いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
けど、金曜日には徹夜して一万文字以上書いたから許してね。
『ユリウス!一緒に来てくれ、屋敷にいるエミリアとロリに説明しに行く。お前が俺の隣にいるのといないのとじゃ説得力が違う。大人しく城でやらかした俺の反省の証になれ』
『なるほど、了解した。それで話が円滑に進むのであれば、遠慮なく利用するがいい』
『それと……、俺に精霊くっ付けてたのはお前だよな。ちゃんと説明しておけ。お前が精霊使いだってくらい分かっている』
『正確には精霊騎士と呼んで欲しいな。精霊術はもちろんだが、剣の方の修行にも手を抜いた覚えはないのでね』
「喋る度に嫌味が増すなアイツ!」
「まあ、勤勉な騎士らしいじゃないか。しかし、精霊騎士か……。後衛職の精霊術師と前衛職の騎士の変わった組み合わせによるレア職のようなものか」
ユリウスのさりげない自慢のような台詞にカズマが苛立ちを口にするが、アインズがフォローするようにユリウスを評価する。
まあ、最後の一言はゲーマー視点での評価だろうが。
『彼女らが調律を見誤るのは珍しい。ひょっとすると君は、精霊との親和性が高いのかもしれないな』
『生憎、俺が仲良くした精霊はネズミ色した猫だけだよ』
「ほぉ、まさかスバルに精霊術師の才能があるのか?」
「俺はそんなことよりも、スバルの寛容性に驚きだな。レムの時もそうだったが、自分を殺した相手を仲良くしただなんて、俺にはとても口に出来そうにないな」
「それは私もある程度は同意見だ。まあ、スバルのあの器の大きさは美点として捉えるべきなのだろうな。だが、それ故に危うい場面に多く会ってしまうのが少々残念ではあるがな」
スバルの器のデカさに呆れる尚文に、アインズは多少賛同しながらも、それを美点と賞しながら、同時にその危うさを危惧する。
そうしてユリウスに同行の許可を取り終えたスバルは、そのまま屋敷に向かうのではなく、避難準備中のフェリスの元に足を運んだ。
『──で、ユリウスとちゃんと仲直りした?できた?』
『その件は前向きに善処するとして、お前も一緒に屋敷に来てくれ。親書の件の誤解を解くために、クルシュ陣営の人間が必要だ』
「ふむ、反省の証にユリウス。親書の誤解を解くためにフェリスを同行させる。前までの1人で突っ走るスバルがよくもまあ成長したものですね。学園では常に周りに人がいた為に、そこら辺は推し量れませんでしたが、──いえ、だからこそ、スバルの周りにいつも人がいたんでしょうかね?」
スバルが成長している様子を見て、デミウルゴスが感慨深げに頷く。
これまで、自己犠牲と無鉄砲さが目立ってあまりそうは感じられなかったスバルの意外な成長にデミウルゴスも驚きを隠せない。
そして同時に、今後の学園でのスバルの動向にはより注意を払って観察する必要があると結論が出る。
『いいから、いいからー』
『ちょっと待てよ……!』
『おいおい、人の竜車で痴話ゲンカなんて始めんじゃねえ!』
「行商人の人に怒られてんじゃねえか。あんまり迷惑掛けるもんじゃねえぞ」
「いつも何かしらで迷惑を掛けてしまう我々が言えることではないでしょうがね」
「なっ、私は他人に迷惑など……!」
「そうよ!私だって好きで迷惑を掛けてる訳じゃないんだからね!いつも向こうが勝手に来るだけなんだからね!!!」
トラブルほいほいなダクネスとアクアの2人が言い訳を始めていると、突如としてフェリスが親しげに行商人にさりげなく近づいて接触する。
『──はい、油断した』
『ぐっ……!!!』
魔法か何かを発動したのか、フェリスに触れられた行商人は感電したかの反応を見せて倒れる。
一体何をと誰かが口を開く前に、フェリスが冷静な態度で行商人の正体が魔女教であると暴露する。
『さっき触って確認したの。大罪司教の『指先』と同じ術式が埋め込まれてる』
「術式!なるほど、ペテルギウスの復活のからくりはそれか。事前に準備を施していた者に乗り移れるマーカーのようなものだろう。大罪司教の復活というのはメリットだが、正体不明の魔女教の判別が出来るというのはデメリットだな」
「でも、これで対策が出来ますね!」
正体不明であった魔女教の判別が出来るという情報にターニャとヴィーシャは希望を見出す。
魔女教を見分けられるというのは、それだけで大きなアドバンテージだ。
ただその希望は次の一言と流れた映像で粉々に打ち砕かれる。
『さあ、終わりの始まり──デス!!』
スバルが乗っていた竜車がまるで砲撃でも喰らったかのように爆発を起こす。
その爆発は日頃から戦場で見ている帝国軍人にとって、容易く人の命を奪える威力であったこと知っているが故に、この部屋にいる誰よりも絶望した。
「「「「スバルッ!!!!」」」」
まともな防御系の魔法を使えないスバルがあの爆発を免れるのは到底不可能だと、その場にいた誰もがスバルの生存を絶望視する。
ただ、爆発前に察したフェリスによってユリウスがくっ付けていた準精霊が防御に入ったのが見えた為に、僅かばかりの可能性かもしれないが、スバルの生存に希望が生まれる。
とはいえ、爆発に巻き込まれて生きている確率など絶望的だ。
そんな中、暗転した映像が流れる中で部屋に悲鳴のような声が流れてくる。その直後、呻るスバルの声と共に、暗転した映像からフェリスの顔が映し出された。
「い、生きてた……」
「だが、ひと息つくにはまだ早いぞ。避難前に魔女教の強襲を受けたのだ。あそこはもう戦場だ──!」
死に戻りしていない事実にほっと一安心するカズマだが、無常にもターニャが軍人としての視点から、まだ安心出来ないとカズマを叱咤する。
事実、映像には村人の悲鳴とそこかしこから爆炎による黒煙が立ち込めていた。
『それにしてもお前、あの爆発でよく無事だったな。超強力な防御魔法とかか?』
『そんなんじゃないよ……。ちょっと1回死んじゃっただけ……。服は治癒魔法で再生できないからネ』
「死んだ?スバルの死に戻りとはまた別の能力か?」
「単純に考えるなら不死身の能力持ちか、あるいはただの比喩表現の一種か?どちらにせよ、あのクルシュの騎士を任されているのだ。ただの治癒魔法の使い手では無いと思っていたが、どうにもあちらの世界の騎士は一癖も二癖もあるな」
フェリスの死んだという発言に引っ掛かりを覚えるターニャ。順当に考えるならばとアインズなりの予想を述べる。
にしても、スバルの異世界生活は波乱万丈で、一癖も二癖もある連中ばかりと縁があるらしい。まあ、異世界転移初日で異世界で恐れられる嫉妬の魔女と同じ銀髪のハーフエルフと異世界最強に出会っているのだから、今更と言えば今更か……。
そんな急に出てきたフェリスの能力に目を奪われている2人だが、そんなことよりもカズマや尚文は村を襲っている魔女教の方に目を奪われていた。
「フェリスの事なんかよりも魔女教の方が今は重要だろ!?」
「マジで、あいつら精神構造がズレてるっていうか、自分達に危害もしくは利用価値がありそうな方に優先度が傾くよな」
思わずといった感じにカズマがツッコミを入れる。と、その言葉に同意するように尚文もまたターニャとアインズの異常性を口にする。
普段は常人と同じ精神であるが、メリットとデメリットが絡んだことになれば途端に人情を捨てて、普通からズレた言動を取るようになる。
特にターニャなどは、尚文は知らないだろうが、体育祭でカズマが腑抜けた発言をした際にパックと一緒になってスコップを持たした状態で実弾を追い掛け回すという戦争の世界の人らしい行動に走るほどだ。
やはり、戦争における倫理観などというものは、下手すれば異世界転移した自分達の世界よりも緩いのかもしれないとカズマと尚文は考える。
一方で、アインズは見た目こそ恐ろしいものの、喋ってみれば常識人そのもので、下手をすればこの部屋で一番のまとも枠の人物だろう。
そんな彼も自身の仲間に異常な執着を見せており、きっぱりとした優先順位があるからこそ、時に情を感じさせない口調で目の前の出来事を淡々と処理できるのだろう。
そんな2人にドン引きしていると、映像内で建物の倒壊する音とともに、あの見えざる手が暴れ回る光景が映し出された。
そこにペテルギウスがいる。そう判断したスバルとユリウスが駆けつけると、そこではペテルギウスが乗り移ったであろう魔女教徒を刺し殺したヴィルヘルムの姿があった。
「おお!あの爺さん1人でやっつけたのか!!?」
「流石、剣鬼と言われてるだけあるな。っていうか、異世界って妙に強い老人がいるのはデフォルトなのか?」
ヴィルヘルムの活躍にカズマは興奮し、尚文は自分が元いた世界の拳法使いの老婆を思い出して、そう呟く。
2人共、ヴィルヘルムの勝利を疑ってはいなかった。それはヴィルヘルムも同じで、指先という命のストックを持つ敵の対処を致命的に間違えた。
『目に見えないものに注視すれば、見えるモノは疎かになる。怠惰デスね?』
魔女教が持つ短剣を袖から取り出し、それを自らの顔に突き刺して自害する。
その瞬間、ヴィルヘルム諸々に自身の死をトリガーにした自爆に巻き込むことに成功する。
そして、その自爆に巻き込まれたヴィルヘルムは死にはしなかった。ただ死にはしなかっただけで、白鯨との戦いで負った傷がさらに悪化して、とても戦闘を続行できる状態ではなかった。
「迂闊だな。敵は疑似的な不死の能力者だ。勝てると思って突っ込んだのだろうが、敵が自爆を選択するということくらいは、今の現状を見て可能性として視野に入れておくべきだったな」
「──っ、だな。アレはヴィルヘルムの爺さんの迂闊さが招いた事態だ」
ターニャの言葉に一瞬嚙みつきかけた尚文だったが、事実ヴィルヘルムの判断ミスが招いた結果だ。
その事を尚文も重々承知しているからこそ、ターニャの指摘を素直に認める。
スバルが死にかけているヴィルヘルムをフェリスの元に連れて行こうとしたその時、またあの狂気じみた不快な声が響いた。
『何故!!何故何故!!何故何故!!何故アナタはまだ存命なのデスか!?あれだけの仕打ちを受けて何故、我が勤勉の前に屈しないのデスか!!』
「やっ、やべえって!爺さんが負傷して戦えないのに、ペテルギウス以外にもまだ魔女教があんなに!?」
「ひ、卑怯だわ!死んでも別の体に乗り移って死なないだなんて!インチキよ!チートだわ!?エリスったら一体何をやってるのよ!ああいうのは問答無用で天界に引っ張っちゃいなさいよ!!」
「い、いや、アクア先輩。流石に別の異世界はエリス様も手出しは出来ないんじゃないかな~って……」
その狂気が孕んだ声とそのオーバーアクションによってペテルギウスが乗り移ったことが分かる魔女教徒とその後ろにズラりと立ち並ぶ魔女教に、カズマが絶望した声で叫ぶ。
アクアも半泣き状態で、この場にいない天界で死後を導く役目を担っているエリスを糾弾する。そんなアクアに申し訳そうな声で言い訳をするクリスだが、アクアはエリスがどうにかしないのが悪いと聞く耳を持たない。
「さて、この状況でどう立ち回る?ナツキ・スバル」
「エルザ、魔獣、白鯨と今まで彼にしかできない役回りで活躍して見せたのです。今回も期待して見てみましょう」
追い込まれたようなこの状況でスバルがどう動くのか。ターニャとデミウルゴスが興味深げに見つめる中で、スバルは懐から一冊の本を取り出してペテルギウスに見せびらかす。
『お前の探し物はこれだろう?大好きな魔女様からの贈り物だ』
『この盗人が!!やはりキサマが持っていたのデスか!』
『怒鳴るなよ。あんまり怒られるとあれだ。──脳が震える』
『──死ぬがいいデス!!』
その最後の一言にブチ切れたペテルギウスの目には、もう既にユリウスもヴィルヘルムも入っていなかった。
「毎度思うけど、スバルのボキャブラリーってどうなってんだ?ああも相手のキレさすツボを押さえるとか、ある意味流石って感じだわ」
「そうね。でも、カズマさんも結構そういう所あるわよ。例えば私のことを駄女神って呼んだり、めぐみんのことを頭のおかしい爆裂娘って言ったり、ダクネスに関してはセクハラで怒らしてるものね」
「うっ、うっせぇ!!お前とめぐみんは妥当だろうが!!あと、最後のダクネスに関してはアイツが夜な夜なあの熟れた身体の性欲を持て余して──」
「むううぅぅ!!!」
涙目になったダクネスがカズマに殴りかかってきた。無論、カズマの自業自得なので誰も止めはしなかった。
右頬を腫らしたカズマはそのまま何も言わずに大人しく続きを鑑賞する。
今のペテルギウスの標的はナツキ・スバルただ1人のみ、見事に囮役を買うことに成功したスバルはユリウスに短く曖昧な指示だけ出すと、最後にユリウスに何かを伝えようとする。
『ユリウス──』
『まだなにか?』
『……いや、──後でな!!』
「ああ、もう!いい加減に仲直りのごめんなさいくらい言っちゃいなさいよ!こういうところが本当にヘタレなカズマさんとそっくりだわ!!」
「おい!流れ弾で俺まで巻き込もうとするな!!」
「確かに流れ弾ですが、カズマがヘタレなのは事実ではないですか?」
「めぐみん?」
「ああそうだ。普段はいやらしい目つきで見てくる癖に、いざ一線を超えようとすれば話題を変えて有耶無耶にするのは、その……」
「ダクネスまで!?あの夜か?あの夜のことを言ってるのか!!?というか、最後に恥ずかしくなるくらいなら最初から言うんじゃねえ!!」
最後まで意地か恥か、スバルはユリウスに仲直りの言葉を投げかけることなく、問題の先送りをしてその場を走って逃げた。
それに対して、いつまでもウジウジとするスバルにアクアが苛立ちを込めて罵倒し、カズマも流れ弾で巻き込まれた。
更に追撃として、めぐみんとダクネスまで弄ってくる。特にダクネスの口にした言葉には今のスバルの状況も忘れて女性陣が興味本位で耳を傾けていた。
そんな騒動のなか、怒り狂うペテルギウスを引き連れて、スバルは必死に見えざる手から逃れながら森の中を疾走する。
『どこへ逃げても無駄なのデス!!逃げた先に何があるというのデス!!』
その言葉がヒントになったのだろう。スバルの視界の先に見えるあるモノを見つけたスバルは、咄嗟にそれを掴み取った。
と、同時に背後からペテルギウスの見えざる手がスバルを襲い、ギリギリで回避することが出来たものの、バランスを崩して地面に転がる。
『いよいよもって……、終わりの時が来たようデス……』
『ハッ……、これ、なんだか分かるか?』
スバルが先程掴み取ったもの、それは屋敷でのループでの騒動の原因ともなった魔獣を避けるための結界用の魔石だった。
「それって、まさか……!?」
「なるほど、ただがむしゃらに逃げていたわけではなかったという訳か……」
「ふむ、あの森はスバルにとって苦い思い出でしょうが、それ故に森に潜む脅威を知っている。だからこそ……」
スバルの取った行動の真意に気付いたカズマ、ターニャ、デミウルゴスは驚きと共に納得の表情を浮かべる。
ターニャやデミウルゴスに至っては、スバルが魔獣に襲わせるという事を前提に動いていたという事実に口の端を吊り上げていた。
結果、魔石を持つスバルには近づかず、魔石を持たないペテルギウスがウルガルムの群れの標的となって食い殺された。
その見事な頭脳プレーに歓声が上がりかかるも、直後に気持ちを切り替えたスバルのラストスパートに向けた気合いの入れ直しの言葉にその声はまだ出すべきではないと自重する。
『これでおそらく残る『指先』は後一本……!そいつさえ片付ければ──』
森を抜けてボロボロになった村と血塗れで倒れる村人の死体を見て、スバルは舌打ちと共に走り抜ける。
聞こえてくる騒ぎの中心に向かえば、見えざる手で騎士や村人を捕まえて握り潰すペテルギウスの姿が見えた。
『怠惰ァア!!』
まさに極悪非道のその所業に、スバルはあらん限りの怒りの感情を込めた叫びをぶつける。
『──そこまでよ、悪党』
『エミリア……』
それはいつかの日、薄汚れた路地裏で始めて彼女とスバルが出会った時に聞いた言葉。
きっとスバルが一番聞きたくて、でも今一番その声を聞きたくなかった人の声。
「エミリアに……、パックも……」
「まあ、これだけの騒ぎになっているのだ。屋敷からでも十分に見えも聞こえもするだろう。そうなれば、正義感の強いエミリアが姿を現すのは当然のこと……」
「だが、魔女教の狙いはエミリアだろ。奴らの言っている試練がどういったものかは知りたくもないが、どうせロクなモノじゃないに決まっている。そんな奴らの前にノコノコと姿を現すとか……」
魔女教の前に姿を現したエミリアとパックにカズマが惚けたような声で呟き、ターニャが状況的に当然の帰結と納得を示す。
だがそんな納得も、尚文は頭を掻きながら苦言を呈していた。
確かに魔女教の目的はエミリアにあるのだから、こうして姿を現した時点でエミリアが巻き込まれるのは必至だろう。
そうなればどうなるか。試練の内容がどういったものか知る由もないが、今までのループで何度も村や屋敷が氷漬けになっていることからして、まともな内容ではないのは確実であり、十中八九エミリアの身に危険が迫るのは間違いないだろう。
もしそうなれば、パックが再びあの巨大な怪物に変化して世界を滅ぼすのだろう。
それを知っているから。否、そうでなかったとしても、スバルはエミリアを助けたいと、危険には晒したくはないという一心で手助けに行こうと前に出ようとした。
『待って!!』
『フェリス!?待ってる場合じゃねえだろ!?エミリアとあいつを戦わせるつもりか!?』
『エミリア様を呼んだのは私とラムちゃんの判断、──少しは信用してあげなよ』
『……!?』
『君が守りたいって思っている人が、ただ後ろにいるだけの人じゃないってこと』
そうフェリスに言われて落ち着いたスバルが再びエミリアの方へ向き直ると、そこにはパックと共に氷の魔法でペテルギウスを圧倒するエミリアの姿があった。
ペテルギウスの切り札たる見えざる手も、事前にフェリスから聞いていたのか、氷の粒を周辺に浮かび上がらせることで、その軌道を事前に察知して回避していく。
そうして、ペテルギウスや魔女教に一方的に攻撃を加えていくエミリアの姿は凛々しく勇ましかった。
「すげぇ!エミリアとパックのペアって、やっぱり強いんだな」
「当然だろう。立場的に守られるお姫様であるが、あちらの世界でも恐れられている精霊術師、それもパックは大精霊と呼ばれる存在だ。弱い筈がない。ただ……」
「ああ、ここまで圧倒的なのに、何故に前回までのループで全てパックがあの怪物になったのか?無論、最初のループはそうなったのかは分らんが、少なくとも2回目は魔女教の手によってエミリアは害された。それが見えざる手を知らなかったからなのか、指先という命のストックがあるのに気付いていなかったからなのか、他にもまだ知らない手の内があったからなのか……」
エミリアとパックの奮闘にカズマが感嘆の声を漏らすと、それを当然とばかりにターニャは肯定するが、少々懸念があるのか、そこで言葉を詰まらせる。
その言葉に続くようにアインズが疑問を紡ぎ、その疑問に対する自身の見解を口にする。
それに対して、カズマは流石に考え過ぎじゃないのか?とも思うが、アインズの言葉を聞いて考えを張り巡らせているターニャと尚文の様子を見て、その懸念が事実である可能性を感じ取る。
しかし、そんな不安とは裏腹に、パックがペテルギウスを氷で拘束し、エミリアが近づいて凍結させて封印みたく閉じ込めた。
『ね?言った通りだったでしょ?』
他にも村を襲っていた魔女教は騎士団の連中が全員斬り捨てたようで、村の脅威は去ったように思える。
「な、なんだよ……。脅かすなよアインズ。マジでまだなにかあるんじゃないかってビビッちまったじゃねえか……」
「うむ、今回は考え過ぎだったか?奇襲で攻められたからの結果が、今までのループに繋がったというわけか……?」
「「…………」」
アインズの言葉にビビりまくってしまったカズマは安堵で脱力して、恨み言っぽくアインズを責める。
その当の本人であるアインズも考えすぎたのかと言っているが、どうにもまだ納得いっていないかのような表情をしていた。
それは尚文やターニャもだろう。まだ不安が完全に払拭されたわけではないことを表情で物語っている。
だが、なんにしてもスバル達は魔女教に勝った。それは紛れもない事実であり、真実だ。
これでようやく、長い長い王都から続くループが終わる。それを少なくともカズマは信じて疑わなかった。
『会っといでよ』
『おわっ!あ、あぁ……』
フェリスに背中を押されてエミリアに会おうと一歩を踏み出そうとするスバル。
ようやくのハッピーエンドが訪れたと、そう安心して見ている者達を裏切るように、スバルの体に違和感が生じた。
次の瞬間、スバルの胸からあの赤い精霊が飛び出すのをユリウス、そして目敏い者達は見逃さなかった。
「あぁ、クる……。最高とはいえないまでも、待ち望んでいたハッピーエンド。それを裏切るような結末が……」
今までずっと口を閉ざして観ていたルプスレギナが口を開く。それはまるで極上のディナーを前にしたかのように、狼が弱った羊を見つけたかのように、これから起こる惨劇を、悲劇を予感して興奮に打ち震えている。
ルプスレギナの刹那的かつ享楽的な性格から来るであろう、希望を持たせた上で叩き落とし絶望する所を見たいという願望を体現したような結末を感じ取ったのだろう。
法悦とした表情を隠しきれず、口の端から思わず垂れ出ている涎が彼女の内心をこれ以上なく物語っている。
『くっ……!!』
『スバルきゅん!!』
「はっ?どうしたんだよ……?」
急にエミリアに背を向けて村から離れるように走り出すスバル。
その突然の行動に驚くフェリスだったが、これに驚いたのはフェリスだけでなく、カズマもまたその奇怪な行動に目を奪われた。
森を走り抜けようとするスバル。そんなスバルの心の声でエミリア達から必死に離れようとする思いが流れる。
そんなスバルの思いや行動に何故?とカズマは言葉も出せずに固まる。
「これは……。嫌な予感がするな」
「予感もなにも、既に悪いことは起きてるだろ……。一体何があった?」
尋常じゃない汗を流して走るスバルの様子に、アインズと尚文が焦りの声を上げる。
やがて疲労からか、足をもつれさせて倒れるスバル。そうして足の止まったスバルにようやく追いついたフェリスとユリウス。
『どこ行くの!?スバルきゅん!!』
『スバル!!何があった?気がかりがあるなら話して欲しい。ここまでくれば一蓮托生だ』
『ユリウス……。俺から……、離れ……』
スバルの様子にただ事ではないと、ユリウスが必死な形相で尋ねる。
しかしスバルはそれに答えず、離れるようにとだけ伝える。
「おい!何が起こってんだよ!?なんでスバルは逃げてるんだ!?」
「分からない……。だが、これは……」
もう訳の分からない事態に、アインズが口にしていた懸念が当たったのかと嫌な予感を感じてカズマが叫ぶ。
そんなカズマの叫びに明確な答えをもって返せることもできず、ターニャはただ黙って、否、歯を食いしばって状況を見守る。
『──ても遅いのデス!!』
その特徴的なデスという口調に、全員がまさか!?と、スバルに注目する。
そんな全員の疑問に答えるかのようにユリウスが口を開く。
『イアがスバルの体から弾かれた時点で嫌な予感はしていたが……』
『……どういうこと?』
『あれは……、スバルではない……!』
『──そう……、ワタシは魔女教大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ──デス!!』
その自己紹介に悲鳴が上がった。
ようやく見えた終わり。スバルとエミリアの短くも長い決裂を埋めるハッピーエンドが待っていると期待していた矢先にこれだ。
「噓だ!こんなの……噓だろぉ!!?」
カズマが否定して欲しいように騒ぐ。
「ス……スバルさん。こんなのあんまりです!」
ラフタリアが涙を流しながら、この結末を受け入れられないでいる。
「えっ、なんで?だってスバルは魔女教なんかじゃ?」
アクアは狼狽えながら、目の前で流れる映像の内容を飲み込めないでいた。
「酷い……、酷すぎじゃないか……!」
グランツが異世界でのスバルの境遇に眩暈すら起こしそうになって目元を手で覆う。
「なんたる仕打ちか……」
感情を表情にこそ出さないものの、僅かに震えてような声や強く握りしめた拳がセバスの心情を物語っていた。
『実に良い!!これほど馴染む体は何十年ぶりか!!』
「っ!!あぁあ゛ぁぁぁ!!クッソォ!!!まさか、見落としていたというのか!!!?」
スバルの声で嗤うように喋るペテルギウスの言葉を聞いて何かに気付いたターニャが叫ぶように後悔した声で何かを見落としていたと頭を搔きむしっていた。
何事かとターニャの方に注目が集まる中、ヴィーシャが慌てて肩を揺すってターニャを正気に戻さんと声を掛ける。
「少佐!しっかりしてください、少佐!!」
「っ!!すまん。あまりにも迂闊な自分に腹が立ってしまって取り乱した。もう大丈夫だ……」
騒ぎ過ぎによる息切れを起こしてはいるが、どうやら精神状態は平常に戻ったようだ。
「見落とした……?ふむ、なるほど、そういうことですか。これは確かに、失態でしたね」
ターニャの見落としたという発言を拾ったデミウルゴスが、顎に手を当てて少し考えると、ターニャが辿り着いた答えに行きついたのか、その顔に少しの曇りを落として失態だと自分に言い聞かせるように呟いた。
「失態って……?どういうことだよ、デミウルゴス?」
「ふむ、私もお前が、ターニャがどういった答えに辿り着いてああも取り乱したのか気になるな。デミウルゴスよ、お前が行きついた考えを皆に話してやりなさい」
「はっ!これはターニャ殿が見落としという発言で私もようやく気が付けたのですが、今回のナツキ・スバルへのペテルギウスの憑依。これは、既に前のループで起きていたことなのです」
「「「っっっ!!?」」」
デミウルゴスの説明の言葉にカズマを始めとして多くの者が絶句した。
今まで2人と同じ映像を見続けていたが、何処にそんな場面があったのかと、困惑している。
「──そうか!最後のあの瞬間、スバルが壊れたように笑っていたあの場面か!?」
デミウルゴスの説明で絶句していたアインズだが、思考を回転させて答えに至ったのか、目を見開きながら答えを言った。
「ああ……、私はてっきりあの時はスバルが壊れただけなのだと思っていたが、あの今のペテルギウスが憑依したスバルの声を聞いてようやく気が付いた。迂闊だった。まさかあの時の笑い声が幻聴の類ではなく、スバルの中に入り込んだペテルギウスのモノだったとは……」
後悔あるいは自身の迂闊さに対する情けなさからくる怒りがターニャの言葉に震えを与えていた。
「……後から気付いた私が言うのもなんですが、そこまで気を張り詰めなくともよいのでは?確かに、今のこの部屋に監禁されているとも言えるこの状況で見落としというのは十分な失態でしょうが、それで実害は出ていない以上はあまりご自身を責めるのはよくないのではございませんか?」
「……すぅ~、はぁ~。ああ、そうだ。その通りだデミウルゴス君。だがこれは、そう……。私のかつての失態、トラウマのようなものだ。見落とし、それがどれ程に罪深いものかを知っておきながらの、この体たらくだ。まったく、マヌケにも程がある」
一度深呼吸をし、肩をすくめて自虐のように語るターニャに、デミウルゴスは何のことかと訝しむが、ターニャの周りの者達、すなわち帝国軍人らの顔に影が落ちるのを見て、それが前の世界で見落としによる大きな失態を仕出かしたのだと察した。
そう、共和国軍との戦争での勝利に浮かれた結果、共和国に連合王国との合流を許してしまい、折角手に入れた勝利をふいにしてしまった。
その結果が戦争を終わらせる機会をみすみす逃してしまうという見落としをしてしまったのだ。
前回は勝利に、今回は絶望によって、本物の勝利を得る機会を逃したのだ。
死に戻り、その絶大な力を目にしながらも、ターニャはそれを生かせなかった。
無論、映像の中での出来事にお前に何ができると問われれば、何もと言い返すしかないだろうが、それでも前回の失態を生かせずに忘れてしまっていることに腹を立てているのだ。
まだやり直しのきくスバルだからセーフであるものの、死に戻りなどという都合のいい力を持たないターニャが同じ局面に立ったらどうなるか?答えは簡単だ。死んで終わり、この一言で終了だ。
「はぁ~、ままならぬものだ……」
座席に深々と背をもたれさせて、今も映像の中でペテルギウスの憑依に抗うスバルを見ながらターニャは呟くのであった。
『やってくれ……。お前の……その剣で……』
ユリウスに縋りつき、殺してくれと懇願するスバルに胸が痛くなる。
ここからもうどうにも出来ないのかと、そう叫びたくなってしまう。
それでも、終わりの時は近づいてくる。必死に死ぬなと言わんばかりに引き止めようとするユリウスだが、ユリウスが駄目ならばとスバルはフェリスに目を向ける。
『フェリス……、頼む……』
『わかった……。恨んでいいよ、スバルくん。──私も恨むから』
そっとフェリスがスバルの顔に手を当てると、次の瞬間にスバルの悲鳴が上がる。
「おい、止めてやってくれ!!」
「うっ……、うぅ……!!」
「こんな……、後でって!ちゃんと仲直りする筈だったのに!!」
「もう、後戻りは出来ないのだな……」
カズマが止めてくれと懇願し、めぐみんが無情な現実に涙を流し、アクアがあったであろう未来が無くなったことに泣き崩れ、ダクネスはスバルの悲鳴からもうその命は長くはないのだと悟り暗い影を落とす。
『フェリス!』
『私が喜んでやったと思う!?クルシュ様のための力で!殿下に約束した力でこんなこと!!』
「スバルさん。……フェリスさん」
「こんなの、誰も救われねえじゃねえか……」
「ぐすっ!うえぇ~ん!!」
悲痛に叫ぶスバルと苦しそうに叫ぶフェリスに胸痛めたラフタリアが瞳に涙を浮かべ、あまりにも望まれない結果に尚文は唇を噛んで血を流し、耐え切れない絶望に幼いフィーロは泣き叫んだ。
『他の誰にもできないことでしょ……。スバルきゅんのこれが望みだよ』
『馬鹿なっ……これほど相応しき体を前にっ……。ワタシが……滅ぶことなど……』
「ちっ!とっとと滅べ、魔女に狂信する狂人が!!」
「もう、スバルさんの声でこれ以上喋らないで欲しいです」
「スバル……、私は……、君が素晴らしい人間なのだと、心の底から思っている。だから、こんな結末はあまりにも酷いじゃないか……」
滅ぶということは、もう命のストックが無いということ。それを喜ぶよりも先に、スバルの自滅と共に決着が付くことに怒りの声が出てしまうターニャ。
ヴィーシャもまた感情の抜け落ちた表情で早く死んで欲しいと願った言葉を呟き、ヴァイスが座ったまま神に祈るようなポーズでスバルへの称賛と神への愚痴を口にしていた。
『君とフェリスに望まぬ決断を強いたのは私の不徳だ。いずれ罰を受けるだろう』
圧倒的な絶望が、最優の端正な顔を歪ませて望まぬ剣を振り下ろさせる。
「ああ……!ああ──!!!最っ高!!!」
自身の肩を抱きしめながら、目の前で流される映像と苦悶と涙を流す観客の声を聞いて絶頂したような顔で、ユリウスがスバルを殺したことに喜びを見せるルプスレギナ。
その吐息は熱っぽく、頬を染めて何処か艶めかしさすら感じさせる。
その顔を何度も見たユリはもはや言葉もなくルプスレギナの頭を小突いた。
ザシュッ!!という剣が肉を斬りつける際に発生する音と共に、噴水のように吹き溢れる真っ赤な血と後悔に歪むユリウスの顔を最後にスバルの視界はブラックアウトし、映像は暗転して何も映さなくなった。
感想と評価!それをくれなきゃやる気が出ないのデス!!!
4月中に終わらせるためにも燃料をプリーズ!!!
あと前回スバ虐期待してって書いたけど、思った以上にこの時点のスバル君のメンタル強かったから上手くスバ虐出来んかった。
その代わりにいつも通りの恒例のカズ虐(笑もつく)とターニャの自虐を入れたよ。
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル