加護や魔法が存在するあの世界でなら、多少厄介な魔獣程度でしかないだろう」

 

 カズマの感想にターニャはそう返し、尚文とアインズも同様の疑問を抱いた。

 だが、それと同時に、見逃せない点があるのも理解している。

 それは白鯨が何処から現れたという点だ。あれ程の巨体ならば、例え空に浮かんでいたとしても視界に入る筈。だというのに、襲撃されるまでその姿が一切目撃されなかった。

 

「まさか、瞬間移動の能力。あるいは攻撃するまで姿や気配を隠す能力でも持っていた?」

 

「ありえるな。白鯨が現れると同時に出現する霧という点から考えるに、どちらかの能力でもある可能性、またはその両方を持ち合わせている可能性も高そうだ」

 

 アインズの推測に、ターニャが補足するように頷く。

 もしそうであるのならば、この世界の人間が白鯨に手をこまねいている現状も納得が出来る。

 出現地点が予測不能の魔獣など、遭遇するのに運任せでしかないのならば、騎士団を投入することも出来ないだろう。

 

『レムが大地に降り、迎撃します。その間に、スバルくんはこの方と一緒に霧を離脱してください』

 

『お前……レム、お前、生きて戻るつもりがねぇってことじゃねぇのか!?』

 

 悲愴な表情で覚悟を決めたレムの顔に、スバルが縋りつくように行かせまいと繋ぎ止める。

 

「お前は──、どうしてレムの意思を!!」

 

 自分の命を賭してまでスバルを助けたいとレムの覚悟を踏みにじるような行いをするスバルにアルベドは怒りを再燃させる。

 勿論、それがレムへの愛ゆえのものならばまだ我慢は出来たかもしれない。しかし、今ああしてスバルがレムを引き留めているのはレムへの想いからではなく、今の自分が持っている唯一の存在が消えてしまう事からくる恐怖心によるものだ。

 そのことが、アルベドにスバルへの怒りを燃え上がらせる。もし目の前に自分がいたならば、その怒りの感情をそのままスバルにぶつけていただろう。

 

『大丈夫です。レムはずっと、スバルくんの後ろにいますから』

 

「……はぁ~」

 

 いや違った。きっとあの場にいてもアルベドはスバルには手を出したりはしない。

 そうすれば、どんな事情があろうともレムが傷付き悲しんでしまうから。こんなダメ男に惚れてしまっているレムの言葉を聞き、アルベドはため息と共に怒りを吐き出す。

 

 レムに首筋を打ち付けられ、意識が遠のいて気絶するスバル。

 どれくらい気絶していたのか、映像は即座にスバルが目覚める直前に切り替わったのでその経過時間は分からない。

 しかし、目覚めたスバルの視界に映るのはオットーのみで、レムの姿はどこにもなかった。

 

「まだ竜車が走っているということは、それ程時間が経過した訳ではなさそうだが……」

 

「問題は、白鯨から逃げ延びれているのかどうか。もし逃げ延びれていなければレムの犬死……おっと、これ以上は藪蛇になりそうですね」

 

 アインズの言に、デミウルゴスは辛辣な言葉を口に仕掛けるが、レムの死を望んでいないアルベドからの猛烈な殺意を察知して口を噤んだ。

 

『答えろ、オットー。レムは、どうした……!』

 

『僕らの竜車を逃がすために……白鯨を迎え撃ちに降りました』

 

『戻れっつってんだよ。レムを、レムを助けるんだ。今すぐに戻れ!』

 

「クソッたれ!魔女教だけじゃなく、白鯨とかいう化け物までスバルの敵になんのかよ!?」

 

 戦うという選択肢もダメ、逃げるという選択肢もこれで潰された。

 一体どこまでスバルを死に追い詰めれば気が済むんだと言いたげに、カズマはスクリーンを睨み付ける。

 

『白鯨がどれほど恐ろしいか、目にしてもまだわからないんですか! 何十年も世界に君臨し、奴を殺そうって活動は何度もあった! それでもまだ殺されていないことが、奴の強さの証です!』

 

 オットーの口から語られる脅威に、白鯨という魔獣の脅威をイマイチ測りかねていたアインズ、ターニャ、尚文は耳を傾ける。

 

『わかりきったことだってあるんですよ! ルグニカ王国が編成した討伐隊が……先代の剣聖すら殺した化け物に、勝てる存在なんてあるわけがない……ッ!』

 

 先代の剣聖すら殺した。この一文に3人は驚愕を受ける。ラインハルトというチート存在と同等の強さを持っていたのかどうかは不明だが、それでも剣聖であるならば、自分達の世界でも十分な強者であると理解できる。

 そんな存在が単独ではなく、騎士団を伴って討伐に赴いたというのに、それに失敗して命を堕とした。

 それが事実だとするのならば、白鯨はその巨体や霧を生み出す能力だけならず、初見殺しあるいは攻略不能に近しい能力を持っている可能性すら上がってくる。

 

『今は幸いにも逃げ切った筈ですが、霧を抜けるまではいつどこで出くわす分かりません』

 

『オットー!言い方に気をつけろよ!!』

 

 オットーの口ぶりはまるでレムの犠牲を無かったかのうように感じられ、そのことにスバルだけならず、聞いていたアルベドも口にはしなくとも、その表情から憤怒に燃えていることがハッキリと分かる。

 スバルはレムの想い人故に手は出ないだろうが、オットーはただの商人というだけの存在。もし学園に戻ってオットーに出会ったのなら、アルベドは一切の容赦なくオットーに危害を加えるだろう。

 しかし、それはオットーの次の一言でかき消える。

 

『レムって、誰のことです?』

 

『──は?』

 

 その言葉にスバルだけでなく、カズマを筆頭に多くが間抜けな声を上げた。

 

『いえ、ですからレムっていうのは? 散った他の商人にもそんな名前の人はいませんでしたし……誰のお話をしてるんですか?』

 

 己の命を賭してまで自分達を白鯨から逃がしてくれた少女を忘れる。その事に思わず拳を握って怒りのままに立ち上がろうとするカズマだったが、それ以上にアルベドの反応が恐ろしく、怒りは引っ込んで恐る恐る後ろの方の席に座るアルベドをチラ見する。

 

「あれ?」

 

 そこには意外にも、先程までの怒りの形相であったアルベドの姿はなく、アインズの陣営の全員が神妙な顔でスクリーンをジッと見ていた。

 てっきり、アクアを怒鳴り散らす時みたいに暴れるのではと危惧していた為に、拍子抜けというかなんというか。

 

「どう思う、お前たち?」

 

「そうですね。仮にオットーなる人物が脳に障害を患っており、記憶障害持ちでないとするのならば、白鯨の能力によるものと考えられるでしょうね」

 

「最初ニ消エタ人間ノ事モ、オットーガ忘レテイタノモ、白鯨ノスキルカナニカダトイウ事カ?」

 

「だとしたら、それってかなり強力な力じゃない?」

 

「お、思い出どころか、存在ごと消されるって、マズイんじゃないでしょうか!?」

 

 アインズの問いに、デミウルゴスは何らかの能力であると冷静に分析し、コキュートスもそれに納得する。それに対して慌てた反応をするのはアウラとマーレ。

 無論、アインズもまたデミウルゴスの推察に危機感を覚える。

 

(つまり、白鯨は何らかの方法を使ってレムの存在ごと消した?しかし、だったら何故スバルの記憶からは消えていない。スバルが異世界人だからか?いや、問題はそこじゃない)

 

 そう、もし仮にナザリックが白鯨と戦闘になったとしたら、その能力でNPCの誰かの存在を消されてしまう。それが一番厄介な事だ。

 殺されたのならばまだ蘇生アイテムや魔法で復活させることが可能となる。だが、存在を消されて忘れ去ってしまえば、そもそも復活させようという選択肢も取れなくなってしまう。

 それがアインズにとって最も恐ろしい事態だった。

 

(仮に、白鯨の能力を無理矢理にユグドラシルに当てはめるのならば、それはスキルや魔法を超えたアカウント削除に等しい。それが可能だったのは、俺の知る中でワールドアイテムであるロンギヌスの槍ぐらいの筈だ)

 

 もしそうだとするのならば、白鯨はワールドエネミー級のとんでもない強敵ということになる。

 なるほど、確かにそれならば、先代の剣聖も敵わなかったという話にも納得がいくというものだ。

 

「しかし、疑問があるな?」

 

「ええ、対象の存在を消し去るという能力は確かに厄介なものです。剣聖であろうとも知らずに戦えば抵抗することなくやられる可能性もあるでしょう」

 

「しかし、だとするのならば、先代の剣聖がいたという記憶が残っているのはおかしい」

 

「ナラバ、白鯨ハ存在ヲ消シ去ルトイウ能力ノ他ニモ、マダナニカ切リ札ヲ持ッテイルトイウコトカ?」

 

 アインズ陣営の考察を聞く他のメンバー達も、白鯨の恐ろしさに固唾を飲んだ。

 もしもそんな化け物が自分達の世界に現れたのならと、皆が想像を膨らませる。

 そして、それはアインズもまた例外ではなかった。

 

(……もしも、そんな化け物がナザリックに攻めてきたら?)

 

 そう考えた瞬間、アインズは言いようのない不安に襲われたのだ。

 白鯨の能力は強大で、その脅威度はワールドエネミー級と判断せざるを得ない。

 無論、ギミックだけが強力なギミックボスかもしれないが、そのギミックが初見殺し過ぎる点で楽観視することは出来ない。

 

 故に、アインズは想定する。

 もし仮に、白鯨がナザリックに現れた場合。自動ポップするアンデッドで様子見し、敵の能力を曝け出す。

 敵が魔獣であるのならば、策に嵌めやすいことも考慮して、初手で超位魔法を発動して先手を取るという選択肢もある。

 他にも幾つもの策が思い浮かぶが、先代の剣聖を殺したという情報がどの策を取っても不足に感じてしまう。

 

(白鯨の存在消滅の力。そして、先代の剣聖を殺した謎の能力か……)

 

 もしもをターニャは考えた。もしその力を逆に利用できたのならばと。

 もしそれがこの先の映像で知ることができたのならば、協商連合や共和国との戦争を一気に終わらせることが可能であると同時に、忌々しき神を自称する存在Xすら葬り去れるとっておきの切り札になりえるだろう。

 

(白鯨の持つ消滅の力。もしそれを盾に取り込ませることが出来たのなら……)

 

 だから、尚文は想像する。白鯨の素材を盾に吸わせることが出来たならどれ程強力な盾が開放されるのかと。

 聞けば聞くほどに厄介な能力だが、その力があれば攻撃力で劣る盾でもたった1人で波の侵攻をも防げるだろう。

 そんな危ない思考に走りかけたが、隣に座るラフタリアとフィーロを見てその考えは消えた。

 かつての自分だったのなら、どんな手を使ってでも白鯨の討伐に乗り出たかもしれないが、今は違う。

 ラフタリアが、フィーロが、共に命を預けあえるといった大切な仲間達がいる。

 

(白鯨とか、絶対に勝てない系の負けイベのボスだろ!?)

 

 ただ1人、カズマは考えることを放棄した。

 これまで戦った魔王軍幹部やデストロイヤーなどは運が良かったから倒せた。

 もう一度同じ事をしてみせろと言われれば、首を振って断るカズマに白鯨と戦闘するという意思はなかった。

 

『嫌だ……死にたく、ない……』

 

 長々と白鯨の力の考察に時間を割いている間に、白鯨がスバルを追っていると理解したオットーが竜車からスバルを突き落とした。

 全速力で走る竜車から突き落とされたのだ。ただの一般人であるスバルにとって、その衝撃は計り知れない。

 当然のことながら、映像の中のスバルは見るからに大怪我を負った様子で、更にはそのすぐ横に薄暗いながらも、白鯨の姿がしっかりと映し出されていた。

 

「あれが白鯨か!?」

 

「我々の居た世界であの巨体クラスのモンスターはザイトルクワエぐらいでしたが、能力も併せ持って考えると、推定Lvは90台あるいはそれを凌駕しているかもしれませんね」

 

 アインズの驚愕に、デミウルゴスが冷静にザイトルクワエと比較して白鯨の推定レベルを割り出す。

 

「で、でけぇ……。マジでデストロイヤーぐらいの大きさなんじゃねえか?」

 

「わ……我が爆裂魔法ならば、どれ程の巨体であろうとも、粉々に粉砕してくれますよ!」

 

 カズマが知る最もデカイ相手と比較しても遜色のない白鯨の大きさに顔を引きつらせ、めぐみんは震えながらも自身の爆裂魔法で打ち倒せると豪語する。

 

「なるほど、あの巨体に厄介な能力が合わさったら、確かに剣聖も倒せるかもな」

 

「あんな大きさ、私達の世界の霊亀に匹敵しますね。それに消滅の力を持っているだなんて。もしこんなのが私達の世界に来たりなんかしたら……」

 

 全貌の露わになった白鯨の巨体を見て、尚文は消滅の力や他にもあるであろう能力を合わせれば剣聖も倒せるというアインズの考察に納得する。

 そして、ラフタリアは自分達の世界にいたメルロマルクをも潰しかけた霊亀よりも厄介であろう白鯨に恐怖していた。

 

「皆さん、あんな凄い大きさの化け物と戦った経験があるんですね」

 

「セレブリャコーフ中尉。こんな言葉がある。よそはよそ、うちはうちだ。魔獣やらモンスターやらと戦っている連中と比べるものではない」

 

 そんな呑気な感想を述べるヴィーシャにターニャはつっけんどんに答える。

 まあ、他と比べて自分達の世界に白鯨と比べられるような存在がいないからなのだろうが、それでももう少しマシな感想は無かったのかと思わずにはいられなかった。

 

 そんな馬鹿なやり取りの間に、白鯨の息に吹き飛ばされたスバルが不恰好な走りで必死に殺されまいと白鯨から逃げている。

 

『いやだ……死にたくない……助け……死にたく、ない! 死にたくない、死にたくない死にたくない……嫌だ嫌だ嫌だあ……助けて、レム、助けて……』

 

 聞くだけで心が擦り減ってしまいそうになる悲鳴を上げるスバルを直視したくなかったからこそ、ヴィーシャは現実逃避として吞気な感想を口走ったのかもしれない。

 

 しかし、映像は止まることなく泣き喚き、弱音を吐いて地面を転がるスバルを映し続ける。

 ここまでスバルの醜態や悲惨っぷりを見て耐性があるとはいえ、良心を持つ者にとってはかなり辛い映像だ。

 誰しもが、このままスバルが白鯨に飲み込まれる。あるいはその巨体で叩き潰されるのだろうと覚悟していた。

 

『……え』

 

 だが、幸運にか、目を閉じたスバルを白鯨は殺さずに見逃した。

 瞼を開けて見上げる空には霧などなく、綺麗な月がその上空に浮かんでいた。

 

「これはどういうことだ?スバルは魔獣を引き寄せる体質の筈だ。だというのに、殺されずに見逃された?」

 

「これについて、アウラはどう思うのかね?是非とも、ビーストテイマーである君の意見を聞かせて欲しいね」

 

「う~ん、私もスバルの世界の魔獣の生態なんて知らないから断言出来ないけど、あの世界の魔獣は魔女によって作られた生き物な訳でしょ。だから、あの状態のスバルが白鯨の人を襲う条件から外れたっていうのが、今の段階での私の見解かな」

 

 スバルが白鯨に殺されなかったことに対するアインズとデミウルゴスの疑問。それに対して、アウラなりの考察を述べると、それを聞いていた者達全員が納得する。

 勿論、完全に納得したわけではないが、それでも現状の状況から読み取れる情報からして、その説が一番有効的であった。

 

『レム……レム……!許してくれ……』

 

 幽鬼のような足どりでメイザース領へ向かうスバル。その姿はまるで刑を受けた罪人のようであり、彼が罪人ではない事を知っている者にとって、その姿は実に痛ましくも悲しいものであった。

 スバルが何をした?王都でのやらかしが彼をここまで追い詰める程の罪であったのかと、カズマ達は思う。

 

 やがて、そんなふらついた足どりで進むスバルの前に一台の竜車が現れる。

 それは見間違えるはずもない、つい先程までスバルが乗っていた竜車だった。

 

『なんで、お前が……あいつは、オットーは?』

 

 そんなスバルの疑問に地竜は答えず、されど竜車に突き刺さった見覚えのある短剣と血の痕跡から、オットーがどうなったのかは想像に容易い。

 その事について、誰もざまぁだなんて思いはしなかった。突き落とされた本人である筈のスバルでさえ、その胸中には怒りではなく、空っぽな諦観のような感情だけが支配していた。

 

『……行こう』

 

 その言葉に、地竜はスバルを一瞥した後に、ゆっくりと竜車を引いてメイザース領へと進み出した。

 

 

 




前回の感想がワースト2やったから地味にショック!感想を送ってくれるは凄く嬉しいので、どんどん送ってきてほしい。

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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