いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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過去最多の文字数!書き上げるのに全集中の呼吸を多用してヘロヘロです。


ただそれを見届けるだけの物語

 フェリスからの火急の知らせを受けてユリウスとスバルは急ぎ、地竜に乗って村を目指して走り出す。

 

 スバルたちの現在地から村までは、地竜を利用すればそれほど時間はかからない。

 とはいえ、すぐに到着するわけではなく、しばらく間、森の中を疾走する映像が続く。そんな思いがけず訪れた小休止のような時間が生じたため、誰からともなく口を開き、これまでの出来事についての感想が飛び交う。

 

「それにしても、あのペテルギウスという男も滑稽でありんしたね。愛していた存在に興味なしと捨てられるなど、妾であれば耐えられんでありんすえ」

 

「あら、だったらそれも時間の問題ね。愛しのアインズ様は私こそを選んでくださるもの」

 

「はぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねえぞ、メスゴリラ!!誰がアインズ様の寵愛を受けられるって?それであれば、同じアンデッドである妾の方が相応しいでありんす!」

 

「あ゛ぁん!?寝言は寝てほざいてくれるかしら?あら、アンデッドは睡眠無効だったわね。だったら、今のは寝言ではなく戯言だったかしら?」

 

 バチバチとアインズを挟んで女の争いが繰り広げられる。

 アインズがそんな2人の喧嘩に頭を痛めながら、手慣れた様子で仲裁に入る。

 

「まぁ、待て2人とも。私は誰かを選んで、誰かを捨てるなどはしない。守護者ならびにNPCの皆を平等に愛している!!」

 

「「あ……愛して……」」

 

「いや、皆をという意味でだぞ。そこは勘違いしないようにな!!」

 

 アインズの『愛している』という発言に、2人は胸を打たれたように恍惚とした表情を浮かべる。そんな2人に、今度は別の意味で手が付けられなくなりそうだと、アインズは頭を悩ませる。

 

「しかし、シャルティアではないが、あのペテルギウスなる者が魔女から寵愛を受けられなかったというのは、少々興味が湧くね」

 

「……デミウルゴス、オ前モアノペテルギウスヲ滑稽ダト嗤ウトイウコトカ?」

 

「コキュートス、勘違いしないで欲しいのだが。私が興味を持つというのは何故に魔女はペテルギウスに協力しなかったのかという話だよ」

 

「ムウ?スマヌ。イマイチ言葉ノ意味ガ理解デキナイ」

 

「そうだね。もう少し分かりやすく説明するのであれば、魔女教は魔女を崇拝する者によって組織された集団だ。この組織の設立に魔女が関与したかどうかは定かではないが、少なくともペテルギウス本人は魔女から何かしらの恩恵を──恐らくは見えざる手を下賜されたのでしょう」

 

「なるほど、であれば魔女がペテルギウスに対してのリアクションが不自然だと、デミウルゴス君はそう言いたいのだな」

 

 デミウルゴスの説明を理解したターニャは、それをより簡潔にまとめて言葉にした。

 こうして、他の多くの者たちもデミウルゴスが抱いた興味とは何であるかを理解するに至った。

 

「ええ、その通りです。ただ、あの魔女の反応が自然なものであった場合、考えられる可能性は幾つかありますが、有力な候補としては3つほどでしょうか」

 

「3つね、どれもロクでもなさそうではあるが……」

 

「そう邪険にしないでください。あくまで3つの可能性はこれまでの情報から導き出された予測であり、私自身の考えではないのですから」

 

 尚文の険のある視線を受けながら、デミウルゴスは軽く受け流し、肩をすくめた。

 もちろん、尚文も本気でデミウルゴスを毛嫌いしているわけではない。ただ、盾の勇者としての本能か、あるいは過去に人に騙され陥れられた経験からか、悪魔であるデミウルゴスに対して無意識のうちに警戒心を抱いているのである。

 

「さて、スバル達が森を抜けて村に辿り着くまでまだ時間もありそうですし、もう少しだけ話を続けましょうか」

 

「そうだな。情報の共有や話し合いでの新たな発見は重要だ。尚文も聞きたくないのであれば耳を塞いでいればいい」

 

「馬鹿言うな!情報の大切さは身を持って知っている。聞きたくないから耳を閉じるなんて子供じみた真似……」

 

「あっ!」

 

 するわけないと言いかけたところで、ターニャに言われた通りに耳を塞ごうとしているカズマを見つけて言葉が止まる。

 その当の本人も尚文にクズでも見るかのような冷たい視線を受けて凍り付いたように固まってしまっている。

 

「なっ、なんだよ!言っとくが俺はただの一般冒険者なんだぞ!そんな魔女やら魔女教やらの危ねえ話なんか聞きたくなんかねえよ!!!」

 

「ほぉ、そうか。ならそうやって耳でも塞いでダンゴムシみたく丸まっていろ。お前が、友達と、そう呼ぶ男が必死に戦っている間ずっとな!」

 

「むぐぅぅぅ~~~~……っ!!!」

 

 プルプルと涙目で震えながら、友達を強調しながら正論でぶん殴ってくる尚文を睨みつけるカズマ。

 このまま茶番で時間を潰されたくないデミウルゴスは特に突っ込むことなく、今も震えているカズマに訊ねる。

 

「やれやれ、それでどうしますか、カズマ?聞きたくないならないで、こちらとしてはかまわないのですが?」

 

「いいよ!聞くよ!!覚悟は決まったドンとこい!!」

 

「いいでしょう。他の皆さんは……聞くまでもなさそうですね」

 

 部屋を見渡して確認を取ると、全員が覚悟の決まったカズマと同じ表情でデミウルゴスを見つめていた。

 それを確認して問題ないと判断したデミウルゴスは、メガネをクイッと持ち上げなが中断していた説明を再開した。

 

「さて、時間もそろそろ無くなってきたようですし、ここからは手短にいきましょう。何故に魔女がペテルギウスを拒絶したのか、考えられる最初の候補として浮かんできたのは、ペテルギウスに見えざる手の権能を与えたのは別の存在の可能性ですね」

 

「別の存在?ペテルギウスの奴はスバルの中にいる魔女を見て歓喜していたようだが、それは違うってのか?」

 

 デミウルゴスの示唆した可能性に尚文が首をひねりながら疑問を口にする。

 

「確かに、あの様子からしてそう思うのは当然でしょう。しかし、それが見えざる手を与えた者による偽装工作だとすれば?」

 

「なるほど、黒幕は正体を隠し、世界的に名の知られている嫉妬の魔女を利用しているというわけか……!」

 

「ええ、その通りです。まあ、これはあくまで可能性の1つであって、未だ仮説の段階です。それにまだ有力な可能性は2つ残っています」

 

 ターニャの指摘を肯定しつつ、あくまで考えられる可能性の1つだと補足する。

 

「次に考えられるのは、魔女に何らかの異常事態が発生し、その結果として記憶が抜け落ちている。この可能性も十分に考えられるものです」

 

「嫉妬の魔女。その強大さや悪行については知られているものの、その多くは語られず不明な部分が多い正体不明の存在。そして、そのような存在を神龍の力と当時の剣聖がどうにかしたと語られているが、それが原因ということか?」

 

「かもしれません。ナツキ・スバルの視点でしかあの世界を観測できない現状では、これ以上の情報収集は難しく、推測の域を出ませんが……」

 

「うむ、それは仕方のないことだ。わざわざ頭を下げる必要はないぞ、デミウルゴス」

 

 アインズの言葉を受け、申し訳なさそうに頭を下げるデミウルゴス。

 そんなデミウルゴスの様子を見たアインズは、抑揚をつけて頷きつつも、『別に怒る気持ちで聞いたわけではなく、純粋に分からなかったから聞いただけなんだが……』と、軽率に尋ねたことを少し後悔していた。

 

「さて、最後の可能性としてですが、これは少々妄想が混じった仮説でして。私の妄言として聞き流していただいても構いません」

 

「よい、デミウルゴスよ。お前ほどの男が考えたのであれば、妄言も真実であるかもしれぬのだからな」

 

(実際、シャルティアを洗脳した存在も一向に現れないし、デミウルゴスがリザードマンの集落を襲撃した際に述べた偶然の遭戦という説も可能性が高まっているからな)

 

 あの時はそれをアインズ自身が否定してしまったために、守護者たちの間で完全にありえない話となってしまっている。

 元小卒の一般サラリーマンである自分が、上の立場に伴う責任を負うのは無理だろうと時折愚痴をこぼすほど、当時の軽率な発言を悔やんでいる。

 

「なんという寛大なお言葉、このデミウルゴス、深く感謝申し上げます。さて、最後に提示したい可能性として、嫉妬の魔女が実際には複数存在するのではないかという見解を述べせていただきます。この仮説であれば、魔女教を創設した嫉妬の魔女と、ナツキ・スバルに取り憑いた嫉妬の魔女が、同一の存在であると同時に別々の存在でもあるという現在の状況に矛盾しない可能性が考えられます」

 

「は?複数だと。そんな情報は今まで見た映像の中に1度も出てきちゃいなかったし、そう言える根拠はあるんだろうな?」

 

 妄言にしては聞き流せない可能性に尚文が噛みつく。

 当然、デミウルゴスにとってはこの程度の質問は想定内のことであり、特に焦る様子もなく淡々と自分の考えを述べる。

 

「確かに、これまでの上映で嫉妬の魔女が複数存在するという情報は確認されていませんでした。根拠についても、ある一件からの推測に過ぎず、自信を持ってお答えできるものではありません。おっと、どうやら時間切れのようですね……」

 

 デミウルゴスの視線の先には、既に村に到着し、民家の中でフェリスと合流したスバルの姿が映像に映し出されていた。

 

「ちっ!もう着いたのか。悪いことではないが、強いて言うならタイミングが悪いな」

 

 さまざまな不満や問い正したいことは残るものの、それと同じくらい映像の先の展開も気になるため、尚文は今は鑑賞を優先することにした。

 

 他の者たちもデミウルゴスから最後の仮説の詳細を聞きたがっていたが、尚文と同様にこの先の展開を見逃さないよう鑑賞に戻った。

 その中で、ターニャは鑑賞に戻りながらも、先ほどデミウルゴスが口にした『ある一件』という言葉が気になっていた。

 

(今のある一件という言葉、おそらくは白紙の親書の件を指しているのだろう。もし、あのすり替えが魔女教の仕業であるならば、使者を見逃すはずがない。そう考えると、スバルが出した親書の中身が白紙になった理由は、中身を書いたレムという存在が消えてしまったからだと推測できる。しかし、それは暴食による存在消滅が原因だが、暴食を担っていたと思われる白鯨はすでに討伐されている。ただし、ここで暴食が複数存在しているとすれば話は変わる。まさに、ペテルギウスのように指先の数ほど存在している可能性がある、ということか……)

 

 頭が痛くなりそうな仮説にターニャは目頭を押さえながらも、この先の展開に注目する。

 

『捕まえた人から聞き出せた話にゃんだけど、どうも別働隊があるみたいにゃの。ここいら一帯に潜ませるんじゃにゃくて、街道を監視する的な立場の?』

 

『おいおい!まさか、ペテルギウスの指先って話じゃねぇだろうな!?森と崖と行商人一行で十ヶ所!指なら十本で終いだろ!?まさか足まで含めるとか子どもみたいなこと言い出すんじゃねぇだろうな』

 

『本人のいたところは指じゃなくて本体だから、指なら九ヶ所しか潰せてにゃいんじゃにゃーい?』

 

「ざっけんな異世界!!理不尽設定てんこ盛りはやめろ!!」

 

「確かにマズイ状況かもしれんが、エミリア達村人の護衛にはヴィルヘルムがついている。見えざる手を持つペテルギウスがいなければ問題はさしてない筈だ」

 

 ここに来ての魔女教の残存にカズマがキレたように叫ぶ。そんなカズマにターニャが落ち着くように声をかけた。

 実際に、ターニャの言う通り、大罪司教不在の魔女教連中であればヴィルヘルムにとっては物の数ではないだろう。

 

『すごいネ、その諦めの悪い目』

 

『──あ?』

 

『今、フェリちゃんはスバルきゅんに天地がひっくり返るような情報を伝えたつもりにゃんだけど……諦めるどころか、すぐにどうにかしようとしたよネ。うんうん、その態度はいいと思うヨ』

 

『まさかお前、俺をからかったんじゃねぇだろうな!?』

 

『それはにゃいよ。そこまでは期待しすぎ。今の話がフェリちゃんの悪ふざけだけだって言うにゃら、それでもう心配しなくて済むだろうから縋りたくなっちゃうのもわからにゃくにゃいけどネ。そこの部分は良くにゃいと思うヨ』

 

「コイツ、役に立つけど時々人の神経逆撫でする癖あるのがムカつくな!ってか、この程度でスバルが諦める筈がねえよ!!」

 

「同感だな。どっちの意味でも……」

 

 フェリスの悪ふざけにカズマが憤り、その感情に同調する尚文。

 周囲の者もまた、フェリスのからかいに幾分苛立ちながら、スバルの不屈の英雄的なタフな精神がこの程度で折れはしないと首を縦に振る。

 

『とにかく、さっきの話は事実なんだよな?』

 

『ホントだよ。あ、でも指先がどうって話とは違うけどネ。『怠惰』の魔女教徒は打ち止めみたい。──街道を張ってるのは、『怠惰』の関係者じゃにゃい』

 

『『暴食』の魔女教徒──!』

 

『白鯨が『暴食』だっていうにゃら、単独でいたのはおかしいって話ににゃるよネ』

 

「指示する頭はいなくなっても手足は働き者ってわけか。迷惑な話だな……」

 

「迷惑……っで済めばいいのだがな」

 

「なに?」

 

 ターニャの不穏な一言に尚文が眉を顰める。

 っが、それを問いただすよりも先に映像で更に不穏な台詞が流れてきた。

 

『──そのぐらいの話で事が済むのであれば、こうも戻るのを急がせたりはしなかったろう。フェリス、あまり回りくどいことをするべきじゃない』

 

『ヴィル爺の実力は信じてるし、少人数の魔女教徒の襲撃にゃんて心配するほどのことでもにゃいよ。いざとなればエミリア様だって戦えるんだし、戦力的な意味で不安はなし。ただ、ちょこーっと気ににゃることが、ネ』

 

『なんだよ、気になることって』

 

『そこから先は、肝心な部分に気付いた本人に聞かせてもらっちゃおう。というわけで、貴重な意見を出してくれたオットーくんでーす』

 

『驚かせたようですみません。まずは、無事に戻られてなによりでした。皆さんが負けてしまわれると、僕としても自分の安全が保障できなくなりますから』

 

『自分に正直でけっこうなこったが……お前がなにに気付いたって?ぶっちゃけ、出だしからしてあんまりいい予感がしねぇんだが』

 

『さっき、そこで顔見知りの商人の方が──エルグリードさんが捕虜になってることに気付きまして、魔女教徒……だったんですよね』

 

『名前超かっこいいな、あのオッサン。……で、まぁその質問はその通りだ。知ってる人間がそうだって言うなら、ケティって人もそうだったぞ』

 

『ケティさんが魔女教徒だったことには驚いていますし、残念でもありますが問題は別です。──ケティさんの竜車は、避難に利用されていますよね?』

 

『──?ああ、使ってる。持ち主はともかく、持ち物に問題はないだろしな。竜車の数もギリギリっちゃギリギリだから、遊ばせておくわけにもいかなくて』

 

『そして、行商人の皆さんが竜車に乗せていた積み荷は村に下ろして、代わりに住人の方を乗せて避難……これで間違いないですか?』

 

『竜車から下ろしたはずの荷物の中に、あるべきものの姿がありません』

 

『僕、みんなを出し抜こうとしてここまで飛ばしてきたって言ったじゃないですか。つまり、メイザース領での儲け話を聞いたのはみんなと同じ場所でなんですよ。当然、ケティさんとも一昨日の時点で接触してました。そのとき、ケティさんが竜車に積んでいたはずのものが積み荷の中に見当たりません』

 

「おいおい、まさか!?」

 

 その先に続くオットーの言いたいことを察したのか、尚文は焦りと不安を織り交ぜた顔でスクリーンを睨む。

 

『──大量の火の魔鉱石。小さな集落ぐらい、跡形もなく吹っ飛ばせるようなそれが行方不明になっています』

 

「そうか、前回のあの時の出来事か!?てっきり自爆による魔法の一種だと思っていたが、爆弾の仕業だったのか!!」

 

「ペテルギウスという存在を知っていたがために、魔女教であればある程度常識外れのことができると過大に評価し過ぎてしまった結果の見落としだな」

 

 前回のループで行商人になりすましていた魔女教をフェリスが捕縛した際に起こった爆発騒ぎの原因が火の魔鉱石だったことに驚くターニャと、魔女教の名前に引きずられて見落としてしまったことを反省するアインズ。

 

「もう何度目の大ピンチだよ!?しかも、ブービートラップじゃヴィルヘルムさんが護衛についてても意味ないじゃんか!?」

 

「お、お…、落ち着くのです、カズマ!私たちが悲観的になってどうするのです!きっと、スバルならここから逆転できるいい手を思いつくはずです!!」

 

 白鯨や怠惰といった恐るべき強敵を相手に、起死回生の一手で数々の状況を覆してきたスバルならば、とめぐみんは励ます。

 しかし、めぐみんの希望的観測の斜め上をいくように、映像の中でオットーがスバルに交渉を持ち掛けていた。

 

『取引きをしましょう。それに応じてくださるのであれば、僕は僕の全霊を尽くしてあなたを目的の場所へ──先にいった竜車に追いつくとお約束します』

 

『追いつける……ってのか?今から出発して、どうやって!』

 

『それをお話する前に確約していただきたいんです。取引きに応じてくださると。僕が差し出せるのは、僕自身にとってもかなり大きな意味を持つものですから。簡単には協力できません。仮に脅されたとしても、です』

 

『武力行使なんて乱暴な真似しねぇよ。方法があるなら教えてくれ。お前が出す条件ってやつも、俺ができるならなんだってやってやる』

 

『メイザース辺境伯の関係者であるナツキさんに、僕にメイザース卿とお目通りの叶う機会を設けてもらいたいんです。できるなら今回の功績に、積み荷の油を買い取っていただければ幸いです。……言い値で、いかがでしょう』

 

『またそんなことでいいのか、お前は!よし、なんでも買ってやるし、あの変態に会いたいってんならいくらでも会わせてやる。交渉は成立だ!』

 

『えっ、なにそれこわい』

 

「なるほど、この展開からオットーが仲間入りするフラグが発生したのか」

 

「アイツがどういった経緯でスバルの仲間になるのかと考えてすらいなかったが、こうやってなし崩し的にズルズル付き合いが生まれたって感じだろうな」

 

 スバルがオットーの出した条件に二つ返事で了承したのを見て、その流れから仲間入りする展開を予想するアインズと尚文。

 そもそもスバルとオットーの関係なんか急ぎの客とタクシー運転手ぐらいのもので、そこからどうやって学園に召喚されるまでの関係になったのかと()()()()()()()()()()()()が、点と点が繋がったという感覚だ。

 

『イアを君に同行させる。もしも竜車に魔鉱石が仕掛けてあるのが事実であったとすれば、イアならばそれに気付けるはずだ。活用してくれ』

 

『いいのかよ、俺に精霊預けるなんてことして』

 

『心得のない君を行かせて、後悔はしたくない。本来なら同行したいところだが……』

 

『こんにゃに傷だらけで無茶言わにゃい。やせ我慢しててもわかるんだから。それにマナもほとんどからっけつ。大技、使いすぎたでしょ?』

 

「やっぱし、ユリウスでも奇襲なしでペテルギウスを真正面から倒すのはキツかったんだな」

 

「あっ、しれっとカズマさんがユリウスの事を強いって認める発言したわ!」

 

「この男は普段はツンツンで素直じゃないですが、ポロリと本音でデレたりしますからね」

 

 スバルたちに同行したいと申し出たユリウスだったが、フェリスのドクターストップにより村で待機を命じられる。

 それを聞いたカズマが、なんだかんだでユリウスの強さを認めるような発言をすると、アクアとめぐみんがニヤつきながらカズマの顔を覗き込む。

 

「うっ、うっせぇな!剣からビームみたいなのぶっ放す奴だぞ!強いのは当たり前だろ!!」

 

「それは褒めているのか?確かに驚くような技だが、お前の評価基準がイマイチ分からんぞ?」

 

 自分の失言に気付き、顔を赤くしながら滅茶苦茶な言い訳をするカズマに、ダクネスが困惑しながら尋ねる。

 まあ、剣からビームを出せるかどうかによる評価など、サブカルチャー好きな者にしか分からない評価点だろう。

 

『お前は安静にしてろ。全部片づけたら祝賀会だ。招待客には入れてやるから、死ぬなよ!』

 

「あの日から随分と関係が修復──いや、改善したものだな」

 

「そうですね。私もスバルさんとユリウスさんがお知り合いだって知っていたのに、王城でのあの決闘を見てここまで仲良くなれるなんて思いもしませんでしたよ」

 

 互いに軽口を叩き合うスバルとユリウスの様子を見て、2人の関係が改善されたことにターニャとヴィーシャは感慨深げな表情を浮かべる。

 確かに、あの決闘は二人の関係をこじらせた反面、その後に大きく良い方向へと変化させたのだろう。

 そんな殴り合いから生まれる男の友情というものに共感はできないながらも、胸に熱いものが込み上げてくる。

 

『では、参りましょうか、ナツキさん』

 

『ああ、道案内とその他もろもろ頼むぜ、オットー』

 

 そうして準備を終えオットーと共に竜車に乗り込むスバル。

 

『『風除けの加護』が地竜には働きますから、体格差のある二体が並んでも問題ありませんよ。どちらも雌ですから、『聞いた』ところだと折り合いは悪くなさそうです』

 

 地竜が持つ風除けの加護とオットーが持つ言霊の加護を活かし、ショートカットを駆使してエミリアたちに追いつこうとする。

 

「加護──我々の世界でいうところのタレントに類似するような力か……」

 

「タレント?あんたらの世界って芸能人かなんかがいる訳?」

 

「いや、そういうのではないのだが……」

 

 アインズの推察によりこぼれた単語に首を傾げるアクア。

 確かに、『タレント』と聞くと芸能人を思い浮かべるが、本来の意味では才能、または才能を持つ人を指す言葉であるとアインズが指摘しようとした。しかし、言葉の正しい意味にはあまり興味のないアクアの視線は、既にスクリーンに戻っている。

 

「あの女!アインズ様に対して不敬な態度を!!!」

 

「もう殺すでありんすか!?」

 

「よせ、お前達!席を立つな!!」

 

 あまりにも無礼すぎるアクアの態度にアルベドとシャルティアがブチ切れながら席を立って私刑を執行しようとするが、アインズに肩を掴まれて強制的に着席させられる。

 

(ごめんなさい。ウチの教養のない馬鹿女神が迷惑掛けて本当にごめんなさい!!)

 

 後ろで苦労を掛けてしまっているアインズに対して、カズマはひたすら心の中で謝罪を繰り返している。

 

 なんにせよ、部屋の中は一波乱ありそうだが、映像の方は順調?というには獣道どころか断崖絶壁を竜車で落下するように爆走している。

 

『これ間違いなくそろそろ死ぬ!次はない!!』

 

『なんでしょう!?今凄い風が来てる!!正直、僕もここまでのことが出来るだなんて思ってませ────』

 

「オットーの奴、目がイッてやがる」

 

「なんだか隣に乗っているスバルさんが可哀想なことに……」

 

「うわー!ねえ、ご主人様!フィーロもあんな風に崖をぶわー!って走ってみたい」

 

「駄目に決まってるだろ。馬車諸共、俺らまで粉々に吹っ飛ぶ──っ、なんだ?様子が……?」

 

 崖を下り終え、極限状態に至ったオットーの目を見た尚文は思わず引いてしまった。

 ラフタリアもそんな乱暴な運転で走る竜車に乗せられているスバルに同情していたが、馬車を引くのが好きなフィーロはその荒々しい走行に目を輝かせ、今度自分もやってみたいと尚文にせがんでいた。

 もちろん、そんな必要は全くなく、もし行えば大惨事を招くので尚文は即座に却下した。

 その直後、ハイテンションだったオットーの様子が一変し、後方に注意を向ける。森の様子も異常で、木々の隙間から見える空には鳥が慌ただしく逃げるように飛び去っていた。

 

『木々が騒がしいというか……鳥や虫が大騒ぎして、消えました。それにフルフーも怯え出して……なにか、なにかがきます!』

 

「これってまさか!?暴食の魔女教か?」

 

「いや、それよりももっと厄介な敵だ!」

 

 新たに出現した脅威にカズマが警戒を強めるが、アインズはそれ以上の脅威が出現したのだと直感的に悟る。

 そしてそれは正しく、スバルが後ろを振り返ると、木々を押し倒しながら、黒い不気味な存在がスバルを追いかけて来ていた。

 

『飛ばせ、オットー。──絶対に、捕まるなよ!!』

 

『ナツキさん!?』

 

『てめぇ──どんだけしつこいんだよ、クソ野郎!!』

 

 荷台の後ろへ駆け込んだスバルの目に、見えざる手で無理矢理四肢を再現させて四足歩行で追いすがるペテルギウスが映った。

 

「なぁ!?アイツ、まだ死んじゃいなかったのかよ!?」

 

「いいや、それは少し語弊があるな。私も戦場で幾つもの死体を見てきたが、あのペテルギウスは紛れもなく死体に成り果てている」

 

「だとしたら、アレがアンデッドに化けて追いかけて来ているってのか?冗談じゃないぞ!!」

 

 映像に映った禍々しいペテルギウスを見てカズマは顔を青ざめさせながら、怒りとも絶望ともつかない感情を吐き出しつつ、死んでいなかったのかと驚愕する。

 それに対し、ターニャがカズマの言葉を訂正し、それを聞いた尚文は辟易した表情で、勤勉すぎるペテルギウスに悪態をつく。

 

「んもう!私がその場に居たら、セイクリッド・ハイネス・エクソシズムで一瞬で消し炭にしてやるのに!!」

 

 ウルトラセブンのエメリウム光線の様なポーズで構えるアクアに、アインズが前に放課後にターン・アンデッドを喰らった事を思い出す。

 

(低位階魔法で俺の上位魔法無効を突破したんだ。アレなら確かに効果はありそうだが。しかし、最上位魔法ともなれば俺も神聖属性の対策を取っておかなきゃ一撃で消滅されるかも)

 

 もう自分を攻撃してくることはないだろうと思っていながらも、女神であるアクアへの対策をこの部屋から無事に帰還したら備えておこうと心に決めた。

 なお、この部屋にアクア以上に悪魔やアンデッドに容赦のない変装した女神がいると知れば、アインズの心中はどれだけ荒れるだろうか。

 

 いずれにせよ、アインズの心構えはともかくとして映像の中でスバル達は危機的状況に置かれている。

 今あの場に居るのは一般人のスバルと行商人のオットーのみ、戦闘要員が1人もいない状況下で、ペテルギウスと相対するのはあまりにも危険すぎる。

 

「それにしても、あれは本当にアンデッドなのでしょうか?だとしたら、日中に行動するのも、死んでから動き出すのも早すぎる気が……?」

 

「いや、アンデッドではなさそうだな。おぞましい見た目はしているが、それは見えざる手によるもの。アンデッドを動かす負の力が見受けられん」

 

 めぐみんの疑問に対して、アインズは死の支配者の観点から否定した。

 

「だとするならば、先の戦いでユリウスが語ったペテルギウスの正体。それが関係しているのだろうが……?」

 

「結局、タネ明かしはされないままで終わったからな。ただ、この状況で考えられるとすれば、他人に乗り移る能力を持つモンスターという線が有効そうだな」

 

 アンデッドではないならばとターニャと尚文がペテルギウスの正体について考察を始める。

 その最中、尚文が漏らした他人に乗り移る能力という葉を聞き、ダクネスが閃いたようにバニルを見て問いただす。

 

「他人に乗り移る……。なあ、バニル。お前、以前にその仮面を通じて私を乗っ取ったことがあるだろう。もしや、ペテルギウスの正体は悪魔なのか?」

 

「ふはははは、腹筋だけでなく頭まで頑丈で固いポンコツクルセイダーにしては中々にいい線を──おっと、席を立って殴り掛かる気か?うむうむ、その苛立ちの悪感情!まことに美味である!!」

 

 高笑いしながらダクネスをおちょくるバニルに、ダクネスが席を立ちながら殴り掛かろうとする。

 っが、時間の無駄だとばかしにバニルは手を叩いて場を仕切り直し、ダクネスからの質問に答える。

 

「うむ。手っ取り早く結論を言うのであれば、その予想は的外れだ。おっ!自信満々に聞いてみた結果、あっさりと間違いだと衆人環視の元で言われてしまい、ポンコツクルセイダーが恥ずかしがっている悪感情も非常に美味で──おい、歓喜の感情を湧かすのはやめろ!!しかも、何故代わりに羞恥の悪感情がドンドンと減ってきているのだ!?」

 

 ドM変態クルセイダーにはこの手の恥ずかしめは効果がないようだ。

 身をクネクネとさせて喜ぶダクネスを置いておき、先のバニルの発言に引っ掛かりを覚えたターニャがバニルに問いかける。

 

「さて、ダクネスへの死体蹴りはいいとして、バニル先生。貴方のその言い方はペテルギウスの正体が悪魔ではない、そう断言しているようにも聞こえるのだが?」

 

「ふはははは、然り!この見通す悪魔である吾輩の目には、あのペテルギウスなる者の正体は見通し済みだ!!」

 

「ならさっさと教えろ!貴様のくだらん茶番には付き合いきれん!!」

 

「ふむ、さてどうするか……」

 

 高圧的な態度でバニルに迫るターニャだが、その態度はバニルをつけあがらせるだけだ。

 ただ、それがターニャだけだった場合だが。

 

「私からもお願いしたい。敵の正体を知りながらこの先の展開を見るのと見ないのとでは、得られる情報に差異が生まれるからな」

 

 どの様な返答でターニャをからかうか思案するバニルだったが、アインズからも急かされた事で、肩をすくめながら話し始める。

 

「やれやれ、貴殿を敵に回せば、流石の吾輩も少々骨が折れそうだからな。今回は素直に語るとしよう。吾輩の見通す力によれば、奴の正体はそう!精霊──それも邪悪な邪精霊と見た!!」

 

「精霊!?そうか、だから精霊術師であるユリウスが答えに辿り着けたというわけか……」

 

 バニルからの返答に、納得したような表情を見せるターニャ。

 確かに、それならば精霊術師のユリウスが気付いたのにも納得がいくし、実態を持たない精神生命体のような精霊であれば、人の体を乗っ取って操るのも可能なのだろう。

 

『お前の足止めが、俺の役目ってわけだ。最終局面で見せ場炸裂……何回、最終局面やらせんだよ!お前のどこが『怠惰』だ、この無用な働き者がぁ!!』

 

『魔ァ女ォ……サテラぁ……!ワタ、ワタシを、愛、愛、愛し、愛して、愛を、愛が、愛で、愛され、愛す、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛アイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイイイイイイイィィィ!!』

 

『俺もお前も愛されてなんかいねぇよ!好きな相手の心臓潰そうとするラブコメがあってたまるか!俺は願い下げだ!』

 

「これが愛……ね。以前のバレンタインの日に出会った時は意気投合もしたけれど、あの日の私の目はだいぶ曇っていたようね。あれは愛なんかじゃなくて、執着や妄執に近い……いえ、それはきっと私も──」

 

「どうした、アルベド?」

 

「いえ、ただ少しだけ思うところがあっただけで……。ご心配には及びません」

 

 沈んだ様子のアルベドに声をかけるアインズ。それに対して、アルベドは気丈な態度を保ちながらも、心配を掛けたことへの謝罪を述べる。

 そんなやり取りをしている間に、荷台へと見えざる手を伸ばして中にいるスバルを捕まえようとペテルギウスが躍起になっていた。

 

『ナツキさん、森を抜けます──!』

 

 オットーの言葉と同時に、鬱蒼と茂る木々を抜けて、開けた草原に躍り出る。

 木々という障害物が消えたことで竜車の速度が上がり、少しだけだがペテルギウスとの距離も離れた。

 

『愛ニ!愛シ!愛だけガ、全テなのデス──!!』

 

「いい加減にその言葉も耳障りだ。気が付け、ナツキ・スバル。死に掛けの化け物に引導を渡す手札は既にお前の手元にあることに……」

 

 血涙を流しながら、けたたましい声で愛とばかり叫ぶペテルギウスにうんざりしているターニャが、スバルの手元には既に起死回生のアイテムがあることに気付けと念を送る。

 それが届いたのか、スバルは同じ荷台に乗せてあった売れ残りの油壷を投げつけた。

 

「あれは!?そうか、オットーの奴が運悪く買い集めた油か!!」

 

「そういや、出立前にユリウスから借りてた精霊!あれの属性は!!」

 

 壺の中身に気付く尚文。そしてカズマもまた油というワードからユリウスがスバルに貸し出した準精霊とその属性を思い出す。

 

『力借りるぜ、ユリウス・ユークリウス。レンタル・ゴーア!!』

 

 本来の術者が扱うものとは比べ物にならないほど小さな火。しかし、それでも大量の油にまみれたペテルギウスを燃やすには十分な火力であった。

 小さな種火が油に引火した瞬間、燃え盛る業火がペテルギウスを包み込む。

 通常の生物であれば、体に火が広がるとそれを消そうと地面に転がって消火するのが当たり前である。だが、ペテルギウスは精霊であるがゆえに痛覚がないのか、それともただ魔女への妄執によるものなのか、炎に包まれながらも荷台に見えざる手を叩きつけ、そのまま荷台にしがみついていた。

 

「執念深い怠惰だぜ。いい加減にもうくたばっちまえ!」

 

 あまりにも怠惰を担当するに似合わないその執念深さに、尚文は何度目になるか分からない悪態をつく。

 

『寄越ォせ、渡ァせ、差しィ出ァせェ……』

 

『だから!俺の体に入っても痛い目にあうだけだっつってんだろ!魔女がなんだってんだ。俺もお前も、振り回されてるだけじゃねぇか!』

 

『魔女に、魔女、サテラに、サテラぁ、愛し、愛を、愛がぁ!愛してマス!愛されているのデス!サテラ、アナタが、アナタがワタシを、ワタシにした!片時も忘れていな、いないのデス……アナタが忘れても、ワタシは、忘れて、いない!』

 

「もう会話は通じてないようだな。しかし、あのような仕打ちを喰らってまだ魔女への奉仕を止めないか。それまでの行いがどれほど醜悪であれ、魔女への忠誠心だけは認めてやってもいいかもしれんな」

 

 魔女から裏切られたかのような拒絶を受けたにもかかわらず、なおも業火に焼かれながら魔女のために行動するペテルギウスに、何処かナザリックのNPCと重なるものを感じ取ったアインズが、ボソッと呟く。

 

『お前が化け物のままだったら、俺の負けだったろうぜ』

 

 そう言ってスバルは懐から一冊の本を取り出して、それをペテルギウスの後方へと投げ捨てた。

 

『ぁ……サテラ』

 

 自身が魔女との繋りを持つ大切な福音書。それを掴み取ろうとペテルギウスは手を伸ばす。

 しかし、そこは地竜の風除けの加護の範囲外であり、竜車に追いつこうと高速で動いていたペテルギウスは、加護から外れた瞬間に強烈な風の抵抗を受けてバランスを崩した。

 その隙を好機と見たスバルは、気合の込もった雄叫びを上げながら、燃え盛るペテルギウスの懐へと突き進む。

 

『──ぉ、おおおおお!!』

 

 だが、ペテルギウスもバランスを崩しただけで無抵抗の状態ではなかった。新たに出した見えざる手で、近づいてくるスバルを迎撃せんとその顔目掛けて突き出した。

 

『──ヴィルヘルムさんに教わったことが、二つあった』

 

迫りくる見えざる手から目を逸らさず、スバルは可能な限り最大最速の動きで、見えざる手が頬と首をかすめる程度のギリギリで回避し、その勢いのままペテルギウスに接近する。

 

『俺は、剣の才能がこれっぽっちもないってことと。──殴られたとき、目ぇつぶらない度胸だ!!』

 

 その叫びと共に、スバルの握りしめた拳が綺麗にペテルギウスの顔面をフルスイングで打ち抜いた。

 このスバルの活躍により、部屋の中は大きく盛り上がりを見せた。

 

「マサカ、アノチャンバラ遊ビノヨウナ稽古カラモ学ビヲ得テ糧ニスルトハ!?ナツキ・スバル。恐レ入ッタ!!」

 

「はい。あの時はただの現実逃避だと思い見ていましたが、何事も行動することが結果に繋がるのだと思い知らされましたね」

 

 思いもよらぬ側面からスバルの成長を目にして、かつてスバルの稽古を嘲笑い軽視するような発言をしてしまったコキュートスとセバスは、自らの未熟さを痛感するとともに、スバルの目覚ましい成長ぶりに感嘆せざるを得なかった。

 

 ペテルギウスがスバルに殴り飛ばされたことにより、掴んだ福音書が手元から離れ、スバルの足元へと落ちた。

 

『終わ、終わり、終わら、終わらない、終わって、ない、デス、デス、デス!?』

 

『──いや、もう終わりだ』

 

『福音書、それを、それは……ワタシに未来を、ワタシの行いを肯定し、ワタシに愛に報いる術を、ワタシの愛は……ぁ!』

 

『これの通り、動いてたってのか。──それなら、ここでお前は、『おわり』だ──!』

 

 かつてスバルがレムに対して、ただ自身のバツの悪さを誤魔化す為にしていたと言い放った勉強で学んだ『イ文字』で『終わり』の言葉を書き綴った。

 

「ふっ、ナツキ・スバル。お前は愚か者であるかもしれんが、怠惰な者では決してない。本当によく頑張ったのだな」

 

 あの瞬間、エミリアから別れを告げられたスバルが辿った道筋やこれまでの頑張りに何も無駄なことなどなかった。

 例えそれをエミリア達が知らずとも、今こうして知り得たターニャは、スバルの行いを労う言葉を掛けずにはいられなかった。

 

 そして、スバルによって福音書に終わりと記されたからか、見えざる手が竜車の車輪に巻き込まれ、ペテルギウスはそのまま引きずり込まれていった。

 

『──ナツキ・スバルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

 

 その怒りと恨みの入り混じった絶叫が木霊し、それがそのまま断末魔に代わる。

 

『今度こそ、もうずっと、眠ってろ……ペテルギウス』

 

 これで今度こそ、ペテルギウスとの長い長い因縁が断ち切れたのだとスバルはひと息つく。

 だが、安堵している暇はないとばかりに、オットーが声を掛けてくる。

 

『ナツキさん、あれ!!』

 

 荷台から御者台に移ったスバルの目に映ったのは、爆発によって煙の上がった街道だった。

 そこへ近づけば、魔女教と戦闘しているヴィルヘルムと騎士達の姿があった。だが、そこに避難用の竜車はなく、恐らくは殿として残ったのだろうと推察出来る。

 

『──ヴィルヘルムさん!!エミリアは!?』

 

 その切羽詰まった叫びに、何かしらの緊急事態が起こったのだと察したヴィルヘルムは、何も聞かずに剣先でエミリア達のいる進行方向の先を示してくれた。

 

『この先へ!真っ直ぐに!大樹の方角です!!』

 

 唐突に現れた竜車の存在に動きを止めた魔女教だったが、目的の半魔であるエミリアに関りがある者と判断したからか、即座に竜車を攻撃目標と定め、その攻撃が竜車に集中された。

 だがそれをヴィルヘルムが怪我人とは思えない冴え渡った動きで阻止する。

 

『恩人に恩を返す絶好の機会。男が女に会いに行くのを、誰に邪魔されてたまるものか。貴様らも私も、再会の場面に居合わせるには血生臭すぎる。──全員、屍をさらして終わるがいい』

 

「ええ、そうですとも。どのような理由であろうとも、男女の再会を邪魔される道理などないのです」

 

 ヴィルヘルムの言葉にセバスは口元を僅かに歪ませながら、穏やかな声でそう呟いた。

 

 そして、スバル達の竜車は真っ直ぐに魔女教の妨害を突破し、目的のエミリア達が乗る竜車を見つける。

 ぐんぐんと距離が詰まるにつれて、エミリアとの再会に思いを馳せるスバルの心を投影しているのか、スバルが異世界で初めて会った日の事、月下の中でエミリアの死体の手を握って誓った瞬間がフラッシュバックのように映し出される。

 

「これは!スバルの記憶か!?」

 

「物語の定番でいうなら、クライマックスシーン前の回想といったところか」

 

「いいじゃない!このまま全員救ってハッピーエンド直行よ!!」

 

 突然の回想シーンの割り込みに驚くカズマと尚文だったが、お気楽に騒ぐアクアの言葉に肩の力が抜けていき、変に警戒することを止めて映像の続きを鑑賞することに決めた。

 

『あの時、誓ったんだ!俺が、必ず、お前を救ってみせる!!』

 

 その覚悟の決まった声と表情に、誰とはなしに、スバルはこれを乗り越えて英雄になれると確信を持った。

 

 目の前を走る竜車の群れに追いつき、スバルは御者台から飛び降りる。そして、真っ直ぐにエミリアが乗る竜車へと駆け寄り、その勢いを殺すことなく荷台へ乗り込んだ。

 

『──スバル』

 

 そう自身の名前を銀鈴の声が呼んでくれたと気付いたとき、スバルは破顔しそうな顔を必死に抑え込んだ。

 頭を振り、それらの迷いを一瞬で切り捨てて、ユリウスから預かった準精霊に魔鉱石の仕込まれた場所を特定するように指示を出した。

 

『イア!わかるか!?』

 

 少しの間だけ荷台を調べるように宙を舞ったイアが、床板の一枚の上をここだと言いたげに上下して知らせる。

 それを見てスバルはそこに魔鉱石があるのだと察して、床板を乱暴に外しにかかる。

 すると、板が剝がれて生じた穴の中に、袋の上からでも分かるくらい赤く光っている魔鉱石入りの麻袋があった。

 

『──見つ、けたぁ!』

 

『むむむ!思わぬ再会と思いきや、そういうことか』

 

 準精霊が感じた何かと同じものを、大精霊であるパックも察知したのだろう。

 高熱を発し、今にも爆発しそうな麻袋を抱えて、スバルは竜車から飛び出した。前回ループでは村一つを文字通り吹き飛ばすほどの威力を持つそれを外に持ち出したところで意味はない。

だからスバルは考えた。どうすればいいのか、どうすればエミリアたちを救えるのか。そして閃いた。それが実行可能かどうかはさておき、可能性があるのならば藁にも縋る思いでスバルは反射的に動いていた。

 スバルは竜車から外したパトラッシュに乗り、それをある場所まで運ぼうとする。そんなスバルに、荷台から顔を出したエミリアが呼び止めて問いかけてきた。

 

『スバル……どうして……!』

 

 そのどうしてには色んな意味が込められていたんだと思う。ここに来たのも、それを見つけたのも、もっと深く大きな部分を言うのならば、どうして私を助けてくれるの?それがエミリアの一番聞きたかった『どうして』なのだろう。

 

『──好きだよ、エミリア』

 

 その一言がこの過酷で絶望だらけの異世界でスバルが生き抜いてこれた、たった1つの意味であり理由であるから。

 

「──っ!」

 

 2人の短いその会話に、一体どれだけの想いが詰まっていただろうか。

 好きだというその一言を伝えるために、どれだけスバルがイバラの道を歩いてきたのか。全てを知る──否、知った者らの瞳からぼろぼろと涙を溢れていき、感嘆の息を漏らしながら最後までスバルの勇姿を見届けようと声を発することなくスクリーンに釘付けになった。

 

 これまでのエミリアとの思い出が走馬灯のようにスクリーンに映し出されていく。

 

『くそ!間に合えぇぇぇぇ!!!!』

 

 今にも爆発しそうな魔鉱石を抱え、頭を切り落とされた白鯨の亡骸へ急ぐ。

 頭が失われて空洞となった白鯨の亡骸の中に、スバルは手にしていた麻袋を投げ込む。その衝撃でさらに赤く輝く麻袋に目を留める間もなく、スバルはパトラッシュの手綱を引いてその場を急いで離脱した。

 

 必死にその場を離れるスバルの脳裏に浮かぶのは、生き延びたいとか死にたくないといった思いはなく、ここに至るまでの経緯、そして王城で不本意な別れをしてしまったエミリアのことだけだった。

 

『ありがとうスバル。私を助けてくれて』

 

 白鯨の亡骸に投げ捨てた魔鉱石が爆発する瞬間、最後にスバルの脳裏に浮かんだのはあの日、エミリアを初めて自分が助けてお礼を言われた瞬間だった。

 

 映像の中で眩い爆発の光と激しい爆音が轟き渡り、スバルを守らんとパトラッシュがその身を盾にして包み込んだのが最後に見えた。

 

「すっ……スバルぅぅぅぅ!!!!」

 

 まるでエクスプロージョンのような威力を目の当たりにして、カズマが思わずといった感じに立ち上がってスバルの名を叫ぶ。

 いや、カズマだけじゃない。めぐみん、アクア、ダクネスもカズマのように叫ばずとも、立ち上がって心配そうにスクリーンを見つめていた。

 

 爆発に巻き込まれたスバルをカズマ達だけが心配している訳じゃない。

 

「「「「「──っっっ!!?」」」」」

 

 ターニャを除く帝国軍人のヴィーシャ、ヴァイス、グランツ、ケーニッヒ、ノイマンが立ち上がり、無言のまま拳を固く握りしめていた。

 ターニャ自身も言動には表れていないものの、その表情には焦燥感と不安が垣間見える。

 

「ここまで来て死ぬんじゃねえぞ、スバル!!」

 

「スバルさん──」

 

「死なないで!!」

 

 拳を力一杯握りしめながら、尚文は未だ映像に映らないスバルに向けて死ぬなと叫び。

 ラフタリアとフィーロは目を閉じ、手を合わせスバルの無事を祈った。

 

「ナツキ・スバル。──まさに英雄だな」

 

 自己犠牲による救済は、物語の主人公が活躍する際の定番である。それを成し遂げたのであれば、ナツキ・スバルは確かに英雄と称されるにふさわしいだろう。

 しかし、それを素直に喜べるほど、アインズの思考は単純でも幼稚でもなかった。

 ハッピーエンドという響きは実に心地よい。ゲームならば、それでめでたしめでたしとなるだろう。しかし、まだ大人にもなっていない子供が、大人ですら裸足で逃げ出すような地獄を乗り越えて得た結末がこれである。

 まだ死が確定したわけでもなく、死に戻りの力がある限り、死が終焉を意味するわけでもない。

 だがそれでも、大人として、子供がこのような地獄を潜り抜けてきたことを目の当たりにして、喜べないほどアインズは人間らしい感情を失ってはいなかった。

 

『何処だここ?なにも見えない、なにも聞こえない』

 

 真っ白になった映像からスバルの声が聞こえる。

 いや、スバルの声だけじゃない。

 

『──スバル!!』

 

 必死になってスバルの名を呼ぶエミリアの声が聞こえる。

 そして少しの映像の暗転の後に、エミリアの顔が間近に映った。これがどういうことかだなんて考えるまでもないだろう。

 

『俺は寝っ転がってて、エミリアたんは正座中。んでもって、この距離で頭の下に天国のような感触があることを念頭に入れると……』

 

『そんな変な確認しなくても膝枕よ。寝心地、悪くない?』

 

『俺がどんだけ安らかな眠りに落ちてたと思ってるの?悪いわけないじゃん。頑張った報酬としてこれ以上ないじゃん』

 

「本当にスバルの奴は、社会の歴史の授業を寝てサボってたのか。御恩と奉公のバランスが崩れまくっているぞ」

 

「まあまあ、少佐。スバルさんにとってあれ以上の報酬はないってことじゃないですか?」

 

 本気で怒っているわけではないものの、あまりにも無欲すぎるスバルの態度に呆れ顔のターニャ。

 それを宥めるヴィーシャの顔には苦笑が浮かび、スバルのあまりにも善人すぎる態度に軍人としての立場から見て笑うほかないのだろう。

 

 ゆっくりとスバルとエミリアが時間に縛られず、まるで王都に着く前までだった頃のように和やかな会話が続く。

 パトラッシュの無事やユリウスとの仲直りなど、安心したり驚いたりするような内容ばかりだ。あの時みたく、互いに擦れ違うことも、怒りや悲しみをぶつけ合うものではない。

 

『長いこと、夢でも見てた気分だ……』

 

 それゆえに、スバルにとってあの日から現在に至るまでがまるで夢物語のように感じられ、その現実感のなさからこぼれた言葉なのだろう。

 

『悪い夢を……いや、違うな』

 

『いい夢、だった?』

 

『いい、リアルだった』

 

「今までのアレをそんな風に表現出来るだなんて……」

 

「きっと、それだけ今に至るまでの道がスバルにとってかけがえのない大きなものだったからなんだろう」

 

 あの絶望の連続を『いいリアルだった』と表現するスバルの胆力に、ラフタリアは感嘆の声を漏らした。

 それほどまでにスバルにとって、このループの日々は重く、大切な時間であったのだと尚文は感慨深げに呟いた。

 

『あの日、君は俺に『どうして』って聞いたよな。どうして助けてくれるのか。どうしてそんなに色々頑張るのか。どうしてなのか、って』

 

『うん、聞いた。そしたら、スバルは私がスバルを助けたからって。……でも、私はそんなことしてない。全然できてない。私はスバルに助けられてばっかりで、なんにもしてあげられなくて。それなのに、スバルは私のためだって傷付いて……』

 

『あのときの俺は、自分のことばっかりだった。認めるよ。俺は君のためって言いながら、『君のために頑張る自分』ってやつに酔ってただけだ。そうやって酔っ払って振舞ってれば、君はそれを受け入れてくれると勝手に思ってた』

 

「そう酔ってしまいそうな事件の連続だったんだ。仕方のないこと……ってのは言い訳か」

 

「ああ、度し難いものだな。あの時のスバルを肯定も否定もしてやりたい。だが、そのどちらもが今のスバルを作るのに必要なものだった」

 

 尚文はあの時の焦燥と若干の狂気が入り混じったスバルのそれまでを思い浮かべながらも、それが言い訳になってしまうのも認める。

 その言葉にターニャも神妙な面持ちで頷きながら、当時の愚かさを否定したくはあるものの、それがあったからこそ今のスバルが形成されたのだと評価していた。

 

『ごめんな。俺は君を利用して、悦に浸ってた。あのときの言葉は全部、正しかったよ。俺が間違ってた。……でも、間違ってなかったこともある。君を助けたい。君の力になりたい。それは本気で本当で、嘘じゃない』

 

『……うん、わかってる。どうして、私を助けてくれるの?』

 

『──エミリアが好きだから、俺は君の力になりたいんだ』

 

 むず痒さを感じそうになりながらも、視線を逸らさずに正面からエミリアに好意を伝えるスバル。

 

「普段のスバルの言動から、こういった告白はお手の物と思ってましたが、こういう時にヘタレずに好きだって伝えられる度胸はどこかの誰かにも見習って欲しいものですね」

 

「ああ、まったくだ。色気のある展開になればすぐに話を逸らしたり、空気に耐えられずに女性の気にするところを茶化したり。本当に何処かの大バカ者にも見習って欲しいものだ」

 

「お、おい、ここぞとばかりに俺をチクチク責めてくるなよ!なんだよ、俺の事が好きなら好きってお前らもヘタレてねえで自分から告白してこいよ!スバルみたいになぁ!!!」

 

「「んなぁ!?」」

 

 遠回しにスバルみたく告白してこいと言ってくるめぐみんとダクネスに、カズマが反撃とばかしに逆ギレしたみたく叫ぶ。

 

「ねえ、カズマ。自分に自信を持つことは立派だけど、自意識過剰は後になって黒歴史になっちゃうわよ」

 

「こっの、駄女神が……!!」

 

 空気を読めないアクアなりの優しさなのだろうが、無自覚の煽りが一番腹立たしいのでカズマはとりあえずアクアの頬を引っ張ってお仕置きする。

 

「カズマさんって、あんなですけどちゃんと好かれているんですね」

 

「色々と欠点が多いが、それがいい感じに合っているのだろう。傍目から見て、お似合いの仲だと私は思うぞ」

 

 映像の中も、部屋の中もピンク色の空気に包まれ、ヴィーシャが微ましそうにカズマたちを見つめながら呟く。

 その言葉に同調したターニャは、今もまだ頬を赤らめながらカズマとアクアの仲裁に入るめぐみんとダクネスを慈しむような眼差しで見つつ、微笑ましげに頷いた。

 

『わ、私……ハーフエルフ』

 

『知ってるよ』

 

『銀色の髪で、ハーフエルフで……魔女と見た目が一緒だからって、色んな人から疎まれるし嫌われてるの。ホントに、すごい、嫌われてるの』

 

『見てた。知ってる。見る目のねぇ奴らだよ』

 

『人付き合いの経験が少ないから友達とかいないの。世間知らずだから変なこと言っちゃうこともあるし……あと、契約の関係でほとんど毎日髪型とか違うし、王様にならなきゃいけない理由だって……すごく、すごーく自分勝手で……』

 

『エミリアが誰になんと言われて、自分で自分をどう思っていようと、俺は君が好きだよ。大好きだ。超好きだ。ずっと隣にいたい。ずっと手を繋いでたい。君が自分の嫌いなところを十個言うなら、俺は君の好きなところを二千個言う。俺は君をそうやって、俺の『特別扱い』したいんだ』

 

『……されて嬉しい特別扱いなんて、生まれて初めて』

 

 あの日、エミリアが嫌っていた特別扱いをしたいという言葉。今度こそ、それを正しく受けめたエミリアは、嬉し涙を浮かべながら微笑んだ。

 アルベドは、その2人の姿を目にして、胸が締め付けられるような複雑な感情を抱いた。

 

「……素晴らしい愛ね。ただ、それをあの子が言ってもらえないのが残念だわ」

 

「……アルベド」

 

 脳裏に浮かぶ天真爛漫に笑うレムを想うと、アルベドの表情が陰で曇る。

 そんな彼女の気持ちを察して、アインズは無言で頭に手を置き、そっと彼女の名前を呟く。

 

『どうして、二千個なの?』

 

『俺の気持ちを表現するのに、百倍じゃ足りねぇからだよ』

 

『嬉しい。本当に、嬉しい。誰かに好きだなんて、言ってもらえる日がくるなんて考えたこともなかったから。私、どうしたらいいの?スバルがそうやって、私に気持ちを伝えてくれてるのに……私、なにをしたらいいのかわからないの』

 

『焦んなくていいよ。別にすぐに答えを欲しがっちゃいないから。いずれちゃんとした形で、しかもOKもらうのは俺の中で決定事項なんだし』

 

『いいの、かな。私が……私なんかが、こんな嬉しいことばっかりもらって。こんなに幸せな気持ちで、贅沢な思いで……』

 

『いいじゃん、しようよ贅沢。幸せなんかいくらあったって困りゃしないんだし、溢れ返って余ったら配ったらいいさ』

 

『ゆっくりでいいよ、エミリア。ゆっくりじっくりのんびりと、俺を好きになってくれたらいい。君の隣を歩きながら、君をメロメロにできるように頑張るから』

 

「……グスッ、尚文様」

 

「いいんじゃないか。泣きたいなら泣きたいで。これ見て涙流しても、誰も文句は言わないさ」

 

 尚文はスバルたちの会話を耳にながら、涙を浮かべるラフタリア肩を貸し、優しく背中を叩いていた。

 すべてが報われたスバルと、誰かに恐れられ否定されていたエミリアがスバルに好きだと言ってもらえたこと。その2人の気持ちに共感し、涙を流すラフタリアを抱きしめる尚文の目尻にも、うっすらと雫が浮かんでいた。

 

『ありがとうスバル。私を──助けてくれて』

 

 これは、何も持たない少年が幾多の苦難と絶望を繰り返した物語。

 

 これは、ひとりの自信のない少年が、ひとりの自信のない少女に想いを伝える為の物語。

 

 そして──これは、何の変哲もない少年が英雄であったと知る、ただの鑑賞会──それだけの物語。

 




今年の1月から王都編が書き始め、5月にしてようやくの終結です。
な、長かったぁ……。あっ!皆さんが見たいレムって誰のことは次回の休憩回の冒頭で書きますので、更新されるまで高評価と感想をバンバン送って待っていてください。

次はルプスレギナ編か……。がんばるぞい!!!

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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