いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
スバル君の場合、下手に悲しまれたり、今後の関係に影響出そうなぐらい同情されるぐらいなら、いっそルプスレギナみたいに笑ってもらえたほうが気が楽そうやなって思う。
ただし、仲間を侮辱されるのは好感度大幅マイナスになるので注意。彼の好感度=今後の自分のライフポイントと言っても過言ではないからね。
意識があるまま、全身に無数の牙が突き立ち、肉を貪り喰われる。それはどんな拷問よりも心を削り取る地獄だろう。
もし死が終わりであるならば、それは救いかもしれない。スバルの場合、死が終わりではなくやり直しだというのなら、彼への慈悲は一体どこにあるのだろうか。
『──うっ、ふぅはぁ、────ッ!?』
吹き飛んだ手があるかを確かめ、顔に肉がちゃんとあるのか確認し、頭の中に焼き付いたトラウマを忘れようと必死に床へ頭を叩きつけて痛みで消そうとするが、それはまったく消える気配がなかった。
最初はゆっくりだった勢いが、次第に強まり、ついには額が割れて血が流れるまでになった。
「お……おい、スバル!?もうやめとけよ」
「こんな風になっちゃうくらい、食べられるって怖いの!?」
このままではまた自傷行為によって死に戻りしてしまうのではないかと心配したカズマが無意識に注意するが、スクリーンの向こう側にいるスバルには届かない。
そして、アクアは涙目になりながら震えており、今後もし学園生活で恐怖公とすれ違えばその場で泣いてしまうかもしれないぐらい、トラウマがより深く刻まれてしまった。
「ふむ、期待はしていましたが、やはりこうなりましたか。いやしかし、こうして見ると、恐怖公を御創りになられた至高の御方は素晴らしい。小さき存在が群れを成して我が身を喰らいつくす恐怖は死してなお拭い去れぬ絶望というわけですか」
発狂寸前のスバルを見て落胆しかけるデミウルゴスだが、あの恐怖は至高の存在が生み出したNPCである恐怖公が与えるものと同じだと思い至り、やはり至高の御方々は素晴らしい存在であるという結論に達した。
このままスバルが発狂して自ら命を絶つのではないかと、一部のメンバーを除く者らが心配していると、聞き覚えのある声が響いてきた。
『──再び、君は資格を得た。招こう。──魔女の茶会に』
空間が歪み、視界が薄暗い墓所の内部から、澄んだ青空が広がる空間へと切り替わった。
『茶会に二度同じ客人を招くことは珍しい。誇ってもいいよ?』
『──気持ち悪いくらい平然としてるな、俺?どういうことだ?』
『前に飲んだお茶のおかげさ。それで君の怠惰の魔女因子に働きかけ安定を促した。でなければ、君の心は砕け散っていたからね。さあ、君の感謝の言葉を聞こうじゃないか』
耳に手を当てて感謝を求める彼女の態度は、強欲というよりむしろ普通だという印象がまず浮かんでくる。
最初に強欲の魔女と名乗った時の警戒心は、スバルだけでなくカズマたちやアインズもすでにだいぶ失っていた。ただし、ターニャや尚文のように猜疑心の強い者たちは、これもまた人を欺くための仮面だと警戒を続けている。
「しかし、精神の安定か……。魔女因子とやらを利用しているとはいえ、精神干渉は危険性が目立つな」
「上手く扱えば洗脳すら可能だからな。魅力的ではあるが、同時に恐ろしいものだ」
先程まで発狂寸前だったスバルの精神が急速に落ち着いたことに対し、尚文とターニャは素直に喜べず、エキドナがどんな意図でスバルを助けたのか分からず複雑な表情を浮かべていた。
一方で、2人の右腕的存在であるラフタリアとヴィーシャは、生来の善良さゆえに、額を割るほど地面に頭を打ち付ける発狂じみた行動を繰り返していたスバルを助けてくれたエキドナを、それほど強く疑う気にはなれなかった。
ただし、それは全く疑っていないというわけではない。彼女らも戦場に身を置く者として、根拠のない信用は決してしなかった。
「どうかせめて、スバルさんが苦しまない道を歩みますように……」
「主よ、どうか我らがよき隣人に救いの手を……」
目を閉じ、存在するかどうかもわからない神へ祈りを捧げる2人の様子に、さっきまでガクブル震えていた自称女神であるアクアがしゃしゃり出ようとしたが、カズマのツッコミという名の見事なファインプレーでなんとか未遂に終わった。
「ふ~む、
「ですね、魔女因子……それは一体どのようなものなのか?単純に能力を付与するだけの力とは思えませんし、ナザリックの強化に役立つなら、ぜひスバル君から回収するか観察してみたいところです。ん~!可能性がどんどん広がりますねぇ~!」
ナザリックの知恵者デミウルゴスとパンドラズ・アクターは、スバルの内に秘められた魔女因子に別の視点から興味を抱いていた。特にパンドラズ・アクターは、その魔女因子という異世界の未知なる存在を活用して、新たなマジックアイテムを作り出せないかと胸を高鳴らせていた。
そうして、スバルへの祈りやら魔女因子の利用価値なんかを測っていると、スバルはエキドナとの話を進めていた。
『エキドナ。制約を書き換える方法はないのか?外に出るとお前のことを忘れっちまうっていう制約だよ。それがある限り、俺の心はぶっ壊れかねない』
『それはそうだけど……』
『それに、俺の心だけの問題じゃない。そうじゃなくても、お前を覚えていたい』
『──え』
『対価が必要なら他になんでも払ってやる。その代わり──お前は俺の記憶に隠れるな』
『は、はい』
顔を近づけ、恥ずかし気の欠片もなく真っ直ぐに瞳を見つめて迫るスバルは、まるで乙女ゲーに登場する無自覚イケメンキャラの行動と表現するのが一番しっくりくるだろう。さらに、その後に手を握るといったスキンシップまで加わり、天然無自覚タラシぶりに一部のメンバーは「キャー!」と黄色い声を上げ、逆に「ケッ!」と嫉妬を隠しきれない声を漏らす者もいた。
「ちっ!はぁ~、こっちが気をもんで見ているというのに、目的も意図もわからない相手に“対価はなんでも”なんて軽々しく約束するとはな。しかもなんだ、その後のやり取りは!?エミリアといい、レムといい、ペトラといい!!貴様はギャルゲーの主人公か!?」
「ただまあ、同じギャルゲーの主人公っぽい奴でも、スバルの方が100倍マシに見える馬鹿は世の中に存在するからな。俺としてはターニャほどストレスは感じはしないな……」
身内の女性に対して盲信に近い信頼を寄せる、まるで道化のような槍の勇者と比べつつ、尚文は眉間のシワを揉みほぐしながら、怒りと呆れをにじませるターニャに向けて、精一杯のフォローらしき言葉をかけた。
ただ、その直後にエキドナの体液であるドナ茶を一気に飲み干し、指摘されて慌てて吐き出すというマヌケっぷりから、道化という意味ではあいつと大差ないなとスバルの評価は少し下がった。
『──ん?』
『なんだい、まだなにか?』
『茶化すな。お前、どこまで俺の事情を知ってるんだ』
『知っているなら知っている限りのことを。知りたいことなら、この世の全てを知りたいと思っているね』
「ほぉ、気が付きましたか。先の兎の件もあって、そのまま気付かずに茶会が終わるのではないかと思いましたよ」
「ん?ねえ、デミウルゴス。それってどういうこと?」
「まあ、それは私の口からではなく、彼の口から説明してくれるでしょう」
先ほどとは違う意味で真剣な表情を浮かべるスバルを見て、デミウルゴスは彼がエキドナの違和感に気づいたことに感心して声を上げる。するとアウラが、それがどういう意味なのかと疑問を投げかけた。
それに対して答えることはせず、デミウルゴスはスバルが説明をするのを待つようにスクリーンを見つめ続けた。
『お前が妙に思わないはずがないんだよ。お前にとっては、俺とは前の茶会で別れたばっかのはずだろう。妙に思わないとしたら、それは──』
『それは?』
『それは、お前がこうなった原因を知っている場合だけだ』
スバルの死に戻りの秘密は、スバルだけが知っている。いや、むしろ知ってはいけないと言えるだろう。過去に白鯨と魔女教の襲撃で心が折れ、その秘密を漏らしてしまった結果、エミリアは命を落とした。それが今もトラウマとして残っているのだろう。スバルの脳裏には、あの時の自らの過ちが鮮明によみがえる。
「なるほどね、デミウルゴスが言いたかったのはエキドナがスバルの死に戻りについて把握しているかどうかってことだったんだね」
「ええ、もし彼女がそれをペナルティなしで知り得たのであれば、この部屋で強制的に知った我々も、そのやり方をうまく使えば、万が一部屋を出たときに魔女のペナルティが発生しても対応できるでしょうからね」
確かにそれはあのシーンを見てから、みんなが気になっていたことだ。スバルの死に戻りを知っても魔女の手が現れないのは、この魔法が使えない部屋にいるからではないか?この部屋でスバルが学園に来るまでの人生を見終え、外に出た瞬間にあのペナルティが襲いかかってくる可能性もある。そんな不安は心の隅にあった。
「さあ、見届けましょうか。今後の展開を」
未だにためらって口を開けないスバルの背を押すエキドナを眺めながら、デミウルゴスは目を細めて楽しげに呟いた。
『──エキドナ。俺は、死に戻りをしている』
崖から飛び降りるような覚悟で、ずっと1人で抱えてきた秘密を打ち明ける。
その結果、心臓を撫でられるような恐怖や不快感もなく、時が止まったかのような現象も起きない。
『ふむ……、そんなにじろじろと見られるのは恥ずかしいな』
『俺は……俺は、死んだら時間を遡って、世界をやり直してる。死に戻りをしてるんだ』
『聞いたよ。そして、聞く前に見てもいた』
『俺は!死に戻りを!死に戻り!死に戻り!死に戻り!!』
『ちょ、ちょっと!?落ち着きなよ。君の気持ちはわかるけど……』
『俺は死に戻りしてたんだ!!何度も、何度も死んでやり直して!俺は死に戻りを!』
堰を切ったように死に戻りを連呼するスバルの姿に、デミウルゴスに言われて魔女からのペナルティ回避しようと見ていた者たちの涙腺が刺激される。
カズマなんて、ついさっきスバルの無自覚な天然タラシぶりに舌打ちした直後にこれなものだから、下唇を噛みしめ、嗚咽を上げまいとしないながらも涙をボロボロとこぼしていた。
『俺は……!死に戻りして、何度もやり直してたんだ……ッ。俺は……、ずっと……ッ、ずっとこっちに来てから、ずっとず~っと、誰にも言えず何度も、何度も独りで、ずっと独りで俺は、俺はぁ……ッ!』
まるで迷子の子供が母親を見つけたかのように泣きじゃくる姿に……。
あの異世界に飛ばされて孤独に歩んできた死に戻りという名の数々の地獄の光景に、多くの者が陥落した。
「そう、か……。あの過酷すぎる異世界を耐えれていたわけじゃない。ただ耐えるしかなかったというわけか。もし、もしもあの時、私がお前の心臓に宿る魔女なるもの力にもっと踏み込んで触れていれば、お前は涙を……弱さを私に見せてくれたのだろうか?」
クラスの委員会前にあったスバルの心臓に触れたあの日の出来事を思い出しながら、アインズは当時の自分がもっとスバルの心に踏み込むきっかけを探せなかったことを、大人として少しだけ悔やんでいた。
だが、それ以上に、未知なる危険のものに手を出さない。そんなリアリストな一面があれでよかったのだと、心の中で複雑な感情に蓋をした。
『わかってる』
陽だまりの中、泣き崩れるスバルを優しく撫でるエキドナの姿は、まるで魔女とは正反対の聖母のようだった。
『君のこれまでの足跡を知っている。視たからね。だけど、視てきただけだ。だから、できるなら君の口から教えてほしい。君がこれまで何を思い、どう感じて、どれほど抱えてきたのか、それを知りたい。だって、ボクはこの世の全てを知りたいと欲する強欲の魔女、エキドナだからね』
そう言って微笑む彼女は、間違いなく誰よりもナツキ・スバルの理解者であった。
こっからデミウルゴスやターニャが考察する回が増えると思うと、俺の脳細胞が死にそうになる。
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
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