寒い1月末の天気
「焼結温度と強度の関係性?」
「だめだ、何だよこのグラフ分からねぇよ」
レポートを投げ出す、今年から始まったカリキュラムらしく麻理恵さんから貰ったレポートが役に立たない……
窓を少し開けて冷たい空気に触れる、曇り空を見上げ
「……なぁ木村、何で俺には空から女の子が降って来ないんだと思う?」
遠い目のデブオタ
「現実逃避すんなwなんだよこの粉末冶金ってヤツは」
頭をガリガリする木村、元のボサボサ頭に戻って来た
スマホが光る
「ん?児島さんだ……はぁ?!」
「どうした?」
「ちょっと待て、マジで?」
「?」
「明日来いってよ」
「えっ?月曜だぞ?」
…………………………………………
関東地方の端っこの山の中、鎖で閉じられた門の奥に廃墟が見える
「ここだな」
「元は小学校で養護施設…になって…で、廃材屋か?」
学校の廃墟で鉄筋コンクリの2階建て、十年以上前に警察の捜査が入り今は安全だと言う
立ち入り禁止の看板の横、門を乗り越える
「レポート終わってねぇのにな!」
機敏に校門みたいな柵を越える木村
「バイトがっ!本業削り始めてないか?!」
あ!足が上がらん!
無様によじ登る俺
冬の寒さはキツいが雪も無い庭、雑草が枯れて簡単に進める、夏だったら葛の蔓草で建物まで行くの大変だっただろう、
スクラップの車が複数、鉄屑、プラスチックのゴミ?、コンテナが散乱する庭…いやこれグランドだよな?最初は普通の小学校だな
今日はこの建物の調査、まぁいつもの事だが問題は
『霊感を隠して調査しろ』と言う依頼
何でも本庁で新しく組んだ(組まされた)相手が敵対派閥らしく、所謂相棒ではなく『監視』役だそうだ
「面倒な事になってんのなw」
「でも今までの事考えたら当然かも」
一度転落したのに出世が早すぎるから怪しまれてる児島さん
「……これ……ヤードじゃね?」
「うん、車解体して海外に売ってたか?」
朽ちた軽自動車にトラック、車運ぶ車?バッテリーやホイール、シート、タイヤなんかが転がっている
ニュースによく出るヤツだ、違法に外国に車を流すための場所、最近では軽トラックが人気らしい
後ろでガラガラと金属音
「早かったですね」
「「児島さん!」」
門を開けて入って来る児島さん、作業着にダウンジャケット
鍵持ってたのか?さっきの俺の苦労返せ
……そしてもう一人、180cm位の痩せ型で険しい顔の男、作業着姿で40代って感じ
「西丸だ、君達の噂は聞いている」
不満気な顔で語気が強いし睨んでくる
「神崎です」
「木村です」
この男が監視か…一応当たり障りのないように…と、ジロジロ俺達を見る
「……んー?、……それっぽく無いな」
納得行かない顔をする
「何がですか?」
さすがに気分悪いぞこのオッサン
「警察に協力している者っぽくない……と西丸さんは言っているんですよ」
でしょうね、自分でもそう思う、前に三崎さんにも言われたしな
この場所の調査の理由だが、十年程前に違法ヤードとされ警察が入った、が、直前に逃げた後でもぬけの殻、何も残っていなかった
「何調べるんですか?」
「やる事なくね?」
「この子らの言う通りですよ児島警部補」
呆れ気味の西丸
「最近不思議な通報がありましてね」
つい先日、この近くの市で農家の老人が亡くなった、亡くなる直前にこの場所の事を語ったそうだ
その老人は過去に2年間行方不明になった事があり、その間この場所で働かせられた事を今になり告白、
警察に連絡しろと家族に言い亡くなったそうだ
なぜ黙っていたかと問うと、ココの事を喋ると『家族が危険になる』と脅されたそうだ
一応家族が連絡して来たが警察にとっては終わった場所、対応しなかったが
……なるほど、児島さんには興味が出た訳だ
「ヤードで奴隷みたいに働かされたって事?かな?」
老人じゃ肉体労働無理じゃないか?
「何で逃げられないようにすんだ?普通に通勤出来んじゃね?借金か?」
「そうですよね、借金返済の為に奴隷状態で働かせられた…と見るのが通常の解釈ですが……」
メガネを直す
「監禁までする意味が分かりません」
「ヤードで結論付けられましたよね?今更蒸し返して警察の威信に泥を塗るマネをしなくても良いのでは?」
嫌そうな顔の西丸だが
「西丸さん、こういう捜査の積み重ねが大事だと私は後藤さんから教わったんですよ」
笑顔で流す児島さん
2階建ての建物に入るとほとんど小さな学校みたい、最初は小学校?で、その後は機能障害や軽度の知恵遅れの人達の施設、軽作業や訓練の建物だったらしい
建物内部は荒れているが、窓ガラスは無事、落書きなども無い
散乱するお絵かき帳、塗り絵、事務机、この辺は養護学校時代かな?職員室?次は
「真っ暗な部屋ですね」
教室の一つだろうか、窓にベニヤ板が貼られて真っ暗
「スイッチあったぜ?」
木村が照明を点けた
複数のベッドがあって花札や麻雀の点棒、これはヤードになってからか?
「これ…誰か住んでません?」
布団が割と新しい
「ふむ…電気が来てますよね……」
考える児島さん
俺は木村の肩に触れる、と影が一つ、床から頭だけ出ている……という事は
「児島さん、ココ…」
あ!!霊の話はダメだっけ!!
「こっ!ここ、この変なプラスチックの棒何だろ!?」
木村の肩を揺らす
「あ?あぁ!ま、麻雀の点棒だぁ!」
あっぶね!!木村ナイス!
これやり辛いぞ
「フン、今時の大学生は麻雀も知らないのか?」
「ゲームの脱衣麻雀ばっかりでw」
「実際にはやった事も無いのか、情けない」
いちいち腹立つなこの人、自然に流せたか?
そのまま2階も見る、天井のパネルが落ちてるし少し雨漏りしてる様だ、教室は3つしかない、屋上へ出て周囲を見回すと朽ちたグローブと軟球が落ちている
上から見ると変な違和感
「……なぁ木村、ここ本当にヤードかな?」
錆びた柵越しに見る
「やっぱりそう思うか?変な感じだよな?」
「チッ、どこが変なんだ?」
何でも否定的な人だな
「二人共、言ってみて下さい」
タブレットに捜査資料を出す児島さん
「変なんです、フォークリフトとか無いと解体なんて出来ませんよ?」
簡易クレーンも無い
「あぁ、それとバーナーとか電動工具も無ぇし」
台車など作業環境のための設備が無い
「それは撤収する時持ち出したんだろう?分かりきった事を…」
「私もそれを疑ってましてね、どうやら以前の捜査は見ただけの様です」
過去の写真を見る
「児島警部補…一体何が不満で?」
お前こそ何が不満なんだよ?
「西丸さん、おかしいと思いませんか?」
タブレットを西丸に見せる児島さん
「違法ヤードには共通点があるんです」
海外に持ち出す事が目的である以上、港へのアクセスが必要です、ですから海から近く人目に付きにくい山の中が理想です
ここは最短の海まで100kmもあり…
「しかし例外もあるでしょう?」
苦い顔
「確かにありますがその場合」
タブレットには関東の地図、そこに複数の印
「高速の乗り口が近いことが絶対条件です、下道では通常警戒に引っ掛かる可能性がありますから」
「あぁ、高速遠かったですね」
「この山道も細い…あ!コンテナ車曲がれるのかコレ?!」
「おかしい所が多すぎるんですよ」
「…………」
黙った西丸、監視とは言え歳下の児島さんの『部下の立場』にされてるのが気に食わないのかも知れない
「児島さん、何よりオカシイのがボンベです」
「あ!そうだぜ!」
「……どういう事ですか?」
大学で溶接、溶断などをやると分かるが、プロパンや酸素、アセチレンなどのガスをボンベで取引業者が運ぶ、
空になったら業者が回収して、代わりに充填したボンベを置いて行く
つまり、作業していた以上ボンベがあるはずなのだ
「逃げたのが違法業者なら、きちんとボンベを返却したとは思えません、放置してるはずなんですが」
庭に見当たらないし建物内にも無かった
「ふむ……やはり君達が居ると助かりますね、やはり『偽装』の可能性が濃いです」
今度は裏手を見下ろす、と
「神崎w押すなよ!絶対押すなよ!w」
柵を掴んで巫山戯る木村
「何やってんだ……」
木村がこんな事するのは珍しい、子供か?と呆れたら俺をチラッと真剣な顔で見る
!、そうか!触れって事か!
「木村wフザケンなよw」
肩を突っ込みの様に叩きながら触り、笑いながら下を見る、と、建物の裏手、錆びたフェンスと……細長い水溜まりの様な天然の水路が見えるが
その辺りに黒い影……ここにもいた
「はぁ……まだガキだな……」
呆れる西丸
「二手に分かれましょう」
児島さんは西丸と一緒に降りていく、気付いてくれた様だ
二人が階段を降りてからコソコソ話す
「木村、水溜まりに居たよな?」
「あぁ、何があんだ?」
俺達も一階に降りて裏に周る
…………………………
「何してんだコイツ?」
霊を見る木村、俺達位の歳っぽいらしい
「ちょっと見てみる」
水路?の辺りを黒い影が揺れている、声を聞くと
ツカレタツカレタツカレタ……
やっぱり借金を理由に奴隷の様に?
と、壁の中から他の影も出て来る
……何だろう、体育館裏に集まってタバコ吸ってる不良とか?w
その影もフェンスをすり抜け、落ち葉や枯れ枝だらけの水溜まりの方へ
コレは多分…
「神崎、さっきの頭もあるし、コレ地下室パターンじゃね?」
「地下室だとしたら入り口探さなきゃだけど、中は……あの人居るしなぁ」
「仕方ねぇよ、行ってみようぜ?」
「今出て来た……この壁の裏だな」
…………………………………………
一階の廊下の北側、給湯室…とでも言うのだろうか、汚れたキッチンと廃材から作った様な風呂場がある
……本当に元は学校かコレ?ヤードの時に改造?
いやヤードが偽装なら……何だ?
「地下……入り口無ぇよな?」
「床に何にもna」
「何をしている?」
突然西丸が現れた
!!!
「いっいや、風呂があるなぁと!」
「不思議じゃね?!風呂って!」
邪魔だなこのオッサン!
「フン、児島警部補がブレーカーを探せと言っている……ここにも無い様だな」
「ブレーカー?」
「そこの部屋の照明が点いただろう、間違いなく電気は来ている…はずだが他の部屋は点かないそうだ、工大生なら分かるんじゃないか?」
出ていく、西丸が居る限り建物内部は調べるの無理そう
俺達もブレーカーや配電盤を探すが
「無いな」
「一応外で確認してみっか」
また裏手に出ると森の中から電線が来て…外壁を這わせて…コレ…後から付けたみたいだ、そのまま地面近くの通風口?の小さな鉄格子の中へ入ってる
「間違い無ぇ、地下だ、そこの霊が通ってる所に何かあるはずだ」
「まさか開くのか?この壁?」
霊が通る外壁、コンクリの壁に苔が付いて緑っぽい色……
隠し扉とか?
「ゴッ!」
木村が蹴るが普通の壁、コンクリだ
「どうなってんだコレ?」
「やっぱりさっきの給湯室?じゃないか?」
また中に戻り
「俺が見張ってる」
俺は廊下に首を出し西丸を警戒する
木村は調べると、
「あれ?神崎、これガスじゃねぇぞ」
「え?」
汚いコンロがIHの電気式、給湯器も電気っぽい、そういえばプロパンのボンベさえ見当たらないんだっけ
ガスは使ってないんだ
「電源点くぞコレ?」
「使えるのかよ?」
自炊してた、風呂もベッドもある……いや最近まで誰か居たのか?
「さっきの壁ってこの辺だよな?」
キッチン横の壁を指でコンコン叩く木村
「なぁ神崎…電気で給湯っておかしくねぇか?」
「別におかしく……あ!」
「だろ?」
水を温めるのに電気はエネルギー効率が悪すぎる、せいぜいシャワーまでだ
そこの小さい風呂にお湯を貯めるにはどれだけ電気代が掛かるか
じゃあこの風呂は何だ?と
「うおっ!出てきた!」
「どうした!?」
「浴槽の中から出やがった……何でだ?」
そのまま壁の向こうへ行ったらしい、往復してるのか?
「……木村、その浴槽、もしかして」
そう、やっぱりこの風呂場自体がオカシイ
「あれ?そうか!そもそも蛇口が無ぇよコレ!」
普通浴槽近くにはシャワーと共通の湯が出る蛇口があるはず、この浴槽…まさか
二人で浴槽に手を掛けると
「固定されてねぇ」
「やっぱり」
横にズラすと地下の入り口
……………………………………………………
「なるほど、こういう事ですか」
四人で地下に入るが……全員しゃがんでいる
理由は天井が低すぎる、高さ120cm位の学校の基礎部分、かなりの広さで青い蛍光灯?で明るい
なんと暖房が付いてるらしく暖かい
「どうやって見つけたんだ?」
不審な顔の西丸
「いや普通におかしいですよ」
「学校に風呂場なんてなw」
「……ヤードの時に改造したとは考えなかったか?」
もちろんそう見えたけどね、俺達は霊が見えてるから……
「あー、そういやそうだわw」
「考えつかなかったw」
「……フン」
馬鹿なフリしてた方が安全だな
地下には数え切れない程の植木鉢に植物が整然と並ぶ、適当に床に置かれた照明、ブレーカーや配電盤もこの場所で適当に作られた感じ
それに布団がいくつかある、亡くなった爺さんはココにいたんだろう
「児島さん、コレってまさか?」
「大麻畑……いや工場と言った所ですね」
溜息混じり
「初めて見たぜ、これが大麻なのか」
その辺の雑草みたいだが
………………………………
一階に戻ると給湯室の前の教室
「ココは見張り役がいる場所、って所でしょうね、光が漏れないようにしたんですね」
なるほど、地下に働く人を入れて見張りは遊んでる訳だ
「児島警部補、どうします?」
「西丸さん、この場所に人を張り付かせて下さい、手柄が向こうから来てくれます」
西丸はスマホで連絡をするため外に向かった
小声で
「木村君、どうでしたか?」
「多分地下に一人、この部屋の下だな、あと二人は裏の水路っぽいぜ?」
「農家の老人の時点で予想はしてましたが、まさか地下を畑にするとは」
「どうして予想ついたんですか?」
「恐らく北限だからです」
「?」
児島さんによると大麻はもっと暖かい地方じゃないと冬には枯れるそうだ
つまり安定して収穫したいなら冬に作物を作る技術と知識が必要になる
南の離島などなら割と簡単に冬でも採れるらしいがここは関東、冬は無理
だから農家だった訳か
外に出ると
「最初の通報でそこまで分かったんですか?」
「まさか、気になってこの辺りの電力消費を調べたんですよw」
「それで何が分かんだ?」
空き家など利用した大麻工場は直ぐに分かるんです、暖房、照明で電気代が大きいですから
「誰も居ないはずのヤードですよ?後ろの携帯基地局から盗電している様でした、下請けに組織の人間が入り込んでいるんでしょう」
建物裏の森にデカイ鉄塔が見える、あそこからか
「児島警部補、今日から5人体制で監視するそうです」
「ありがとう西丸さん、裏の水路も調べるように人数を増やして下さい」
「…なぜです?」
「恐らく遺体があります」
「………………根拠は?」
睨む
「作業者の口封じ、それともう一つ、見張りは『暇潰し』をしていました、大麻が沢山あるんです、バカなチンピラなら商品に手を付けます、となれば後は予想が付きますし」
「………………分かりました、一応連絡しますが……それいつ分かったんです?」
「遺体がありそうだと思ったのは門を通った瞬間です」
(は?!)
「匂い…とでも言うのでしょうか、事件性を感じたんです」
(いや俺達の力だろ?!澄ました顔でペラペラ嘘が良く出るなこの人)
「それに西丸さん、警察の威信と貴方は言われたが、そのプライドが危険なんです」
児島さんは見廻す
「一度調べたから安全?ヤードと結論付けたから安全?警察が調べたから『ずっと犯罪が起こらない』なんて事はありません」
そりゃそうだ
「むしろ一度調べた所こそ調べ直すんですよ、下らないプライドなんて要りません」
表情が更に険しくなる
「しかしっ!蒸し返したせいで警察が過去の恥をsa」
「晒せば良いじゃないですかw大事なのは市民を守る事ですよ?w」
「!……………………」
怒って無言で車に行く西丸
小声で
「何か因縁みたいなモノあります?」
やっぱり西丸の態度はおかしい
「クリスマスのトンネルの件があったでしょう?その時の管理官の部下なんですよあの人」
後藤さんを辞めさせようとしていた派閥の…今は高い地位にいるってアレか
「あーそうか、上司の弱み握られたから児島さんに当たりが強いってかw」
「コレだけやれば異動願いを出すでしょう、あの人は邪魔ですからね」
「これで監視は無くなりますか?」
「さて、また来たら来たでプライドを圧し折ってやりましょうw」
「後藤さんに似てきてねぇ?w」
「一応私は弟子ですからねw」