「なるほどコレが植田家か…で?この辺りなんだな?」
玄関ホールから入り階段に向う、慎重に床を見て行くが…
「この辺だぜ?」
階段の前で床を指差すと、後藤さんは床に顔を近づけ
「ブウーッ!!」
息を吹き掛ける、ホコリが大量に舞う
「げっほ!!後藤さん!他のやり方無いのかよ」
「ゴホッ!ゴホッ!」
二人で窓を開けるが
「ん~、何も無いな…」
床に幅3ミリ程の線が見える、けど床の石材の隙間だろう
見廻すと、
「ふーん、絵が無いな……やっぱりか」
「……後藤さん、もしかして何か気付いてんのかよ?」
「まぁな、金持ちの家に必ずあって、一番処分に困るヤツが無いんだ」
?
俺達を見ると
「絵だよ、何だか殺風景に見えないか?」
そうだ、美術館になりそうって思った…絵が一枚も無い、でも処分に困る?バブルとかの頃に売ったんじゃ?
「家族の肖像画ってヤツとか歴代の当主の絵はな、他人にとって無価値だよwだから廃墟でも必ずあるもんだw」
そうか!あの屋敷にも当主の絵はあった!
「じゃあ燃やしたってのは?後藤さん、気付いてんだろ?」
「大体はな、予想だが話してやろう、乗っ取りだよ」
「この家乗っ取ったのかよ?」
「家?違うよ木村w詐欺師だぞ?戸籍も全部だwだから人前に出なくなったし肖像画が邪魔だったんだよw」
そうか!でも
「あの、何で詐欺師が何で乗っ取り?」
詐欺師や反社が年取ったらどうなる?w
「考えた事ねぇな」
「老後のために大きく儲ける…とか?」
「神崎君の意見も正しい、が」
反社は地域の迷惑老人になる場合が多い、しかし詐欺師は頭が良い、会社や個人を乗っ取る
「何でよ?」
「安定を求めるんだ、だからこの家乗っ取って娘役をあの家に嫁に出したんだろうよ」
人を騙すだけ騙して最後に安定だと?そのためメイドさんは死んだのか?
「後藤警部!」
「おぉ、悪いな吉川君」
さっきの警官が帰って来た
「本当にこれで良かったですか?」
買ってきたタバコの他に連絡した線香とフルーツ
「木村、効果あるかな?」
階段の一番下の段にリンゴなどを置く
「確か霊は線香とか花の香りは分かるって聞いたぜ」
線香も焚いてみる
「あのう、警部?何をなさるので?その人達は?」
真面目そうな若い警官
「民間の協力者だよ、ちょっと外を見てきてくれんか?」
また追い払ったな…
吉川さんと入れ替わる様に
「来たぜ……」
肩を触ると律子さんのシルエット、そして目の前で止まると
「何か困ってるみたいだぜ?キョロキョロしてる」
効果あったか?、律子さん何か見せてくれ!
目を閉じて集中
……これ、俺が買い物カゴに果物持ってる、エプロン…律子さんの記憶だ
屋敷に入り……振り返ると…五人の客、家族?丁寧に頭を下げて二階に手を……旦那様は二階におります、って感じか?
もう一度振り返ると
「ぐうっ!!」
「どうした?」
「何かで殴られたっぽい…」
更に見ると…視界が変だ…殴られたせいかぼやける…階段に向かい這っている、二階に手を伸ばす、植田家の人達に知らせる為に、一番下の段、手摺りの柱を掴もうと……そうか!!
「……木村、後藤さん、……分かった…」
手摺りの柱を掴む、動かしてみると少しカタカタする、この柱だけ手摺りと固定されてない
「…そうか、これレバーだったのか」
手前に倒すと
「ギギギギ……」
「うお危ねえっ!」
「こりゃ凄い!!」
床の石材が1メートル程階段の下にスライドする、と地下室の入口が現れた、真っ暗の中をペンライトで照らす、2メートル程下に……メイド服の律子さん……だった白骨
「律子さん偶然落ちたんだ……」
知っていれば掴まない、手を離すと元に戻ろうとする
「ずっとここに居たのかよ……」
今朝俺達は偶然にも蓋の上に居た訳だ、殴られ、さらに落ちて頭を打ったのかも知れない、それでも恩のある植田家の旦那様を探し…毎日お使いを……
「…あぁそうか、直談判に来たのは孫娘が居なくなったからか、仲居が直談判て変だとは思ったんだ」
後藤さんもライトを点ける、梯子が壁に付いてるから本来はこれで降りるのだろう、中は広そうだ
「あの婆さんの話か?」
「恐らくそっちは殺されてる……この屋敷の家族も全員な…しかし…」
中をあちこち照らすが
「遺体はこれだけみたいだな」
後藤さんにも霊視の内容を話す、が
「良し引き揚げだ、証拠も無い、終わりだ」
「えっ!?何でですか!?」
「なんでだよ後藤さん!死体が出たんだぜ!?」
「あのなぁ……現在の植田家のヤツが知らんと言ったら終わりだよ?」
この地下は隠されていた、知らないと言われても仕方ない、メイドも失踪したと言われたらそれまで
「それに何より今の霊視には殺人さえ無い、植田家を乗っ取っただけだろ?」
その通りだ……律子さんへの傷害と……事故だけ
だけど……なんだろう……この怒りはどうする?どこにブツけたら良い
「すいません後藤さん、俺は許せません」
「俺もだぜ?この家乗っ取ったヤツに何か仕返し…」
「バカな考えは止めろ!ここに来た目的は何だ?!」
珍しく怒鳴る
「……それは……」
「詐欺師の疑いがあって、君達の霊視で少なくとも植田家は入れ替わっていた可能性が『確定した』だけだ、児島の目的はそれだろ?そこで終わりだよ」
あっちの屋敷、企業グループの事件に関連した一つに過ぎない……
でも律子さんの…なんて言えば良いのか…
「…なぁ後藤さん、律子さんどうなる?まさか無縁仏とかよ」
「現状は事故死、遺族も居ないからなぁ」
「何とかならねぇのかよ?」
「なぁ二人とも良く聞け、被害者が可愛いからって肩入れしてるんじゃないか?
その気持ちは分かるつもりだ、俺だって男だからな、だが冷静になれ、
被害者にも事件にも優劣なんて無いんだ」
もしもツインテメイドじゃなかったら…あのキャラじゃなかったら…
俺達はこんな気持ちになっただろうか……
………………………………………………
数日後、とある高級老人ホーム
フカフカなソファーで待つ俺達、飾ってあるバラは本物だしなんだか全体がお洒落な談話室、聞こえてくる会話も投資だの、息子に任せた会社がどうのだの世界が違う、スタッフに出されたコーヒーはブランド物のカップで慣れなくて気を使う
そこに車椅子に座ったお爺さんが来た
「君達かな?私に会いたいとは?」
絵に描いた様な好々爺、後藤さんもこうなりそうだ
「はて、記憶に無いが誰の関係者だい?」
「初対面だぜ?」
「植田藤吉さんですね?」
俺達を見つめる目は優しい…
が、俺は無表情で続ける
「……植田藤吉になってる人ですよね?」
「…何者だ?」
片方の眉が吊り上がり90歳とは思えない目になる
「何者でもねぇよ」
「俺達は見に来たんですよ」
「何をだ?」
「アンタをだ、いや、アンタに憑いてる人達をだ」
木村が俺の肩を触る
「こんなに大勢か、植田家の人は特定出来るか?」
「分かんねぇ」
談話室の人達に多くの影がしがみついている、この人達はどれだけ恨みを買いながら……
「ヘタなカマの掛け方だなぁw、誰の差し金だい?」
「差し金ってモノじゃねぇよ?」
「三上律子さん……の…成仏の為……かな」
「三上?どうも分からんな、何が言いたい?」
「覚えてませんか?植田家のメイドさんだった人です」
目を見開く老人
「そうか…あの時の…やっぱり生きてたんだな?お前らは子か?孫か?」
いつの間にか消えていたと続ける
コーヒーを飲み干すと
「亡くなってますよ?」
「アンタも知らねぇみたいだな、地下室があってよ、落っこちたんだ」
「話が見えんなぁ?ワシを揺すりに来たんじゃないのか?」
「揺すり?冗談だろ?w」
「これから大変な人に何もしませんよw」
「……そうか、あの企業グループの解体から探られたか、だがな」
脚を擦ると
「全部時効制度撤廃前だw全て時効だよwそれに90だしこの体だ、罪には問われんさw」
ニンマリ笑う、これほど笑顔が凶悪に見えた事は無い
「あー、まぁ罪にはならないかもなw」
「無一文になるだけで済むんじゃないですか?w」
こちらも笑う
「無一文?バカな」
「バカな話じゃないんだなぁw」
後藤さんが入って来た、
「下請けや社員、取り引き先への賠償で資産を洗ったらな?創業者一族、つまりお前の娘役の旦那も借金をかかえるハメになってな」
裁判所からの紙を見せる、成年後見?何とかと書いてある
「お前の資産も全て借金に充てるだとさ、ボケ老人には判断能力が無いからな」
「何を?!ワシはボケてなど!」
低く呟くように
「分からないか?お前は娘に切られたんだよwお前はボケてると裁判所に認めさせたんだw」
今度はこっちの笑顔が凶悪
「お前は今まで騙した人を覚えているか?裏切ったヤツは?今度はお前の番らしいなぁw」
「90歳でホームレスかぁ大変だなぁw」
「生活保護って通るのかなw」
笑う俺達、この老人ホームから追い出されるだろう
この歳で安定を失う訳だ
「そ、そうだ!自首する!そうすればムショに!」
「何を言っている?ボケ老人の話を誰が聞く?w」
「律子さんのお婆さんをボケてる事にしましたよね?忘れましたか?」
「因果応報ってヤツだなw」
後藤さんは顔を近づけると低い声で
「時効になったろ?これでお前は警察が認めない限り植田藤吉を『やめられなく』なったんだ、最後まで責任取らなきゃなぁw」
……………………………………………………
「分かった分かった、済まなかったよ児島w」
海の見える高級老人ホームの近くの駅、珍しく後藤さんが児島さんに謝っている、成年後見制度?とかいう書類を植田藤吉に見せる為に裁判所と娘役に働き掛けたらしい、
もちろん娘役を脅して無理矢理ボケた事にするんだから危ない橋に決まってる
下手をすれば後藤さんは退職金無しの懲戒処分、スマホの向こうから児島さんが言っている
「ふぅ、融通が利かないヤツだw」
苦笑いで通話を切ると俺達を見て
「二人とも、これで少しは気が晴れたかい?」
「いやマジで後藤さんヤバイのかよ?」
「まぁ公文書偽造で逮捕になるかもなw」
「笑い事じゃねぇだろ?!」
「……木村、俺は今年一杯で退官だとさ、だからコレくらいやっても良いだろ?」
「え……?後藤さん引退かよ?」
「お前のお陰で地方の交番勤務が本庁警部だwありえない出世させてもらえたんだw恩返しだよw」
ベンチに座り海の方を見る
「あの、後藤さん、俺は…その……」
俺は付き合い短いし…
「あー、うん、そうだなぁ…自分達の身の振り方は好きにすれば良いが…今のバイトは悪く無いと思うよ?」
「いや後藤さん、俺達は児島さんと…合わねぇよ」
三人揃って海を見る
「……二人共児島が…うん、児島は感情で動かないからなぁ」
君達は若い、だから感情の部分が強い、だが社会は感情で決めてはならない、児島はそれを思い知らされた
「もしかしてハニートラップですか?」
「そうだwそのせいで仕事に感情を持ち込むのは危険と学んであぁなった訳だよw本来の児島は人並の情はあるんだ」
「だけど律子さんの事考えるとよ?納得出来ねぇぜ?」
……うん、それも良い、けどな?
「警察やってるとな、薄情だと思われるんだなぁ」
薄い白髪を撫でる
?
「被害者にとっては一生に何度も無い重大事件でもな?警察や裁判所にとっては1日に何件も処理する事件だったりする」
タバコを咥えると
「ニュース見てると思わないか?司法は薄情だってな?」
確かに思う、討論番組でも『もっと被害者の気持ちに寄り添った判決』がどーのこーの言ってる
「だけど仕方無いんだなぁ」
煙を吐くと
「一つ一つの事件に同情して肩入れしてるとな?こっちの身が持たなくなるんだよ」
「言ってる事は分からなくはねぇぜ?けどよ…」
「じゃあ俺達は…どうすれば?」
「花を手向けるでも念仏を唱えるでも良い、自分の気持ちに区切りをつけて前を向くしかないんだよ」
煙を吐く
「じゃないと自分がキズだらけになる、そうやって大人になるんだがなw」
「自分がキズだらけ?」
「そのうち分かる、学生の内だけでも児島を助けてやってくれw」