いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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サブタイトルって上手に書けない。
サブタイが上手い人って何を基準に書いてるんだろう。


出来ない親孝行

 

 そこそこ大きな公園に着いたスバルたちは、ベンチに腰を下ろした。

 父親から手渡されたコーラを受け取ったスバルは、馬鹿正直に開けずに飲み口を自分に向けないようにしてから開けた。すると案の定、渡す前に思いっきり振ったのだろう、コーラが勢いよく吹き出し、父親のイタズラは不発に終わった。

 

『ちっ』

 

『舌打ちすんな。パターン見えてんだよ』

 

「子供か?」

 

「ゆ、ユーモアのある人じゃないですか」

 

 小学生、せいぜい中学生くらいがするようなイタズラに、尚文は思わず先ほどのカズマを見るような呆れた目でスバルの父親を評した。そんな歯に衣着せぬ尚文の言い方に、ラフタリアが少し苦しいフォローをしていた。

 

『で、落ち着いたか?』

 

『……微妙なとこ』

 

 本人の言う通り、まだ本調子とは言えないスバルは、痛みに耐えながら再び頭を押さえて俯いた。

 そんな息子の辛そうな様子を見たスバルの父は、子供を気遣うように家に帰ろうかと優しく提案した。

 

『いい、おんぶいらないし。……戻っても一緒だから」

 

 いっそ突き放すように拒絶するスバルの態度に、父は怒るでも悲しむでもなく、落ち着いてコーラを1口飲んでから、静かに問い掛けた。

 

『あのさぁ、昴。話変わるけど、好きな子とかいる?』

 

「はぁ~?なぜ急にそんな話に帰結する?」

 

「いや、案外最適解の話題やもしれんぞ」

 

「なに?」

 

 まったく予想外の質問にスバルが何かを言い出す前に、ターニャが驚きと困惑を隠せず声を上げた。その一方で、アインズは意外にもスバルの父の話題に賛同していた。ターニャがアインズの意図を尋ねようとしたその瞬間、映像に1つの変化が起きた。

 

『──スバル』

 

『──へ?』

 

 突然聞こえてきた声にスバルは戸惑いの声を漏らす。

 姿を見ずとも美少女だと確信できる銀鈴のような声音に、スバルだけでなく部屋の全員が驚きの声を上げた。

 

「今の声はエミリアか?」

 

 聞き間違いではないなとばかりに尚文が確認を取ると、周りも確かにエミリアの声だったと認める。

 

「幻聴……というわけでもない。我々にも聞こえたということは、試練にエミリア君が関与しているのか?あるいは──」

 

「スバルの深層心理が影響を及ぼしたのか?なるほど、確かにアインズ君の言う通り、先程の問いかけは、今のスバルに投げかける質問としては最適解だったかもしれんな」

 

「何にせよ、こういうパターンの後は展開が決まってる!」

 

 アインズとターニャの疑問を遮り、カズマは期待に胸を膨らませる。

 ヒロインの登場をきっかけに主人公が立ち直り復活する。そんな王道展開に燃えない男児はいない。

 

『で、好きな子いんの?』

 

『さっきからなんだよ。……遠回しにしなくていいよ。率直に……、なんで学校いかないんだって言えよ』

 

 まだ立ち直り切れていないスバルは、自虐的な言動で話を切り上げようとする。そんな息子の態度に、父親は未だ態度を崩すことなく付き合う。

 

『人が珍しく気ぃ使ってやってるってのに、空気の読めない息子だな』

 

『……2人に、悪いとは思ってるよ』

 

『別に思う必要ねぇよ。俺も学校が全てとは思ってないしな。生きてりゃ答えの出ない問題にぶつかることもあるわな』

 

『……なんで』

 

『うん?』

 

『なんで今日は、急にそんな話する気になったんだよ。……別になんも特別な日だったりしねぇじゃんか』

 

『なんでだろうな。今朝のお前の面構えが……、なんでかちっとマシに見えてよ』

 

『俺はなんも変わっちゃいないよ。……それでいいと思ってるし、これからだって──っづあ!』

 

 スバルの疑問に、父親は少し考え込んでから答える。

 その答えが納得いかないのか、スバルは否定する。それが悪影響を及ぼしたのか、今まで以上の苦しみがスバルに襲い掛かった。

 苦悶の表情を浮かべて、痛みを堪え切れないスバルの姿に、部屋にいる誰もが居ても立っても居られなくなり、思わず声を上げてしまう。

 

「おいおい!本当に大丈夫なのか、スバル!?」

 

「っ、もう終わったことだろうとはいえ、ここでただ黙って見ているしかないのは歯がゆいな」

 

 カズマとダクネスが今も苦しむスバルに心配の声を上げる。

 そんなスバルの苦しみを解き放つように再び彼女の銀鈴の声が響き渡る。

 

『──大変、だったね』

 

 その声に、痛みを忘れてスバルが顔を上げると、銀髪が揺れる美少女の姿が視界に映り込んだ。

 

『ありがとう、スバル』

 

『君は……』

 

 記憶を失い、思い出さえも忘れたスバルの脳裏に、彼女の顔が焼き付くように鮮明に刻まれる。その瞳に引き込まれるように、スバルは苦痛さえ忘れ、目を逸らすことができなかった。

 再び彼女の口が動き、穏やかな声が言葉を紡いだ。

 

『私を助けてくれて』

 

 どこかで聞いたことがある、いつかのセリフにスバルの胸が熱く震えた。

 

「まずは、自分の過去と向き合え、だったか。なるほど、トラウマだけじゃない。あいつの初恋もまた過去の一部だよな」

 

 尚文は、この試練が始まる前に聞こえた声を思い出す。

 

 最初に聞こえたエミリアの声、あれはスバルが屋敷でのループで疲れ切っていた時にエミリアが掛けた言葉だった。

 ならば、過去を直視し、向き合う試練であるこの空間ならば、エミリアの声が聞こえてきてもおかしくはない。

 

『どうして、私を助けてくれるの?』

 

 エミリアを見て、彼女の声を聞いて、スバルがあの異世界に飛ばされて見たエミリアの様々な顔がフラッシュバックのように映像に映し出された。

 

「もう、大丈夫だな」

 

 これで尚文はようやく確信した。トラウマとは一朝一夕(いっちょういっせき)で乗り越えられるものではない。だが、かつて誰も信じられず、人間不信に陥っていた自分をラフタリアが変えてくれたように、スバルを変えたのはエミリアだ。ならば、彼女の事を思い出したスバルはきっと乗り越えられる。

 それを証明するように、スバルは顔を上げて、こぼれそうになる涙を袖で拭った。

 

『ごめん、もう大丈夫だ』

 

『そうか。落ち着いたんならいいが、あんまり心配かけんなよ』

 

『うん、悪かった。それと、さっきの質問だけどさ』

 

 スバルはようやく父親の顔をまっすぐに見上げ、今日初めて心からの笑みを浮かべた。

 

『──好きな子、できたよ。だから俺はもう、大丈夫だ』

 

 ナツキ・スバルは過去と相対する覚悟を決めた強い瞳を父に向け、もう大丈夫だと断言する。

 

「ふっ、ようやくマシな面構えになったな」

 

「ええ、やっぱり恋って素敵ですね少佐!」

 

 エミリアをきっかけに立ち直るスバルを見て、乙女らしい感想を述べるヴィーシャ。

 色めき立つのはヴィーシャだけでなく、カズマの方ではめぐみんが嬉しそうに笑みを浮かべ、アクアは歓喜の舞を踊ろうとしている。アインズの方ではこれ幸いとアルベドとシャルティアが恋の素晴らしさを語りながらアインズにしなだれ掛かり、尚文の方ではラフタリアが赤い顔をしつつもちらちらと尚文の顔を窺っている。

 

『なににビビってたのかも、どうして縮こまってたのかも、全部思い出した。──違う、俺は全部知ってた。知ってて、見ない振りして……俺だけが気付いてる俺の弱さを、俺が知らない振りしていられる間に誰かに……父さんや母さんに、叩きつけてほしかった。俺がどうしようもなく小さくて、足りない馬鹿で、独りよがりなクズなんだって、二人に叩きつけられて……諦めさせてほしかった』

 

 吹っ切れたように、スバルは父と目線を合わせ、自分の心の奥底に隠していた弱さをさらけ出す。

 それは、これまで一緒に学園生活を送ってきた仲間たちも知らなかった、スバルの後悔に似た懺悔だった。

 中途半端にできていたせいで、努力もせずに1番になれないことに不満を感じていた。それに反発して、無茶を続けながら周りのみんなの先頭を突っ走っていった。そんな傲慢な行動を続けた結果、気がつけば後ろについてきてくれた人たちが次第に減り、最終的には誰もいなくなってしまった。

 そして、スバルにとって1番辛かったのは、誰かに負けて1番を取れなくなったことでも、周りから誰もいなくなったことでもなかった。

 

『やっぱり、あの人の子だな』

 

 そのかつてはスバルの誇りでもあった魔法の言葉が、スバルを蝕む呪いの言葉になってしまっていたことだ。

 

「あ~、なるほどね。だから、過去のスバルってあんなにも捻くれてたんだ」

 

「で、でも、ちょっとその気持ちはわかるかも……」

 

「ええ!ええ!わたぁ~しも、偉大な父上であるアインズ君の息子として、常にその智謀に追いつかんと努力に励んでいますが、己の未熟さ故の不甲斐なさで、幾度も挫折を味わっていますので、スバル君の卑屈になるその気持ちは分かりますとも!!」

 

「ヌゥ~、ナルホド。私ガ武人建御雷様ノ技量ニ未ダ追イツケテナイヨウニ、スバルモ自分ノ力ニ自信ガ無カッタトイウワケカ。ダガ、卑屈メイテ己ノ殻ニ閉ジコモルノハ愚ノ骨頂!!」

 

「確かに、スバルの気持ちが我々のように至高の創造主への尊敬や敬愛から来るものと似ているようですね。ただ、下等な人間であるがゆえに、それに追いつこうとする向上心が欠けているのは何とも言えないのがまた……」

 

「ええ、まったく。自分が劣っていると気づいたのなら、それを補うための努力を怠るべきではないわね。そうやって怠けて過ごしてきた結果がレムを失うことに繋がったと思うと腹立たしいぃ!!」

 

 ナザリック勢はどうやらスバルの心情を理解しているようだが、それを踏まえても向上心や努力が足りないと厳しい評価を下しているらしい。

 その情け容赦のない意見に、本人がこれを聞かずに済んでいることを、周囲の者らは一様に良かったと感じているようだ。

 

『そうやって中学を乗り切って、高校に入って。我ながら盛大な高校デビュー失敗だったぜ。そりゃそうだろ。小中ってまともに人間関係構築してなかった奴が、知らない顔だらけの場所で鼻息荒くしてテンション無理に振り切って無茶やらかせば……結果がどうなるかなんて、馬鹿でもわかる』

 

「あ~、なるほどな。ウチの学園はスバルなんか目じゃないぐらいにおかしな連中ばっかだから気にならなかったけど、普通の学校じゃスバルのテンションは浮くよな」

 

「いや、初対面で早々に「なんじゃこりゃ!!」と遅れてきたくせに騒がしい変な奴だったろう」

 

「懐かしいな。この話、確か尚文が間違えて2組の教室に入ってきた際にもした覚えがあるな」

 

「そうなのか?あの時は教室にピエロと骸骨とモンスター、軍服を着た幼女に冒険者っぽい格好をしたおかしな奴らが教室で集まっていて、なんの仮装パーティーかと思ったがな」

 

 カズマとターニャの言葉に、アインズは過去を思い出して苦笑を浮かべる。

 尚文もまた懐かしさを覚えつつ、関わらないようにと無言で教室の扉を閉めた記憶が蘇る。あの頃のおかしさが今では日常になっていることに、勇者になってからの俺の人生は本当に不思議なものだと感じずにはいられない。

 

 スバルの独白は続いていく。偶然のズル休みが徐々に増え、不登校になる頻度が高まり、3か月で立派な引きこもりになったと語る。そんなスバルの表情はどこか晴れやかで、言いたくても言えなかった言葉をようやく口にできたことに満足しているようだった。

 

『お前なんか愛してない。お前なんか大嫌いだ。お前なんか……俺の子じゃない。そうやって、そう言って、俺を投げ捨ててほしかった。俺を、諦めさせてほしかった』

 

「「「っっっ!!!」」」

 

「────っ」

 

 はっきりと息を吞む音が響いた。それが誰のものかなど考えるまでもなく明らかだった。アインズは何も言葉を発せず、口にするべき言葉が見つからなかった。

 誰もスバルの言葉に何かを言い出せる雰囲気ではないまま、会話は続いていく。

 

『でも──』

 

『あきらめるのは簡単です。でも、スバル君には似合わない』

 

「今度はレムの声!?」

 

「そうか。いや、そりゃそうだよな。スバルを変えたのはエミリアだけじゃない。レムだって、あの地獄みたいなループでへし折れたスバルを立ち直らせたんだものな」

 

 聞こえたのはレムのいつかの言葉。それにアルベドと尚文が反応する中、今度はスバルの目にくっきりとレムの姿が映り、いつかの愛の告白も、共に立ち直る為の言葉も、全てを思い出した。

 そしてスバルのこれまで抱え込んできた全てを聞き終えた父は神妙な顔つきで立ち上がり、おもむろに足を高く上げると──、

 

『ファーザーヘッド!』

 

『あだぁっ!?』

 

『見たか、昴。今のが俺の愛情を込めたファーザーヘッド、怒りの一撃だ』

 

『ヘッドとか言っておいて踵落としかよ!』

 

「これはスバルに怒っての行動でしょうか──?」

 

「じゃねえだろ。完全に朝の悪ふざけと変わんねえよ」

 

 まさかの踵落としにめぐみんが驚きながら呟くと、カズマが即座に呆れた様子で否定する。

 

『しっかし、お前あれだな。かなりアホだな!』

 

『うぉえ?』

 

 いきなりの罵倒に本気で分からないといった声を上げるスバル。

 ただ、そんな父親の意見に賛同する者は意外と多く、ターニャ、尚文、アインズ、レルゲン先生なんかはまったくだと言わんばかりに首を縦に振っている。

 

『色々と気に食わんことが多いが、一番はアレだ。俺に嫌われようとか思ってるくせにその方法が登校拒否ってアホか!っつか、俺に見捨ててほしけりゃ、もっと能動的にやれよ!誰が自分の殻に籠ったくらいで自分のガキ見捨てるかっつの!!』

 

 その言葉が、何も答えられずにいたアインズに一つの答えを導き出させた。

 そしてそれは単純で、決して複雑ではなかったことに思わず笑みがこぼれた。

 

「ふっ、ははははは!!!」

 

「ア、アインズ様?」

 

 突然、スバルの父親の説教を聞いて笑い出したアインズに、アルベドが何事かと心配そうな声を上げた。いや、アルベドだけでなく、周囲の者全員が突然のアインズの笑い声に困惑している。しかし、アインズは困惑する周囲に大丈夫だと答えると、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。

 

「先程、彼が言った通り、親が子を見捨てるなんて馬鹿な話はない。彼らもお前たちを見捨てて消えた訳じゃない。ただ事情があったんだ。それをお前たちに詳しく説明出来ない私の不甲斐なさに申し訳が立たないとは思うが、どうかスバルのように馬鹿な真似に走るようなことだけはしないでくれ」

 

 この通りだとばかりに立ち上がり、プレアデスを含めた守護者全員に頭を下げるアインズ。その姿に、見捨てられたわけではないという喜びと、アインズに謝罪させてしまったという申し訳なさで板挟みになり、どうすればいいのか分からず、頭脳明晰なアルベドとデミウルゴスですら、他の者たちと同じようにオロオロと慌ててしまっている。

 そんな光景に、思わず見ていられなかったターニャが「頭を上げろ、アインズ君。デミウルゴス君らが困ってしまっているぞ」と助け舟を出したことで、ようやくアインズが頭を上げ、その様子に慌てていた者らはホッと胸を撫で下ろした。

 

『そんなアホ一直線な息子の曲がった性根は、お望みなら力づくで叩き直してやってもいいんだが。──どうも、その必要もないぐらいにへし折られて立ち直った後みたいだからな』

 

 蹴り伏せた息子の手を取って立ち上がらせ、再び目線を合わせると、柔らかな笑みを浮かべる。

 その笑みに引っぱられるように、スバルも頭に受けた踵落としの衝撃から抜け出し、自慢するように好きな子と好きになってくれた子が出来たことを報告する。

 

『……言ったろ。好きな子、できたんだ。それに、俺みたいなのを好きだって、そう言ってくれる子がいたんだ』

 

「けっ、羨ましい!」

 

「はいはい。嫉妬は見苦しいのでやめましょうね」

 

 コンと持っている杖でカズマの頭を軽く叩くめぐみん。

 

(((本当に羨ましい……)))

 

 そんな2人の様子を横目に、声にこそ出さないが、帝国軍人の男衆らもカズマと同じように贅沢な恋愛をしているスバルに嫉妬していた。なんなら、めぐみんに叩かれているカズマもその嫉妬の対象だ。

 

『その子たちは、俺のことを菜月・賢一の息子だなんて知らない。俺はその子たちの前では、ただのナツキ・スバルだ。……いや、誰の前でも、俺はナツキ・スバルだった。俺が勝手に、変な看板背負ってる気になって、ありもしない重さに潰れてただけだ。それがようやく、わかったんだよ』

 

「まったく、本当に強いな。私とは大違いだ」

 

「何をおっしゃいますか!アインズ様があのような者に劣るなど──っ」

 

 否定しようとするアルベドをアインズは手をかざして止める。支配者であるアインズに窘められては、配下として従わないわけにはいかず、アルベドは渋々口を閉じた。

 そんなアルベドに申し訳なさを覚えつつも、アインズの胸の内にはスバルへの劣等感ではなく、どこか憧れに近い感情があった。自分はアインズ・ウール・ゴウンの名を背負い、存在しない支配者像を作り上げているのに対し、スバルは飾ることなくナツキ・スバルとして生きている。その姿がアインズには眩しく見えたのだ。

 

「とはいえ、今更掲げた看板を降ろすことは出来ないのだがな……」

 

 誰にも聞こえないほどの小さな声で、アインズは自嘲気味に呟いた。既にアインズ・ウール・ゴウン魔導国を建国した以上、自分の勝手な都合でその国の王という立場を放棄することなどできるはずもなかった。

 

『でも、これでちっとは肩の荷が降りた。後は未来の話だ。こっからこっから』

 

「あっ」

 

 それが誰の上げた声なのか、未来の話だと聞いて悲しげな声が部屋に響いた。

 その声の意味に気付いた者もいれば、気付かない者もいる。

 実際、アクアはなぜ声を上げたのか理解できず、頭上に「?」を浮かべている。

 

『ああ……うん。えっと、迷惑掛けて──』

 

『それこそ、ごめんって思えるんなら、ちゃ~んと時間かけて恩返ししてくれりゃいいさ。将来、俺とお母さんをしっかり養ってくれよ、長男』

 

『……ご、ごべんなさい』

 

 その言葉を聞いた瞬間、スバルの顔には深い罪悪感と、悲しいほど現実を見せつけられた子供の泣き顔が重なって浮かんでいた。

 

「えっ!?なんでスバル泣いちゃってるの!?」

 

「馬鹿!スバルは異世界に行ってるんだぞ。帰り方なんかも分かんないのに、どうやって恩返ししろって話だよ!!」

 

 カズマの説明におバカなアクアもようやく理解したのか、先程誰かの上げた「あっ」という声と同じ声が上がった。

 

「……っぐす」

 

「泣いてるのか、ラフタリア」

 

「す、すみません。尚文様。わ、私もお父さんとお母さんに何も出来ないままお別れしちゃって……」

 

「ああ……、そうか」

 

 ラフタリアの両親が波でモンスターに襲われて命を落としたことを思い出す。そう思うと、今のスバルの心情はラフタリアにとって決して他人事ではないと尚文も納得する。

 尚文は泣き続けるラフタリアの頭に手を置き、慰めの言葉を掛けることなく、ただ彼女が気の済むまで泣き続けるのを見守っている。

 

「恩返しか……」

 

「そういや、俺も実家に帰ったのなんていつだったか……」

 

「元の世界に帰ったら、休暇でも貰って実家に帰りますかね」

 

「だな」

 

 ヴァイスらも久しく帰っていない実家のことを思い出し、懐かしみながら元の世界に戻ったら親孝行でもするかと盛り上がる。

 

「親孝行か……」

 

「どうしたんです、カズマ。カズマは元の世界に戻ったら両親に会うつもりはないんですか?」

 

「俺は……。いいよ、別に。そりゃ、した方がいいんだけどよ。俺もスバルと一緒でもう会えねえからな」

 

 そう言うカズマの顔はどこか陰が差し、憂鬱さを感じさせる。

 その表情に噓は感じられず、めぐみんの脳裏に最悪の想像が浮かぶ。

 

「えっと、もしかして……」

 

「いいんだよ、めぐみん。俺の両親はスバルのとこと違って、息子の危機的っつか、最後に悲しむより吹き出して笑う奴らだからな。っつか、俺なんかよりも、めぐみんの方こそ、帰ったら紅魔の里に里帰りして親孝行でもすりゃいいんじゃねえか?あの家族のことなんだし、饅頭でも持って帰れば喜ぶだろ絶対に……」

 

「そうでしょうけど。本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫大丈夫。俺は平気だよ」

 

 心配するめぐみんに、カズマは手をひらひらと振りながら「気にすんな」と答える。

 本人がそう断言してしまえば、部外者が口を挟む余地もなく、それ以上追及することはなかった。

 

「ねえ、カズマさん。本当はちょっと泣いちゃうくらい後悔はしてるんでしょ」

 

「べっつに~……」

 

「……1ついいことを教えてあげるわ。魔王を討伐したら、その褒美に神々から願いを1つ叶える権利が与えられるわ。流石に死んだ元の世界に戻せは無理かもしれないけど、ご両親に会わせてくださいって願いなら、十分に叶えられるわよ」

 

「魔王なんて俺達みたいなへっぽこパーティーがどうにか出来る相手じゃないだろ!……まあ、記憶の端ぐらいには置いとくとするよ。ありがとな、アクア」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 らしくもないアクアの慰めに、少しだけ素直に礼を言うカズマにアクアも朗らかに微笑んで返す。

 その2人のやり取りに、同じパーティーのめぐみんとダクネスは安心したように笑みを浮かべていた。

 

『──いつまでたっても、お前は手のかかる息子だよ。まったく』

 

 泣いて縋りついてくるスバルを父親らしく抱きしめる。

 どれだけ立派になっても、どれだけ大きくなっても、スバルは菜月・賢一にとって手のかかる息子なのは変わらなかった。

 

「本当にいい父親なのだな。私も久しぶりに父の顔が見たくなってしまった」

 

「だったら、私おすすめのお酒を持って行きなさいな」

 

「ふふ、ああ……そうさせてもらうとしよう」

 

 久しぶりに酒を酌み交わしての家族団欒の時間も悪くないだろうとダクネスはアクアの提案に乗ることにした。

 




そろそろいせかる放送だ!!!
それを見ながらなら、もう少し早く投稿できるかな?

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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