いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
暗くなる部屋の空気のなか、スクリーンの映像は真っ白な画面から徐々に薄暗い部屋を映し出す。
そこは、試練を受ける前にスバルが倒れ込んだ墓所の中だった。
『うぇげっ! ぺっぺっ』
眠っている間に口に砂埃でも入ったのだろう。
スバルは顔をしかめながら、口の中の砂を吐き出す。
「ああ、分かります。私もちょっと近い距離で爆裂魔法を撃った際に、爆風で飛んできた砂利なんかが口に入って嫌な思いをしたものです」
「いや、見るべき観点が違うだろう。ここは、口の中に砂や埃が入るぐらい現実の時間が経過したとか、そういった観点をだな……。ああ、もういい」
めぐみんが妙に共感した様子で話すと、ターニャは呆れつつ指摘したが、「まあ、めぐみんだし」と途中で感性の違う紅魔族へのツッコミを入れるのも面倒になって諦めた。
『エミリア!』
『──あ、ぅ……』
具合が悪そうというよりかは、まるで悪夢の中でもがいているかのような表情。
額には汗が滲み、眉は苦しげに寄せられ、呼吸も浅く、落ち着かない。
スバルはその様子に、思わず息を呑んだ。
「やはり、デミウルゴスの予想が当たっていたようだな」
「だとしたら、目覚めたエミリアに対して、スバルがどう対処するかが問題だな」
アインズが静かに呟くと、ターニャが腕を組み、完全に軍人モードの顔で続ける。
ここで自分が試練の続きを引き受けると甘やかすのか、それとも優しく試練を続行できるように立ち上がらせるのか。スバルの声のかけ方ひとつが、聖域の未来を左右する。
そう、ターニャとアインズは考えていた。
『しっかりしろ、エミリア。エミリア……!』
『──ぅ、す……ばる……?』
目を覚ましたエミリアは、スバルの顔を見て徐々に何があったのかを思い出す。
『ここ……は……。そ……だ……、私……。試練を受けて……。それで……』
朧気だった試練の内容を思い出したのだろう。恐怖で震え歯をカチカチと鳴らし、涙を流しながら何かを強く否定する。
それだけで、試練の内容がどれほどエミリアにとって過酷で絶望的だったのかを物語る。
「こんなにもエミリアが怯えるなんて、一体どんな内容の試練だったのかしら?」
アクアが眉を寄せ、珍しく真面目な声を出す。普段の騒がしさが嘘のように、心底心配しているのがわかる。
「少なくとも、見ていて気持ちのいいものではないだろうな」
ダクネスも鎧越しに胸元を押さえ、苦しげに呟いた。彼女の嗜好をもってしても、今のエミリアの様子から妄想して楽しむことはできないようだ。
『……やだ。そんな目で……わ、たしを……やだ、やだやだ……やだぁ、ちがうのぉ……私じゃ……なんで、私を一人に……しないでぇ……』
半狂乱となって叫ぶエミリアを必死に落ち着かせるスバル。
やがて、場面は墓所の中からロズワールの仮の屋敷へと移る。
『──やっと落ち着かれて、今お休みになられたところよ』
『……悪いな、気ぃ使わせちまって』
『バルスの為じゃないわ。でも、聖域の解放は遠ざかってしまったわね』
エミリアの介抱を引き継いだラムが静かに報告すると、スバルは肩の力を抜きながら、感謝を伝える。
それに対して、ラムはいつものようにツン9割の発言で返す。
「確かに、エミリアさんがあの状態じゃ、聖域の解放はとても……」
ラムの発言に、ラフタリアは先ほどのエミリアの姿を思い返す。
震え、泣き叫び、助けを求めながらスバルに縋りついた少女。
その姿は──かつての自分と重なって見えた。
(……昔の私も、あんなふうに泣いていた。波で両親を失って、奴隷狩りにあって。夜になると怖くて、泣きじゃくって……)
胸の奥がきゅっと締めつけられる。エミリアの苦しみは、他人事ではなかった。
過去に縛られた少女という点で、かつての自分と同じだから。
ラフタリアはそっとスバルを見る。
(……ナツキ・スバルさん。どうか、エミリアさんの盾になってあげてください)
自分にとっての盾の勇者がそうしてくれたように──エミリアにも、寄り添ってくれる誰かが必要だ。
『あの、1ついいですか?』
『ん?なんだオットー?』
『試練に挑んで聖域を解放しなくても、皆さんを結界の外に出せるかもしれません』
その発言に何人かが反応する。
「ふむ、裏技……いや、抜け道のようなものを見つけたのか?」
「しかし、この聖域に来てまだ一日も経たないオットーが思いつくことを、長く閉じ込められている者たちが考えつかないものだろうか?」
「さあな。ただ、外部の人間だからこそ見える手というのもあるだろう」
オットーの思いつきに疑いの目を向けるアインズ、ターニャ、尚文だったが、その案に耳を傾けた。
『混血の方々は結界に触れると気を失うのは理解しています。僕もこの目で見ました。でしたら、その気絶した方々を結界の影響を受けない全員で担いで、運び出せばいかがです』
まるで妙案を閃いたかのように、オットーが少し得意げに提案する。
その案に、カズマやアクアたちは映像の中のスバル同様に「おおぉ!」と感心の声を上げたが、他の面々はそうでもなかった。
「単純である上に、ロズワールという多くの人を動かせる立場の人間と連絡を取れる者たちが、その案を思いつかなかったとは考えにくいな」
「だとすれば、結界で気を失うというのは、ただの気絶ではないってことだろう」
カズマたちが盛り上がる中、ターニャは腕を組み、淡々としながらも鋭く言葉を放つ。
それに続いて尚文も、結界に触れて気を失う現象の仕組みに迫る発言を投げかけた。
そんな2人へ答え合わせするかのように、その話し合いに第三者となる者が参入してきた。
『ワシは、魂の抜け殻にはなりとうない』
「あれ?あの子、聖域でスバルが目を覚まして最初に見かけた子じゃない?」
扉を開けて中に入ってきたピンク髪の女の子にアクアが首を傾げる。
アクアだけでなく、他の者も彼女の登場に部屋が少しだけざわついた。
『君は、あの時の──、だあっちゃちゃ!!?』
スバルが何かを口にしようとしたところで、ラムが熱々のお茶の入った湯吞みをスバルの頬に当てて、強制的に黙らせた。
「くっ!あんな湯気立つ熱々の湯呑みを不意打ちで頬に押し付けるなんて──羨ま!!」
「お前、今羨ましいって言いかけなかったか?」
「言ってにゃい!」
熱さに大騒ぎするスバルの赤く染まりかけた頬を見て、ダクネスが身をくねらせながら熱っぽい声を叫んでいた為、誤魔化すのは不可能だった。
案の定、カズマのパーティー以外の者たちからは、ダクネスに冷ややかな視線が向けられている。
そんな周囲の目に気まずさを覚え、身を縮めるカズマだったが、それでもスバルの人生上映会は悲壮でシリアスな展開が続いていたので、アクアのバカさ加減と並ぶダクネスのこの反応に、カズマはいつもの自分たちの空気だと感じ、密かにありがたく感じていた。
『余計なことは言わずにおきなさい』
スバルにだけ聞こえるように耳打ちするラムの一言に、スバルの怒りが困惑に変わる。
「やっぱり、ラムさんは何か意図があってした行為だったんですね!」
「まあ、彼女ならば気に食わないからという理由でもやりかねんがな」
ラムの横暴な行動に意味があったと知り、ヴィーシャは安堵してにこやかにターニャへ微笑んだ。
そんな笑みを向けられたターニャは苦笑しつつ、特に理由がなくても同じことをしかねないとラムの普段の様子を思い浮かべる。
『ラム、俺様にも茶よこせ』
『粗茶そのものよ』
『普通はもっとへりくだって言わねえか?』
『拾った葉っぱ汁だもの。ラムの手ずから淹れたことを感謝して飲み干しなさい』
そんなメイドらしからぬ態度とお茶の原材料に、多少はラムの言動に慣れていた者たちも若干名が絶句した。
「ひ……酷い対応ね。彼女の教育係は一体どんな教育を施したのかしら?」
「まあ、お淑やかでお上品なラムっちはもう別人って感じっすから、ウチはあれで面白くていいと思うっすけどね」
ナザリックのメイド長的な立ち位置にいるユリからすれば、信じられない態度を取るラムを見て、呆れと困惑の入り混じった声を漏らした。
それを聞き取ったルプスレギナは、口元をニヤリとさせながらラムの態度を擁護する。
そんな主人であるアインズ様の前ではきちんとしているものの、普段は基本的におちゃらけている次女の姿を見て、自分も他人の教育方針にあれこれ言える立場ではないと、ユリは眉間に少し皺を寄せた。
『あの~、えっと、あなたは……?』
『ワシはリューズ・ビルマ。一応、この集落の代表ということになっておる。見ての通りの老いぼれじゃがな』
いきなり現れた少女にオットーが遠慮がちに声をかけると、リューズと名乗った少女は本気か冗談か、自分の老いぼれ具合をアピールする。
そんな彼女のアピール発言に、カズマの不用意な一言が飛ぶ。
「見ての通りって?どう見てもめぐみんと変わらない歳に見えるぞ」
「おい、その発言の意味を詳しく聞こうじゃないか」
この場合、幼いでも、老いぼれでも、どっちの意味でもカズマに制裁は下るだろう。
(モモンガさん見てください!リアル異世界ロリババアですよ!!(゚∀゚)キタコレ!!)
アインズの脳内に響く、ペペロンチーノのテンションMAXな声。
「(ああ……、俺の中のペペロンチーノさんが歓喜してるよ。シャルティアの反応は……)」
頭の中で狂気乱舞するエロ鳥の声が響くなか、チラッとペペロンチーノによって作り出されたNPCであるシャルティアの方に目線をやると、まったく興味なさそうに、いつも通りのテンションで上映会を見ていた。
「(あっ、そうか。シャルティアはネクロフィリアだから、別にペペロンチーノさんみたいにロリババアが好きって訳じゃないよな)」
「アインズ様、どうかなさいましたか?」
「ん、いや、なんでもないぞ……」
チラ見していたことがバレたが、アインズは特に動じた様子も見せずにシャルティアから目線を外す。
そうやっている間に、オットーの案が何故却下されたかの話しに戻る。
『魂の抜け殻って……?』
『聞いておるじゃろ。混血の者は結界に意識を奪われる。正しくは、魂を弾かれるんじゃ』
『それはつまり、混血の人が結界を無理に超えようとすると、肉体と魂が分離する。っで、魂だけが結界の中に取り残される羽目になって……抜け殻になるって理解でいい?』
リューズの短い説明を理解出来たスバルが確認するように尋ね、リューズはスバルの理解力に驚きながらも肯定の頷きを返す。
「ほぉ、普段の言動で少々忘れがちになりますが、彼は中々に頭の回転が早い。精神的な未熟ささえ克服出来れば、軍師などの役割もこなせそうですね」
「軍師、確かに……下手なプライドだけで兵を動かす無能よりかは才能があるだろうな」
「つっても、今のはスバルの頭の回転の早さもそうだけど、絶対に漫画やアニメの影響が強いぜ、きっと!」
スバルが軍師の役割をこなせると知恵者であるデミウルゴスが評価したことに、ターニャは納得して頷いていると、カズマが水を差すように友人からの観点での意見を言った。
「まあ、確かに……。カズマの言う通り、漫画やアニメの影響だろうが、それでもスバルの理解力やそれを言葉にする力は、十分に評価に値する能力だと私は思うぞ」
「そうですわね。アインズ様に及ばずとも、あの男はこのクラス内でもそこそこの知恵の持ち主。死に戻りの能力を加味すれば、デミウルゴスの言う通り、軍師という役割はあの男にとって最良のポジションではないかしら」
カズマの茶々にアインズは納得しながらも、スバルの軍師になれるだけの能力がある事を認める発言をした。
その発言に、最上位の知恵者であるアインズに劣ると言いながらも、死に戻りの能力を評価に入れたアルベドが賛同の意を示すのだった。
『魂を持たない肉体だけが結界の外に出る事は、すなわち死を意味する』
『死──』
『なぁ──ー!!?マズッ』
シリアスな空気をぶち壊すような顔と声で、ガーフィールが飲んでいた茶を盛大に吹き出した。
そのおかげで、リューズの口から出た死という言葉に怯えていたオットーの顔色も戻り、場の緊張も少し和らぐ。
だからこそ、このタイミングでスバルは、聞きづらかったことをリューズと、その隣に座るガーフィールに問いかけた。
『けどよぉ、試練に挑戦する資格が混血ってことなら、リューズさんやガーフィールも、挑もうと思えば挑めるってことなんだよな?』
『挑むだけなら、理屈の上では可能じゃな。じゃが、聖域の解放は出来ん。それは、この地に綿々と受け継がれる、ワシら聖域の住人への契約よ』
スバルの質問にリューズは簡潔に答える。そして、ここでもまた出てきた契約という言葉に、スバルのみならず、映像を見ている他の者も、この話を聞いて脳裏に疑問符が浮かぶ。
「誓約に契約。面倒事っていうか、しがらみが多すぎる気がするな」
「誰かの陰謀。あるいは策略に乗せられている、そんな予感がするな」
リューズの言う聖域の住人への契約のみならず、エキドナが要求した対価である誓約。
この聖域に着いてから、スバルの周りでは陰謀や策謀といったものが渦巻いているように思えてならない。
だからこそ、そういった手練手管を得意とする尚文とターニャは、この聖域に渦巻く陰謀を予感し警戒していた。
そうして、リューズたちとの話し合いを終えたスバルは、今も眠っている眠り姫ならぬエミリアのいる部屋まで戻ってきた。
ベッドの横に腰掛けると、その物音で目を覚ましたのか、エミリアの目がゆっくりと開かれる。
『……スバル』
『おはよう、エミリアたん。よく眠れた』
『おはよう……。ずっと、ついててくれたの?』
『どうせ部屋に戻っても眠れないから。オットーの奴、寝言がうるさくてさ……』
エミリアに罪悪感を抱かせないように、小粋なジョークを飛ばすスバル。
「やはり、スバルは紳士ですね。カズマの場合、ああいった状況になれば、一体どんなやましいことをしてくるやら」
「おい、ちょっと待て」
「はぁ、はぁ、きっと、寝ている私の布団を剥ぎ取って、有り余る性欲を無防備な私の体に──くっ!!♡」
「だから、おい!」
「う~わ、最低ね、カズマさん」
「お前もこいつらの悪ノリに乗っかるんじゃねえ!ねえ、ちょっと皆さん。どうしてそんな目を俺に向けるんですか?」
女性陣の冷たい視線を浴び、カズマは慌てて弁解し始める。
男性陣もカズマがヘタレでそんな度胸がないことは分かっているので、無言でじっと見つめるのはアクアと同じく悪ノリに便乗しているだけなのだろう。
ただ、デミウルゴスや尚文なんかが、割と本気に近しい咎めるような目線を送ってきているのは冗談だと思いたい。
『昨日はごめんね。私、墓所ですごーく取り乱して』
『え?ああ、大丈夫大丈夫。それより──』
寝起きでまだ意識もハッキリとしていないのだろう。無意識にエミリアの手がスバルの腕に伸びる。
やがて、自分が何をやっているのか理解が追いつくと、エミリアは顔を真っ赤に染めた。
「あ~、クッソォ。なんで俺はこんな扱いで、スバルはあんなご褒美イベントが貰えるんだよ」
「日頃の行いというやつでは?」
カズマの愚痴にデミウルゴスが酷く真っ当な正論を叩きつける。
『ち、違うの!あれ、おかしいな?私なんでこんな──』
『エミリアたん!ついに無意識下で俺を求めるほど積極的に!?』
『ううん、全然そんなんじゃないの。多分、うっかりしちゃったみたい』
『否定が早いし、うっかりってどういうこと!?』
騒ぐスバルの様子に、エミリアがおかしそうに笑う。
『笑えるなら大丈夫だよ。試練は、今夜もう一度挑んでみればいい』
『今夜、もう一度……』
その提案に、エミリアの声色が暗くなる。
スバルは気づかない。それがどれだけ重い期待で、エミリアにとっての重圧になっているのか。
「今夜の試練も厳しいだろうな。本人たちの価値観が違ってしまっているが故のすれ違いだ」
「ええ、無自覚な期待ほど、相手を縛るものはありませんからね」
スバルからの評価とエミリアの自己評価の食い違いは、奇しくも、かつて王都でスバルとレムが衝突したあの瞬間と同じ構図だった。
あの時のスバルは、期待に応えられないと弱音を吐き、自分の情けない本心を曝け出し、レムの優しくも厳しい言葉に救われた。
だが今回は、エミリアがスバルに弱さを見せまいと無意識に隠そうとしており、そのすれ違いが決定的な失敗を生むだろうと尚文は判断して言葉を漏らす。
その言葉を拾い上げたデミウルゴスが、メガネをキラリと輝かせて同意するように頷いた。
エミリアの介抱を終えたスバルの元に洗濯物を持ったラムが現れて、干す作業を強制的に手伝わされる。
温かい日差しの中、爽やかな風が吹く今の時間ならば、洗濯物もすぐに乾くだろう。
そうして大体の洗濯物を干し終えたスバルに、ラムが警告とばかりに話しかける。
『バルスに言っておくことがある。聖域の解放に、ここの住人の全員が賛成しているわけではないわ』
『それはどういう……』
『聖域の解放は、リューズ様筆頭に、ガーフのような強権派が言い張って主導しているだけのこと。中には聖域の解放を望まない保守派もいるということ』
『聖域の解放を望まないって……』
『保守派にとって、外との交流が最低限である今が理想なの。それを敢えて壊そうだなんて迷惑以外の何物でもないということよ』
『ガーフィールはともかく、リューズさんの事も信用してねえのか』
『フレデリカの事もね』
フレデリカの名前も出され、スバルが固まる。
「随分と敵が多そうでありんすな」
「それに厄介なのが、誰が敵で、誰が本当の味方であるのかが不明な点ですね」
「そうね。聖域の解放のみならず、王選という国を左右するイベントを控えた今、不穏分子の炙り出しと排除は必要不可欠よ」
ラムの警告に、状況を大雑把にしか把握出来ていないシャルティアが他人事のように感想を述べ、デミウルゴスとアルベドがナザリックの知恵者らしい回答で答える。
スバルの置かれた状況は、まさに“盤上の駒が全て裏切りの可能性を孕んでいる”という地獄だった。
ロズワールは魔女教の一件を黙認し、フレデリカは輝石による転移の元凶。ガーフィールは聖域の危険人物として暴走の火種を抱え、保守派の住人たちは姿を見せぬまま沈黙を続けている。
「やっぱり、単純に試練を乗り越えるだけの道のりじゃなさそうだな」
尚文が低く呟く。盾の勇者として幾度も裏切りを経験してきた彼には、この状況が痛いほど理解できた。
「けれど、学園に来ているロズワール先生に、ガーフィール君は味方じゃないですか?」
そんな尚文の呟きに、ラフタリアが希望的観測を口にする。
確かにロズワールはその人物像的に敵か味方か判断が難しい所だが、少なくとも学園生活を見る限りでは、ガーフィールとは敵対関係ではないだろう。
『誰が敵かは分からない。常に気を張りなさい』
ラムのその警告に、スバルの気が引き締められる。
「ロズワールとガーフィールは除外して、やっぱりフレデリカか保守派の連中が敵として立ちはだかるのか?」
「そもそも、なんでその保守派の人たちは聖域の解放を嫌がってるのかしら?」
カズマの浮かべた疑問に、アクアが小首を傾げてさらに疑問を重ねる。
その疑問に、ターニャが予想であると前置きして答える。
「この世界で混血は忌み嫌われている。それはハーフエルフでなくてもだろう。そして、聖域は混血を閉じ込める檻であると同時に、自分たちを守る壁でもある。それが解放されれば、自由を手に入れられるかもしれないが、今度は自分たちを守る壁を失う事になる。だから保守派は聖域の解放を望んではいないのだろうな」
ターニャの推論に、場の空気が一瞬だけ静まり返った。
その冷徹な分析は、まるで戦場の地図を俯瞰する軍人のように、感情を排した理屈の刃だった。
「……つまり、聖域の解放ってのは、混血の人たちにとって自由を手に入れると同時に、迫害される可能性も生まれっちまうってことか」
カズマが腕を組みながらぼやく。軽口のようでいて、その声には確かな重みがあった。
それに対してアクアは小首を傾げる。
「でも、確実に外の世界の人たちに襲われるってわけじゃないし、みんな怯え過ぎじゃないの?」
その素朴な疑問に、ターニャはわずかに息を吐き、冷静に答える。
「自由とは、守りを失うことでもある。檻の外には差別と敵意がある。混血を忌む──否、恐れるこの世界では、聖域の壁こそが彼らの最後の防衛線だ。それを壊せば、彼らは解放と引き換えに、孤立を手に入れることになる」
まるで帝国のようにな──と付け加えなかったのは、ルーデルドルフ校長やゼートゥーア副校長が少し離れた席にいたからだろう。
そうして、アクアに聖域を解放することのメリットとデメリットを話しているうちに、映像内では夜になった。
試練を受けて光り輝く墓所の前で、スバルを筆頭にアーラム村の住人たちやオットー、ラム、ガーフィール、リューズが揃って見守っている。
『ラムもこっち来いよ!』
『お前、ひょっとしてラムのこと好きなの?』
待っている間の暇潰しにか、スバルがガーフィールのラムへの態度から、恋慕しているのかと問うと、あっさりと返事が返ってくる。
「へぇ~、ガーフィールってラムのこと好きだったんだ」
ガーフィールの好きな相手がラムだと知って、アウラが面白そうに口元に笑みを浮かべる。
「で、でも、ラムさんって……ロズワール先生のことが好きだよね、多分……」
そんな姉のアウラに対して、マーレが不安げに呟く。
『今度こそ上手くいって欲しいよな。モロロクのうたた寝は一昼夜続く。じゃ、シャレになんねえしよ』
『お前はさ、聖域の外に出たら何がしたいんだ?』
『いきなりっだな。外に出てしてえ事だぁ?行きてえとこに好きなように行ける奴に、俺様やババアたちの気持ちはわかんねえよ』
スバルの質問に嚙みつくガーフィールの態度に、尚文は眉をひそめ、意外そうにガーフィールを見た。
「随分と好戦的というか、排他的な態度だな。てっきり、聖域の解放を望む筆頭だから、行きたい場所、あるいは会いたい誰かでもいると思ったんだがな?」
尚文の考えは、ガーフィールの外への憧れや会いたい誰かの存在を前提にしていた。
だが、ガーフィールの返答はそれを真っ向から否定した。
『行きてえとこに好きなように行ける奴に、俺様やババアたちの気持ちはわかんねえよ』
その言葉から、ガーフィールの自由に対する恐怖と怒りが滲み出ているように感じられた。
そんな尚文の疑念に、カズマが肩をすくめながら口を挟んだ。
「そう意外なことでもないかもしれないぜ。あの手の輩って束縛されるの嫌ってそうだし、何の目的もなく自由になりたいって考えててもおかしくないんじゃないか?」
「確かに、そうなのか……?」
見落としている何かがあると感じながらも、尚文はスバルの口から出たフレデリカの名前に強く嚙みつくガーフィールを見ながら、これからの展開に目を光らせる。
スバルとガーフィールの会話を遮るようにエミリアの泣きじゃくる声が響く。
同時に、墓所を包んでいた光がふっと消え、夜の帷がゆっくりと辺りを覆い始める。
「ふむ、やはりダメだったか」
アインズの言葉通り、エミリアは再び試練に失敗した。
そして、誰もそれを口にはしないが、心の中ではあと何度彼女がこの試練に挑み、乗り越えられるのか、それとも挫折してしまうのかという不安が少しずつ募っていく。
感想と評価を待ってます!
それさえあれば、こっちのやる気も跳ね上がりますんで!!
4章でのスバル視点外の放送
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エミリアの試練
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ラムの告白
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ガーフィールとエルザのバトル