いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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毎日投稿がついに打ち止めに!?


異世界最強の実力

 

 突如として乱入してきたラインハルトの登場に、先程までスバルの絶望的状況に沈んでいた面々の表情に驚きと共に希望が戻る。

 

「これはもう勝ち確ね!」

 

「あったりまえだろ!!最強が出てきたんなら無問題(モウマンタイ)だっての!」

 

 アクアとカズマがハイタッチを交わしてスバル達の勝利を確信する。

 少々浮かれ過ぎな気がしないでもないが、この学園生活でラインハルトと少なくない時間を過ごした面々は、彼がどれだけ規格外の存在かをよく知っている。

 

 ラインハルトがいれば、この程度の状況どうとでもなる。

 

『黒髪に黒い装束。そしてくの字に折れた北国特有の刀剣──それだけ特徴があれば見間違えたりはしない。君は『腸狩り』だね』

 

『なんだその超物騒な異名……』

 

「あいつ、異世界の魔王軍とかそういうのに属してるだろ、絶対……」

 

 ラインハルトの口にしたエルザの異名に、スバルと一緒になってカズマもドン引きする。

 そして始まるエルザとラインハルトの戦闘。

 

 先手を仕掛けたのはエルザだった。

 

『女性相手に、あまり乱暴はしたくないんですが……』

 

 目の前に迫るエルザに、ラインハルトは床を踏みつけた衝撃波で動きを止めさせ、スバルとは比べものにならない威力の回し蹴りを見舞う。

 

「っつ、つえ~」

 

 カズマの口から、そんな単純な言葉しか出てこない程、ラインハルトの実力は圧倒的だった。

 

『その腰の剣は使わないのかしら。伝説の切れ味、味わってみたいのだけれど』

 

『この剣は抜くべきとき以外は抜けないようになっている。鞘から刀身が出ていないということは、そのときではないということです』

 

「使用するのに条件付きの武器か……。剣聖というからには、素手よりも剣を持つ方が強いというのは当たり前の話だが。素手でもこうまで強いところを見せられるとな……」

 

 たった1度のラインハルトの戦闘時の動きに、アインズの中でのラインハルトの脅威度が大きく上がる。

 

『こちらでお相手させてもらいます。ご不満ですか?』

 

『──いいえ。ああ、素敵。素敵だわ。楽しませてちょうだい、ね!』

 

 これまで2回もスバルを殺してきたエルザだったが、相手が悪すぎたという他にないだろう。

 接近戦での勝ち目が薄いと分かるや否や、距離を取ってナイフでの投擲に切り替える。

 

「だけどそれは──」

 

「ラインハルトには通用しない」

 

 ラインハルトの馬鹿みたいに多い加護のウチのいくつかを知っているカズマとターニャが、この先の未来を先読みして口にする。

 事実、ラインハルトに迫るナイフは物理法則を無視したように軌道を変えて、その後ろの壁へと狙いを外したのだ。

 

『武器を失ったのなら、投降をお勧めします』

 

 それは圧倒的実力の差があるからこそ出る降伏勧告だった。

 

 この場はラインハルトに丸投げしても大丈夫そうだと判断したスバルは、ロム爺の治療に当たるエミリアの方に近寄る。

 

『おいおい、言っとくけどこの爺さん。お前の徽章を盗んだ一味だぜ?』

 

『だからよ。無事に治ってもらって、その恩を逆手に情報を聞き出すの。命の恩人相手なら嘘なんてきっとつかないわ。これも私のための行為よ』

 

 なんか聞いたことのある台詞だな、とスバルはエミリアのちょっと捻くれた優しさに安堵しつつ、視線を戦っているラインハルトの方に向き直す。

 

「やれやれ、優しさは美徳といえど、流石に少々考えさせられる」

 

 ターニャはエミリアの行動に、人の性善説を信じ過ぎている、と呆れていた。

 

「けれど少佐、私はエミリアさんのそういう優しいところ、好きですよ」

 

「……まあ、貴官らはそのままでいいのだろう」

 

 自分のように腹黒い性格になるエミリアとヴィーシャを想像できないターニャは、優しい笑みで2人にはそのままでいて欲しいと願う。

 

『二本目があるぞ、ラインハルト!』

 

『よくわかったわね』

 

『実体験があったんでな!』

 

 わりとスバルが言うとシャレにならない言葉だが、エルザはまるで気にせずに予備の武器を握り直す。

 

『ただし、牙は二本だけではないの。……仕切り直しに付き合っていただける?』

 

 ここまでの戦闘でラインハルトの実力を理解した筈だというのに、それでもエルザの戦意は萎えない。

 むしろ、ラインハルトが現れた時以上に、彼女の殺意が研ぎ澄まされていくように思えた。

 

『牙がなくなれば爪で。爪がなくなれば歯で。歯がなくなれば骨で。骨がなくなるのならば命で。──それが戦闘狂というものよ』

 

「これだから理性の蒸発した獣は好かんのだ……」

 

 エルザのイカれた思想に、存在Xの加護を授かった狂信者を思い出しながら、ターニャはその顔に嫌悪を浮かべた。

 

「戦闘狂か……。私が知る者よりもよほど酷いな。いや、あれはサディストというやつか」

 

 アインズもエ・ランテルでモモンとして戦った女戦士を思い出すが、即座にあれとエルザは違うタイプの狂人だったと結論付ける。

 

 盗品蔵の中を縦横無尽に駆け回るエルザの動きは、人ではなくまさに獣だった。

 圧倒的スピードでラインハルトに一撃離脱の戦法で襲い掛かる。

 

「おいおい、ラインハルトの奴が防戦一方じゃねえか!?」

 

 画面の中で棒立ちのまま、エルザの攻撃を受けてばかりのラインハルトに焦りの声を出すカズマ。

 最強の登場で勝ち確だと喜んでいたアクアも、この流れに不安そうな顔を隠せない。

 

「ふむ、この流れをどう思うコキュートス?」

 

「ハッ!ラインハルトハ明ラカニ手ヲ抜イテイルヨウニ感ジマス。イエ、正確ニハ本気ヲ出セナイノカト……」

 

 ナザリックにおいて最も高い戦術眼を持つであろうコキュートスに意見を求めるアインズに、コキュートスはラインハルトが本気を出していないと断言する。

 

「やはりそう思うか」

 

 あの程度の速度であればラインハルトならば問題はないとアインズも判断していた。

 しかし、現状ではラインハルトは防戦一方だったことに違和感を感じていたのだ。

 

「本気を出していない。それは油断か驕り?いや、ラインハルトの性格からしてこの状況でそれは考えづらいか……。ならば、奴の持つ剣と同様に何かしらの条件がある?」

 

 アインズの推測を肯定するように、画面の中のエミリアから正解が告げられる。

 

『……こっちに、気を遣ってるのよ、彼は。私が精霊術を使ってるから、彼は本気が出せないの。せめて、この人の治療が終わるまでは……。ラインハルトが本当に戦うつもりになれば、大気中のマナは私にそっぽ向くもの』

 

「流石はアインズ様!ラインハルトの意図を完璧に見抜いておいでとは!」

 

「う、うむ、そう大したことではない。ただの消去法だ。それに、私は別に見抜いたわけでは……」

 

「謙遜される事はございません!アインズ様の英知にはこのデミウルゴス、感服するばかりでございます!」

 

「そ、そうか……、ありがとう」

 

 自分の考えを肯定するデミウルゴスに、アインズは気恥ずかしさから頬をかく。

 

 その間にエミリアはロム爺の治療を終え、その事をスバルがラインハルトに伝える。

 

『──ラインハルト!よくわからんが、やっちまえ!』

 

『──なにを見せてくれるの?』

 

『アストレア家の剣撃を──』

 

 刹那、空間が歪み始める。

 その異様さは、画面越しでも理解できるほどで、ラインハルトの本気に皆が刮目する。

 

『『腸狩り』エルザ・グランヒルテ』

 

『──『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア』

 

 今ようやく、ラインハルトは敵に向けて剣を構えた。

 その瞬間、ラインハルトの手に持つ剣の刀身に周囲のマナが吸い込まれていく。

 

『────ッ』

 

 張り詰めるような一騎打ちの空気を切り裂いたのはラインハルトの一振りだった。

 直後、眩いばかりの閃光と轟音が盗品蔵に響き渡り、そのあまりの破壊力に全員が目を覆う。

 

「ヌウ、スキルモ使用セズ、マシテヤアノヨウナ粗末ナ剣デ、私ノ不動明王撃ト遜色ナイ威力ノ一撃トハ……、恐レイル」

 

「あのレベルの攻撃ができるって時点で、コキュートスの奴もやっぱし化け物だな……」

 

 カズマが、今の一撃と同レベルの威力の技を持っていると暗に発言するコキュートスに、若干引きながら感想を漏らす。

 そして画面の中では、盗品蔵は廃墟同然のありさまになっており、あまりの惨状にスバルがラインハルトに悪態を着いていた。

 

『無事に、終わったの?』

 

『ああ、ホントの意味でどうにかな』

 

『じろじろと、どうしたの?すごーく失礼だと思うけど』

 

『手足はもちろん、首もちゃんとついてるよな』

 

『……当たり前でしょ?恐いこと言わないでくれる?』

 

『そうだな、当たり前だよな。もちろん、俺の手足もついてるし、背中にナイフが生えてもいなけりゃ、腹にでかい風穴が開いてたりもしないぜ!』

 

『生えてたり開いてたりした時期があるみたいな言い方するわね』

 

「これでマジでありましたって言われたら、エミリアの奴困惑するだろな」

 

 全てが終わってホッとしたカズマが椅子にもたれかかりながら、そんな軽口をたたく。

 しかし、それは他の皆も同じ意見だった。

 

『そういや、ラインハルト。まだ礼を言ってなかった。マジ助かった。さっきの路地のことといい、俺の心の叫びが聞こえたのかよ、友よ』

 

『それができたなら僕も胸を張るんだけどね、友達くん』

 

「確かに、あまりの突然の登場に気にしていなかったが、ラインハルトがこの場面で登場するとは些か都合が良すぎる」

 

 スバルとラインハルトの会話を聞きながらターニャはそう呟く。

 そんな疑問に答えるように、ラインハルトはチラリと入り口だった場所を見つめる。

 そこには、逃げ出した筈のフェルトが立っていた。

 

「なるほど、彼女がラインハルトを見つけて救援を寄こしたというわけか……」

 

「やっぱり、スバルさんのお友達さんって皆優しい人達ばかりですね!」

 

 スバルの人徳が引き寄せた幸運に、ヴィーシャは感激したように手を合わせる。

 そんなヴィーシャの姿を見て、他の面子も和気あいあいとした雰囲気をかもし始めた。

 

 しかし──

 

『──スバル!』

 

 ラインハルトの叫びに、窮地を脱していなかったことをスバルを始めとして皆が悟る。

 

『狙いは腹狙いは腹狙いは腹ぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 何度も腸を切り裂かれて殺された経験が生きたのだろう。

 咄嗟にエルザの狙いを看破したスバルは手にしていた棍棒を盾にエルザの攻撃を防ぐ。

 

「あっ、あっぶねぇ~」

 

「うむ、間一髪だったな」

 

「き、肝がひえましたよ、まったく……」

 

「っていうか、あれを喰らってまだ生きてるのが信じられないんですけど!?」

 

 エルザの奇襲を防いだスバルに、カズマ達は胸を撫で下ろす。

 

『この子はまた邪魔を──』

 

『そこまでだ、エルザ!』

 

 ここで完全に敗北したのを認めるエルザ。捨て台詞を吐いてエルザは跳ねて逃げていった。

 今度こそエルザは退散し、盗品蔵の死闘は幕を閉じた。

 

『ちょっと大丈夫!? 無茶しすぎよっ』

 

『お、ぉぉお……ら、楽勝楽勝。あそこってば無茶する場面だべ?動けんの俺しかいねぇし、あいつがとっさに狙う場所もこっそり当てがあったし』

 

「だとしても、よく動けたものだ」

 

「だな。軍人でも咄嗟にああした正解の行動を取れる者は少ないというのに……」

 

 自分が死にかけたというのに、笑って茶化すスバルが先程取った行動を賞賛するアインズとターニャ。

 

『今度はもう、完璧にいなくなったよな?』

 

『すまない、スバル。さっきのは僕の油断だ。君がいなければ危ないところだった。彼女を傷つけられていたら僕は……』

 

『タンマタンマタンマタンマ!そっから先は言及無用だ。こんだけ色々ともったいぶったんだから、そこの部分を他人に委ねちゃ俺が報われん』

 

 謝罪するラインハルトの言葉を止め、スバルはエミリアに向き直る。

 

『俺の名前はナツキ・スバル!色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえずうっちゃってまず聞こう!』

 

『な、なによ……』

 

『俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人!ここまでオーケー!?』

 

『おーけー?』

 

『よろしいですかの意。ってなわけで、オーケー!?』

 

『命の恩人、レスキュー俺。そしてそれに助けられたヒロインお前、そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか?ないか!?』

 

『……わかってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど』

 

『なぁらぁ、俺の願いはオンリーワン、ただ一個だけだ』

 

 ここまで文字通り命懸けで駆け抜けてきたスバルが何を願うのか。

 大体想像がつくが、それでも皆が固唾を飲んで見守っている。

 

『君の名前を教えてほしい』

 

 とっておきのキメ顔でスバルはそう口にした。

 

「「「「プッ!!!」」」」

 

 緊張した空気が弛緩したように、カズマ達がスバルの出した答えに噴き出す。

 しかし、それは馬鹿にしたような笑いではなく、微笑ましいものを見守るような笑いだった。

 

「やれやれ、無欲過ぎる願いもまた困りものなのだがな……」

 

「信賞必罰という言葉を知らんのか、あいつは……」

 

 ターニャやアインズも無欲すぎる答えに呆れながらも、スバルらしい願いにほんの僅かに口元が緩んでいた。

 

 そんな皆の笑いの中、画面の中のエミリアもまた同じように笑って答える。

 

『──エミリア』

 

『え……』

 

『私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル』

 

 初めの死に戻りの際に願った「君を必ず、救ってみせる」と、3回目の死に戻りで新たに出来たサテラと名乗ったエミリアの名を知るというささやかな願い。

 傷付いて、嘆いて、痛い思いをしてようやく叶った願いにスバルは──。

 

『ああ、まったく、わりに合わねぇ』

 

 そう言って笑いながら、エミリアの手を握り返す。

 

 ようやく辿り着いたハッピーエンドに、部屋の中の雰囲気は大きく盛り上がっていた。

 

 しかし、皆は忘れていた。この世界がとことんテンプレを外す害悪世界だということに……。

 

『それにしてもスバル、よく無事だったね』

 

『そいつでとっさにガードしたかんな。それがなきゃ、今頃は胴体真っ二つだ』

 

『そうだね。これがなければ──』

 

 落ちていた棍棒を拾い上げると、棍棒は滑らかな切断面を晒してバッサリと切られていた。

 

「ん……?」

 

 カズマの疑問符を合図にしたように、スバルのジャージが答え合わせの時間だとばかしに腹の部分がずるりとズレて、スバルの腹が丸出しとなる。

 

『あ、やばい、これ、俺にも先が読めた』

 

 そして次の瞬間、スバルの腹が横一文字に裂け、噴水のように血が吹き出した。

 

「スバルぅぅぅぅ!!?」

 

 カズマの絶叫が部屋中に響き渡る。

 やがて、スクリーンに映る映像はぼやけていき、いつもの死に戻りと同じ展開になっていく。

 

「ここまできて、もう一度最初からやり直しかよ!?」

 

 折角、苦労の末にハッピーエンドを掴み取ったと思った矢先にこの仕打ち。

 カズマの絶叫も当然だった。

 

 だが、そんなカズマの声を否定するように、部屋の何処から上映が始まる前に流れたアナウンスの声が響く。

 

「以上で、第一部を終わります。しばらくの休憩の後、第二部を放映致します」

 

「え?」

 

 スクリーンを見てもいつものように果物屋の店主の顔が映り出さず、まだ暗転したままだった。

 

「これは、スバルは気絶しただけで死んではいなかったということか……?」

 

「な、なんだ……、脅かしやがって」

 

 アインズの推測に、絶叫していたカズマが安堵して力なく席に倒れ込む。

 

「しかし、異世界に来て初日でこれとは、スバルの奴も随分とまあ苦労していたのだな」

 

「そうだな。私もスバルと同じ状況で異世界に転移させられたと考えたら、肝が冷える」

 

「ふっ、アインズ君に冷える肝があったのか?」

 

「おっと、これは一本取られたな」

 

 軽口を叩きながら、アインズとターニャはスバルの苦難に想いを馳せる。

 そして、アナウンスはこれを第一部だと言った。次の第二部が平和で終わるとはとても思えない。

 

 これからスバルは何度死に戻りを繰り返すのか。

 大人としてだけではなく、学園での友人としてこれからのスバルの歩むかもしれない地獄に、2人は僅かばかりの憐憫を抱いたのだった。

 

 




第一部完!

次の小休止を挟んで、第二部にいきます。

読者の何人かはIFルートも流して欲しいと言ってくれますが、ちょっとごめんなさい!
自分、アニメ勢なので上手くIFストーリーを書ける自信がありません!!!

やれるとこまでとことん書きます!

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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