いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
白鯨はスバルの作戦の元、フリューゲル大樹の下敷きになり、身動きを封じられた白鯨の鼻先にヴィルヘルムが立つ。
地平線の彼方からゆっくりと太陽が昇り始め、爆風で散って舞う花弁がよく見える。そんな中で立ち尽くしながら、宝剣を握るヴィルヘルムは重篤な状態でありながら、その堂々たる風格からとても瀕死の老人には見えなかった。
『眠れ。──永久に』
その言葉と共に、剣鬼の最後の──ヴィルヘルムという男が剣と共に歩んだ人生を集約した一撃が白鯨の頭蓋に叩き込まれた。
それがトドメになったのだろう。白鯨の目から光は消えていき、分裂していた2体の白鯨もまた霧のように消えていった。
『やっと……終わったぞ、テレシア……。テレシア、私は……、俺は、お前を愛している──!!』
昇りゆく朝日に叫ぶように、ヴィルヘルムの涙の入り混じった万感の思いが詰まった言葉に、彼がどれだけ妻を愛していたのかが推し量れるというものだ。
「ええ、本当に……、奥方様の敵討ちを成し遂げた貴方は素晴らしい御方です。ヴィルヘルム殿」
無意識のうちにセバスは拍手を鳴らして、ヴィルヘルムが白鯨を討ちとった光景に感動を覚えていた。
その拍手は伝播するように、周りの者もまたその勝利を称えるようセバスを真似て喝采の拍手を送っていた。
「素晴らしい勝利だった」
「ああ!まさか大樹をぶっ倒して白鯨を押し潰すなんて!!」
「ねえ、なんか私さっきスバルの上半身と下半身が泣き別れる予感がしてたんですけど?なんか建てちゃいけないフラグが建てられちゃったような気がするんですけど?」
この勝利を褒め称えるアインズとカズマを見ながら、なんとなく事の発端でありそうな2人にアクアが感じた率直な予感を口にする。
まあ、予感は予感だ。この先、予想外の不幸な展開もあるかもしれないが、それはそれ、これはこれというやつだ。
「ふむ、ナツキ・スバル。学園では周囲の個性キャラに埋もれるだけの男かと思っていたが……」
「中々どうして傑物ではないか」
ナツキ・スバルの活躍にルーデルドルフとゼートゥーアの評価が大きく上がった。
そしてそれはこの2人だけでなく、レルゲンもまた口にはせずとも、その内心で大きくナツキ・スバルの活躍に驚愕していた。
(まさか、本当にあの白鯨という化け物を討伐してしまうとは!?ナツキ・スバル、普段の授業態度はそこまで勤勉ではなく、どこから見てもごく普通の学生にしか見えなかったが、まさかこれ程の活躍をしてみせていたとは!!)
ゴクリと自然と口の中に溜まった唾液を飲み込み、レルゲンはナツキ・スバルの評価を改める。
いや、レルゲンの中で上がった評価はスバルだけではなかった。
(待てよ!そういえば、白鯨を見た他の者達も何かと比較していたような。あのアインズ君らのような見るからに化け物集団が白鯨と同等の化け物を倒したというのは理解できる。尚文君は盾の勇者と呼ばれているし、これもまだ理解はできる。だが、あの佐藤カズマとその仲間が倒せるのか?いかん、決めつけはよくない。そもそも、よくよく思い返してみれば学園で蜘蛛のような化け物が現れた時にアレをカズマらはデストロイヤーと呼んでいた!?まさか、あの佐藤カズマもまた元の世界でスバルと同じように活躍してみせたというのか!?)
その考えに至ったレルゲンは静かに額に汗を浮かべて、佐藤カズマの評価もまた改める。
化け物集団、帝国兵、勇者パーティ、この部屋にいる存在とカズマらもまた肩を並べられる存在なのではないかと……。
そして、そんなレルゲンの内心を見通したように、ゼートゥーアが口を開いた。
「レルゲン先生、そう恐れるものではないですよ。所詮は異世界の出来事なのだからね……」
「ぜ、ゼートゥーア副校長先生……」
「それに、我々にも心強い戦力はいますよ」
そう言って、ゼートゥーアはターニャを見つめる。
元の世界ではラインの悪魔と恐れられ、その戦闘能力のみならず、新たな戦略や戦術を生み出す稀代の傑物として恐れ敬われていた。
そんな彼女もまた、ナツキ・スバルの活躍に思うことがあったようで、今も映像で白鯨を討伐した場面を少々信じ難い表情で見ている。
「まさか、ただの1度の死に戻りもなく、犠牲者を出しながらも白鯨の討伐に成功するとはな。はっきり言って不可能だと思っていた」
「同感ですね。3度……最低でもそれくらいは死に戻りを繰り返すと踏んでいたのですが」
己の心の内で予想していた結果と大きく違ったことにターニャとデミウルゴスは驚きを隠せなかった。
先代の剣聖を殺したとされる白鯨を討伐。この偉業を達成するのに必要なデミウルゴスが予想した3度の死に戻り。
1度目は討伐隊の実力の把握と白鯨の素のステータスの確認で死亡。2度目は1度目の死で知り得た情報をすり合わせての再編成からの白鯨の持ちうる手札の確認後の死亡。3度目はその手札の攻略あるいは対策を組み込んでの白鯨の弱点を探し出して死亡。そうして3度の死に戻りで得た情報を組み合わせて出来た討伐隊での4度目の攻略戦で勝利を得る。
それが、デミウルゴスが考えていた死に戻りを利用しての白鯨攻略の全貌だったが、その予想に反してスバルはたったの1度の戦いで白鯨を撃破した。
誤算だったのは、スバルが死に戻りを前提とした戦いをしなかったこと。どんな局面に陥ろうとも生きることを諦めずに立ち向かい、見事に己の役割を完遂して見せたことだ。
「ふっ、実に面白い」
デミウルゴスの呟きに、同じ感想を抱いていたターニャもまた心の中でスバルへの評価を数段上げるのだった。
「しかし、一番の誤算といえば、白鯨の強さだな」
「ええ、耐久力に加えて機動力に分裂能力、スバルがいなければ討伐は不可能であったとはいえ、あの程度の能力で剣聖を殺したというのは少々疑問を覚えますね」
もしあの場にラインハルトがいたのならば、物理・魔法攻撃の耐性のある白鯨の皮膚であろうと容易に切断できるだろうし、機動力でもラインハルトならば遥か空を浮く白鯨の上空を取るのも苦ではないだろう。そして最後に見せた分裂能力も、たった3体程度しか増えないのであれば、ラインハルトにとっては誤差の範囲内でしかない。
「ここで考えられるのは3つの仮説。1つは今代の剣聖であるラインハルトが異常であり、先代はあの程度の能力でも殺すことが出来る程度だった。2つ目は強力な手札を既に先代の剣聖に使用してしまったが為に使えなかった。3つ目──恐らくこれが一番可能性がありそうですが……」
と、そこでデミウルゴスの口が閉じる。確証はないが、現状で一番可能性が高く、納得のいく説であり、それが事実であろうという確信はあった。
しかし、その結論を口にするのは早計すぎるだろう。そうも思って口を閉ざしたのだが、その意味深なデミウルゴスの語りにカズマは苛立つように続きを催促する。
「あのな、そういう自分は全て分かっていて『まだ言うべき時ではない』的なムーブのスタンス止めてくんねえか!?」
「おや、私はそういうつもりは一切ありませんでしたが……」
「デミウルゴスよ、遠慮はいらん。お前の至った考えを聞かせてやれ」
というか、アインズもデミウルゴスのそういった意味深な発言や態度にいつも内心で振り回されている為に、カズマの気持ちは十分に理解できた。
だからこそ、アインズはデミウルゴスに先を促す。その主人の言葉にデミウルゴスが深々と一礼し、己の考えを述べる。
では──、と前置きしてデミウルゴスの口が動く。
「実は剣聖は白鯨に殺されてはいなかった」
「──はっ?」
デミウルゴスの口にした仮設にカズマは口をポカンと開けて茫然とする。
まるで想像していなかった答えに一瞬頭が真っ白になったのだ。
そんなカズマを気に留めず、デミウルゴスは続きを語る。
「いいですか。先程の白鯨との戦闘を見る限り、白鯨の攻撃方法は消滅の霧か巨体を使っての物理攻撃のみだった。単純な物理攻撃では剣聖は殺せないでしょうし、消滅の霧も剣聖の名が消えていない以上は、それを受けた可能性もないでしょう」
「うんうん、それでなんで剣聖が白鯨に殺されていないってなるんだ?」
「よくよく考えてください。スバルが白鯨に挑むことになった原因はなんですか?」
「原因って?そりゃ魔女教に村とかエミリアを襲わせないためで……って、まさか!?」
「どうやら気が付いたようですね」
「え?え?何々、どういうこと?」
デミウルゴスの順を追っての説明にカズマは察したようだが、アクアは何のことなのか理解できず、?を浮かべて首を傾げている。
そんなアクアに、理解できたカズマがより分かりやすく答えを聞かせる。
「つまりだな。白鯨は魔女教の手先みたいなもので、先代の剣聖ってのも、白鯨にやられたんじゃなくて、裏で暗躍していた魔女教に殺されたって話だよ」
「ええ!!そうなの!!?」
「まだ確証はありませんが、スバルのこれまでのループで出てきた話と、白鯨の強さを考慮に入れれば、それが一番納得のいく答えでしょう。そして、その白鯨を討伐したということは……」
そこまで口にして、アインズはデミウルゴスが何を言いたいのか理解した。
「今後、白鯨討伐に貢献したスバルを魔女教は敵対視するということだな?」
「その通りでございます。勿論、外聞的には戦力の多くを用意し、白鯨にトドメを刺したヴィルヘルム殿が所属する陣営の主であるクルシュの名前が大きく取り上げられるでしょうが、その機会を作ったスバルの存在を商人やエミリアを支えるロズワール先生も世間に吹聴するでしょうね」
「マジかよ……」
学友であるスバルの功績が知れ渡るのは素直に嬉しい反面、敵対勢力ともいえる魔女教にスバルの存在を知られることの危険性に頭を抱えるカズマ。
そんなカズマの気苦労も知らず、映像の中では死んだふりの演技をするレムにスバルが騙されて言質を取られるというイチャイチャが繰り広げられていた。
白鯨討伐後によくやるもんだと呆れる者達と、恋に積極的にガツガツいくレムの行動力にグッと親指を上げているアルベド。
更に映像にフェリスまで加わって、部屋の中の呆れている連中の言葉を代弁するようにスバルをからかって遊んでいる。
そんな色んな意味でカオスな空気を一新するように、クルシュがスバルに声を掛ける。
『ずいぶんと暗い顔をするものだな。──白鯨を落とした英雄の顔には見えん』
「ほぉ、そう来ましたか……」
「え?なにが……?」
「分らんか、カズマよ。クルシュにとっては善意であり高潔さからくる真摯な思いだろうが、これで魔女教にナツキ・スバルという名が知れ渡ることになるのは確実だというわけだ」
「ああ、そっか!!」
「とはいえ、これが全てマイナスかと言えばそうではありませんよ。これでクルシュ陣営と同盟を結び、白鯨討伐の功を持ち帰れるのですから、少なくとも手土産なしで領に帰還するよりもずっと良いでしょう」
「そりゃ確かにそうだけどよ……」
デミウルゴスの指摘にカズマは理解を示し、少し口を挟んだターニャもまた呆れたようにそもそもの話をしだす。
「というか、これから魔女教の怠惰と一戦を交えるのだ。白鯨討伐による魔女教の目など気にしていられる場合ではないだろう」
「うっ……、そういやあの変態野郎とも戦り合わねえといけないんだった」
白鯨討伐のインパクトですっかり忘れていた。っというより、ちょっと考えないようにしていたカズマ。
映像を見れば分かる通り、白鯨討伐に少なくない負傷者や存在を消された死者が出た。これ以上の援軍要請は根が善人であるスバルでは言い出せかねない。
そんな心配を吹き飛ばすように、ヴィルヘルムが名乗りを上げた。
『ならばこの老躯、使い潰されるがよろしいでしょう』
「あの老人も随分とズタボロでありんすけど、使い物になるんでありんすかね?」
「お言葉ですがシャルティア様。幾百の雑兵よりも手負いの獅子の方が恐ろしいもの。スバル殿の剣となり盾となるには十分すぎることかと」
「む……、まぁそれは一理ありんすか……」
あの程度で獅子?と思わないでもある階層守護者最強のシャルティアだが、人間相手ならば十分に強いレベルではあると認識しているからか、一応の納得はみせる。
『やれたのは、ヴィルヘルムさん自身の力ですよ。あの白鯨を倒そうって考えて、調べて、鍛えて、諦めないで戦って……。奥さんをすっげぇ愛してたから、白鯨を倒すまでいけた。その手伝いが少しでもできたってんなら、なによりです。こう言っていいのかわかんないッスけど……おめでとうございます。あと──お疲れ様でした』
「くっくっく、随分とまあ……、スバルには人たらしの才能があるようだな」
「そりゃ、あいつ自身テンション高すぎてウザったるくなる時はあるけどさ、こんな個性派集団と仲良くやれてるんだ。人たらしの才能くらいあんだろうよ」
「そういうぶっきらぼうな言い方をしているカズマも、スバルに負けず劣らずの人たらしですよ」
「ん?そうか……?」
「ええ、そうですとも。じゃなきゃ、こんなパーティは長続きしませんもの」
自らこんなパーティと言ってしまうめぐみんだが、その物言いは辱めているのでも貶しているのでもなく、むしろ誇らしげだった。
「ほぉ、カズマも随分と愛されているんだな」
「うっせえ!そういうアインズなんて、俺なんかよりもよっぽど周りに愛されてんじゃねえかよ!!特にアルベドさんとかシャルティアとかに!!」
「い、いや、それはだな、カズマ!?」
「ええ、カズマの言う通り、私はアインズ様を愛しております!」
「あ~、ずるいでありんすよ、アルベド!!私もアインズ様のことを心から愛しているでありんす!!」
アインズからのからかいに、照れ隠しで仕返しとばかしにからかい返すカズマの言葉に便乗したアルベドとシャルティアがアインズを左右から挟み撃ちする。
「まったく、騒がしい奴らだ……」
「ふふ、人たらしなら尚文様も負けてませんね?」
「おい、お前までなんだラフタリア?」
「ん~?尚文様がいい人だって自慢したかった……じゃ、いけませんか?」
「お前な~。はぁ~、っくそ。まいったまいった」
コテンと首を傾げるラフタリアに尚文は降参とばかしに息を吐いて、諦めたように笑った。
『あ、言い忘れてたけど、レムちゃんはお留守番……っていうか、クルシュ様と一緒に王都に戻らなきゃだから、わかってネ』
『レムなら、レムなら大丈夫です。スバルくんがこれからまだ危ないところに行くっていうのに、レムがいなくてどうして……』
『そんにゃこと言っても、体、動かないでしょ?ほとんどひとりで白鯨を迎え撃って、おまけに最上級の魔法まで何度も使って……レムちゃんのお体は今、限りなく消耗してスカスカ状態にゃの。治癒術師として、これ以上の無理をさせることはできませーん。おわかりかにゃ?』
「まさかここでレムの離脱かよ」
「当然よ!見た目的に酷い傷じゃないとしても、あの子結構な疲労とかめぐみんみたいなMP切れ起こしてるのに、この先の戦いになんか連れていけないわ!」
「……お前、結構人のこと見てるんだな」
「当たり前よ!私を誰と思ってるの!?水の女神にして人を癒すアークプリースト!映像越しにだって怪我の具合を見るなんてお茶の子さいさいなんだから!!」
むふー!と胸を張り、自慢げに鼻を鳴らすアクア。
そういうところが本人の印象を下げてしまう一因なのだが、本人はそれに気が付く気配は皆無である。
『スバルくんが困っているとき、誰よりも先に手を差し伸べるのはレムでありたい。スバルくんが道に迷っているとき、背中を押してあげる存在でいたい。スバルくんがなにかに挑むとき、隣にいて震えを止めてあげたい。それだけがレムの、それだけがレムの望みなんです。ですから……』
『それなら心配なんか、いらねぇよ』
泣いてまだ力になりたいと縋りつくレムにスバルは笑顔で応える。
『え?』
『手はいつだって繋いだままだし、背中なら何度も押してもらった。震えるのだって、お前を思うだけでどうとでもなる。──俺はお前にもう、ずっと救われてる。大丈夫だ、レム。全部丸ごと、俺がどうにかしてきてやる。俺はお前の英雄だ。その一歩を踏むと、そう決めたんだ。だから、なにも心配いらない』
レムを抱きしめる手を強めて茶目っ気たっぷりのウィンクで安心させる。
『鯨狩りもやってのけた。お前の英雄は超、鬼がかってんだろうが』
『──はい。レムの英雄は、世界一です』
泣いて微笑みながら、互いの額をごっつんこさせる2人。
「なあ、信じられるか?スバルの野郎、あんだけの事しといてレムのこと振ってるんだぜ?」
「信じられませんね。もう既に恋人どころか、結婚を誓い合ったレベルの仲ですよ、アレは……」
「まったくです!あんなことを振った相手にしちゃうだなんて、スバルさんは地獄に落ちますよ!!」
「これは流石に擁護しきれんな。人たらしにしても、限度と距離感を考えろと説教をしてやりたくなる」
「なんて言えばいいのかしら?あのレムへの中途半端な愛情に対するこの感情は?怒り?それとも恨みや憎しみかしら?ともかく、あのスバルという男には今度出会ったらきちんとお話しをしなくてはならないようね」
映像からでも伝わる2人の空気にカズマ、めぐみん、ラフタリア、ターニャ、アルベドが呆れと怒りが入り混じった声で感想を言い合う。
ここにきて上がったスバルの評価が、恋愛模様に関してだけ地の底に届く勢いで下がったのは言うまでもないだろう。
ようやく白鯨討伐完了!次は怠惰討伐だけど、4月中に終わらせる覚悟で執筆します!!!
あと、感想をいただければ頑張れるので多くの感想をお待ちしております!
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