いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
盗品蔵を目指して走るスバル。今の意味不明な状況にテンパって、前回も犯した裏路地に不用心にも入るという選択をした結果、路地を塞ぐように立ちはだかる、3人のチンピラによって邪魔される。
『頭打ったか……もしくはさっそくやられた復讐か。異世界でもそのあたりは変わらねぇんだな。仲間連れてこないあたりはまだ良心的か?』
前回と同じチンピラが現れたことに辟易しながらも、仲間を大勢引き連れてやってこなかったことにだけは、スバルは感心する。
「あの小物共め!また現れましたか……」
めぐみんがチンピラを見て、憎々しげにそう呟く。
ただ最初の時みたくヒートアップしていないのは、先程のスバルとエミリアが殺されたのを引きずっているからなのだろう。
『おい、痛え思いしたくなきゃ出すもんだしな』
『お前ら、俺が一人とみてさっきの仕返しか?』
『ああ?何言ってんだお前。取り敢えず持ち物全部置いてけ』
会話が嚙み合わない。まるでスバルと出会ったのが初めてだとでもいわんばかりのチンピラ達の態度に引っ掛かるものを覚える。
しかし、今は一刻も早く盗品蔵に急ぎたいスバルはその疑問を後回しにした。
『はいはい、持ち物全部ね。急いでっからいいやホント』
『あと犬の真似な!四つん這いで犬の真似して、助けてくださいーって鳴けよ』
『調子乗んなやコラァ──ッ!』
ただでさえ意味の分からない状況で苛立っているというのに、あまりに調子こいた発言が飛び出したせいで、スバルの堪忍袋の緒が千切れる。
今回は前回と違って、最初に狙うのは大柄の男ではなく、ナイフを所持していた男にアッパーカットをぶち込む。
続いて小柄な男に壁にぶつけるようにハイキックをぶちかます。
ここでようやく事態を飲み込めた最後の大柄の男がスバルに襲い掛かるが、スバルは冷静に男の攻撃を避け、不良御用達の相手の腕を雑巾に見立てて絞る雑巾絞りを喰らわせる。
相当痛いのか、たまらず大柄な男の顔に脂汗が滲みだす。
『ひきこもりだからってなめんな。日々、木刀振って無意味に鍛えた俺の握力は七十キロオーバーだ。ベンチプレスも八十キロまでならいけんだぞ』
とどめとばかしに、スバルは大柄な男の無防備に開いた股関に蹴りを叩き込み、コキーン!と音がしたような錯覚を覚える。
股間を抑えながらうずくまる男を尻目に、スバルは急いで走り去る。
「う……うわ~、最後金的とか、マジでスバルさん流石っすわ」
「そんなに痛いものなんですか?っていうか、なんでカズマが股を押さえてるんですか?」
「うるせぇ!あの痛みは女には理解できるもんじゃないの!?」
「女には理解できない痛み……。き、気になる!!」
「ダクネスも、頬を赤くして気色悪いこと言ってんじゃねえ」
そんな風にカズマ達が騒ぐが、アインズとターニャは別のところに注目していた。
(あの男達、まるでスバルと出会ったのが初めてのような口ぶりだった)
(それに、今のこの状況を合わせて考えると、にわかには信じがたいが、スバルはもしや……)
「アインズ様?」
「少佐?」
考え込んでしまっているアインズとターニャに、隣の席に座るアルベドとヴィーシャが声を掛ける。
「ん、ああすまない。少々考え事をしていた」
「そうですか、アインズ様の貴重な思考のお時間を遮ってしまい申し訳ありません」
「案ずるな、スバルの身に何が起きたのか、少々考察していただけだ」
「そうだったんですか。だったら、もしかしてスバルさんの身に起きたことが分かったりしたんですか?」
ターニャの言葉に、ヴィーシャが目を輝かせて質問する。
それに対してアインズとターニャが口を揃えて一言だけ。
「「セーブ&ロード」」
「ふむ、なるほど……」
アインズとターニャはこの時点でスバルの身に起きたことをある程度看破していた。
しかし、あえてこの場で言うようなことはせず、分かる者にだけ分かるように一言だけ呟いた。
案の定、デミウルゴスはそのメガネをキラリと光らせて意味深に理解したようだ。
いまこの場でスバルの状況を看破出来ているのは、アインズ、ターニャ、デミウルゴス、そして恐らくはアルベドの4人くらいだろう。
元ヒキニートでゲーマーだったカズマも、アインズとターニャの一言でなにかを察しかけたようだが、未だ点と点が線で結ばれてないようで首をひねっている。
『や、やっと見つけた。……手間取っちまったぜ、チキショウ』
チンピラ達との遭遇や、うろ覚えだった道をなんとか思い出し、盗品蔵にようやくスバルが到着する。
後は目の前の扉を開けて入るだけなのだが、それでも自分が一度殺された場所に戻るというのは、スバルに躊躇を生む。
扉を開いて中に入りたいのだが、その一歩が踏み出せない。
『ビビんな、ビビんな、ビビんなよ、俺。バカか……いや、バカだ、俺は。ここまできて答えを見ないでなんて帰れるかよ』
自分に喝を入れて意を決して扉を乱暴に叩く。
すると、中から女の声ではなく老人の声が聞こえた。
ひとまず、自分を殺したであろう人物ではないことに内心でホッと安心しながら開けてくれるように叩き続けると、目の前の扉が勢いよく開かれ、スバルが五メートル近く吹っ飛ばされる。
「ねえ、カズマ。あのお爺さんってもしかして……」
「スバルがあの蔵を探索してる時に見つけた死体の爺さんだよな」
蔵の中から出てきた老人が先程の映像で死体となって倒れていた老人だとアクアが気が付く。
なぜ生きているのか疑問に思いながら、そのまま黙って映像を見続ける。
『馬鹿げた話なんだが……爺さん、最近、死んだことないか?』
そんなスバルの突拍子もない言葉に、老人は 痛快なジョークでも聞いたように笑い飛ばす。
『がははは、何を言い出すかと思えば。確かに死にかけのジジイなのは認めるが、あいにくと死んだ経験はまだないな。この歳になればもう遠い話じゃないと思うがの』
「ねえ、これってどういうこと?あの死体って私の見間違いなのかしら?」
「そんなの俺に聞いたって分かんねえよ!?」
困惑するアクアにカズマがそう答える。
そんな2人の困惑をよそに、映像の中ではスバルと老人が和気あいあいと話している。
どうにも盗品を売って生活を送る悪党には見えない愉快な爺さんだが、こうして会話を重ねる度に、スバルは自分がサテラと名乗る少女に出会い、そしてここで殺されたのが本当に夢だったのではないかと思い始める。
『で……、お前さんは何の用でここに来た?』
『ああ、俺は徽章を探して……。俺を助けてくれた、銀髪美少女の持ち物だ。理由は知らんけど大切なモンなんだと。確か、真ん中に宝石が嵌め込まれてるって言ってた』
そして2人の会話はエミリアが盗まれた徽章の話になる。
最初はそんな物はないと口にする老人だったが、落ち込んだ顔をするスバルを見下ろしながら、意味ありげにニヤリと笑う。
『今日は大口の持ち込みがある、と前もって聞いとる。──宝石入りの徽章とやらなら、十分にその可能性があるじゃろうな』
『持ち込むのはひょっとして……フェルトって子か?』
そこからはとんとん拍子にスバルが交渉の席に座った。
『これぞ、万物の時間を切り取り凍結させる魔器『ケータイ』だ!』
口八丁手八丁でただのケータイを魔器であると言い切り、それっぽい口上で老人を説得する。
「ふっ、やはりこういった口先だけの交渉は得意のようだな」
「ああ、そうだな。会社でのプレゼンを思い出す」
スバルの交渉術にターニャが感心したように頷き、アインズもまた転生前のサラリーマン時代を思い出していた。
『こいつの価値は確かに計り知れん。儂も長いことこの商売しとるが……魔法器を扱うのは初めてじゃからの。じゃが……これまでにない値がつくのは間違いない。物々交換にこれを出すのは、少しお前さんに損が大きすぎる。その探しとる徽章の価値はわからんが、この魔法器以上ということはあるまい。単純に金額だけで比べるなら、この魔法器自体を売りに出した方がよっぽど得じゃぞ?』
『ああ、それでいい。この魔法器は、フェルトって子が持ち込む徽章と交換する』
『なんでそこまでする?この魔法器より値が張るのか?それとも、金に代えられん価値があるとでも言うのか?』
『いいや、ぶっちゃけ、俺はその現物を見たこともない。金に換えても正直、この魔法器より高いってことはないだろうし、俺は丸損間違いなしだぜ』
『そこまでわかっとるなら、なんでそんなことする?』
『決まってんだろ。──俺は損がしてぇんだよ。俺は恩返しがしたい。貸し借りはきっちり返す。そうでなきゃ気持ちよく寝られねぇ。俺は神経質なんだよ、現代っ子だから。──だから、大損してでも徽章を手に入れる』
そんな一連の会話を聞いた一同の反応は様々だ。
「スバルも俺と同じ苦労する性格してるよな」
「ええ、そうですね。なんだかんだ言いながらも、結局助けてくれるカズマにそっくりです」
好きになった人の為に身を切るスバルの姿にカズマは共感を覚える。
めぐみんも暖かい眼差しを向けながら、いつも自分達の為に文句を言いながらも助けてくれるカズマの姿を今のスバルに重ねる。
「やれやれ、2人揃って欲が無いというか、馬鹿な奴らだ……」
「ですが、少佐。そう言いながらも、ちょっと嬉しそうな顔をしてますよ」
ターニャとヴィーシャもまた、似た者同士であるスバルの行動に呆れながらも、その姿勢を好ましいと思う。
「素晴らしい。エミリア殿もそうですが、スバル殿もまた非常に好感の持てる御仁ですね」
「だが、あのケータイなる魔法器をああも簡単に手放すのはいかがなものでしょうかね?目利きの効く人物であろうあの老人も認める一品。それをあのように最初から手放してもいいという態度で交渉に挑むのは、少々浅はかではないですか?」
「あなたはまた……」
「ああ、勘違いしないでくれたまえよ、セバス。何も君の気持ちを貶める気はないし、スバルに含むところもないよ。ただ、客観的な評価を下しただけさ」
デミウルゴスのスバルに対する評価に苦言を呈そうとするセバスだが、そんな彼に対してデミウルゴスは軽く手を振って否定する。
「まあ、落ち着け2人共。ただ、そうだな。私としても、スバルの行動には好感は持てる。ただ、デミウルゴスの言う通り、交渉事においてあのように最初から手札を一枚簡単に手放すような真似をするのも考えものだ」
両者の意見を汲み、アインズはスバルの行動に付いて評価を下す。
これはあくまでゲームではない。命のやり取りが行われる現実だ。そんな異世界で手札を容易く一枚手放すのは愚策とも取られかねない。
「お前はどう思う、アルベド?」
「アインズ様のおっしゃる通りかと。ただ、1人の殿方を愛する私から見て、好きになった者に対して自分の大切な物を捨ててまで助けになりたいという行動は、女心として理解できるものがあります」
アインズの問いかけにアルベドは微笑みながらそう答えた。
スバルの一部行動に共感するアルベドの答えにアインズは満足げに頷きながら、再び映像へと目を向けるのだった。
すると、ちょうどフェルトが蔵へ現れる。
スバルが老人にプレゼンした時と同じようにケータイの価値を説明して交渉するが、相手の交渉役がテーブルにつくまで待てと言う。
焦るスバルだが、タイミングを見計らったように蔵の扉を叩く音が聞こえる。
『符丁は?』
『教えてねぇ。多分アタシの客だ。見てくる』
扉を開けた先に待っていたのは、スバルと同じ黒髪の妖艶さを放つ見目麗しい女性だったからだ。
「女……か」
「もしや……」
ターニャとアインズは、現れた女性に心当たりがあるように呟く。
スバルが殺された映像時に聞こえた女性の声、その情報から嫌な予感を感じ取り、警戒を強める。
『部外者が多い気がするのだけれど』
甘くて冷たい声にターニャとアインズの疑念が確信へと変わる。
この女性がスバルを殺した本人なら、交渉の結果関係なしにスバルの身が危険にさらされる可能性が高い。
そしてその懸念は正しかったのだと証明される。
相手の女性──エルザが提示した聖金貨20枚ジャストという金額に対して、スバルのケータイはそれ以上の価値を持つと評された。
結果、フェルトの盗んだ徽章はスバルへと譲渡される。
「やっぱり、異世界の通貨ってエリス金貨じゃないのか……」
初めて聞く聖金貨なるお金の単位に関心を向けるカズマ。
彼も交渉でスバルが勝ったことに気が抜けたのだろう。この後に起こる残酷な運命を知らずに……。
交渉が終わり呆気なく帰ろうとするエルザだったが、去り際に1つの疑問をスバルに投げる。
『──そういえば、あなたはその徽章を手に入れて、どうするの?』
『……ああ、元の持ち主に返すんだよ』
交渉に勝ったことによる浮かれもあったのだろうが、女性の噓を許さないと語る雰囲気と瞳に呑まれたのだろう。
深く考えるよりも先に、スバルの口から明らかな失言が飛び出た。
その瞬間、エルザから冷たい殺意が溢れて行動に移ろうとスバルに襲い掛かる。
エルザの殺意を感じ取ったフェルトが突き飛ばさなければその時点でスバルは死んでいただろう。
「やはりこうなったか……」
薄々こういった展開になるだろうと予想していたアインズが冷淡に呟く。
「お、おいおい!これまたさっきみたいにスバルが殺されちまうんじゃ!?」
カズマも急な展開に焦りながら、スバルの身の危険を案じる。
そんなカズマの言葉を肯定するように、画面の中でエルザに抵抗したロム爺とフェルトは呆気ない程に殺された。
「うっ──!?」
あまりにも凄惨な場面に、カズマ達は勿論のこと、戦争を経験している筈の帝国軍人であるヴィーシャ達も胃から込み上げるものがあった。
しかし、そんな中でターニャ、そしてアインズ達は冷静にエルザの戦闘力を分析していた。
「あのスピード……、魔力による強化?それとも異世界の技術か身体能力によるものか?」
「武器の質は上級か最上級か?以前戦ったクレマンティーヌが持つ異世界独自の魔法武器という可能性もあるな」
「ですが、然程警戒に値する敵ではないように思えます。あれならば、守護者でなくとも、プレアデスでも十分に対処は可能かと」
ターニャとアインズ達の会話にカズマ達は耳を疑いたくなる。
目の前ではないにせよ、映像越しに学友であるスバルが殺されそうになっているというのに、何故ああも平然としていられるのか。
しかし、そんな疑問は次のシーンで吹き飛んだ。
『お爺さんと女の子は倒れ、なのにあなたは動かない。諦めてしまったの?』
最後に残されたスバルがエルザの挑発に死の恐怖よりも怒りが上回り、エルザに対して牙を剝く。
『でも全然ダメ』
いくら怒りで立ち上がろうとも、チンピラに勝てるだけの素人が一流の暗殺者に勝てる筈もなく、最後の最後で1発だけエルザに回し蹴りを当てるのが精一杯だった。
結局、奇跡は起こることなく、スバルの腹部はいつの間にかエルザによって裂かれており、真っ赤な鮮血が溢れ出し、腹圧に耐えかねて中身がこぼれ落ちそうになっている。
「きゃ──ー!!!」
そこが限界だった。見知った知り合いが腹を切り裂かれた場面を見て、皆が堪えきれずに絶叫を上げる。
カズマ達は目に涙を浮かべて震えており、ヴィーシャら帝国軍人は戦争のトラウマが刺激されたのか、青褪めた顔で映像の中のスバルを見る。
『ああ、やっぱり──あなたの腸は、とてもきれいな色をしていると思ったの』
その言葉を最後に、スクリーンは再び何も映すことなく真っ黒な画面に切り替わる。
「また、また死んじまったってことかよ!!!」
あの痛ましい光景を目にして、カズマが怒り狂ったように立ち上がる。
そんなカズマの声に誰も答えることなく、スクリーンには再び映像が映し出されていく。
『──兄ちゃん、ボーっとしてんなよ。リンガ、食うのか?』
あの時と同様、最初にスバルが殺された後に映し出された映像と全く一緒の光景がスクリーンに流される。
「アインズ君、これはやはり──」
「ああ、スバルは──死に戻りをしている」
そろそろ、一章終了後に追加される鑑賞メンバーのアンケートを実施します。
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル