いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる 作:リーグロード
夜の森を歩くスバルは、村人のことや、これまでのループで大兎に食われたこと、嫉妬の影に呑み込まれた地獄のような出来事を思い返していた。あんな思いは二度と自分も味わいたくないし、誰にも味わわせたくないという強い気持ちが胸にあった。そんな暗い気持ちで歩いていると、銀鈴のような澄んだ声がスバルにかけられた。
『スバル?』
『あひゃっ!?』
『こんな所で何してるのって、そんなハチャメチャに驚かれると、すご~くビックリしちゃうじゃない』
『ハチャメチャって、今日日聞かねえな』
森の木々の隙間から漏れ出る月の光を浴びて立つエミリアはどこか神秘的に見えて、スバルでなくとも今のエミリアを美しい妖精だと褒め称えるだろう。
「ほわぁ~……」
「カズマ、カズマ。鼻の下が伸びてますよ」
「まったく、だらしないわね。ちょっと薄着の女性を見るとすぐこれなんだから!」
「ま……まったくだ。これじゃ夜に部屋着で部屋の外を歩けやしないではないか」
ほんの少し呆けた顔でエミリアを見ただけで、このバッシングの嵐だ。というか、最後のダクネスの文句には、何やらふしだらな感情が混ざっていた気がするが、それが気のせいでないことはこの部屋にいる全員がわかっている。
「うっさいな!なんだよ、俺がちょっと綺麗だな~って、エミリアを見ていただけでその反応は!?言っとくがこれは当然の反応だからな。だって、エミリアはめぐみんみたいに幼児体型じゃないし」
「なにを!?」
「アクアみたいななんちゃって女神と違ってエリス様みたいに正統派ヒロインの貫禄があって」
「なんですって!?」
「極めつけはダクネスみたいな変態じゃないってところだな!」
「わ……私は、変態では……ない……!!くふぅ~!!」
アクアとめぐみんが吠えるなか、ダクネスは喜んでいる顔で身をクネクネさせており、いつもの性癖が丸わかりのセリフを口にしている。
これはまたいつもの喧嘩が始まりそうだと思って見ていると、デミウルゴスがその仲裁に割って入った。
「まあまあ、カズマの言いたいことも分かりますが、あなたには前の臨海学校での覗き事件や、普段の行動の問題があります。あなた方全員、誰かを貶す前に自分の言動や態度を見直すようにしましょう。特に、そこで身悶えている腹筋がやたら硬いダクネス君は、しっかり反省するように」
「腹筋が固いとか言うにゃ!?」
デミウルゴスの辛辣ながらも的確な指摘に、カズマたちはさすがに反省の色を見せ、しょんぼりとした態度を取る。唯一、場の空気を過度に沈めないためにデミウルゴスのジョークの標的となったダクネスだけは、真っ当な羞恥心から抗議の声を上げた。
こうしてカズマパーティーの喧嘩は収まり、全員が観賞に戻る。
試練のプレッシャーと、いつもそばにいたパックの不在による精神的な不安を抱えるエミリアに、自分が代打役であることの多少のショックを隠しつつ、スバルは彼女を励ます。
『どれだけ俺の言葉が力になるか分からねえけど、俺の気持ちは言葉にするよ。エミリアなら大丈夫だ。きっとやってくれる。俺は君の味方だ』
『ん、ありがとう。ホントにすご~く勇気がもらえた』
月明かりに照らされて、男女の絆が紡がれるその光景はまるで物語の一幕のようであった。
「ええ、そうですね。気持ちを言葉にするのは本当に大切です」
「特に、心が折れそうな時のああいった言葉は、心の底からの支えになるもんだからな」
「フィーロもそう思う!」
互いに支え合っていた尚文たち3人は、エミリアとスバルのやり取りに感銘を受けたのか、何度も頷きながら強く賛同の意を示していた。
やがて、エミリアに就寝の挨拶を済ませ、アーラム村の人々が寝泊まりする場所へと帰っていった。
『ナツキさん、戻ったんですか。戻りが遅いので心配しましたよ。うっかり森で迷って遭難したのかと』
『お前は過保護な母親かよ』
『せめて男親にしてくださいよ。ナツキさん、色々大変とは思いますが、何かあったら話は聞きますよ』
『変な寝言だな、コイツ。気持ち悪う』
『それ!心配してくれる人に対する返事ですかね!?』
思わず大声でツッコミを入れるオットーに、カズマを筆頭に笑いが広がる。
まるで学園にいる時と変わらないノリの2人に、皆の心は多少なりと癒された。しかし同時に、スバルが背負う重責に気づく者もいた……。
「スバルもラムの奴をとやかく言えない、遠回しな善人だな、まったく……」
「どういうことですか?」
尚文の何気ない一言に、めぐみんが疑問を投げかける。カズマたちはいまいち理解していない様子だが、尚文の言葉を理解した者たちは、それぞれに異なる表情を浮かべていた。
「あのスバルの辛辣な返しは、オットーへの心配するなの意だ。おおかた、友人と言ってくれたオットーを厄介ごとに無暗に関わらせたくないんだろうな。まあ、それ以外にも、死に戻りありきの知識だから、上手く説明出来ないという部分もあるのだろうが」
「そっか、だからスバルはオットーをあんな風に邪険に扱ったのね。あれ?でも普段からスバルってオットーにあんな感じじゃなかったかしら?」
「それはあいつらのノリがいつもああだからだろ」
尚文の説明に納得した後、首をかしげるアクア。スバルはいつもあんな感じで絡んでいた気がすると口にすると、ターニャが呆れた声で補足を加えた。
2人の説明を聞いて、他の分かっていなかった者達も今のスバルの心境を理解すると、そんなみんなに正解だと答え合わせするように、オットーには聞こえないほどの小声でスバルが一言だけ漏らした。
『だからお前には言えねえよ……』
そこから先はエミリアへの書き置きだけを残し、スバルは聖域を脱走してロズワール邸に帰ろうとする場面が駆け足で映される。
『行こう、パトラッシュ』
朝焼けが差し込む森をパトラッシュと共に駆け抜けながら、スバルの胸中がスピーカー越しに部屋中へ響き渡る。やり直しが前提の世界でもエミリアを想い、ロズワール邸攻略に必要な情報を集めるという目的。そのためなら何度命を落としても構わないという狂気じみた覚悟と、自分の価値を低く見積もる言葉が口からこぼれる。
「そんなことねえだろ!?死に戻りだけじゃなくて、スバルには他にもいいところがたくさんあるって、あの馬鹿野郎に直接言ってやる!!」
「そうよ!自分の命を捨てての自己犠牲しか価値がないなんて間違ってるわ!!私も、カズマと一緒にスバルにお説教してあげるんだから!!」
スバル本人からの死に戻りだけが自らの価値という言葉に、カズマとアクアは我慢できずに怒りを露わにして叫んだ。他にも声を上げこそしないものの、カズマたちと同じように顔に怒りを浮かべ、スバルの歪んだ価値観に異を唱えたい者は多かった。
そのまま屋敷に辿り着くのかと身構えるなか、空──いや、木の上からスバルの前にガーフィールが道を塞ぐように飛び降りてきた。
「ここでガーフィールの登場か。まあ、奴が聖域内を巡回していたのは前々から知っていたからな。この展開は十分にあり得ると想像はついていたが、果たしてスバルはこれをどう切り抜ける?」
さほどガーフィールの登場に驚かないアインズ。そして、スクリーンに映るスバルも同様に驚いていないことから、こうなることは予想出来ていたのだろう。
『俺とお前の間に誤解があると見た』
『誤解ィ?んなもんがあっかよォ。魔女臭ェてめェは、悪巧みのために出てくってとこじゃァねェのか、オイ』
『体臭は否定しねえが、なんで今なんだ?』
確信めいた言い方ではあるが、果たしてそれが本当にガーフィールだけで導き出した考えなのかは分からない。だが、それを指摘せんとパトラッシュから降りたスバルが問いかける。
その瞬間、デミウルゴスやターニャをはじめ、ガーフィールの背後に誰かがいると見抜いた者たちは、前のめりになって2人の一挙手一投足を見逃すまいと集中していた。
『昨日は何も言わなかったよな?』
『──っ』
『都合の悪いことを聞かれた。顔にそう書いてあるぜ、ガーフィール』
『……やめろ、それ以上、俺様をイラつかッせんな』
この瞬間、尚文とターニャの予想通り、ガーフィールの背後には何者かが潜んでおり、彼を裏から操っていたことが確定した。あとはその正体だが、順当に考えればロズワール先生、次に浮かぶのはリューズ・シーマ。
そして、昨夜リューズ・ビルマから聞いた話によるとガーフィールは強欲の使徒であり、その線から考えると、大穴でエキドナが場をかき乱し、自身の知識欲からスバルの死に戻りをより詳しく知るためにガーフィールをけしかけた、という見方もできる。
「こいつは誰が犯人であってもおかしくないな」
「あるいは容疑者が裏で繋がっている。そんな可能性も視野に入れてもいいと、私は思いますね」
キラリと眼鏡を光らせて、デミウルゴスが意味深な笑みを浮かべる。
そんなデミウルゴスの指摘を受けて、尚文もまた頭を抱えながら、これまでのスバルが見聞きしたものを思い出して分析を開始していく。
そんな彼らの必死に考えている姿を横目に、カズマはボソッと呟く。
「犯人捜しなんてしなくても、いずれスバルが見つけるだろ。いやまあ、死に戻りしまくって探せって意味じゃねえけど、そこまで苦労して探すことか?」
「甘いですよ、カズマ。きっとデミウルゴスや尚文は、スバルが見抜けない場合を想定して考えているんだと思います。実際、スバルが見落としたせいでレムはずっと眠ったままになってしまいましたからね。それに、私たちの学園にスバルの仲間以外も転移してくる可能性を考えれば、頭のいい彼らが必死になって犯人を探すのは当然でしょう」
「あ~、なるほどぉ……」
めぐみんに指摘されて、カズマはようやく2人がなぜ真剣に考え込んでいるのか理解した。しかし、理解してもなお、カズマは犯人探しをする気はなく、ただ視聴者のような気分でスクリーンに映るスバルの成り行きを見守っていた。
何せ、自分が考えるよりも、知恵者の悪魔や大学に行ける学力を持つ尚文の方が、正しい答えを早く導き出せると分かっているので、自分の考えは必要ないと本気で信じていたのだ。
その間に、スバルはわざと聖域の秘密の一部を口にし、ガーフィールはスバルの胸元を乱暴に掴んで木に押し付けた。力の差は歴然で、少しでも本気を出せばスバルは木に押し潰されてペチャンコになることを本人も分かっているはずなのに、その瞳には恐怖はなく、「やってみろよ」と言わんばかりの挑発的な光を宿していた。
『なに笑ッてやがる?』
『わ……分かりやすい奴だなって……』
『アァン!?』
『お前が……何に反応し、何に怒るのかが、よく分かった……』
数舜、スバルとガーフィールの視線が交差し、スバルの口元に明らかな笑みが浮かんだ。
その瞬間、ガーフィールは驚愕と共に恐怖を抱いたのか、掴んでいた手を乱暴に突き放し、スバルから距離をとった。
『──てめェ!!俺様を試しやがッたのかァ?狂ッてやがる。テメェの命掛け金にしてェ、何やッてやがァんだァ!?』
怒気を孕んだ叫びを上げるガーフィールだが、その内心を尚文は見抜いていた。──いや、共感していたと言った方が正しいだろうか。
「怒りをぶちまけて吠えないとビビってしまうんだろうな。そりゃ当然だ、ナイフを喉元に押し付けられているのに、逆に脅してくる奴が怖くないはずがない」
尚文もまた、スバルに死に戻りの能力があると知っていても、ガーフィールと同じ気持ちを抱く。もし実際に自分があの場面で命を代償に同じ行動ができるかと問われれば、迷うだろう。
誰かのために自身の命を掛けるのは尚文だって勇者として元の異世界でやってきた。ただそれでも、死ぬかもしれないと分かっていて行動するのは躊躇してしまうものだ。それが人間だ。そして、それを迷わずに行っているスバルを恐れてしまうのは仕方ない。
『俺の命だけで足りるなら、結果には釣り合うんだよ』
『アァン?』
『出来れば、広い心で見逃してくれ』
『ここでテメェを見逃してェ、俺様たちに悪さしねェ保証があんのかァ?』
『俺はエミリアを裏切らない。聖域も悪いようにはしない。信じろ』
「それで信じられるなら苦労はせんのだろうが、今のガーフィールにどこまでスバルの言葉が響くのやら」
スバルの信用も信頼も皆無な愚直すぎる説得に、アインズは溜息をつきながらぽつりと呟いた。
無理もない話だ。そもそもそんな都合のいい保証があるはずもなく、ただスバルがエミリアを裏切らないと口にするだけでは、ガーフィールを納得させるには足りない。それでも、今のスバルを恐れているガーフィールには通じる可能性はある。──しかし、
『ガーフィール、お前が何かを隠しているのは知ってる。でも俺はそれを必ず暴く、絶対に!!』
『黙れよォ!!』
『俺が諦めない限り、秘密はもう秘密じゃない』
『なッ──』
『俺を止める気なら時間の無駄だ』
『テメェはここをどォしてェんだ!?俺様たちに何を──』
『俺の目的は言った筈だ。エミリアを助ける。聖域に危害を加えるつもりはねえよ。何度も嫌な思いをさせるかもしれないが、みんなを救いたい』
『上ッから目線で何様だァ!?ここのッことも、ババアたちのことも、なにも知らねえくせに!!』
『知らないことを知っていく。俺がこうするのは、その為だと思ってるけどな』
『綺麗ごとばッか並べるテメェに何が出来る!?痛ェ思いも。辛ェ思いも知らねェ奴が、わかったような口を利くんじゃァねェ!!』
それは地雷だった。確かに、今のガーフィールが見聞きしたスバルの説得のそれは、現実を知らない幼子のような耳心地のいい言葉だっただろう。
だが、今この瞬間、部屋の空気の温度が確かに下がったのを誰もが肌で感じ取った。
『知ってるよ。地獄なら知ってる。もう、何度も見てきた──』
そう断言するスバルに気圧されたガーフィールは、そのまま聖域を抜け出していこうとするスバルを見つめることしか出来なかった。
『地獄を知ってるのは俺だけでいい。そのために俺がいるんだ』
そうやって無事に聖域を抜けて屋敷へと帰還するスバル。ただ部屋の中は今のガーフィールとスバルの会話のやり取りに何とも言えない雰囲気が立ち込めていた。
「地獄か……。確かに、スバルの歩んできた地獄は、我々が潜り抜けたライン戦線に勝るとも劣らぬほど、壮絶なものだったからな」
「ターニャがうんざりする戦場とか、想像したくねえな。まっ、俺も地獄は見てきたぜ。なにせ、初心者の街に魔王軍幹部や大物賞金首が襲来してきたうえに、その戦闘で出た街の修繕費なんかの一部がこっち負担になって4千万の借金を負ったり、貴族暗殺の疑いをかけられたりと、散々な目に合ってきたからな!!」
「お前たちも随分な地獄を目にしたみたいだな。……まあ、俺も、俺を召喚してきた国や同じように召喚された勇者らのせいでかなり痛い目にあった口だからな。スバルの気持ちは痛いほどに理解はしてやれる」
「えっ、なにその後方彼氏面みたいな言い方は?」
スバルの「地獄は知っている」という発言に触発され、ターニャをはじめカズマや尚文といった苦労人の3人が、それぞれが経験してきた地獄を語り始める。
特に、尚文なんかはスバルの境遇に畏怖しながらも共感する場面は多々あったせいで、少し前のめりになってスバルに対しての理解アピールをしたせいで、カズマから若干引いたような言葉をもらう。
ただ、幾人かは元康の顔を思い出して、尚文に対して同情めいた視線を送っていた。
「うるさい!というか、ここまで俺やターニャ、まさかのカズマまで異世界で辛い目にあってた訳だが、アインズ。あんたはどうなんだ?」
「いや、俺までってどういう意味だよ!?」
「私か?そうだな、一度だけ私の失態という形でありはしたが、すでにそのことの清算は済ました。だから、あっ──」
「他に地獄は……」と言いかけた瞬間、元の異世界で超位魔法
ここにいる者達やスクリーンに映るスバルを考え、この件は絶対に口にすべきではないと判断したアインズは、咄嗟に話を逸らした。
「──うむ、それ以外は特に無いな!」
「本当か?なんか、ヤベェって感じの雰囲気を感じたんだが?」
目ざといカズマは、アインズの咄嗟の誤魔化しが通用せず、ツッコミを入れた。
そのツッコミに対して、アインズは誤魔化し通すための苦しい弁明を口にしようとするが──、
「無礼者!アインズ様を危険に晒すなど、我ら守護者が許すとでも!?」
「そうでありんす。それに、アインズ様に地獄を見せてしまったのはわっちの……、わっちのぉぉぉ!!!」
カズマの発言が癇に障ったのか、アルベドとシャルティアが立ち上がって抗議する。
その際、シャルティアは必死に言葉を紡ぎながらも、過去にアインズに対して失態を犯した出来事を思い出したのか、頭を抱えて今にも泣き出しそうになっていた。
「ああもう!わかったわかったよ!!俺が悪かったぁ!!」
怒りを向けるアルベドと今にも泣きだしそうなシャルティアに挟まれて、カズマもこれ以上は藪蛇だと悟ってすぐに謝罪の言葉を口にする。
そうやってわちゃわちゃとしている間に、スバルはロズワール邸に到着していたのだった。
ようやく地獄なら見たまで来ましたね。このシーンでいせかるメンバーの地獄話を色々とやろうと考えてたんですけれども、もうちょっとボリューミーにした方がよかったかな?
スバルの第二の試練後にIFストーリーを入れる
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