“告白”   作:夏野りお

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こちらは神在月シンジ先生と、アシスタントになった『辻田さん』の話。


「好き」だと言ってよ

僕は幼い頃から『宇宙勇者サーガ』が好きで、その絵を描くのが好きで、親友から褒めてもらったのが嬉しくて。

そこからなんとなく漫画家を目指すようになって…。

父の反対はあったし、家を出てからも回り道をして、し過ぎて自分を見失って諦めかけた。それでもクワバラさんのお陰で立ち直れた。そして彼はじめオータム出版社のおかげで『アンドロメダイガコーガジャイアントバトル飯』、通称『アイジャ飯』を執筆させてもらって漫画家としてなんとかやれている、と思う。

ただなかなか筆が遅い僕。特に締切が迫っていると精神的に追い詰められてしまって、ネームの際は奇行によって心を鎮めてなければ進まないし、作画中はグズグズ泣いてしまっている…。

現に今も逆バニーガールの格好をして踊り狂っているところを部屋に入ってきたアシスタントさんに見つかり拳で止められて椅子に着地したところさ。

「なんでそんなカッコウしてんだ、オマエは。」

そう怒鳴るアシスタントの辻田さんに、ヘラヘラと笑って得意げに言ってみせる。

「いやぁ、ホラ、ちょうど考えてるネームの中で十五夜っぽいメニューを出すんだよ〜。で十五夜といえば月、そして月にはウサギが住んでいるっていってるじゃない?雰囲気を味わいたくて衣装買ったんだけど…ただのバニーガールだとスタンダードすぎるじゃない?だから“逆バニー”にしてみたんだ!あ、辻田さんの分も欲しかったとか?」

「イランわ!!誰が“逆バニー(その服)を選んだ”理由を尋ねた?オレは“何故ヘンテコな格好して暴れてたのか”聞いたんだ!あぁもう、締切寸前なんだろ!早く席につけ、原稿に向え!」

だらだらと流れる汗に気付かぬフリはしてくれなかったらしい。とても有能なアシスタント君によってあっという間に最適な執筆体勢に整えられてしまった。

『整えられた』といえばもうひとつある。

それは僕の生活環境だ。整えてくれたのは、今も僕の目の前にいる優秀アシスタント、辻田さん。

彼はいろいろと…本当にいろいろあって時間はだいぶかかったけれどもなんとか事態を収められたようで、今はなんと臨時ではなく正式に契約して僕のアシスタントとなっている。

「さっさと描け!いい加減バーベキューや揚げ物にされかかるのはキツイぞ!!」

「うあーーん、ゴメンよ〜。僕は生け垣に潜む尺取り虫…」

辻田さんは一喝したあと、泣きながら自虐する僕のことは放っておいて、持参した買い物袋を手に台所へ向かう。

前々から思っていたようだがクワさんからも頼まれたらしく、僕の生活改善が図られている。食事しかり部屋の清掃しかりだ。

現実逃避として掃除に走る事も多々あるためそこまで『ゴミ屋敷』というものではない筈。まぁ要は現実逃避の手段をひとつでも減らそうという事らしい。

食事もなるべく胃に優しいものを作るようにしてくれているようだ。ただたまにクワさんからの差し入れとしてオータムパンが押し付けられるのが悩みのタネらしい。

もぐもぐ食べていた僕を見てドン引きしてたことがあったなぁ。

僕の貧弱体質は結構根深いから改善はまだまだ先だろうし本当に改善されるかどうかはわからないけど。それでも本当にありがたいと思っている。

ここでふと考える。辻田さんの意図についてだ。

勿論アシスタントとしての責務というのもあるだろう。クワさん、ひいてはオータム書店からの信頼を獲得して彼らの仕打ちを回避しようという魂胆もあるかもしれない。

だけど、もしかしたらそうではなくて。

「ねぇ、辻田さんってさ、僕のこと『好き』?」

「・・・ハァ?!お前、まだ狂ってやがんのか?」

突然の意味不明な問いに素っ頓狂な声を出す辻田さんには悪いケドそんなことで僕は止まらない。

「いやいや、だってさ!いくら僕の正式なアシスタントになってクワさんからあれこれ言われたからと言ってもさ。ここまで僕が集中しやすいようにしっかりと部屋を掃除したり、胃に優しくて美味しい食事を拵えてくれたりさ。『仕事』と言っても嫌いな相手には出来ないもんだヨ…料理には『愛情』がこもってるように感じるしさぁ〜」

「………」

彼は無言でお湯を沸かし、カチャカチャとなにかの準備をしている。

「ねぇねぇ!『好き』って言ってよ〜!ねぇ!」

手をブンブン振っていただけがテンションが上がり遂にはグラングランと上半身までを揺り動かす僕。そんな僕を呆れ果てたように見ながら彼はマグカップにお湯を注いでいく。

次第にこちらまで漂ってくるのはちょっとスモーキーな珈琲の香りで、さらにミルクを入れたのか甘い匂いも絡まっていく。

「あー、暴れるやつには珈琲出してやらんぞ」

「ハイ、止まります!!クダサイ!」

珈琲カップの隣に小さな皿にてパウンドケーキの1切れが添えられたお盆を邪魔にならないサイドテーブルに置かれる。

それと同時に溜め息をついた彼が一言。

「そうだな。丸とマルとまる…その後にいくつか置くかしらんが…まぁそのあと程度には、『好き』かもしれんな。ヒヒッ」

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