いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
人の気配が消えた聖域を、スバルはただ黙々と歩いていた。誰もいない世界を孤独に進むその姿に、友人であるカズマは何もできな無力感に顔を歪めた。
そうして、何も起こらない時間が続き、先のガーフィールの件もあって誰も口を開かない。やがて、部屋には重苦しい空気だけが漂い続けた。そんな息が詰まりそうな雰囲気に、ついにアクアが耐えきれず叫び声をあげた。
「あー!もうっ!辛気臭いわね!!誰か何か喋りなさいよ!この際、アンデットでも悪魔でもいいから、この嫌な空気をなんとかしなさいよ!」
アクアの八つ当たりじみた騒がしい叫びも、この空気の中ではありがたいと感じる者が多く、普段ならうるさいと怒鳴るカズマでさえ、今だけはそのやかましさにありがたみを感じていた。
「フハハハハ!随分と上から目線だな、ポンコツ女神よ!!だがちょうどいい、この見通す悪魔である我輩が、汝らに1つ忠告してやろう!!」
そんなふうに嗤うバニルの口から告げられる言葉に、カズマたちは嫌な予感を覚えずにはいられなかった。しかし、聞こうが聞くまいが結果が変わらないのなら、聞いた方がまだマシだと判断し、大人しく耳を傾けるのだった。
「汝ら不良生徒らよ、これより先の展開に覚悟せよ。さすれば、多少なりともトラウマに耐えられるであろう!」
やっぱり……と、カズマたちは嫌な内容にうんざりした表情を浮かべつつも、不良生徒だのトラウマだのと、一体どういう意味なのかと首をかしげた。
「アクアが不良生徒だってのはよ〜く分かるが、不良生徒らってことは、アクア以外にもいるんだろ?他に誰がいるんだよ?」
「ちょっと!なんで私が不良生徒なのよ!?」
「いや、お前は疑いようもない不良生徒だろ、初日でアインズ浄化しようとしたり、テストでカンニングしようとして、俺に変なポーズ取らせた挙げ句に鼻の穴に鉛筆突っ込みやがったろうが!」
「うぐっ!?それは……」
言い返すこともできず、下手な口笛でごまかそうとするアクアに、カズマはさっきのありがたさもすっかり消え失せ、まだ下手な口笛を吹き続けるアクアを睨みつけた。
もういっそのこと一発ぶん殴っても許される気がしてきたと、そんなことを本気で考えた矢先、ただ孤独に歩くスバルの視界に雪原に紛れてしまうくらい純白な白兎が現れた。
「兎ですか。聖域に生息していた野兎にしては体毛が真っ白でおかしいですね」
「だとしたら、雪と一緒に聖域に現れたのだろうか?にしても、こんな時に感じるべきことではないかもしれんが、フワフワしてそうでとても可愛いな」
突如現れた兎を見て、高い知性を持つめぐみんはすぐにその違和感を察知し、対照的にダクネスはその愛らしさに心を奪われた。
雪景色に溶け込みそうな真っ白な毛並みの兎に、ダクネス同様に警戒心を抱かない者は多かったが、その兎のある特徴を目にしたターニャだけが周囲に危機感を走らせる。
「馬鹿者が。あの兎の額をよく見ろ、角が生えておるだろうに」
「角?角……角?はっ!ってことは、まさかあの兎、魔獣なのか!?」
ターニャに指摘され、一瞬考え込んだカズマは、あの兎の正体に気づく。あの世界では角を持つ生き物は魔獣とされ、これまで登場したウルガルムや白鯨なども例外なく角を持っていた。となれば、この兎も見た目とは裏腹に人に脅威を与える魔獣かもしれないと警戒が走る。
『うさぎ……?』
そんな部屋の張り詰めた空気とは対照的に、スバルは無邪気に駆け寄ってきた兎を無警戒に撫でようと手を伸ばした。だがその瞬間、何かが食いちぎる音が響き、スバルの手は鮮血とともに宙を舞った。
最初に驚くスバルの声がスピーカーから流れたが、次いで手を飛ばされ、自身の指を真っ赤な瞳で貪り喰らう兎に痛みと恐怖の悲鳴が上がる。
「「「キャ────ーッッッ!!?」」」
「「「ギャ────ーッッッ!!?」」」
あまりにもショッキングな映像を突如として見せられ、男女問わず悲鳴を上げながら頭を抱えたり、両手で顔を覆い目を遮るなど、阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる。
真っ白な雪の上にシロップのように飛び散った赤い血と、雑に切り落とされた手足から覗く傷口が心の弱い者の精神を蝕み、聞き慣れたスバルの悲鳴は、ただ見ていることしかできない自分たちの罪悪感を強く刺激した。
逆に、嗜虐心の強いカルマ値マイナスのメンバーは、この惨状に三日月のような笑みを浮かべていた。
「ふむ、もしやこれですか?バニル先生の言っていたトラウマとは、あの兎に生きたまま踊り食いされることであると?」
「半分正解で半分不正解だな。まあ、この続きを見ていればすぐに分かるとも」
スバルの悲惨な姿に悲鳴を上げる者たちを眺めながら、冷静さを微塵も崩さないデミウルゴスがバニルに問いかける。それに対してバニルは曖昧な答えを返しつつ、さらなる悲劇を暗示するのだった。
そして、少しの沈黙の後、新たな音が響き、スバルが捕食者に狙われた恐怖で漏らす途切れ途切れの短い悲鳴が鼓膜を震わせた。
気付けばスバルの周囲には大量の兎が囲んでおり、もはや数えるのが億劫になるほどの群れが一斉にスバルに白い濁流のように襲い掛かる。
『あああがぎがぁぁぁ──ー!!──ぎぃっ、ぎぃやあああッ!!』
兎たちが我先にとスバルの肉を貪り食う光景は、どんなスプラッター映画よりも残酷でグロテスクだった。これには、戦場を経験したターニャでさえ、思わず「うっ」と胸の奥から込み上げるものがあったが、それ以上に異様な様子を見せる者たちがいた。
「「「「「あっ、ああぁぁ、うわあああぁぁぁぁ!??!!?」」」」」
アクア、カズマ、グランツ、ノイマン、ケーニッヒの5人が、まるで発狂したかのように叫び声を上げた。
突然の騒ぎに周囲が驚く中、デミウルゴスは彼ら5人の共通点を思い返し、ようやくバニルが語った半分正しく半分間違った答えの意味を理解した。
「なるほど、バニル先生が言っていた不良生徒らとは、以前に生徒指導送りとなったメンバーの事ですか。そして、彼らは恐怖公の指導を受けた経験……すなわち、群がられる光景にトラウマがあるということですね」
「フハハハハハ!見事正解だ!!う~む、この部屋中に溢れる恐怖と絶望による悪感情!我輩の好みではないが、実に美味であるな」
デミウルゴスとバニルの会話を聞き、カズマたちが発狂した理由に納得する者もいれば、同時に恐怖公の名を聞いて顔を青ざめる者もいた。もちろん後者はアルベド、シャルティア、そしてアウラだ。本当に、本当に!この部屋に恐怖公が転移してこなくてよかったという安堵が、彼女たちの表情にはっきりと浮かんでいた。
「いやはや、この部屋に我々を呼んだ者は、こういうのも加味して恐怖公先生を招かなかったのでしょうね」
「うむ、まあ、そうだな。今のカズマたちを見れば、その通りなのだろうな」
パンドラズ・アクターは、発狂する5人と青ざめるアルベドたちを見ながら、恐怖公がこの場に呼ばれなかった理由を改めて理解した。
そしてアインズは、自分の部下がカズマたちに一体どんな拷問じみた指導を行ったのかと、申し訳なさと罪悪感で言葉を詰まらせる。
兎の鳴き声と肉を喰らう咀嚼音、その中に混じるスバルの悲鳴と痛みに喘ぐ嗚咽、更には発狂者たちの叫び声が響くこの部屋はまさに地獄絵図といえた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう盗みなんてしません。だからもう黒い悪魔の群れはもう……」
「すみません。許してください。反省してますから、もう体を這い回ってこないで、穴から入ってこようとしないで……」
「カズマ!アクア!しっかりしてください!!」
「お前たち、もう生徒指導はとっくの前に終わったんだ。正気に戻れ!」
ぶつぶつと遠い目をしながら謝罪を繰り返すカズマとアクアに声をかけ続けるめぐみんとダクネス。
相当なトラウマになっているのであろう。2人が声をかけても一切の反応を返さず、ずっと似たような謝罪の言葉を繰り返すだけだ。
「「「カサカサが聞こえてくる。来るな!来るな!来るな!」」」
「3人共、しっかりしてください。カサカサなんて聞こえてませんし、周囲にも何もいません。正気に戻ってください」
「ふむ、この3人がここまで正気を失うとは。我々帝国の新たな拷問に取り入れてみるのも一興か?」
「やめてください。絶対管理する人間がいませんから!」
幻聴や幻覚でも見えているのか、耳を塞いだり何かを振り払おうと腕を振り回しているグランツ、ケーニッヒ、ノイマンの3人。そんな支離滅裂な様子にヴィーシャが対応する一方、ターニャは学園の生徒指導に帝国の拷問を導入するという物騒な発言をするが、ヴァイスが必死にやめてくれと懇願する。
ちなみに、その会話を少し離れた席で聞いていたレルゲン先生は、「よくぞ止めてくれた」と心の中でヴァイスの評価を上げていた。
「あっちもこっちも酷いな」
「カズマさんたちは自業自得な気もしますけれど。それよりもスバルさんが食べられる様子を見てフィーロが……」
「ひっぐ!えっぐ!うさぎさん怖い!!」
あんなもの精神が未熟な幼女に見せるようなものではない。恐怖で泣き出したフィーロを、尚文が優しく頭を撫でてなだめる。
しばらく撫でると泣き止みはしたが、体が震えてる様子からして、小さい生き物がトラウマになっていないか心配だ。
「うひひひぃ!いや~、スバルも大変ッスね。色んな死に方してたみたいっスけど、生きたままバクバクされるだなんて!」
「私もぉ、見ててお腹すいてきそうになったぁ!」
「もう、不謹慎よ、ルプーにエントマ。でも確かに、あの男の恐怖と痛みによる悲鳴はいつまでも聞いていられそうね」
愉快そうに笑うルプスレギナ、お腹を押さえているエントマ。そして、うっとりした表情で耳に残るスバルの悲鳴を味わうソリュシャン。
だが、その悲鳴はもう聞こえない。自らの血で真っ赤に染まった視界に映る兎の牙を最後に、スバルは息絶えた。
やがてスクリーンの映像は暗転し、死に戻りが発動する。
「はぁ、はぁ、はぁ……、終わったのか?」
「あんのクソ悪魔!こうなるって分かってて中途半端に教えたわね!!」
死に戻りが発動して、スバルに群がっていた兎の姿がスクリーンから消え、カズマはようやく発狂状態から落ち着きを取り戻した。アクアは涙目で、中途半端な忠告で怖がらせたバニルを睨みつけつつゴッドブローの構えを取るが、即座にめぐみんとダクネスに止められた。
「アクア、落ち着いてください。気持ちは分かりますが、ここで暴力はいけません!」
「アレは流石の私も体験したいとは思えない酷さだったが、バニルの奴は忠告しただけで、元凶というわけではないだろう……」
バニルに殴りかかろうとするアクアの腕を押さえつつ、必死に説得を試みるめぐみんとダクネス。さしものドMクルセイダーでも、小動物に全身を食い殺されるのはNGというわけか。
しかし、学園生活で暇を持て余し、最近ますます腹筋の割れてきたダクネスならば、魔獣だろうとあの程度の兎には群がられるだけで食い殺されはしないんじゃないかと思った者が何人かいたことは、ここだけの秘密だ。
ようやくアクアの怒りも落ち着いた頃、グランツたちも発狂状態から正気に戻り、ゲッソリとした顔で席の背もたれに身を預けるが、どうにもスバルの死に際が脳裏に焼き付いていた。
「ウエッ、あんな死に方、絶対にごめんだ……」
「ああ、恐怖公先生の生徒指導の時は群がられるだけで食われはしなかったが、もしあのG共に食われたりなんかしたら……」
「ウウッ……。やめてくれ、ようやく落ち着いた気分がまた気持ち悪くなってくる」
ノイマンはケーニッヒの言葉に嫌な想像をしてしまい、オエーっと思わず吐き気を感じた。
そして、あれほど酷かったスバルの様子を見てしまったことで、3人は心の中でもう二度と例の赤いやつを盗み出すまいと固く誓い、深く反省したのだった。
「しかし、あの魔獣。数こそ脅威でしょうが、それ以外は特筆すべき危険性はなさそうですね」
「だね。あれならスピアニードルの幼獣の方がよっぽど強いだろうね。まあ、スバルが弱すぎてまだ全然本気を出しちゃいないってなら、もう少し警戒した方がいいかもだけどね」
未だ周りが先程の魔獣によるスバルの踊り食いに騒いでいるなかで、デミウルゴスとアウラは今の魔獣の脅威度を判断しかねていた。
どちらも生粋の強者ゆえ、単純な数の力など脅威ではない。たとえ先ほどの魔獣が万を超える数で襲いかかってきても、単独で殲滅できる自信があったのだ。
それはデミウルゴスとアウラに限らず、ナザリックの者たち全員に共通しており、仮に万が一が起こり得そうなプレアデスであったとしても、不可視化や飛行能力で容易に切り抜けられるだろう。
なんなら、あの魔獣を口実にシャルティアがアインズをお守りしますと宣言したせいで、隣で聞いていたアルベドが激怒し、再びの口論が勃発。しかし、ため息をついたアインズによる「私のスキルである上位物理無効ならあの程度どうとでもなる」の一言で、どっちがお守りするか問題をあっさり片付けられた。
どうにか守護者同士の喧嘩にならずに済んだのを確認し、いつでも止められるよう構えていた苦労人たちは、アインズたちからスクリーンへと視線を戻した。
「さて、今の死に方をして、ナツキスバルの精神がどうなるか。精々、カズマたちみたく発狂しない心の強さというものを見せて欲しいですね」
不敵な笑みを浮かべながら、未だ暗転したスクリーンを見つめるデミウルゴスは、若干の期待を込めて、スバルのメンタルが壊れないことを願った。
なんとかストックで毎日投稿できてはいるけれど、そろそろヤバイかな。
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
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