霊感ってカッコ良いか?   作:天海つづみ

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第37話 因習

 

 

 枯れた雑草の中に残る劣化したアスファルトの道、朝日に照らされながら霧が残る廃村を歩く、気温が低く吐く息は白い

 山間の谷で四方が高いために、朝日はまだ直接来ない……幻想的と言える風景

 

 その中を木村の案内でゾロゾロ歩く

 最後尾に小型重機や荷物を載せた軽トラックが無ければもっと情緒ある絵面だろう

 

「と言う訳で平成元年までは人が住んでいたんですよ」

 バックパックからタブレットを取り出し、歩きながら読む児島

「なるほどね、概要は分かった、滉大、どう思う?」

「そうだな、蛇神系なら宇賀神の系列、稲荷なら伏見でも笠間でも使えるが……何を祀ったかは見てみないとな?」

「こんな村を裕福にしたんだ、普通なら農神だがな」

 

 その『業界』じゃないと分からない会話

 

「児島さんがアタッシュケースじゃなくバックパックって珍しくね?」

「神崎君がどんな状態か分かりませんからね、水分と食べるモノを少し持って来たんですよ」

「……生きてるよな?」

「そうでないと困ります」

 やはり口に出さないだけで、その可能性は付き纏う

 

 立ち止まる木村

「あれ?道が出来てる?この藪の先なんだけどよ」

 藪の細い竹や松の木を切り開いた細い道の様なモノが出来ている

 

「木村、確かこの先に神社があるんだよな?去年遺体を回収するのに車通れる様にしたはずだ」

 タブレットを覗き込む後藤

「新しい地図では村はここで終わりですからね」

 

「よし木村、去年神崎と来た時の事を話せ、出来るだけ詳しくな」

 タバコに火を点ける占い師

 

 ……………………………………

 

「そりゃオカシイだろ?」

 藪の前で話し合い

「あ?何でよ?」

「神崎は『見えてる』お前に触ってるから『見える』んだろ?」

 煙を吐く

「そうだぜ?」

「何で見失ってるのに神崎は『見えて』たんだ?」

 

 尾形の言葉に首を傾げる木村、記憶違い?

「それに祭りの風景の中に……その婆さんが子供になった影を『見て』たんだろ?ソレもオカシイんだよ」

「あ?何か変か?」

 首を捻る

 

「鈍いね、神崎は霊の記憶を見てるだろ?」

「そうだぜ?」

「霊の視点で記憶見てるんだぞ?その子供の視点になってないとオカシイだろ?」

「……………………あ?!そうか!」

 

「……なぁ尾形、俺の想像だがな?神崎君は……違うヤツの記憶見てないか?」

 電子タバコの煙を吐く

 

「!!!」

 表情が変わる木村、あの時……この藪を掻き分けている時……想像する

 息が掛かりそうな位、背中にピッタリと着く存在

 そんなのが居た?

 

「その通り、お前等の至近距離に別の存在が居たんだね、今は何も感じないが……」

 タバコを捨てて踏み付ける

「ここから先は注意しながら行くぞ」

 

 藪の先へ、パワーショベルと竹を載せた軽トラックは道を掻き分けながら進む

 熊笹にも去年の轍がうっすら残る

 

 広場の様な背の低い熊笹を踏みながら

「こっちだぜ」

 左の緩やかな上り坂へ、登り切ると枯れた雑草の中に朽ちた神社

 

「姉ちゃん、これじゃ祀神が何だか分からないぞ?」

 朽ちた鳥居、崩れた……いや破壊された狛犬?、焼けて崩れた社

「まぁやり方は大して変わらない、さて」

 振り返ると祓い師達へ

「今は部外者の立場であるアタシの頼みを聞いてくれてありがとう」

 頭を下げるが

「姉ちゃん、今は『依頼者』だぜ?それにな」

 全員を見渡す

「この中で最高の祓い師は姉ちゃんなんだぜ?」

 皆ウンウン頷く

 

「皆ありがとうよ……滉大」

「おう、準備だ!!」

 軽トラックから竹を降ろす、3メートル程で上の方だけ枝葉がある

「後藤、児島、木村、手伝え」

 それを5メートル程の間隔を開けて神社の敷地を囲むように地面に刺す

 同時に小型パワーショベルで神社の残骸を取り除くと、尾形は地面に手を当てる

「何処かに入り口は……奥殿がこの辺りだよな……」

 想像する

 

「次だ!」

 滉大の指示で滞り無く進む、竹の囲みの内側に更に竹の列を作ると

「次!社殿の辺りを囲んでくれ!」

 更に小さく竹の列、その中にパワーショベルも入る

「姉ちゃんどうする?壊すか?」

 

「見付からないからね、力技も使うさ、始めよう」

 

 全員が神主と巫女衣装に着替えると、トラックから長い藁の縄を出す、御札や御幣(ごへい)の付いた長い縄

 それを竹に結ぶと社を囲む様に3重の囲いの様になる

 

 竹の穂先と飾りや御札がサラサラと風に鳴る

 その中に41名の神官と巫女、二人の刑事と木村

 尾形が号令をかける 

「さてこっからだ、全員聞いてくれ!!ここの神は今は弱ってる!本体が他に居るからだ!だが油断するな!」

 滉大と呼ばれる神主と尾形は大幣(おおぬさ)を持つと

「木村、後藤、児島、お前等も入れ!」

 囲いの真ん中へ入る

 

「良し!閉じろ!」

 3重の囲い、最後の3箇所が結ばれると一斉に祝詞が始まる

 一気に緊張感が増す

 

「…………ほう、結界作っても気付かない……いや、動けない…か?……幸いだね、この辺りだ!やってくれ!」

 滉大と尾形も祝詞を唱える中で、社があった地面を重機で掘り始める

 1メートルも掘らない内に

「ガコン!」

 何かに当たった!

「構わず掘れ!壊れたらアタシが新しいの買ってやる!」

 

  

……………………………………………………

  

「ゴゴン……」

「…………ん?」

 何の音?何だか眠い、ひたすら眠い……

 

「……グルルル………………」

 ……?、犬?いや狐?の唸り声?

 …シラヌシさん…怒ってる?……まぁ良いや……寝よう……

 

 

…………………………………………

 

「姉ちゃんコレ玄室か?」

「やっぱりあったね、構わずやれ!!」

 パワーショベルのバケットで何度も叩くと一部が剥がれた、更に叩いて剥がして行くと

「ボコッ」

 と一部が中に崩れる

「後藤!児島!見てみろ!」

 後藤が頭を突っ込みライトで照らす

「神崎君!!」

「居るんですか?!」

「後藤!どの辺りだ?!」

「奥にいる!このままそこ掘ってくれ!」

 更に掘り進めると

「ドサドサズザー!」

 天井の半分程が崩落、砂埃が落ち着くと

「神崎!!」

 砂埃の中にバックパックを抱えたまま横たわる

 木村が降りようとするが止める尾形

「何だよ婆さん!?」

「しっ!!」

 人差し指を口へ

「喋るな……お前に敵意を持ってるんだ、お前だけは最後まで……良く見ろ」

 石の部屋、その中央を指差す、丸くなった黒いモノ

 小声で

「何だよアレ?」

「姉ちゃん……動かねぇぞ?今の内に」

 滉大にも見えるらしい

「いや、アレは本体じゃない、分身みたいなもんだよ、これから本体を入れるんだ、木村はアタシの後ろに居な」

 顎で後藤と児島に合図すると二人が降りる

「おい神崎君!」

「大丈夫ですか!?」

 呼吸を確認、体を起こしてバシバシ背中と頬を叩く

 

「う……う?まぶ……ひ……?」

 アレ?俺今起きてるのか?

「神崎君!分かるか?!」

 肩を揺する

「しっかりしなさい!」

 二人で肩を貸し崩れた斜面を登る

 

「……こひ……まひゃん?」

 アレ?何で俺喋れないんだ?体も動かない、何で?眠かっただけなのに

 

「衰弱してます!」

 とりあえず尾形の横に寝かせる、意識が朦朧としている

「児島!丁度良いコレ飲ませろ!」

 神崎の開きっぱなしのバックパックからスポドリを取り出すと児島に渡す

「神崎君、飲めますか?」

「未開封?何で飲んでなかったんだ?」

 一口、口に含ませた瞬間

「ごっごっごっ……」

 一気に飲み干す、と

 

 

 

「……おのれ」

 獣の声が辺りに響く、尾形を除く全員がビクッとなる

「また贄を奪う気か……」

 丸い影が立ち上がると形が見える

 

「おぉ!!姉ちゃん!コレ山犬だ!山犬信仰だぞ?!」

 

真っ黒な犬だ、霊感の無い後藤と児島には青く光って見える

「尾形!何だこの犬は?!」

「柴犬の……神様ですか?」

 メガネを直す

 

「お前等にも見えるのかい、どんな感じだ?」

「青く光ってるぞ?」

 首を傾げる後藤

 

「結界に反応して小さい火花が青く光ってるんだよ」

 指差すと

「静電気の火花みたいなもんだ、それより神崎を起こせ、児島、頼んだモノは?」

 

「用意出来てます」

 バックパックを開けるとタブレットの他に菓子パンとペットボトル、そして見慣れない大きさの携帯電話

「木村君、もっと食べさせてあげて下さい」

  

「おい神崎!コレ食え!」

「木村!大声出すな!」

 二つのバックパックから菓子パンやポテチやカロリー◯イト、お茶もある、それらを貪る様に喰うと

 

「……あれ?えーと……」

 モゴモゴ食べながら周囲を見廻す、なにこの状況?

 急激に回復する神崎

「木村、シラヌシさんは?」

 

「そこからかよ!」

 

「……その声……居るな……あの時の小僧だな……また贄を逃がす気か」

 こっちに向かい唸る犬

 

「木村、黙ってろ、アタシが説明する」

  

 

……………………………………………………

  

「俺の家って生贄出す家だったのか…」

「そうだよ、けどそれを止める交渉が出来るのもお前自身なんだよ」

 穴の縁に立つ

  

「あ!そうか!」

 あの免許証を取り出す

「じゃあコレはオヤジの兄…俺の叔父さん…?」

 

「そうだね、年代的に間違いなさそうだ」

 手に取り見る巫女衣装の占い師

「さぁ神崎、お前どうしたい?」

「?」

「このままだとお前も、お前の甥っ子も生贄だぞ?」

「何て言えば良いんですか?」

「思った事そのまま言ってみな、アンタしか止められないからね」

 

 恐る恐る下の犬に向かい

「あの……生贄辞めて良いですか?」

「巫山戯るな!利用するだけで今更辞めるだと?!」

 唸る犬、その瞬間風景が見える

 

 山の中を歩く五人の男女、赤ん坊を抱く者も居る、若いがボロボロで疲れている、どこかから逃げて…髪型が……丁髷よりも古そうだ……

 平安時代とか?

 山の中でデカくて白い犬の前で平伏する、何かをお願いしてる?

 赤ん坊を差し出した……白い犬は……ひと口で……

 

 その途端、五人の前に雉が出て来て……横に……え?死んだ?

 羽をむしってそのまま喰い始める五人、口を血だらけにしながら

 なんだか人間か犬か分からない……

 

「……これ?これが最初?」

「アタシにも見えた……」

「姉ちゃん!何だ今の?!」

 祝詞が止まっている、霊感がある者全員が見えたらしい

 

「この神様の記憶……?」

「神崎、もっと聞いてみな」

  

「先祖を助けてもらったのは分かりました、でも…もう時代が違います」

 ひざまずく

 

「……いつもお前達はそう言う……」

 唸る犬

 また記憶が見える、ボロ布じゃなくなり髪を結い、畑を耕す人……随分人口が増えたらしい

 養蚕も始まった、身なりが良くなって行き、家も立派になっていく

 多くの商人だろうか、何人もの人達が金を落とすようになって来た

 遂には正面の峠道を貫通させてトンネルを掘って行く

 次々に時代が流れる

 たまに苦しい時も来る、地震や台風だろうか

 食料が無い時は山の獣を村人に与えている

  

「貴方のお陰で今の俺が居るのは分かります」

 土下座すると

「でもこの村は終わったんです!終わりにして下さい!」

 

「今更止められるか!!」

 神崎の真下まで来て唸る

 

 トンネルを通る大勢の人、祭りだ

 チラホラと洋服姿が増えだした、電柱が建てられ夜に街灯

 茅葺き屋根から瓦屋根の家へ変わる、水路もコンクリートの……昭和かな?

 トンネルも大きくなりコンクリートになった

 

 男が皆軍服っぽい服になる、同時に皆身なりが粗末になる

 多分戦争だ、生活が苦しくなっている

 

 神社で老人達や女達が祈る

 

 それに答えて……山の獣を……それを喜ぶ村人

 

 この頃は日本がドン底になった時代だと聞く

 

 その時もこの神様は救ってくれたんだ……でも

 

「もう誰も住んでないじゃないですか!この村は終わったんです!」

「またワシを捨てるか!人間!!」

 

『また?』またって?過去にもあったのか?

 

 男達が復員したのか人が増え、祭りが派手になって来た

 

 

 そして…………神社で五人の人が祈っている映像

 先頭に神主……後ろに警官と坊さん?あと二人はスーツ姿、何だこの取り合わせ?

 

 あれ?ダムの時率先して出て行った…やべ、忘れた

 

 もしかして最初の五人の子孫?

 で、やっぱりこの神主が俺の曾祖父さん?もっと上?

 何か言ってる…神社に向かって話してる?

 そして……え?

 火を点けた!神社を燃やしてる?!火事の原因この人達?!

 

 …そうか!昭和30年にも村を終わらせようとしたのか!

 この神様捨てようとしたんだ!

   

「言葉で謝っても足りないかもしれません!でも終わりにしてください!」

「ワシはどうなる?!人間ども!」

「それは御免なさい!でも終わったんです!」

 平謝りするしかない

 

 水神の時尾形さんに言われた事を思い出す、この神様は今死の淵でギリギリもがいてるんだろう

 

 人の願いを聞いて生かし

 人の願いを聞いて村を大きくした

 苦しい時に村民を助け続けた

 そして都合が悪くなれば一方的に捨てられた

 都合の良い時だけは感謝するくせに、すぐに忘れて捨てたんだ

 

 人間の方がよっぽど悪だ!

 俺の先祖こそが悪だ!

 そして今同じ事してる俺も悪だ!

 

 

 ……けど

「今まで……どうも……ありがとうございました…もう許して…下さい」

 涙が出る、昭和にもこうやって人間から一方的に別れを言われたんだろう

 この神様はどれほど辛かったろう

 

「……おのれ……この恨み、晴らしてやろう」

 一回り大きくなった黒い犬

 

「フン……とうとう言ったね?」

 見下ろし睨む占い師

 

「何だ人間んんんっ」

 唸る犬

 

「神ってのはねぇ?天罰を黙って与えるもんさ、恨み言なんて言わずにね」

「……貴様……お前も食い殺してやろうか」

 バチバチ青い火花が大きくなる

 

「フン、ムリすんじゃないよ、シラヌシさんから神崎奪うのに全力使って、目の前の生贄喰う事さえ出来なかったヤツが」

「……神を前に不遜な態度を取るではないか」

 睨み合う

 

「神だって?今契約に無いアタシを食い殺すっていったな……お前はもう神じゃ無くなってるね?児島ぁ!」

「はい!」

 衛星電話に電話番号を打ち込み尾形に渡す

 

「全員聞け!本体が来るぞ!」

 電話に向かい

「喜一さん!呼べ!!」

  

 

 

 

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