いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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久方ぶりの1日に連続投稿デス!感想を送ってエネルギーをくれた皆さんに感謝!!!


死に戻りのもう一つのペナルティ

 

 傷だらけになりながら、ゆっくりと竜車を操縦して進むスバルの映像を前に、カズマがなんとなしに口を開く。

 

「これ、スバルが戦おうが逃げようが、どっちにしても詰んでるだろ。……これ、もう無理なんじゃねぇのか?」

 

 それは部屋にいる者達の、半ば共通した意見だった。誰もがカズマの言に口を噤む。

 

 いや、知恵者であるデミウルゴスならばこの危機的状況をも覆す策は考えついているだろう。しかし、それは悪魔のような策であり、犠牲を前提とした策であることは間違いない。

 ならば、ターニャはどうか?いや、現実主義者である彼女もまた、その思想は悪魔寄りであり、エミリアという1を拾う為に他人という9を切り捨てるような、そんな合理的な判断からくるような策を提示するだろう。

 

『森……?』

 

『──あれ、スバル?』

 

 今回の王都でのループで散々酷い殺され方で死体になった子供達が姿を見せた。

 それに安堵の息を吐いたのはスバルだけではなかった。映像越しとはいえ、何の罪もない子供が死なずに済んでいる。この事実に善性のある者らは安堵する。

 

 張り詰めていたものが緩んだのだろう。怪我と疲れと精神的なショックを抱えたスバルはそのまま意識を落とした。

 一瞬だけスクリーンが暗転し、次に映し出されたのは屋敷でのループで散々見たベッドの上から見える光景だった。

 恐らく、気絶したスバルを村の子供達が屋敷まで連れていって引き渡したのだろう。

 

『──あ』

 

 寝起きのスバルに映ったのは隣で本を読んでいるレムの姿。

 

『レム──!』

 

『──なにを、気安く触っているの、バルス』

 

 否、違った。そこに座って本を読んでいたのはレムの双子の姉のラムであった。

 

「レムじゃねえのか……」

 

「カズマ……。気持ちは……分かります……」

 

 一瞬だけ映った青髪のレムの姿に、実は生きていたのかと驚いたカズマだったが、それがスバルの見間違えだと分かって気落ちしたような声を出す。

 その声にめぐみんが、カズマの気持ちを慮って同情する。

 

『俺の、傷を治してくれたのって……』

 

『エミリア様よ』

 

「王都での喧嘩別れの後だってのに。まあ、エミリアなら傷付いた野郎を放っておく性格ではないからな」

 

「しかし、これはスバルにとって耳に痛い情報だな。最初のループでは問題を自分で解決して円満に仲直りするという筋書きまで立てていたというのに、結局は厄介事をそのままに、面倒だけを掛けてしまっているのだからな」

 

 スバルの落ち込みに尚文とターニャが同情めいた声を上げる。

 まあ、自業自得の面があるとはいえ、ここまでの道中でスバルがエミリアの為に奔走したことは事実。それが自身の過ちを帳消しにする為の自己愛によるものとはいえ、スバルが体を張って走り抜けてきたのは事実だ。

 それを思えば、両者共にスバルへの同情の念ぐらいは湧くというもの。

 

 それを知らないラムは、現状からエミリアにスバルが馬鹿な真似をやらかしたとまるで見ていたかのように見当をつけ、いつまでもウジウジしているスバルに辛辣な言葉を投げかける。

 

『相応の評価だと思うけど? 少なくとも、切り出しづらい話に踏み出す勇気がなくて、違う話題にこれ幸いに食いついて先延ばしするようなヘタレには』

 

『──レムが、死んだ』

 

 ラムに図星を指されてしまい、その上に彼女の優しく厳しい心遣いを受けて、スバルは素直に自身の心の傷を吐露した。

 そこからポツポツと涙を流しながら、この屋敷に辿り着くまで何が起きたのかを嗚咽まじりの言葉で勢いのまま語る。

 そんないたずらがバレた子供の酷い言い訳のような語りかけにラムが待ったをかける。

 

『バルス。──レムって、誰のこと?』

 

『あ、え、お……は?』

 

「あ~、そうか。まだスバルは白鯨の消滅の力を認識──いや、理解していないのだったな」

 

 映像越しという観測者視点から見ていた自分達は冷静にあの惨状の中で何が起きたのか理解出来ていたが、当事者であるスバルにとっては何が起きたのか理解していない事をアインズは今更ながらに思い出す。

 

『うるせぇ! 黙って……黙って見てろ!』

 

 レムが死んだとき、あの場で誰よりも怒り狂い、今の自分なんかよりもよっぽど泣き散らかしていた筈のラムがレムの存在を忘れている。

 その事実に、スバルは腸が煮えくり返ったような気分で論より証拠とばかしに、レムの部屋へとふらつく体を必死に立たせながら向かった。

 レムが存在していたという痕跡を見せれば、きっと自分の言葉を信じてくれる。そう思って開けたレムの部屋には──。

 

『……嘘、だろ』

 

 レムの部屋には彼女の私物などどこにも存在せず、無個性の塊のような内装の部屋に成り代わっていた。

 

「まさか、レムという存在の記憶だけでなく、その痕跡すらも跡形もなく消えてしまうというのか!?」

 

 記憶だけでなく痕跡の抹消すら叶えてしまう白鯨の恐ろしさに、アインズは心底恐怖した。

 彼の中で優先順位は仲間達が残したNPCが一番であり、その次に自分が置かれる。だが、もし自分がNPCを庇うようなことがあって存在を消されたらどうなるか。自分はナザリック唯一のプレイヤー、それが最初から存在しなければ連鎖的にNPCも存在しないことになるのではないか。

 そんな言いようのない不安を胸に抱えながらも、アインズは映像を注視する。

 

 そして、そんなアインズとはまた別の可能性に気付いたカズマが叫ぶ。

 

「えっ、おい待てよ!?まさか、記憶だけじゃなくて、過去まで塗り替えられるってんなら、死に戻りしても下手すりゃレムは──」

 

「落ち着きなさい、佐藤カズマ。学園にはレムも一緒に飛ばされてきた。なら、死に戻りで彼女が消滅する前の世界にスバルは戻れたという何よりの証拠でしょ。少しは考えたらどうなの」

 

「あっ、そ、そうか……。いや、悪い。嫌なこと考えさせちまって」

 

 罵倒のように自身の間違いを正すアルベドに怒りを覚えかけるも、レムが消えていなくなる。そんな考えたくもない可能性を考えてしまったであろうアルベドの顔を見て、カズマはバツの悪い顔を浮かべて謝罪する。

 

『逃げて……どうなる……』

 

 魔女教の襲来、白鯨との遭遇、3度に渡るレムの死亡。ただの一般人であるスバルが折れるには充分な材料だ。

 それでも、この屋敷に辿り着く前に己の命すらも投げ捨てて戦ったレムの事を思い出してスバルは踏みとどまる。

 

 自室に向かおうとしていた足を引き、その逆方向であるエミリアの私室に向かって歩を進める。

 

「行くんだな、スバル」

 

「上手くいくんでしょうか、尚文様?」

 

「正直、レムが死んでしまった以上、死に戻りは確定事項だ。けれど、この再会でスバルが立ち直るようなきっかけさえ掴めれば次のループであるいは……」

 

 固唾を飲んで見守る中、スバルは遂にエミリアの私室のドアノブに手をかける。

 

『勇気を、貸してくれ、レム──』

 

『──スバル?』

 

 そこから先のスバルは支離滅裂で、事情を知っている部屋の皆の目から見ても錯乱している風にしか見えなかった。

 事情も言わず、理由も語らず、ただ黙って従うなんてありえないのに……。

 癇癪を起こして喚き散らす子供のようなスバルに、エミリアは怒りも恨み言もぶつけず、その瞳に映る泣いているスバルの心配をする。

 

「本当に……、エミリア殿はお優しい御方ですね」

 

「……セバス様、泣いてる?」

 

 彼女の優しさを直視したセバスが感慨深げに漏らした一言と雰囲気から、シズが泣いているのかと疑問を投げかける。

 だが、セバスはそんなシズの疑念を否定するように首を左右に振った。

 

「勘違いさせて申し訳ありません、シズ。ですが、心配してくださってありがとうございます」

 

「ん……。セバス様が泣いていたらハンカチをお貸ししようと思ってました」

 

 前に泣いたネイアにしたみたいにと心の中で付け足して、シズは姿勢を正して再びスクリーンに視線を戻す。

 

『──いいさ、全部、話してやる』

 

 エミリアすらもレムの存在を忘れてしまったという事実に限界を迎えたスバルが死に戻りのペナルティを──死を覚悟した。

 

「まさか、言うつもりなのか、スバル!?」

 

「……だが、死に戻りを喋れば殺される。そう確定した訳ではない。何故喋ろうとすれば警告として心臓を掴まれるのかは謎だが、死に戻りを与えるような存在がわざわざスバルを殺すのも可笑しな話だからな」

 

「確かに、アインズ君の言う通りだ。だが、警告を無視しての行為にどういった反応を見せるのか、そこが疑問だな」

 

 なんにせよ、答えはすぐ出ると全員がスクリーンに注視してスバルの行動を見守る。

 

『エミリア。俺は、未来を見てきた。知ってるんだ。どうしてかっていうと、俺は……俺は『死に戻』

 

 屋敷でのループの際に見た停滞した白黒の世界に映像が移り変わった。そして現れるあの黒い手がスバルの心臓に伸びていき、そして──。

 

「あれ?心臓を握らねえのか──?」

 

 そんな拍子抜けした展開にカズマが疑問を抱いた。

 やはり、アインズの言った通り、あの黒い手はスバルを殺す気はなかったということかと納得すると、映像の中でエミリアがスバルに寄りかかる。

 最初はまたラブコメが始まるのかとカズマは考えたが、次に映し出される血を見てそうではないと動揺した。

 

「え?あの血って、なんでエミリアが血を吐いて!?」

 

「これは……、左手の仕業か」

 

「左手……?なんだよ、それ?はぁ──!?」

 

「落ち着け、カズマ。まあ、無理もないだろうが、ターニャの言った左手とはその言葉通りだ。先の黒い手は2本出現した。そして、スバルの心臓に触れたのは右手だけ、なら残りの左手はどこにいった?」

 

「まさか!?それがエミリアの心臓を潰したって言うのかよ!?スバルを──殺せないから?」

 

「警告を無視した代償が、秘密を聞いた者の抹消か。とことん悪趣味、いや悪辣で慎重ともいえるな」

 

 まさかの事態に、カズマは困惑を(あら)わにする。そんなカズマにターニャとアインズが冷静に今の出来事について解説を入れる。

 それを聞いて怒りを燃やしたのはカズマではなく尚文。当のカズマは未だに死んだエミリアを抱きかかえて泣き叫ぶスバルを放心状態で見つめている。

 

「なんで……、スバルはただエミリアを……」

 

 救おうとしていただけなのに。そう口にしようとするカズマだが、現実はスバルがエミリアを自分の我儘で殺してしまったという今の状況。

 いや、あれを我儘なんて言っていい訳がない。自分を救おうとして命を投げ捨ててまで白鯨に立ち向かったレムを忘れてしまったエミリアに事実を話す。死の恐怖さえ覚悟したスバルに一体どんな落ち度があるというのか。

 それでも、今の現状はスバルの軽率な行動でエミリアを死に追いやった。

 

『──まるで、自分が世界で一番不幸だ。とでも言いたげな顔なのよ』

 

『べあとりす……』

 

「べ、ベアトリスちゃん……!」

 

「ほぉ、ここで彼女の登場ですか。そういえば彼女も外見は人間ですが、その中身は精霊。だとすれば、ふふふ……」

 

 ここで何かを察したような雰囲気のデミウルゴス。一体何を察したのか聞いてみたい気がするが、それ以上に今のデミウルゴスに話しかけずらい雰囲気が漂っている。

 これには思わずアインズも、お前が理解したことを皆に話すがよい!という伝家の宝刀を切るタイミングを失ってしまう。

 

『──なにか、言いたいことはあるかしら』

 

『ころしてくれ』

 

 愉快そうに嗤うデミウルゴスをそのままに、映像は次へ次へと進んでいく。

 今回のループを完全に諦めて、スバルはベアトリスに自身を殺してくれるように懇願する。

 それは仕方のない。どうしようもないことだと皆が理解している筈なのに、カズマの脳裏には白鯨から死にたくないと漏らしながら逃げるスバルの姿がチラついてならなかった。

 

「うぐぅ……!ス……バル……!!」

 

 先程まで放心状態だったカズマは、スバルが自ら死にたいと言葉にしたのをきっかけに、その胸中に溜まった感情が涙となって零れ落ちる。

 そしてそれはカズマだけでなく、隣に座るアクアもまたスバルの悲惨な現状に涙と鼻水を垂れ流している。

 

『ベティーにお前を殺せだなんて……そんなの、残酷すぎるのよ……』

 

「ふむ、残酷ですか……。これはまだ何か隠している意図がありそうですね。ベアトリスにロズワール先生、両者の隠している秘密は共通、あるいは……」

 

 悪魔的に面白い展開の数々に、デミウルゴスは普段の冷静沈着っぷりの仮面が剝がれて、ウキウキとした様子で推理小説を楽しむかのように、脳内で謎を解き明かしにかかる。

 

『せめて、ベティーの見えないところで死んでほしいのよ』

 

「これは、ゲート?転位系の魔法か」

 

 ベアトリスが空間に歪みのようなものを作りだしたのを見て、アインズが即座にその魔法が転移のものだと見抜く。

 事実、その歪みに飲み込まれたスバルとエミリアは屋敷ではない森の中に放り棄てられた。

 地面に投げ捨てられるように転がったエミリアを抱きかかえたスバルは、己がどうしようもない程に疫病神であることを認識して、真っ暗闇な夜空に叫んだ。

 

『誰か……誰でも、いい……。──殺してくれぇぇぇ!!!』

 

 その願いを叶えるかのように、森の中から散々憎んでいた筈の魔女教がずらりと姿を現す。

 更にその奥から自分が心から憎んでいたであろう筈の男、ペテルギウス・ロマネコンティがスバルの前に姿を見せる。

 

『お待ちしておりましたデス。寵愛の信徒よ』

 

「出やがったか……。大罪司教怠惰の男、ペテルギウス!」

 

「あの怠惰怠惰とうるさい男か。確かに、あの狂人ならばスバルを殺すのもわけないだろ。だが、それで本当に大丈夫なのかナツキ・スバル?」

 

 ペテルギウスの登場に、尚文とターニャが反応する。

 まごうことなき狂人の出現に、2人は怒りと侮蔑の感情を見せる。

 

『なんと、ワタシたちの試練を受けるより前に命を落とすとは……なんたる悲運! なんたる非業! あぁ! そしてそしてそして……アナタはなんと勤勉なることか! 我々が動くより前に! 半魔の身を! 命を! 奪ってくれているとは!』

 

『俺が……勤勉……?』

 

「っ!そんな奴の言うことに耳を貸すな、スバル!!」

 

 今のスバルは精神的に危うい存在。下手をすれば闇落ちする可能性すらある。それに思い至ったカズマがこの声が映像の中のスバルに届かぬと分かっていてもなお叫ばずにはいられなかった。

 

 だが、そんなカズマの心配は杞憂に終わる。ペテルギウスがスバルの腕の中で死んでいるエミリアを侮辱した。

 

『──ああ、アナタ、『怠惰』デスね!』

 

『────』

 

「っ!?あの黒い手は!!?」

 

「なるほど、魔女教。であるならば、あの魔女の手ともいえるシロモノを扱える力を持っていても不思議ではないか」

 

 ペテルギウスが出した黒い手にアインズが驚く。それに続いて、ターニャは魔女教であるならば、魔女ゆかりの能力を使用出来てもおかしくはないと納得する。

 

「あれが……!レムを殺した手ぇ!!!」

 

 2回目のループでは見えなかった黒い手を視認したアルベドが、その髪を逆立せている。

 きっと彼女の脳内ではペテルギウスごとあの黒い手を滅茶苦茶に叩き潰していることだろう。

 

『……アナタ、今、見えざる手を見ていませんデスか?』

 

 本来は見えるはずのない手に反応して避けたスバルに、驚愕した表情で尋ねるペテルギウスに尚文はほくそ笑む。

 

「なんで今見えるようになったのか分からないが、少なくともあいつに殺されることをよしとしなくなったのはプラスだな」

 

『駄目デス、駄目デスよ。おかしい、間違っている、誤っている、過たっている。ワタシの権能を、『怠惰』の権能を、寵愛によって授けられしワタシの『見えざる手』を! 他のものが見ることなど、許されないのデス!!』

 

「あちゃ~、見えない手が見えるようになっちまったらお終いっすね!」

 

「ええそうね。権能なんて仰々しい名前だけれども、見えてしまっていればなんてことないわね」

 

 ルプスレギナとソリュシャンは、ペテルギウスの権能が見破られたことに動揺する姿を見て、そのザマを嘲笑う。

 確かに、身体能力が高い戦闘メイドプレアデスならば見えている手などどうとでも出来る。しかし、治癒魔法で回復したとはいえ未だ病み上がりな一般人のスバルが見えているから避けられるというものではない。

 現に、7本に増えた黒い手によって、スバルは避けることも出来ずに掴まってしまう。しかも、その際に大事に抱きかかえていたエミリアを放してしまい、彼女は地面に力なく倒れてしまう。

 

『ずいぶんと大事そうに抱えていたようデスが……あの半魔の肉体、破壊したら、どれほどいい声で啼いてくれるのデスかね?』

 

 その一言を聞いて、カズマが怒りに我を忘れて立ち上がる。

 

「あの野郎!死んでいるエミリアに何する気でいやがる!!これだったら、あの時に狙撃でもかましてやればぁ!!!」

 

 以前のバレンタインの日に家庭科室で狂気的にチョコ作りをしていたペテルギウスの脳天に矢でもぶっ刺してやればよかったと本気で後悔する。

 まあもっとも、学園に弓矢などないので、せいぜいが落ちている石を投げつける程度だろうが。

 

『──なにをしている』

 

 エミリアに見えざる手が触れようとしたその時、天から見慣れた氷柱が降り注ぐ。

 声のする方へ視線を上げると、そこには夥しい数の氷の塊が怒りの形相で腕を組むパックを中心に展開している。

 

「これが、パックの本気。いや、実力の一端か……」

 

「なるほど、ラインハルトがいるというのに場内で賢人会の面々がパックの登場に恐怖した訳だ」

 

「小さいなりでも精霊というわけか。いや、あの2度目のループで見せた巨獣の姿、ベアトリスもパックは死んでおらず本体に戻ったと言っていた。なら、あの巨獣の姿こそがパックの本性だってのか?」

 

 圧倒的な物量にアインズとターニャは驚嘆と納得の表情を見せた。

 尚文もまた、あれ程の魔法を展開するパックの実力に評価を改め、これまでの出来事や会話からパックの正体に迫る。

 

『死ね』

 

 降り注いだ氷柱はペテルギウスを除く魔女教全てを貫き凍らせた。

 

「ヌウ、私ノ穿つ氷弾(ピアーシング・アイシクル)ト同等、アルイハソレ以上カ……!」

 

「ほお、戦士職とはいえ、魔法で君を上回る氷使いか……。これは非常に興味深いね」

 

 今のパックの攻撃を見て、コキュートスが白い息を吐きながら軽い興奮を見せる。

 そんなコキュートスの言葉にデミウルゴスがメガネをクイッと持ち上げて興味深げにパックを見つめる。

 

『パック──ッ』

 

『黙っていなよ、スバル。──君だけは、別だ』

 

「いや違う。スバルが叫んだ理由は──」

 

 助けを乞うために叫んだのではなく、危険を知らせる為に叫んだ。それをスバルの視点から見ている尚文はその選択は悪手だと言わんばかりに、7本の黒い手に捻じり潰されるパックを見ながら舌打ちをする。

 

『油断! 怠慢! 即ち怠惰! アナタはワタシを即座に仕留めるべきだったのデス! その力がありながら、アナタは為すべきことをしなかったのデス。それがこの結果を生んだのデス! デス! デス! デスデスデスデスデェェェッス!!』

 

「実に不快な声だ。狂信者というのはとっとと死んでくれると助かる」

 

 ペテルギウスの勝利を確信した叫び声に、ターニャは辟易とした声を漏らす。

 そんな彼女の願いを叶えんとしてか、再びパックの声が響く。

 

『くだらない』

 

 黒い手が膨らんで弾き飛んだと思えば、2度目のループで姿を見せたあの巨大な四足獣が現れた。

 その出現と同時に、森の木々が凍り付き始めていき、吹雪のような風が吹き荒れた。

 

「まさか、コキュートスと同じフロスト・オーラ!?」

 

 その現象に見覚えのあるアインズは驚愕する。無論、ただの似たような能力である可能性の方が高いのだが、それでも一瞬で森を凍土のような環境に塗り替えるその力に驚かない方が無理だった。

 そしてそれは、その力を真っ正面から受けるペテルギウスの方が衝撃は大きかった。

 

『ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないのデス! ただの! 精霊が! 精霊風情が! このような……このような力を持つなどありえないのデス! このような力は……』

 

『──エキドナ』

 

『────』

 

『魔女教なら、今の名前の意味がわかるだろう?』

 

「魔女教なら分かる。つまり、エキドナは魔女?」

 

「いや、あるいは魔女に敵対する勢力の者の名かもしれんぞ」

 

「どちらにせよ、現状では情報不足だ。考えるだけ無駄な事だろう」

 

 パックの口にした名前の人物がどういった存在か、アインズは安直に魔女ではないかと考えたが、ターニャはその逆の立場である可能性も示唆する。

 だが現状では魔女の正体も、魔女教の背景も不鮮明、そもそも敵対する組織なんて騎士団以外にも存在するのかも不明の状態で推理するのなんて馬鹿らしいと尚文は一蹴する。

 

『その名を口にすることすらおぞましい! あぁ! 恐れを知らない愚かで哀れな怠惰なるものよ! ワタシの! ワタシたち魔女教の前で! 嫉妬の魔女、サテラ以外の堕ちたる魔女の名を呼ぶなど……!!』

 

「む!アインズ君の推察が正解か……。流石だな」

 

「あっ、いや、私は単に簡単に思いついたことを口にしただけだ。そう大したものではない」

 

「そんなことありませんわ。アインズ様ならば、我々などでは及びもつかない智謀で解を導き出すことも容易いことですもの」

 

 まさかの正解が飛び出たことで、ターニャは素直にアインズを褒める。

 当のアインズは深く考えずに口にした事がたまたま正解しただけなので、そう褒められても照れくさいよりも気まずさが勝って謙遜染みた返答で返すが、アルベドが即座にその謙遜を蹴ってアインズを褒め称える。

 その姿勢にはお世辞や追従の色はなく、本気でそう思っていることが良く分かる。

 

(こうして、存在もしない賢いアインズ・ウール・ゴウンが出来上がっていくんだよな~)

 

 もう謙遜すら諦めて、褒め称えるアルベドにありがとうとだけ感謝を伝えて鑑賞に戻る。

 

『死が罰にすらならない。──だから、ボクはお前たちが嫌いなんだ』

 

『試練は果たされたのデス! いずれワタシの身は、尊き魔女の身許へ辿り着いて傘下へ加わる。……嗚呼、そのときが、楽しみ、デス……ね!』

 

『──勝ち逃げされたな』

 

 狂人は最後まで狂人らしく嗤って散っていった。

 残されたのは四肢が凍り付き始めたスバルのみであり、そんなスバルにパックは話をしようと持ち掛ける。

 勿論、スバルからの返答は聞かずにパックが話し始める。

 

『スバル、君の罪は三つある』

 

「罪?んなの、スバルにあんのかよ!?」

 

 魔女教を殺したパックによくやったと思う気持ちがカズマにはある。

 しかし、スバルの事情も知らない奴がスバルの罪を語ることに怒りを抱いた。

 それになにより、今回のループでのスバルの死因は凍死のみ。すなわち、パックによるものだ。

 もし仮にスバルに罪があるとしても、その罰は既に受けただろうとカズマは拳を痛いくらいに握る。

 

『ひとつは、リアとの契約に背いたこと。精霊術師にとって、結ばれた約束がどれほど重いのか、君は理解が足りないらしい。軽はずみに契約を破り、それがどれほどリアの心を傷付けたのか……君は知りもしないだろうね』

 

「確かに、これは否定出来ませんね。契約は守られるからこそ意味があり、それを破る者には罰則を与える。子供でも理解できる理屈です」

 

「然り、規律の先にこそ真の自由があり、それを破る者には不条理が待つのが道理だ」

 

 悪魔と悪魔のような2人からして、パックの語る罪は至極当然のものであると頷けるものだった。

 

『二つ目は、リアのお願いを無視して戻ってきたこと。それがなければ魔女教はもう少し様子を見ただろうし、霧が出るのにも猶予があったはず。それがなければあるいは、間に合っていたものもあったかもしれない』

 

「猶予だ!?そんなのなかったわ!!スバルが戻ってきたのも、村や屋敷が襲われたからだ。結果論だけ振りかざして、存在しねえもしもの話をしてんじゃねえ!?」

 

「ええ、その通りです!!ちょ~っと大きくなったからといって随分とデカイ態度を取りやがりますね、あの猫畜生は!!!」

 

「そうよ!そうよ!スバルがどれだけ頑張ってきたのかも知らずに偉そうに!!あんたがちゃんとエミリアも村の人達も守れてたならこんな事態にはなってなかったのよ!!!」

 

「うむ、これには皆の言う通りだ。いかにパックといえども、その罪はあまりにも理不尽というものだ」

 

 カズマはパックの言い分にブチ切れた。そもそもの話が最初のループで魔女教が襲ってきたのをレムがラムを通じて察知したことから始まったもの。

 それを知りもせずに、あたかもスバルが戦犯のように罪を擦り付けるパックの言葉にカズマだけでならず、アクアらもパックの言い草に腹を立てた。

 だがそれも次の罪を言い渡されるまでの間だった。

 

『そして三つ目は、リアを死なせたことだ』

 

「「「「────っっ」」」」

 

 別にスバルもそうなると知っていて死に戻りの秘密を話そうとした訳ではないのは分かっている。

 けれど、結果としてスバルの行いによってエミリアが死んでしまった。きっとスバルを殺そうとしている理由の大半がこの3つ目の罪であろうことはカズマ達にもなんとなく察しが付いた。

 だからこそ、4人はこれ以上騒ぐことなく、ただ静かにこの先の展開を見守るという選択に変わった。

 

『──契約に従い、ボクはこれからこの国を滅ぼす』

 

「国を……滅ぼす?娘同然のエミリアが死んだ八つ当たりにしては規模がデカ過ぎるな」

 

 無論、そうなれば騎士団が総出となって阻止にかかるだろう。勿論、その中に最強であるラインハルトも参戦することは想像に容易い。

 そもそも、エミリアの父親的なポジションに立つパックが彼女の喜ぶ筈のないであろう行動を取ることに、アインズは疑問に思う。

 

『……そん、な、もん』

 

『あの子が喜ぶかどうかじゃない。決めたことは、約束は破れない。たとえそれが、己と交わした契約でも』

 

 パックが交わしたという契約、恐らくそれは先程口にしたエキドナという魔女とのモノだろう。

 己の意思で交わした契約でさえ自分の都合で破棄できない。無論、契約とは往々にしてそういうものではあるが、この世界は契約の重さがまるで違うと実感する。

 

『果たせずに終わるだろうことはわかっている。ボクとリアが暮らした森のように、氷の世界を広げて全土を覆い尽くそうとしても──必ずラインハルトが、剣聖が立ちはだかる。ボクはそれに打ち勝つことはできない』

 

「やはりあの男の名前が出てくるか。これ程の強大な力を見せるパックが勝算もないと割り切るか。そんなラインハルトの前任者たる先代の剣聖を殺した白鯨か……。欲しいな」

 

 ラインハルトの株が上がると、自然と先代の剣聖の株も上がる。ならそれを殺したともことになる白鯨の脅威度は更に上昇する。

 ターニャはいよいよもって白鯨の持つ力に魅力を感じていった。勿論、それが危険な考えであることは重々承知の上でだ。

 

『──リアは、エミリアはボクの存在する理由の全部だ。あの子がいない世界に、ボクがいる意味はない。それならボクの八つ当たりで、世界なんて消えてしまえ。──ボクの全ては、あの子が死んだときに終わったんだ』

 

「あっ……」

 

 その言葉にアインズは思わず共感から声を漏らしてしまう。もしも自分が世界でたった1人になってしまったら。

 かつてのギルメン達が残していったNPCが、ナザリックが無くなって自分1人だけで異世界に渡ってしまっていたのならば、もしかしたらあのパックの姿がありえならざる自分の姿になっていたのかもしれないと。

 

『暴食……ああ、今は白鯨だなんて呼び名か。あれを呼び、リアを死なせ、自分も命を落として……本当に、どうしようもないね、君』

 

 そんな吐き捨てるようなパックの言葉に重ね合わせるように、誰かの笑い声が、哄笑が響き始める。

 

「な、なんですか、この声は?」

 

「この笑い方、ペテルギウスか?いや、でも……」

 

「──ついに狂ったか」

 

 不気味な笑い声にめぐみんが不安そうな声でカズマに縋りつく。カズマもまたこの聞き覚えのあるような声の主がペテルギウスなのかと疑う。

 そんな不気味に木霊す笑い声の中で、ターニャは席の背もたれに体を預けながら、その声の主──嗤うスバルを見つめながら、ついに狂ってしまったのだなと、そう憐れみの視線を送る。

 

『──怠惰だね、スバル』

 

 

 




ついに次回でタイトル回収のお時間です!ここから爆上がりしていくスバル君の株に、いせかるメンバーがどういった反応するのか、楽しみに待っていてください。

スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる

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