霊感ってカッコ良いか?   作:天海つづみ

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第29話 フィギュア 後

 

 

 

「あの連中が勝手に入ってきましてね、驚いて逃げ出したんですよ」

 ニヤニヤする、警察が貸し出したジャージを着るハゲたオッサン

 

「裸でか?」

 取り調べ室で睨む後藤さん

 

「仕方ないでしょ?あいつら強盗か何かでしょう?」

 

「女性が全裸で眠らされていたと言ってるが?」

 

「知りませんよw」

 あの家の庭で確保された男、名前は乃木正義45歳

 空き家に住み着いた男かと思いきや、何とあの家は自宅

 電気、ガス、水道料金を払わず止められ、固定資産税も払わず、手入れもされていない為に放置された空き家に見えていた

 

 俺達は取り調べを受けたが翌朝に解放、麻理恵さんの証言もあり『住宅』への不法侵入で厳重注意だけ、後藤さんの口添えもある為軽い処置で済んだ

 麻理恵さんは両親に付き添われ一応病院へ

 

 後から聞いた話だと確保された乃木と、俺達が坊さんだと思ってたオジサンは同一人物

 

 疑問だらけで一週間程経った頃、市内の警察署に俺と木村は呼び出された

 

会議室 

「さぁて、何から話すか…」

「後藤さん、定年じゃなかったか?」

「驚かすつもりで黙ってたんだがなぁ……」

 薄い白髪を撫でる

「こっちに戻って指導員として働く事になってなw」

 さすがに本庁には残れなかったが刑事は続けられるようだ

 

「乃木に関してこの一週間調べてみた、あーそうだ、乃木は即日帰されたよ」

 調書をヒラヒラ

 

「何でだよ!」

 立ち上がる木村

 

「まぁ聞け」

 乃木自身は何もしていない、納屋で倒れていた高田麻理恵さんを家に入れて介抱した、と言ってな?

 まぁ無理の無い解釈が出来てしまう

 それに裸でうろついていたのは自宅の庭、逮捕出来ない

 

「屁理屈じゃないですか?」

 脱がしてるのに…なぁ

 

「まぁそうとも言えるがな?無断で人の家に来て寝てる女がどうなろうと、自業自得って事だよ」

 電子タバコ吸い始める

 民事不介入……ってやつか?確かにそうかも知れない、勝手に空き家(住んでるけど)に入り込んで寝てる、そりゃ何が起きても不思議じゃ無い

 

「納得できねぇ…」

 苦い顔の木村、机を叩く

 

「霊感の無い人間には通常の解釈だ、君達は『引っ張られた』事が分かってるから解釈が変わる、そして最重要なのは」

 煙を吐くと

「乃木自身があの人形達が若い女を『引っ張る事を知っていたか』だ」

 

「どうだったんですか?」

「どうやら知ってるんだなぁ」

 ため息混じり

「だったら!」

「逮捕なんぞ出来ないだろ?」

 

 だからってそんなヤツ野放しにしたら……また同じ事に…

 

「調べた事を話してやろう」

 あの乃木は姉が居てな、話してもらえた

 乃木自身は無気力な怠け者で勉強なんぞ家でやった事がない、就職もコネで入った、しかし業務態度はマジメ、そしてなにより

「頭が良かった」

「勉強出来ないのにですか?」

 

 社会では作業の無駄を省き効率化を思い付く発想がある奴も頭が良いとされるからな

「あぁ、分かる気がするぜ?自分でツール作れるヤツとかだ」

 

 転機が来たのは十年程前、母親が死んでな、姉は既に嫁いでいたため、あの家に一人になった

 母親の葬儀の夜不思議な事が起こった、当時中学生の娘、乃木にとっては姪が一日行方不明になった

 

「まさかそこからかよ……」

 

 叔父である乃木が発見してな「納屋で寝ていた」と言ったそうだ

 しかし暫くして娘の妊娠が発覚、当然乃木は疑われたが当の娘は何も覚えていなかった、これでは話にならないし娘の将来の為にも表沙汰にせず、絶縁状態になったそうだ

 

「いつ人形に触ったんですか?」 

 

 葬儀の時に遺産の話になった、で納屋も見たんだな、当時は埃だらけだったそうだか珍しいだろ?当時中学生が入った所を想像してみろ

 

 その娘は人形の数に圧倒された…が、恐怖より興味が勝ち…奥へ進み……デカイ人形が珍しくて……想像出来る

 

「そんなヤツ放って置くのかよ?」

「何とか……こう……罰を与える事は出来ないんですか?」

 納得できない

 

「本当に頭の良いヤツだよ、自分が『楽』をするためだけに生きてる」

 仕事を辞めた、勿論税金も払わない、生活費も使わない

「まるで家を持っているホームレス…って所だよ」

 

「食費はどうしてたんだよ?」

「ソコだけは掛かりますよね?」

  

「驚くのはソコだ、乃木はな、近所の評判は凄く良いんだ」

「は?!」

「何でですか?」

 

 町会費など払わない代わりにゴミ捨て場の清掃や寺の草刈り、墓周りの掃除をいつもやっててな?周辺の老人達は良く食い物を差し入れしていた

「犯罪者っぽくないですね」

「そう、そこが違うんだよ」

 食い物は墓のお供えを失敬しても文句も言われない、

 水は公園や墓場でペットボトルで運び、風呂もその水で水浴びで済ませた、

 ゴミ捨て場の掃除も靴や服、生活用品を手に入れる為、

「つまり乃木には犯罪者の心理も無ければボランティア精神も無い、ただ『楽』がしたいだけなんだ」

 

 驚いた、そんな人間が居るのか

 

 

「人間には最低3つの欲求がある」

「食欲と性欲と……」

「あれ?あと一つは何だ?」

 

「睡眠欲だ、乃木は寝る場所と食い物を最低限の金額で手に入れたんだ…後は…」

 

「後は性欲……を満たす為……か」

「気持ちワリィ……」

  

「そこだよ、驚いたぞ?アイツハゲてさえいないw」

「「は?」」

「自分で剃ってたんだよw」

「なんでそんな事すんだよ!?」

 

「勘違いさせるためだよw」

「……どういう?」

 

 つまりだ、寺、墓場、そこを掃除するハゲた人

「君等は何を想像した?」

「坊さん……あ!!」

「そうか!!」

 

「そう、君等は勘違いした」

 他の場所で見ればホームレスにも見えたろう、しかしあの場所だからこそ活かせる姿になっていた

「後ろと横は上手く剃れなかったみたいだなw自分の姿も気にしないし見栄も無い、普通は女性に良く見られる為に自分の見た目を良くしようとするだろ?」

 

 ダイエット……嫌なワードだ、けど…うん、俺は不潔には見られたくないな

 

 

「何か……スゲェやべーやつだな…」

「なんだろう、何かが足りない気がする……」

 常識?社会性?

 

「ニートが一番楽に生きる究極の姿だw」

 ニヤリと俺達を見る、いや、なりませんよ?多分

「ある意味仙人の様なヤツだ、善悪も無く余計な物欲も目標も無い、金は持ってるが出来るだけ使わない、そして三大欲求のためだけに行動する」

 煙を吐くと

「法律上で言えば性犯罪も立証出来ないし、収入が無いから脱税で捕まえる訳にも行かない、日本の秩序から言えば本当の悪だよ」

 

「本当の悪?」

「見つけても何も出来ないって事ですよね」

 

「こんな話は君達には早いがな?本当の悪人とは刑務所の壁の上を口笛吹きながら歩くヤツだwどっちにも属さない」

 

 なるほど、法治国家に属さないし犯罪者にもならない

『究極のニート』か……

 

「で?あの人形はどうなったんだ?」

「尾形に任せた、お陰で児島の機嫌が悪いw」

「?」

「手柄にならないのに予算から尾形の『経費』出すからなw」

 

 想像出来る、苛ついてる児島さん

 

「ガチャ」

 扉が開くとジャラジャラが着いた占い師

「おう、揃ってるな」

「婆さん!」

「尾形さん!」

「尾形、どうだった?」

 

 それから詳細を話してくれた

  

 …………………………………………

 

「え?!寺じゃない?」

「寺だろ婆さん?」

「全く…ありゃあね、お堂ってんだよ」

 そもそも住居部分が無いらしい

「葬式の時だけ寺から坊さんが来て拝む為のモンだよ、昔からのデカイ寺は檀家が多くて、遠い所はそうやったんだ」

 

 小さいとは思ってた、そうだ、前の寺の時は本堂とは別に住居が…

 

「あー、乃木の話だと君達の前で自分は坊さんなんて言ってないそうだぞ?」

 ニヤニヤ見る後藤さん

 

「「え?!」」

 あれ?そうだったか?

 

「それにキッカケになった記事な、どうやら乃木自身が書いたらしい」

 !!! 

「君達は舞台装置が揃っただけで勘違いしたんだよ、店の中でエプロン着けてりゃ店員に見える様にな?w」

 凄く分かる……

 

 煙を吐くと

「尾形、人形は?」

 

「あぁ、あれは乃木が作ったモノじゃない、大元の寺に行ったらな昔人形供養をやってた事があったらしい」

 で、少し記録が残っててな?江戸末期から明治中期にかけての人形の一部を乃木家に預けたらしい

 

「何でよ?」

「嫌になった……とかですか?」

 

「坊さんだって縁起の悪いモン引き取りたく無かったんだろw」

 ニヤリと笑う

 

 なんだよソレ?

 でも喋ってる人形…霊感持ってたら…引き取りたくないよな

 

「当時檀家の総代だった乃木の家に預けた記録が残ってたよ」

 

「尾形さん、あの人形の正体は何ですか?」

 一番気になるのはソコだ

 

 

「そうだねぇ……廃仏毀釈を知ってるかい?」

「明治になった時にお寺を潰した……えーと」

 何だっけ?

「あー?神社もじゃなかったか?」

 

「正確には『幕府』についた神社仏閣だよ、『維新政府』についた側は今でも残ってる」

 幕府に付いた方は焼き討ち、大きな所は改宗させ、檀家や氏子を移動させ存続出来ない様にした

「問題はここからだ、残った小さなきぼの空の建物、さてどうなる?」

 

「ホームレスが住み着く?」

「当にあの偽坊主だな?婆さん」

「それもあるがな、新興宗教が住み着いて大量に発生したんだ」

 寺は本来坊さんの修行場だ、こっちは問題ない

 厄介なのは神社だ、本来神を降ろす場所だろ?中途半端な霊能者が利用したらどうなる?

 

 RPGなら召喚用のゲートが放置されていて、そこに見習いの召喚士?

 何が出る?

 

「どうやらその手の宗教が潰れた時に持ち込まれたそうだ、作ったのもその新興宗教かもな、多分本尊だったんだろ?」

 タバコを出すが

「だけど燃やすだけで浄化出来るか不安で乃木家に持ち込まれたんだろうよ」

 茶は出ないのか?とゴネる尾形さん

 

「あの人形どうするんですか?」

「あぁ、50000円出したらアッサリ乃木は寄越したよ」

 

「は?!」

「嘘だろ?!」

 若い女引っ張ってくれる、乃木にとっては性欲のための夢の様な『装置』だろうに

 

 ……羨ましくないやい

 

「アイツ霊感無くてなwこの前の麻理恵ちゃん、だったか?あの娘と一緒に寝かせた人形あったろ?あれが単体で引っ張ってると思ってるんだよw」

 

 増幅してる本体が分って無い、そうか、引っ張ってる本体が分からない……関係無い人形なら売っても良いと思った訳だな……

 残念こっちが本体だ

 

「デカイ中で一番地味だしな?触る確率低いと思ったんだろ?」

 なるほど

 

「で?婆さん、供養したのか?」

「開けたらやっぱり子供でな、埋めてやったよ」

「!、どこにですか?!」

 そんな危険なモノ

  

「大元の寺の共同供養塔だ」

 

 !!!

「尾形!危なくないのか?!」

 

 茶を飲み干すと

「問題無い、ありゃタダの子供、問題は棺の方だよ、内側にビッシリ文字が書かれてた」

 あれ?あの封印みたいなやつか?

「母親を欲する気持ちだけを増幅する様に作ったのかもな」

 

「婆さんでも分んねぇのか?」

 

「分かるかい!アタシが半端な霊能者に見えるか?」

 茶を飲む

「全部読めないし法則もデタラメだったが、古来権力ってヤツは女を食い物にするからね、女集める人形にされたんだろうよ」

 

 あぁ、正統な人には素人が適当に作ったモノが理解出来ないって事か

 そう言えばテレビで見るカルト宗教ってハーレム作ってる感じがする、その為の道具にされたのか

 あの子はただ母親を求めてた、いや助けて欲しかっただけかも知れない、

 その気持ちを新興宗教に利用され人形に変えられた、そして若い女を…引っ張るために使われた

 乃木の所に来て…麻理恵さんを一晩『都合の良い人形』に変える……

 その子に悪意なんて無いのに、周りの都合で…

 

「何か怒る気も無くなりました……」

 

「神崎、麻理恵さんと千尋さんに……何て説明するよコレ?」 

 

 

「知らぬが仏だ黙ってな、後で手を合わせに行ってやれ、で、問題はここからだろ後藤?」

「あぁ、女が引っ張れないと知った乃木がどうするか、だろ?」

 

 引っ張れない、と知ったら別の性犯罪に行くんじゃ?

 

「所轄に見廻りさせるしか無いよなぁ……」

 薄い白髪を撫でる

 

 余罪がどれだけあるか分からない……

 俺達が関わらなければ…バレなければ平和だったのかも知れない

 なにせ『被害者が覚えて居ない』んだ、身に覚えの無い妊娠した所で記憶が無いなら事件にならない

 完全犯罪で事件は起こってさえいない……が

 

「なんかスッキリしませんね」

パイプ椅子で脱力する 

「俺達がやった事って……何なんだコレ?」

 知らなければ良かった……か?

 

「お前等は麻理恵ちゃん助けたろ?それで十分だよw」

 

「乃木の事に責任感じる必要は無いんだ」

 

 何だろう、この煮えきらない気持ち

 事件を明るみに出したら何も知らない被害者が出るのかも知れない

 

 知らなければ平和だった……そうか

 これは追求すると……

 『何も知らない被害者が不幸になる事件』なのか

 

「じゃあ後藤、棺は貰うぞ?」

 

「そうだなぁ、『事件』が起きて無い以上…証拠品でもないな、乃木から買い取ったんだもんな」

 

「そういうこった、五万は経費に上乗せしなくて良いぞ」

 ニヤける占い師

 

「なぜだ?金にガメついお前が珍しいな」

「アタシ個人で買い取ったんだ、お前等が払うのは子供の永代供養料だけだろ」

 尾形さんてキチンとスジを通す人なんだな

 

 …………………………………………

 

「へぇ、墓仕舞いとかもこうなるのか」

「コレ観音ってヤツか?」

 菩薩?如来?何だか分からないけど広いお寺の一角で手を合わせる俺達

 

 尾形さんの話だと、棺はかなり古いものであり、作られたのは江戸初期だろうと言う話だった

 呪物にされ人形にされずっと…酷いな

 

「良し、帰ろうぜ」

「あぁ」

「なぁ、人形って念が籠もり安いって話だったよな?」

「?、それがどうした?」

 

「ハード◯フで聞いてみねぇ?w」

 ニヤける木村

 

 想像する…………

『デュフフフ、◯◯たんハァハァ』

 

「絶対ヤダ!!」

「だったらお前のアレはよ?聞いてみねぇ?w」

「そ!それも嫌だ!」

 

 スーパー◯ちゃ子の前で……思念……

 墓まで持って行こうと思います

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