いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
監禁されていたスバルを助け出したのが予想外のオットーで、皆が驚いているところに、そこにもう1人の助っ人が現れた。
『待ちくたびれて老婆になるかと思ったわ。もっとも、老いてもラムは可愛いけれどね』
『ラム……!お前が協力者なのか?』
ここでまさかの人物の登場にスバルが驚いていると、部屋の中もざわつく。
「まさかここで彼女が出てくるとはな……」
「てっきり、試練に挑むエミリアさんのお付きをしているのかと思いましたが?」
「ロズワール先生の指示か、あるいは彼女の意思かで状況は変わりそうだな」
ラムの登場に驚きを隠せないターニャとデミウルゴスを横目に、アインズは思案顔でラムの立ち位置について思いを巡らせていた。
他の皆も、ラムがオットーと同じくスバルを助けに来たのか、それとも利用しに来たのか判断に迷っているようだ。
けれど、誰もそれを口にはしない。それは、ラムの本心が分からないがそれ以上に、彼女の人には簡単に見せない分かりにくい優しさを信じているからだ。
『バルスの手助けがロズワール様の指示よ。そのためにオットーに目をつけたのはラム自身の判断だけど』
『お眼鏡に叶ったってことか?』
『上手く使う人間がいないと、無駄死にすると思っただけよ』
『否定出来ねぇ!』
『否定しろよ!』
危機的な状況であるにも関わらず、漫才のようなやり取りをするスバルたちの姿に、部屋に漂っていた緊張の空気が弛緩する。
「やれやれ、ラムの奴も相変わらずのツンデレだな。要は、オットー1人だけだとガーフィールに見つかって殺されるかもしれねえから保護してるってことだろ」
「それに、ロズワール先生の指示だと言いながらも、実はラム自身がスバルを助けたい気持ちを照れ隠ししているのもまた……。本当に難儀な性格の人ですね」
キツイ言い方をするラムの透けて見える善性に、カズマとめぐみんは生暖かい視線を送る。
その、少し緩んだ空気に、無意識に肩に力が入っていた者たちがようやく息を吐いて続きを鑑賞する。
『監禁されていた割に、随分と落ち着いているわね?』
『え?大笑いした後だからな……』
『あ、えへへへ……』
あの時の状況を知らないラムは少しだけ首を傾げながらも深くは追求しなかった。
だが、あのシーンを見た者達は思わず自然と笑みを浮かべ、2人の友情に心温まっていた。
「ぐすんっ、あれはいい話でした」
「涙を拭きたまえ。まあ、感動的なシーンであったことは否定はしないがな」
あの時の2人のやり取りを思い出したのか、目尻に涙を浮かべたヴィーシャに、ターニャがハンカチを差し出した。
他にも、ヴィーシャ以外にもああいった友情に涙もろい連中はハンカチ代わりに指で涙を拭いたりしている。
『逃げるわよ。エミリア様が試練に挑む間、ガーフは墓所を離れられない。アレの目が外れているうちに』
『──いや、逃げるのは後回しだ』
『ナツキさん!?』
予想外の返答に、オットーは思わず驚きの声を上げた。
そしてそれはカズマもまた同様で、逃げを捨てる選択に困惑する。
「どういうつもりだよ、スバルの奴?早く逃げねえとまたガーフィールの奴に捕まっちまうかもしれねえのに!?」
「いえ、きっとスバルはこれをチャンスと見ているのでしょう」
「そうか、ガーフィールが動けないという今の状況は、逆に言えばガーフィールの横やりを気にせずに聖域内を調べられるということか!」
スバルの意図を察しためぐみんが、紅魔族ならではの高い知性でその狙いを見抜き、それに続くようにダクネスもまたスバルの考えを見破った。
事実、スバルは今のこの状況を生かして、再びロズワールとの話し合いに挑もうとしていた。
一体何を聞こうというのか?聖域のことか、それともガーフィールのことか?屋敷への襲撃を依頼した人物に心当たりがあるのか?禁書庫に籠るベアトリスのことか?聞きたいことは山ほどあるが、それを許すだけの時間は残されていない。
そんな状況で臨むロズワールとの対談に、アインズとデミウルゴスはまるで楽しみで仕方ないと言わんばかりに目を輝かせていた。
「さて、ナツキ・スバルの王都での交渉術は見せてもらったが、今回はどうなるか?」
「ええ、少々楽しみですね」
そう、いざ窮地に立たされた時、ナツキ・スバルという男は驚くほど頭の回転が速く、その発想や着眼点は知恵者と呼ばれるターニャやデミウルゴスでさえ感嘆するほどだ。
そして何よりも際立っているのは、幾度もの死を乗り越えてきたせいか、普通の高校生では到底持ち得ない度胸を備えていることだ。
だからこそ、こういった場面でのナツキ・スバルの行動に期待をもってしまう。ゆえに、誰もが静かにロズワールと対面するスバルの言葉を傾聴する。
『ロズワール、今度こそ隠し事抜きで話してもらうぞ!』
『3日ぶりの再会。奇跡の生還って雰囲気じゃーぁないね』
『茶化すな。今の俺は悪ふざけに付き合ってられる余裕がねぇんだ』
普段のふざけた会話の時とは違い、険しい空気をまとったスバルに対しても、ロズワールの態度や対応は変わらなかった。
今の状況に危機感を持っていないのか、それとも持つ必要がないと思っているのか。どちらにせよ、ロズワールはスバルの本気を感じながらも、なお道化た態度を崩さなかった。
『ベアトリス。あいつは、魔女教徒、なのか?』
『────何故、ベアトリスが魔女教徒だと思ったのかな?』
恐る恐るも覚悟を決めて問いかけるスバルに、ロズワールはわずかに笑みを浮かべつつ、逆にその考えの理由を尋ねた。
それに対して、スバルは正直に屋敷の禁書庫で魔女教の証たる福音書を所持していたのを見たと告白した。
『もしあいつが魔女教徒なら、あいつは俺たちの……俺の敵になる』
『強い言葉だね。実に覚悟のいる言葉だ。そして、そんなに苦しそう顔で言っても、説得力に欠ける言葉だよ』
歯を食いしばり、胸を痛めるような表情を浮かべるスバルの覚悟を、ロズワールは軽く一蹴する。
それは、出来もしない口だけの言葉だと嘲笑っているようでもあった。
「意地の悪い奴だな。さっさとベアトリスが魔女教かどうか答えればいいってのに、スバルの反応を楽しんでるのか?」
「そんな酷い!……っ、でも、もしベアトリスさんが魔女教だったら、いっそ……」
「──っ、ちぃ!」
このまま話をはぐらかしていてほしい、そう願ってしまうラフタリア。
そんな彼女の落ち込んだ表情を見て、尚文はただ見ているだけしかできないこの現状に対して、改めて不機嫌そうに顔をしかめた。
『君があの子と敵対しなくてはならないなんて、酷な話だ。だから、救いの手を差し伸べたい』
『救いの手?お前が俺に?世界最高レベルで胡散臭いな』
どう聞いても胡散臭いロズワールの言葉に、スバルは呆れたように鼻で笑い、皮肉を返した。
だが、その言葉は噓や偽りなどではない事実だった。
『確かに、君が見た物は福音書に近しい物だ。君が疑いたくなるのも無理はない。でも保障しよう。あの子は魔女教徒ではないよ』
ロズワールのその言葉に、スバルは驚きと安堵を顔に出した。
そして、その言葉に救われたのはスバルだけではなかった。
「よ、よかった……。ベアトリスちゃんが魔女教徒じゃなくて」
「ふ~ん、マーレならベアトリスが魔女教徒でも関係ないって思ってたけど、違うんだ」
「えっと、別にボクはベアトリスちゃんが魔女教徒でも構わないんだけど、それで今の好きな人と戦うことになってたら嫌だなって思って……」
その見た目やおどおどとした態度に反して、大事なものとそうでないものを容赦なく切り分けるマーレにしては、珍しい反応だった。
そんなマーレに姉のアウラは意外そうにしたが、返ってきた返答を聞いて納得する。
そして、そんなマーレの何気ない答えにグサッと胸を貫かれる者がナザリック陣営に1人。
「うぐっ!た、確かに好きな人と戦うなんて嫌でありんすな……」
「そうね、どこかの誰かさんは愛する人に反旗を翻したことがあるけれど」
「むぐぐぐ!あれはわっちが操られていた……からで……。いや、これは言い訳でありんすな」
「そうですね。きちんと反省しているなら結構です。今後、守護者としてあのような失態は二度と犯さないように」
ここぞとばかりに嫌味を言うアルベドと、淡々と説教するデミウルゴスに挟まれ、シャルティアはしょんぼりと肩を落とした。そんな落ち込むシャルティアの頭をアインズが励ますように撫でたことで、今度はアルベドとシャルティアの喧嘩が勃発しかけたが、アインズの尽力でなんとか仲裁が成立した。
『あの子が持っているのは福音書じゃない。この世にたった二冊しかない、本当の未来を示す魔書。叡智の書に最も近しいものだ』
『叡智の書……?』
福音書とは違う名前にスバルが聞き返す。
ロズワールが、ベアトリスがあの本を福音書と呼んでいた理由を説明すると、知らない情報が増えて一瞬頭を悩ませたが、すぐに今考えるべきことではないと判断し、思考を切り替えた。
「本当の未来を示す本か……。興味深くはあるが、よくある予言の書とは違う物だろうか?」
「そうですね。本にどのような記載で未来が示されているのか?ナツキスバルという男の持つ死に戻りの能力がある以上、予め未来を知って書き記すというのは矛盾が発生します。それに、未来を示す範囲がどの程度なのか、10年先か100年先か、それによってその本の価値は変わりますからね」
「魔法がある世界だ。自動的に本の内容が書き換わるという仕組みがあるかもしれないが、そうなればロズワール先生は自分達がこの学園に転移するという未来を既に知っていた?」
叡智の書の存在に、アインズ、デミウルゴス、ターニャは興味津々に各々の意見を述べる。
もっと叡智の書についての所感を語り合いたいところだが、その間にもスバルとロズワールの会話は進んでいく。
『ロズワールは質問をしろと言っていた。この言葉をベアトリスが聞けば、反応があるはずだ』
『それって……』
かつてのループでラムが助言として残した言葉に反応するスバル。その反応を見て、ロズワールはさらにもう一つ言葉を加える。
『なるほど。君にはこの言葉では足りないと見える』
『待て、足りないってのは……?』
『なり、こう言いなさい。──自分がその人だと』
『その……人……?』
『ベアトリスに質問をさせて、君は肯定しなさい。そうすれば、あの子は必ず君の味方になってくれる』
まるで意味の分からない意味深な言葉に、スバルだけでなく、それを聞いていた皆も奇妙な不気味さを感じていた。
「なんだ?質問だのその人だのって?」
「謎かけ……ではありませんよね?」
「ベアトリスとロズワール先生にとって何か重大な意味を持つ言葉なのだろうが?それで本当にベアトリスは仲間になってくれるのだろうか?」
「けど、言うだけならタダなんだし、それでベアトリスが協力的になってくれるなら、言ってみたほうがいいんじゃない?」
その不気味さにカズマたちが警戒心を高める一方で、アクアは能天気に試してみるべきだと口にする。
確かに、聖域と屋敷の問題を解決するにはベアトリスの助力は必要不可欠である為、試せるものは試してみたほうが堅実な選択なのだが……。
「それは、なんだか違う気がします?」
「ラフタリア?」
「確かに、それでベアトリスさんが仲間になってくれるかもしれませんが、なんだかそれじゃ、私達の知ってるスバルさんとベアトリスさんの関係にならないような気がして」
アクアの言葉にラフタリアが静かに異議を唱える。
「あっ、いえ、根拠とかそういうのはないんですけれど。ただ、形だけの意味を伴わない言葉じゃ、今の学園で見せている仲のいい2人の関係にはならないって、そう思えてならないんです」
「……ふっ、だな。口だけや上っ面だけの関係じゃ本当の仲間にはなれやしない。俺たちはそのことをよく知っている。だから、多分だがスバルはロズワールの野郎の用意したレールの上は歩かないだろうぜ」
裏切り騙され、虐げられた過去を持ち、人と人との関係に機敏なラフタリアと尚文だからこそ、根拠がなくてもその選択は間違いだと断言できるのだ。
それを聞いて、2人のその言葉を信じる理由はなくとも、それが正しいのだと皆は納得する。
そうして、聞きたいことは聞けたとばかしに、スバルは踵を返して部屋を出ようとする。
そして出ていく前に、ロズワールに最後の質問を投げかける。
『ロズワール、最後にもう一個だけ聞いておく』
『聞こうか?』
『お前は、俺たちの敵ってわけじゃないよな』
『もちろん、君たちは私の味方だよ』
敵意の一切ない笑顔でそう言い切るロズワールの言葉を聞いたスバルは、そのまま何も言わずに出ていった。
「ちっ、あのピエロめ!」
「どうしたんですか、小佐?」
「奴め、自分がスバルたちの味方と言わず、スバルたちが自分の味方だと言ったのだ」
「えっと、それはどういう?」
ターニャの言葉の真意を理解できていないヴィーシャが困惑する中、その言葉の意味を正しく理解した者達はニヤリと口元を歪める。
「フハハハハハ!つまりだ、自分はあの小僧を助ける存在であると明言せず、小僧どもの一挙手一投足が自身にとって役に立つ存在だと言っているのだ!」
バニルの説明を聞き、これまでピンときていなかった者たちは、ロズワールがスバルたちを単に利用しようとしていると悟り、胸の奥底からターニャと同じように怒りをこみ上げさせていた。
「あんの野郎!叙述トリックなんざ使いやがって!!」
「なるほどね!つまりロズワール先生は悪者ってことは分かったわ!!」
「ええ、そうです。こんなのまるで詐欺じゃないですか!!」
「ああ、流石にこれは許せんな!」
カズマに続き、理解度の低いアクアや怒り昂るめぐみん、性癖はともかく騎士道を重んじるダクネスがロズワールに対して怒りをあらわにする。
「黒幕気取りかよ。いや、もしかしたら本当に黒幕の可能性もありそうだな」
「だとしたら、本当に許せません!」
「フィーロもあのピエロの人の笑顔、槍の人とは違う意味でなんだか嫌い!」
不愉快さをにじませた尚文の言葉に、ラフタリアは眉をひそめ、フィーロもまた嫌悪の色を浮かべていた。
「本当に酷い。魔女教の件にしても、ロズワール先生は一体何を考えてるんでしょうか?」
「ああ、本当に何を考えているのやら?なんにせよ、これは流石に擁護はできんな」
「正直言って、ガチで痛い目にあってほしいですね」
「だな!」
「ええ、俺がもしあの場にいたなら、スバルの代わりにブン殴ってやってましたよ!」
こうして、カズマたちは勿論のことながら、尚文たちや、ヴィーシャら帝国兵らも、ロズワールの笑顔に潜む悪意に怒りをあらわにした。
それを狙っていたのだろう。部屋に渦巻く怒りの悪感情にバニルは舌鼓を打つ。
「フハハハハハ!好みではないが、怒りの悪感情、美味である!」
「バニル先生がわざわざ説明した理由はそれですか。それにしても、ロズワール先生……、胡散臭いピエロの恰好をした人なだけではないと思っていたが」
高笑いしながら悪感情の味に興奮するバニルを横目に、レルゲンはこの短い時間で垣間見たロズワールの闇に胃の痛みを覚えるのだった。
人の悪感情を好む悪魔に、中二病のドッペルゲンガー、そして腹黒ピエロと、レルゲン先生の同僚はロクな奴がいない。
「ふむ、今回の交渉はロズワール先生の掌だったわけだが……」
「果たして、今回得た情報でどれだけ上手く立ち回れるか。そして、ラフタリアさんや尚文殿が言っていたように、ロズワール先生の敷いたレールの上を歩くのか、そうでないのか?気になるところではありますね」
予想を超えるような動きは見せられず、会話は終始ロズワールのペースで進んでしまったが、それでもスバルは聞きたいことを聞くことができた。状況を打開できそうなベアトリスの協力を得るための助言ももらえた。
後はここからどう動くのか、そこに注目するアインズとデミウルゴスはただひたすらにナツキスバルに期待する。
この小説を書き続けるためにも、感想を送ってほしい。
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
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