いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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今日だけで3話も作れてしまったことへの奇跡!?


スバルの秘密

 突如現れたエミリアの登場に、先程まで暗い雰囲気だったカズマ達は「おおぉぉ──!!」と、一気に盛り上がった。

 

「まったく、やかましい奴らだ」

 

「ですが少佐!これでスバルさんは助かるんですよね?」

 

「……だろうな。あのお優しい性格のエミリアのことだ。面倒ごとを前に首を突っ込まない筈がない」

 

 やれやれとばかしに首を振るターニャに、ヴィーシャは安心したように笑みを浮かべる。

 

『待て待て待て!待ってくれ!な、なんだかわからねえが、こいつは見逃す!だから俺たちのことは勘弁して……』

 

『潔くて助かるわ。今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して』

 

『だから悪かったって……へ?盗った物?』

 

『お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ。──今なら、命まで取ろうとは思わないわ』

 

「ん?なんか会話の雲行きが……」

 

 チンピラとエミリアの若干噛み合わない会話にカズマが嫌な予感を感じながらも、ここは大人しくスクリーンの映像を見守ることに決めた。

 

『待ってくれ!目的がこいつじゃないなら、俺らは別口だ!さっきのガキだろ!』

 

『盗まれたって言ってたろ!壁だ!壁蹴って屋根伝いに逃げてった!』

 

『奥だ奥!その向こう!あの勢いなら通りをもう三つは抜けてる!』

 

『ううん……嘘じゃ、ないみたい。それじゃ、盗った子は路地の向こう?急がないと』

 

 チンピラ達の必死の弁明を聞いて、盗られた物を取り返さんとスバルを見捨てて路地の外へ向かう。

 

「あっれぇ~?」

 

「え、エミリアさん。行っちゃいそうですよ、少佐!?」

 

 またしてもお約束を破られようとして、カズマとヴィーシャが悲鳴に似た声を上げる。

 

『それはそれとして、見逃せる状況じゃないのよ』

 

 振り返りざまにチンピラ達に魔法を使って氷塊を当てて、チンピラ達は吹っ飛ばされる。

 

 その展開にさっきまで悲鳴染みた声を上げた2人がほっと胸をなでおろした。

 

「だから言っただろう。エミリアはこういう女だと」

 

 慌てよってからにと言わんばかりのドヤ顔でターニャはヴィーシャ達を見る。

 

「いや、でも……うん。確かに」

 

「エミリアさんらしいですね……」

 

 あのちょっと捻くれた優しさに、カズマとヴィーシャは苦笑しながらエミリアを見た。

 

 その後展開は、エミリアによって吹き飛ばされて怒ったチンピラの前に、精霊のパックが登場し、相手が精霊術師と分かった途端、チンピラ達は呆気ないほど悪態をついて消えていった。

 

『──動かないで』

 

 残されたズタボロになったスバルを前に、エミリアは警戒しながらもスバルの目をジッと見つめる。

 それはまるで、キスをする直前の恋人同士の距離感で、スバルは微かに頬を赤くして目を逸らす。

 これは誰がどう見ても恋に落ちた顔である。

 

「だぁー!!ちっきしょう──!!!ちょっとでも同情した俺が馬鹿だったわぁ──!!!」

 

 スクリーンの映像で見せられる異世界王道ラブコメの始まりに、カズマが席から立ち上がって絶叫した。

 

「カズマ!落ち着いてください!」

 

「これが落ち着いていられるかぁ!!もうやだ!俺帰る!!」

 

 めぐみんの制止を振り切り、カズマは泣きながら立ち去ろうとしたその瞬間、ドガァン!と強烈な音が部屋中に響いた。

 それは、カズマの稚拙な行動に静かにキレたアルベドが前の席を殴りつけた音だった。

 

「カズマ、あなたさっきから喧しいのよ。別に騒ぐくらいならまだいいわ。でも、最初にアインズ様が仰ったことを覚えているかしら?今はアナウンスに従って少しばかり様子見をする。そう仰ったのよ。それを蔑ろにするというのなら──ここで私が殺してやろうか?」

 

「すみませんでした……」

 

 怒りが込められたアルベドの眼差しと声に、カズマは涙目になりながらも逃げずに椅子に座り直す。

 

「あ~、すまんなカズマ。しかし、今はアルベドの言う通り、私達が勝手に行動するわけにはいかないのだ。それを理解してくれると助かる」

 

「いや、俺の方こそ熱くなって勝手しようとして悪かった……」

 

 アインズに宥められたカズマは、バツが悪そうに謝るとスクリーンの映像に再び目を向けた。

 

『──あなた、私から徽章を盗んだ相手に心当たりがあるでしょ?』

 

『期待されてるとこ悪いけど、全然知らない』

 

『嘘っ!?』

 

「なんか、いつもの俺達みたいだな……」

 

 頑張った結果、空回りして無駄な時間と労力を費やす。

 そんな既視感のある光景に、思わずカズマが同情めいた表情で呟いた。

 先程怒られて意気消沈していたところに、日頃の自分達と同じような展開を見て、若干心の平穏を取り戻せたのだ。

 今もスクリーンの中ではオロオロと困ったように取り乱す美少女の姿を見ながら、カズマは癒されていく。

 

『ど、ど、どうしよう。まさか、本当にただ回り道しちゃっただけ……?』

 

『その状態も刻々と進行中だけどね。急いだ方がいいと思うよ。逃げ足がすんごい速かったから、きっと変な加護とか持ってるよ、犯人』

 

『むう。なんでそんなに他人事なの、パックは』

 

『手出し口出し無用って言ったのはそっちなのに。それと、あの子はどうする?』

 

 パックの指摘でようやくスバルの存在を思い出したエミリア。

 

『助けてもらっただけで十分だよ。急いでるんだろ?早く行ったほうがいい』

 

 そんな風にカッコつけてそう言い放つが、チンピラ達に殴りつけられたダメージがあるのに無理して立った結果、ふらついて地面にぶっ倒れる。

 混濁する意識のなか、スバルの頭上でエミリアとパックの軽く言い争う声が聞こえる。

 

『―で、どうしよっか』

 

『関係、ないでしょ。死ぬほどじゃないもの。放っておくわよ』

 

『ホントにー?』

 

『ホントに!―絶対の絶対、助けたりなんかしないんだからっ』

 

 その言葉を最後に、スバルの意識は完全に闇の中へと落ちていき、スクリーンの画面が静かに暗転した。

 

「なるほど、これがスバルとエミリアとの出会いか……」

 

 確かに、あの出会い方ならばスバルがエミリアを好きになるのも当然かとアインズは納得する。

 

「それにしても、エミリアさん。最後に絶対助けないなんて言ってましてけど……」

 

「どうせ、屁理屈染みた理由をつけて助けるのがオチだろうな」

 

 ヴィーシャの呟きに、ターニャは呆れたように返した。

 その後、画面は暗転したままスバルの心の声が流れる。

 

『これぞまさに美少女の膝枕か……なんか美少女って思ったより毛深いんだな、って、そんなわけあるか──!』

 

 その叫び声と共にスクリーンに再び映像が映し出され、何故か巨大化したパックがスバルを膝枕していた。

 

「なんと、エミリアの連れていたパックは巨大化もできるのですか!?私も戻ったらぜひちょむすけに巨大化のスキルを──!」

 

「やめてやれよ!できもしないことを延々とさせられるちょむすけが可哀想だわ!」

 

 人間大になったパックのふわふわ毛皮を頬で楽しむスバルを見て羨ましくなっためぐみんが、帰ったら是非ともちょむすけに仕込もうとするのをカズマが止める。

 

『なんか、悪かったな。けっきょく、目が覚めるまで付き合ってくれたみたいで……』

 

『勘違いしないの。聞きたいことがあるから仕方なく残っただけなんだから。それがなかったらあなたのことも置き去りにしたわ。そう、してたの。勘違いしないこと』

 

 そんなツンデレめいた台詞に、見ていたターニャがふっと笑いながら、隣に座っているヴィーシャに向かって「ほらな、だから言ったろ?」とエミリアの行動を見事に言い当てたことにドヤ顔になっていた。

 

「ええ、流石は少佐です!」

 

 ヴィーシャもそんなターニャに感銘を受け、目をキラキラさせながら尊敬の眼差しを向けながら頷く。

 実に百合百合しい光景である。

 

『だから私があなたの体の傷に治癒魔法をかけたのも、目覚めるまでパックの腹枕を堪能させてたのも、全部が全部、自分の都合のため。だから、その分に応えてもらうわ』

 

『なんか恩着せがましい感じを演出しつつも一周回って普通の要求だな』

 

 スバルもエミリアの捻くれたような優しさに慣れてきたのか、苦笑と共にツッコむ。

 その後、エミリアから徽章を盗った相手への心当たりを尋ねられたスバルは、う~んと考え込みつつも、心当たりはないと答えた。

 

『そう。それじゃ仕方ないわ。でも、あなたには何も知らないという情報をもらうことができたわけだから、ちゃんとケガを治した対価は貰っているわね』

 

「やれやれ、彼女は本当にお人好しですね。魔法による治療を施したのならば、それ相応の対価を貰ってもいいでしょうに」

 

「そうでしょうか?彼女のああいった優しさゆえに、スバル殿も心を絆されて力になったと聞き及んでいます。目先の利益だけで考えるのは少々愚行ではないでしょうか?」

 

 今の一連のやり取りにデミウルゴスが呆れた様子を見せていると、1つ離れた席に座ったセバスがその意見に反対を述べる。

 その答えに、デミウルゴスは不満足気に反応する。

 

「セバス、それはあくまで結果論のこと。確実性を狙うのならば感情だけで行動する方が些か愚劣極まる行為なんじゃないかな?」

 

「ええ、そうかもしれません。しかし、時に感情は損得勘定を抜きにして、合理性に勝る時がある。私はそう考えます」

 

 デミウルゴスの反論にセバスは真っ向から立ち向かう。

 まさに水と油、互いにバチバチと目線で火花を散らしていると、そんな二人の間に割って入る者がいた。

 

「その辺にしておけ、デミウルゴス、セバス」

 

 アインズの静かな声に、デミウルゴスは恭しく頭を下げ、セバスも同じく頭を下げる。

 

「申し訳ございません、アインズ様。この度の失態はいかような罰であろうと受けるつもりです」

 

「よい、許す。互いの意見が食い違うことなどよくあることだ。それに、互いの言にも一理ある。感情だけで動くことは合理性に欠けるが、時に感情は合理性に勝る場合があることも事実。どちらが優れているかなどの優劣は存在しないだろう」

 

「はっ、寛大なお言葉感謝いたします」

 

 セバスとデミウルゴスの意見を棄却せず、全て呑み込んだアインズの言葉に二人は揃って頭を下げる。

 

「流石はアインズ君だな。個人的にはデミウルゴスの意見に賛同するが、ああも見事に2人の意見を纏め上げるとは感服だ」

 

 アインズの上に立つ者の手腕を目の当たりにした、ターニャは素直に賞賛の声を友人に送る。

 そんな小さなひと騒動の間に、スクリーンの映像内ではスバルがエミリアの失せ物探しに協力する流れになっていた。

 

『お礼なんていらない。そもそも、俺が礼をしたいから手伝いたいんだ』

 

『──本当に、なんのお礼もできないからね』

 

 そして再び画面が切り替わり、スバルとエミリアの失せ物探しが始まった。

 しかし、捜索は難航しており、早々には上手くいかず、手掛かりは一向に見つからない様子だった。

 

『そういえば、まだ名前も聞いてないね。自己紹介とかしてないんじゃないかな』

 

『そういや、そうだな。んじゃ、俺の方から。俺の名前はナツキ・スバル! 右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!』

 

『それだけ聞くともう絶体絶命だよね。うん、そしてボクはパック。よろしく』

 

 お互いに気安く自己紹介を交わし、精霊であるパックに対する大胆な接し方にエミリアが疑問を覚える。

 

『精霊とこんなに気軽に接する人なんて珍しい。どこから来たの?』

 

『まぁ、パターンから東のちっさい島国だな』

 

『ルグニカは大陸図で見て一番東の国だから……この国より東なんてないけど』

 

 自信満々に答えたスバルは、彼女の答えが予想外だったのか愕然とした顔でエミリアを見る。

 

「とことんスバルの異世界ってテンプレ外しするんだな」

 

 お約束が全然通じないスバルの異世界にカズマは同情するように呟いた。

 

『今、自分のいる場所がわかってなくて、お金も持ってなくて、字が読めなくて頼れる人もいない。この子、ひょっとして私より危ない立場なんじゃ……えっと、スバルって』

 

『おおっ!?イエス俺の名前』

 

 好きになった女の子からいきなり名前呼びされた照れ隠しに大袈裟なリアクションを取るスバル。

 

『でもこうして見ると、結構体鍛えているみたいだね』

 

『毎日筋トレだけはね。自宅の守り人引きこもりとして、そんぐらいは当然ってもんだ』

 

「プークスクス!同じヒキニートでも、カズマの場合は筋トレすらしてない自称自宅警備員よね」

 

「おい、アクア!お前だって、こっちに来てから毎日ゴロゴロしてるだけだろうが!」

 

「私はいいのよ。なんていったって女神ですから!」

 

 アクアの挑発にカズマが噛みつくと、アクアが胸を張ってドヤ顔で答えた。

 

『そういえば、飼い猫の名前は聞いたけど君の名前は聞いてなかったなーなんて』

 

『私の名前?』

 

 まるで聞かれたくなかった。というよりも、聞かれる筈がないと思っていたみたいな反応を見せるエミリア。

 

『私は……サテラ。家名はないの。サテラと、そう呼ぶといいわ』

 

 画面に映るエミリアが口にした内容に、鑑賞していた全員が困惑する。

 

「あれ?なんでエミリアさんはサテラなんて別の名前を名乗ったんでしょうか?」

 

「さてな、大方の見当はつくが、現時点で一番可能性が高いとすれば、スバルを警戒してのことだろう」

 

「スバルさんを警戒して、ですか?」

 

 ターニャの答えにヴィーシャは首を傾げる。

 

「当然だろう。身元不詳の男にいきなり本名を明かすなど危険行為だ。貴官も女性なのだ、そういった事には気を付けたまえ。ただまあ、あのエミリアがそんな真似をするとは思えんがな。それに、エミリアが口にしたサテラという名前、それを聞いた時のパックの反応がどうにも気になる」

 

 ターニャはエミリアの口にした名前に対するパックが見せた反応に注目する。

 

『そうか、サテラか。いい名前だ!』

 

『──えっ』

 

 名前を褒められたことに驚いた声を上げるエミリア。

 

「どうしてエミリアは名前を褒められて、あのように動揺したのでしょうか?」

 

「ひょっとして、あっちの世界じゃサテラは紅魔族みたいに変な名前扱いだからじゃないか?」

 

「おい!誰の名前が変なのかじっくりと聞こうじゃありませんか?」

 

 カズマの不用意な発言にめぐみんが目くじらを立てて食って掛かる。

 そのやり取りにターニャやヴィーシャ、そして鑑賞していた他の者が懲りないなと横目で見る。

 

 そんな中、スクリーンの中では迷子を発見したエミリアが自分の用事を後回しにして、助けに行くことを決意していた。

 

『どうしたの?お父さんかお母さんは?』

 

 急に話かけられた迷子の子は泣きじゃくるのを止めず、何とかエミリアも宥めようとするも今一つ効果はないようだ。

 そんな時、2人の間ににこやかな笑顔を見せるスバルが割って入る。

 

『ここに取り出しましたるは、一枚のギザ十にございます』

 

『えっ?』

 

『これをギュッと手で握り潰してやります。するとあら不思議!』

 

 手の中に入れたコインを消すという簡単な手品を見せると、その不思議な光景に迷子の子だけでなく、エミリアも釣られて目を瞬かせる。

 

「へぇ~、スバルも中々やるじゃない!まあ、私の芸にはまだまだ及ばないけれどもね!!」

 

「お前のは消した物を無くすから、スバルの手品よりも酷いけれどな」

 

「はぁ~!?本当に消す方が凄いんだから!あんたこそ芸ってものを勉強したらどうなのよ!」

 

 相変わらずギャーギャーと言い争うアクアとカズマ。

 

「ちっ!喧しい。アインズ様、やはりあの者達は少し黙らせてやりましょう」

 

「よせ、アルベド。別に騒がしくする程度は問題ない。ここは寛大な心で見逃してやれ」

 

「はっ!かしこまりました」

 

 アインズに言われ、アルベドが大人しくなる。

 そんなやり取りを横目にヴィーシャがターニャに喋りかける。

 

「やっぱり、アインズさんって大人っていうか、貫禄が凄いですね」

 

「だな。あれぞまさに出来る大人の見本というやつだ。貴官も少々カズマ達っぽいところがあるからな。今後はアインズ君を参考にして、大人な女性を目指そうではないか」

 

「しょ、少佐~!」

 

 ターニャはヴィーシャにアインズを見習うようにアドバイスを送る。

 当の本人は不服ですとばかりに声を上げるが、その声に込められた意味を理解しつつも素知らぬフリをした。

 

 そして、スクリーンの中でもう既に迷子の子の親を見つけたスバル達。

 だが、結局目的の失せ物の情報は見つからず、橋の上で途方に暮れていた。

 

『だいぶ遠回りになったけど、どんなメリットがあったと主張するんでしょーか?』

 

 川の風景を見ながら、スバルの嫌味っぽいからかいの問い掛けに、エミリアは実に清々しいこう答える。

 

『簡単よ。これで私たちは気持ちよく、捜し物の続きができるでしょ?』

 

 そのあまりにも誠実過ぎる答えに、映像越しに見ている者達は苦笑、呆れ、感嘆の様々な反応を示す。

 

『それよりどうして手伝ってくれたの?スバル、反対してたのに』

 

『手品を見せびらかしたかった、ってーと嘘になんね。言ったろ?一日一善!』

 

『じゃあ、一善は済んだんじゃない?』

 

『正論すぎる切り返し!いいことは何回やってもいいじゃん。明日の分の前倒しだよ』

 

 エミリアもエミリアなら、スバルもスバルでかなりのお人好し発言に、もはや苦笑しか浮かばない。

 

『悪い子じゃないのよね……』

 

『何で年下扱い?そこまで年の差無いと思うぜ?』

 

『その予想当てにならないと思う。私、ハーフエルフだから』

 

『どうりで可愛いと思った!エルフは美人ってのはお約束だもんな!』

 

「──っけ!」

 

「態度が悪いですよ、カズマ」

 

 学友の甘酸っぱいラブコメを見せられて、舌打ちするカズマにめぐみんが注意を促す。

 さっきのように稚拙な行動を取らないのは、アルベドの脅しが効いたからなのだろう。

 

「羨ましい……、俺には駄女神、頭のおかしい魔法使い、使えないクルセイダー。そんな色気のないパーティーしかいないのに……」

 

「なんか言った、カズマ?」

 

「いま頭のおかしい魔法使いと聞こえましたが……」

 

「こ、こんな時に罵倒攻めとは……!!っくぅ!!!」

 

 カズマの愚痴を拾ったアクア、めぐみん、ダクネスはジト目でカズマを睨む。

 そんな残念なパーティーメンバーを余所に、映像越しに甘い異世界生活を送る今のスバルを殴りつけたいというカズマの念が届いたのか、宙に現れたパックがスバルの横顔に猫パンチをかました。

 

『ていっ!!』

 

『痛っ!!急に何すんの?』

 

『何となく堪えがたいムズムズ感を形にしたくて。怒って叩いた訳じゃないよ。むしろ、その逆だね』

 

「もっとやってやれぇ!パック!!!」

 

 映像越しの猫パンチとはいえ、スバルが殴られてちょっとスッキリするカズマ。

 

 そのまま、映像内でなんやかんやありつつ、手掛かりを探るために盗まれた現場に舞い戻るスバルとエミリア。

 

『そんな訳でどうやら現場はこの辺りだったらしく、俺に任せろと勇ましく宣言して戻ってまいりました果物屋!』

 

『何だ?客かと思ったらまたお前かよ一文無し』

 

 最初に見せられたスバルの問題行動のシーンの1つに登場したバンダナを付けた強面の果物屋の店主が、迷惑そうな顔で低くドスの利いた声を発する。

 

「俺らのいた世界にもああいう顔のおっちゃんはいたけどさ。なんでああいう顔に似合わない職に就いてんだ?」

 

 カズマの脳内で妙に意味深で達観している荒くれ者のおっさんを重ね合わせる。

 

「確かに、こっちの世界のお肉屋さんに勤めているおじさんも怖そうな見た目でしたものね」

 

「そういわれれば、異世界では顔と中身が一致しないのが当たり前なのか?」

 

 カズマの疑問にヴィーシャが同調して頷く中、ターニャもファンタジーな異世界の在り方に疑問を抱いているようだ。

 

『いいのかよ、そんな態度で。お得意様候補を連れてきてやったんだぜ?』

 

『あの、スバル。変に期待してくれてるけど、私もお金持ってないわよ』

 

『え、あれ、マジで!?じゃあ何、素寒貧と無一文で大都市歩いてたの!?』

 

 実に呆れかえるマヌケな2人に、全員が本当にこの先大丈夫なのかと心配して見ていると、通りの向こう側から幼い少女の声が響く。

 なんと驚いたことに、先程助けた迷子の子は果物屋の店主の娘だったようだ。

 事情を聞かされた店主は気まずそうに頭をカリカリと掻くと、スバルとエミリアに向き直ってこう告げる。

 

『すまなかったな。娘の恩人だ、礼がしたい。何でも聞いてくれ』

 

 それを聞いて驚くスバルに、エミリアは得意げな顔で胸を張る。

 

『ほらね!ちゃんと巡り巡って、私たちの為になったじゃない?』

 

「ふふ、流石ですね……」

 

「おやおや、セバス。今回は偶然の出来事。確かに今回は合理性に勝ったのは事実ですが、それだけで私の考えが貴方の考えよりも劣っていると考えるのは少々早計かと存じますよ?」

 

「ええ、分かっておりますとも。しかし、今回の一件もあることですし、今後は感情による行動を馬鹿にせず、もっと寛容に受け止めることをオススメしますよ、デミウルゴス様」

 

 再び犬猿の関係を見せる両者だが、先程アインズに注意された手前もあってか、これ以上の事態の発展に進むことなく、互いの意見を表面上は受け取ったような形で終了した。

 

 果物屋の店主からの推測でエミリアの大事な物を盗んだ犯人は貧民街にいるだろうと聞き出したスバル達は、その足で犯人を捕まえに向かうのだった。

 そして、場面は貧民街へと移る。既に辺りの風景は夕暮れに染まり、貧民街の路地は酷く陰気な印象を受ける。

 しかも、最悪なことにパックが眠そうな声で時間切れを告げる。

 

『進むにしても戻るにしても、決断は早めにね。僕はそろそろ時間切れだ』

 

 時間切れという単語に疑念を籠めた目を向けるスバルに、パックがのんびりとした声で説明する。

 

『僕は精霊だからね。表に出てるだけで結構マナを使っちゃうんだ。だから、夜は依り代の結晶石に戻ってお天道様が出てる間に備えてるんだよ。まぁ、平均的には九時から五時が理想かな』

 

『九時五時とか公務員みてぇだな』

 

「俺なんか朝の4時起きの深夜残業ありだったからな~」

 

「アインズ様?」

 

「ん!?ああ、すまない。気にしなくてよい」

 

 スバルのツッコミにアインズが反応し、何事かと問いかけるアルベドを誤魔化す。

 

『それより、どうやってフェルトを見つけるかだ』

 

『微精霊に聞いてみる』

 

『微精霊?』

 

『微精霊はまだ精霊になる前の存在。成長するとパックみたいな立派な精霊になるの』

 

「つまり俺らの世界でいうところのパックが冬将軍で、微精霊が雪精みたいなもんか」

 

「ちょっと、あの恐ろしいモンスターとあんな可愛い子を一緒にしないでよ!」

 

 エミリアの丁寧な説明に、カズマが知っている自分の世界のモンスターに当てはめて納得する。

 それに対するアクアの抗議の声に、カズマは面倒くせぇ~と顔を顰めた。

 

 そんなやり取りの中、スクリーンの画面の中では微精霊達がエミリアに集まりだし、淡い光が浮かび始める。蛍の光のように儚い明かりが、幻想的な情景を生み出していた。

 

「ほぉあ~、凄い綺麗ですね、少佐」

 

「だな。まるで童話に登場する妖精のようだ」

 

「いいかアクア、ああいうのが女神とか呼ばれる存在だからな」

 

「ちょっ!?それって私に対してすっごく失礼なんですけれども!私本当に女神なんですけれども!?」

 

 幻想的な光景を目の当たりにして、感嘆の声を上げるヴィーシャとターニャ。そしてカズマはからかうようにアクアにあれが女神の姿だと教えるが、アクアは烈火の如く怒り出す。

 

 そして画面の中ではとっくに日が沈み、月が明るく照らす夜中になっていた。

 途中で遭遇した貧民街の住人から有力な情報を手に入れて、2人はようやくのことで盗んだ犯人の根城らしき盗品蔵と呼ばれる場所に辿り着いた。

 

『盗まれた物を返してもらうのに、どうしてお金を払わなきゃいけないのかしら』

 

『まっとにかくここは俺に任せてくれ』

 

『分かった。スバルに任せてみる』

 

『そりゃ簡単に頷けないのはわかるよ。ここまでの俺が君の信頼を勝ち取れるような行動してないのは自分でわかってるから。でも、考えがあるから信じてみてって……えええええ!?』

 

 意外にもスバルの提案を素直に受け入れるエミリア。

 当のスバルもここまで簡単に信用されたことに驚きの声を上げる。

 なんにせよ、スバルが様子見で最初に盗品蔵へ入ることになった。

 

『サテラも俺が声かけるまで入っちゃダメだぜ』

 

『徽章を取り戻せたら、ちゃんと謝るから』

 

「少佐、これってエミリアさん」

 

「恐らく、後でサテラは偽名だとバラすつもりなのだろう。まあ、ここに至るまでの道中でスバルへの警戒心が解けたと見るべきか。問題は、その盗まれた徽章とやらを取り返せるかどうかだが、スバルは口先は上手い男だ。なんやかんやありつつも、案外1人で本当に取り返せるかもな。なあ、カズマ?」

 

「なんでそこで俺に話を振るんですかね、ターニャさん」

 

「いやなに、カズマはスバルと似ているところがあるからな」

 

「確かに、スバルとカズマはそっくりなところが多いですからね。特に、いざって時に頼りになるところなんかが……」

 

「うっ……」

 

 ターニャの指摘にカズマが嫌そうに顔を顰めた。

 そんなカズマにめぐみんもターニャの指摘に同意するように頷くと、矛先を向けられたカズマは照れたようにプイッと顔をそらす。

 

 そんな和気あいあいとした雰囲気で語り合うなか、画面の中ではスバルが盗品蔵の中を慎重に探索する。

 っが、ここで頭の回転が早い者達は違和感に気がつく。

 玄関に人がいないのはまだいい。だが盗品を並べているというのに、不用心にも誰もいないというこの不自然な状況に、アインズやターニャは鋭い目線で事の成り行きを見守っていた。

 

『なんだ、これ』

 

 盗品蔵を探索するスバルの足元に水とは違う、赤いネチャっとした液体が広がっていた。

 慌ててスバルが手に持った光源で足元を照らすと、そこには切り落とされた腕が血だまりの中に落ちていた。

 そして次に見つけたのが、その腕の持ち主と思われる大柄な爺さんの見るも無惨な死体だった。

 

『ひ』

 

 画面の中のスバルの悲鳴と、それを画面越しに見ていた死体を見るのに耐性のない者達の悲鳴がリンクする。

 特に、こういったシリアス面とはかけ離れたカズマ達が一番反応が大きかった。

 

「か、か、カズマ……!?あれ、もしかして死んで……?」

 

「お、落ち着けめぐみん!所詮は映像だ!映像!!!」

 

「り、り、蘇生魔法(リザレクション)かけなきゃ!!?」

 

「これは流石の私でも喜べない状況だな……」

 

『──ああ、見つけてしまったのね。それじゃ仕方ない。ええ、仕方ないのよ』

 

『ぐあ──ッ』

 

 そんなカズマ達に追い打ちをかけるように聞こえてくる甘く冷たい女性の声。

 次の瞬間、画面の中でスバルが吹き飛ばされていた。

 

「少佐、これはスバルさん……」

 

「ああ、非常にマズい事態だな……」

 

 震えた声でスバルの安否を心配するヴィーシャに、ターニャは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「これは、中々に厄介な敵と遭遇してしまったようだな」

 

「あ、あの、これってスバルって人が殺されちゃうんじゃ?」

 

 マーレがおどおどした声でアインズに問いかける。

 

「いや、まだそうと決まった訳ではない。スバルは生きているようだ」

 

 アインズが指差すスクリーンの中では、うつ伏せに倒れて口から血を吐きながらも、僅かに動きをみせるスバルが映っていた。

 それにこれはナツキ・スバルの人生上映会とアナウンスが説明していた。ならば、生きたスバルと自分達が会話した以上、ここで死ぬことはないだろうとアインズは判断する。

 

 だが、この判断はすぐに覆されることになる。

 

『スバル?』

 

 先程の騒動の音による異変を聞きつけたエミリアが、盗品蔵の中に入ってくる。

 すぐさまスバルはここは危険だと知らせようと口を開こうとするが、声の代わりに血が吐き出される。

 そこでようやく、自分の腹が切り裂かれていることに気が付く。

 

『───っ!』

 

 短いエミリアの悲鳴が聞こえたと思えば、倒れる自らの視界に血溜まりの中に沈むエミリアの姿を捉える。

 

『……っていろ』

 

 必死になって手を伸ばし、血まみれの自分の手がエミリアの白い手と絡む。

 

『俺が、必ず──』

 

 ──お前を、救ってみせる。

 

 最後まで声に出せずにナツキ・スバルは命を落とした。

 

 そうして、スクリーンは何も映さなくなり、真っ暗な画面だけが残った。

 

「え?はっ……、どういうことだよ?スバルは?エミリアはどうなっちまったんだよ!?」

 

「まさか、本当に殺されてしまったとでもいうのか?」

 

「これは一体どういうことだ?」

 

 まさか過ぎる展開にカズマ、ターニャ、アインズが混乱し、今の映像の真意を探ろうと思考をフル回転させる。

 

 だが、そんな3人に思考させる暇を与えないかのように、スクリーンは再び映像を映し始める。

 

『──どうしたよ、兄ちゃん。急に呆けた面して』

 

 ぼやけた映像が段々とハッキリしていくと、あの果物屋の店主がリンガを持って話しかけていた。

 

『は──?』

 

 状況がよく理解できていないのか、店主の声もなんだか遠くから聞こえてくるように感じたスバルが聞き直している。

 

 だが、この状況をよくわかっていないのは何も映像の中のスバルだけではない。

 先程のスバルとエミリアが殺された映像を見せられた者達も同じ気持ちだった。

 

「え?これって、もう一回さっきのを見ろってことか?」

 

「いや、このシーンと似たような場面はあったが、その際にスバルがあの店主の言葉を聞き直している場面は存在しなかった」

 

「まさか、スバルは蘇った……ということになるのか?」

 

 あれはただの人間ならば間違いなく致命傷だった。

 だというのに、こうして生きているということは何者かがスバルを蘇生させたということだろう。

 

『え?──どゆこと?さっきまで夜だったよな……?』

 

 この異常を感じているのは画面の中のスバルも同じようで、自分の腹を確認して切り裂かれていないことを確かめる。

 空を見上げれば月の代わりに太陽が昇っており、まるでさっきまで夢を見てたんじゃないかと惚ける。

 

「これは本当に、どういったことなのでしょうか?」

 

「分からん。が、今はスバルが無事だったことを喜ぼう」

 

 意味不明の事態に困惑するめぐみんに、ダクネスが今だけはスバルの無事に安堵しようと告げる。

 

『そうだ、サテラっ!とにかくあの店に戻らないと!』

 

 そうして、皆の疑問を余所に、画面の中のスバルは盗品蔵に向かおうと判断した。

 

 




1万文字を越えてしまった。
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4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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