霊感ってカッコ良いか?   作:天海つづみ

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第26話 視点

 

 

 大晦日の昼前、駅前の賑わいを遠目に見ながらコンビニに行こうと二人で歩く

「なぁ?婆さん今日も営業してんのかな?」

「流石に夜はやらないだろうし」

「顔見に行くかw」

 

 駅の周辺、寂れた一角、潰れた居酒屋やスナックのシャッター街

 今日は行列も無くて数人しかいない

 

スグに俺達の順番が来た、が

「何だいお前等冷やかしか?w…ん?」

 俺達の後ろの方を見て突然立ち上がる占い師

「よぉ!根岸!」

 

 すると会社員風の若い男が路地から出て来る

 こっちを見ると一瞬嫌そうな顔をしたあと

「これは尾形さん!こちらで営業でしたか!」

 ニコニコ愛想笑いで来るスーツに鞄、俺達と同じくらいの年齢

「大晦日まで営業かい?」

「そりゃあ尾形さんの様にキチンと家賃納めてくれる人ばかりじゃないですからw」

「しかしアタシの顔見るなり逃げるとはどういう了見だい?w」

 

「そんな!大事な店子さんにそんな事しませんよw」

「どうだい?家賃更に半額ってのは?」

「勘弁して下さいよw」

 尾形さんてタチ悪いなぁ

 

一頻り話した後

「婆さん、不動産屋か?」

「そうだよ、アタシに事故物件紹介してくれた『親切』なヤツさw」

 

「見えてたんですか?」

 座ってたのに

 

「アイツにくっついてる霊の足が見えてたからな、あの路地からこっち覗ってたんだよw見付かりたくなくてな」

 なるほど、霊能者には付いてる霊で見分けられるのか

「どんな人が憑いてるんです?」

「学生の男だよ」

 

 ?、ナニソレ?

「……婆さん、どういう状況なんだ?」

「……えーと、関連が分かりませんね」

「イジメて自殺まで追い込んだんだろ」

 

 !!!

 そんな事あるのか?!

 

「何だ?意外かい?いくらでも居るぞそんなヤツw」

「そんなのが普通に生きてるのかよ」

「犯罪ですよ…」

 気持ち悪い

 

「当人はそんな事忘れてるよ、世の中そんなもんさ、あの手のヤツは反省なんかしない、そもそも忘れてるからな」

 タバコの煙を吐く

「だから値切る程度カワイイもんさw殺されたって当然のクズだよw」

なるほど、悪人には悪人のやり方か

「家賃いくらなんですか?」

「5千円」

「ごっ!!」

「何だい?か弱い老人に事故物件定額で貸そうってヤツだよ?ソレくらいやってもバチは当たらないさw」

 

「訴えられんじゃね?w」

 

「その日暮らしのか弱い老人だよ?重い罪に問えるはずないさw」

 バリバリ稼いでる様に見えますが?

 一人千円としても一日百人としたら…

 ……ねぇ

 

「交通事故起こすボケ老人と同じ扱いになるってか?w」

 

 うん『老人』を盾にしてるよな尾形さん

 

「ほう……お前等…物事の見方が一つしか無いんだねぇ」

 ニヤリと笑う

 

「何ですか?見方って?」

 

「根岸を例にして話すがな」

 イジメや野放しの犯罪者がのうのうと生きてたら被害者やその家族はどう思う?

「腹立つぜ?」

 だが復讐したら今度は自分が犯罪者だ、全てを失う覚悟が必要だ

「社会で生きて行けなくなりますね」

 だったら罪に問えない状況になればどうだい?

「どういう事だ?……まさか」

 老人で自称ボケとか余命宣告受けてたら罪には問えないw

 そんな歳になれば加害者にも家族がいる、本人に復讐するより効果的な標的が歩いてる訳だw

 

 まさか…最悪の胸糞案件…

  

「小学生の列に突っ込みたくもなる訳だw犯罪者ってヤツはね、自分が『一生狙われる』立場になってる事に気付かないんだよw」

 

「……俺達って視点が狭いんですか?」

「モノの見方の一つだよwこの手の『洞察力』ってのは早々身に付かない、アタシや後藤位にならないとね」

「何か…もうニュース普通に見れねぇな…」

 

「その『普通』に危機感持てないヤツが多すぎるんだ」

「?、危機感ですか?」

「人間は目と耳から入る情報から出来てるだろ」

 スマホ持ったせいで情報が絶え間なく入る、多すぎるせいで深く考えない、考える癖も付かない、それが『普通』になった

 

 何となく分かる、三行以上の文章が読めないヤツが増えてるとか

 

「自分の頭で考えない奴はスマホの記事で誘導出来るだろうよ、本当に頭の良いヤツらになw」

 

「それって戦争してる国のプロパガンダとかですか?」

「そうだよ神崎、物事の考え方が固まらない内からネットなんざ見てるとな、一見頭良いんだが簡単に流れる人間が出来る」

 煙を吐くと

「むしろそういう人間を作り出そうとしてる様に見えるよ、株で金吸い上げる為にな?ホレ、時間だ」

 片手を出す

 

アレ?

「俺達何も占って貰って無いですが?」

「人生の勉強させてやったろ?当然の対価だよw」

 

 顔見に来ただけで上手く丸め込まれた気がしてならない、が、千円払う

「毎度あり!」

 この人はどんな世の中でも逞しく生きて行くのだろう

 

 ……………………………………

 

「何だか恐い話だったな」

「そうなると選挙なんかも誘導出来るんじゃね?」

 ステマやインフルエンサーが居る理由も頷ける

 

「なぁ木村、霊が付いてる人って一杯居るのか?」

「あぁ、十人に一人位な、だけど首絞めてるのは滅多に見ないな、この前の神崎みたいに背負ってる」

「あれ?守護霊とか背後霊って居ないのか?」

「俺は専門家じゃねぇよw」

 木村の目にはそんな世界なんだな

 

「っと!ラインだ……あ?」

「どうした?」

「児島さんから呼び出しだ、急ぎだってよ」

 

 

………………………………………………

 

「こんな近くか」

「あそこに行くのか?」

 数十メートル手前でも分かる、

 現場は電車で一駅の住宅街、その中の一軒のアパート

 2階の角部屋がブルーシートで覆われている

 何でも数日前に火事が起きた、隣や階下に延焼する前に消し止めたがオカシナ所が出て来た

 ここには年金暮らしの独居老人、五十嵐優さんが住んで居た、身体が不自由ではないのに逃げ遅れたそうだ

 そして司法解剖の結果、肺や血液を調べた所、一酸化炭素中毒にはなった様だが軽い症状、

 それとは別に頭に鈍器で殴られた跡がある

 これは強盗放火の疑いがあるが手掛かりが無いそうだ

 

「んで手掛かり探せってかぁ?」

 部屋の前へ、勝手に入っても良いと児島さんから言われている

 警察のテープを潜って入ると焦げた床がザクザク音を立てる

「木村、居るのか?」

「居る、奥に爺さんが立ってる」

 流しの横、ガスコンロ辺りから火が出たんだろう、全部真っ黒で壁も焦げている、

 奥の部屋は半分位まで焼けて真っ黒、更に放水で本棚や家具が散乱している

「神崎、このモニターの数……」

「うん、多分デイトレーダーだな」

 熱で歪んだモニター、PCもあったはずだ、そして落ちてる本は投資関係ばっかり

 その中に爺さんが立っている

 

「待たせましたね」

 現れたイケメン数学教師、スーツに黒いコート

「児島さん」

「あれ?後藤さんは?」

「本庁で野暮用です」

 珍しい事もあるもんだ

「児島さんが直接来るの珍しくないですか?」

「被害者は…父の投資仲間で…大金持ちです」

「?」

 

 俺達庶民には分からない人間のネットワークには、そんな世界がある様だ、しかし金持ちが普通のアパートに一人暮らし?独居老人?何で?

 

 小声になると 

「実は容疑者を連れて来ています、反応を見て欲しいんです」

「準備良すぎね?」

 

実のところ、警察は年末年始になると交通事故警戒に人を割く、なにしろ帰省のためにサンデードライバーやペーパードライバーが動き出すし、飲酒運転も出る、捜査は開店休業になる訳だ

 そこで

「では私が協力しましょう」

 と児島さんが嘴を突っ込んだらしい、普段なら拒否されそうだが、地元警察署の英雄、後藤警部の相方となれば無下にもできない

  

と、二人の警察官に連れられて二人の男が来た、一人は俺達と変わらない歳の若い男、もう一人はハゲた爺さん

 先ずは若い方が部屋に入れられた、火災当日に荷物を配送に来たそうだ

 株主優待の調味料や食材らしい

 まだ学生のバイト

 

木村は軽く首を振る、霊が反応してないようだ

 

 今度は爺さん

「何だよ?またか?」

 ?、何の話だ?

「被害者の弟さんです、火災の次の日にも立ち合って貰ったそうです」

 あぁ、なるほど

 木村がまた軽く首を振る、こっちでもないようだ

 

「ふぅ、困りましたねぇ……お忙しい所ありがとうございました、お引き取り頂いて結構です」

 

 児島さんの言葉に戸惑う警官

「本当に宜しいんですか?」

 霊が見えないと、そりゃあ不思議だろうが、この二人は犯人ではない

 

「えぇ、もう分かりましたから」

 すっかり興味を無くした児島さん

 

「何だよ?もう良いのか?」

 不服そうな爺さん

「葬式はやっても良いんだろ?」

 

「構いませんよ?」

 

「だったら入れ歯とか無ぇかな、探しても良いか?」

 辺りを見る爺さん

 現場保存の為に触れなかったそうだ

「一通り終わっているそうですから……良いですね?」

 警官に確認する

 

 遺品か、俺達には馴染みが無いけどそんな日が来るかも知れない

 

「何かあるかなぁ、無趣味だったからなぁ兄貴は」

 机の抽斗を開けるが……

「無趣味?五十嵐優さんは株が趣味だった様ですが?」

「それよ、兄貴は数字増やす事しか頭に無くてな、ずっと引き籠もってたんだよ、いくら金増やしたって使いもしねぇし貸してもくれねぇ、何が楽しかったんだか」

 

そうか、だから変なんだ、金持ちのハズなのに独居老人って

 稼ぐ事しか興味無かったのか

 

「俺みたいに板金屋で好きなだけ車弄ってる方が幸せってもんだw」

 ニカッと笑う

 

…………なんだろう大金持ちって…目の前に居る作業着の……言ったら悪いがハゲた爺さんは幸せそうだ

 

「五十嵐さんだっけか?車の修理とかって楽しいのか?」

 遠慮なく木村が聞くが俺も思う、工業大学生としては是非聞きたい

 

「あ?俺がイジればエンジンが生き返って走るんだぞ?こんなに楽しい事があるかよ?w」

 真っ黒な押し入れをガサゴソ

 

なるほど、方向が違うだけで似たもの兄弟だ、夢中になるとソレ以外どうでも良いのかも知れない、と

「おかしいなぁ、非常用持ち出し袋が無ぇなぁ…燃えたのか?…」

「あったんですか?」

「いや、兄貴から聞いた事あんだよ、滅多に出掛けねぇから常にココに居るだろ?地震の時非難する為に用意してるってな?少しは金もあったハズだ」

「君達!聞いてるか?!遺留品にあったか?!」

 首を振る警官

 

「他にも聞いてませんか?」

 

「あー、何だ?あのアドレスとかパスワードとか……」

 机の抽斗を開ける、黒くて焦げた事務机

 爺さんは熱で歪んだメガネを見付けると

「こんなもんしか残ってねぇか…」

 少し寂しそうに爺さんも出ていく

 

 

「恐らくネットバンクのモノ…ですね、IDなどのメモもあったはず…なるほど……」

 考えると

「それを奪い……投資仲間が犯人の可能性がありますね、父に聞いてみましょう」

 

「あっ!」

 木村が突然窓から外に身を乗り出す!

「どうした?!」

「何ですか?!」

 アパートの駐車場に男が一人、足早に去っていく

「アイツに!」

 指差す木村、霊が!と続けたいんだろう

「君達!追って下さい!」

 二人の警官が走って行く

 木村の話によると霊が突然外に出て飛び掛かろうとしたそうだ

 しかし距離があった為か部屋の中に戻ってしまった

 

「顔は見ましたか?!」

「いや、一瞬で分からなかった!」

 大リーグのキャップにブルゾン、デニムにスニーカー

 体型から若そうなのは分かったが

 

数分後警官が戻ってきたが捕り逃したそうだ

 

「神崎、見てみようぜ?」

「あぁ」

「頼みます」

 

爺さんからは

アイツラアイツラアイツラ……

 そして火事の記憶だろう、隣のキッチンが燃えている

 消防士達がホースを持って……

「アイツラって言ってます」

「ふむ、犯人は二人以上か……年末ですし強盗も出ますね……」

 捜査は振り出しに戻った様だ

 

「なぁ、後藤さんに連絡してみねぇ?」

「でも用事があるって」

「婆さんが言ったろ?洞察力ってやつ、違う見方するんじゃね?」

「会議…終わってると良いですが」

 電話する児島さん

 

……………………………………………………

 

「ふーん、それで全部か?」

 スピーカーにして話す

「木村、その男はスポーツやってるように見えたか?」

「……それは分からねぇけど、太っては居なかったなぁ」

 

「神崎君、犯人は複数なんだよな?」

「はい、今まで霊が嘘言った事は無いと思います」

 

「児島、その部屋に金庫はあるか?」

「いえ、今はネットバンクの金を動かす時代ですし……」

  

「ふーん、俺には犯人が分ったが?」

「え?」

「マジか?!」

「なぜです?こんな話で?」

 

「児島よ?頭が固くなってるぞ?ソレじゃあキャリアの坊っちゃんのままだw」

 スマホの向こうで笑っている

 

「どうしたら分かりますか?」

 ここで安易に答えを聞かない児島さん、悔しいんだろう

 

「死亡推定時刻は?」

「火事の前後2時間程度と聞いています」

「児島、一酸化炭素中毒の症状って知らないか?」

「知っています、意識があっても身体が動かせず、そのまま焼死します」

「神崎君の霊視は聞いたろ?」

「……はい、それが何か?」

 暫く間が空く

 

「児島、俺達警察って善人の集まりか?」

「は?」

 こんな唖然とした児島さんの顔は初めて見る

「そんな事無いだろ?」

「?」

 

 ダメだ、何言ってんだ後藤さん?俺達にもサッパリわからない

 

「ふーっ、しょうがない」

 多分薄い白髪を撫でている

「俺の考えだ」

 1、そいつらは複数

 2、火事当日に部屋に入ってる

 3、だらしない体型はいない

 4、身体は動かないが意識のあった被害者から、非常用持ち出し袋を奪い殴る事が出来る

 

「……分かんねぇよ後藤さん」

「木村、あと一つある」

 5、ソイツらの髪などの遺留品が出た所で何の問題も無い

 

「まさか!」

「あ!そうか!」

「え?何だよ!俺だけ分かんねぇ!」

「神崎君の霊視がそのまま答えだ、児島」

「はい」

 神妙な顔

「固定観念を持つな、俺達は公務員である前に一人の人間だ」

 スマホが切れた

 

「神崎、教えてくれ」

「……消防士だよ」

「は?!」

「私もまだまだです、つい除外してしまいました…火事場泥棒をする消防士が居るとは……」

 背筋を伸ばすと

「捜査の立て直しです」

 

 

 ………………………………………………

 

 2ヶ月後、消防士5名が逮捕された、複数の火災現場で金品を漁り、ソレを質店に持ち込んだ証拠を抑えられた

 

 五十嵐さんの時は火事の際、持ち出し袋を抱えたまま倒れているのを発見した、その時袋から現金の束と金塊が見えたそうだ

 隊員の一人が袋を持ち上げると、突然目を見開き、しがみつこうとしたため袋を振り回し殴ったとの事

 金塊の入った袋で

 

 これを知って俺は愕然とした

『火事の記憶』を見たのにソレを当然と思ってしまった、死んでいたなら火事の記憶があるはず無い

 まして消防士の記憶まで

 

 見えてるモノが見えてない、確かに洞察力が無い様だ 

 

 

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