いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
試練に失敗して泣きじゃくるエミリアをあやして再び眠らせたスバルは、ラムも交えてロズワールと向き合う。
張り詰めた空気が場を包み込み、それを見守ることしか出来ない者たちも自然と息を呑むような緊張感に包まれていった。
『そぉかい。それは残念だぁ~ったね。だが、試練の挑戦権は消えないと確認できただけでも収穫だ』
『それで、わざわざエミリア抜きで、俺に何の話だよ?』
『ちょっとした悪だくみさ。そこに信用に欠ける相手を同席させるほど、私の懐は甘くないからね』
『信用に欠けるって、エミリアが!?お前、いきなり何を──』
ロズワールの歯に衣着せぬ言い方に憤慨しかけるスバルに感化されるように、情で動きやすい者たちの目にもちょっとした敵意が含まれる。
「あの野郎!一番信用が出来ねえ胡散臭いランキング一位がどの口で!?」
「まったくです。自分の顔を鏡で見たことないのでしょうか?」
「お、おい、2人共、流石にロズワール先生に失礼だぞ。……まあ、私もちょっとそう思ってしまうが」
カズマとめぐみんの暴言にダクネスが形だけはたしなめるが、彼女もまたロズワールの行いには思うことがあるらしく、その語調は歯切れが悪い。
ともあれ、そんな三者の反応に、少し離れた席で見ていたターニャは半眼で見つめながら、心の中で静かに分析していた。
「(交渉において感情を揺さぶって有利な状況を作るのはよくある手だが、自ら王選に推薦した次期国王候補を、信用は別としても信頼できないスバルに対して悪く言うのは、さすがに悪手じゃないか?)」
道化師のような振る舞いをするフィクサー、ロズワールの少し不用心にも思える言葉選びにターニャは疑念を抱きつつも、その後の二人のやり取りに静かに耳を傾けていた。
憤るスバルをなだめて落ち着かせたロズワールは、今後ともエミリアのサポートをお願いする。
それに対するスバルの返事は当然YESだが、1つの疑問をロズワールに投げかける。
『お前はなにをするんだよ?』
『無論、同じさ。エミリア様が王選を勝ち抜けるよう全力で支援する。つまり、私たちは共犯者というわけだ』
『それを言うなら、協力者だろ。お前の言ってることは矛盾だらけだ』
そのスバルの言葉に、カズマも顎に手を当てて考え込む。
「そうだよな。エミリアを王にするなら、当然のことながら、魔女教の対策はしておかなきゃならねえ。だってのに、スバルが村も屋敷も──それこそ、肝心のエミリアだって襲われて王選どころじゃなかった筈だ」
「……なにか狙いがある。だとしても、それであの醜態を見逃せるとは思えんがな」
村人の虐殺という、あまりにも領主として許されない蛮行を見逃した事実を尚文は追及する。
「それに何より、協力者じゃなく共犯者。如何にも悪だくみを企んでいる野郎が使いそうな言葉だ」
「確かに、尚文の言うことは一理どころか、百理あるな」
尚文の言葉に、アインズは静かに頷き、その意見を認めた。
その瞬間、場の空気はさらに重く沈み込む。
ロズワールの共犯者発言や支援するという発言に対するスバルの疑念は、カズマ、尚文、アインズという三者三様の論理的な追及によって、もはや誤魔化しようのない形でテーブルの上にさらされた。
そして、その緊張感の中で最も冷静に事態を感じ取っていたのはターニャだった。
「(……やはりおかしい。あの状況は、魔女教の襲撃を見逃したというより、放置したと考える方が自然。領主としての責任を放棄した行為を、ロズワール先生が本気で失態として受け止めていない……?)」
彼女の中で、ロズワールの評価は胡散臭いから危険人物へと静かにランクアップしていた。
「(しかも、スバルに共犯者と言い放つことで、スバルを自分と同じ土俵に引きずり込もうとしている。一体何が狙いなんだ?)」
そう悩んでいると、スバルが怒鳴り散らしながらロズワールの真意を問い質す場面がスクリーンに映し出される。
『しらばっくれるな!!エミリアの王選参加が
スクリーンにスバルの脳裏に
それはスバルが一度経験した地獄の断片。それを一度は見たとはいえ、突然の再生により、見ている側に容赦なく突き刺さった。
「だよな。あの場にロズワール先生がいたなら……」
「ええ、例えその場に居れずとも、傭兵なり、騎士団なりを常駐させていれば、あそこまでの悲劇を生み出すことはなかったでしょうに……」
カズマとめぐみんがスバルの言葉に頷き、『ロズワールが本気で動いていれば、あそこまでの惨劇にはならなかった』という結論に至った瞬間、場の空気はさらに重く沈んだ。
そして、その沈黙を鋭く切り裂くように、ロズワールはスバルの激昂を静かに眺めると、その激情から生じる隙を見逃さず、決定的な一撃を放った。
『だが、不在の私に変わり、君が役目を果たした。騎士として、申し分ない手柄も──』
『っ、そんなもの──!!』
『落ち着きなさい、バルス』
スバルの怒りが爆発するに十分すぎる一言に、思わず拳が飛び出すが、それを第三者であるラムがロズワールに届く前に阻止する。
そのことに憤慨するスバルは、思わず今まで言わずにいた妹の名前すら口に出した。
『じゃあレムが、そんな馬鹿なことの犠牲になったのも許せるのかよ……!?』
『──?誰のことを言っているのかわからないけど、
その言葉は剣で胸を貫かれる以上に、スバルの胸に突き刺さった。
そしてそれは、スバルだけでなく、普段の姉妹の様子を見ている者たちの胸にも大きな傷として刻み込まれた。
「本当に──わかっちゃいたけど、ラムの口からレムのことを他人だなんて聞くと……」
「あんなに仲の良い姉妹だったのに、こんな風になっちゃうなんて。やっぱり、暴食っていうのは絶対に倒さなくちゃいけないわ!!」
スバルの激昂とラムの無関心。
その2つが生んだ沈黙の間に、カズマとアクアは悲壮な顔で、暴食の恐ろしさを改めて実感していた。
そして、それによって生まれる悲劇の光景に、声に出さないでいる者たちも怒りと悲しみを含んだ表情で映像を見続けている。
『なぜ、私がエミリア様に開示すべき情報を隠してきたのか。なぜ、私は来たる魔女教の襲撃に対し、屋敷に不在であったのか。──いずれも、答えは一つだ。私は、私が魔女教と対峙せずに済むように、それらの事態を誘導した』
『……なっ?』
絶句するスバルと同様に、その言葉を一言一句聞き逃さなかった者の何人かが、殺意に近しい感情を瞳に宿しながら、スクリーンに映るロズワールを睨みつける。
その中でも、一番に動揺と共に怒りを抱いたのは、カズマではなく、尚文だった。
「クソッたれのイカレ自己中野郎がぁ!!」
ガン!!と目の前の席を蹴り飛ばし、胸の内に渦巻く怒りを吐き捨てる。その衝撃に、隣に座っていたフィーロが「ひゃっ……!」と小さく肩を震わせる。
その反応に気づいた瞬間、尚文の怒りは一瞬だけ霧散し、バツの悪そうな表情が浮かんだ。
そして、ゆっくりと蹴り上げた足を床に戻し、怯えフィーロを慰めるように謝罪を口にする。
「……悪い、フィーロ。驚かせるつもりはなかった」
フィーロは怯えた目で尚文を見つめ、しかしすぐに小さく首を振った。
「……ううん。ご主人様、怒ってるの、わかるよ……」
その言葉が、尚文の胸にさらに重くのしかかる。
その間にも、映像内でのロズワールの独白は続く。
『私が解決してしまえば、今回のことは、エミリア様の手柄にも、君の手柄にもならないか~らね?効果は絶大だ~ぁたろう?』
確かに、スバルが主体で解決に奔走したお陰で、白鯨並びに魔女教大罪司教怠惰担当であるペテルギウス・ロマネコンティの討伐を果たし、クルシュ陣営との同盟を結ばせた。
更には、王都で仲違いしたエミリアともより強い絆を結ぶことに成功し、スバル本人も彼女の騎士足り得る人物になるまで成長した。
結果だけを見れば、ロズワールの選択は望外の結果を生み出したと言っても過言ではない。
ただし、それはこの結果に至るまでの幾つもの悲劇を度外視すればの話だ。
『魔女教撃退以前と以降で、アーラム村の住民のエミリア様の態度は大きく変わった。理解出来ない魔女の係累から、自分達の命を守るのに貢献してくれた恩人へと──』
『お前、自分が今なに言ってるのかわかってるのか……?』
ギリギリと握りしめた拳がスバルの胸中に渦巻く感情を代弁する。
「──ドクズがぁ、功績だの人気取りだので、守るべき住民を危険に晒して言い訳がないだろうが!!」
そして、それを見届けている尚文もまた、奥歯を嚙み砕かんばかりの力で、憤怒を堪えていた。
もし今尚文の盾の機能が正常だったのなら、憤怒の盾に変化してもおかしくなかっただろう。
『──っ、そんなもんは結果論だろ……!お前がいなくて、何も教えなかったのが原因で何人死んだと思ってる!?』
『味方に出た損害は哀悼の意を表明しよう。……それとも君は、私に謝ってほしいのか~ぁな』
『──ッ!違う!違う違う違う、そうじゃない。そうじゃ、ないんだよ!』
スバルが最も知りたくて、最も後悔して恥じている部分を声を大にしてロズワールに問い掛ける。
『……俺がなにもできないクズのままなら、お前はどうしてたんだよ。エミリアも、村の人たちも、誰も救えない結果になってただろ!?』
『──信じていたんだよ。君のことを。君ならば、エミリア様の為に奔走し、クルシュ様との同盟成立に力を尽くし、襲い来る魔女教の撃退を命懸けで成し遂げ、功績を挙げると信じていた』
一点の曇りもなく、スバルを信じていたと言い切るロズワール。
その答えに、スバルは怒りは困惑に変わり、ただ呆然と立ち尽くすしかできなかった。
「これが本当に本心からの言葉だとすれば、とんだギャンブラーとしか言いようがないな」
「ギャンブラー?ふざけんな!こんなの、ただの責任放棄を正当化する都合のいい言い訳だろうが!?あの惨状を、あの絶望を放置して、信じていただぁ?ふざけるのも大概にしろ!!!」
ターニャの呟きに、尚文は怒りをぶつけるように叫んだ。その脳裏には、災厄の波で目にした地獄の光景がよみがえる。
村が焼け落ち、人々が泣き叫び、無数の魔物がそこにいる命を摘み取ろうとする。そんな地獄が何度アーラム村を襲ったのか、尚文は嫌でもその目で見てしまった。
それを、信用していたの一言で片付けようとするロズワールの顔面にあらん限りの拳をぶつけてやりたいと、そう強く思う。
「……だよな。ふざけてやがる!」
カズマもまた、静かに拳を握りしめる。
普段は軽口ばかりの彼が、今は一切笑っていない。
「信じてた?あの状況で?スバルが動けなかったら、村もエミリアさんも全滅だったんだぞ。それを信じてたで片付けるなんて……ありえないだろ」
あのグランツですら、今回のロズワールの言い分には無視できないものを感じたのか、怒りを表すように掌に拳を叩きつける。
各々が、それぞれ胸に抱いている怒りを吐き出す中で、スバルとロズワールの問答は続く。
『……お前が俺のなにを知ってる!?お前と別れたとき、俺は正真正銘のクズだった。そのクズが多少なりマシになれたのは、その後のことがあったからだ。そして、その後のことは俺の中以外の何処にも残っていない。お前は俺のなにを信じたんだよ──』
『どうやら、今夜の話し合いはここまでのようだ~ぁね。ちなみに、このことはエミリア様には?』
『言えるわけがねぇ』
スバルはロズワールの質問に対し、耐え忍ぶような表情で答える。
『そうして怒りに支配されながらも、君は内心で現状が正しいと理解している。エミリア様の王選のために、私や村人と軋轢を生むべきではない……とね』
まるで心の内を見透かしたように、ロズワールは告げる。
そして、その言葉にスバルは怒りと悔しさに震えながらも、何も言い返すことができなかった。
「これをスバルが大人になったと喜ぶべきか。あるいは、大人にならざるを得なかったと、悲しむべきか?」
「さあな。ただ、もしこのスバルの成長がロズワールの敷いたレールの上を歩かされた結果だとするなら、きっと後者なんだろうな」
夢見がちだった少年が現実を見ている。そんな成長を見せているスバルの姿に、アインズは複雑な感情を抱きながら、独り言のように口に出すと、尚文がその言葉を拾う。
その顔には怒りを通り越して疲労した表情が浮かんでおり、上から神様気取りで他人の人生を好き放題弄んでいるロズワールの被害にあっている者たちへの同情があった。
そうして、話し合いを終えて口を閉ざすスバルへ、ロズワールが確信を持った一言を言い放つ。
『やはり、君は私の共犯者に相応しいよ』
その言葉を聞いて、尚文たちはこの先の展開にロズワールが深く関わってくると感じた。
それは、再びスバルに地獄のような道を歩ませることになるのではないかという、そんな悲しい予感だった──。
この聖域編を書く前はアインズとカズマ陣営ばかりが喋ることになりそうだと思ってましたが、いざ書いてみると、同じ境遇として尚文がよく喋るんだなって気づきましたね。
感想と高評価でやる気が上がるので、どんどん送ってください。
スバルの第二の試練の内容
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原作通り
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エイプリルフールのIFストーリー