“告白”   作:夏野りお

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地獄の底で踊りませんか

吸血鬼対策課に配属されて以降、自作のポスターなどを携えて続けている“辻斬りパトロール”。

辻斬りナギリは発見されていないことから未だどこかに潜伏しているのは明白であり、辻斬りの脅威は去っているはずはないのである。

その為勤務日は勿論のこと非番の日も通常のパトロールに加えて“辻斬りパトロール”は行なうべきであり、それはかつて奴を捕らえられず敗北した自分の責務である。

ケイ・カンタロウはそう考え、今宵は非番にも関わらず吸対の白い制服に着替えて、パトロールへ赴くのである。

しかし最近彼には悩みがある。親切な協力者である“辻田さん”と会えないのだ。『退治人としての厳しい修業をしている』彼とは偶然会うしか方法がないため、会えない時は徹底して会えないという日々。その間はどうしようもなくもどかしいのである。

さて巡廻のため路地へ入り込むと少し進んだ先で誰か佇んでいるのが目に入った。

その立ち姿、気配はまさに先程脳裏に浮かんでいた人物そのままであったため思わずカンタロウの心は踊り跳ねた。

「辻田さん!!!大変、ご無沙汰ぶりでございます!!!」

そう普段通り、いや嬉しさのあまりそれ以上の音量でその人影へと呼びかけた。

しかしいつもの彼ならば「うるさい」だの「やかましい」だのと反応が返ってくるのだが、何も言わずこちらに背を向けたままただ立ち尽くしている。

(? 声が小さかったでありますか?それならばもう一度…)

「辻田さん!!さぁ、今宵も辻斬り捜索パトロール、に…」

その時ぶらんと垂れ下がる手の平から何かが滴っている事に気が付いた。もしや怪我でもしてるのだろうか。

「?! 辻田さん、もしかしてお怪我でもされてるでありますか?!手からなにかポタポタと落ちてるであります。宜しければ救急セットを…」

そんな事を言いながら手首を掴んで手のひらを見ようとしたときだった。

「コレを見てもまだ俺のことをそう呼ぶのか?バカ警官」

そう呟くとカンタロウに見せつけるようにズズッと掌から血の刃を生やしてみせた。

「っ!!!?血の刃…?辻t…イヤ、辻斬、り…?え…??」

いつもならばナギリが怪しい言動をしても余所見をしていたり頓珍漢な反応をしていたカンタロウだった。しかし流石に目前で刃を出現されては否定することは難しかったらしく、目を大きく見開き顔を少し強張らせ息を呑んだ。

脳裏によぎったのはかつて自分が襲われたときの、あの強大で禍々しい雰囲気をもつ『辻斬りナギリ』の姿。

凝視したまま固まってしまったカンタロウを見て、ナギリはフッと嗤ってさらにずいっと突き付ける。

「見ろ、この刃を。刃こぼれしまくってすっかりボロボロだ。ヒヒっ、とてもじゃないがオマエが言う『体長10mあって強大で恐るべき吸血鬼(怪物)』なんかではない。今や“辻斬りナギリ”はすっかり落ちぶれてしまった」

「・・・」

カンタロウは無言でナギリを見開いた目で見つめたまま動かない。そんな彼の前から腕を戻し数秒間自分でも手のひらを見つめたあと刃を引っ込めた。

「ハ、ハハハ…。まったくここのところずっと…ずっとロクでもない事ばかりだ。分霊体はなくなるわ、度々服がどこかへいくようになるわ、そのせいで露出魔として捕まりかけるわ…。何故かダチョウに追い掛けられたりもしたな。なによりも幾度となくお前に文字通り引き摺り回されたからだがな。そのせいでロクに人間を斬れなくて吸血できずにすっかり力を失ってしまった…」

ナギリは自虐的に嘲笑う。どこか苦しそうでどこか泣きだしそうな、そんな顔をして。

「お前なんかと出会わなければ、斬らなければ良かった。あぁ、あとあのアホな漫画家だな。お前らのせいで『自分が本当はいったい“ナニ”をしてきた』のか気付かされた。俺が子供の頃にアイツに夢を壊されたように、お前の夢とやらも吸血鬼(オレ)に壊された。そしてあの気弱そうだったお前を壊したように、今まで斬ってきた他の連中のこともオレ(・・)がどこかしら壊してしまったに違いない。あの服を飛ばすチビには来た助けが俺には来ないまま、ここまで…こんな地獄みたいな所までやってきてしまった」

「地獄…。貴方にとってここは地獄のような場所なのでありますか?」

ナギリの独白のような言葉をうけて、静かな口調でカンタロウは質問を返す。

「…あぁ、そうだ。結局丸のことも助けられないし、もはや誰かを斬れる気がしない。“辻斬り”じゃなくなってしまった俺のことなどもう誰も認識しない。世の中の誰からも見つけられないで忘れ去られたままで、この地獄の底に堕ちてそのうち消えていくんだ。ひひっ、どうする?お前が持ち歩くそのバカでかい武器なら一発で消し飛ばせるぞ?倒したかったんだろう?」

「…確かに本官は【打倒辻斬りナギリ】を掲げて修業を重ねたであります。このパイルバンカーを改良に改良を重ねたのだってヤツの動きを止められるようにと考えてのこと。しかしあくまでも制圧が目的であって討伐したい訳ではありません。よって、本官はあなたにパイルバンカーを使うつもりはありません」

そう告げるとカンタロウは静かにナギリを見つめる。いつの間にか刃が出ていた額から流れた血がまるで涙のようで、目の前の“辻斬りナギリ”と呼ばれた1人の吸血鬼が泣いているかのように見えた。

目を閉じると思い返されるのはこれまでの“辻斬りナギリ”を捜索してきた日々のこと。ほかの吸血鬼事件の合間を縫い、チラシを配り目撃情報を聞いてまわりパトロールしてきた、あの日々を。途中から“辻田さん”の協力を得て捜査し、他の吸血鬼が起こしたトラブルについても解決してきたあの日々を。

息を吐いて目を開けるとまっすぐ()を見つめながら足を踏み出すとそのまま再び手首を掴んだ。それまでもそうしていたように。

「ご安心を。本官は、…本官は決して忘れたり見失ったりもしないであります、もう二度と。そして先程も言いましたがあなたを傷つけることもしません。“辻斬りナギリ”として貴方が行なった事はきちんと償わなければなりません。その犯行の結果について『苦しい』と貴方が感じているのなら尚の事です。償いによってソレが消えるかは分かりませんが…本官が1被害者として、イチ吸対職員として、そしてそのおこがましいですが、貴方の友人として見守っていく所存であります」

「……友人?オマエが、オレの?何を言ってるんだ。馬鹿じゃないのか、オマエ」

カンタロウの言葉に怪訝な顔をしたナギリに、ちょっとバツが悪そうに横をむいて頬をかくとニカッと笑う。

「警察官としては駄目なのでしょうが…。“辻田さん”としてここまであちらこちらお供していただき、様々な吸血鬼さんを相手取ったりと正直かなり楽しかったであります!本官としては“辻斬りナギリ”を地獄まで追いかけるつもりでおりましたので、ここが貴方にとって“地獄の底”だと言うのであれば、ちょうど良かったであります」

「はぁ…お前が勝手に振り回していただけだろうが。ダチョウに乗ったりプールに行ったり、何故かディスコで踊らされたり。手錠で繋がれたりもして散々な思い出しかないわ!」

掴まれていない手で思わず顔を覆い頭を抱えるナギリに対しカンタロウは楽しそうに笑いかける。

「それもこれも本官にとっては辻田さん(・・・・)との大切な思い出であります。…辻田さん、“辻斬りナギリ”にとってココは地獄の底だそうです。最後の辻斬り捜査として『地獄の底』で一緒に踊りませんか?」

「…はぁ?お前、何を言って…ってオイ!引っ張るな、ぅわっ振り回すな、ヤメロこのバカ警官がぁ〜!!」

暗い路地裏で大柄の男二人きりのダンスは暫く続いたのだった。

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