いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
このループでついに3度に渡る凍死による死に戻り、暗く凍えるような吹雪が支配する白い世界から一変して、雑多の声と温かな陽の光がスクリーンに映し出される。
3回目になる果物屋の前で、スバルは酷く顔色の悪い状態で立っている。
目の下には精神的な疲労からか、隈のようなものがくっきりと出来上がっており、どう見ても健全な状態とは言いずらかった。
「──こんなクソみてぇな状況、ロクなチートもなしにどうしろってんだよ!?」
そんなスバルの状態を目にし、酷く苛立ちの籠った声でカズマが叫ぶ。
確かに、こんな状況をスバルがこれから乗り越えられるとは思えないし、なによりも悪意に塗れ過ぎている。
彼は勇者や英雄でもなければ最強でもない。死に戻りという力を除けば、ただのありふれた普通の少年だ。
国や剣聖ですらどうにも出来ない魔女教と白鯨を同時に相手して、どうにか出来ると考える方がどうかしている。
『スバルくん、ぼうっとしてどうしたんですか?』
スバルの視界に、白鯨に挑んで存在すら自分以外の誰からも忘れ去られてしまった少女の姿が映る。
ああ良かったと、ちゃんと消えずに存在していたと、誰かが安堵の息を吐いたような気がした。それが誰だったのか、知ろうとも、知る必要もないままに、映像は進み続ける。
『疲れた……ああ、そう……だな。落っことして、擦り切れて……疲れちまった、な』
『──スバルくん?』
頬に触れているレムの手に、スバルが触れて握る。
何を考えてか、あるいは何も考えずに衝動のままにか、スバルはレムの手を引いて王都の緩やかな坂道をただ全力で駆け抜ける。
その必死な様子に、スバルのこれまでを見ていた誰もが悟る。
自身の汚名を返上する為にどうにかしてやろうとも足搔くわけでもなく、エミリアや村の皆を救わんと奮い立つでもなく、魔女教を──ペテルギウスを殺してやろうと息巻くのでもなく、ただただ全力で目の前の全てから逃げ出しているのだと。
『悩みまくって迷走して、方々に迷惑かけまくって正直ごめんなさい気分が半端ねぇんだけど、ようやっと丸く収める方法がわかった。いや、改めて考えると最初から見えてたし、教えてもらってたはずなんだけど……諦め悪いからな、俺』
「──っ!」
レムに握っていた手を振り払われて、ようやく足を止めたスバルがから元気でそうレムに話す。
それを聞いて、さっきまでのスバルの様子から、一体何が分かったのか。それをなんとなしに理解してしまったカズマはふいに胸が痛んだような気がした。
『決めたんだ、レム』
王都を一望できる見晴らしのいい場所でのその一言は、何も知らない者が見ていたら一世一代のプロポーズの現場に見えてさぞ微笑ましいだろう。
しかし、その実態は違う。何度も繰り返し、何度もやり直し、何度も自分の無力と矮小さを世界に叩きつけられた少年の文字通りの敗北宣言の現場だ。
「そう、そうよね。スバルはこれまでよく頑張ったわ。でも、それでうまく行かなかったのはスバルのせいじゃない。そう世間が悪いのよ!」
「お前は何を言ってるんだ。しかも、仮にも自称女神の癖に世間が悪いとか、神様設定ならもう少し考えを固めてから出直してこい」
「あ~!ターニャが酷いこと言った!!」
アクアの素っ頓狂な発言にターニャは額に手を当てて項垂れる。それを見ていたカズマは胸の痛みも忘れて心の中で『ごめんなさい!それ、ウチの世界の悪評高いアクシズ教の教義なんです!!』と全身全霊の土下座をしていた。
とはいえ、今回ばかりは普段からアクシズ教に良いイメージのないカズマも、その教義に賛成だ。
スバルがこれまで頑張っても
そりゃ、相手が厄介な怪物揃いなのは理解している。それでも、そんな奴らがスバルの前に立ちはだかっている現状に、国や騎士団はなにをしているんだと憤慨せずにはいられなかった。
『俺と一緒に、逃げよう。どこまでも』
「そう……、だよな。もう、逃げた方がいい。っていうか、未来で皆仲良くこっちに来てるんだ。きっと逃げた先で運よく今回の件が全部帳消しになるような事が起こるに違いないよな!?」
「あっ、そうよ!今良いこと言ったわ、カズマさん。多分、逃げた先でこう異世界から来たとんでもないラインハルトみたいなチート能力持ちとかがいて、魔女教とか白鯨とかなんかをズバッ!と叩き切ってくれる子に出会ったりなんかするのよきっと!だから、逃げることは悪いことなんかじゃないわ!未来では何が起こるか分からないんだから、確かな今を楽に行くのが正解なのよ!!」
スバルの決意にカズマも同意する。今の──これから待ち受けるであろう惨状を放り捨てた身勝手な発言であるとも思わず、今回だけはアクアと同じ気持ちだった。
そんな堕落したような考えの3人の想いを前に、レムが困惑しながらも出した答えは──、
『──スバルくん。レムは、スバルくんと逃げることはできません』
「「──えっっ!?」」
『だって、未来のお話は、笑いながらじゃなきゃダメなんですよ?』
泣き笑ったような顔で拒絶するレムに、3人は何も言えずに固まった。
それはいつかの屋敷でスバルがレムに語った言葉だった。かつての自分の言葉が回りまわって自分の首を絞めているような気がしながら、スバルは諦めの悪い女々しい取り繕いでレムを説得しようとかかる。
『……レムも、考えてみました』
スバルの提案に乗ったもしもの未来を語る。そこには多少の苦労はあれども、誰もが思う平凡な幸せがあった。
それこそ、これから王都で──屋敷に向かうまでの未来に比べれば格段にいい未来のお話にスバルもそっちのほうが断然にいいと思いながらも、スバルの心を静かに、優しく、傷付けていく。
「本当に、幸せな未来ね。でも……」
レムの語る未来予想図に、アルベドはどこか悲痛な幸せであると感じてそう呟く。
『だってきっと、今、一緒に逃げてしまったら……レムが一番好きなスバルくんを置き去りにしてしまうような気がしますから』
「ええ、そう。そうよね。大好きだからこそ、好きな殿方には変わってしまってほしくない。その気持ちも、想いも、私にはよく分かるわ。そして、その為に愛する人からの求めを否定する勇気もまた……。私もいつかきっと、あなたのように……、モモンガ様」
いつか必ず、本当に大好きな人に戻ってくれるように、否、戻してみせるとアルベドは友の勇気を胸に刻んで、隣に座る愛する者の本当の名を小さく口にする。
『スバルくん。なにがあったのか、レムに話してください。話せないのなら、信じてください。きっと、レムがどうにかしてみせます』
瞬間、いつかのレムの死に様が表示された。あれはきっとスバルのトラウマの一つなのだろう。
どれだけ言葉を重ねても、どれだけ真摯に訴えかけても、きっとレムではスバルのトラウマを払拭することは出来ないのだと、誰もがあの一瞬の映像から理解する。
『もう、悩んだんだ……考えたんだ。苦しんだんだ……だから、諦めたんだ』
『──諦めるのは簡単です。でも』
そうレムがふいに口に出した反論の言葉は、スバルだけでなくカズマ達の心に突き刺さった。
「諦めるのが簡単な──」
「諦めっちまうのが簡単な訳がねえだろぉぉぉ!!!」
「尚……文……?」
「っ!……ちっ!」
咄嗟に出た激情なのだろう。レムの無責任にも取れる諦めを否定する言葉に、カズマが立ち上がりかけたその時、それ以上の怒りを尚文が叫んで見せた。
尚文自身でもその言葉を自分が発したのだと気付いたのに驚いたのか、舌打ちと共に立ち上がった姿勢から再び席に座り直した。
それでも、イライラは止まっていないのか、彼らしくもなく、貧乏ゆすりを行いながらスバルの映像を睨みつけるように見つめていた。
そんな普段は絶対に見せないような彼の姿に、カズマは自身の怒りが吹き飛んで、立ち上がりかけた姿勢からゆっくりと席に座った。
『なんとかできるんなら……俺、だって……俺だって……!』
『スバルくん。諦めるのは簡単です』
スバルの胸にあった独白を、諦めるに至った道筋を、ここでそれを選んだ自身の無力さを語られても尚、レムは凛とした表情で否定する。
『でも、──スバルくんには、似合わない』
「おっまえは──っ!!」
「──尚文様」
似合わないからなんだというのだ。それがこの先の地獄を歩む理由になるのかと、尚文はまた激高しかける。けれど、そんな尚文の手にラフタリアの手がそっと上に重なる。
反射的に尚文はラフタリアの顔を見つめると、彼女の目にはいつかの日、誰の言葉も信じられなくなって人間不信であった頃の俺に面と向かって向き合ってくれた、あの透き通った瞳が真っ直ぐと見つめ返していた。
そこでようやく悟った、なぜ自分がこれ程までにレムの言葉に激高していたのかを。それは、自分がなにをどうやっても悪意に押しつぶされ、まるで余裕がなかったあの頃の自分とスバルが重なっていたから。そんな自分と重なるスバルの言葉を、何も知らない奴が否定する。それが尚文が腹を立てて叫んだ理由だったのだと。
「……すまん、ラフタリア」
「謝らないでください、尚文様。私はちゃんと尚文様の味方なんですから」
「ああ、そうだな。あの時からずっと、お前は俺の味方だ」
そっと目を閉じて尚文の胸に頭を預けるラフタリアを、尚文は優しい手つきで抱きしめる。
『ちが……俺は、そんな人間じゃない……俺、は』
『違いません。スバルくんはみんなを……エミリア様も、姉様も、ロズワール様や他の人のことも、諦めてなんかいないはずです』
そう断言するレムに、スバルは苦しい顔で否定の言葉を吐く。
『諦めた、諦めたよ。全部拾うなんてどだい無理なことだった……俺の掌は小さくて、全部こぼれ落ちて、なにも残らない……ッ』
『いいえ、そんなことはありません。スバルくんには──』
『──お前に!俺のなにが!!お前に俺のなにがわかるって言うんだ!?俺はこの程度の男なんだよ!力なんてないのに望みは高くて、知恵もないくせに夢ばっかり見てて、できることなんてないのに無駄に足掻いて……!俺は……っ! 俺は、俺が大嫌いだよ!!』
「あっぐぅ……!」
「カズマ?」
『いつだって口先ばっかりで!なにができるわけでもねぇのに偉そうで!自分じゃなにもしねぇくせに、文句つけるときだけは一人前だ!何様のつもりだ!?よくもまぁ、恥ずかしげもなく生きてられるもんだよなぁ!なあ!?』
「ぬおおおぉぉぉぉ!!!」
「えっ、急に叫びだして、本当に大丈夫ですか、カズマ!?」
『空っぽだ。俺の中身はすかすかだ。決まってるさ……ああ、当たり前だ。当たり前に決まってる!俺がここにくるまで、こうしてお前たちに会うような事態になるまで、なにをしてきたかわかるか!?』
「や、やめろ、スバル!その術は俺に効く!!!」
「お前は何を言ってるんだ、カズマ?」
『──なにも、してこなかった。なにもしてこなかった……なにひとつ、俺はやってこなかった!あれだけ時間があって!あれだけ自由があって!なんだってできたはずなのに、なんにもやってこなかった!その結果がこれだ!その結果が今の俺だ!』
「もう、言うな、スバル」
「あ~、これは重症ね。というか瀕死だわ」
『俺の無力も、無能も、全部が全部! 俺の……腐り切った性根が理由だ……ッ! なにもしてこなかったくせに、なにか成し遂げたいだなんて思い上がるにも限度があんだろうよ……怠けてきたツケが、俺の盛大な人生の浪費癖が、俺やお前を殺すんだ』
「がっふぅっ──!!?」
「「「あっ、死んだ!!」」」
『そうさ、性根はなにも……この場所で生きてくことになったって、そう思ってもなにも変わっちゃいなかった。あの爺さんは俺のそこんとこも、きっちり見抜いてやがった。そうだろ?強くなろうとしてたわけでも、どうにかなろうと思ってたわけでもねぇ……俺はただ、なにもやっていないわけじゃないんだって、努力しているんだって……そうやって、わかりやすいポーズを取って、自分を正当化してただけだ……』
「っっっ!!!?」
もはや死体蹴りの様相を呈してきたスバルの慟哭にカズマも耐え切れず、吐血したかのような反応をみせてビクビクと泡を吹いたように震える。
「あ、あの少佐!カズマさんの様子がさっきからおかしいです!?」
「まさか、この部屋の仕掛けとやらのせいでは!?少佐殿は大丈夫でありましょうか!?」
「あ~、あれはほらなんだ、現代病とでも言えばいいのか?まあ、気にせずに放っておけ、あれは様子がおかしいのではなく、頭がおかしいの類だからな」
「「それはそれで気にした方がよろしいのでは?」」
スバルの弱音という名の本音を聞くたびに震えて絶叫するカズマに、ヴィーシャとヴァイスが慌てるが、現代日本を知るターニャからは共感性羞恥心、あるいはスバルの慟哭に自分を重ね過ぎた自己嫌悪の結果のものと判断して、特に問題なしと切り捨てる。
「さっきからうるさい人間でありんすねえ」
「もう強制的に黙らせてしまいましょうか、アインズ様?」
「あ~、いや、あれはちょっとデリケートな部分を突かれての反応だし、そっとしておいてあげなさい」
シャルティアとアウラが物理的に黙らせてやろうかと提案してくるのを、アインズは同情心から止める。
スバルの叫びに胸が痛んでくる気持ちも、カズマ程ではないにしろ、アインズも共感してしまうからこそ見て見ぬふりをする。
『しょうがないって言いたい!仕方がないって言われたい!ただそれだけだ!ただそれだけのために、俺はああやって体を張ってるようなふりをしてたんだ!お前を付き合わせて勉強してたのだって、そのばつの悪さを誤魔化すためのポーズだったんだよ!俺の根っこは、自分可愛さで人の目ばっかり気にしてるような、小さくて卑怯で薄汚い俺の根っこはなにも!なにも、変わらねぇ……』
「こひゅっ──」
「あ、アクア!?カズマは一体どうしたのでしょうか?」
「同じヒキニートだから致命傷を負っただけよ。優しく膝枕でもしてあげてよしよししてあげてたら、そのうち起きるわよきっと……」
いつかの紅魔族の里へ行く際に、オークの縄張りに入って追いかけまわされてトラウマになった時に膝枕してくれたようにアクアがカズマの頭を膝に乗せると、その頭を優しく撫でて介抱する。
『……本当は、わかってたさ。全部、俺が悪いんだってことぐらい。俺は、最低だ。……俺は、俺が大嫌いだよ』
今まで見ないようにしていたものを、他人から暗に言われ続けられていた自分の醜いものを曝け出したスバルにレムは息を吞む。
そして、語るのだ。スバルが知るスバルではなく、レムが知るスバルのことを──、
『レムは知っています。スバルくんがどんなに先の見えない暗闇の中でも、手を伸ばしてくれる勇気がある人だってことを』
「苦しいでしょう。辛いでしょう。自身の認識以上に期待され信頼されるということは。ですが、あなたなら、ヴィルヘルム殿が信を置き、大恩ある人物と仰ぐスバル殿なら真に人の強さを持てるはずです」
今も変わらずにスバルを見限ろうとしないレムの信頼と慈愛に満ちた瞳に、声に、態度に、雰囲気に、スバルが焦燥感にかられている様子が映像越しでも伝わってくる。
今のスバルには分不相応な期待を負わされ、その重責に苦しむ様を見ながら、セバスは学園での恋バナをする仲であるヴィルヘルムが語ったスバルという男ならばと期待を寄せる。
『スバルくんに、撫でられるのが好きです。掌と髪の毛を通して、スバルくんと通じ合っている気がするんです』
いきなり何を言って?と感じるスバルを置いてきぼりにして、レムは淡々と自分が好きなスバルの特徴を上げていく。
それに対してスバルは否定や疑問の声を出す。
『スバルくんが自分のことを嫌いだって、そう言うなら、スバルくんのいいところがこんなにあるって、レムが知ってるってことを知ってほしくなったんです』
『そんなものは……まやかしだ……ッ!』
「本当に愚かな男。レムの目がそこまで曇っている筈がないって、ちゃんと知っているでしょうに……」
レムの心からの言葉に耳を貸さず、否定して聞く耳を持たないスバルに、アルベドが呆れたように呟く。
本当だったら、誰よりも信頼している相手であるレムの言葉なのだから、ちゃんと耳を傾けるべきなのだ。
でも……、とスバルは頭では分かっていても、心がそれを否定する。それはスバルがこれまで歩んできた異世界で培った経験がそうさせている。
『お前はわかってないだけだ!自分のことは、自分が一番よくわかってる!』
『スバルくんは、自分のことしか知らない!レムが見ているスバルくんのことを、スバルくんがどれだけ知っているんですか!?』
そのレムの心からの叫びにどれだけの者が心打たれただろうか。
あの日、自分を助けてくれた人が。共に過ごした日々を、共に笑い合った時間を、そんな思い出からくる想い人の姿をその人に否定されたレムの叫びは、それを見ていた彼女達の心を大きく揺り動かした。
「「「「レム(さん)──!!」」」」
アルベドが、めぐみんが、ダクネスが、ラフタリアが、未だその胸の奥に隠した秘めたる想いから共感する。
ナザリックの支配者でなくてもいい、ただのプレイヤーであった頃のモモンガに戻って欲しいアルベドは涙を浮かべた。
弱くて臆病で悪知恵が回りムッツリスケベだけれども、それでも仲間想いで、いざという時には頼りになるカズマを好きになっためぐみんとダクネスは頬を緩ませた。
盾の勇者として召喚され、周囲の悪意に傷つきながらも、決して折れることも見捨てることもなかった勇者をずっと傍で見続けていたラフタリアは、目尻にそっと涙を浮かべた。
『どうして……そんなに、俺を……。俺は弱くて、ちっぽけで……逃げて……ッ。前のときも同じで、逃げて、それでもどうして……』
『──だって、スバルくんはレムの英雄なんです』
変わる。レムの発したその言葉に誰もがそう確信した。
まるで世界がそれを認めるように、鳥が飛び立ち、風が吹き抜け、そして光が射し込んだ。
「そうか、ここからか……。ここからスバルのこれまでが始まるのだな」
スバルが今に至る。その真の始まりの場面を目にしたアインズは感慨深げに呟く。
レムがこれでもかとスバルの英雄である理由を語り続ける。それは間違いではなかった。
あの屋敷で、あの薄暗い森で、何度殺されても諦めずに、また笑いあえる未来を勝ち得ようとしたスバルの軌跡はまさしく英雄そのものだ。
『──レムは信じています。どんなに辛い苦しいことがあって、スバルくんが負けそうになってしまっても。世界中の誰もスバルくんを信じなくなって、スバルくん自身も自分のことが信じられなくなったとしても──レムは、信じています』
「ええ、そうですよ。好きな人が、英雄である人が負けて諦めて、誰も信じられなくなっても、その人の優しさを──強さを自分だけは最後まで信じてあげたい」
自分の英雄が打ちのめされて諦めようとしている。それが許せないというのはきっとラフタリアが一番理解出来てあげられるだろう。
『レムを救ってくれたスバルくんが、本物の英雄なんだって』
「ああ……、本当に、どこの異世界でも、男ってのは弱くて、女は強いんだな」
いつかの王城での決闘の後、尚文がラフタリアに救われたあの時と酷似するその光景に、尚文は酷く尊くて眩しいものを見る目で呟く。
『どれだけ頑張っても、誰も救えなかった』
『レムがいます。スバルくんが救ってくれたレムが、今ここにいます』
『なにもしてこなかった空っぽの俺だ。誰も、耳を貸してなんかくれない』
『レムがいます。スバルくんの言葉なら、なんだって聞きます。聞きたいんです』
『誰にも期待されちゃいない。誰も俺を信じちゃいない。……俺は、俺が大嫌いだ』
『レムは、スバルくんを愛しています』
「ずぅっ~~!いい話でずぅ~!」
「こら、泣くなセレブリャコーフ中尉」
「だっでぇ~!レムさんがぁ~、ナツキさんがぁ~!!」
耳をすませば、ヴィーシャ以外にもこの場面に感涙を流す者の嗚咽や鼻を啜る音が聞こえる。
確かに、若い男女の感動的なシーンだ。目に涙を浮かべてすすり泣く者も出るだろうと思いながら、ターニャは内ポケットに入ってあるハンカチで隣で泣くヴィーシャの顔を拭ってやる。
『空っぽで、なにもなくて、そんな自分が許せないなら──今、ここから始めましょう』
『なに、を……』
『レムの止まっていた時間をスバルくんが動かしてくれたみたいに、スバルくんが止まっていると思っていた時間を、今、動かすんです』
「ぐすっ!……あれ?」
『ここから、始めましょう。一から……いいえ、ゼロから!』
「あ~~~!!!」
「いっでぇ!!?」
「あら、ごめんなさい、カズマさん」
感極まって号泣していたアクアだったが、いつかどこかで……。そう、学園祭前日の入場門が壊されて作り直すことに駄々を捏ねたアクアを説得した時とほぼほぼ一緒だったことに、思わず立ち上がって膝に乗せていたカズマが床に転がり落ちた。
しかも、その際におでこから落ちたのか、カズマの額が真っ赤に腫れてしまっていた。
「こんの駄女神がぁ!!!人のこと落っことしやがって!!!」
「だからごめんって謝ったじゃない!それにほら、ショック療法?カズマさんも元に戻ったんだから不幸中の幸いってやつじゃない?」
「この野郎ぉ!!っっっ、はぁ~!なんか怒るのも馬鹿らしくなってきた……。っていうか、あの時スバルが言っていた名シーンが台無しになった瞬間ってのがよく理解できたわ。つか、現在進行形で台無しになって──うわぁ!?」
「へぇっ?どうしたの、カズマさん?」
「う、後ろ……」
「後ろ?……はひっ!?」
「ふしゅ〜〜〜っ!!!」
カズマが青い顔でアクアの後ろを指して、それに釣られて振り向いてしまったアクアは顔を引き攣らせた。
そこには暗黒闘気を放って髪を逆立てているアルベドがこちらを睨みつけていたのだ。よくよく見れば、アルベドの手をアインズが握っているが、もしそれがなかったのなら今頃どうなっていたのかは考えたくもない。
2人は一旦何も見なかったことにして、大人しく席に座って顔中に冷や汗を垂れ流す。
「──ちっ!!!」
アルベドの大きな舌打ちの声の後、気まず過ぎる沈黙が部屋を支配する。
「あ~、そのなんだ、アルベドよ。気持ちは──そう、気持ちはよく分かるぞ。ただ、お前の力で2人を襲ったら万が一にも死なせてしまう可能性があるからな。ここは私の頼みということで、落ち着いてくれないか?」
「──っ、申し訳ございません。アインズ様、先程の醜態は深く反省致します」
「い、いや、アルベドが悪いわけではないからな。うん、その謝罪をもってお前の全てを許そう」
「慈悲深きお言葉に感謝いたします」
アルベドは深々と頭を下げてその怒りを鎮める。
その事に2人はほっと胸を撫で下ろす。ひとまずは命の危険は去ったようだが、これからは本当に大人しく鑑賞しようと心に誓った。
『俺ひとりじゃ、なにもできない。俺はなにもかも足りない。真っ直ぐ歩けるような自信がない。弱くて、脆くて、ちっぽけだ。だから、俺が真っ直ぐ歩けるように、手を貸してくれないか?』
『スバルくんは、ひどい人です。振ったばっかりの相手に、そんなことを頼むんですか?』
『俺だって、一世一代のプロポーズを断られた相手に、こんなこと頼みづらいよ』
ようやく、心から笑ってられるようになったスバルとレムに、皆が釣られたように微笑んだ。
自分を信じてくれる子を──、こんな自分を好きだって言ってくれるレムの事を抱き寄せて、スバルは宣言する。
『──お前の惚れた男が、最高にかっこいいヒーローになるんだってところを!』
英雄が──ナツキ・スバルという最新の英雄と呼ばれる男の誕生を目にした瞬間だった。
何回もやり直ししたwww納得いく出来になるまでかなり時間が掛かったわ。
読者の皆の期待に応えられたかどうか、感想を楽しみに待ってるぜ!!!
最後の名シーンをいせかる風にしたかった人生でしたbyリーグロード
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル