霊感ってカッコ良いか?   作:天海つづみ

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第38話 信仰の差

 

 

「武蔵の中に……何かが居る?」

「そうだ」

 神崎の実家、和室に喜一と占い師

「それを…消す事が出来ると?」

「…タバコ…吸って良いかい?」

「灰皿が……」

「いや、コレがある」

 携帯型の灰皿を取り出し火を点けた、煙を吐き

「ふぅ…喜一さん、アンタも薄々気が付いてるはずだ、この家の長男が居なくなる事と名前の意味に」

 

「…………」

 自信が無さそうな疲れた顔

 

「だからそんな態度なんだろ?武蔵って名前にしたのはアンタ…だな?」

 

「…………」

 

「自分で自分の子と孫を消そうとしてるかも知れない罪悪感だよな?」

 

 

「……やっぱりこの家の口伝は……」

 

「次男に『一』を付ける、つまり次男を『最初の子供』にする意味がある、って事は……」

 

「長男は最初から……」

 

「どこかで歪んで伝わった様だね、たとえ貧乏になろうと長男が居なくなるのは不幸、そうだろ?」

 

「どうすれば……」

「一つ賭けてみないかい?」

「賭け?」

「あぁ、このままじゃ二人失う、それは確実だが上手く行けば武蔵は助かるかも知れない」

 

「…………助かる……」

 目に光が刺す

 

「やる事は簡単だ、どうする?」

 

「……もしも…その…失敗したら……」

「やらなくても結局二人消えるよ?そっちの方が最大の失敗だと思うよ?」

 

 考える喜一

「………………やってみます」

 

「よし、それなら」

 紙にある文字を書き封筒に入れる

「恐らく数日中に勝負になる、家族全員揃えとけ、アタシが電話したらこの名前を全員で連呼しな?それまでは開けるなよ?警戒されたらどうなるか分からない」

「それで……助かりますか?」

「さあね、でもやらなければ武蔵も成人した辺りで消えるだろうさ」

 立ち上がると

「宗則の方は…もう死んでる可能性は……分ってるね?」

「はい……」

 

 …………………………………………

 

「喜一さん!呼べ!」 

 携帯の声に従い、ベビーベッドに寝る武蔵の周りに四人で集まる、と、封筒を破る

 そこに書かれていたのは

 

 『命名 一』(はじめ)

 

「はじめ?って呼べば良いの?」

 納得出来ない義妹

「ハジメ…?今日からハジメちゃん?」

 神崎の母 綾子

「はじめ…ってこれで何が変わんだ?」

 神崎の弟、総一郎

「はじめ、いいから呼びつづけろ!お前はハジメだ!」

「はじめ!」

「ハジメ!」

「はじめ、はじめ、お前はハジメ」

 全員で連呼する……

 

 突然カッ!と目を見開きギョロギョロ四人を睨む赤ん坊

「きゃあっ!」

「ヒッ!」

「何だぁっ?!」

 

 獣の様な唸り声で

「おのれぇ!また裏切るか!」

 そう言った直後

「ふぎゃああああ!!」

 普通に泣く赤ん坊

 

「もしもし!!尾形さん!?」

「あぁ聞こえたよ!コレで多分抜けた!今日一日はハジメって呼ぶようにしてくれ!そうすればそっちに戻らないはずだ!」

 

 ………………………………………………

 

「さぁ本体が来るぞ!滉大!結界強めな!」

 通話を切って大幣を構える

 

「おうよ!本宮祓い師一同!やるぞ!」

 一斉に祝詞が始まる

 

「喜一って、まさかオヤジ?」

 まるで状況が分からない

 

 半分崩れた玄室の中、突然犬が『ドン!と大きくなる!

「うわあっ!」

 目の前に巨大な犬の頭が!!逆に見下される

 

「おのれ術師ぃ!!お前の仕業かぁっ!!」

 恐竜映画で見たようなデカイ口!

 そこにズラリと牙が並ぶ!怒号が響く!腹まで響く!生臭い息!

 5メートル程もある真っ黒の犬!!いや狼!?

 

 バチバチと結界と反応して後藤と児島には雷を纏う狼に見える

 

「ひいいいっ!!」

 座ったままズリズリ後退る俺……この声……!

 思い出した!この村のトンネル!

 突然頭に響いた「おかえり」

 あの獣の様な声だ!

 

「何だよコイツやべぇって!」

 木村も同じ体勢 

 

「はっはっはぁ!やっぱりね!」

 至近距離なのに余裕の尾形

「おいおい姉ちゃん、コイツは……」

 神主の滉大も動じない

 

「おい尾形!大丈夫なのか?!」

「我々はどうすれば?!」

「引っ込んでな」

 衛星電話を投げて返すと大幣を肩に乗せる尾形、犬に向かって

「おい、お前自分の姿見てみな?黒いだろ?やっぱり神じゃ無くなってるぞ?」

 

「姉ちゃん、神じゃないなら想定より楽なモンだ、神対神にならなくて良かったぜ!」

 笑う神主

 

「あぁ、一安心だw」

 

「ワシを舐めるか人間んんん!」

 ボウッと結界の一番内側の縄が突然燃える

「うわあっ!」

「なんだコレ!」

「狼狽えるな!」

 祝詞が揺らぐが

「落ち着け!」

 滉大の号令で戻る

 

「おい婆さん!大丈夫なのかよ!?」

「小僧ぉ!またワシの邪魔をしにきたか!」

 木村を睨む

「じゃ!邪魔って何だよ!!」

 

「木村!退がってな!」

「許さんぞ!よくも贄を逃したな!」

 大きな足で尾形と木村を薙ぎ払おうとするが

 

「神なら対処も大変だがよ!」

 御札を取り出す滉大

「もう悪霊の類、つまり祓い屋の本業だぁ!」

 前足に向かって投げると

「ボン!!」

「ギャン!!」

 前足が弾け飛んだ、そして少し小さくなる

「うぅ…おのれぇ……」

 

「ムリすんなよ、信仰も無く二十数年に一度生贄食ってただけだろ?その姿だって数分も保たないだろ?」

 完全に見下す尾形

「神格も無くなり弱く無様な姿だねぇ…さて、そこで相談だ、コイツの家との縁を切ってくれないか?アタシは人としてアンタを殺したくないんだよ」

 

 は?!

「婆さん!何でよ?!」

「姉ちゃん!?止めんのか?」

 

「今はこんなナリに落ちぶれちゃあいるが…さっき見えただろ?…神の時は人を助け続けたんだ……ソコは分ってやれないかい?」

 向き直ると

「なぁ…ここに塚か碑を置いてやる、大人しく眠るってのはどうだい?」

 

「舐めるなぁ人間!!」

 バチバチと二番目の縄が燃えると更に小さくなる犬、そこへ

「そうらっ!」

「ギャン!!」

 尾形も御札を投げる、犬の体が次々に弾ける

 

 煙が晴れると最初の柴犬位になった

 

「そのナリじゃあもう神崎食えないだろ?大人しく封印されろ、悪意が抜けて白い姿に戻れるだろうよ」

 

「おのれ……おのれ……ワシがどれほど人に尽くしたか……」

 玄室の中で項垂れる柴犬

「だから封印されて欲しいんだ、アンタは人に尽くしたんだ、それは分かってるよ?」

 

「あの、尾形さん、何とか助ける方法は無いんですか?」

 皆で小型犬イジメてる様な気分、なんだろう、可哀想というか情けないと言うか

 

 

「神崎、その助ける方法が封印だよ、あれはもう山の女の子と同じ……いや、アレ以下だよ、何しろ信仰が無いんだ」

 腕組みして仏頂面

 

「なぁ見ろよあんちゃん、黒いままだろ?アレは悪い思念だ、人に仇を成すモノだ、封印か退治するかだ」

 滉大にも言われる

 

「信仰が無いからお前ん家の生贄だけで生き延びたヤツだよ、消えるだけさね……」

 犬に向かい

「最後だ選べ!消えるか封印か!」

 

「……諦めんぞ……必ず食ってやる……皆殺しだ」

 唸る 

 

「それが答えか?仕方ないね」

「姉ちゃん、トドメ刺すか?」

「それはアタシ等の役目じゃないんだ」

「そっちのあんちゃんが……何かするって言ってたよな?」

 まだ立てない木村を指差す

 

「あの?この犬どうなるんですか?」

 俺を喰う……でも……何か消えて欲しくない

 

 祝詞も止まった

  

「あー……神崎、お前状況分って無いから説明すんのは面倒だがな」

 木村に手招き

「あの犬に一番意趣返ししたいお方が居るんだ、だから封印で助けてやろうとしたんだが……」

 唸り続ける犬

「もうその必要も無いねぇ……木村、やれ」

 

「何をよ?」

 ポカンとする木村

 

「シラヌシさん呼び出せ」

 哀れみを込めた目で犬を見る

 

「パンパン」

 立ち上がると柏手を打つ

「シラヌシさん!」

 

 一瞬の間の後

ドォォーーン!!

「ギャン!!」

 一面に白い光!

 

「なんだぁっ?!」

 木村の体に巻き付いた数珠がバチバチ弾け飛ぶ

「雷っ?!」

 頭を抱える、最後の結界も吹き飛ぶ突風、視界が戻ると巨大な白い獣の前足が黒い犬を抑えつけている

 いや!目に赤い隈取のある狐?!デカイ!

 

「よくも恥をかかせてくれましたねぇ…」

 これシラヌシさんの声!

 

 そのままギリギリ踏み付ける!

「うぐおぉぉ……狐如きがぁ……」

 それでも諦めない

 

「神崎様を掠め盗った罪、償うが良い」

 更に力が籠もる

 

「うぐぉぉ……後から加護なぞ授け邪魔をしたのはお前だ!宗則!宗則助けてくれぇ!」

 爪の隙間でじたばたする黒い犬

「へ?!」

「望み通りにしたではないか!村を守ったではないか!消えとう無い!消えとう無い!!」

 

 消えるのか?このまま

 

「神崎、別れを言ってやりな……お前だけにその権利はある」

 

 今の俺が居るのは…山犬のお陰だ、先祖を助けて貰ったんだ

 こんな山奥の谷に村を作り栄えさせた、間違いなく神様だ

 だけど人の都合で頼って持ち上げ、時代が変われば捨ててしまった

 俺達の方がヒドイのは分かってる、でも

「今度こそこの村は終わりです、もう生贄も出しません、ありがとうございました」

 辺りが真っ白に光る

  

 

……………………………………………………

  

 光が消えると朝日が木漏れ日になって刺す、その中に花魁が静かに現れた 

「神崎様、此の度のわたくしの未熟、この通りお詫びいたします」

 静かに頭を下げる、と

「ザッ!」

「え?」

 振り返ると尾形と滉大含めて術師全員が平伏している

 ボーッと立って居るのは神崎と木村、そして二人の刑事

 

「えーと……?」

「どうすんだコレ?」

 

「なんと…なんと畏れ多い……」

 ガタガタ震えている滉大と祓い師達

「まさか顕現なされるとは……」

「直接お目に掛かれるとは……」

「ありがたい……ありがたい……」

 平伏したまま口々に

  

「そなた、よくぞ神崎様を探し出してくれました、礼を申します」

 

「はっ!勿体ないお言葉、この身に余りあります!」

 平伏する尾形

 

「ではコレにてお暇致します、木村様、神崎様、また…お会いしましょう」

 ニコリと笑う

 

「あ!あの!」

「……何でしょう?」

「あの犬はどうなりました?」

「消えましたよ?神崎様を喰うなど許しません」

「本当に消えて……しまったんですね?」

 胸を抑える

 

「……自分を喰おうとしていた者にまで情けを掛けたい……」

 花魁が消えて行く

「甘いですが…そういう所、わたくしは好きですよ?」

 

 

 ………………………………………………

 

「あんちゃん達!スゲェお方が加護に憑いてんだな!」

 バシバシ肩を叩く神主

 

「そうなのか?」

「シラヌシさんって凄いんですか?」

 

「はあっ?!」

「分からねぇのかよ!」

「知らないの?!」

 トンネルに向かって歩きながら話すと祓い屋達に呆れられる

 

「あー、コイツラ分って無いんだよ、シラヌシさんが何者なのか」

 仏頂面

 

「元人喰いの化け物だか妖怪みたいですけど?」

 首を傾げる俺

「そうなのかよ?」

「白蔵主ってネットで調べたんだ」

 

「はぁ…分からないかい…それが神の弟子になって修行して神格を得たんだよ?」

 

 ?

 

「鈍いね、宇迦之御魂神……って言っても分からないか、あー、平たく言えばお稲荷さんになったんだ」

 

「お稲荷さん……凄いのか?」

「どこにでもありますよね?」

「こんのバカ共が!!」

「バシッ!」

 二人で頭を引っ叩かれる

「祈りの回数で考えてみろ!」

 

 祓い屋達に教えられる

 一回の祈りなど神としては微々たる力にしかならないらしい、それに比べたら生贄は祈り一万回にも匹敵する

 しかし稲荷は神社はもちろん、寺、商家、会社、畑、水田、路地裏からビルの屋上まで、数えるのが不可能なほど存在する

 一日辺りの祈りの回数から考えると他の神に比べダントツであり、そのため本来『お使い』であった狐まで神格を持ち、数が多いため組織化されていると言う

 

「分かるかいお前ら?シラヌシさんは末席とはいえ『日本最強の神様集団』の一人になったんだ、その加護受けてんだよ」

 今になってゾッとする、祓い屋達のあの態度、俺達失礼じゃなかったか?

 

「想定してた最悪はな、この村の神も稲荷だった場合、稲荷対稲荷になったかも知れない事だよ」

 タバコ吸い始める

 

「それが山犬だしなwしかも神格失ってるとなれば楽勝だw」

 笑う滉大

 あの余裕はそれか

  

「……稲荷対稲荷になってたらどうなってたんですか?」

 トンネルが見えて来た

「正一位…一番上の稲荷呼び出して仲裁しなきゃならなかった、代償がデカくてな」

 数珠をジャラジャラ

「召喚すんのか?代償って何だ?」

 上の墓場の方を見る木村

「アタシの命……かもなw」

「マジかよ?!」

「そんな危険な事やってたんですね……俺の為に」

 

 どうやら俺達はお稲荷さんの認識を改めなければならないらしい

 そして尾形さんの優しさも

 

 

「あ!おい!」

 黄色い朽ちたカーブミラーを指差す木村、肩を触ると

「あれ?このシルエット」

「あん時の婆さんだ」

 確か小田……だっけ?

 手を振りながらゆっくり消えて行く

 

「あれ?消えた」

「成仏したのか?婆さん?」

 振り返る

「フン、ここまでサービスしてやるんだ、タバコダンボールで買って来い!」

 手を合わせトンネルの上を見ながら

「あっちも成仏させてやる…観自在菩薩行新般若波羅蜜多……」

 

「おぉ?霊達消えてくぜ?」

「あぁ」

 この村は今、本当に終わったのか……

 

 …………………………………………………………

 

 トンネル出口 

「じゃあな滉大」

「姉ちゃん、たまには本宮に来てくれよ、俺は師匠の器じゃねぇよ」

「あー、で?幾らだ?」

「来る気ねぇなw怪我人も無いし一千万って所だ」

「高い!負けろ!」

 言い合う尾形達

 

「神崎君は車へ、点滴を受けるのが理想ですが」

 俺が車に乗ると祓い師達と話している

「今回は見てるだけだったなぁ」

 後藤さんも挨拶して周る

 

「お前生き延びたなw」

「色々ありすぎて……なんか混乱してる」

 車に乗ると

「おい!車出せ!帰るよ!」

 尾形が乗って来た

「児島さん戻らねぇと運転ムリだぜ、婆さん、結局幾らよ?」

「考えたくないね!!」

 

「俺の……ルーツ…だよな……」

 トンネルを見る

「お前の先祖とか居たんじゃね?」

「!、そうか、家の墓ってここにあったはずだ!」

 先祖代々の墓!

 

「そうだねぇ、神崎、出来れば年に一回来てここで手を合わせてやれ、線香もあると……おい」

 

 俺は車から降りて静かにトンネルに手を合わせる

 ここにはどれほど多くの時間と人の思いが詰まっているか

 その繁栄は確かに俺の先祖達の犠牲の上に成り立っていたかも知れない

 

 

 神崎に合わせ次々に手を合わせる

 

 あの山犬は決して悪いモノではなかった、俺の家を犠牲にする代わり、多くの人を救っていた

 せめて俺は……俺だけは忘れない様にしよう

 

 

 

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