いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
目の前に現れた嫉妬の魔女に、ガーフィールは前回のループで見せた変身を果たすや否や、獣の本能に突き動かされるように、何も考えず突進していった。
その無謀な突撃にスバルが制止の声を上げるが、その声は届かず、ガーフィールは止まらないまま、無情にも嫉妬の魔女の影に四肢を縛られ、宙に吊り上げられてしまう。
「そんな!?あの無茶苦茶強い変身をしたガーフィールが一瞬で!!」
「まあ、相手の力量というか、ネームバリューで見れば当然ではあるのだろうがな」
カズマの目から見て、トラの化け物に変身したガーフィールの強さは、魔王軍幹部クラスにも引けを取らないと感じられた。だからこそ、何もできずに動きを封じられた光景には思わず驚きの声を上げたのだが、ターニャに言わせれば、かつて世界を滅ぼしかけた存在に一矢報いれる方がむしろおかしいと指摘する。そんなターニャの言葉に、この部屋にいる何人かは改めて嫉妬の魔女の恐ろしさを思い知らされ、冷や汗を流した。
だが、ガーフィールも本当にただ無策で突撃したわけではないようで、嫉妬の魔女が次の攻撃に入るよりも先にリューズさんたちのクローンに指示を飛ばす。
『いけぇ!!!』
ガーフィールからの特攻命令が下るや否や、クローンたちは迷うことなく命を投げ出し、次々と嫉妬の魔女へ突っ込んでいった。そして自爆の炎が嫉妬の魔女を包み込んだ。
これが並みの相手であれば、手痛いダメージどころか、命にかかわる致命傷を負っているだろう。しかし、映像の中の嫉妬の魔女には傷一つ見えず、逆に影を伸ばして近づくクローンを次々と薙ぎ払っていた。
だが、それが全く成果を生まなかったかと言えばそうではない。嫉妬の魔女の拘束が自爆攻撃で緩んだのか、影に捕らわれていたガーフィールが抜け出し、解放された体で再び嫉妬の魔女へと飛びかかった。
「これは……まずいな」
巨体を活かした攻撃は確かに脅威だが、強力な遠距離攻撃を持つ者から見れば、それは自殺行為に等しい。一撃必殺の魔法を操るアインズの口から、その言葉が思わず漏れた。そして嫌な予感は、ほんの一瞬遅れて現実となった。
『ルアアアア!!』
勇ましい雄叫びとともに懐へ飛び込んだガーフィールだったが、その鋭い爪が届く前に嫉妬の魔女の影が胴を貫き、内部で増殖した影が体を突き破って、そのまま爆散させた。
それはまさに地獄絵図とも言える光景で、目の前でその光景をまざまざと見せられたスバルの心情はいかほどのものか、誰にも推し量ることはできない。
『愛してる』
あのような光景を作り出しておいて、口にするのは相も変わらずの愛してるの一言だけ。
「いつだったか、スバルが屋敷の禁書庫でベアトリスから嫉妬の魔女の伝承を聞かされたことがあったな。彼女は愛を求め、人の言葉が通じなかったとか。まさに、その伝承通りだな」
屋敷でのループの中、スバルがベアトリスの禁書庫に避難した際に聞かされた嫉妬の魔女の伝承。それを覚えていたターニャは、今も「愛している」と繰り返す魔女を見て、まさに伝承通りだと呟いた。
圧倒的な力を持ちながらも、誰にも理解できない狂気の存在がどれほど恐ろしいものか、それを理解することが出来る者の心胆に寒気が走った。
『うるせぇ』
『愛してる愛してる愛してる。愛してる──スバルくん』
『その呼び方で俺を呼ぶんじゃねぇ!!ふざけるな!この世界で俺が初めてもらった「愛してる」は、どうしようもないクズ野郎が英雄になってやろうって思えるぐらいパワーがあったぜ!!俺の心の一番と二番はとっくに埋まってる。お前の入る隙間なんてねぇよ。お前と比べるぐらいなら……、同じ魔女でもエキドナたちの方がまだ愛せる』
そう言ってのけた瞬間、延々と繰り返されていた「愛してる」の声がぴたりと止まる。
部屋にいる誰もが、スバルが魔女の地雷を踏んだと冷や汗を流した。
「ああ、もう!何やってんだよ、スバルのバカ野郎!?わざわざ死にに行くような真似しやがってぇ!!」
「確かに馬鹿な真似ではありますが、外に出たら世界が影に吞まれていて、目の前であのクローンとやらのリューズさんそっくりの人たちが死んでいったのに加えて、ガーフィールも肉片になって殺されれば、錯乱するのも仕方ないのでしょう」
「ああ、めぐみんの言うとおりだ。それに、スバルくんなんて呼び方はレムにしか許されない特権だからな」
「つまり!悪いのは全部あのよくわからない魔女のほうが悪いってこと!なんなら、最初に地雷を踏んだのもあの魔女なんだから、スバルは全っ然!悪くないわね!!」
「いや、そりゃそうかもしんないけどもよ……」
アクアの滅茶苦茶ながらも、思わず首を縦に振りたくなる言い分を聞きながら、カズマはハラハラした表情でスクリーンの中のスバルを見守る。
終わりの決定した世界線であったとしても、死ぬのならばどうか苦しみの少ない終わり方であってほしいと願いながら。
そんなカズマの祈りも虚しく、口を閉ざしていた嫉妬の魔女が動き出すと、スバルを自らの影に取り込んだ。スクリーンは一瞬で黒く染まり、色を失ったモノクロのスバルと、闇一色の空間だけが映し出される。
「これは、いったい何なのだ?」
殺されたわけではなく、暗闇の中で永遠に「愛してる」という言葉が綴られる。
そして、薄っすらと記憶のようなイメージ映像が流され続け、その奇妙な空間にターニャは戦慄を滲ませながら低く呻いた。
『これは死じゃない。影に吞まれて、取り込まれて。永遠に愛され……続けるのか……』
ある意味前回のループと同じように監禁されてしまったスバル。だが今回は、オットーが助けに来られる場所にいないのが致命的だった。意識が朦朧とする中、スバルの視界に右腕に巻かれたペトラの白いハンカチが輝いて見えた。
『エキドナの奴、こうなるってわかって……。ぐ……ぅ』
やがて、ハンカチは形を変え、ナイフのような形状へと変化する。
それがどういう意味でそうなったのか、スバルを含めて誰もが理解する。
「あのエキドナって奴、精神世界への干渉は不可能でも、現実世界に戻れば干渉してくる知ってやがったな!」
「でしょうね。しかし、そうなってくると我々も少々覚悟をせねばなりませんね」
尚文がこうなると知っていながらも、死に戻りの秘密をスバルに喋らせたエキドナに憤怒していると、冷静なデミウルゴスが額に汗を一滴滲ませながら、メガネをクイッと押し上げる。
その言葉の意味するところは、この部屋を出られたとしても、今スクリーンに映っている現象が自分たちにも襲いかかる可能性があるということだった。
そのことに思い至った者たちは、スバルの心配をしながらも、あの影に呑み込まれるかもしれない恐怖に思わず小さな悲鳴を上げた。
「マジかよ!?な……なあ、アインズ。お前の魔法とかでどうにかならないのか?」
「難しいな。あの世界の権能とやらに、私の超位魔法が通用するのであれば、私の持つ魔法の一つ
「そ……そんな……」
「なによ!普段は偉そうぶっちゃってるクセに、こういう時に役に立たないんだから!!」
「「あ゙ぁん゙!?」」
アインズの返答に落ち込むカズマとは対照的に、こんな時でも挑発的なアクアの言葉に、アルベドとシャルティアが黙っていなかった。
間一髪で席を飛び出し襲いかかろうとした2人を、アインズが慌てて服をつかんで押さえ込むと、アクアの保護者役であるカズマが拳骨を落としていた。
「いったぁい!カズマさんが頭叩いたぁ~!?」
「お前だって何も出来ないクセにケンカを売るからだろうがぁ!本当に、ウチの駄女神が迷惑を掛けて申し訳ありませんでした」
「いや、気にする必要はない」
深々と謝罪を行うカズマに、アインズも慣れた様子でカズマの謝罪を受け入れる。
そして、少々話が脱線してしまっている最中に、覚悟を決めたスバルがエキドナの置き土産である武器化したハンカチで自らの喉元を裂く。
これで異世界にて屋敷での崖からの飛び降りに、レムを救う為の自害を含めて3度目となる自殺行為に対して、カズマを筆頭に多くが顔を歪めて地獄のような異世界の残酷さに苦悶に近しい表情を浮かべていた。
「あれがあの場の最適解だってのは、十分わかっちゃいるが、どうしてもやらせなさが拭えねえな」
何度も見てきたはずなのに、尚文はスバルが死ぬ瞬間を見るたび、言葉にできない不快感が込み上げてきてしまい、つい呟いてしまう。
特に今回は最悪で、エキドナという魔女が善意を装って近づいてきた挙げ句、この世界で最も恐ろしい化け物を呼び出すきっかけを作り、そのうえスバル自身に自害を選ばせるという結末に至らせたのだから。
もし尚文がエキドナへの命名権を得たのならば、即座に彼女を厚顔無恥か腹黒女のどちらかを名付けるだろう。
喉を裂いたスバルは、溢れ出る血を吐き出すと、それを見た嫉妬の魔女が小さな悲鳴を上げた。かなりの衝撃を受けたのか、彼女は動きを止め、その隙に死にかけのスバルが最後の力を振り絞り、彼女の素顔を隠していたヴェールを引き剥がした。
「「「「────ッ!!!?」」」」
『俺が、必ず、お前を救ってみせる』
エミリアの顔をした嫉妬の魔女の頬を伝う涙をそっと拭い、スバルはかつての誓いを口にして、死に戻りが発動する。
やがて、いつものスクリーンの暗転が訪れ、静寂が部屋を包み込む。その沈黙を最初に破ったのはアインズだった。
「今回もまた濃厚な内容であったが、これまでで一番危険度が高い回であったな」
「そうだな。君のところのデミウルゴス君が言った通り、我々がこの不可思議な部屋から元の学園に戻った時にどうするか。少々覚悟を決めねばなるまい」
「ああそうだな。いざとなれば、私も虎の子を出すつもりではあるが、何も起こらないというのが最善だろう。……まあ、あまり期待しすぎるのもよくないがな」
アインズとターニャは、今後の対策案を話し合う。
他の者もそれぞれ何かしらの対策を考えるも、世界を影で覆いつくす化け物。しかも、まだ底の見えない存在を相手にどういった手段が有効なのか分からない以上、誰もこれだという解決案は出てこなかった。
「あのヴェールの中にあった顔。あれは間違いなくエミリアだった。嫉妬の魔女と同じ容姿であったとしても、顔までそっくりって訳じゃないだろう」
「きっと、エミリアさんの中に憑依したのではないでしょうか?あのペテルギウスみたいに……」
「だとすれば、封印されている嫉妬の魔女があの世界に顕現した理由も多少なりとも納得できる」
「そして、ペテルギウスがエミリアを狙って襲撃した理由にもな」
映像の最後に映った嫉妬の魔女の素顔に引っ掛かった尚文に、ラフタリアが一つの推測を口にする。その推測は確かにそう間違ってはいないだろうと、ターニャやアインズを含む他の面々も同意する。すると、頭の切れる者たちはある危険性に思い至った。
「つまり、我々が部屋を出た瞬間ではなく、エミリアと出会った瞬間が嫉妬の魔女の顕現につながる可能性が高いということでしょうか?」
「じゃあ、エミリアを遠ざけろって言うのか!?」
「そんなこと、一言も言ってません。ただ、もし本当にエミリアに憑依してあの魔女が復活するのなら、あるいは……」
言葉を濁すめぐみんに、カズマは何とも言えない表情を浮かべた。
すると、意外な人物から希望の言葉が飛び出した。
「けど、嫉妬の魔女ってスバルの中にいるんでしょ?ここだって精神世界じゃないんだし、今ここに現れないってことは嫉妬の魔女も気付いていないんじゃないかしら?」
まさかのアクアからの指摘に、その部屋にいた全員が驚愕する。
なにせアホの子の代名詞たるアクアが、こんな的確な分析をするとは誰も予想していなかった。
「確かに、少々嫉妬の魔女の脅威に目を奪われて思考がどう対処するかに縛られてしまったが、嫉妬の魔女とのつながりはスバルの中にしかない。だとすれば、スバルの前でペナルティにつながることを話さなければ、問題は起こらない?」
「言われてみれば、随分と簡単な対処法だな。まさか、これをアクアに気付かされるとは……」
皆からの注目を浴びてドヤ顔を晒すアクアに、ターニャと尚文は思いがけない功績を成し遂げた彼女に驚きを隠せなかった。
これで部屋を出て即ゲームオーバーという事態は避けられると安堵し、肩の力が抜けたところで、ターニャがふと先ほどの嫉妬の魔女について感想を漏らした。
「しかし、あれが嫉妬の魔女か。スバルの異世界で誰もがその名だけで恐れられているというのも納得の化け物だったな。正直、魔女というネームバリューに少し甘く見ていたが、認識を改める必要があるな」
「だよな。俺らの持ってる魔女のイメージなんか、デカイ鍋をグルグルかき混ぜる鼻の長い老婆ってイメージが大きいし。今風だとしたら、巨乳のミステリアスなお姉さんって感じが……おい、なんだよその目は?」
カズマの意見に最初はうなずいていたターニャも、後半のお姉さんのくだりになると、同列に語って欲しくはないと目で訴える。しかも、そんな視線を向けているのはターニャだけではなく、アクアたちも同じく「またこの男は……」と呆れた視線を投げつけていた。
「いや、あれだぞお前ら。俺のイメージはサブカルが発展した日本で育ったせいでそうなってるだけで、別に俺個人がそういう妄想してるわけじゃないからな。なのに、なんでまだそんな目で見るんだよ……」
「はいはい、カズマさんの言い分はわかりましたから。ちょっとお口チャックして黙ってましょうね」
「くっ、納得いかねぇ……」
普段は逆の立場のアクアに諭され、言葉を詰まらせるカズマ。そんな茶番に呆れつつ、ターニャが座席にもたれながらふと横を見ると、震えているヴァイスの姿が目に入った。
「どうかしたのか、ヴァイス大尉?」
「……少佐殿。私は、怖いのです。これまで何度もスバルの死に戻りを見てきました。ですが、今回の自害は以前レムを救うために取った方法と同じでした。自らの意思で一度味わった死を再び繰り返す覚悟と、その恐怖がどれほどのものかを想像した瞬間、体が……心が恐ろしくなって震えてしまうのです!」
「は?」
「私は、もしスバルと同じ力を持っていたとしても、祖国の為に命を捨てる覚悟があっても、全てを救う為に自らの意思で命を絶てる自信がありません」
「(これは……少々マズイやもしれんな)」
どこかの中佐殿を思わせる、今にも泣き出しそうなヴァイスの様子に、ターニャは危機感を覚えた。
これまで戦場で麻痺していた死生観が、この平和な世界で少しずつ正常に戻りつつあったのだろう。そこへ、ナツキ・スバルが異世界で繰り返し迎える過酷な死を何度も目の当たりにし、3度目の自殺という死に触れたことで、夜中にふとベッドの中で死を考えて恐怖する子供のような状態になっているのだろう。
しかも、その空気が伝播していっているのか、ヴィーシャたちもヴァイスと同じ様な顔へ変わっていく。
このままでは後ろの席でこちらを見ている校長先生と副校長の印象が下がってしまうと、ターニャが重い腰を上げた。
「臆するな、ヴァイス大尉!諸君らもだ!!全てを救う為に命を絶つ?はっ、笑止千万!!我らは誇り高き帝国兵!ならば、生きて勝利する!我が手に勝利を!!」
まるで元の世界の戦場に戻ったように、戦争前の士気を高める鼓舞を披露する。
短い激励ではあったが、大隊発足時の訓練を乗り越え、幾つもの戦線を乗り越えたヴァイスたちには、その効果は抜群だった。
「「「「「──ッ!!はっ!生きて勝利を!!!」」」」」
重苦しい空気を振り払い、立ち上がって敬礼するヴァイスたち。そんなターニャの鼓舞とそれに応えるヴァイスらの反応を見たカズマ、アインズ、尚文らの感想はというと。
「「「(うわぁ、戦争な世界の人たちだよ……)」」」
かつての彼女らの自己紹介の時に抱いた、遠い世界の人たちだという思いが再び蘇るのであった。(尚文を除く)
ヴァイスらがターニャの鼓舞で立ち直ったのを見計らったかのように、暗転していたスクリーンに映像が流れ始めた。
スクリーンに映し出されるのは、薄暗い墓所に横たわるスバルの姿。
「さて、ここからだな。既にエキドナはスバルの死に戻りを知っている。これでエミリアが再び嫉妬の魔女に憑依され、世界を影に吞みこまなければよいが……」
不穏な言葉を口にするアインズの言う通り、最悪の事態に至らなければ良いと考えた一同は、このループがどう転ぶのかと不安と期待を込めた視線を向ける。
今日はついにナツキスバルの完全復活。それにならって今回の話にもヴァイスの恐怖と復活を取り入れてみました。
キャラ崩壊を起こさないように、ストーリーを考えて時間かかった(笑)
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
-
OK
-
NO