いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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これで当初予定していた話数に到達した訳だが……。


ルプスレギナの1人旅 その4

 無事に福音書を回収したぺテルギウスは次なる啓示を果たさんが為に、吹雪の中を突き進んでいた。もはや殺した存在のことなど眼中どころか、記憶の片隅にすらない足取りだった。

 だが、そんな代償を彼は即座に払うことになる。

 

「──ぎゃぁ!」

 

 森の中に足を踏み入れる直前、ぺテルギウスの背中に灼熱のような鈍い痛みが走り、その激痛に思わず悲鳴を上げた。驚いて振り返ると、そこには鋭い剣を握り、自分に突き刺している無傷のルプスレギナの姿があった。

 

「お~!綺麗に刺さったっすね。これなら早いところ治療すれば傷口も残らないんじゃないっすか?」

 

「な……何故……?」

 

「ん~?それってどういう意味っすか?なんで刺したのか?それとも、なんで生きてるのか?」

 

 分かっていて、からかうように挑発するルプスレギナに、ぺテルギウスは怒りで言葉が詰まる。

 しかし、そんなぺテルギウスに対し、ルプスレギナは剣の切っ先を引き抜きながら、まるで世間話をするかのような軽い口調で言葉を続けた。

 

「冗談っすよ、冗談!まあ、ネタバレするなら、私ってこう見えても神官職を納めてて、捕まった時点で回復魔法によるリジェネを発動させてたんっすよ。あっ、でもそれはそれとして握り潰されたり殴り潰されるのは滅茶苦茶痛かったっすからね!!」

 

 ぺテルギウスは剣が乱雑に引き抜かれた痛みに足をもつれさせ、前のめりに倒れて地面に積もった雪を今度は自身の血で赤く染めた。

 それでも立ち向かう気概は微塵も消えることはなく、地面に横たわりながらも憎悪を燃やして見えざる手を背中から生やす。

 

「っぐ!見えざる……」

 

「あっ、もうあの見えないナニカで攻撃されるのは勘弁なんで、さっさとトドメ刺させてもらうっすね!」

 

 ドスン!!

 

 ルプスレギナがいつの間に持っていたのか、聖印を模したような巨大な武器がペテルギウスに振り下ろされた。それはまるで虫を叩き潰すかのように、プチッと呆気なくペテルギウスの命を奪い去ったのだった。

 

「いや~、冷や冷やしたっすよ。予想以上に滅多打ちにあったっすからね」

 

 パンパンと自身の体に付着した血で赤く染まった雪を払いながら、ぺテルギウスの血が付着した武器を肩に担ぐようにしながらルプスレギナが笑う。

 

 なんにせよ、目的の標的(ターゲット)であるペテルギウスは今こうして打ち倒した。

 心臓の鼓動も呼吸も停止していることから、先程の自分と違って死んだふりではないことは確かだ。というか、頭部が完全に潰れている時点で即死は見るからに明らかだろう。

 

「んじゃ、クエスト画面の確認をっと!……あれ?」

 

 ・ペテルギウス・ロマネコンティ 0/1

 

 そこには変わらず0と表示された画面のまま、クエストをクリアした反応がなかったのだ。

 

「ん~?やっぱし噓だったってことっすかね?それとも同名の別人だったとか?」

 

 悩みはすれども答えは出ず、結局のところ、ルプスレギナは考えるのをやめた。

 そして、ぺテルギウスの死体から福音書と呼ばれていた本を回収する。

 

「まあ、手掛かりになりそうな本だけは無傷のままゲット出来たし、それだけはヨシとするっすかね」

 

 手に持つ福音書に当たらないよう注意していたおかげで無傷で回収出来た。といっても、もし咄嗟に本を盾にされていれば、そのまま真っ二つだっただろう。そうならなかったのは、ルプスレギナの攻撃がそれよりも速かっただけではなく、ぺテルギウスの中で福音書を盾にするという発想が反射レベルで存在しなかったからだ。

 その点に関してだけ言えば、魔女という存在への忠誠心はナザリックの者たちと同じくらい深いものだと、少しだけ感心してしまう。

 

「しっかし、これからどうしたもんっすかね。せっかく手掛かりを見つけ出したけど、この状況じゃ何処に街があるのかも、人がいるかも分かったもんじゃないっすよ」

 

 手慰みに福音書をペラペラと何度も捲って読むも、異国ならぬ異世界の文字に加えて、達筆過ぎる癖の強い文字は、彼女のような学の浅い者からすればミミズが這いずり回った記録用紙のようにしか見えなかった。

 これ以上読んでもしょうがないと素直に諦め、福音書を懐に入れてその場からあてもなく離れていった。

 

 森の木々の間をすり抜け、冷気によって吹きすさぶ吹雪の中をルプスレギナは苦も無く薄着のままで突き進む。

 やがて森を抜け出し、メイザース領を抜け出るほどに歩いた彼女だが、今の現在地が何処なのか皆目見当がつかないでいた。

 

 王都で手に入れた地図も、パックのせいで世界が凍土と化しているため、地図と照らし合わせようにも地形が全く異なり、参考にならない。

 

「さて、どっちに──っ!まさか、ここまで順調に集まってくるのは予想外っすね。ってか、この頻度で遭遇するのは地味に不味いパターンじゃねえっすかね?」

 

 どっちへ行こうか迷っていると、先程抜け出た森から再び異様な気配が漂ってきた。

 この異世界に来てから4度目ともなる異様な気配、もはや間違うことすらない魔女教の持つ気配だ。

 

 元々近くに潜んでいたのか、それとも福音書が彼らを引き寄せたのか?いずれにしても、もし今接近している()()の中に、あのぺテルギウスと名乗った女以上の使い手が複数いるなら、即座に撤退を考えなければならない。

 至高なる御方によって創造され、主であるアインズ様をお守りするために生み出された戦闘メイド、プレアデスの一員としては忸怩たる思いだが、勝ち目の薄い戦いに挑むほど愚かではない。

 

「さて、こういう時って鬼が出るか蛇が出るかって言うんっすよね?」

 

 肩に担いだ武器を握り直し、漂ってくる気配に神経を尖らせる。

 森の中からゆらりと黒い影がいくつか現れた。相変わらず顔を隠したフードをかぶった黒装束の連中と、その中心に立つ顔を晒した老人が、ルプスレギナの前に躍り出る。

 

「再会を喜ぶべきか、己の怠惰を嘆くべきか。アナタはどう思いますか?」

 

「そうっすね。勝手に自己判断とかせずに、まずは自己紹介からしやがれって感じっすかね?」

 

「おお!確かに、この指先(肉体)とは初めてのご対面でしたね」

 

 言葉の端々や雰囲気からその正体は何となく察しがついていたが、確信を得るために、ルプスレギナは静かにその老人の次の言葉を待った。

 

「ではでは、改めまして自己紹介を!!ワタクシ、魔女教大罪司教『怠惰』担当ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!!!」

 

 同じだった。──あの女と全く同じ自己紹介に嫌な予想が当たったと、ルプスレギナは内心で盛大に舌打ちをした。

 

 特殊な復活スキル持ちなのか、はたまた他にカラクリがあるのか?それとも複数人で同一人物を演じているのか? しかし、そんなことを悩むのも馬鹿らしいと切り捨てる。そんな、ごちゃごちゃした面倒な考えよりもぶっ殺した方が早いと判断して、ルプスレギナはペテルギウスら魔女教に襲い掛かった。

 

「ほぉ!なかなかかなかな、的確で迅速な判断デスね!!撤退を捨てての速攻殲滅!実に、実に素晴らしいぃぃぃ!!!」

 

 ぺテルギウスは両手を掲げながら、今なお迎撃に動く自らの部下である指先を切り刻みつつ迫るルプスレギナを称賛する。

 実力が伴わない者には分不相応な無謀な賭けだと怠惰の一言で嘲笑してきただろうが、今こうして目の前で繰り広げられる光景にぺテルギウスは嗤った。

 その殺意も、部下を容易く殺せる実力も、彼女がこちらに近づいた目的さえも、自身が魔女から授かった権能という名の寵愛によって無に帰せられるのだから。

 

「ああぁぁぁ……、アナタの勤勉さも、そのアナタが行動に突き動かす愛も、我が怠惰なる権能の前には等しく無力!──脳が、震える」

 

 枯れ木を思わせる老人の手がルプスレギナの方へと向けられる。

 そんな腕で、そんな距離から、いったい何ができるのかと、その力を知らない者は疑問に思うだろう。

 しかし、その力の危険性を知る者であれば、ルプスレギナに対して即座に逃げるよう警告するに違いない。

 

「『怠惰』なる権能──見えざる手、デス」

 

 瞬間、ぺテルギウス以外には見えることのない不可視の腕が伸びる。

 これまで通り、その掌は対象を捕らえ、そして引き千切るだろうとぺテルギウスは疑うことすらしていなかった。

 

「──あはっ!使ったっすね!!」

 

 グルリと迫りくる魔女教徒らから視線を外し、ぺテルギウスの方へと振り返るルプスレギナ。

 彼女の肉体に見えざる手が触れるかといったその瞬間、疾風よりも速きスピードで軽やかに見えざる手の隙間を走り抜き去り、棒立ちだったぺテルギウスの首に一閃、神速の斬撃が放たれた。

 それは狙い通り首に命中し、ペテルギウスの頭部をあっさりと胴体から切り離した。

 

「ば……ばかぁなぁぁぁ――――!?」

 

「さっきまでの動きが全力だと思ったっすか?これが私の全速力っすよ!」

 

 首だけとなったぺテルギウスの疑問の声に答えるように、それでいて微妙にズレた答えを茶目っ気たっぷりにルプスレギナは返す。

 その言葉を受け取ると同時に、首が斬られたぺテルギウスの体から血が噴水のように噴き出し、その肉体が崩れ落ちる。

 

 呆気ない終わり方に、ルプスレギナは思わず拍子抜けしてしまう。しかし、これで終わりではないだろう。

 クエスト画面を表示すると、そこにはやはりぺテルギウス討伐を示す数字に変動は起こっていなかった。

 

「ん~、マジでこれどうすればいいんすかね?別の場所に本体がいるのか。それとも、復活して出てきた奴ら全員殺さなきゃいけないんっすかね?」

 

 後ろを振り返りながら、上司?それともリーダーと呼ぶべきか?ぺテルギウスが殺されたにも関わらず、相も変わらずの殺気を振りまきながら一般の魔女教徒らがルプスレギナに襲い掛かる。

 

「あちゃ~、リーダー格を殺しても止まらないタイプっすか」

 

 襲いかかってくる魔女教徒たちを軽口を叩きながら次々と倒していく。魔女教徒たちのレベルはせいぜい20に達するかどうかで、数がいなければただの雑魚にすぎない。

 戦闘メイドプレアデスの一人である彼女にとって、この程度の相手を複数同時に相手取ることは、さほど難しいことではなかった。

 

 叩きのめして残った最後の一人が、十字架を象った刃をルプスレギナに向けて突き刺そうとする。

 しかし、ルプスレギナの蹴りがそれを弾き飛ばす。手元から離れた武器を呆然と見つめる最後の魔女教徒の頭を、ルプスレギナは鷲掴みにした。

 

「────っ!?」

 

「ん~。全然悲鳴が上がらないっすね。もっとこう、この化物がぁ!とか、ひぃ……許してくれ!とか、こ……殺さないでくれ!なんかの悲鳴が聞きたかったんっすけど、そういうのがないと、こういったこともただの作業になってつまんないっすよ~。『グチャ』って、あ!?」

 

 レベル差が原因で手加減を誤り、愚痴をこぼしている間に掴んでいた手に力を入れすぎてしまい、魔女教徒の頭をうっかり握り潰してしまった。悲鳴すら上げないせいで、どこまで力を加えていいのか分からず、最後の魔女教徒は力尽きて腕をダランと垂らし、覆面の中身が悲惨な状態になってしまったのだ。

 

「あちゃ~、せっかくの情報源になりそうだったのに。まあ、私じゃニューロニストみたく情報を引き抜く(すべ)がないんで無駄になった可能性の方が高いっすけどね」

 

 うっかりで殺してしまった魔女教徒を放り捨て、どうしたものかと頭を悩ます。

 

「あいつらが求めてる本がこっちの手元にある限り、探す手間は省けるっすけど。問題はあのぺテルギウスってのがどうやったら死ぬかって話なんすよね」

 

 首を跳ね飛ばしたぺテルギウスの死体に近付くと、何か手掛かりがないかとゴソゴソと死体を漁る。すると、懐から妙なものを発見する。

 

「ん?なんすかね、これ?石……?しかもけっこう熱いっすけども」

 

 それは火の魔鉱石と呼ばれる物であり、本来の歴史ならば、魔女教の最後っ屁として竜車に積まれていた荷物という名のトラップの一つだ。

 しかし、そんなことをルプスレギナが知る由もなく、彼女はこれがこの極寒の世界でも魔女教徒らが氷漬けにならずに動けていた要因だと察する。

 

「ふ~ん、さしずめこれがカイロ変わりになって凍らずにすんでいたってことっすか」

 

 まあ、それを知れたところでルプスレギナにとって役立つ情報でもないので、とりあえずは懐に仕舞い込んでおく。

 それよりもぺテルギウスの死体を漁ってみても、こいつが復活するタネが判明しなかった。分かったのは魔女教徒らがこの妙な石のお陰でこの凍土と化した世界でも動ける理由のみ。

 

「今回は相手が油断してくれてたお陰で楽に勝てたっすけど、これで2回殺したことになるっすから、次はもっと本気で来るっすよね。しかも、こっちに回復魔法があるのも、あの不可視の攻撃を見破る術があるのも知られちゃった訳っすし……」

 

 さらに言えば、この冷気に耐えるための付与魔法を維持するにも、少しずつではあるが魔力が消費されている。

 敵の残機がいつ尽きるか分からない状況で、魔力切れのリスクを放置するのは危険だが、パックが作り上げたこの凍土の世界がどこまで続いているのか分からない以上、どうにもできないのが現状だ。

 

「って、そんなこと考えてる間に、もう次が来たっすか……」

 

 再び魔女教特有の気配を感じ取り、武器を構え直す。

 その勇ましい姿勢とは裏腹に、ルプスレギナの心には不安が渦巻いていた。いつ死ぬかも分からない敵、そして吹雪が続くこの過酷な環境が重なり、この一戦を乗り切った後は早々に撤退するべきだと考えていた。

 




結局のところ、もうちっとだけ続くんじゃ。

このルプスレギナの1人旅が退屈だと感じる人もいるかもしれませんが、もう少しだけ読んでください。

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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