いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
目を覚ましたスバルはむせながらも、茶会での出来事を覚えていることを確かめてほっと息をついた。しかし、落ち着いて周りを見れば、隣で試練に失敗して倒れているエミリアの姿がないことに気が付く。
『エミリアが俺を起こしたんじゃないのか?』
慌てた様子で墓所を飛び出すスバル。
そもそも、茶会を途中退席することになったのは、現実世界でエミリアがスバルを起こそうとしたからではないのかと、カズマは首を傾げた。
「しかし、なんでエミリアの姿がないんだ?慌てて外に出るにしても、エミリアならスバルぐらい抱えられるってのに?」
「多分だが、起こしても起きないスバルの為に、外にいる奴らに助けでも求めて出ていったんじゃないか?」
今の状況とエミリアの性格から尚文が導き出した推測は、誰もが納得するもので、間違いないだろと考えられた。
いずれにせよ、このループでガーフィル、エルザ、大兎という三つの難所を突破するきっかけを掴めるかどうか──そんな甘い考えを一瞬で吹き飛ばす光景が、墓所の外に広がっていた。
『はぁ?──影』
墓所以外の聖域すべてを飲み込む異様な影に沈められた光景に、スバルは言葉を失った。
「おいおい!?なんだありゃ!!!」
まさに世界の終末と呼ぶに相応しい光景に、カズマが目を見開いて驚きの声を上げる。いや、驚いているのはカズマだけではない。他にもこの異様な光景に唖然とする者は多かった。
これまでにない展開もあって、この場で最も冷静なはずのターニャやアインズのような大人組でさえ、呆然とスクリーンを見つめていた。
「いやはや、冗談じゃない?こんな事態を引き起こせそうな奴がいるすれば一体?あの影……、まさか嫉妬の魔女か!?」
「だが急にどうして……とは言えんな。恐らく、この様な状況になったキッカケはあの茶会での秘密の暴露が原因とみるべきだろうな」
ターニャがこの光景を作り出したであろう人物の名を口にすると、アインズはこの現状と過去の映像から推測を語った。
その推測に誤りは見当たらず、しかもそれを口にした人物が学園で一番の知恵者だと皆が思い込んでいるアインズ・ウール・ゴウンの言葉なら、それが正解だと納得するのも当然だった。
──と思いきや、ただ一人だけ、その推測に異議を唱える者がいた。
「はぁ?ちょっと、あの茶会って嫉妬の魔女も関与できないんじゃなかったかしら?だったらなんで今こうして嫉妬の魔女が現れるのよ!?」
「う……うむ、それはだな……」
そのアホすぎる性格と意固地さが相まって、逆にアインズの真実に気づきかけているアクアが口を挟んだ。皆がアクアのいつもの噛みつきに呆れる中、アインズだけはアクアが指摘した「茶会での関与不可」という忘れていた点を突かれ、焦りが口に出掛ける。
「はぁ~、本当にやれやれね。アインズ様がその点を見落とすはずがないでしょうに」
「ほんに、アホ女は考えなしで無礼を働くから、嫌でありんすな」
隣で焦るアインズが見えていないのか、自信満々の顔でアクアを鼻で笑うアルベドとシャルティアの言葉に、アインズは存在しないはずの胃が痛み出す。
何しろ、ここで先ほどの発言について説明を求められても、アインズには答える手立てがない。こんな時に頼れるのはデミウルゴスかアルベドだが、もしこの2人が未だにこの現象に嫉妬の魔女が関与していると確信していないのなら、もはや打つ手なしである。
どうしたものか。いっそ、ここで自身についたメッキを剝がすいいチャンスではないかと思い、正直に暴露しようとしたその瞬間であった。
「おい、見ろよアレ!?」
唐突にカズマがスクリーンを指さすと、エミリアたちを探しに動き始めたスバルの前に、影の中から不気味なローブをまとった女性らしき存在が現れた。
それが誰なのか、アインズに言われるまでもなく、スバルは目の前の存在が嫉妬の魔女だと直感的に理解した。
「ど……どうやら、私が説明する暇がなかったようだな……」
この場合、助かったと言うべきか、それともせっかくメッキを剥がせるチャンスを逃してしまったと言うべきか。
いずれにせよ、嫉妬の魔女が目の前に現れたのだ。さすがのアクアもアインズへの追及をやめ、席に腰を下ろして成り行きを見守ることにした。
『──愛してる。愛してる。──愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。愛してる──』
人の言葉というより、まるで壊れた録音テープのように感情のない「愛してる」が延々と繰り返され、それを聞いているだけで頭がおかしくなりそうだった。 周囲の皆がその不気味な言葉の連なりに耳を塞ぎ嫌悪感をあらわにする中、尚文は苛立たしげに舌打ちをした。
「まるで呪いの言葉だな。まあ、嫉妬という愛憎が深く関係する感情の罪なんだから、愛の言葉をあの魔女が口にするのは不思議ではないが、何故ああもスバルに固執する?」
「そうですよね。スバルさんは元々別の世界の人なのに、どうしてあの魔女はスバルさんに愛してるだなんて告白するんでしょうか?」
「さてな、あの存在に理由なんぞ求めるのは間違っているのやもしれんぞ。見たところ、アレは狂人の枠組みすら超えた災害に近しい化け物だ」
尚文の疑問にラフタリアが共感を示すと、それに答えるかのようにターニャが皮肉げに嫉妬の魔女を評する。
確かに、耳を覆いたくなるような言葉の羅列と、愛を囁きながらスバルの心臓を人質に取るという矛盾は、常人には到底理解できない狂気の沙汰だろう。
今もスバルを抱きしめたまま、足元から影で飲み込もうとする嫉妬の魔女。カズマたちは早く抵抗しろと念じながらスバルを見つめるが、まるで蛇に睨まれた蛙のように微動だにせず、されるがままになっていた。
このまま影に飲み込まれて終わるのかと、誰もがそう思ったその時だった。
『──っざけてんじゃ、ねェぞコラァ!!』
『うおあ──!?』
空からガーフィールが勢い良く降って来たかと思えば、スバルを巻き込んで嫉妬の魔女に殴りかかった。
少々乱暴気味だったとはいえ、お陰でスバルは嫉妬の魔女の影に飲み込まれずに離れられることはできた。
「よし!正直言って、前のループでの出来事はまだ許せちゃいないけど、今だけはよくやったって褒めてやる!ガーフィール!!」
「なによカズマさんったら偉そうに。でもまあ、褒めてあげるってのは賛成ね!」
拳を握りしめ、ナイスタイミングで乱入してきたガーフィールに称賛の声を上げるカズマとアクア。
『跳ぶぜ』
スバルの同意も得ずに首根っこを掴み上げ、そのまますぐに墓所を離れ、周囲の木々を足場にしてその場から距離を取っていく。少し遅れて、スバルがさっきまで立っていた墓所が影に呑み込まれていった。もしガーフィールがスバルの了承を得ようとあの場で立ち止まっていたら、どうなっていたか分からないと思わないほど愚かな者はいなかった。
「うひゃー!危ないとこだったッスね」
「ええ、そうね。あのガーフィールという男。獣人のハーフにしては、中々のパワーとスピードね。以前、アルベド様が相撲を取って互角だったと聞いてはいたけど、今後の動きにはより注意した方がよさそうね」
スバルを追いかけて伸びる影から逃げ続けるガーフィールの動きに、ユリは感心しつつも警戒をにじませた声を漏らした。
やがて、森を抜けて村の民家の屋根に着地したガーフィールが、抱えていたスバルを荷物のように屋根の上に落とす。
『お前……』
『んだァ?文句でもあんのッかよ、オイ』
その顔に浮かぶ不満は、乱雑な扱いを受けたせいではなく、前回のループで起きた惨劇の影響がまだ残っているのだろう。
もしスバル以外の部屋のメンバーが同じ状況に立たされたならば、今目の前にしているガーフィールにどのような声を上げたのか?怒りか、悲しみか、怨嗟の声か?いずれにしても、スバルのように落ち着いた声を出せる自信のある者はいないだろう。
『文句なんか……ねぇよ。ただ、俺を助けてくれるとは思わなかったから……』
『状況が見えてねェのか?今大事なのは、あれの首を嚙み千切る方法。それェッだけだ!』
『なんなんだよ。どうしてこんな時に!?どうして……ここにいやがんだよ、嫉妬の魔女!?』
ガーフィールが睨みつける視線の先に、周囲の木々よりも高くそびえ立つ嫉妬の魔女が見えた。
「そうか。ガーフィールが何故スバルを助けたのか少々疑問だったが、アレが聖域を無茶苦茶にしたことへの復讐にスバルを利用しようと考えたからか!」
前回のループでスバルを殺そうとしたのに、なぜ今回は助けたのか不思議に思っていたターニャ。しかし、怒りに燃えながら嫉妬の魔女を睨みつけるガーフィールの表情を見て、以前のループでのスバルへの殺害動機と照らし合わせながら、ほぼ確信に近い答えを導き出した。
だが、その答えにダクネスが異を唱える。
「いや、本当にそうだろうか? 私はまだガーフィールとの付き合いは浅いが、前回のループで見せたあの行動が奴の本性だとは思えない。乱暴な態度や言葉遣いではあるが、あいつが優しい奴だというのは分かっているつもりだ。だから、今回スバルを助けたのはそういった理由なだけではないかもしれん」
ダクネスの反論に対し、ターニャも自身の答えにほぼ確信を得ていたが、あえて「ほぼ」と付けたのは、その部分に原因があったからだ。
戦場を離れた学園生活を送る中で、ターニャも人の心というものを少しは理解できるようになった成長の証だ。故に、その反論を貴重な意見として受け止め、今後の展開を見守る姿勢を取る。
『……野郎、追ってッきやがらねェだと!んだァ?結界から出るつもりか?』
魔女の不自然な動きに疑問を浮かべるガーフィールと違って、スバルの脳裏には魔女の行き先とその狙いが思い浮かんでいた。
スクリーンに映し出されるレムとペトラの姿に、部屋の中で見ていた者たちも嫉妬の魔女の狙いが何なのかを理解する。
「くっ、早くどうにかなさい、ナツキスバル!このままでは、レムが!?」
あのような危険な存在が未だ眠り続けるレムの元に辿り着いたらどうなるか。それが想像出来ない訳もなく、アルベドは声も届かぬスバルに向かって切羽詰まった様子でそう叫ぶ。
『これ以上……やらせてたまるかよ!』
これまで嫉妬の魔女が原因で失ったものや苦労は多い。だからこそ、今まさに進行中の喪失の危機を前に、スバルが我慢できるはずもなかった。嫉妬の魔女の影よりも先んじようと、ガーフィールと肩を並べて走り、森を突っ切って屋敷を目指す。
『あいつは俺に引き寄せられる』
『囮に使えなんて言い出しッやがったら、指一本齧り取んぞ!ババアも!ラムも!他の連中も目の前で全員呑まれて……!そのうえ、てめェまでくれてやる恥晒しができッか!』
『みんな……影に呑まれたのか?』
あの状況では覚悟すべき当然のことだったかもしれないが、こうして言葉にされて肯定されると、ショックを受けても仕方がないだろう。そんな表情を浮かべるスバルを見て、ガーフィールも歯を食いしばりながら何が起きたのかを説明してくれる。
『ああ、気付いた時にゃァ地面はそっくり影に染まってた。ラムが風で飛ばしてくれなきゃ、俺様も吞まれッちまってただろォよ』
『そのままラムやリューズさん、オットーも?エミリアも……か?』
沈黙は肯定と同意であり、ガーフィールの無言は雄弁にスバルに辛い現実を見せつける。
『クソォ、なんでこんなタイミングで……!!』
あまりにも多く押し寄せる絶望に耐えきれず叫んだスバルの声に誘われたかのように、誰かが草木をかき分ける音が聞こえてきた。
『──!誰だ!?』
振り返ったスバルの目に入ってきたのは、影に吞まれたはずのリューズさんそっくりの少女の群れだった。
彼女らの存在がスクリーンに映った瞬間、デミウルゴスは絶対なる支配者の
「なるほど、複製体は1体だけではなかったと。……とするならば、前回のループでガーフィールが口にした聖域の目は彼女たちなのでしょうね。しかし、流石は、流石はアインズ様。私が想定していたものとは違い、魔獣ではなく複製体を使った監視網とは……これなら、私の考えを妥当としつつも、異なる手法だと断言されたアインズ様のおっしゃる通りです!」
「う……うむ、そうだな(いや、俺全然こんなの予想できてませんでしたけどぉ!?)」
少し前にした何気ない助言が、こんなにも大袈裟に褒められると、やっぱり先ほどアクアに指摘された時に、さっさと自分についたメッキを剥がしておけばよかったと、若干後悔してしまう。
何しろ、もうナザリック以外の者たちにも、自分が未来予知レベルの賢者だという誤解が深まっている。誰かに相談したいのに誰にも相談できない今の自分は、まるでスバルのようだと心の中で自嘲する。
『こいッつらのこたァ気にすんな。ババアとは違ェよ。中身が空っぽだかんな』
『お前、何するつもりなんだ!?』
『決まってらァ!数でこじ開けて、ぶっ潰すんだよォ!!』
古来より、格上を倒すための基本的な手段の一つ。すなわち、物量作戦だ。
そして、集まったリューズさんのクローンを人ではなく物のように扱うガーフィールの口ぶりから、何をさせる目的で呼んだのか察することができる。
嫉妬の魔女を倒す算段を話し終えると、タイミングよく森の奥から影が迫ってくる気配を感じた。
その気配の方に振り向けば、ありとあらゆる諸悪の根源たる魔女が姿を見せる。
『愛してる』
世界中に語り継がれる最悪の厄災が再びスバルたちの前に現れた。
至る所に伏線は張り巡らせてるけど、時たま忘れてスルーしそうになる。
今回も完成させて読み直してたら、そういえば!ってなって慌てて修正したからね。
もっと文才とか、そういうのがあればここまで苦労しないんだろうか?
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
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