「つまりココは人の世とは少しだけズレた世界に御座います」
地面に正座する花魁、木村が名前を呼んだらアッサリ出て来た
「なるほどねぇ」
向かいに胡座で頷く占い師
シラヌシさんの山、先ほどまでの漆黒の闇ではなく昼の明るさ
「どういう事だ?ココ平行世界ってやつだったのか?」
キョロキョロ辺りを見て首を傾げる木村、辺りは明るい、が、太陽も無ければ陰も無い、前回は全然気が付かなかった
「大体合ってるよ、昔から神隠しってやつはこの世界に迷い込む事を指すからね、陰陽師なんかはこの世界を『冥府渡り』とか『異界渡り』なんて言って行き来できたそうだよ」
花魁に向き直ると
「つまり神崎はこっちの世界に居るヤツに攫われた、そういう事だね?」
「はい、恐らくずっと機会を伺って居たのでしょう、わたくしが授けた加護はコチラの世界を通してこの山への避難……一度加護が消えますので、その途中で……」
「相手が分からないのかい?」
「お役に立てず申し訳御座いません」
また深々と頭を下げる
「どうやら現世に神崎様はおられる様です、こちらに気配がありません」
「婆さん、これ以上シラヌシさん責めても仕方無ぇよ?」
「……そうだね、しかし困ったね…何の手掛かりも無しか……仕方ない……戻してくれるかい?あぁ先にコイツをな」
顎で指す
「あ?何でよ?」
「ちょっとな」
先に消える木村、と
「さて」
シラヌシさんに向かい正座してビシッと姿勢を正すと
「いかに元は人食いなれど、神性を受け神と成られたお方に先程迄の態度、言動、どうか許されたい…」
丁寧に頭を下げる尾形
「良い、そなたには何の義理も無いし顕現してやる理由も無い、しかしながら木村様は我が主(あるじ)の恩人、その血縁が他人行儀な呼び方をしておる、何か事情があると見えた」
さっきとは態度が打って変わり凛とした花魁
「ご推察、お気遣い誠に恐れ入って御座います、そしてもう一つ、孫に加護を与えて下さり御礼の言葉も見付かりません」
平伏する
「何かと事情があるのだろう?それは聞かん、もう戻れ、そして神崎様を探しておくれ、これはわたくしからの頼みじゃ」
頭を下げる
「心得ました」
平身低頭
「気をつけよ、神崎様は普通ではない」
真っ直ぐ見据えると顔が狐に変化して行く
「と申されますと?」
「出会った時に比べ『コチラ』のモノを惹きつける様に成って来ている」
全体が白い大きな狐に変わって行く
「ご忠告、ありがたく」
「あ?何がよ?」
「あ?」
真っ暗の森で木村がライトを向ける
「……アタシは何分位遅れて戻った?」
「あ?分?3〜4秒しか経ってねぇよ?」
…………………………………………………………
翌 月曜 警察署会議室
「収穫無しかぁ…」
薄い白髪を撫でる後藤さん
「まぁあるとすれば犯人は人間じゃない事、そして自分から居なくなった訳じゃ無い事だねぇ」
禁煙なのに遠慮なくタバコ吸い始める
「そっちは何か分かったかい?」
「いやぁ……通常の捜査じゃあなぁ……」
……………………………………………………
「アニメのファイルか……凄い数……」
デスクトップを見る千尋
「神崎君はアニメとゲーム好きですからね、形式の違うデータは…見当たりませんね…」
こっちはノートPC、二人でデータを調べ続ける
「プロパティ…………ん?60ギガ?ちょっと大きいな」
「どうかしました?」
「ちょっと待って下さい」
アニメのサムネを送って行くとファイルが見付かる
「……これ一つで31ギガある……ここに何か……」
ガ◯ダムのアイコン、開くと
「うっ………………………………」
小さく呻く
「どうしました?」
「……あの……これ……全部調べま…す?」
真っ赤で顔を伏せ、モニターを指差す
そこには2次元の未成年閲覧禁止動画が大量
「これは………………後藤さん、神崎君は自分の意思で失踪していませんね」
疲れた顔
「何か見付かったか?」
「何?どうしたの?」
後藤と麻理恵も集まる、そして全員無言に
「一つ見てみますか……」
クリックすると間違いなく何処かのサイトからダウンロードした動画、いかがわしく怪しく猥褻な……2次元……
「うっわぁエグっ……」
「……男の人って……こういうの好きなの?」
「良いですか?勘違いしないで下さい、男全員が好きな訳ではありませんよ?」
念を押す
「…うん…なるほどな、コレを放置して家出はないだろうなぁ」
顔を覆う後藤
「……神崎君って……ヘンタイ?」
俯いたままの千尋
「ま、まぁアレよwアイツ帰って来たら説教だねw」
「神崎君は……児島、コレが草食系ってやつか?」
「ちょっと違います、さすがにこれは男として指導が必要の様です、現実の女性に興味が無いのでしょう、帰って来たら矯正ですね」
メガネが光る児島
…………………………………………
『うっわ!やべぇ!』
話を聞いてPCのヤバいデータは全部消そうと心に誓う木村
「て訳でな、こっちも分かったのは自分からの失踪ではなさそうな事と」
メモを取り出すと
「えーと……ブックマーク…あー、検索ログ?に残っていたのはオカルトサイトで廃村ばかり調べていた事だな」
「あ!そうだぜ!何だか知らねぇけどアイツ廃村行きたいってずっと言っててよ」
話題が変わり安心した
「廃村……この前式神見つけたが……どうも分からないね、何で廃村に執着する……」
腕組みで考える
「木村、お前大学どうした?」
「こんな時に行けるかよ」
ノックの音がすると
「失礼します、一応大学から親御さんへ連絡して頂く様になりました」
入る児島
「子供じゃないですから直ぐに対応するのもどうかと思いましたが」
「行方不明は確定してるからなぁ」
薄い白髪を撫でる
「神崎の休学か……なぁ児島さん、行方不明届って俺が書いても良いのか?」
「木村、それは親がやる事だ」
禁煙だが後藤も電子タバコを出す
「しかし完全に手詰まりだな……」
神崎君は霊的なモノに奪われた、しかしどうやらこの世界に居る
「警察の捜査や推理の外、つまり木村と尾形の領域だと思ったが……」
「現世に居るって言われたよ、こっちも手掛かり無しだ、まるで分からないねぇ」
煙を吐く占い師
「木村君、君は講義に出なさい」
「こんな時にかよ?」
「こんな時だからです……っと」
児島のスマホに着信
「おや、大学の事務局の……早いですね」
スピーカーにして出ると
「児島さんの携帯でお間違い無いでしょうか?」
「森瀬ちゃん!」
児島との連絡手段を!
「お願いした神崎君のご実家への連ra」
「その事です、おかしいんです!」
「どうしました?」
「休学ではなく除籍にして欲しいと!」
「はい?」
神崎の実家へ行方不明の話をしたところ、いきなりそう言われたそうだ
「児島、明らかに反応が早すぎるぞ?」
目つきが変わる後藤
「ええ、まるでこうなる事が分っていた様な反応です」
「木村、除籍って何だい?」
「退学って意味だ!変だぜ?」
通常行方不明になると事件、事故などの観点から大学は休学を勧める
普通の家族ならばその勧めに応じ休学とする
捜査の結果、死亡が確認されて除籍となる訳だが、行方不明なら
「最低でも半年〜1年は休学扱いにしたいはずだ」
顰めっ面の後藤
「これじゃあ神崎君の行方不明になった事、もう帰って来ない事を知ってるみたいじゃないか?」
「後藤、どうやら手詰まりじゃあ無い様だね、神崎の家に行くぞ」
立ち上がる占い師
「明らかに不審ですね、準備します」
「俺も行くぜ?」
「大学はどうするんです?」
「出ても気になって何も出来ねぇよ」
「児島、神崎家にこっちから連絡して全員居るようにしろ」
…………………………………………
キャンピングカーで高速を走る、ナビでは大した距離ではないらしい
「何だよ、神崎の実家って通学圏内じゃね?」
助手席に木村
「乗り換えが面倒とかじゃないですか?」
運転は児島、後ろには二人が小さな声で話している
「なぁ後藤、お前等が神崎探す理由は……利用する為か?」
腕組みして仏頂面
「俺はなぁ、自分の地域の事件解決が出来れば良いと思ってたんだ……けどな、児島の親父さん辺りはもっと大きい思惑があるらしいな」
「それだけかい?」
「……木村の一生の友人になるだろうしなぁ、何より情が移っちまった、俺にとっちゃあ……二人共息子みたいなモンだよw」
「……そうかい」
「……聞き捨てならない……か?祖母としては?」
チラッと木村を見ると尾形も見る
「いや……良い……お前等が一志と神崎をどう思ってるか知りたかった」
…………………………………………
「アイツ海見慣れてんだな……」
神崎の実家、千葉県の県庁からほんの数キロの住宅街、東京湾がすぐ近く
「県の中心に県庁ってあるわけじゃねぇのな?」
ナビの画面を拡大
「千葉県は北西部に機能が集中してるんですよ」
神崎の実家、2階の一戸建て、ちょっと古めで中古物件を買ったのだろう
「良し、俺と児島……それから尾形、来てくれ」
降りる後藤
「後藤さん!俺はよ?!」
「木村君、留守番をお願いします、警察に駐禁取られそうになったら」
名刺を出すと
「コレを見せて『捜査中です』と言えばどうにでもなります」
「押すぞ、尾形は何か見えたら教えてくれ」
「分かってるよ」
インターホンで警察と言うと直ぐに玄関から
「はい、確かに宗則は家の長男です」
母親に迎えられた
…………………………………………
「そうなんですよ、この人がいきなり除籍って言ったんです、私も言ったんですよ?いくら何でも早いって」
元教員 母親 綾子
横には父親 喜一
連絡を受けて帰って来た
「何故です?いくら何でもオカシイでしょう?中高生じゃありませんし」
和室の座卓を囲む
「手続上大学には行方不明と届けたがね……喜一さん、アンタの反応が早すぎるんだ、そうなるとこっちも疑いたくなるってもんだ、商売なんでね」
後藤も流石に笑わない
尾形は少し離れて座り見ている
「…宗則は……居なくなったんですよね?」
真面目そうな父親が口を開く
「恐らく……知っている事があれば言って下さい」
霊的な話は避ける児島
「……同じなんですよ……私の兄もそうでした」
俯いたまま
「見つからなかった……」
首を振る
「え?お兄さん?!」
横の母親が驚いた様に
「私お兄さん居るなんて初めて聞いたけど?」
後藤と児島、そして尾形も顔を見合わせる、身内に行方不明者がいるなんて初めて聞いた、神崎の叔父も行方不明?
「宗則と同じ位の歳に……行方不明になってそれっきりなんだ……」
顔を覆う
その瞬間尾形の目付きが変わる
「その時に行方不明届けは?平成ですね?」
タブレットを起動するが……行方不明者のデータが電子化されていないかも知れない
「出す必要は無いと……オヤジに……繰り返すのか……何なんだコレは」
「ちょっと!繰り返すって何?!宗則は何処に行ったのよ!」
「………………ちょっと良いかい?」
尾形が前に出る
「あぁ、アタシは見ての通り警察じゃない、しがない占い師だ、茶貰えるかい?」
正座して飲むと
「その口振りだとアンタの父親の兄も消えたんじゃないか?」
「………………」
「話から察するに、この家では代々長男が消える……そうだろ?」
「何だ尾形?!どういう事だ?!」
「黙ってろ」
喜一を見ると
「神崎……あぁ宗則だっけか、の弟が居ない様だが?」
「現場仕事で休めないと」
母親が答える
「コレは……まぁアタシの予想だがね?弟の名前に『一』が入ってるんじゃないか?」
腕組みする
「そうです」
「そしてアンタも次男だな?」
喜一は話す、この家には末永く幸せになる為の口伝がある
長男の名前には『一』を付けてはならない
次男の名前に『一』を付けろと
「弟の名前は?」
「総一郎です」
「やっぱりそうかい」
ため息
「尾形、どういう事だ?」
「後藤、割と閉鎖された地域に伝わる習わし、伝統、今の口伝ってヤツもそうだがな、真面目なヤツ程考え無しに守るんだ」
茶を飲むと
「そして形だけ残り、それの本質が何なのかを忘れちまう」
「だから何だ?何が言いたい?」
「分からないかい?何かしらの呪縛だよ」
…………………………………………………………
シラヌシさんを怒らせたらしい、ずっと真っ暗の世界
自分の手さえ見えないし、目を開けているのか閉じているのかさえ分からない
地面は砂利を敷き詰めたみたいになってるし、今背中を預けている壁は石を積み上げたモノらしい
一度スマホで辺りを見てみたが、バッテリーが心配になり、偶に点けて時間を見る程度
もうすぐ24時間
最初は慌てて木村とシラヌシさんを呼んだが、反応が無いため諦めた
多分木村もこんな所に飛ばされてるんだろう、かと言ってシラヌシさんもそこまで怒ってないと思う
何か小さい頃にイタズラして怒られた時に似てるなぁ……押し入れに閉じ込められたなぁ……
スマホを点ける、5分も経っていない
寝るのも飽きたと思っていたが、起きてるのか寝てるのかも分からなくなりそうだ
圏外だし通信も出来ない、一応充電ケーブル持ってるけどコンセントも無いし……
あぁ、シラヌシさんの世界って時間の……感覚……ズレて……たよなぁ