ブルーアーカイブ―連邦の活動記録―   作:一般連邦職員

3 / 8
今回本文がかなり長くなってしまいましたが初投稿です


最前線で戦う者たち

【速報】トリニティで同時多発テロ 「非常事態宣言」を発令

UP通信 21:00 配信  33件

 

 トリニティの中心地、トリニティ・スクエアとその周辺の少なくとも3か所で13日、同時多発的に銃撃や爆発が発生しました。現時点で80人以上が怪我をしており、今後負傷者は増えていくと見られています。

 現場となったトリニティ・スクエアは当時、大聖堂での礼拝が終わり大勢の生徒で賑わいをみせていました。ソーシャルメディアに投稿された現場映像には、車両や建物が爆発を起こす様子が映っていました。

 

【視聴者提供映像】トリニティ・スクエアで爆発 燃える部活統制本部庁舎

【速報】百合園セイア生徒会長が緊急談話を発表 トリニティ全域に「非常事態宣言」を発令

 

【トリニティ支局】13日昼過ぎ、トリニティ・スクエアのトリニティ大聖堂で何者かが発砲し、現場にいた生徒数十名が怪我を負うなどの事件が発生しました。現地では爆発もあったとみられ、近くに所在する部活動統制本部は火災と爆発により、庁舎一棟が全焼しました。また同時刻、放課後市場が開かれていたイーストエッジ特別区でも爆発や銃乱射が発生し、住民や生徒数十名がケガをしたとのことです。犯人はいずれも逃走中とのことで、現地警察が行方を追っています。

 これを受け、百合園セイア生徒会長(トリニティ総合学園)は緊急談話を発表し、一連の事件を「同時多発テロ」と断定、秩序と治安の回復の為にトリニティ全域に「非常事態宣言」を発令しました。連邦自治法に基づく非常事態宣言の発令はトリニティでは初めてであり、現地では混乱が広がっています。

 トリニティ総合学園行政部は、一連のテロ事件で少なくとも3か所で爆発と銃撃戦が発生し、負傷者は80人に達したと説明。今回の非常事態宣言は、キヴォトスの一連の治安悪化騒動を受け、警備体制を強める為であるとし「生活への影響は軽微」と説明しました。

 

 自治区では非常事態宣言の発令により、校舎は全て閉鎖され立ち入りが出来なくなり、授業、部活動は全て停止。トリニティ・スクエアを中心としたシティ・オブ・トリニティ全域が一時的に正義実現委員会の統制下に入るとしています。また商業施設や飲食店、公共交通機関にも営業中止を要請し、生徒と住人には速やかな帰宅と自宅待機が指示されます。

 トリニティ行政本部”ホワイトホール”は今夜にも閣僚を緊急招集し、学内の各派閥の意思統一と今後の対応を協議する方針です。

 

 現地メディアによると、トリニティ・スクエアでのテロは大聖堂、部活動統制本部、イーストエッジの市場など少なくとも3か所で発生したと報じました。また事件当時、大聖堂にほど近い音楽堂では百合園セイア生徒会長がミレニアムの交響楽団の交流演奏会の視察に訪れていましたが、事件後直ちに現地を脱出し行政本部官邸へ避難したと報じました。

 現時点では事件の背景は明らかになっておらず、混乱が続いています。大手メディアTBCは襲撃犯が「トリニティへの批判を口にしていた」として、反体制派勢力やヘルメット団などの不良グループの関連を指摘。ゲヘナ生によるテロという情報もSNSを中心に広がっており、今後のエデン条約への影響は避けられないだろうとの見方が広がっています。

 

⊘記事に関する報告


【関連記事】

【速報】トリニティ中央行政区で爆発 負傷者多数 大聖堂でも銃撃

 ➤ TBC News 5時間前

トリニティ行政部が緊急対策会議 銃撃などに対応

 ➤ 合同通信  1時間前

ゲヘナ学園万魔殿議長、同時テロに共同で対処すると声明を発表「可能な限り支援行う」

 ➤ ゲヘナ公共放送 2時間前

【速報】行政本部庁舎で火災と爆発音 ホストの安否不明 新たなテロか≪NEW≫

 ➤ TBC News 47分前


コメント 33件

おすすめ順・新着順


ログインしてコメントを書く


yjf*****

トリニティですらテロ起きるって終わってんなキヴォトス

 ↪gca***** 

 まぁどうせゲヘナやろ

 ↪ugb*****

 ゲヘナいつも犯人にされてるよな(ほぼ事実)

arc*****

どうなっとんのやトリニティ。いまトリニティに倒れられるとキヴォトスが本気で終わるんやぞ……

 ↪iug*****

 連邦生徒会が使えんから頼れるのがトリニティかミレニアムぐらいしかないが、この様子だと厳しいか

 ↪wfB

 よりによって一番やばめのテロがゲヘナやD.U.でもミレニアムでもなくトリニティで起きたのが不安要素だよな

iTs*****

ゲヘナが戦争を仕掛けたのか?ついに連邦崩壊シナリオ発動なのか

 ↪yrH*****

 いやそれはないだろ。やるメリットもないし、今のゲヘナにそこまでの野心はないだろ

 ↪Afg*****

 ただゲヘナが手を下さなくても連邦崩壊はマジであり得そうな雰囲気なんよ

 

コメントをもっと見る

□ コメントを非表示


 

 

 

 

 

 

 

【速報】連邦矯正局より凶悪犯が脱獄、ヴァルキューレ・SRTが特別緊急配備

クロノススクール報道部 22:45 配信  106件

 

 連邦矯正局は13日午後4時ごろ、矯正局で大規模な暴動が発生し、収監中の複数の生徒が行方不明になったと発表した。行方不明になった生徒には「狐坂ワカモ」や「栗浜アケミ」などの凶悪犯も含まれる。矯正局は生徒が脱走したと見てワルキューレ警察学校とSRT特殊学園に通報し、両校は逃走容疑でD.U.全域に特別緊急配備を実施する。ワルキューレ警察学校公安局は逃走容疑で逮捕状を取り、近隣自治区に対し捜査協力を依頼、連邦生徒会防衛室は特別手配要領に基づき特別手配を実施した。

 

(13日午後6時ごろ、付近を捜索する矯正局警備隊=UP通信提供)

 

 矯正局によると、同日午後4時ごろに大規模な停電が発生。すぐに予備電源に切り替わったものの警備システムに一部不具合が発生し複数の生徒が管理エリア外に脱走、矯正局全体の暴動に発展した。暴動はすぐに鎮圧したが、一部生徒が警備システムの隙を突いて敷地外へ脱走。ほぼすべての生徒を再確保したが一部生徒の行方不明を確認。現在周辺地域を捜索中だという。

 

 連邦矯正局長は取材に対し「大変申し訳ない。これ以上の犯罪が起きないことを祈るばかりだ」と謝罪した。

 

 

⊘記事に関する報告


【関連記事】

シラトリ統一学区連合 テロを非難する声明を発表 「トリニティと連携強化」

 ➤ KBCオンライン 3時間前

連邦生徒会「テロには屈しない」 百合園セイア氏襲撃受け≪NEW≫

 ➤ キヴォトス・タイムズ 1時間前

「不要不急の外出控えて」「不審な人を見かけたら直ぐに通報を」矯正局脱走によりヴァルキューレ警察学校が呼びかけ

 ➤ クロノススクール報道部 4時間前

新ホストに桐藤ナギサ 生徒代表団が今夜にも決議≪NEW≫

 ➤ UP通信 1時間前


コメント 106件

おすすめ順・新着順


ログインしてコメントを書く


tac*****

狐坂ワカモ!捕まったはずじゃ?

 ↪nym***** 

 残念だったなぁ、トリックだよ(脱獄)

 ↪xcp*****

 これトリニティのテロ関係してくるんじゃない? 騒ぎ起こして脱獄を幇助とか

 ↪kzj*****

 それは流石に無理があるでしょ

kat*****

矯正局長の顔が絶望に染まり切ってて笑えない……

 ↪ekb*****

 ワルキューレへの批判ヤバそう(小並感)

 ↪pwu*****

 トリニティでテロがあって、連邦矯正局で凶悪犯は脱獄してマジで戦争でも始まりそうな雰囲気

stD******

そういやSRTって廃校じゃないの?

 ↪Ycx*****

 まだ廃校になってないぞ。まぁもうすぐ廃校になるけどな

 ↪kGA*****

 時期的にこれが最後の出動になるんではないかな? とはいえ最後が連邦の尻拭いってのも締まらんよなぁ

コメントをもっと見る

□ コメントを非表示


 

 

 

 

 

―――1時57分 トリニティ行政本部庁舎”ホワイトホール” 

 

 街は不気味なほどに静かだった。賑やかな街は人の気配を消し、明かりが必要最低限を残し全て消え去っている。 

 街灯だけががうっすら建物の輪郭を浮かび上がらせている。そんな街の中を数台の車列が通り過ぎた。

 

 密集して一台の車を守ろうと周囲を固めるのは防弾仕様の車。そのスモークガラスの中をうかがうことは出来ない。

 信号は全て赤ではあるが、正義実現委員会の生徒が誘導し、車列は一切止まることなく進み続ける。

 

 中心部に近づくと、次第に街の雰囲気は緊張した雰囲気が漂う。幹線道路は戦車が塞ぎ、バリケードにより厳重に封鎖され武装した生徒が警戒の目を周囲に走らせる。この周辺は真夜中だというのに、住人や生徒の姿は無く、銃を持った黒制服の姿が多くみられた。

 

「……」

 

 桐藤ナギサは、厚い防弾ガラス越しにその様子を眺めていた。手元の資料は既に目を通し終わり、無造作に隣の席に放り出されている。

 秘密裏に伝えられた、百合園セイア襲撃のニュース。それを聞いた行政部の生徒達は迅速に行政本部へと集結しつつあった。

 

 文字通り叩き起こされたナギサは、急いで支度をした後、速やかに移動を開始し今に至る。

 周りには彼女を慕い、そして守らんとするフィリウスでも信頼のおける生徒たち。表情にこそ出さないが、それでもナギサは些か以上に緊張と不安を抱えていた。

 

「ナギサ様、たった今連絡が入りました。生徒代表は無事到着、行政官も現在本部で待機しているとのことです」

「はい、わかりました」

 

 側近の報告に、ナギサは息を吐いて少しだけ体の緊張を緩めた。セイア以外の生徒は無事だったらしい。

 

 殆ど無意識に、ナギサは懐のホルスターから自身の愛銃(ロイヤルブレンド)を取り出した。滅多に使うことはないが、それでも最後の最後に頼れるのは己の銃のみだ。整備やメンテナンスは欠かさず行っていた。

 白い拳銃は彼女の性格を反映するかのように美しく保たれ、各部の動作は正常、薬室に装填された一発を含む八発の弾丸も異常はない。

 

 確認するまでもなく愛銃は確実な動作をするだろう。だがナギサは点検自体が自身の不安を落ち着けるための動作だと理解していたから。ゆっくり確実に、自分自身をメンテナンスするような気持ちで動作を確認する。そうするうちに次第に緊張が収まり、何となく心が軽くなったような気がした。車が見慣れた道を走り抜けるのを見ながら、ホルスターに拳銃を仕舞う。

 

 検問と警備の中、トリニティ校舎の敷地に入り込んだ車列はそのまま中心部の時計塔のあるエリアへと向かう。そこに近づくにつれて、いまだに火が燻り続ける行政本部の公邸が見えた。それを見ながらふと、ホルスターの愛銃を撫でていることに気づいた。やはり、不安なものは不安なのだ。

 

 本部に車列が滑り込み、降車した生徒は周囲を隙のないように警戒する。ナギサはドアが開くとゆっくりと地面に降り立った。それとほぼ同時に、階段を駆け下りる生徒がいた。

 

「ナギちゃん!」

 

 本部庁舎から出てくる姿に、ナギサは安堵を覚えた。

 

「ミカさん! 無事でしたか」

「ナギちゃんこそ! 全然連絡取れなかったから心配したんだよ! でもよかったぁぁ」

 

 へなへなと座り込む幼馴染の姿には普段の元気は見られない。だけどこの状況で生きていてくれてよかった。

 

「ミカさん、中に入りましょう。何があったかを聞かせてください」

 

 行政本部庁舎に入ると、いたるところで慌ただしく人が行きかっていた。行政本部は事件により自動的に非常呼集が掛けられており、深夜にも拘わらず行政官はほぼ集まり、正義実現委員会の連絡官や一部報道の生徒も集まっていた。だが一様にその表情は焦燥と疲労がかなり色濃く出ていた。その中を二人は進む。

 

「ミカさんは本部に残られていたのですよね?」

「うん、セイアちゃんがお茶しようって誘ってくれたからさ、珍しいなと思ってたんだけど。そしたらあんな事件があってびっくりして……」

 

 ミカは事件当時、本部テラスでセイアと待ち合わせをしていたという。その後、公邸の爆発があり、意識不明のセイアの代わりに暫定でミカが指揮を執っていた。

 

「そうでしたか。セイアさんは?」

「……意識がまだ戻らないみたいなの」

「意識が……何か、大きなけがを」

()()()()()()()()()()()()

 

 そのおおよそ予想していなかった出来事に、ナギサは言葉を失った。

 ミカの側に控えていた行政官が横から補足する。

 

「セイア様は爆発の威力が大きく、脳のダメージが酷かったようです。救護騎士団の蒼森団長がすぐに駆け付けたのですが、回復は望めないだろう、とのことで……直ちに病院に搬送いたしましたが、まだ何とも」

「……そう、ですか」

 

 現場に居なかったナギサは殆ど情報を持っていない。

 セイアの事も、出来れば側に駆けつけてあげたい。だがナギサの肩に乗る義務と責任が、それを許さない。息を吸って、吐く。今集中すべきことに集中すべきだ。意識して思考を切り替える。

 

「このことは、何処まで」

「我々首脳部のうち、ミカ様とナギサ様、そしてそれぞれの補佐官までです」

「……とても言えるような話ではありませんね」

「えぇ……サンクトゥスの補佐官には既に言い含めておりますから、対外的には入院したことになっています」

 

 セイアのヘイローが壊されたということは、犯人は明確な殺意を持ってトリニティを襲撃している。もしかしたら第二、第三の事件が起きるかもしれない。その対策と対応も急務になってくる。

 きりきりと、胃が痛むのを感じていた。ナギサが不安とストレスをうまく隠しているつもりでも、長年見てきたミカだけはそれを感じ取っていた。

 

「ナギちゃん、心配しないで。きっと何とかなるよ」

 

 だがミカに出来ることは、ただそう言って励ますことだけだった。

 

 地下に設置されたブリーフィングルームに入れば、既に各派閥や部署の生徒が集まっていた。ここでは非常時に首脳陣が集まり、会議や意思決定が出来る設備が整っている。前にはモニターが並び、既にクロノロジーが映し出されていた。その中をナギサとミカは指定された席へと急ぐ。

 

「ナギサ様!」「ナギサ様、ご無事でしたか」「皆さん揃いました! 幹部は資料を!!」

 

 ナギサとミカの姿を見て、ざわつきが収まると共に行政官たちも席に座り、或いは資料の準備を始める。

 

「誰でも構いません、状況の報告を」

「では私が。現在の被害報告と状況です」

 

 席に着いたナギサに当直の生徒が紙を差し出した。

 

「昨夜9時頃、セイア様が公邸でお休みになられているところ、何物かが公邸を襲撃し爆破しました。それによりセイア様は指揮を執ることが出来ず、現在治療中とのことです」

「犯人について何かわかりますか?」

「それが、まだ何もわからないのが現状です。襲撃犯は逃走、行方も分からず……市内は封鎖してるので直ぐに見つかるとは思いますが……」

 

 報告してきた生徒にナギサは見覚えがあった。たしかサンクトゥス分派の次席、セイアの補佐官をしていた生徒だ。セイアの後を引き継ぎずっと事件の対応に当たっていたのだろう、顔には疲労が色濃く憔悴しているようだった。

 

「現在、会長公邸は正実即応班で封鎖し消火活動中。ほぼ鎮火したとの報告が先ほど入りました。現在のサンクトゥスは私、細川が臨時で指揮を執っています。サンクトゥス全体の動きとしては統制はとれていますが、いまだ連絡が取れない者もいるため確認と連絡を急いでいます」

「わかりました。連邦生徒会との調整は?」

「それは私の方でやったよ」

 

 周囲の空気とは違い、明るい声でミカがナギサに報告する。

 

「調停室と統括室には報告しておいたよ。対応は一任するってさ。報道は直ぐに追い出したからセイアちゃんのことはまだ漏れてないはず。あとワルキューレの機動隊がこっちに来るって防衛室から報告があったよ」

「わかりました……では受け入れ準備もしなければですね」

「それもOK、こっちで調整して正実にも伝達済み。部隊は岡田ちゃんとこが持つようにしてる。あと防衛委員会と情報委員会も招集かけて、この後集まってくれるようにしてるから」

 

 ナギサは素直に感心していた。普段は政治的なあれこれに疎いミカも一応は派閥の長だ、一時的とは言えホスト代行としてすべきことをこなしていたらしい。

 それに、明るく振る舞うことで何処か緊張がほぐれるような、いつも通りになるような感覚もあった。雰囲気が暗くなりすぎないように配慮してくれたのかもしれない。

 

「では、皆さんお揃いですね」

 

 行政部の行政官が声を掛けた。生徒会の生徒にとってはここからが本番だ。再び緊張と不安から、ナギサは無意識に机の下で拳を握り締める。

 

「早速ですが、ただいまより緊急治安閣僚会議を開催します。議題は百合園セイア様の襲撃、それに伴うホスト代行の選出、および今後の行動の決定になります。皆様には冷静な議論と判断を願います」

 

 慌ただしく人が出入りする会議室で行政官が声を上げる。今後のトリニティの命運を分ける会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

―――2時5分 トリニティ・ストリート120番地 

 

 非常事態宣言下の街を一台の車が走りぬける。

 人の居ない街を急ぐその影は誰にも見られることなく街を通り抜けていく。

 

 夜間外出が制限される中、街を出歩くことが出来る者は限られる。行政官や正義実現委員会などの治安維持要員、救護騎士団などの医療関係者など、必要最低限の人員以外は街を出歩くことは出来ないし、街のいたるところに検問やパトロールの人員が配置されている。

 

 そんな街の中をひた走る車の後部座席で、白州アズサはうずくまる様に息をひそめていた。

 少なくともアズサは一般生徒であり、この夜を出歩くことは出来ない。それに彼女には人には言えない事情を持っていた。間違っても学生証などを見られてしまえば、その場で逮捕されるのは免れない。

 窓から赤色の光が差し込むたびに、何か怯えるように視線を窓の外へ向ける。その様子を運転席から眺めてる生徒がいた。

 

「アズサ、もうすぐ検問だ。じっとしてて」

 

 運転席に座った白制服の生徒が声をかけた。アズサその言葉に応えることはなかったものの、息を殺して動きを止めた。

 

 白制服とベレー帽。その上からケープを羽織る姿はトリニティでは特別な意味を持つ装いだ。

 白制服を着ることができるのは、トリニティ総合学園の行政官などの首脳陣、そしてティーパーティーのホストと、その補佐官などの側近のみ。

 パテル分派に所属する白制服の彼女は、アズサの正体や現在のトリニティ全体で起きている出来事を把握している数少ない生徒だ。故に、()()()()()()()()()()()()()()

 

 車はひたすら街を走り抜ける。道の先には検問所が迫っていた。

 

 

***

 

 

 夜間外出禁止令の出た街は人の姿もなく、検問所は閑散としていた。移動式の簡易バリケードと、装甲車が一台だけの小さな検問所で、正義実現委員会の生徒が数人、道路脇に立ちながら周囲を警戒していた。

 

「あー、暇だなぁ。明石さんこれ意味あるんですか?」

 

 市内に設置された臨時の検問所の内一つ。チェックポイント・チャーリーと呼ばれる場所で待機する正実の生徒はあくびを噛み殺しながら道路を眺める。

 

「ここでは班長と呼べ伊藤。まぁその気持ちは分からんでもないけど。テロの犯人もまだ見つからないんだし、何処で誰が来るかわからないからな」

 

 それを小隊の班長である明石が窘める。だが眠いのは同じようで、表面的に注意しただけだった。

 伊藤の周りにも、そうやって待機しながら、あるいは車の中で無線を傍受しながらそれぞれが静かにその場で待機している。

 

「でも明石さん、こうやって街を封鎖してたら誰も来ないんじゃないんですか? 学校もしばらく休校なんすよね?」

「まぁ、まだ詳しくは出てないがそうらしい」

「うわー、もしかしてその間ずっとこうして仕事ですか?」

「新ホスト就任と、テロの混乱が収まるまではこれが続くかもな」

「じゃあしばらく帰れないじゃん……」

 

 着替えどうしようと嘆く後輩の横で、明石は道路を眺める。

 街は独特な緊張に満たされており、その中をただひたすら待ち続けることはかなりの疲労を伴う。過度な緊張と、そして実際には何も変わらぬ現状に士気は少しずつ低下し始めていた。

 実際に不良どころか猫の一匹ですら見当たらない。代り映えしない夜中の単調な業務に眠気のピークが更新され続けていくような気分だ。班長も、部下が雑談に興じるのを積極的に止めようとはしなかった。

 

 しかし、その空気を破るかのように、一台の車が検問所に近づく。

 あくびをしながら談笑していたチェックポイントの生徒に一気に緊張が走る。

 

「伊藤、町田は私と一緒に車両検査だ。坂巻は銃座に上がれ。運転手は待機、すぐに出れるようにしておけ!」

 

 明石は素早く指示を出して事態に備える。目の前の車が何かはわからないが、もし今話題のテロリストであれば、検問を強行突破する可能性もあるし、そうなれば確保に動かなければならない。あらゆる事態のうち、最悪に転がりそうなものが頭の片隅から湧き出ては消える。

 そんな緊張をよそに、車は速度を落としながらバリケードの手前で停止した。

 運転席に回り込むと窓ガラスが空き、運転手の姿が現れる。その生徒は特長的な白制服を纏っていた。その姿に班長は心の中で安堵した。

 

「こんばんは。正義実現委員会の明石です。ここは非常事態宣言により封鎖されているのですが、もしかしてティーパーティーの方ですか?」

「はい、行政本部から学生寮へと行くところです。通行許可もいただいておりますが」

「わかりました、では学生証と許可証をお願いします。それと車両検査にもご協力をお願いします」

「えぇ、わかりました」

 

 受け答えをする中、後輩が車の周囲の捜索を開始した。

 それを見ながら差し出された学生証を確認し、手元に用意した報告書に名前や学生番号を控える。

 

「えーっと、三年の花咲アキさんですね。なぜ寮へ?」

「着替えを取りに行くのと、生徒を送るためです。後ろに乗っている子がいるでしょう?」

 

 そう言われて車を覗き込むと、制服のジャケットを羽織って動かない生徒がいた。

 

「あの事件の後ですから。皆さんずっと働きづめでしたし、そろそろ限界が来ている子たちを帰してあげようと思いまして。あと着替えや衛生用品も必要ですから」

「あー、それは大変ですね」

 

 トリニティの運営にかかわる生徒たちから不夜城とも呼ばれる行政本部は、平時でもかなりの激務だと聞いたことがある。こんな事件のあった日にはやはり眠ることも出来ぬほど忙しいのだろう。班長は話を聞きながら少しばかり同情する。

 

「あの、身分証を貰いたいのですけど」と明石は後ろを指差しながら控えめに尋ねた。

「……その、できれば起こさないようにしてあげたいのですが」

「とは言うものの……」

 

 中を覗くと、暗くてよく見えないが疲れ切っているのかピクリとも動かない。

 そうしている間にも、手元の端末で学生証の情報が学園データベースに登録のある生徒であることが確認できた。所属はティーパーティーの行政官だ。

 

「どうかお願いできませんか?」 

 

 そう言う運転席に座る彼女も、よく見ればかなり疲労が溜まっているように見える。行政官がまさか嘘をつくとは思えないし、疲労困憊なのは見ればわかる。その気持ちも同じように昼も夜も無く働くことの多い明石には理解できる感情だ。ここまで来て規則通りに中の検査をする必要はあるだろうかと言われれば、別に問題ないような気もする。

 

「うーん、まぁその……」

 

 そもそも、これは市内への立ち入りを制限する検問であり、市外へ怪しい人間を出さない為に行っているのだ。目の前の生徒がティーパーティーであることは疑いようもないわけで、同じ学園の仲間である生徒を疑う理由はない。

 

「まぁ市内からでしたら問題ないでしょうし……学生証も確認できましたから」

「班長、外周OKです。次は中ですか?」

「あー、それはいいや。ティーパーティーの車両だし、中で寝てる人いるみたいだから」

「え? あぁ、了解です」

 

 

 中で休んでいる生徒を指さす。休んでいる中を起こすのも申し訳ないし、彼女らの頑張りでトリニティは回っているのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに目の前の生徒の身分が確かであり、現在の状況的に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「許可証も問題ないですね。はい、ではこれでOKです」

 

 検査した書類や身分証を返却し、班長は検問のバリケードを開けるように指示を出す。

 

「忙しい中ご協力ありがとうございます、気を付けて」

「えぇ、ありがとう。皆さんもお気をつけて」

 

 ティーパーティーの生徒は微笑みながら車を発進させた。そうして車は世闇に消えていく。後には静寂が残された。

 

「大変なんすね、ティーパーティーって」

「だな」

 

 検査を行った生徒が率直な感想を述べる。再び持ち場に戻る生徒を横目に、班長は報告書に『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と記載した。

 

 書類を纏めて装甲車の中へと荷物を置く。そうして犯罪者や怪しい人物が()()()()()()()、そうして再び眠気と戦う時間が始まった。

 

 

***

 

 

「白洲、もういいぞ」

 

 花咲が後席で寝ている()()をしていたアズサに声を掛ける。

 既に車は市内を抜け、郊外へ向かうハイウェイに差し掛かっていた。

 

「……すまない」

「いや、いい」

 

 規則的に光が流れていく。交通量の少ない夜間を飛ばしていく。二人の間には沈黙が流れていた。

 それを破ったのはアズサだった。

 

「なぁ、良かったのか」

 

 その沈黙を破るように、白洲アズサは言葉を紡いでいく。

 

「よくわからないが、私は……見逃されているのだろう?」

 

 アズサは必死に思考を回す。

 そもそも、今回の襲撃はアリウススクワッドの錠前サオリから指示されたものであり、それに関してティーパーティーは関与していないはずなのだ。学園に入学できたのは、聖園ミカやパテル分派と呼ばれる派閥のおかげではあるが、それでも襲撃犯である自分を助ける理由にはならないはず。

 

「君たちは、パテルというみたいだが、君らとサンクトゥスのセイアは同じ仲間なのだと聞いたことがある。それなら、セイアを襲撃した私を突き出してもいいはずだ」

「……」

「こうして助ける理由はなんだ?」

「助けたわけじゃない」

 

 花咲は冷たく言い放った。

 

「これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、私以外に誰かが乗車していた事実はない。一般生徒は乗車できないからな」

「それは」

「パテルと貴方には何の関係もないし関りもない。それに生徒はもう寝ている時間だ。余計なことに首を突っ込むな」

「……そうか」

 

 二人の間に再び沈黙が横たわる。そして、アズサは短く返答した。

 

「貴方たちの意図は理解した」

 

 アズサは再び目を瞑る。これ以上考えることは無意味だし、それならば少しでも体を休める方が良いと思ったからだ。今度こそ寝るつもりで今度は深く座りなおす。数分もしないうちに、アズサは意識を飛ばして動かなくなった。

 ルームミラーでそれを確認した花咲は、それ以降言葉を発することもなく道路を走り抜けた。

 

 まだ、夜明けは遠い。

 




生徒会執行部"ティーパーティー"
トリニティの意思決定機関。それぞれの派閥から代表が集まり、方針を決定する。
エデン条約編では、ミカがセイアのことを「生徒会長の一人」と表現していたので、あくまでティーパーティーという”組織”がトリニティの生徒会長であり、代表であると解釈してます。スイスの連邦参事会やボスニア・ヘルツェゴビナ大統領評議会がその例になります。

トリニティ総合学園生徒会長(ティーパーティー・ホスト)
ティーパーティーの決定に従い政策を執行する執行機関であり、対外的なティーパーティーの代表者。あくまで儀礼上での代表でスイス連邦大統領のように特に権限はないと思ってます。というか、あれだけ派閥抗争が激しいと一人に全てを背負わせるのは困難ではないでしょうかね。

ホワイトホール
トリニティ総合学園行政本部のこと。永田町とか霞が関みたいな換喩。
元ネタはイギリスにある中央官庁が多く所在する通り。

非常事態宣言
自治体が法令に基づき特別な権限を発動すること。これにより自治区のトップが警察などを一時的に統制し外出禁止などの措置を行える。キヴォトスでは軍がない(と思われる)ので戒厳ではなく警察力で制御するイメージ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。