いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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決死の逃走

 ロズワールとの会談を終え、待っていたラムとオットーのもとへ合流するスバル。まだ心の中に整理しきれないモヤモヤは残っているだろうが、それをすべて解消する時間はなく、ロズワールも肝心な部分はきっとはぐらかすに違いない。

 なんにせよ、ガーフィールが戻ってくるまで時間はない。そして、戦力外のスバルとオットーだけでは屋敷の問題を解決するのは難しい。

 だからなんとかラムに同行をそれとなく頼み込むと、ロズワールの命がある以上は断れないとツンデレするラムは、しぶしぶという態度を崩さないまま、スバルの頼みを聞いてくれた。

 

『仲良く散歩の相談ッかよ』

 

 あまりにも早すぎる遭遇にスバルとオットーは驚愕し、ラムとパトラッシュは即座に臨戦態勢へと移った。

 

「おいおい、もう試練は終わったってのかよ」

「だとしても、スバルたちを見つけるのが早すぎる。聖域内に監視カメラに似たようなものでもあったのか?」

 

 ここでまさかの登場を果たすガーフィールに、カズマと尚文が口々に呟く。

 

『……なんでここがわかった……?』

『てめぇは、聖域の目から逃げ切れなかったんだよ』

『聖域の目……?』

 

「聖域の目か。尚文の言ったように、本当に聖域内に監視カメラに似たなにかが張り巡らされていたのやもしれんな」

「だとしたら、それがマジックアイテムの類のものか、あるいはモンスター……魔獣のような特殊な生物を利用してのものかのどちらかでしょう」

「うむ、我がナザリックでもミラー・オブ・リモート・ビューイングや、透明化を使えるアンデットや召喚NPCを利用しているからな。やはり、そのどちらかが妥当かもしれんが、決めつけは危険だ。ラムのような千里眼というスキルに似た能力や、ラインハルトのように加護による可能性も捨てきれん」

「はっ、流石はアインズ様。慧眼、恐れ入ります! アインズ様のために、私も見習わせてもらいます!」

 

 ごく当たり前のことを言っただけなのに、デミウルゴスが感激した様子で大声で褒めるものだから、周囲の雰囲気も「やっぱアインズってすごいよな」という空気になり、当の本人であるアインズはなんともくすぐったい気持ちになる。

 

『バルスはこれから聖域の外へ逃がすわ。中にいられて迷惑なのは、ガーフにとっても同じ。むしろ好都合でしょ』

『こっちの腹ァ、お見通しってわけッかよ。可愛くねェ女だ。そこがいいんだが』

『……ってことは、俺たちを見逃すってことだと思っていいのか』

 

 まさかの穏便な解決が可能かと肩の力が抜けたその瞬間、ガーフィールのまとう雰囲気が急変する。

 すでに目に見える気配だけで、ガーフィールが容赦なく敵対してくると察したのだろう。緊張が一気に部屋の空気を張り詰めさせた。

 

『あァ?てめぇを置いとくのが不都合なのは俺様にも分かッてんだよ。ただ、ホーシンのバナン落陽ッて言い方もある』

『そうか、まだ慣用句は通じてねえが、分かるってんなら──』

 

 まだ話し合いが通じそうだと思っているスバルの前に、ラムとオットーが庇うように前に出る。

 

『ど、どうした?』

『教養のないバルスに分からなかったかもしれないわね』

『ホーシンのバナン落陽は、伝説の商人ホーシンが小国バナンを陥落させた逸話になぞらえた格言です。相手に徹底攻撃と降伏の2択を迫った時の』

『徹底攻撃と降伏って!?』

 

 ここまで来てようやく状況の最悪さに気付いたスバル。そんなスバルを庇うように、ラムがガーフィールの前に立ち、説得を試みる。

 

『ガーフ!馬鹿すぎてラムの話の意味が通じなかったの?』

『てめェのほうこそ口の利きかたに気をッつけろやラム。惚れてッことと、ねじ伏せねェことは一緒じゃァねェんだ。そいつは元の場所に戻せ』

 

 あまりにも暴論であるが、確かに世の中には惚れた相手でも敵対するということもある。

 っが、しかし、今回のガーフィールの主張や言い方は暴論もいいところであるため、それを聞いた女性陣の多くはガーフィールにマイナス評価を付ける。

 

「惚れたけど、守るものの為に戦うっていうのは理解できますけど、それでも好いた女性をねじ伏せるって考えなのは気に入りません!」

「それに、女性に暴力を振るえば言うことを聞かせられるっていう考え方も最悪です!」

 

 あまりにも男尊女卑が目立つ傲慢不遜なガーフィールの言い方に、ラフタリアとヴィーシャは不快感を示した。

 そんな彼女たちを見て、もともと女性差別する気のなかった気の弱い男性陣も、女性への接し方をもっと丁寧にしようと思ったのは言うまでもない。

 

『ず……ずいぶん俺の監禁にこだわるな?置いとくだけ損だから、手放すなら無料の今がオススメだぞ』

『てめェみてェな得体の知れない野郎、外に出すわけにゃァいかねェ』

『その判断、ロズワール様のご機嫌を損ねるかもしれないわよ。だってバルスはロズワール様にとって……使えない使用人だもの。捨ててもいいわね』

『この状況でよくもまあ!』

 

「ふむ、一見するといつもの乏しめに聞こえるが、ガーフィールにスバルがロズワール先生への交渉材料になり得ると知られることを警戒しての言い回しなのだろう。……おそらく」

 

 あの状況でもスバルに対して罵倒めいた言葉を放ったラムの意図を汲み取り、それを説明したターニャだったが、最後に「おそらく」と付け加えたのは、ラムの性格上、本当に素でスバルに対して辛辣な評価をする可能性があると判断したからだった。

 

 そして、ガーフィールを脅す為にロズワールを引き合いに出したラムだったが、それはまさに虎の尾を踏むような真似だった。

 

『……ロズワールの機嫌が悪くなるだァ……?』

 

 先程よりも濃い敵意に加え、殺意までもが漂い始めた。

 腹の奥底に溜め込んでいた不満を、感情のままにぶちまけ始めた。

 

『野郎がどれだけここのことを……。ババァたちのことを考えてるッ?考えちゃいねェよ!ラム、てめェのことだって……!』

『ロズワール様は……』

『うるせェ、うるせェ、うるせッェ!野郎のことなんざ知ったことか!最後だァ、そいつを寄越せ!!』

 

 近くにあった木を殴りへし折ったガーフィールを見て、もはや話し合いの段階はとうに過ぎたのだと誰もが悟る。

 

「やべぇ、やべぇって!?」

 

 まともに言語化する余裕も失うほど、画面の中の危機的状況に焦るカズマ。

 あの場でまともに戦えるのはラムだけで、スバルもオットーも足手まとい。そのラムでさえ、長く戦い続けられないという弱点を抱えていた。

 つまり、この状況ではガーフィールを相手に誰かが囮になるしかない。そして、そういった状況で真っ先に身を投げ出すのはスバルだ。

 だが、スバルがその判断をするよりも早くラムがオットーに命じてスバルを逃がす。

 

『行きなさい!!』

『おわぁ!?』

『てめェ、三下ァ──!!』

 

 オットーに強引に担がれたスバルは、そのままパトラッシュに乗せられて聖域の外へ逃げ出した。もちろん、それを止めようとガーフィールが追いかけるが、ラムが立ちはだかって殿を務める。

 

「ちっ、これで屋敷での戦力になるはずのラムはリタイアか。状況的にかなり苦しくなるな」

「それもそうだが、あんだけキレている今のガーフィールが、ラムに酷いことをしないかが心配だな」

 

 ラムを失ったことに対する心配をする尚文と、ガーフィール相手にたった一人で殿を務めるラムを気遣うカズマ。

 そして、カズマの考えている通り、今のガーフィールはラムと言えども遠慮などしないだろう。それを皆が知るのはそう遠くない未来のことだった。

 

『ま……待て、オットー!なんで……!?』

『あれ以上はあなたが危険だった!僕とラムさんの判断です!』

 

 簡潔な説明を終えたオットーは、指笛で何らかの合図を送った。

 自分にも聞かされていない作戦があったのかとスバルが問い詰めると、森の木々の隙間から小さな光がちらつくのが見える。

 目を凝らして確かめると、それはランタンを手にしたアーラム村の人々だった。

 

「これは、まさか!?スバルを救う為にアーラム村の人たちが助けにきたのか!?」

「オットーが言っていた協力者って、ラムだけじゃなかったのかよ!」

 

 年寄りから若者まで、聖域に避難していた全員がスバルの脱出を手助けしようと協力してくれたのだろう。

 その光景に、尚文とカズマは驚きの声を上げた。しかし同時に、スバルがアーラム村に初めて訪れてから今日までの短い間に築いた村人たちとの絆や、幾度ものループを経て救ってきたことの意味が形になったことに、心の中で密かに感動していた。

 ただ問題は、スバルの聖域からの逃亡を手助けした村人たちの安全を、ガーフィールがどこまで許容してくれるのか。惚れた相手のラムでさえ牙を剥いた今のガーフィールがこの光景を見れば、激情と共に襲いかかり、最悪の場合全滅もあり得る。

 

『なんで、みんなこんな馬鹿なことを?』

『ナツキさんが言っても説得力ないでしょ!』

 

 あと少しで聖域の結界にたどり着くという時、恐ろしい獣の唸り声とともに、木々や地面が崩れ落ちる音が響き渡った。直後、スバルたちは土砂崩れのような衝撃に巻き込まれた。

 

「なんだ一体!?」

「まさか、ガーフィールの奴が!?」

 

 突然の出来事に尚文とカズマが驚く中、衝撃で吹き飛ばされたスバルの目に恐ろしい存在が映った。周囲の木々と同じくらい巨大な体に、強烈な敵意と殺意を漂わせ、鋭い牙と爪を備えた猛獣がそこに立っていた。

 

『がー……ふぃ……る……』

 

 もしスバルが事前に屋敷でフレデリカの変身を見ていなければ、あれがガーフィールだとはすぐには気づけないほどの変貌ぶりだった。

 この映像を見ている何人かも、スバル同様、その異形に目を見開き、驚きを隠せない。フレデリカが理性ある獣だとすれば、ガーフィールはまさに理性を失った猛獣といったところだ。

 

「あいつ、正気じゃねえよな?」

「目を見れば分かるだろう。アレで正気なはずがあるか。しかし、あいつが現れたってことは、ラムの奴は……」

「殺されてはいないだろうが、少なくとも戦闘不能にはさせられているだろうな。そして、奴が正気でないというのなら、それならそれでやりようはあるだろうが、問題は……」

 

 暴走状態と言えるほど正気を失ったガーフィールにカズマと尚文が焦る中、ターニャは冷静にこの先の展開への対応を考えていたが、その場合、邪魔となる存在がいた。

 本来ならスバルを助けるために集まったアーラム村の人々だが、お人好しなスバルは彼らを見捨てられない。いや、命の価値を天秤にかければ迷わず自分を切り捨てるタイプだからこそ、今の彼らはスバルにとっての足手まといになってしまっている。

 

『お前の、言う……通りにする。だからこれ以上……誰も』

 

 目の前に立つガーフィールへの恐怖もあったのだろう。しかしそれ以上に、吹き飛ばされて傷ついた村人たちの姿が、スバルには耐えがたかったのだろう。

 スバルは震える足を無理やり踏ん張らせ、無抵抗でガーフィールに身を差し出そうと近づいたその瞬間、ガーフィールの巨大な右腕が振り上げられた。

 

『──この……大馬鹿野郎!』

 

「「「────っっ!!?」」」

 

 ガーフィールの爪が振り下ろされる前に、オットーは自らを犠牲にしてスバルを守った。だが、その代償に、オットーの胴体は無惨に切り裂かれ、鮮血がスバルの視界いっぱいに広がった。

 そしてそれは、部屋で観ていた者も同じ光景を見ているということであり、スバルたちと比べれば短い期間であれど、学友として共に同じ時間を過ごした仲間の凄惨な死に言葉を失った。──ただ一部を除いて。

 

「きひひひぃ!いや~、自分の命を捨ててお友達を守るだなんて、感動でマジ涙ちょちょぎれッス!」

「もう、ルプーったら、心にもない事を言っちゃって」

「私はぁ、感動よりもぉ、あのお兄さんのお肉が美味しいそうって思うのぉ。でもぉ、筋肉質じゃさそうだしぃ、ダイエットで食べるならぁ、あの虎のお兄さんの方かなぁ?」

 

 仮面である虫の下から涎が垂れそうになっているエントマに、ルプスレギナをたしなめていたソリュシャンも同じく食欲をそそられた表情を浮かべていた。

 そんな姉妹の会話に、長女であるユリは物騒な会話に頭を痛め、シズは静かに「ウワ~」とドン引きのリアクションを取っていた。

 

『が……がぁふぃぃぃるぅぅぅ──ー!!』

 

 その声は先程までの恐怖に震えたものではなく、友を殺されたことへの怒りに震えた声だった。

 大切な友人を失ったこの世界は、既にスバルにとってやり直しが確定した世界線だ。だからこそ、その命を捨てることに迷いはなく、理性を失った獣と化したガーフィールに無謀な特攻を仕掛けようとする。

 そんな無茶な行動に、死に戻りがあると知りながらも、オットーの覚悟や自分の命を投げ出すスバルの姿に、ターニャやカズマたちは苛立ちと悲しみを隠せない表情を向ける。

 

「あの馬鹿め、たとえやり直すことになろうとも、少しでも価値のある死を選ぶべきだろうに!ただの感情任せの玉砕など愚か者のすることだろうに」

「で、ですが少佐。それは理屈です。人は理屈よりも感情を時に優先します!」

「私も、あのスバルさんがああしてオットーさんの死に怒り、拳を上げるのを当然であると、そう考えます」

「ヴァイス大尉?それにセレブリャコーフ中尉まで!?いや、お前たちもか……」

 

 発言こそしなくても、その表情からグランツ、ケーニッヒ、ノイマンもヴァイスらの意見に賛同しているのがわかる。

 まさか、戦場を共にしてきた信頼できる部下たちが論理とは正反対の感情論を支持するとは思わず、ターニャは驚くと同時に、それを戦場で知ることにならずに済んでよかったと内心ほっとしていた。

 

「(戦場で認識の違いからくるすれ違いなんて笑えんからな。いや、むしろここで部下たちの気持ちを知れたのは良かったと思うべきか。今の帝国の情勢を考えると、帝国兵の何人がヴァイスたちと同じ考えなのか。下手をすれば戦場でコンコルド効果に陥るかもしれん)」

 

 そして、頭をよぎった兵たちのコンコルド効果による結果を想像し、それを防ぐにはどうすればよいのかと、ターニャの思考がどんどん深みにはまっていく。

 ちらりと奥の席に座るルーデルドルフ校長とゼートゥーア副校長を盗み見ると、そこには目に見えてわかるほどの重苦しい空気が漂っていた。2人の間に何があったのか気になるところだが、触らぬ神に祟りなしとはよく言ったもので、今は無駄に藪をつついて蛇を出すような真似はするべきではないと考えるターニャだった。

 

 そして、考えを切り替えるように映像を映すスクリーンに目を向ければ、ガーフィールの咆哮1つで吹き飛ばされるスバルと、そのスバルを庇うために石を投げ、粗末な木の棒で立ち向かっている。

 だが、そんな村人達の必死の抵抗もガーフィールの振るう凶爪によって鮮血滴る肉塊へと変えられていく。

 

『やめろぉ!やめてくれぇ!死ぬのは俺だけで──』

 

 スバルだって痛いのも死ぬような目に遭うのも嫌なはずなのに、それ以上に目の前で繰り広げられる惨状には耐えられなかったのだろう。必死に叫び、暴れ狂う獣に大切な人たちが殺される光景を止めてくれと懇願した。

 それでも、ガーフィールはおろか村人たちも、そして今も傷口から血を流すパトラッシュまでもが、スバルの言葉に耳を貸さず、それぞれ自分の命を懸けて行動していた。

 

「これもまた、死を覚悟して進む人の意志というやつか」

 

 アインズは、ガーフィールに立ち向かい命を落としていく村人たちの背中を見つめながら、彼らのその瞳にはきっとガゼフと同じ強さが宿っているのだろうと、少しだけあの時の戦場で感じた憧れを思い出していた。

 

『もういい。もういいんだよパトラッシュ……』

 

 スバルが必死に「見捨ててくれ」と願った想いを無視し、パトラッシュはオットーと同じように迫りくるガーフィールの凶爪からスバルを守るため、自らの命を賭して彼を聖域の結界の境界まで投げ飛ばした。次の瞬間、ガーフィールの腕に叩き潰されるパトラッシュの最期を目にしながら、聖域に来た時と同じように持っていた輝石が光を放ち、その場からスバルは転移させられた。

 

 そうして、真っ白に輝く光が落ち着くと、見覚えのある床で気絶しているスバルの様子が映る。

 ようやく緊迫した状況が一時的とはいえ、落ち着きを取り戻すと、今の一部始終を固唾を飲んで観ていた者たちが口を開く。

 

「噓だろぉ、ガーフィールの奴は乱暴者だって思ってたけど、まさか人を殺す奴だったなんて……」

「で、でも、ガーフィールも自分から望んで殺したってわけじゃないし、きっと今の学園にいるガーフィールはスバルがなんとかしただろうから、えっと……その……」

「無理に何かを言わなくてもいいですよ、アクア。カズマだってそんなこと言われるまでもなく分かってるでしょう。ただ、先程の光景は酷かった。カズマの心の整理がつくのを待てばいいです」

「そうだな。私もめぐみんの言う通り、カズマが落ち着くまで待ってやればいいと思うぞ」

「…………お前ら」

 

 ショッキングな映像に、平和な日本で育ったカズマは、先のガーフィールのやらかした残酷さに強い衝撃を受けたのだろう。

 そんなカズマを励まそうとするも言葉がうまく出てこないアクアと、それをさりげなくフォローするめぐみんとダクネスに、カズマは普段のふざけ合う仲間以上の温かさを感じていた。

 

「あれもまたガーフィールさんの一面……ということなのでしょうか?」

「あの虎のお兄ちゃんは悪い人なの?それとも、善い人なの?」

「さあな。少なくとも、学園でのあいつの態度を見るに人は殺してなさそうに見えるが、本当に一体どうやってスバルはあのガーフィールを仲間にしたのやら。……レムのことといい、お人好しが過ぎるぞまったく……」

 

 オットーやパトラッシュ、そして村人たちを殺してしまったガーフィールの暴走を目にして悩むラフタリアとフィーロ。一方で、尚文は達観したような態度で受け止めていたが、心の片隅では理解不能な化け物を見るような目を向けると同時に、自分にはできないことを成し遂げるスバルへの嫉妬も感じていた。

 

 そうして、気絶から目を覚ましたスバルが起き上がり、さっきまで監禁されていた場所に逆戻りさせられたのだと状況を把握しながらも、スバルの手についた血が、あれが夢ではなかったことをスバルに突きつけていた。

 

『朝……。くっそ、あれからどんだけ寝て。──は?』

 

 外に出たスバルの目に映ったのは、一面に広がる雪景色。まるでどこかのトンネルを抜けたかのような感覚に包まれつつ、理由も分からないままスバルは外へ足を踏み出した。

 

「どういうことだ?一夜にして雪だと?例え異世界といえどおかしいだろうに。ちっ、東部での嫌な思い出が蘇る」

「あっ、でもスバルさんの異世界は魔法がある世界ですし、もしかしたら……」

 

 スクリーン越しにも寒さを感じ取ったターニャは、雪に苦しめられた東部戦線での記憶が蘇り、苛立ちから眉間に皺を寄せて舌打ちした。

 そして、何故こんな状況になってしまっているのかについてセレブリャコーフが思い至ったのか、アインズをじっと見つめる。

 

「ん?アインズ君がどうし──いや、そういえば、アインズ君はかくし芸大会で雪を降らせたことがあったな」

 

 そういえばと、めぐみんが披露した爆裂魔法を称賛し、その返礼にアインズが降雪魔法を見せたことを思い出し、今スバルの前で起きている異常現象が魔法によるものだとターニャも気づいた。

 

「なるほど、あれほど広範囲に前触れもなく雪が降るとなれば、誰かが超位魔法級の環境を大きく変える魔法を発動したと考えるのが自然ですね」

 

 メガネをキラリと光らせながら、デミウルゴスが考察を述べる。確かに、普通の魔法では数メートル四方を凍らせるのがせいぜいで、この聖域全体を雪で覆うことはできないだろう。となれば、アインズに匹敵するかは別として、超位魔法を発動できる魔法詠唱者がこの聖域に存在することになる。その事実に、白鯨の時と同じように、ナザリックの面々は静かな緊張を覚え、未知の敵となり得る存在の力量を探ろうと意識を向けていく。

 

『なんなんだ……?』

 

 雪が静かに降る雪原をスバルは一人歩く。雪道用の装備もなく、疲れが溜まっていたせいで足を雪に取られ、転んでしまう。1度足が止まると、様々な嫌な記憶が頭をよぎる。

 それを振り払い、かつての平和で幸せな時間を取り戻すため、スバルは再び歩き出した。

 

「どうにか全部上手くいってハッピーエンドで終わって欲しいものだが」

「聖域の試練に加え、ガーフィールの邪魔立てやロズワール先生の暗躍、そして屋敷の襲撃にとどまらず、聖域の変貌となれば、今のスバルには荷が重すぎるだろうな」

 

 スバルの脳裏に浮かんだ記憶の映像を見たアインズは、スバルの幸せを願う言葉を口にした。そして、そんなアインズと同じ想いを抱くターニャも、現状でスバル側にいるのは試練で弱ったエミリア、商人のオットー、メイドのラム、そして非力な村人たちだけという状況を前に、誰も犠牲にせず全てを終えるのは難しいと感じていた。

 

 やがて雪原を抜けて集落にたどり着いたスバルだったが、避難場所はおろか、元々聖域に暮らしていた混血の亜人たちの姿すら見当たらなかった。

 

『だれも……いない……』

 

 しれっといるであろうロズワールの元へ足を運んでみるも、ベッドの上はもぬけの殻で、本当に今の聖域にはスバルだけしか存在していないようだった。

 人どころか生き物の気配すらない聖域を、スバルはあてもなくさまよい歩いていると、雪原の上に一匹の兎を見つけた。

 

 その数秒後、部屋に絶叫が響き渡る。

 

 

 

スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる

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