いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
ナツキスバルがエキドナに自身に起きたこれまでの出来事を語っている間、泣き崩れていた者たちもようやく涙が収まり、赤くなった目をこすった。
「あ~、この部屋に来てから泣きっぱなしな気がする」
「まあ、カズマがスバルに感情移入し過ぎなところもありますけれど、それを差し引いてもスバルの異世界での人生は過酷でしたものね」
自分たちも他の冒険者に比べれば相当過酷な冒険を乗り越えてきた自信はあったが、腹を裂かれることから始まり、裏切りや魔獣との戦い、果てには国を揺るがす白鯨&魔女教との対立まで経験してきた。
そこでもまだ終わらず、今度は聖域問題に加え、屋敷への襲撃や兎の魔獣に食い殺されるなど、一年どころか半年にも満たない短期間でこれほどの苦難に見舞われるなんて、改めて考えるとスバルの異世界での生活はまさに地獄そのものだと、めぐみんは実感していた。
「ってか、なんでお前らは俺よりもずっと平気そうなんだよ?」
「そりゃ、カズマに比べたら平気ですよ。だって……ねえ……」
「そうよねえ、カズマさんは死んだらすぐエリスのところに行くから知らないでしょうけど、私たちアンタが死んでグロイ死体になったのを何度も見てるんだから」
「ああ、こう言ってはなんだが、私もアクアもめぐみんも、他人の死に対して慣れたのはほとんどお前の死体を見続けたおかげだからな」
なるほどと納得する。これまで、あのクソッタレな異世界で冬将軍に首をはねられたり、リザードランナーのせいで木から落ちて首の骨を折ったり、魔王軍幹部に溶かされたりと、俺もスバルに負けないくらいグロい死に方をしてきたなと思い出す。
「あれ?思い返してみると、俺の異世界ライフもエグいな……」
本当に、吐くほどの鬱展開がなかったり、サキュバスサービスが多少の帳消しにしてくれてるだけで、俺の異世界生活って過酷なんだと改めて実感する。
例の赤いやつ……は、無理だけど、この世界で酒を見つけたらスバルと一緒に飲もうと思うのだった。
そんなカズマたちの物騒な会話を聞いてグランツたちが戦慄する。
「スバルもだけど、カズマも元の世界で死にまくってるのか。っていうか、アインズも骨ってことを考えれば、可愛い女性に囲まれる条件っていうのは、死ぬことなのか?」
「それなら、世のイケメン共は全員死んで生き返ったゾンビってことになるぞ」
「だな」
前々から見た目よしの女性に囲まれて学園生活を謳歌している2人にちょっとばかしの憧れや嫉妬を燃やしていたグランツが変なことを言い出す始末。
それに対して、呆れてケーニッヒとノイマンは否定するが、実は心のどこかで同じことを思っていたりする。
「う〜ん、グランツ中尉の言う通りだったとしても、私だったら異性にモテたいってだけで、スバルさんと同じ道は選べませんね」
「まあ、確かにな。奴の異世界での歩みは、我々の戦場とはまた違った意味での地獄だったからな。戦場を生業とする帝国兵である私から見ても、あのような人生は歩みたくはないな」
「ですね。お腹を裂かれたり、頭を潰されたり、氷漬けにされたり、生きたまま兎に食い殺されるなんて……。考えただけでゾッとします」
ヴィーシャがスバルの数ある死因の中でも特に印象的なものを指折り数えて挙げていく。それを隣で聞いていたターニャやグランツたちも、苦々しい表情を浮かべながら頷いていた。
そんな中、少し離れた席でそれを耳にしていたルプスレギナは、声こそ出さないものの、あの地獄をもう一度繰り返して見てみたいとでも言うような残虐な笑みを浮かべていた。
「くひひひ、確かに自分じゃ経験はしたくはないッスけど、人間がそれで苦しむ様は何度でも見たいんすよね~」
スバルのこれまでの悲劇を思い出し、思わず涎が垂れそうなほど興奮するルプスレギナ。
そしてそのわずか2秒後、無言でユリに頭をはたかれるのも当然の成り行きだった。
『──ひどいな』
スバルが今に至るまでのこれまでを聞き終えたエキドナが初めに発した言葉がそれだった。
『今のは君の行いにではないよ。ただ君にそれだけの苦難を歩ませた存在に、耐え難い怒りを覚えただけだ』
その怒りは、これまでのスバルを見守ってきたカズマたちや尚文たち、ターニャたち、そして一部のアインズらが抱いたものだった。
「まったくよ!チートを寄越すにしても、もっと強くて役に立つものを上げなさいよ!!」
「ああ、そうだ。傷を癒したり、生き返らせることはできても、基本迷惑な厄介事や借金なんかを作って持ってくる残念女神みたいなもんを寄越しやがって!!」
「ねえ、ちょっと待って。いま私のこと、残念女神だとか、スバルの死に戻りと同じ扱いしてなかった?謝って!私を残念女神とかあんな死に戻りなんていう酷いチートと同列扱いしたことを謝って!!」
いつもの軽口に少しだけ本音を混ぜたカズマの言葉に、アクアが噛みついて激怒する。部屋中に響き渡るアクアの抗議の声を、うるさいとカズマが頬を鷲掴みにして強引に黙らせた。
そんないつもの光景に、部屋中に漂っていた怒気が下がっていく。
「いやはや、カズマ君とアクア君の夫婦漫才は相も変わらず、場の雰囲気を賑わせますね」
「だな。まあ、あの2人は夫婦漫才と聞けば否定しそうだがな」
いまだ留飲の冷めないアクアがアルベドの鋭い睨みに押されて大人しくしている様子を眺めつつ、パンドラズ・アクターとアインズはどこか微笑ましげに苦笑を漏らした。
そして、スバルの死に戻りの力がエキドナの口によって嫉妬の魔女の力であると確定された。
これまでの出来事や、人々から聞いた話を照らし合わせれば容易に想像がついたものであるが、いざ面と向かって肯定されれば、なぜ自分がという疑問がわいてくる。
『これまで散々魔女の話はされたからな。なんで俺にご執心なのかは全然わからねぇけど』
『あれの精神性を理解することなんて、誰にも出来ないさ。できたとしても、ボクは願い下げだ』
『なあ、死に戻りには回数制限があると思うか?』
それは誰もが気になっていた疑問だった。死んでもやり直せるこの力は、スバルの精神面を無視している点を除けば、ほとんどデメリットがない。もしこれがゲームなら、この能力には残機という概念が欠かせないだろう。これまでの死に戻りで残機がいくつ残っているのかによって、スバルの行動方針は大きく変わるはずだ。
『なるほど、当然行き着く疑問だね。あくまで推測に過ぎないと前置くけれど、──おそらく、ない』
その肯定はわかっていたとしても、やはり少なからず衝撃はあった。ゲームならまだしも、現実で無限にやり直せるなんて、どうにも信じがたい。やり直しこそできなくても、何度も死者を蘇らせる奇跡を起こせるアクアですら、その事実には目を見開いている。
そして、現実主義で知恵者な者たちは、その能力の強大さにより強く惹かれる一方で、その力の源である嫉妬の魔女に対して更なる脅威を感じていた。
『業腹だが、君を死に戻りさせる権能は魔女の妄執だ。それが続く限り、君の死には終わりがない』
『これは何の為の力だと思う?』
『君を死なせない為の力だ。運命をやり直し、君に過ちを許さない力だよ』
『そんなはずねえよ。だって俺は……、レムを取り戻せなかった……。運命をやり直させるなら、なんで取り返しのつかない場所に?』
『あれは、その少女のことを運命に考慮していない』
『はぁ?』
『望むのは君が死という運命の袋小路に囚われないことだ。その力で誰かを救おうと奔走してきたのは、あくまで君自身だ。この先、君は無限の挑戦によって運命を打開する。だけど、仮に君が多くの犠牲を許容して運命を変えることがあれば──』
『その犠牲になったものを取り戻すチャンスは、巡ってこない』
『そういうことになるね』
その事実に、部屋中に「ちっ!」という大きな舌打ちが響いた。
誰だと思い音のした方へ視線を向けると、そこには忌々しげに顔を歪めたアルベドがいた。だが、それも一瞬で、まるで見間違いだったかのようにいつもの表情へと戻っていた。
そのあまりにも急な態度の変化に、思わずツッコミを入れたくなる者もいたが、今のアルベドに余計な茶々を入れられる勇気のある者はいなかった。
そうして重苦しい空気になりながらも、黙って上映に集中していると、頬を伝う汗が落ちたスバルが顔を上げた。
『……いいぜ。お前が俺を、俺だけを贔屓にするってんなら、腹はもう決まった。お前が俺にくれた死に戻りって恩恵。使い倒してやるよ』
拳を強く握りしめ、見開いた目からは覚悟が見て取れた。
『ああ、決めた。決まった!俺は他人の思惑を裏切らせたら、天下一品なんだぜ!』
「随分と恐ろしい言葉だね」
「ええ、そうね。ナツキスバルは賢者ではない。さりとて、愚者と呼ぶにはあまりにも知恵の回る人間だわ。死に戻りの能力と合わせれば、もっとも敵対したくない相手ね」
かつての王国での失態を思い返し、傀儡として操ろうとしたものの想像以上に想像以下な愚者フィリップ・ディドン・リイル・モチャラスを脳裏に浮かべながら、デミウルゴスとアルベドは学園へ戻った際のナツキ・スバルへの対応策を次々と頭の中で練っていた。
もちろん、最優先としてはアインズの命じた「皆仲良く」という前提である。それでも今頭の中で考えられた案の中には、口にするのもおぞましいものも含まれていたが、それを実行に移すつもりはないだろう。
『……随分と簡単に立ち直るもんなんだね』
『簡単じゃねえよ。これまで通りだったら、折れた心を必死にテープで止めてたかもしんねえ。だけど今は……』
何か言いかけたスバルは言葉に詰まり、エキドナの顔からすっと視線を逸らした。
その時点で、スバルが何を言いたかったのか、鈍感でないものはすぐに気が付いた。
「まったく、これだから男子というのは。お礼の言葉ぐらいスッと言えばいいのに」
「まあ、そう責めないでやりたまえ、セレブリャコーフ中尉。あれだけ泣き喚いた醜態を見せた相手に、素直に礼なんて言えるものではないのだよ。男というのは、見栄っ張りな生き物なんだからな」
「はぁ?そういうものなんですか?」
「そういうものだ」
いまひとつ理解していない様子ではあったが、ターニャがそう言うのならそうなのだろうと、セレブリャコーフはひとまず頷いた。
ちなみに、その会話を聞いていたアインズ、カズマ、尚文の3人は、幼女が年上の女性に男について語るという光景にシュールさを感じていた。
ただ、ターニャの中身が元おっさんであると知っているアインズとカズマはまだ我慢できていたが、尚文は「異世界のガキはマセているな」というどこかズレた感想を抱いていた。
ターニャ同様に、スバルの心情を分かったうえで、図々しくお礼の言葉を求めるエキドナに対し、スバルは礼を述べつつも肝心な部分はかわす。そんなスバルに意地悪な言葉を投げかけるエキドナに、照れながらもスバルは無理やり話題を変える。
『うるせぇ!やたらとお礼を欲してくるな。前回みたく、何が聞きたいって欲してこいよ!お前にしか頼めない対価ならなんだって払ってやる』
頭を下げて協力を求めるスバルに対して、エキドナはため息を吐いてその要求に応じる。
「やっぱしアイツ、異世界主人公って気がするわ」
「プ~クスクス!そうね、カズマさんなら小狡い手を使って言うこと聞かそうとするものね。その点、スバルはちゃんとお願い出来る人間ですし、その辺が人間性の違いってやつね」
「この野郎~!お前なんか素直にお願いしても聞きゃしねぇじゃねえか。シュワシュワでも奢らなきゃ動かないくせに偉そうなこと言うな!」
「……はあ、お互い様でしょう。まったく、恥ずかしいからそろそろやめてくださいね」
「そうだぞ、2人とも。これを機にちゃんと反省しろ」
カズマとアクアの言い争いに呆れながら止めるめぐみんとダクネス。周囲の皆も同じような顔を2人に向けていたが、その騒ぎの中でアインズは、カズマの言葉通りスバルがまさに異世界ものの主人公らしいと心の中で納得していた。
「(俺もスバルが異世界ファンタジー系の主人公っぽいとは思うんだよな。強さこそないけど、いざという時の土壇場や、仲間を増やしていくコミュニケーション能力とか、あれで前の世界で引き篭もりとか嘘だろって思うシーンがあるもん)」
そんな風に考えながらスクリーンに視線を戻すアインズ。
『分からないことだらけだ。中でもとびきりなのが、一番最後……。俺を……喰い殺したヤツだ。手のひらサイズの兎だった』
『ああ、大兎のことだね』
『大兎?』
この瞬間、あの残酷な光景を生み出した兎の話題が出ると、カズマとアクアは口をつぐみ、他の者たちも不安げな表情を浮かべながら、エキドナの言葉に静かに耳を傾けた。
『大きいではなく、多いだよ。三大魔獣のうちの一体さ』
『三大魔獣?』
『白鯨に黒蛇、それから大兎。四百年前に暴食の魔女であるダフネによって産み落とされた。今もなお災いとして残る負の遺産さ』
『勘弁してくれよ。白鯨ならこないだ釣り上げたばっかだぞ』
『悪い話はまだ続く。単純な戦闘力で比較すれば、白鯨がはるかに勝る。けれど、討伐の難しさでいえば、圧倒的に大兎だ』
白鯨以上の難敵と聞いたとき、スクリーン越しで見たとはいえ、あの巨体に加えて飛行能力や消滅の力、さらには切り札として分身まで使えるなんて、生物が持つにはあまりにも凶悪すぎる能力で、白鯨以上など絶望以外の何物でもなかった
『大兎にとって他の生物はすべて餌だ。飢えを満たすこと以外の欲求は何一つ持たず、あとには無人の野しか残らない』
『無人の野って、まさか……あれを全部!?』
不自然なほど人の気配なかった理由に気づいた途端、安定していたはずのスバルの精神がまた揺らぎ、胃の奥から込み上げる衝動に襲われた。
そしてそれは、この会話を部屋で聞いていた者たちも同じで、アーラム村の人々やエミリア、ロズワール、聖域に元々いた人々も、あのように大兎に食われたのだと想像して、空っぽのはずの胃が込み上げる感覚に耐えられず、スクリーンから目を逸らし、床に視線を落として口元を押さえた。
「なるほど、ただの魔獣ではなかったか。大兎……三大魔獣の一角で、白鯨に並ぶ厄災というわけか」
隣の方で精神的に未熟なグランツが吐き気と格闘する中、ターニャは「想像だけでこうなるとは」と軟弱な帝国兵に向けて、今後の訓練に精神力を鍛えるメニューを加えることを考えつつ、大兎の情報について思いを巡らせ、自分の世界に没入していった。
『大兎の厄介さはその生存力にある。単体が無限に分裂して増える特性があるんだ』
『無限って、アメーバかよ』
『仮に滅ぼすのであれば、すべての大兎を一纏めに葬るしかない。それは降りしきる雨粒を残らず蒸発させる行いに等しい』
なるほど、確かにそう聞けば白鯨よりも厄介な存在だろう。
無限に増え続けるという特性がある以上、一匹でも残してしまえば全ての努力が水の泡となる。
「ふっふっふ!降りしきる雨粒を残らず蒸発ですか。確かに、普通ならば容易なことではないでしょう。ですが!こんな時こそ、この私の最強魔法である爆裂魔法の出番ではないですか!!」
「やめておけ。あの長ったらしい詠唱をどうにかせねば、魔法が放てない距離まで近づかれて、スバルの二の舞いになるぞ」
「ぐっ、それは……」
自信満々に名乗りを上げためぐみんだったが、ターニャからいつも指摘される詠唱の長さを突かれ、言葉を失ってしまう。
普段なら「それこそがロマンです!」とか「カッコよさが優先!」などと軽口を返すところだが、スバルの死に様を目にしてしまえば、さすがにそんな反論は言えなかった。
「で、でしたら!ターニャは大兎に対して、私の爆裂魔法以外にどうにかできるのですか!?」
「私か?そうだな。大兎の群れの規模がどれほどか把握できていない現状では軽々しくは言えんが、もし飛行能力がないのであれば、まずは私が空から奇襲して空間爆撃術式で群れの大半を叩き、その後に我が隊による爆裂術式での完全駆除といったところだろうか」
「なっ!?」
予想以上に殺意に満ちた返答に、めぐみんは言葉を失った。
しかも、それが可能であると言わんばかりに、ヴィーシャ並びに先程まで吐き気と戦っていたグランツ、そしてヴァイス、ケーニッヒ、ノイマンが席を立って敬礼ポーズで同意している。
つまり彼らにとっては冗談や机上の空論ではなく、実現可能な作戦ということなのだろう。
「ふふふ、随分と頼もしいじゃないか」
「ああ、これならば、あの兎の群れがこの学園、並びに帝国に襲来しようとも、第二〇三航空魔導大隊に任せておけば心配はいらんな」
不敵な笑みでゼートゥーア副校長が笑うと、ルーデルドルフ校長もまた満足気に頷く。
そんな中で、レルゲン先生は世界を脅かす厄災に僅か6名で殲滅出来ると口にするターニャに口元をひくつかせ、その戦闘力に絶句する。
「ま……まあ、ターニャのところは飛べますし!私の爆裂魔法には及びませんが、それなりに近い魔法を撃てるので倒せるでしょう。しかし、他の──」
「ん?」
他の人は無理と言おうとしたところで、アインズの顔を見てめぐみんの動きが止まる。
それに対してアインズは暫し考えて、自分にも大兎殲滅は出来るという結論に至る。
「私の持つ魔法の中に広範囲を殲滅できる範囲即死魔法の黒き豊穣への貢というものがある。それを使用すれば、大兎の群れをすべて即死させられるだろう。もし仮に魔法の範囲外にまで大兎の群れが広がっていたとしても、即死させた数に応じて、黒い仔山羊を召喚できるし、増殖スピード次第かもしれんが、殲滅は可能だろうな」
「く……黒き豊穣への貢!?なんですか、その心くすぐるカッコいい魔法は!!特に、広範囲の即死魔法で倒すのに加えての召喚コンボとか、最高にイカすじゃないですか!!?」
目をキラキラさせて食いつくめぐみんだが、黒い仔山羊と聞いてアクアは眉間にしわを寄せる。
「黒い仔山羊って、絶対普通の山羊じゃないよね。即死させた数っていうからには、アンデッド?それとも悪魔?どっちにしても、そんなの召喚してみなさいよ。私の全力ゴッドブローでぶっ飛ばしてあげるんだから!」
「あ゛あぁん!?」
「お前如きがアインズ様が呼び出した存在をぶっ飛ばすだぁ!?」
シュッシュッとシャドーで威嚇するアクアに、アルベドとシャルティアも唸り声をあげて牽制し合っている。
不味いことを言ったかと後悔するアインズだったが、即座にカズマがアクアの頭をはたいて間に入った。そして、そのまま無理矢理アクアの頭を下げさせる。
「ちょっ!なにすんのよ、カズマ!?」
「この駄女神がぁ!うちのバカが変なこと言ってすみませんでした。ってか、めぐみん!お前もそろそろいい加減にしておけ!」
「──っはぁ!つい紅魔族の琴線に触れる魔法に我を失っていました。って、違います!そりゃ、アインズならあんな兎じゃ相手にならないでしょう!そうだ、尚文は!?」
まだこの話を続けるのかと思いながらも、現状でめぐみんなら詠唱さえどうにか間に合えば殲滅はできる。ターニャたちもあの大兎が白鯨みたく、翼がないのに空を飛べるわけじゃないのなら、群れの規模次第では殲滅は可能。アインズに至っては魔法1発で殲滅は余裕のようだ。
となれば、尚文もまた大兎を殲滅することが出来るのかは興味があるのか、カズマ含めて何人もが尚文に注目する。
「そんな期待の目を向けられても困る。俺は盾の勇者であって、そんなお前らみたいな馬鹿げた魔法は使えん。ただまあ、あの大兎とやらの攻撃力が俺の盾の防御力を突破しないってなら、勝ちはなくとも負けもないがな」
「やっぱし、盾の勇者なだけあって防御力はピカイチなんだな」
少しばかり盾ゆえの力不足からくる劣等感が刺激されたのか、素直に勝てないと言うだけでなく、負けないとも宣言すると、カズマは感心したように呟いた。
その反応に、尚文はわずかながらに溜飲が下がったのか、目を閉じて腕を組む。
とはいえ、攻撃力の無さというトラウマを刺激されたせいか、不機嫌そうにはしていたが為に、流石のめぐみんも空気を読んでこれ以上は騒ぎ立てたりはしなかった。
そして、各々が大兎の殲滅方法を語っている間に、その殲滅能力を持たないスバルへ、エキドナが解決の糸口となる提案を送った。
『本当に危険で、あまりススメたくはないが、暴食の魔女ダフネと話す機会を与えると、そう言ったら君はどうする?』
『え?魔女ってのはみんな死んでるはずだりろ……?』
『それなら、今ここで君と話すボクは?死した彼女らの魂は、ボクとともにこの夢の城にある。つまり……』
『ここに呼び出せるってのか……?』
『ボクの存在を依り代に貸せばね。その間、ボクと彼女らは文字通り入れ替る。だけどね、本当にオススメしないんだ』
スバルの死に戻りの力を知るエキドナが、何度も警告する暴食の魔女。その話を部屋で聞いている者たちは、息を呑んで見守っていた。なにせ、あの白鯨や無限に増える大兎を生み出した張本人だ。たとえ死んでいるとはいえ、その魔女と対面する危険性は言うまでもない。
「ここが分水嶺というわけだな」
「せめてエキドナみたいに話が通じる相手ならいいんだけど」
「ペテルギウスみたいな狂人ならアウトだろうな」
「だが、大兎の問題はどうにかしなくてはならない。まさに、火中の栗を拾うとはこのことだろうな」
ターニャ、カズマ、尚文、アインズがそれぞれ意見を交わす。
世界を脅かす3つの厄災。その原因である暴食の魔女ダフネとの対峙は避けられない道なのかもしれない。
それはスバルだけでなく、見ている者たちも共通の認識だった。
『ここは死と無縁の世界だけど、精神体に死を思わせる傷が入れば、肉体に戻っても心はひび割れたままだ』
『つまり廃人になるってことか。外よりよっぽどリスクでけぇじゃねーか』
『やめておくかい?』
『大兎の生みの親だろ。倒すヒントはそいつに聞くのが一番手っ取り早い』
「ふむ、精神崩壊による廃人化ですか。ナツキスバルの正しい殺し方とも言えますが、はてさてどうなりますかね?」
「スバルノ精神力デアレバ、ソウ容易クハ砕けケヌダロウガ、ココハ見守ルシカアルマイ」
暴食の魔女と対面する覚悟を固めたスバルに、デミウルゴスはニヤリと嗤い、これからの展開に胸を躍らせる。
そして、スバルの度胸と覚悟の強さを知ったコキュートスは、信頼しつつも警戒を解かず、その行く末を静かに見守っていた。
エキドナがスバルに注意事項と健闘を祈る告げると、光の粒となり眩い光を放って霧散していった。
きっと、これから暴食の魔女──そう呼ばれるにふさわしい邪悪な存在が現れる。誰もがそう思った。
『おー、やっと会えたな!』
『……は?』
「「「「は……?」」」」
まばゆい光が収まった先にいたのは、恐ろしい姿とは程遠く、魔女と呼ぶには似つかわしくない幼い少女が、エキドナの座っていた椅子に腰掛けていた。
これには、散々エキドナに忠告されて身構えていたスバルは勿論のこと、同じく緊張していたカズマらも疑問の声を上げた。
だが他のメンバーは現れた幼女の姿を見ても驚いたりせず、その姿を見る前と変わらない警戒心で映像を見続けていた。
帝国メンバーであれば、ターニャという規格外の幼女がすぐそばにいるため、幼女=侮りの対象にはならない。
盾の勇者メンバーは、こちらもフィーロあるいはフィトリアの存在が大きいだろう。
そしてナザリックのメンバーも、アウラやマーレ、他にも見た目には現れぬ強さを持つ仲間がいるのと同時に、容姿だけで判断する者が少ないため、それほど驚くものはいなかった。
「いやいや、あの三大魔獣を産み落としたのが幼女って……」
「マジか……」
訂正、ターニャとアインズは普通に驚いていた。
なお、アインズは誰にも気づかれないうちに感情抑制が発動していたりする。
『はー?はーってなんですか、はーって。それなー、しつれーってヤツだぞー』
『お前……いや、君も魔女……なんだよな?』
『ん-、ドナに聞いただろー?お前はー、そーだなー。バル!バルなー!』
見た目通りの幼い感じで話す姿はとても可愛らしい。それどころかあの三大魔獣を産み落としたと思えないほどにあどけなく感じる。
「なんだかエンちゃんに似た喋り方ッスね」
「えぇ~、そうかなぁ~?」
「ええ、私もそう思うわ。見た目の印象や語尾を伸ばす感じがそっくりじゃないかしら」
ルプスレギナとソリュシャンに似ているといわれるエントマは首を傾げる。
だが、それと同時に、プレアデスたちは見た目の裏に隠されたナニカがあの少女にはあると察し、油断なく観察していた。
そんな彼女たちとは逆に、見た目通りの口調と内容で話す少女に、当初の警戒が薄れてきたヴィーシャがふと疑問を口にした。
「あの少女が本当に暴食の魔女なんでしょうか?とても、あんな酷い魔獣を生み出したようには?」
「さあな、もしかしたら本当に違うかもしれんぞ」
「え?それってどういう?」
「エキドナがスバルに忠告した内容には、決して拘束を外すなと言っていた。しかし、あの少女には高速具の類は一切装着されていなかった」
そういえばと、今も無邪気にスバルへあだ名をつけている少女には、行動を妨げるような器具は一切つけられていなかった。
となると、あの少女はいったい何者なのか──そんな疑問が頭をよぎる。
だがすぐに思い知るだろう。彼女が決して心を許してはならない魔女の1人であることを。
『バルはさー、アクニンなのかー?それ、ずっと気になっててさー』
『……アクニン?』
いきなり意味不明な質問に戸惑うスバルに少女は右手を差し出す。子供に甘いスバルは押し切られる形でその手を握ってしまう。
『──ツミハタダ、イタミニヨッテノミアガナワレル』
『──は?』
気付いた時には、彼女の手にスバルの右手が抱えられていた。
そして理解するのだ。目の前にいる少女が、ただの無邪気なだけではない存在であるということに──全員が。
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
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OK
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NO