いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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前回の話でアクアが言ったミツルギとの共闘するって言葉を否定したカズマに「いや、お前最終巻で魔王城で魔剣の人と一緒に戦うんだが!?」みたいな感想を期待していたんだが!!!?




怠惰討伐戦

 鬱蒼と茂る森の中をスバル1人で歩いていた。周囲に他の人影はなく、本当にスバル1人だけのようだ。

 

『きたな。……こう、静かな部屋の隅で、ふとゴキブリの存在に気付いたみたいな感覚が』

 

「魔女教イコールゴキブリか、まあ正しい例えではあるな」

 

「厄介さでいえば魔女教の方が断然上なんですけれどもね」

 

 スバルの発言に的を射ているとばかしに頷くターニャとヴィーシャ。

 そのままスバルが身構えていると、ゾロゾロ黒装束の魔女教がどこからともなく姿を現してきた。

 

『──お出迎え、ご苦労さん』

 

 その言葉を額面通りに受け取れるような声ではなかったが、それでも魔女教の連中は気にした様子もなく、スバル自身もまるで連中の上司のような立ち振る舞い方で接して命令を下す。

 

『詳しい話はお前らの頭に聞くからいいとして……とりあえず、失せてろ』

 

「まったく、度胸のある奴だ……」

 

「ですけど、魔女教なんてのを相手に1人だけで挑むのは危なすぎます」

 

 スバルの無謀にも見える行動に、尚文とラフタリアは不安そうな表情で見守っていた。

 これまでのループで魔女教に数々の手酷い目を合わせられているだけに、どうしても心配が拭えない様子だ。

 正直、あんな危なっかしい行動は止めて欲しいとは思うものの、ただ見ているだけしか出来ない自分達にはどうすることもできない。

 

『──お待ちして、おりましたデス。寵愛の信徒よ。私は魔女教、大罪司教『怠惰』担当。ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!』

 

 森を抜けた先に待ち構えていたその男。ペテルギウス・ロマネコンティの登場に、カズマを筆頭として何人かが眉間に皺を寄せて敵意を見せた。

 とはいえ、相手は映像の中の存在。こうして敵意をぶつけたところで何の意味もないのだが、それでも感情として嫌悪が抑えられなかったのだろう。

 

『歓迎いたしマスよ、魔女に愛されし愛し子! 素晴らしい。素晴らしい。素晴らしぃぃぃぃぃぃぃっ! その身にまとう愛のなんと深きことか! その身を包む愛のなんと高きことか! その身を抱く愛のなんと熱きことか! この場において! アナタのような、ような、うなうなうなうなななな! 寵愛の信徒が新たに顔を見せるとは! なんと、いと素晴らしきことか!』

 

「大丈夫か?スバルの奴は……。前回のループじゃペテルギウス憎しで動いていたからな。本人を目の前にして暴走しなければよいのだが……」

 

 神憎しで時折暴走するターニャには言われたくはないかもしれないが、それでもスバルのこれまでの行動を考えればそう思われても仕方がない。

 だが、そんなターニャの心配を余所に、スバルはペテルギウスの熱弁を黙って聞きながら、まるで道すがら知人に出会った際のような反応で返す。

 

『大歓迎してもらって恐縮だよ。イマイチ、実感に欠けるとこなんだが』

 

『無理もないことデス! ワタシも始まりは突然だったのデス。誰しも、ある日を境に自分が『愛されている』ことに気付く。そして、一度気付いてしまえばもうその愛を手放すことなどできはしない。──愛こそ、全てなのデスから!』

 

「ふむ、どうやらスバルの暴走はただの心配事で終わったようだが……。それにしても、あのペテルギウスとやらの熱弁は聞いていて心地いいものでは無いな」

 

「まったくだな。同じ熱弁でもスバルやクルシュのと違って、狂気的で不気味なアイツの言葉に鳥肌が立ちそうだ」

 

 スバルとペテルギウスのやり取りを聞きつつも、ペテルギウスの言葉に不快感を表すアインズに同意するようにカズマもウンザリした顔で同意する。

 

 そんな不快感と嫌悪感を出す2人と違って、異常な狂気に困惑しながらもスバルはペテルギウスと一応の会話を交わす。

 その内容は前々回のループの際に交わしたものと似たようなものだったが、今の狂っていない正常なスバルは傲慢に福音と不明なものに考えを巡らすも、理解不能な領域の話の為に口を閉ざす。

 

『──脳が、震、える』

 

 そう言って懐から1冊の本を取り出して、舌を出しながら器用にペラペラとページをめくって目をギョロつかせるその仕草は、まさに狂人そのものであった。

 その狂人振りに、生理的険悪から女性陣に悲鳴が上がる。

 

「うへぇ~、なんとも醜悪な。アクシズ教が世界で一番ヤバい宗教だと今まで思っていましたが、スバルの世界にはそれを余裕で超える宗教があったんですね。ご愁傷様です」

 

「なっ!?ちょっと、なんてこと言うのめぐみん!!ウチの可愛い信者をあんなキモイのと比べないでくれる!!!ってか、アクシズ教はヤバい宗教じゃないから!!健全なものだから!!!」

 

「いや、事実だろう」

 

 アクアがめぐみんに食って掛かるも、それが事実なためにカズマがアクアの頭を押さえ込んで仲裁する。

 

 やがて、福音書なるもののページをめくり続け、血走った瞳が本からスバルへと向けられた。

 狂人特有の、血走った瞳だ。

 

『ワタシの福音に、アナタの記述はないのデス。さて、アナタはいったい、何故にこの場に現れ、訪れ、どういった意味合いをワタシにもたらすのデスか』

 

『その本のタイトルが『福音』だっつーんなら、アレだ。ちょっと色々とあって、その本は今は手元になくてさ』

 

『色々、デスか?』

 

『ああ。──鍋敷きに使って汚れたから、ばっちくて捨てた』

 

「「「「ぶふっ!」」」」

 

 スバルのふざけた回答にカズマや帝国軍人のヴァイスを除いた男子3人がツボったように噴き出す。

 そんなスバルの発言に、ペテルギウスは目を血走らせて激昂する。

 

『寵愛の証、怠惰なる権能!!!見えざる手!!!』

 

 ペテルギウスにとって最早スバルは殺すべき存在になったのだろう。全力で権能を使って殺しにかかるペテルギウスだが、本来ならば見えない手も見えるスバルにとって回避することなど造作もなく、後方へ全力でバックステップすることで容易く避ける。

 

『フォロー、ミー!!』

 

 それを合図にミミとティビーの2人が現れてペテルギウスの後ろにあるアジトを崩壊させ、中にいる魔女教徒らを生き埋めにする。

 あまりにも突然なことにペテルギウスは反応すらできずに唖然とし、棒立ちのまま立ち尽くす。

 

『生き埋め上等だ。──てめぇらの行いを詫びて苦しめ』

 

「うむ、見事な電撃作戦だ。時間稼ぎからの奇襲による魔女教の生き埋めとは、スバルもよく考えたものだな」

 

 スバルが立てたであろう作戦にターニャは感心したように頷く。

 とはいえ、生き埋めに出来たのはペテルギウスを除く一般教徒のみ、肝心の大罪司教であるペテルギウスを倒さなければ、この戦いは終わりはしない。

 

『ワタシの指先を……こうも、無残に、無慈悲に、無秩序に、無作為に、無造作に、無意味に、殺害して殺して滅殺してせしめるとは……ああ、ああ、ああ!脳が!脳が!脳がぁ……震える、えるるるるるるるるぅ』

 

「うっげぇ~、リアルに血涙流す奴見るの初めてだけども、想像以上にキマッてんな!?」

 

「俺も前の世界で色んな変人やら頭のおかしい奴を見てきたが、ここまで際立ってイカれた野郎を見るのはなかったな」

 

 カズマと尚文がペテルギウスの狂気にドン引きする中、スバルは緊張した面持ちでペテルギウスを見据える。

 

『……盛り上がってるとこ悪いんだけどよ。お前の相手は、他に任せてある』

 

『ぢぁぁぁぁぁぁぁ──ッ!!』

 

 その言葉を合図にか、崖の上から雄叫びと共に老剣士の鋭い一閃でペテルギウスが斜めに切り裂かれて両断された。

 あまりにも呆気ない決着の仕方に、不安と恐怖しかなかったスバルも肩透かしを食らったような感覚を覚えてしまう。

 それは部屋の中にいる者らも同様で、固唾を飲んで見守っているが、ペテルギウスが復活して起き上がる気配もなく、白鯨と違って本当に誰の死者も出さずに勝利したのだと、ホッと安堵の息をこぼしてしまう。

 

「なんか、すげえ呆気なく終わっちまったな」

 

「まあ、白鯨と違ってペテルギウスは人間だ。どれだけ強力な力を持とうが、油断や慢心を突かれれば剣の一太刀で命を落とすだろう」

 

「だとしても、何百年と恐れられていたっていう魔女教の幹部である大罪司教がこうも簡単に殺されるってのは、どうも納得しにくいもんだがな」

 

「いや、毎度神出鬼没で正体不明の敵だったが、スバルが囮になる事で容易に背後を取ることが出来た。普段から奇襲ばかりの相手ならば、逆に自分達が奇襲の的になるとは考えてなかったからこその今回の結果だろう」

 

 魔女教の強みは正体不明さにあった。だからこそ、こうして奇襲を仕掛けて挑んだ結果、ペテルギウスはあっさりと敗北したのだろう。

 納得できずに一抹の不安を抱えた尚文だが、ターニャとアインズは奇襲戦法による効力を知っている為に、そこまで不安はなかった。

 

 ないのだが──、

 

「とはいえ、尚文の疑念にも一理ある。白鯨も消滅の霧以外にも分裂能力を有していた。あの見えざる手以外の能力を保有していても不思議ではないが……」

 

「再生能力や復活能力の兆候は未だ見えず、映像越しでも死んでいるようにしか見えない。これ以上の邪推も必要なさそうに感じるのもまた事実か……」

 

 そう口にするターニャとアインズの2人の言葉を後押しするように、治癒術士のフェリスが死亡確認の太鼓判を押す。

 そうして完全に死亡確認が取れたペテルギウスの死体を漁るミミとティビー。不謹慎だと思わなくもないが、鉄の牙は傭兵団だ。戦場で死体から物を漁るのは当然の行為なのだろうと考えられる。

 

『これは……なんです?』

 

『あ~、それ、多分ペテルギウスが福音って呼んでた本だぞ』

 

 スバルが福音だと言うと、まるで恐ろしい物やばっちぃ物を触ったかのような反応で、福音書を投げ捨てるティビー。

 そんな反応を気にした様子もなく、スバルは投げ捨てられた福音書を拾って、ページをめくって中身を確認する。

 

『読めねぇ~』

 

 中に書かれてある文字が読めないからフェリスに変わりに解読してもらおうと見せるが、まるで見てはならない物を見せられたような反応で拒絶する。

 

「福音書か……。スバルに所持しているか聞いたあたり、魔女教であることの証明書なのかと思ったが、2人の反応からしてもしや洗脳効果のある代物なのか?」

 

「なんにせよ、敵が保持していた内容不明物を不用意に手にして読むのは危険行為だな。魔法が存在する世界だ。本ぐらいの小さな物でも罠がある危険性ぐらい考慮して立ち回れと説教してやりたいな」

 

 あまりにも不用意に本を確認するスバルの行為に、アインズと尚文が呆れた溜息を零す。

 実際に、噂話程度であるものの、フェリスの口から語られる福音書にまつわる話は洗脳を匂わせるような内容であり、危険な代物なのかもしれなかった。

 それでも、今後他の魔女教と事を構えるつもりであるスバルは、危険を承知ながらも本の内容から魔女教の実態や行動を予測出来るかもと考えて懐に仕舞い入れる。

 

 頭は潰したから次は手足となる配下の始末とばかしに、ミミに急かされて他のアジトを襲撃している者の元へと足を運ぶ。

 

「一番厄介なペテルギウスを倒したんだし、他の連中も無事だろうけど」

 

「いや、モブっぽい一般教徒の奴らもかなりの武闘派だ。数が揃えば鬼化したレムも苦戦している。早めに様子を見に行くのは賢明だろう」

 

 楽観的な考えを口にするカズマを窘めるように尚文が警告する。

 その言葉の意味するところは、カズマの心に不安を募らせるには十分なものだった。

 

『──といなくなったと見せかけて、復活してるとかいうフラグじゃね!?』

 

『おにーさんがうるさいから念のためー』

 

 倒れたペテルギウスの死体を木っ端微塵に爆破するミミの様子を見て、他の連中もこれぐらい容赦なくて強いのなら大丈夫じゃね?とカズマの不安はある程度拭い去った。

 

『その様子なら、どうやら無事にそちらも片付いたようだね』

 

 余裕そうな笑みのユリウスの様子からして、どうやら向こうも目立った被害もなく魔女教を殲滅できたようだ。

 

「けっ!報告ぐらい恰好つけずに済ませられねえのかよ!」

 

「もう、そんなこと言わないの!」

 

 言動が鼻に着くユリウスに対して、カズマが吐き捨てるように文句を付けるのをアクアが叱りつける。

 

 なんにせよ、後は消化試合の雰囲気で談笑するスバル達の様子に、肩肘を張っていた皆が緊張の糸を解いて楽しもうかと考えた、その時だった。

 

『しゃがめぇぇぇ!!!』

 

 森の中から嫌な気配を感じ取ったスバル。

 突如として森の中から無数の見えざる手がスバル達に襲い掛かる。

 

「なっ!?あれってペテルギウスの見えざる手だろ!?なんで!?」

 

 その見えざる手を見て、カズマが驚愕の声を上げた。

 そう、ペテルギウスはヴィルヘルムの手で死んだのだ。死体だって後顧の憂いを無くす為にミミが跡形もなく吹き飛ばした。それなのに、なぜ見えざる手が動いているのか。

 

「まさか、残りの大罪司教が到着したのか?」

 

「全員が見えざる手を所有してるってことかよ!?」

 

 突然の事態に、焦りを見せるターニャとカズマ。

 スバルの声に反応するのが遅れた鉄の牙の団員やクルシュの騎士団が見えざる手に捕まり宙に浮かび上がる。

 

「おい!まさか!?」

 

 2度目のループの際に見たかつての光景に類似した状況に、尚文が叫ぶ。

 次の瞬間、宙に浮かんだ者達があの時のレムのように、体をねじ切られていく。

 

 唐突なスプラッターシーンに悲鳴が上がる。

 バラバラとなった死体と血の雨が降る光景に、吐き気を催したカズマは慌てて口を押さえ込んで目を背ける。隣を見ればめぐみんも恐怖からかガタガタと肩を震わせて涙目になっている。

 

 他にも、あの悲惨な光景に絶句して口を開けたまま状況を理解出来ていない者もちらほら存在する。

 まさかの展開に怯えていると、スバルの足に見えざる手が絡まり、森の中へと引きずり込んで姿を消した。

 

「やべぇ!スバルがまた……!!?」

 

 死んでしまう。せっかく命からがら白鯨を討伐したというのに、また王都からのやり直しかとカズマが絶望した声色で叫ぶ。

 森の中を引きずられていくと、途中で木にぶつかり逆さまになった状態で磔になるスバル。

 その間になんとか見えざる手を剝がそうと蹴りを入れて脱出を試みるが、痛覚がないのかどれだけ蹴っても見えざる手はいっこうに掴む力を緩めない。

 そんな中、森の中から聞きたくもない狂気を含んだ女性の声が聞こえてきた。

 

『あぁ──脳が、震、える』

 

「このセリフは──!?」

 

 何度も聞いたあの男、ペテルギウスの口癖のような言葉にアインズが反応する。

 スバルもその声と言葉に反応して身を捻って体を持ち上げ、見えざる手の先にいる魔女教徒を視界に入れた。

 

 お前は何者かと問うと、その魔女教徒は被っていた覆面部分を脱いで素顔を晒す。

 その素顔は声と同様に女性の顔であり、まかり間違ってもペテルギウスではなかった。

 それでも、その狂気を孕んだ目と言動は間違いなくペテルギウスそのもので、スバルの疑問に答えるようにその女性魔女教徒が口を開く。

 その内容は狂気を孕んでおり、ところどころ意味不明な独り言のようでもあったが、要約すると最悪なパターンへと繋がった。

 

「まさか、指先の数だけペテルギウスが存在する!?」

 

「だとしたら、あと残りは9体?いや、あの殺したペテルギウスが本体だとすれば、残りは10体って可能性も出てくるぞ!」

 

 最悪の事態にターニャは爪を噛み、尚文も自身の中にあった最悪の不安が現実になったことに、苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

 白鯨同様に、怠惰が保有している能力は1つだけではなかったというものと、白鯨と違って本体だけでなく分身体でもある指先を全て殺さなければならないという条件に、カズマは思わずクソゲーのボスかよと弱音を吐いた。

 

 見えざる手によって縛り上げられて、文字通り手も足も出ない状態のスバルを前に、福音書を失って憤怒するペテルギウスの前に小さな赤い光が現れる。

 

『──精霊っ!?』

 

「逃げた?精霊が弱点なのか?」

 

「いや、前のループじゃパックを前にしても平然としていた。いいや、違うな。前と違って今は本体ではなく指先だからなのか?」

 

 目の前に現れた精霊から逃げたペテルギウスの様子に、ターニャが疑問を呟く。

 それに対してアインズが前回のループでペテルギウスが大精霊であるパックと対峙した時の状況を思い出して否定しようとするが、前回と今回の相違点を見つけて言い淀む。

 

 その間にスバルに追いついたミミとティビーが技を放つが、その狙いは外れて先程までスバルを磔にしていた木に着弾する。

 

「外れた!?」

 

「イイヤ、外シタノダ!!」

 

 カズマの言葉を否定するコキュートス。どういうことだと問い詰めるよりも先に、森の中からヴィルヘルムが駆けつけ、見えざる手を両断して指先に乗り移ったペテルギウスを再び切り裂いた。

 

「なるほど、見えないのならば見えるように木の破片を振らせて可視化させたのですな」

 

 セバスのその説明に、カズマはなるほどと納得する。

 

「とはいえ、これで残る指先は9か8だが、もしかしたら魔女教徒全員がペテルギウスの依り代である可能性も存在する以上、まだ安心は出来んな」

 

 最悪中の最悪の予想だが、もし本当にターニャの考える通りであるとするならば、ペテルギウス討伐はほぼ不可能に近しいものになってくる。

 そもそも、薄っすらと気付いていたことではあるが、あの本体と思われるペテルギウスを学園で見たという証言から、頭のいい連中はスバルはペテルギウスを殺せていないのだと分かっていた。

 

 つまるところ、スバルはまた死に戻りをする。

 それがあと何回続くか分からないが、少なくともスバルが戦うのではなく本格的に逃げる選択を選び続けない限りは死に続けるのだと思うと、これまでのスバルの道中を見ている為に、ターニャの心に暗く重たいものが圧し掛かる。

 

「スバルさん、とても辛そうな顔……」

 

「アイツにとっちゃ、自分の我儘で殺してしまったって考えてるんだろうな」

 

 ペテルギウスに殺された鉄の牙の団員や騎士団の連中の死体を見て顔を曇らせるスバルに、ラフタリアと尚文は痛ましそうな目を向ける。

 殺したのはペテルギウスだというのに、それでも自分のせいでと自己嫌悪するのがスバルの悪い癖だと思いながらも、それがスバルの優しさから来ていることも知っている為に、あまり強くその感情を捨てろとは思えなかった。

 

『スバル殿、なにか、不安があるのですかな?』

 

『あ、いや……』

 

『口にされるがよろしい。ひとりで抱え込む必要など、ありはしません』

 

『違うんだよ。ちょいと考えをまとめようとしてたとこなんだ。あんまり整理つかない状態で話してても要領を得ないでしょ?それで……』

 

『それで、諦める選択肢に向かいそうになったのではありませんかな?』

 

『諦めるって、そんなのとは……違う』

 

『スバル殿、私がこう言葉にするのも無粋の極みですが、言わせていただきます』

 

『お、おう。そんなかしこまってこられるとアレだな。うん、聞きますけど』

 

『──戦え。戦うと、抗うと、己にそう定めたのであれば、全身全霊で戦え。一瞬も、一秒も、刹那すらも諦めず、見据えた勝利という一点に貪欲に喰らいつけ。妥協などしてはならない、あってはならない。まだ立てるのならば、まだ指が動くのならば、まだ牙が折れていないのであれば、立て、立て、立て、立て、戦え。──戦え』

 

「戦え──っか、随分と残酷なことだ」

 

 その結果の未来を朧気ながらに理解しているターニャは、ヴィルヘルムのその激高が酷く残酷なことに繋がるのだなと悲観しながら、スバルが戦う決意をするのを黙って見守る。

 

『ああ、行こう。知恵と力、貸してくれ!』

 

 その絶望に抗おうとするスバルの足取りが、この先の未来を予測した者の目には地獄に自ら踏み入れているように見えた。

 




もう4月も半ばですが、ここから1期終了まで書き上げられるかどうか……。
感想でルプーの話は要らないって言う人もいますが、最近ルプーのセリフ書いてないな~と思うこの頃……。

まあ、もう5千文字書いてあるんで投稿はしますがね。

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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