いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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4ヶ月くらい更新せずに申し訳ありません。
いせかるの3期を見終わってからとも思いましたが、もう投稿しようと思って書きました。
感想で皆様からの更新を待っている声に中々答えられなかった作者を許してほしい。
失踪だけはしないので、これからもこの作品を愛読してくれると嬉しいです。


いってきます!に泣かない奴はいない

 

『落ち着いたか?』

 

 泣き崩れるほど号泣したスバルを、甲斐甲斐しく優しく受け止めた賢一は、まるで変わらない態度と笑顔で息子の顔を見つめた。

 

『──うん。ごめん。本当に、迷惑ばっかかけて』

 

『まったくだ。俺のシャツを見ろ。もう鼻水と涙で胸のあたりがカピカピじゃねえか。恥ずかしくってご近所もまともにうろつけねえよ。お前がなんで泣き喚いたのかはわかんねえけど、恥ずかしいだろうから内緒にしといてやる。せいぜい、俺に感謝しろよ』

 

『……ああ。感謝してる。本当に、心の底から、この世の誰よりも』

 

 この試練を受けてから初めて、異世界で成長したスバルの顔が見られ、映像を見ていた皆の顔にもようやく安堵が戻った。

 

「はぁ~、なんというか、若者の成長は早いというが、年相応に突っ走っているからなんだなと分かるよ、まったく……」

 

「あの、少佐。なんだかお年寄りっぽいですよ、その言い方」

 

 ターニャが年寄りくさい感想を漏らし、ヴィーシャが突っ込みを入れている間にも、映像は流れ続けていた。

 

『──なあ、昴。色々と、お前にもあるんだろうよ。だから、俺から言うことは一つだけだ。頑張れよ。期待してるぜ、息子』

 

 賢一が息子スバルに寄せる変わらぬ信頼。その尊敬する両親の大きすぎる期待は、ついさっきまで異世界に行く前のただの凡人だったスバルに重くのしかかる。そんな中で、スバルはどう応えるのか。

 観ている皆に不安はある。けれど、それ以上に、これまでスバルが乗り越えてきた数々の出来事を思えば、賢一と同じように大きな期待を抱かずにはいられなかった。

 

『──ああ、任せとけよ。父ちゃん。俺の名前はナツキ・スバル。菜月・賢一の息子だ。──だから、なんだってやれるし、なんだってやってやる。あんたの息子、すげぇんだぜ』

 

 いつも通り、スバルお得意のポーズで天を差し、その期待を見事に応えてやると高らかに宣言する。

 

「っしゃ!よく言ったぜ、スバル!!」

 

「ふっふっふ、流石は我が学友たるスバル!見事な啖呵です!!」

 

 スバルの宣言にカズマとめぐみんが歓声を上げ、他のみんなも満足そうな表情を浮かべていた。

 そして、それは映像越しに見る自分達だけでなく、スバルと正面から向き合っている賢一も同じだった。

 

『ああ、知ってるよ。なにせ、半分は俺でできてんだからな!』

 

 賢一の言葉に、アインズはかつて憧れた仲間たちの姿を思い浮かべ、そこにNPCである皆の姿を重ねながら、偽りのない気持ちを口にした。

 

「まったく。ああ、まったくその通りだな。賢一殿が息子に寄せる期待はよく分かる。なにせ、私も含め、ギルドの仲間たち、皆の自慢の子供たちは本当に素晴らしいと思っているからな」

 

「おお!おおぉぉ!!アインズ様が私の事をそこまでぇぇぇ!!!このパンドラズ・アクター!アインズ様のご期待に沿えるよう、今後はよりいっそう粉骨砕身の覚悟で!!」

 

「ちょっと、パンドラズ・アクター!何を自分一人だけアインズ様の期待を受け取っているの!?私もアインズ様のご期待に添えるように、この身を捧げる所存でございます!!」

 

「わ、わっちも、ペロロンチーノ様に創造された身として、今後もアインズ様のご期待に沿える活躍を見せてみるでありんす!!」

 

「ええ、ウルベルト様に創造された者として、これからはよりアインズ様の期待に応えられるよう忠義を尽くしたいと思います」

 

「フシュ~!私モ武人建御雷様ニ創造サレタ身トシテ、至高ノ御方ノ期待ニ沿エルヨウ更ナル忠義ヲ!!」

 

「はいはい!私もぶくぶく茶釜様に創造された存在として、よりアインズ様の期待に応える働きをします!」

 

「ぼ……僕も、ぶくぶく茶釜様とアインズ様の期待される活躍を見せます!」

 

「僭越ながら、私もたっち・みー様に創造された者として、その期待に恥じぬ働きをすることを誓います」

 

「「「「「我らプレアデス一同も、至高なるアインズ様と我らを創造なされた至高なる御方々に恥じぬ活躍をご覧にいれます!!!」」」」」

 

 アインズの何気なく発した一言に感極まったパンドラズ・アクターに呼応するように、他の守護者やプレアデスたちもアインズへの忠誠を示す。

 その強い忠誠心を目の当たりにしたアインズは内心で──、

 

(えっ、いや、ちょっと忠誠心強すぎ──じゃないな、いつも通りだ。うん。けど、周りのこっちを見る目が凄いから、もう少し声量とか、色々と抑えて欲しい)

 

 自分への忠誠心が振り切れているNPCたちに、口を滑らせた自分のせいとはいえ、周囲の目を意識して行動してほしいと心の中で強く願う。

 まだ興奮冷めやらぬNPCたちをなだめ、大人しく映像を観るよう促す。

 

 父親と和解したスバルは、父の気遣いに背中を押され、その場で別れを告げて家路についた。

 

『学生ナツキ・スバル、完成……!』

 

 着慣れない学生服に袖を通したスバルの初めて見る姿に、何人かが新鮮さを覚えて感心の声を上げた。

 特にカズマは、学生服姿のスバルを見て偉いなと感じると同時に、少しだけ遠くへ行ってしまったような気のする友人への寂しさを胸に抱いた。

 

「でもま、応援してるぜ、スバル」

 

「?どうしたんですか、急に」

 

「いんや、学友の新たな門出への応援メッセージってやつだよ」

 

 はぐらかすようなカズマの答えに、めぐみんは首を傾げつつも、特に深く追及することなく受け流した。

 

 まるで旅立つように、スバルはこれまで過ごしてきた自分の居場所に別れを告げ、階下へ降りて母親に学生服姿を見せて驚かせる。

 だが、それ以上にスバルのこわばった表情に気づいた母親は、緊張をほぐそうとマヨネーズを差し出した。

 

『あら、緊張してるの?お母さんと一緒にマヨネーズ舐める?』

 

「いや、マヨネーズはかけるものであって、舐めるものではないだろう」

 

「あはは、流石はナツキさんのお母さんですね」

 

 調味料であるマヨネーズを舐める発言に、ターニャが呆れる。ヴィーシャもフォローしようとするが、適切な言葉が思いつかず、苦笑が漏れる。

 

『今はそんな気分じゃ──』

 

『そうだよね。だってスバル、本当はそんなにマヨネーズ好きじゃないもんね』

 

『えっ?』

 

「「「えっ?」」」

 

 母親からの意外な指摘に、スバルと、それを聞いたカズマ、アインズ、ターニャの声が重なった。

 かつて、マヨネーズ、ケチャップ、塩のどれがからあげに最も合うかでドッジボールで争うほどだったとき、マヨネーズ派のリーダー格であり、いつも調味料にマヨネーズを選んでいたスバルが、実はマヨネーズが好きではなかったというのだ。

 少し信じられない思いで続きを鑑賞する。

 

『お父さんとお母さんが好きだから、一緒に舐めてくれてただけだよね』

 

『な……何を根拠にそんな……』

 

『じゃあ、スバルは世界とマヨネーズ、どっちを選ぶの?』

 

『いや、それは世界だろぉ!』

 

『ほらねぇ!』

 

 ドヤ顔で自分の推理が的中したと得意げに胸を張る母親。

 そんな母親にスバルがツッコミを入れるも、母親は楽しそうに笑って軽く受け流す。

 

「いや、暴論が過ぎるだろう」

 

「だが、案外当たっているのかもしれないな。憧れた人達が好きな物だから、自分も好きになった」

 

「あ~、なんとなく理解は出来るわな」

 

 母親の理不尽のような根拠に呆れるターニャに、アインズは意外と的外れではないと返し、カズマもその意見に賛同した。

 

「ウヌヌ……」

 

「?どうしたの、コキュートス?」

 

「ああ、多分だけれど、以前のからあげに何をつけるかで争った際に、アインズ様の好きなケチャップではなく、塩を選んでしまった自分をコキュートスは悔いているのだろうね。だからまあ、そっとしといてあげたまえ」

 

 アインズの口にした『憧れた人達が好きな物だから、自分も好きになった』という言葉に、地味にショックを受けたコキュートス。

 そんなコキュートスを心配するアウラに、デミウルゴスは苦笑しながら静かに見守るよう頼むのだった。

 

『それじゃ、そろそろ行くわ』

 

『今から学校行くの?お母さんは嬉しいけど、悪目立ちするんじゃない?明日出来ることは明日にしたら?』

 

『そうやって息子のやる気の出鼻挫くの辞めようよ。ただでさえ、他人に厳しく、自分に甘い俺なんだから』

 

『スバルが本当にそんな子だったら、お母さんもこ~んなに苦労しなかったのにね』

 

 スバルの軽口に、どの口が言うんだとばかりに母親は苦笑する。

 

「まったくだな。途中からにはなるが、あいつの異世界での人生いつも自己犠牲で、他人どころか自分を殺した奴すら救ってきたのに、何が他人に厳しく自分に甘いだ」

 

「でも、そういうスバルさんだからこそ、皆さんに好かれるんだと思います。まあ、スバルさんのお母さんの気持ちは、見ているだけの私にも分かりますけどね」

 

 尚文は母親の言葉に同意し、ラフタリアもスバルの人柄を擁護しながらも、母親の気苦労を察して同情する。

 

 そうして、玄関で靴を履いて学校へ向かうために家を出たスバルを追い掛けるように、母親も上着を羽織って一緒についてくる。

 母親同伴という子供扱いに顔を赤く染めて恥ずかしがるスバルだが、一緒に来てくれることに嬉しい気持ちもあったのか、自然と笑みで表情が緩む。

 

『こうやってスバルと並んで歩くのも久しぶりだね。そういえば、お父さんとなに話してたの?』

 

『えっと……、ちょっとした昔話をね……』

 

『んー。それで学校行く気になったの?』

 

『ああ、うんまぁ。簡単に言うとね。色々振り返るきっかけがあって、それでさ』

 

『なんでもかんでも、お父さんみたいにやろうとするのはやめたってことね』

 

『…………!』

 

 僅かな会話でスバルが隠していた心の重みという名の秘密をズバッと言い当てた母親に、スバルは驚きで目を見開く。

 

「気付いてたのか!?」

 

「さすがスバルの母親──いや、スバルが憧れて尊敬していた母親と言ったほうが正しいか」

 

 母親の鋭い洞察力にカズマは驚き、尚文もその観察眼に舌を巻きながら、深く感心していた。

 

『あのね、スバル。よく言うよね。子供は親が思ってるより、親の事を見てるーって。でも逆もそうなの。親だって子供が思ってるよりもずっと子供のこと見てるの』

 

 並んで歩くのをやめ、スバルの前に立って目を合わせ、出来の悪い子に教えるように話し始める。

 

『お母さんだって、スバルが思ってるよりもずっとスバルのこと見てるんだよ』

 

「ズビッ!」

 

「……大丈夫かね、セレブリャコーフ中尉?」

 

 母親の愛情に涙ぐむヴィーシャに、ターニャがそっとハンカチを差し出す。

 それを受け取ったヴィーシャは、目元の涙をそっと拭い、「ありがとうございます、少佐。洗って返しますね」と感謝の言葉を伝える。

 

『マヨネーズのことも、学校に行かなくなった理由も、どうにかしてあげられるならしてあげたんだけどね。でも、お母さんが何をしても、きっとダメになっちゃいそうだったから』

 

 それはきっと真実なのだろう。憧れであり尊敬する両親の寄り添いを、まだ成長しきれていないスバルでは、きっと朝のように捻くれた言葉と態度で突っぱね、さらに深い自己嫌悪に沈んでいただろう。

 そう考えるならば、母親である菜穂子の取った行動は正しかった。

 

『でもきっと……、スバルがこうして今背筋を伸ばして歩いているのは、お母さんでもない、お父さんでもない、誰かがなんとかしてくれたおかげなんだよね?』

 

 空を見上げながら、誰とも知らない誰かに感謝するように呟く。

 スバルもその呟きを肯定し、誰かを思い出すように目を閉じる。

 

「はぁ~、マジでエミリアさんヒロインだな」

 

「何を言ってるのかしら?スバルを立ち直らせたのはレムでしょ」

 

 スバルを立ち直らせたであろうエミリアに、カズマが思わず感嘆のため息を吐きながら呟くと、その呟きにアルベドが反論する。

 だが、カズマはそんなアルベドの反論を鼻で笑うように言い返す。

 

「いやいや、立ち直ったのはエミリアの声を聞いてからだろ?だったら、エミリアがそうじゃん!」

 

「いいえ、違うわ。白鯨と魔女教に追い込まれたあの時、立ち直れたのはレムのおかげよ。今回の父親との会話でも、最後にはレムの声で顔を上げたのが何よりの証拠!」

 

 互いの意見の対立に、カズマとアルベドが睨み合う。二人の間に火花が散るように見えるのは、きっと気のせいだろう。

 

「落ち着けお前ら、別にどっちか一人のお陰という訳でもないだろう」

 

「尚文の言う通りだな。エミリア君とレム君、二人が居たからこそ、スバルは立ち直れた。少なくとも、私はそう見ているぞ」

 

「ん……。まあ、そうだよな。悪かったよ、変に熱くなって」

 

「そうね。私の方こそ、謝罪するわ」

 

 尚文とアインズの仲裁に、カズマもアルベドも謝罪して引き下がる。

 

『すげぇ、いい子たちなんだ。俺にはホントもったいないぐらい』

 

『でも、誰かにあげたりしないんでしょ?』

 

『当たり前だし!俺が釣り合うかどうかの問題じゃねぇんだよ。誰かにやるぐらいなら、釣り合わなくても俺のもんにする。それから、俺の価値を積み上げるさ』

 

 傲慢な口ぶりなのに、不思議と嫌な感じがしないのは、スバルが異世界で歩んできた人生と彼自身の魅力がそう感じさせるのだろう。

 

「釣り合うかどうかは問題じゃない……本当にすごいですね、スバルさん」

 

「ええ、まったく。私も普段からアインズ様に見合うよう努力は欠かしていないけれど……ふふ、改めてああいう決意を聞くと、私ももっと精進しなくてはと思ってしまうわね」

 

「そうでありんすね。わらわもアインズ様の妃として、不釣り合いな女のままではいられんでしょうし。アルベドに負けぬように努力は怠っておりんせんえ」

 

 スバルの宣言は、盾の勇者の剣であろうとするラフタリアに深い感慨を抱かせ、心から素直に尊敬の念を芽生えさせた。

 そんな純粋なラフタリアとは対照的に、アルベドの言葉に反応したシャルティアが火花を散らしながら不敵な笑みを浮かべるという、乙女(笑)の争いが繰り広げられていた。

 

「あ~ら、貴方の言う努力なんて、ヴァンパイアブライドを相手にした倒錯行為じゃないかしら?」

 

「はぁ~!?ウブなサキュバスには出来ん努力でありんしょうが!!」

 

「なにをぉ!!?」

 

「なんでありんす!!?」

 

「いや……、ホント、もうやめてくれ……」

 

「はぁ……、アウラ、アルベドとシャルティアを止めますよ」

 

「はいはい……」

 

 聞くに堪えない言い争いの中、その原因ともなっているアインズは恥ずかしさによる感情抑制が発動しており、見かねたデミウルゴスとアウラが2人の仲裁に入っていた。

 

「なんか最近、ホントにアインズがモテてる事実に対して嫉妬しなくなってきたんだよな……」

 

「まあ、アレを一般的なモテと解釈するかどうかは私も疑問ですがね?」

 

 こちらの世界に来た当初は、誰が見ても美人な2人の美女に言い寄られるアインズに嫉妬心を燃やしていたカズマだが、最近では言い寄られるというよりも食われそうになっているように見えて、むしろ同情してしまっている。

 めぐみんもまた、あれが本当に“モテ”の定義に入るのか微妙だと、複雑な表情でアインズを見守っていた。

 

『うんうん。──やっぱり、あの人の子だね』

 

 母の口からその言葉がこぼれた瞬間、スバルのトラウマともいえる光景が一瞬フラッシュバックのように映像に流れた。

 父との会話でそのトラウマが払拭されたスバルだったが、それでも、長年抱え込み続けていたものがそう容易く全て消える筈もなく、下を向いて暗い表情を作り、弱気な言葉を口にする。

 

『俺は……ちゃんとあの人の子供やれてるかな』

 

『大丈夫だよ。スバルの半分はお母さんなんだから、お父さんの半分まで格好よくなったら、ノルマ達成じゃない』

 

 何を弱気な事を口にしているんだとばかりに、微笑みを浮かべながら、スバルの母親はそうはっきりと言い切る。

 その言葉に励まされ、同時に安心させられる。

 

『お父さんの半分格好よくなって……残り半分、スバルになったらいいんじゃない?』

 

「はぁ~……、本当に良い母親を持ったものだな。スバルが異世界で何度も死に戻りを繰り返しても、前に進み続けられた理由が見れた気がするよ」

 

「そうですね。本当にスバルさんのお母さんは素晴らしい御人です」

 

 トラウマに苦しむスバルをあっさり救い、その先の道へと導くよう背中を押す母親の姿に、ターニャは感嘆の息をもらし、スバルの強さの一端を垣間見た気がした。ヴィーシャもまた、それに同意してスバルの母親を手放しに褒め称える。

 

『じゃあ、お母さんこっちだから、……1人で大丈夫?』

 

『大丈夫だよ。今はもう閉じこもる理由なんてないから』

 

『そっか、それならよかった。それじゃ、頑張って』

 

『あ……』

 

 少し先の踏切に差し掛かったところで、母との別れの時間が来た。

 これはただの登校で、ほんのひと時の別行動するだけの風景だが、今のここは元の世界ではなく、聖域の試練によって作られた偽物だ。父と母に再会できたのも、偶然がもたらした結果にすぎない。

 そのことを理解しているからこそ、踏切を渡って遠ざかっていく母の後ろ姿から、スバルは目を離せなかった。

 

『──お母さん!俺……やらなきゃいけないことがあるんだ。だから、長いお別れになる。ちょっと遠くで連絡とかもできそうにないんだ。危ないことはしない……ってのも断言できない』

 

 それはスバルにとって口に出しづらいことだっただろう。必死になって心配させまいと言葉を取り繕うが、スバルの表情は焦りやら、不安やらで、とてもじゃないが格好の付くものではなかった。

 だがそれでも、スバルは母に心配をかけまいと──今までの自分ではないと信じて欲しいと必死だった。

 

「辛いものだな。大好きな人との別れというものは……」

 

 尊敬し、憧憬を抱く者との長い別れ。それを何回も、何人も経験しているアインズだからこそ、スバルへの感情移入も深い。

 それこそ、先程までのアルベドとシャルティアによる身内の痴態を忘れる程に。

 

『父さんとお母さんにはまた心配かけると思う。目のつくところにいた昨日までと違って、今度は目の届かない場所になるから。でも、どんなとこにいても、俺は二人のことを思ってるし、忘れたりしないし……』

 

『スバル』

 

『もう自分が、二人の子どもでいたくないなんて思わないし、自分で自分が嫌いになるようなこともしたくない。安心して見送ってくれなんて、言えた話じゃないのはわかってるけどさ。でも俺……』

 

『スバル』

 

 必死にうまく説明にできない子供をあやすように、息子の名前を何度も優しく呼びかける。

 それに(ようや)く気付いたスバルが顔を上げて母の顔を見る。

 

『スバル、大丈夫だから。スバルが何を言いたいのか、ちゃんと分かってるから。だからそんなに一生懸命に言葉を探したりしなくていいの』

 

『……どうして……っ』

 

『だって、お母さんはスバルのお母さんなんだから』

 

『────ッ』

 

 その言葉にスバルは堪らず涙を零しそうになる。

 父親との時と同じ、目の前の母親に対する深い罪悪感が湧いてきたのだ。

 

『……ごめん、お母さん。俺、結局、2人になんもできないまんま……』

 

『何かして欲しいから産んだわけじゃないんだよ。何かしてあげたいから産んだの』

 

 スバルの弱音を、母はまるで当然のように受け止めて返す。そんな母の慈愛に満ちた言葉は、映像を見ていた何人かの胸にも深く突き刺さった。

 

「私の母も、私を産むときにそう思ってくれてたんでしょうか?」

 

「そうじゃないか。きっと、お前の母親もお前を愛する為に産んだんだろうよ」

 

 尚文の言葉に、ラフタリアは胸に手を当て、波で自分をかばってくれた亡き母へと感謝を送った。もう会うことはできないが、きっと元の世界に戻った暁には、両親の墓の前でこの感謝を改めて伝えるだろう。

 そんなしんみりとした空気の中、フィーロがふと疑問を口にした。

 

「ねえ、ご主人様もラフタリアお姉ちゃんも、フィーロに何かしてあげたいから産んだの?」

 

「「あっ──」」

 

 あの当時、少しでも役に立てばと魔物ガチャで偶然引き当てたフィーロの事情を、この場の空気の中で話せるはずもなく、先のスバル以上に必死に取り繕った。

 

「いや、俺らはその……お前の育ての親であって、生みの親じゃないからな」

 

「き……きっと、フィーロを産んだお母さんも、スバルさんのお母さんみたいに、フィーロに何かしてあげたいと思っていたわよ!」

 

「でも、フィーロ、お母さんに会ったことも、何か貰った覚えもないよ……」

 

「「うぐっっ!!」」

 

 悲しげに俯くフィーロの姿に、強烈な罪悪感を覚えた2人は、引きつった顔で胸を押さえた。

 咄嗟に周囲へ助けを求める視線を送るも、尚文の性格を知る者たちは2人の様子から事情を察し、面倒は御免とばかりに視線を逸らす。あの見た目からは想像もつかないほどの善人であるアインズでさえ、この件には深入りしたくない様子で首を横に向けて、我関せずといった態度を示した。

 

「ちっ!薄情な連中め。……あ~、フィーロ。そう落ち込むな。ほら、帰ったらお前の好きな飯いっぱい作ってやるから、な?」

 

「本当!?やったー!!」

 

「それでいいの、フィーロ?」

 

 飯の約束でコロッと機嫌が直ったフィーロに、ラフタリアも思わずツッコミをいれる。ちなみに、今のやり取りを見ていたカズマはこっそりと「これがホントの鳥頭ってか」と呟いていた。

 その横で尚文は深いため息を吐きつつ、帰ったら肉料理を多めに作ってやるかと思案していた。

 

『お父さんとお母さんになにかしてくれたいなら、その気持ちを他の誰かにあげたらいいよ。それがスバルの好きな子で、その子とまた愛してあげたい子どもとかできたら……もう最高じゃない?』

 

『……あぁ、最高だね』

 

 母の思いもよらぬ言葉に、スバルは涙を拭いながら苦笑して答えた。

 

「やはり、愛とは素晴らしいものです。そして、それを分け隔てなく人に配ることの出来る御仁を両親に持つスバル殿は幸せ者でございますな」

 

 セバスの中で、菜月菜穂子の評価はストップ高を記録し、うなぎ登りに上昇していた。これも彼が善性の持ち主だからだろう。

 もし彼女がセバスの前で窮地に陥ったなら、主人からの制止がない限り、真っ先に助けに入るほどの好感度を得ている。

 

『ああもう、泣いてばっかですげぇ情けねぇ』

 

『泣くのいいじゃない。昴、生まれたときもものすごい泣いてたんだから。最初は誰でもみっともないぐらい泣くの。色々いっぱいあって、色んな場面で泣くの。それでたくさん泣いて、最後に笑えたら、それで全部大丈夫。大事なのは最初でも途中でもなくて、最後なんだから』

 

『それって、結果よければオールOKってこと?』

 

『そういう受け取り方とは違います。これ、お母さんからの宿題』

 

 この宿題の答えをスバルはきっと提出できないだろう。だがそれでも、スバルはこの宿題を抱えて答えを出そうと努力するだろう。

 それが、母から最後に渡された愛情なのだから。

 

「大事なのは最初でも途中でもなくて、最後ね……。つまりどういうこと?結果よければ全てヨシってことじゃないの?」

 

「あのな、そういうことじゃないだろう。つまり、えっと、あれだ……。過程をしっかりすれば最後はよくなるってことじゃ?」

 

「いや、違うだろ、馬鹿者め」

 

 母の言葉の真意を読み取れないアクアとカズマに、ターニャは呆れ果てた。

 

「じゃあ、ターニャは分かったのかよ?」

 

「そうよ、そうよ!本当に分かってるのなら、教えてみなさいよ!」

 

 ギャアギャアと喚く2人に、ターニャは手短に分かるように説明する。

 

「みっともなく泣くことが間違いではないと、彼女はそう言いたかった。つまり、どんなに始まりや過程で間違いを犯したとしても、その結果の末路で笑えていれば、その最初や途中も笑うための道だったってことになる。彼女はきっとそう伝えたかったんだろう」

 

 ターニャの説明に納得したアクアとカズマは、「おおぉー!」と感嘆の声を上げた。ついでに、後ろの席あたりからはアインズも似たような声を上げていた気がする。

 

『──それじゃ、行くよ』

 

 もう十分に別れの前の会話を交わしたと、スバルは笑顔で母に出発の意志を伝える。

 母に背を向けて歩む先には学校が見え、本当にもう試練の終わりが近付いているのだと、観ている皆に実感が湧いてくる。

 

『あ、そうだ。スバル、スバル、忘れてた。──いってらっしゃい』

 

 笑顔で手を振って見送る母の言葉に、スバルは異世界へ行く前の見送りの挨拶に何も返していないことを思い出した。

 だから今度こそ、スバルも母に大きく手を振り返して、同じように満面の笑みで答える。

 

『──いってきます!』

 

「「「「うおおお──ーん!!!」」」」

 

 その感動の別れのシーンに、涙もろいメンバーは号泣を堪え切れない。

 特にカズマとアクア、帝国軍人(ターニャを除く)の泣き様は半端なく、涙を拭くのにハンカチじゃなく、手ぬぐいが必要なレベルだ。

 

 そうして、母との別れを済ましたスバルは学校の──自分の教室の扉の前に立つ。

 今のスバルには恐れも不安もない。前に進む為の深呼吸を一度だけして、戸に手をかけて、横にスライドさせて開け放つ。

 

『思ったよりもずいぶんと早かったね。ようこそ。──自分の過去と向き合う時間は、君になにをもたらしたかな?』

 

 机に腰掛けた制服姿のエキドナがスバルを出迎えた。

 




一日に3作品投稿するしんどさが辛いという文面しか書けない。
フィジギフゴリラとベル君のエロ本話も更新したけれど、ダンまち作者である大森藤ノ先生の3冊同時発売とかもう偉業でしょ!!

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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