いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
教室で制服姿の男女が向かい合って立っている。傍から見れば青春の一幕だが、事情を知る者にとってはハラハラドキドキの場面だ。
『まず、言っておきたいことがあるんだが』
『うん、聞こうじゃないか。君がなにを思い、なにを考え、なにを話してくれるのか。ボクはとてもそれに興味があるな』
『お前、その制服似合ってるな』
そんなスバルのどこかズレた返答に、観ていたものはそうじゃないだろう!と呆れたり、笑ったり、怒ったりと様々な反応を見せた。
「いや、まあ、そんな意見が出るくらい可愛いのは分かるけども、この場面でいう台詞じゃないだろう!?」
「お前、相手は強欲の魔女だぞ。スバルといい、外見だけで油断するな、馬鹿者め……」
「だな。そうやって、見た目は良くても、中身が最悪な女なんざいくらでもいるからな。ちっ──!!」
「随分と実感がこもっているが、時々出るな、尚文が抱えている闇が……」
カズマはスバルの返答に同意しつつも、その選択肢を選ぶタイミングが完全に間違っていると盛大にツッコミを入れる。そこへターニャがいつものように呆れ顔でカズマと映像の中のスバルに忠告し、尚文も力強く同意する。
そんな尚文の時折この上映会で見せる心の闇が垣間見える発言に、アインズが同情するように呟いた。
『もっと、驚いてくれるものと思っていたんだけどね』
『隠す気があるんなら、背景に対してももちょっと手をかけるべきだったな。ここにくるまでの間にも、通学路にも、人っ子一人いないなんて状況そうそうあるわけねぇ』
そう口にするスバルの指摘にようやく気づいたアクアが、ポンと手を叩いた。
「あっ、そういえば、スバルのお父さんとの散歩以降、誰とも会ってなかったものね!」
「今更気づいたのかよ……」
そんなアクアにカズマは「さすがアホの子だ」とため息をつく。
ただ、この場でこのことに気づいていなかったのはアクアだけでなく、お子様のフィーロや、人間にまったく興味を示さないポンコツメイドのナーベラルも同様だったが、わざわざ指摘するまでもないだろう。
『それで、この世界はなんなんだ?俺は確か、『試練』とやらが行われてる最中のお前の墓に入って、それで……』
『資格を持つ君が入ったんだ。当然、『試練』が君に対しても始まっただけのことじゃないかな。聞かなかったかい?まず、過去に向き合えと。誰しも、過去に後悔を抱えている。日々を生きていれば、後悔を得ない存在などあるはずもない。今日は昨日のことを、昨日はさらに過去のことを、そして明日になればきっと今日のことを後悔している。──人には、後悔する機能があるからね』
「まあそうだよな。俺も過去に戻れるなら、駄女神なんかじゃなくて、ちゃんとしたチートを貰って転生したいし」
「あ~!またカズマが言っちゃいけないこと言った!!」
カズマとアクアがまた子供じみた喧嘩を始める中、他にも悔やまれる過去を思い返している者達がいた。
それは、仲間が残してくれた娘のようなNPCをみすみすと敵に洗脳されたことを悔やむ支配者だったり、手に入れた勝利をむざむざと逃してしまった経験を持つ幼女軍人だったり、見た目に騙されてビッチに心を許してしまった勇者など、カズマのように直接は口にしないが、それぞれ胸に抱く後悔がある。
だがそれも、次のスバルの言葉で搔き消える。
『悲観的な考え方すんなよ。その後悔ってやつを反省に換えて、昨日の反省で今日をどうにかして、今日の反省を明日の突破口にするのも人間の機能じゃねぇか』
「ふ、ふはははは!!ああ、その通りだとも。いつまでも後悔を引きずっていたら、ぷにっと萌えさんに叱られてしまう。本当に見るべきは過去の後悔じゃなく、そこから得た経験と知識なのだろうな」
アインズは過去を思い返しながら、スバルの言葉に力強く賛同した。ふと見ると、ターニャも尚文もその言葉に反応して口元をわずかに緩め、笑っているようだった。
アインズの言葉に続くような形で、映像の中のエキドナもスバルの発言に長々と賛同の声を上げる。
『──その通り!単なる言葉遊び、所詮はちょっとした考え方の違い。だが、過去を悲観するか楽観するかで答えの出し方は大きく異なる。大抵のものは過去を悲観し、覚えている悪い記憶ばかりを振り返り、歩いてきた道のりを否定してしまう。そして否定したそれを目にすることを嫌がり、蓋をしてなかったことにしてしまう。仕方のないことなんだ。昨日の自分は、今日の自分より絶対に無知なのだから。今日の自分は、明日の自分より絶対的に知っている知識が少ないのだから。知識の総量、思い出の数一つであっても、過去は現在と未来に劣っている。それが事実だ!故に過去と向き合ったとき、あるいは向き合うべき過去に出会ったとき、人は迷い、惑い、嘆き、苦しみ、悲嘆し、悲観し、その上で答えを出す。その上で出た答えであるのなら、ボクはどんな答えであっても肯定しよう。背を向けて出した答えでも、前のめりに手を伸ばして得た答えでも、過去を乗り越えた証には違いない』
いっそ狂気すら含まれていそうな長台詞に、ターニャがうげぇ!といった顔を浮かべる。
「なんというか、私はどこぞの頭のおかしい科学者を思い出したんだが……」
「少佐、それってもしかしなくても、エレニウム工廠主任技師のシューゲル博士のことじゃ……」
「他に誰がいる?」
「ですよねぇ~……」
真顔で眉をひそめるターニャの返答に、ヴィーシャは乾いた笑いを漏らすしかない。
シューゲル博士、あるいは
『それが、この『試練』の目的か』
『その通り。己の過去と向かい合い、その過去に対してなにがしかの答えを出すこと。答えを出すことを恐れて、嫌がって、頭を抱えているばかりならば『試練』など永久に越えることはできない。だが、過去を肯定し、あるいは否定し切ることができるのであれば、ボクは賞賛を持って見送ろう。それが、第一の『試練』だよ』
スバルの問いに対して、エキドナは茶化すことも誤魔化すこともなく答えを返す。
それが試練を与えた存在としての矜持、あるいは誠意の表れだろう。
「有耶無耶にしている過去をどのような形であれ決着をつける。本当によくあるパターンの試練だな」
「だが、その目的は試練を受ける者の成長というよりも、エキドナ本人の自己満足に近い思考実験の類に思えるな」
確かに、尚文の言うような、大抵の漫画やアニメで描かれる試練とは、乗り越えるべき困難の先にある成長が目的として出てくるのが常だ。
だが、ターニャが指摘したように、エキドナの言う通りならば、この試練は挑戦者の成長や変化を望むものではなく、エキドナの好奇心を満たすためのもの。
ならば、ここはやはりガーフィールがこの聖域について説明していたときに言っていた実験場に近いのかもしれない。
そして、それが良いことか悪いかは分からないが、ひとまず今回は今のスバルを見れば良い方向に転がったのだろう。
『お前の言ったことが『試練』を越える条件なら、俺は『試練』を乗り越えたって考えていいのかよ』
『一部始終を見させてもらったボクは……十分な結果を得られたと思っているよ』
『一部始終って、おま──!!』
『ごべんなざい!には、ボクも思わず瞳が潤むところがあったよ』
『うるせぇよ!誰にも言うなよ、恥ずかしい!!』
試練のやり取りを見られたスバルは、エキドナに泣きながら口にした「ごめんなさい」をからかわれる。
それをやり取りを見て、アクアが思わずプークスクス!と笑ってしまう。
「ありゃりゃ、あれは恥ずかしいわね」
「その恥ずかしいシーン、俺ら全員が観ちまったけどな。まあ、学園に帰ったらあれでスバルを揶揄いはするだろうけど、それよりも厄介な奴に観られたのがスバルの不運だな」
カズマがバニルの方を見ると、そこにいた悪魔は、まるで待ってましたと言わんばかりに口元を吊り上げていた。
「フハハハハ!!これはこれは、映像越しとはいえ、素晴らしい羞恥の悪感情!ふむ、あの小僧はその身の内に我輩でも見通せぬ闇があったからな、学園に戻った暁には、このネタでより美味なる悪感情を搾り取るのも一興よな」
なんて残酷なことを言い出すのだろう、と聞いた者の多くは軽く身震いする。
そうした者たちが身震いする中、レルゲン先生が教師として、そして常識人として口を開いた。
「あの、バニル先生。あまり生徒のプライバシーに踏み込みすぎると、色々と厄介なことになりますし、個人的に道徳の観念から、できれば控えていただけると助かるのですが……」
「ふむ、確かに、教師としてそれは問題よな。失敬、我輩反省である」
意外なことに、レルゲン先生の注意にバニルはあっさり引き下がった。
その様子に、バニルという悪魔を知る者たちは驚きの声を上げる。むしろ、一番驚いていたのは注意した本人であるレルゲン先生だった。
とはいえ、ここで素直に引いてくれたのは正直ありがたく、レルゲン先生は内心でホッと胸を撫で下ろしていた。
──だが、その安堵こそが悪魔の餌。
バニルは、まるで待っていたかのように話題を切り替えた。
「しかし、知っているであるか?最近1組に転校してきた者らが、幼女の皮を被った悪魔なる異名を耳にしたようでな。近頃、あの金髪の幼女をきっかけに、1組と2組で険悪な雰囲気が漂っているようなのだ」
「……えっ、マジですか?」
「ふははは!!マジもマジ!大マジである!!!」
思い当たる節があったレルゲン先生フリーズする。
「いやはや、一体何処の誰が漏らした個人情報であるかな〜?はっ!よもや、教師の鏡であるレルゲン先生ではあるまい?」
「いや、まさかあの時か?それともあの日の……!?」
必死になって心当たりを思い返すレルゲン先生は、自らのブーメラン発言に頭を抱えながら身悶える。
まあ、実際に1組の転校生たちに幼女の皮を被った悪魔と告げ口したのはパンドラズ・アクター先生なのだが、こっそりとバニルがアイコンタクトでレルゲン先生には内緒と指示し、悪魔らしいニヤリ顔を浮かべていた。
「ぬおおおぉぉぉ……!!」
「ふはははは!!!羞恥と後悔の悪感情、誠にゴチである!!!」
バニルは腹を抱えて笑い、その悪魔的嗜好に、周囲の者たちは再び身震いする。
そして、そんな2人のやり取りを見ていたターニャは首を傾げる。
「何故、レルゲン先生は1組との関係の悪化にあそこまで頭を抱えているのだ?はっ!もしや、我が2組の担任としての矜持からくる不甲斐なさゆえの葛藤というやつか!?」
「……少佐はずっとそのままでいてください」(レルゲン先生の胃痛の為にも……)
そんな悪魔の茶番劇が繰り広げられているうちに、エキドナから試練の舞台となった世界の全容が明かされる。
スバルの記憶から作り出された虚構の世界。なんなら、本人であるスバルですら手の届かない記憶の領域にまで干渉していたエキドナ。
それを聞き、アインズなどは酷く驚きの声を上げる。
「ほぉ、記憶に干渉する魔法は私も有しているが、使用する魔力が莫大ゆえに、そう易々とは扱えん。だが……本人の無意識領域にまで干渉し、世界として再構築するとは。私でもそのような真似は出来んな」
「まさか!アインズ様ですらできない御業を、あの女は成し遂げていると!?」
アインズの何気なく言い放った言葉にデミウルゴスが驚愕する。
いや、デミウルゴスだけではない。他のナザリックの者たちもより一段と強欲の魔女であるエキドナに対しての警戒度を上げた。
そして、スバルが疑問に思って口にしたスバル本人ですら知らないと口にした情報に、エキドナは嬉々としながら魔女らしい口ぶりで惑わすように耳打ちする。
『知られていないと思っていた心の内を、君は本当に隠し通せていると思えていたのかな?知ってもらって楽になりたいという本心を、日常の端々から漏らさずに固く封じ込められていられた確信がどこかにあったのかな?それでも愛してほしいという利己的な感情を、虚構の父に、母に求めていないと断言できるだろうか?それはあまりに理想的で、都合がよすぎる──そうは、思わないかい?』
『俺の親を馬鹿にするなよ、エキドナ』
『……なに?』
『俺の答えは全部伝えた。父さんもお母さんも、それを受け取ってくれた。言えなかったこと全部言って、俺は頑張れって言われたんだ。いってらっしゃいって、そう言われたんだよ。あのときの声も、笑顔も、全部が全部、俺の想像なんてぶっちぎってた。──俺の両親は、俺の想像に収まるような器じゃねぇよ。舐めんな……!』
「おお……言うじゃねぇか、スバル」
カズマが感嘆の声を漏らす。
アインズよりも凄腕の魔法使いであると聞いてカズマが内心ビビっていたエキドナに対し、真っ向から親を侮辱するなと啖呵を切ったスバル。
その姿に、カズマと同じように胸を打たれた者は多かった。
『俺は二人に全部伝えられた。お前の言葉になんか惑わされてやらねえよ』
『ふっ、本当の意味でこの試練は終わりだ。次の設問に期待したいところだね』
『てっ、次の設問!?なんだそれ、試練って一個じゃないのか!?』
『墓所の試練は全部で三つ。聖域の解放はその突破が条件だ。やっと君にこの話が出来てボクは嬉しいよ。そんなに驚いてもらえると胸が弾む』
驚くスバルの顔を見てエキドナは笑みを浮かべる。
「あの笑顔、さっきのスバルへの意趣返しといったところか」
「だろうな。あれで中々に負けず嫌いな性格の持ち主のようだ」
尚文とターニャは、そんな魔女の意外な一面に人間味を感じ取った。
そして、エキドナが試練の終了を告げたからか、教室が──いや、試練の舞台となった世界が徐々に消え始める。
それで思い出したかのように、スバルはエキドナに声を掛ける。
『なあ、エキドナ』
『なんだい。ひょっとして、最後に一発殴らせろとでも?まあ、それに値する所業をした自覚はあるからね。君がそれを望むのなら、甘んじてそれを受けてあげようと思う気持ちがないではないよ。ただ、ボクもこれでも女の子なものでね。できれば顔は避けてもらいたいんだが……』
『ありがとな』
『――――!!』
エキドナのみならず、今までの一連のやり取りを観ていた者たちからも、スバルのその一言は予想外のものだった。
それだけあの試練は残酷で悲しいものだった筈なのに、真っ直ぐで優しいスバルの言葉は、卑屈で捻くれ者には刺さる。
「……礼を言えるのか、そこで」
「普通なら恨み言の一つでも言うところだろうに……」
尚文は思わず驚きの声をこぼし、ターニャも眉をひそめて同じように言葉を漏らした。
どちらもリアリストで皮肉屋な性格ゆえに、スバルの真っ直ぐな姿勢が少し眩しく感じられる。
そして、そんな二人の気持ちを代弁するように、エキドナが静かに言葉を紡いだ。
『……君という人間が理解できなくて、とても興味深いよ。怖いぐらいだ』
『魔女様に怖がってもらえて光栄だ』
「死に戻りがあるからといって、目の前にいるアインズ君よりも魔法の腕が上の魔女に皮肉を返せるところがスバルの凄いところですね」
「見ているこっちは内心ヒヤヒヤだけどな」
エキドナの皮肉にウィンクで返すスバルに、めぐみんが感心と呆れが入り混じった声でそう評する。
その評価に、カズマは苦笑いで返した。
『そうだ。お前はどうも俺がこの先の試練に挑戦するのを望んでるみたいだったけど、その期待には応えられねぇよ』
『……というと?』
『試練を攻略して、聖域を解放するのは俺の役目じゃない。お前の期待は別の子が叶える』
『――果たして、それはどうかな?』
「別の子ですか……。果たして、エミリア嬢にこの試練が乗り越えられるかどうか……?」
2人の最後のやり取りを見聞きしたデミウルゴスが静かに言う。
その声には、単なる不安ではなく分析が滲んでいた。
「ん?なんでだよ、デミウルゴス。スバルもクリアしたし、エミリアだって十分に乗り越えられるんじゃないのか?」
デミウルゴスの言葉にカズマが首を傾げる。
そしてその疑問はカズマだけじゃなく、エミリアの明るく元気な姿を知る者たちも同じだった。
だが、デミウルゴスは首を横に振って否定する。
「いいえ、思い返してください。この試練は過去を乗り越えるという内容。スバルは両親への負い目を乗り越えましたが──」
そこで一拍置き、彼は続ける。
「エミリア嬢の場合は、あの世界では禁忌とも言える銀髪のハーフエルフ。それによる民衆の恐怖とエミリア嬢のトラウマは、今まで見たスバル殿の視点からも明らかでしょう」
その言葉に、外野の空気が一瞬で重くなる。
確かに、エミリアはスバルや自身と深く関わりのある人物以外との交流を嫌がっていた──というよりも、怖がっていた。
そう考えると、この試練がエミリアにとってどれだけ難しいかは明らかだ。
そもそもスバルが試練を受けることになったのも、エミリアが試練をクリア出来なかったからだろう。
「「「「…………」」」」
誰もがデミウルゴスの分析に納得し、エミリアの試練突破を危ぶむ。
そんな暗い気持ちのまま、皆は真っ白になって消えていく試練の世界を映すスクリーンを見守った。
デミウルゴスってエミリアのことなんて呼んでたか忘れてしまったけど、嬢ってつけてたよね?間違ってたら誤字修正で教えてください。
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル