いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
「諦めるのは似合わないか……」
感情論だけで勝てるというわけではない。それはアインズもよく知っている事実だ。
それでも、人の強さ──輝きというものにこの短時間で魅せられたアインズは、ここからの逆転劇に誰よりも期待をしてしまう。
勿論、その感情論だけで逆転勝ちが可能とされてしまえば、かつての王国との戦争で戦ったガゼフやザナックに自分が負ける可能性もあったということになってしまう。
無論、ロマンビルドとはいえレベルカンストプレイヤーである自分がレベルが遥かに下回る相手に負けることなど万が一にもないというのは常識だが、他の異世界での常識外れを目にしてその常識の枠が少々外れかかってきているのを、アインズは自覚している。
それが非常に危険というのは、ぷにっと萌えさんからも情報の精度の大切さは十分に聞かされてよく理解している。間違った常識は誤った選択を選んでしまうきっかけになりえるのだから。
だからこそ、アインズはナザリックの仲間達にも情報の収集と分析を怠るなと口を酸っぱくして言ってきた。
そんなアインズが今、スバルという少年に何故こうも期待を抱いてしまうのか。それはきっと、アインズもまた平凡な人間でありながらも、周囲の者に過剰な期待を寄せられているということや、
まあ、本人がそれを自覚しているかどうかは別としてだが。
そして、そんなアインズの期待に応えるかのように、スクリーンではスバルが白鯨を相手に獅子奮迅の逃走劇を繰り広げている。
『今からお前の名前はパトラッシュだ!!行くぜ、パトラッシュ!鯨の鼻先でくるくる回れ!』
『グォア!!』
「パトラッシュ!スバルも中々にいいネーミングセンスしてるね!」
アウラがスバルの名付けに感心したように頷く。
スバルはパトラッシュを巧みに……は無理だが、利口なパトラッシュはスバルの操縦技術を把握して、振り落とさないように気遣っている。
「おお、あのパトラッシュって子、中々に賢いね。いつか学園にやって来ないかな?」
テイマーとしてあの地竜を世話してみたいと欲を口にする。
まあ、オットーやガーフィールのように途中で学園に来る可能性もある。アウラのその願いが叶う日もあるかもしれない。
『スバルくんの臭いを嗅ぐのはレムの特権です──!』
スバルを狙って襲い掛かる白鯨にレムが変態発言と共に攻撃をかます。
その攻撃は白鯨に突き刺さり、そのままレムのモーニングスターで白鯨を地面に叩きつけようとする。
「レムさん。誠実なメイドさんだと思ってたけど、結構な変態だったんだな。いや、学園の時から薄々とは感じてたけど」
やはり現実の異世界に正統派ヒロインは存在しないのかと地味にショックを受けるカズマ。
そんなショックを余所に、ピンチを切り抜けたスバルの目の前にもう1体の白鯨が消滅の霧を発射する態勢で待ち構えていた。
『口を閉じろ──!!』
再びピンチに陥ったスバルの窮地を今度はクルシュが助ける。
『どう見る、ナツキ・スバル』
『どう見るってのは、どういう意味だ?勝ち目って意味なら、俺の生死が色々と分けるって自分可愛さまじりに言ってみるが』
『そうではない。おかしいとは思わないか?』
『白鯨の数が三体に増えた。単純に見れば絶望的な状況にある。だが、もし仮に白鯨が群れを為す魔獣であるのだとすれば、いくらなんでもそのことが誰にも伝わっていないなどあるものか?』
『言いたいことがイマイチわからねぇ』
『なにか、カラクリがあるはずだ』
『それを、見つけろってことか』
『時間稼ぎは卿の逃げ足と、それを援護する形で我々が行う。いずれにせよ、そう長くはもたない。なんとかするぞ──撤退など、もはや選択肢にないのだから』
スバルとクルシュの会話を聞いて、この部屋にいる知恵者達は先程のこの白鯨の不可思議な出現の仕方には、きっと自分達の知らないカラクリがあるのではないかと睨んでいた。
「確かに、あまりに非常識な展開に思考を放棄してしまっていたが、白鯨程の存在が群れをなしていれば目撃情報の1つも出ないのはおかしい」
「そうですね、そしてここにきて勝利条件の追加として、2体の白鯨の追加の秘密を暴かねばなりません」
「いや、ただ数が増えた程度じゃ剣聖は殺せないだろう。これに加えて他の能力もあるだろうし、勝利にはまだ遠い……」
己の短慮さを恥じるようにターニャが頭を抱えるが、デミウルゴスと尚文は冷静に状況を見極めて勝利条件を見出している。
「いや、白鯨の攻略法を探すのも重要かもしれんが、今はそれ以上に重要なことがある」
「はぁ?他にもなんかあんのかよ、アインズ?」
「フシュ~!少シ前ニアインズ様達ガ危惧シテイタヨウニ、状況ガ優勢カラ劣勢ニ変ワッタ事ニヨリ、正気ヲ保ッテイタ兵士ノ士気ガ大幅ニ低下シタ。コレニヨリ兵士達ノ多クガ案山子ト化シテシマッタ。今コノ状況デ動カセヌ戦力ハ致命的デアリ、ソレヲドウニカシナケレバ勝チ目ハナイトイウコトダ!」
白鯨の攻略だけでなく、低下してしまった士気をどうにかしなければ勝利はないとアインズとコキュートスに説明され、カズマもそれに対して「ああ、そうか!」と前に尚文に説明されたのを思い出したように叫ぶ。
実際に、今もクルシュの指揮を聞いても新たに現れた2体の白鯨の出現によって心が折れてしまった兵士はコキュートスの言う通り、震えるだけで何の行動も取ることが出来ずにいた。
「ちっくしょう!怪我人だけじゃなくて、白鯨の追加で心が折れちまった奴まで動けねえのか!?」
「これは……、かなりキツイというだけじゃ収まらない戦況ですね」
もしあの場に俺とめぐみんがいれば爆裂魔法を放って、今も棒立ちの兵士から魔力をドレインタッチで吸い尽くし、めぐみんに魔力を譲渡して残りの白鯨に2発は爆裂魔法をぶちかましてやれるのに!と出来もしない妄想を描きながら、カズマは映像を見ながら歯噛みする。
今も2体の白鯨の攻撃をギリギリで回避しながら、白鯨の鼻先を囮役としてウロチョロするスバルにただ心の中で応援することしかできない自分に苛立ちが積もる。
『クッソォ!こっちも命張ってるばっかじゃねえぞ、頭回せ!!どうして急に増えた……もとから三匹、なのは前提に合わねぇ……!』
思考が回避からからくりを解くことにシフトチェンジした為か、霧の奥で待ち構えていた白鯨の攻撃に気が付くのにワンテンポ遅れてしまった。
もうどうあがいても回避は不可能な距離まで接近してしまったスバル。もはや絶体絶命かと思われたピンチに颯爽と現れたのはミミとヘータローだった。
『それはボクたちが!』
『さっせないぞぉー!』
小さな体ながら白鯨の出す消滅の霧を吹き飛ばす威力の咆哮のようなものを吐き出す。
「ねえ、ご主人様!フィーロもあのわー!ってのやりたい!!」
「無理だろ。いや、風魔法やスキルを上手く応用すれば似たような技の再現は可能か?」
「こら、フィーロ。スバルさんが今頑張っているんだから、大きな声で騒がないの」
ミミとヘータローのコンビネーション技にキラキラと顔を輝かせて尚文におねだりするフィーロを宥めるラフタリア。
そのおねだりされた当の本人である尚文は真剣な顔で今の技をフィーロに再現させられないかを思案する。
『援護します。スバルさんの存在がないと……この戦いの勝ち筋が見えませんから』
「そうだな。この戦いの要はやはりナツキ・スバルか。しかし、力もなく、知恵もなく、ただ勇気がある少年が旗印とは。これではまさに怪物退治の英雄譚だな」
現実世界で、これほどの大規模戦闘では絶対に旗印にならないであろう要素を持つスバルを見ながら、ターニャは英雄譚と銘打ち皮肉げに笑う。
これが創作物ならば、最後は主人公が敵を倒して万々歳なのだが、ナツキ・スバルのこれまでの異世界での戦いでそうなった事例はない。
何度も死んで、絶望して、立ち上がって、ようやく誰かの手を借りて勝利を掴み取る。
そんな彼が──英雄譚には到底語られるような人物ではない彼が、今は白鯨討伐の要なのは一体どういう冗談だと笑ってしまいたかった。
しかし、今スバルはその冗談を本当に変えようと、惚れてくれた女性が望む英雄になろうとしている。
まさに無謀、まさしく絶望的。なのに、何故だろう。そんなスバルの姿に不思議と心が沸き立つのを止められない。
『──団長の回復が済むまで、ボクとお姉ちゃんでスバルさんを守りますから』
『リカードの奴、生きてるのか!?』
『瀕死の団長から、スバルさんに伝言もあります。『なんや、軽ぅなっとるで。ワイが死なんかったんがその証拠や』。以上です』
「モノマネする必要はあったのか?」
「まあ、様式美みたいなものじゃないでしょうかね?」
無駄な低クオリティの顔真似も交えた伝言に、尚文は思わず呆れた声を出し、ラフタリアも苦笑気味にヘータローを擁護する。
『このヘビーでベリーハードな状況で、なにが軽いってんだよ……!』
「いや、これはかなり重要な情報だぞ」
「先程まで白鯨と白兵戦をしていたリカードが軽いと断言した。ならば、白鯨の体重が何らかの原因で減っている?だとすれば、朧気ながらに白鯨が増えた秘密のからくりが見えてくるな」
あまりにも短すぎる伝言、軽いというワードが一体どう役に立つのかと多くが疑問に思うなか、アインズとターニャはそこから白鯨の秘密の糸口を掴んだようだ。
そしてそれはスバルも同様で、少しの間だけ考えに集中したかと思えば、何かに思い至ったかのように目をかっぴらいた。
『そうか……!そういうことだったのかよ……!!』
「ふむ、あのスバルの視線の動き。どうやら、白鯨の増えた謎については答えが出たようだね」
「視線?それで何が分かんだよ?」
目を見開いたスバルが3体の白鯨を確認する動作を見たデミウルゴスが、その動作だけでスバルが白鯨の謎の答えに至ったと断言する。
カズマはデミウルゴスの視線の動きからスバルが白鯨のからくりを解いたという発言に疑問を漏らす。
「スバルが確認したのは、尾ひれ、左目、そして上空をただ漂う3体目の白鯨の位置。ここまで言えば、カズマもなんとなく秘密に気付くんじゃないかな?」
「ん~?……あっ!全部一緒だ!?」
「へ?なにが、どういうことよ、カズマさん?」
デミウルゴスからのヒントに少しだけカズマは言われた部分に注視して、ようやく答えに辿り着いた。
それが分からないアクアは頭の上に?マークを浮かべているが、丁寧に説明する暇もなくスバルが自信を持って答えを口にする。
『思った通りだ。てめぇら、三匹いたんじゃなくて──分裂してやがるな!』
「分裂?それじゃあ、白鯨は結局は1体だけってことなのね!」
その答えを聞いて流石のアクアも白鯨の謎に気付く。
だがそこで新たな問題にも気が付いた。
「あれ?でも、それって増えたってことは結局白鯨を倒すには3体やっつけなきゃダメってことじゃないの?」
「う~ん、確かにそうだし、白鯨には消滅の霧ってゆう一撃必殺もあるから、あんまり嬉しい情報じゃねえな」
「そうでもありませんよ。分裂ということは耐久力は減っているでしょうし、3体以上に増えないということは、アレで限界と見るべきでしょうね。それにこういった場合、王道の倒し方というのは存在するんですよ」
カズマが懸念を口にする中、デミウルゴスは分裂の弱点を見抜きつつ、その倒し方にも心当たりがあるような、自信ありげな笑みを浮かべる。
それに続くように、更に希望は絶望の中から顔を出す。
『──ずぁぁぁああああ!!』
『ヴィルヘルムさん!?』
レムが相手していた白鯨が地に落ちた所をミミとヘータローの大技が命中した。
そこで限界を迎えたのだろう。腹の中で暴れていたであろうヴィルヘルムが傷を裂いて血肉にまみれながら飛び出した。
『……未熟。油断を、しました……』
「ヴィルヘルム殿、よく生きていらっしゃった……」
白鯨に食われたヴィルヘルムが、レムやミミとヘータローの助力があったとはいえ、自力で生還したことにセバスは平坦な声ながらも、無事に生きていたことに安堵する。
しかし、生きていたというだけで戦線復帰は無理だろう。どう見ても死に体のヴィルヘルムを、ヘータローに任せてフェリスの元へと連れて行った。
この戦いの間に戦線復帰出来るかどうかはフェリスの腕とヴィルヘルムの気力にかかっているだろう。
『時間がねぇ。勝算は、あると思う。とりあえず、ヴィルヘルムさんを後方送りにして……レムとクルシュか。主だった奴らに声をかけなきゃな』
スバルの言う通り、腹を切り裂かれた白鯨も未だ暴れ回っており、いつ討伐隊が壊滅レベルの被害を受けてもおかしくはなかった。
『白鯨が分裂している、か』
『ああ、間違いないと思う。傷の位置と、その強さがな。ぶっちゃけた話、多少なりとも直接やり合ってるそっちの方が感じてるだろ?』
『レムは無我夢中でしたけど……でも、確かにそうかもしれません』
『奴が元の一体より弱っている、というのは同意だ。だが、それを理解したところでどうする。手負いで弱体化しているとはいえ、その脅威は依然こちらを上回っている。いかにフェリスの治療といえど、下がったものの戦線復帰は望めないぞ』
『ヴィルヘルムさんとリカードの合流がないのは痛いが、無茶は言えねぇよ。それは抜きで勝ちにかかるしかない』
『三頭の白鯨を殺す。口で言うのは易いが、高い壁だ』
『三匹も殺す必要はねぇよ。──一匹だけで、いいはずだ』
「一匹だけ!?もしかして、さっきデミウルゴスが言ってた王道の倒し方って!!」
「ええ、その通り。如何に数を増やそうとも、術者である本体を叩きさえすれば分裂体は消える。まあ、もっとも本当に消えるかどうかは未知数ですが。もし仮に分裂体全てを倒さなければ白鯨は討伐出来ないとなれば、火力に乏しいあの陣営では白鯨を殺しきるのは不可能に近しいでしょう」
カズマが手を叩いて、デミウルゴスの言っていた王道の倒し方と言う言葉の意味がようやく分かり、合点がいった。
だが、そんな希望が浮かんだカズマをあっさりと沈めるように、デミウルゴスが無慈悲な現実的な可能性を突き付ける。
「くぅ~!頼む神様!間違ってもフラグにならないでくれぇ~!!」
「ええ、いいわ!カズマさんのその願い、この水の女神であるアクアが叶えてあげる!!」
「……どうやってだよ」
毎度おなじみの失敗フラグ建築士の駄女神の胸を張った姿に一抹の不安どころではない心配を抱きながら、カズマは奮闘するスバルに頑張れとエールを送ることしかできなかった。
そんなエールが届いたのか偶然か、遥か上空を飛ぶ白鯨への攻撃手段がない現状を打破する策をスバルが口にする。
『ちっとばかし、賭けの要素が強すぎる作戦があるけど……乗るか?』
そう問いかけるスバルが策を説明する場面が映し出されたとき、部屋に流れていた音が一時的に消えた。
「あれ?急に音が出なくなったわよ。機械の故障かしら?」
「このタイミングでか?」
「いや、なんかこういうタイミングで音が消えるのに身に覚えが……」
「アニメやドラマなんかで重要な情報を伏せて流し、土壇場のシーンで種明かしするっていう演出だな。まったく、人の人生を見世物にするだけじゃなく、エンターテイメントにするつもりか、この部屋に呼んだ奴は!?」
唐突に消えた音に困惑するアクアは機械の故障と疑うが、ターニャはあまりのタイミングの良さに作為的なものを感じる。
そんな作為的な演出に身に覚えがあるカズマは顎に手を当てて考え込むと、尚文がその作為的な演出を、テレビを見る者たちの心理をついたエンターテインメントの一種だと断言しながら、スバルの人生を玩具にしていると憤慨していた。
作戦を伝え終わったのか、クルシュが口を開いて出した言葉が部屋に響く。
『正気とは思えんな』
「正気ではないか。一体どんな無茶な策を思いついたのだ」
今まで散々無茶無謀な策を実行してきたスバルの作戦を聞いたクルシュが漏らした一言に、呆れた声でターニャは呟いた。
もはや心配するだけ無駄と割り切ってはいるが、それでも子供が無茶をするシーンはあまり見たくないものだと辟易している。
まあ、それを言えば幼女が戦場を飛び続けるのも、周りの大人も心配で気が休まらないのだろうが。(部下や一部の上司は一切心配してはいない)
『2体は我々が引き受ける。その賭けに乗ろう』
拳をスバルの方に突き出して、クルシュは覚悟を決めた顔になる。
それに対してスバルもまた、突き出された拳に己の拳を突き合わせた。
「シカシ、今ノ兵士ノ士気ハ底ヲ突イテイル。手負イトハイエ、白鯨ヲ2体モ受ケ止メラレルダロウカ?」
確かに、コキュートスの心配ももっともだ。フリューゲル大樹を背にした討伐隊の多くが、近づいてくる白鯨に恐怖して弱気な声を上げていた。
この盛り下がった士気をいかにして巻き返させるのか、そこに指揮官の手腕が試されるとコキュートスが睨む。
『立て!顔を上げろ!武器を持て!卿らはなんのためにここまできた!』
その覇気のある声に下を向いていた者が顔を上げ始める。
『あの男を見ろ!あれは武器もなく、非力で、吹けば飛ぶような弱者だ。打ち倒されるところを、私もこの目で見た無力な男だ!』
上げたその顔で今も地竜に乗って白鯨を引き付けるスバルを見る。
『それでどうして、我らが下を向いていられようか』
その顔に、その恐怖で震える体に、再び立ち向かう勇気が灯るのが分かる。
『我々の力は弱く、束ねたとて魔獣の喉元に届くかわからない。だとしても、もっとも弱い男が諦めていないのに、どうして我らに膝を折ることが許される!』
もはや恐怖で震える兵士は何処にもいない。変わりに己の不甲斐なさと未熟さに怒りで震える者がクルシュの後ろに立ち並んでいた。
『卿らは、恥に溺れる為に、ここまで来たのかッ!?』
その言葉をきっかけに、座り込んでいた兵士の1人がモーニングスターを白鯨目掛けて投げつけた。
クルシュが後ろを振り返ってみれば、その演説に当てられた兵士達が各々の武器を構え直して、立ち向かう気概を見せていた。
「──見事」
低く、重々しい声が一言だけ、指揮官としての手腕を存分に見せつけたクルシュを称賛した。
振り返って見れば、称賛の声を上げたコキュートスの周りには白い冷気が漂っており、どれだけコキュートスが興奮したのかが分かる。
「まあ、確かに見事な演説だったね。あの状態の士気をああまで盛り上げ返すことに成功するとは。流石は王選候補者の最有力候補というだけのことはある」
興奮するコキュートスを落ち着かせる目的でデミウルゴスがクルシュを褒める。
それを聞いて気を使われたかと思ったコキュートスは、荒ぶる息を鎮めて平静さを取り戻す。
「スマン、少々興奮シ過ギタヨウダ!」
「問題ないよ、コキュートス。君はアインズ様に指揮官としての成長を望まれているんだ。今の映像は君にとって非常に有益なものになっただろう。これもアインズ様が望む成長というものだよ」
「ナルホド……」
デミウルゴスのフォローにコキュートスは納得する。確かに、この映像は非常に役に立つような気がしたからだ。
それに、アインズが成長を望んでいるのも事実、よりお役立てるように精進せねばとやる気に満ち溢れる。
『弱者だの負け犬だの、好き放題言ってくれやがって……』
スバルもクルシュの演説が届いたのだろう。悪態を吐きながらも、その顔と声から兵士達と同じ絶対に勝つという熱を発していた。
『やるぞ、レム。見せ場だ……』
『はい、スバル君』
「よっしゃー!いけー!スバルー!!」
「ぶちかましてやりましょう!!」
「頑張りなさい!あなたにはこの水の女神アクアが見守って上げてるんだから!!」
「勝て!スバル!!」
演説に当てられたのは兵士達やスバルだけでない。カズマ達もまたその熱に浮かされたように声を上げていた。
「ちっ、やかましい!」
「まあ、そう言うなアルベド。カズマ達も薄々と気が付いているのだろう。これが最終決戦となることを……」
盛り上がるカズマらに舌打ちを鳴らすアルベドだが、アインズは優しく肩を叩きながら、カズマ達の方にも理解を示す。
そう、これはまさに最終決戦だ。白鯨との戦局がスバルの作戦で大きく動くだろう。
『アル、ヒューマ』
恐らく、レムに残されたマナを全て使い切っての大技なのだろう。
巨大な氷の槍と化したそれを遥か上空を浮かぶ白鯨目掛けて射出した。──っが、それは白鯨の真横を通り過ぎて外れてしまった。
「噓だろぉ!ここまできて失敗か!?」
まさかのお約束外しに絶叫したような声を上げるカズマ。
だが、まだスバルの作戦は終わってはいなかった。
『よぉ……、こうして間近で見ると、超気持ち悪いな、お前……』
失敗した絶望に思わず目を閉じたカズマの耳に、そんなスバルの声が届く。
恐る恐る目を開ければ、そこには白鯨の角先に腕組みをして見下すスバルの姿があった。
『ついてこいや。──言っとくが、俺はシカトできねぇぐらい、ウザさに定評のある男だぜ?』
一体何を!?そういった言葉はもう出てこなかった。
『大サービスだ、よく聞けや!てめぇのせいでレムが死んで、俺はすげぇトラウマ背負ったぞコラァ!!』
ああそうだ、自らを安売りし、最大限の戦果をもぎ取ってくる。
空に浮かぶ術もなしに、遥か雲の上の空から白鯨を引き付けてスバルはスカイダイビングを決行した。
「っ!?本当に正気を疑うぞ、馬鹿め!!?」
スバルの目論見通りに白鯨は後を追って地上に向かってくるが、その無鉄砲過ぎる作戦にターニャは思わず罵倒を飛ばす。
『──レム!!』
『はい、スバルくん!』
阿吽の呼吸ともいえるタイミングで、スバルはレムの名を呼び、レムは迫る白鯨を魔法で怯ませた隙に鎖でスバルを回収してみせた。
その際に、勢い余ってスバルを抱きとめようとしたレムの2つの柔らかいクッションに顔で着地してみせた。
『た、助かった』
『ごちそうさまです』
「ふつうはそのセリフは逆だろう!ってか、こんな時にラッキースケベとかありえねえ!!」
「カズマ、嫉妬はいけませんよ。悪い魔女に心臓をギュッとされちゃうかもしれませんから」
「めぐみん、今この部屋の中でそれはシャレにならねえからやめろよな……」
スバルのラッキースケベにカズマが嫉妬し、めぐみんがそれをからかうように窘めるといういつもの流れの中、映像の中で白鯨が豪快に地面に不時着する。
だがそれでも白鯨は生きており、魔女の残り香を追ってスバルを追いかける。
『頼むぜ、パトラッシュ!ドラゴンなんだろ!?かっこいいとこ見せてくれ──!!』
後ろから迫る白鯨を狙いの位置に誘導する。
そう、白鯨を地面に落とすということだけがスバルの考えた作戦ではないのだ。
『食らい、やがれぇ──!!』
『放て!!』
その2つの掛け声と共に、巨大な大樹の根元が爆発し、ある種の質量兵器となって真横を通ろうとする白鯨を下敷きにした。
この瞬間をもって、ようやく言いたかったことをカズマとアインズが口にする。
「これって……」
「ああ、スバル達の勝ちだ」
なんかこの作品のイラストだとか、三次創作とか作ってくれる人がいるみたいです。
作者もやる気が出て、こんなに早めの更新が出来ました。
皆さんの感想や応援を待ってます!
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル