いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
平日は仕事の残業で執筆の時間が少なく、休日はワイルズのアプデのせいで出来ませんでした!!!
「先制攻撃は取れたが、あの巨体相手にはなしのつぶてだな」
「だが、落ちかけていた兵士の士気は大きく盛り上がった。結果的に見れば満点の成果だな」
奇襲に成功したものの、白鯨にとってはかすり傷程度のダメージに尚文は攻撃力の低さを嘆くように呟くが、集団戦闘において、兵の士気の高さがいかに戦況を左右するかを、この中で最も理解しているターニャはそれで十分だと頷く。
事実、これにより士気を盛り上げた討伐隊が大砲のような物を使って、白鯨に砲撃を浴びせる。
着々と白鯨攻略の為の土台が形成されていく。とはいえ、未だ白鯨は宙に浮き続け、落下するような兆候は見えないでいる。
「まずは順調といったところか……」
「問題は、白鯨の攻撃に対して上手く対処出来るかどうか。あの消滅の霧を躱せなければ、部隊の壊滅は必至だぞ」
事前打ち合わせ通りに、白鯨を攻めていけているが、ゲーム内とはいえ大型モンスターを討伐することの経験のあるアインズと尚文はここからの展開次第で逆転されることは大いにあり得ると予想する。
そもそも、先代の剣聖を殺したとされる白鯨が、このまま何も出来ずに打ち倒される程、弱い存在なのかという懸念があった。
『なんて、でかさだ……』
照明弾のようなものが打ち上げられ、昼間のような明るさの元で白鯨の全体像が明らかになった。
鯨にあるまじき無数の牙と、魔獣を象徴する巨大な角。そして何よりその体長は30メートルをゆうに超えており、50メートルというまさに化け物というのに相応しい大きさとその姿に、スバルは震えるような声で呟く。
それはスバルだけでなく、過去に同じ様な大きさのデストロイヤーを討伐した経験のあるカズマ達も思わずその巨体に声を上げていた。
「デッケェ~!?あんな大きさが空に浮くとか、マジでファンタジーだな……」
「あれ程の巨体に我が爆裂魔法をぶちかませればどれだけ気持ちいいことか……!!」
「あの凶悪な牙に、鋭利なヒレ、そして全てを押し潰すかのような巨体──ゴクッ!!」
「はんっ!海洋生物が宙に浮くなんて生意気ね!海の生き物なら大人しく海の中でも泳いでなさいっての!!」
カズマらが思い思いの感想を抱き、それを吐露し続ける中、それを直に見て震えているスバルにレムが気遣ったように声を掛ける。
『スバルくん、恐いですか?』
『ああ、恐いね。──あれを倒して賞賛される、俺の未来の輝きっぷりが!俺の命は全部預ける!さあ、逃げまくってやろうぜ!』
『レムの命も、スバルくんのものです。──では、そうしましょう』
まさに主人公とヒロインのムーブに、カズマらを筆頭にニヨニヨと笑顔で見守っている。
『余所見とはずいぶんと、安く見られたものだ──!!』
スバル達の方にタゲを取った白鯨にクルシュの斬撃が真一文字に浅く切り裂いた。
「おお!飛ぶ斬撃とか、クルシュさんって剣の達人かなんかだったのか!?」
『射程を無視した無形の剣──百人一太刀で有名な、クルシュ様の剣技です』
興奮したカズマの言葉に偶然答えるように、レムがクルシュの技と経歴を解説する。
その説明にカズマは、なるほどと納得し、剣を使用する何人かが興味深そうに耳を傾けている。
とはいえ、それで白鯨を倒せる筈もないが、次々と追撃で撃ち込まれる砲撃が効いているのだろう、忌々しそうに白鯨がクルシュ達の方へタゲを移動させて突進してくる。
『散開』
集まっていた部隊に散開の合図を出すと、その奥からヴィルヘルムが地竜に跨り駆け抜けてくる。
その高度が遂に地面へと接触する程になり、大口を開けてやって来る白鯨の目の前にヴィルヘルムが立ち塞がる。
『──十四年、ただひたすらに、この日を夢見てきた』
映像越しでも分かってしまうその剣気に、脆弱な者は背筋を凍らせた。
『ここで落ち、屍をさらせ。──肉塊風情が』
自身の跳躍のみで白鯨の上空を取り、その手にした剣で白鯨の頭部を深々と突き刺した。
その突き刺さった部分から溢れんばかりの血が吹き出し、傷の痛みから白鯨が苦しみの咆哮を上げて空へ再び身をよじるように浮かび上がる。
自身の背に乗ったヴィルヘルムを振り落とさんと空中でバレルロールを行うも、その動きに振り落とされることなく、ヴィルヘルムは白鯨を解体せんと突き刺した剣を抜くことなく、そのまま肉を削ぎ落すように剣を突き立てたまま白鯨の巨体の上を走り抜けた。
『わざわざ斬られにくるとは協力的でけっこう』
その雄叫びと共に、白鯨の背に無数の傷痕をつけてまわり、遂には白鯨を地面へと墜落させることに成功する。
「す、すっげぇ〜!マジで達人って感じだ!!!」
元の世界で見ることのないチートや火力に頼らない、鍛え抜かれた技量による剣撃にバトル漫画が好きなカズマは目をキラキラと輝かして感激していた。
いや、カズマだけではない。ヴィルヘルムの剣技にはその道に携わる者は目を奪われる程の技量があった。
「あんな風に剣を扱えるだなんて、私も尚文様の剣として負けていられません!」
「アノ剣ノ冴エ、更ニハ暴レ回ル白鯨ノ上デ剣筋ニ一切ノ乱レヲ見セヌ体幹、共ニ見事ナリ!流石ハセバスガ認メタ男トイッタトコロカ……!!」
「っく!私もあのように剣を振る事が出来たならば!!」
負けられないと奮起する者、その剣技と身のこなしに興奮する者、そして憧れの感情を抱く者、様々に感情を昂らせていた。
ヴィルヘルムの猛攻に怒る白鯨だが、相手はヴィルヘルムだけではない。
『よそ見すんなや、ダボがぁッ!!!』
続くように鉄の牙の追撃、クルシュの斬撃、討伐隊の魔法攻撃と次々と強力な攻撃が決まっていく。
『かなり効いた感じがするぜ!このままいけるんじゃねぇか!?』
「だよな!初見クリアもあり得るだろ!!」
「いいや、まだだ。よく見ろ、佐藤カズマ」
白鯨に反撃を許さず、全ての攻撃が決まり勝利目前の光景を前に、高揚したスバルの出した言葉にカズマも興奮したように同意の声を上げる。
しかし、ターニャは鋭い視線を映像に向けたまま、カズマの言葉を否定する。
そんなターニャに同乗するような形で、レムが悔しげに呟いた。
『いいえ。──本当なら、今ので地に落としてしまいたかった』
『高度は……下がってねぇ』
「なっ!?あんだけのダメージを受けてまだ落ちねえってのかよ!?」
「確かに、目に見える傷は大きいかもしれんが、あの巨体ならば、人間に置き換えると皮膚を切られ火傷を負ったようなものだ。まだ骨まで断てていない現状では、討伐は終わらないだろうな」
未だ宙に浮かぶ白鯨にカズマが驚く中、ターニャは冷静に白鯨の状態を分析してそう結論付ける。
それを隣で聞いていた帝国軍人らは不安そうな表情を顔に貼り付けながら、無意識に拳を強く握りしめていた。
『ひと当たりしてみた感じやと、分厚い肌の下に攻撃通すんは楽やないな。ワイの獲物みたいに力ずくか、ヴィルはんぐらいの技量がないとじり貧や』
『物理攻撃はそうかもだけど、魔法攻撃は通ってる感じに見えるぜ?』
『それも微妙なところです。一見、派手に攻撃が当たっているように見えますけど、肌に生えている白い毛がマナを散らして威力を減衰させています。見た目ほど、レムの攻撃も通っていません』
「ふむ、物理攻撃は分厚い皮膚が、魔法攻撃は白い毛が軽減しているというわけか。しかし、この一連の流れ、これをどう見るアインズ君?」
「む?そうだな。あまりにも順調過ぎる……といったところか」
いきなりのターニャからの投げかけに、アインズは困惑することなく顎に手を当てて考え込む。
政治や複雑すぎる人間関係など、そういった部分に関してアインズはアルベドやデミウルゴスに任せっきりな面もあるが、こと戦闘面に関してはユグドラシルでの知識がある為、元々の地頭の良さで淀みなく答えることが出来る。
「順調の何がいけないんだよ?」
「白鯨は先代の剣聖を殺した存在だぞ。兵の士気ってのはこういった状況から切り崩されて逆転された時が一番落ちやすい。白鯨に一発逆転の持ち札があるのが明白な現状、初手の奇襲からの連携で一気に決めきれなかったのが痛いという話だ」
「ほ~ん、なるほどな……」
尚文の補足説明に、カズマは納得いったように頷く。
確かに、白鯨を討伐する上で最大の難所が、この初手で仕留めきれなかった場合だ。
それを考えれば、今回の奇襲からの連携攻撃は完璧に近い出来だったはずだ。しかし、結果として白鯨は未だに健在であり、中途半端な攻撃で白鯨を怒らせてしまっている。
「だがまあ、そこまで心配はしてない。白鯨の持つ手札は未だ不明だが、肝心のスバルが諦めていないからな」
「ふっ、随分とまあ評価が高いのだな、アインズ君。まあ、かくいう私もナツキ・スバルには期待しているがな。本当に……成長する事の出来る人間の眩しさというものは、こうも目を焼かれるものなのだな」
映像の中で何も出来ずに歯がゆそう見ているだけのスバルが映るが、その顔に諦めや絶望はなく、アインズが好む人間性に溢れた輝きが宿っている。
だからこそ、アインズはスバルが白鯨を討伐することの出来る可能性を信じ、笑みを浮かべる。
ふと視線を動かせばターニャも同じように優しげな笑みで映像を眺めていた。
『心境に変化とかあった感じがするネ、スバルきゅんてばなにがあったの?』
『しいて言えば、ちょっちマシな男になったんだよ』
「教えてやりたいよな。スバルがどんだけ頑張ったのかってのを……」
「それはスバルが嫌がるだろ。アイツ、ああ見えて自己評価が低いから、自分の犠牲を知られるのをヨシとしないタイプだぞ」
「むっ!まあ、そう言われるとその通りなんだが……」
どれだけスバルが体を張って挑み続けていたのか、それを暴露してやりたいとカズマが言うが、それを尚文が止めるように口を挟む。
確かに、スバルはそういうタイプだとカズマも納得しがたい表情を浮かべながら、映像に視線を戻した。
『ヴィルヘルム様が──!!』
レムの叫びで映像が白鯨に攻撃を仕掛けるヴィルヘルムへと切り替わる。
先程と同様に、頑丈な白鯨の皮膚を紙でも切り裂くかのように走り抜けながら裂いている。更に、それだけにとどまらず、白鯨の左目を剣1本で抉り取った。
「へぇ、人間にしては中々の強さでありんすね」
「だね。油断をすれば我々といえど足元を掬われかねない実力者だ。シャルティアも、気を抜くような真似はしないでくれたまえよ」
「も、勿論でありんす!アインズ様にもう二度とご迷惑をお掛けする訳にはいかんでありんすからね!」
以前の洗脳のことを
『──無様』
妻の仇の無様な様を笑うヴィルヘルムに、今の壮絶な無双っぷりを見ていた者達がまさに剣鬼のような迫力に、知らず知らずのうちに恐れ慄いてしまった。
だが、その感情は白鯨の次の行動で綺麗に消えてしまう。
『白鯨の目の色が……!』
『くるよ!!』
『スバルくん、頭を下げていてください──!!』
今までの怒りからくる咆哮ではなく、全身から無数の口が生じ、それが一斉に歯を剥き出して吠えたのだ。
それは映像越しでも分かるほどに大気を揺らし、思わず耳を塞ぎたくなるほどの大音量が部屋中に響いた。
「うっ、うるせぇぇぇ!!!」
「今までの咆哮じゃないぞ!?」
「あ、頭に響く!?」
「っく!これは攻撃なのか!?」
まるで音の暴力とでも比喩すべき音量に、誰もが耳を塞いでうずくまった態勢を取る。
今までなかった物理的ともいえる影響に、誰も彼もが驚きを隠せないでいた。
やがて、白鯨の咆哮が止むと部屋に鳴り響く音も消え、ようやく耳に当てていた手を離しだす。
「な、なんだったんだ?」
「ただの音量のバグというわけではなさそうだが……」
訳が分からないと言った表情をするカズマに、同じくアインズも困惑しながら考え込む。
そんな中、現状を確認するように尚文が口を開いた。
「耳鳴りがする程度の被害しか出てないが……。おい、ラフタリア、フィーロ、大丈夫か!?」
「えっ、ええ、耳がかなり痛いですが、鼓膜は破れていないようです」
「お耳がキーン!!ってするの!!」
どうやら、人よりも耳のいい亜人とフィトリアは尚文達よりも耳に受けたダメージは大きいようだが、実害と言える程のダメージはないようだ。
「がぁぁぁっ~~!!!ひっどい音っす!?まだ耳の奥で鳴り響いてる感じがするっすよ」
「大丈夫、ルプー?」
「あなた人狼だもの、聴覚が優れてるから、今の音はキツイでしょう」
耳を塞ぎながら悶えるルプスレギナに、エントマとソリュシャンが心配そうに声をかける。
他に被害の出ている者はいないか周りを確認してみるが、大きく被害を受けたのは聴覚が優れている者だけで、その者らも鼓膜が破れたりなどといった深刻な被害は出ていない。
こうなると、今の音はやはり攻撃ではなく、白鯨の咆哮をリアルに再現しただけなのだろうか。
そう思い、映像の方に視線をやると、白鯨が次の行動に出ていた。
『やべぇ、霧が……ッ!』
『──スバルくん、レムに命を預けてください!!』
街道に蔓延する霧のせいで、すぐ目の前にいるレムの姿以外、誰の姿も見えないでいた。
さらに厄介なことに、あれ程の巨体で目につきやすかった白鯨が、霧と同化してその姿を溶け込ませている。
「ついに白鯨の反撃が始まったか……」
「ただでさえ決定的な有効打がヴィルヘルムの爺さんの剣撃だけって状況だってのに、これじゃあ……」
白鯨が霧と同化して姿をくらましたことで、今後の展開にアインズと尚文が不安げに呟く。
事実、霧ばかりを映す映像の中から、討伐隊の悲鳴がしきりに響き渡ってくる。
ただ見ているだけの自分たちでさえこうも不安に駆られてしまうのだ。生身であの霧の中を突っ走っているスバルは一体どれだけの精神負荷を負っているのだろうか。
『うお!?』
直後、地竜が霧の中で何かを察したのか、進む方向を転換した瞬間、先程までスバル達が走っていた場所を白い霧が地面を抉る勢いで吹き抜けた。
「あれが霧!?ほとんど質量兵器の類ではないか!?」
抉り取られた地面の跡を見て、軍人であるターニャは驚愕の表情を浮かべる。
もしもあれを兵器運用することが出来れば、どれだけの成果を生み出すことが出来るのかと捕らぬ狸の皮算用だと理解していながらも、つい頭の片隅で考えてしまう。
『────せぇい!!』
クルシュの気合いが込められた声と共に、視界を覆っていた霧が晴れる。
見ればクルシュが剣で霧を振り払った様子が見える。
『──何人がやられた?』
『我が隊の隊員数は十二名──三人、足りませぬ』
『……誰がやられた』
『わかりませぬ……!』
「なるほど、あの霧でやられた者は存在を消されるという訳ですか。確かに、出現する時間も分らないまま濃い霧の中であの奇襲を受ければ剣聖も倒しうる可能性はありますが──」
「その剣聖の記憶がある以上は、あの霧の攻撃でやった訳ではないのだろうな。何よりも、地竜ですら事前に察知して回避出来たのだ。剣聖がみすみすと回避し損ねるとは思えんからな」
今の一連のやり取りから見いだせる情報を整理するデミウルゴスとターニャ。
確かに、白鯨の霧は恐ろしい能力だが、それだけで剣聖を倒せるとは到底思えない。
では、他に何があるというのか? そう考えた瞬間、再び映像に動きがあった。
『────ッ!!!』
「また白鯨の咆哮か!?」
「だが、今度のはまるで金切り声のような音だ!!」
先程の爆音と違い、今度は黒板をひっかいたような音に尚文とターニャが耳を押さえて映像を見る。
そこには明らかな異変が起こっており、倒れた兵士にスバルが駆け寄ると、まるで錯乱したかのように自身の顔を掻き毟って血を流していたのだ。
いや、その男だけではない。辺りに倒れた兵士の中には泡を吹いている者や、自傷行為を繰り返す者もいた。
「なっ!?この光景、あの咆哮のせいか!?」
「恐らく、今の咆哮には
映像の中で広がる惨状にカズマが叫ぶように戸惑いの声を上げる。そんなカズマの困惑を解消させるように、アインズがユグドラシルのゲーム知識に当てはめて推測を語る。
確かに、この光景はアインズの言う通り、恐怖によって引き起こされた惨劇だと言えるだろう。
『おい、レム!?』
『今の声で霧が精神に直接……っ!?マナ酔いに似ていますけど、ひどいっ……!』
「なるほど、咆哮はきっかけであって、霧と併用することで強力な精神汚染が発生するということか」
レムの言葉で、ターニャは白鯨の咆哮の効果の正体に思い至る。
「もしこれが霧が発生し続けている間ずっとこの状態だとすると、咆哮だけで恐慌状態にされるよりも厄介だな」
確かに、尚文が言う通り、咆哮の効果だけで恐慌状態に陥るよりも霧が発生し続ける限りだとするならば自然回復も見込めないだろう。
『殺すよりケガ人出す方が戦線を崩壊させやすいってのは聞いたことあるが……それを怪物がやりやがるかよ』
「そうなんでありんすか?」
「場合によるね。多少の怪我ならば回復魔法やポーションで回復できる為に崩壊まではいかないだろうが、相手のMPの枯渇を狙ったり消耗品を消費させるという目的ならそれもアリだろうね。ああ……、後は回復手段が乏しい下等生物なんかの戦場ならば、今スバルが口にしたやり方は非常に有効だろうね」
スバルの言葉に疑問を覚えるシャルティアが首を傾げて知恵者であるデミウルゴスの方を見る。
それに対して、
現実世界基準で考えるのならばスバルの言葉の方が正しいのだが、一瞬で回復してしまう手段のある異世界ならばそういった策は下策になりえてしまうのが世界観の違いだろう。
『──ふぅ』
立ち上がり自分の心臓に手を当てるスバル。その顔には焦りや緊張といったものはなく、ただ覚悟を決めた男の顔が貼り付けられていた。
「なにするつもりだよ、スバル」
いや、今迄のスバルのやり方を知っている自分達なら既に何を考えているのかは予想がついている。
それは疑問を口にしたカズマだって本当は分かっている。分かっていて、それでもその言葉を口にしたのはある種の現実逃避に近いものだろう。
『レム……、俺と一緒に一番危ないところに付き合ってくれ』
『はい。──どこまでも』
「まったく、自分に惚れている相手にそんなセリフを吐くなんて。殺し文句もいいところだわ」
自分で振った癖にと思いながら、アルベドはため息混じりに呟く。
本当に厄介な男に友人は惚れてしまっているようだと、アルベドは今この場にいない友人の微笑む顔を思い浮かべながら、心底同情の念を送る。
『クルシュさん!俺が白鯨を引きつけて時間を稼ぐ!その間に態勢を立て直してくれ!!』
そう言うやいなや、乗った地竜を走らせて討伐隊から離れていく。
そして、今この場で口にしてはならない禁句を叫ぶ。
『──俺は『死に』
戻りをしていると言いかけた途中で、世界がいつもの通りに停止した。
だが、いつもと違うのは、スバルの背後に現れたのは黒い手ではなく女性と思わしき誰かの口元だった。
「今のは……!?」
「黒い手の変わりに現れた女性と思わしき存在。考えられる人物は1人だな」
「嫉妬の魔女か。そしてスバルに何かしら囁いているようだったが、声は聞こえなかったな」
「ふむ、恐らくですが、口の動きからして『愛してる』そう囁いたのではないでしょうか」
急に現れた謎の人物に困惑するカズマ。だが、あの状況であるならばと、即座にアインズとターニャは謎の存在の正体に思い当たった。
そして、映像だけで音声は入っていなかったあの囁きをデミウルゴスは読唇術でその内容を読み取る。
「じゃあなにか?嫉妬の魔女ってのは、スバルに何かしら目的があって死に戻りの力を与えた訳じゃないのか?」
「さあ、そこまでは測りかねますが。今までスバルが何度もあの力に助けられた事実を見れば、もしかすればただ単純に愛しているから力を貸している可能性も出てきますね」
「だとしたら、なんで死に戻りを口にしようとしたら邪魔してくるんだよ?そこはおかしいだろ!?」
「そうか?もし嫉妬の魔女がその名の通りに嫉妬深い女だとしたら、自分とスバルの間にある関係を知られたくないと枷を嵌めているのも納得だぞ」
読唇術で得た情報から尚文は疑問を覚えるが、デミウルゴスがもしもの可能性を提示する。
しかし、それに矛盾を覚えたカズマが切り込むが、人間の感情の不合理さという恐ろしさを知るターニャはさほど不思議ではないと返す。
『ウルガルムのときを思い出すと、森全体をカバーくらいの効果があったけど今回はどうだ……正直、未知数なんだが』
『──いえ、来てます!』
『マジかっ……!!』
後ろを振り向くが霧に覆われているせいで白鯨の姿は見えない。
いつ襲い掛かってくるのか、ハラハラとホラー映画を視聴するかのような心境になりながら、この先の展開を見守り続ける。
『ウル・ヒューマ!!』
突如として、目の前の霧の中から大口を開けて現れた白鯨に、レムは魔法で即座に白鯨の口の下に氷の槍を出現させて無理矢理に閉じさせた。
ナイスファインプレーと褒めたいところだが、そういった事を言いそうな者達は今の白鯨の急な登場の仕方に言葉を失っていた。
「こ、怖えぇ~~~っ!!」
「私、心臓が飛び出るかと思っちゃったわ!?」
「本当に、ああいう出現の仕方は心臓に悪いですよ」
「む、胸がドクドクいっている。こんな感覚は久しいぞ!」
ホラー映画ばりの演出にカズマ達は肝を冷やしている。
いや、カズマ達だけではない。尚文達のところではラフタリアとフィーロが震えており、ターニャ達のところもヴィーシャとグランツが悲鳴を上げていた。
この中で唯一白鯨の出現に驚いていない陣営はアインズのところのみだった。
『りぁぁぁぁぁ──ッ!!』
至近距離でレムの魔法を受けても止まらない白鯨にヴィルヘルムが雄叫びと共に現れて白鯨に剣を突き立てた。
いや、ヴィルヘルムだけではない。白鯨の精神汚染に感染していない鉄の牙の連中も参戦してきた。
全身をヴィルヘルムとリカードに傷つけられようとなお、白鯨はスバルを追って動き続けている。
『余所見など、つれないことをしてくれるな。私は十四年前からついぞ、貴様に首ったけだというのに』
その声に怒りを滲ませながらも、表情や行動は冷静そのもので、流石は歴戦の強者と感服する。
特に、セバスやコキュートスなどの武人肌の者はその心構えといえるそれにいたく感心している。
『楽しなってきたわ! 思ったより頑丈やけど、大したことないわ!』
『いや……少々、手応えがなさすぎる』
ここでようやくヴィルヘルムもアインズ達が懸念していた白鯨の弱さに疑問を覚えた。
『この程度の魔獣に妻が……剣聖が遅れを取ったとは考え難い。機先を制せたことや、最初の時点の霧で分断されなかったことを考慮しても……』
「やはり、当事者もそこに疑問を抱くということは、先代の剣聖は肩書だけの名ばかりではなく、本物の実力者だったというわけか……」
「だとするならば、やはり白鯨は切り札を隠し持っているということだな」
ヴィルヘルムの考察にターニャが内心で思っていた疑問が1つ解消された。
しかし、そうなると白鯨はやはり何かしらの切り札を有しているとアインズが呟く。
剣聖という最強の存在を倒した白鯨に切り札があるとすれば、それは一体なんだろうか。
それが分らなければこの戦いは敗ける可能性が高いだろう。
その考えに行きついた直後、白鯨は上空を目指して飛び上がった。
霧の上に逃げた白鯨を警戒して一塊になったスバル達目掛けて消滅の霧が上から降ってくる。
突然の攻撃に慌てて散開して霧の直撃は避けるが、その余波に皆が吹き飛ばされる。
慌てて起き上がって主戦力となりえる面々を確認すると、スバルの視界の先に花に気を取られているヴィルヘルムがいた。
『逃げろ──!!』
『ぬ──!?』
「あのヴィルヘルムの爺さんが戦場で花に気を取られていた?」
「……ヴィルヘルム殿の奥様は花を大切にしていたようです。恐らくは白鯨との戦いでより奥様のことを思い出してしまっていたからでしょうね」
ヴィルヘルムを知る尚文は花に気を取られて反応が遅れたことに疑問を覚えたが、普段の茶飲みの際で聞かされていた恋バナの中に花への思い出があるのを知っているセバスは、彼の心境を汲み取りながらも簡潔に説明した。
「あっ!ヴィルヘルムさんが!?」
地面ごと白鯨の口の中に消えていったヴィルヘルムを見て、思わずカズマが叫ぶ。
否、散ったのはヴィルヘルムだけではない。あまりの光景に喪失感から動きを止めていたスバルを庇うようにリカードが身代わりに白鯨の攻撃をモロに受けて、目の前で赤い華が散る様が映し出された。
「いかんな。主力の2人が潰された!」
「それになによりも、ヴィルヘルムが食われたということは……」
この学園でヴィルヘルムがいるということはスバルが死に戻りしたということだろうと結論が出る。
焦るターニャとアインズの目に、更なる絶望が歩み寄った。
『嘘、だろ……』
霧の上にある照明弾に照らされて、空中に3つの影が浮かぶ。
その3つはどれも同じシルエットをしており、姿だけでなく大きさも全くの同じであった。
「そんな!?白鯨は1体だけじゃねえのか!!」
「迂闊だったな。まさか白鯨が単体ではなく、群れで活動するタイプだったか!?」
まさかの事態に、カズマが頭を抱えるように叫び、ターニャもまた予想外の嫌な展開に爪を噛む。
あまりにも絶望的なこの状況、主力の2人が潰され、討伐隊の多くが恐慌状態で使い物にならない。
完全な戦力不足、白鯨1体でもこの有り様だ。ここで追加の2体を前に、どうにかできるとは誰も思わなかった。
この部屋にいるただ1人を除いて──
「いいや、まだだ!」
誰もがその声に振り向いた。その振り向いた先には、眼窩の中に宿る赤い光を爛々と輝かせながら真っ直ぐにスクリーンを見つめるアインズの姿があった。
「ナツキ・スバルはまだ諦めも絶望もしていないぞ?」
その言葉に皆が視線をアインズからスクリーンに映るスバルへと向き直った。
『──呑み込ませるな!!』
その怒号と共に、ヴィルヘルムを吞み込んだ白鯨に凶悪なモーニングスターが襲い掛かる。
『腹に呑み込まれる前なら、まだなんとかなるはずだ──!』
「まだやれるって信じてんのかよ、スバル!!」
自然と拳を強く握るカズマ。まるでその言葉が弱い心を鼓舞しているように聞こえ、何故か目頭が熱くなってくる。
「そうだな。まだ死んじまったわけじゃねえ。狼の獣人の奴もまだ原形はとどめていた。回復魔法があるなら、それでどうにか出来るだろう」
スバル達の奮闘する姿に、知らずに諦めていた尚文もまたここからの逆転の一手を考え始める。
「いやはや、まだやられたのは半分にも到底満たない数で、全滅とは程遠い状況だというのに、諦めが
ターニャもまた、まだ負けたわけではないと気持ちを切り替えた。
『まだだ!! ──まだ、なにも終わっちゃいない!!──このぐらいの絶望で、俺が止まると思うなよ!!』
まだまだここからだ。まだ終わりではないはずだ、と。そう叫ぶスバルと心を1つにしていせかるメンバーはまた希望と期待を込めてナツキ・スバルの人生上映会を見守るのであった。
『諦めるのは似合わねぇ。俺も、お前も――誰にでも!』
白鯨攻略戦──継続!
誰かハーメルンで俺みたいにナツキ・スバルの人生上映会をほかの作品のキャラに見せる小説書いてくれないかな?
例えば、カゲジツとか、ありふれとか、ダンまちとかの作品のキャラに!
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル