仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱 作:大島海峡
明くる朝。
移動したグリード達が拠って立つのは、同じく人間たちによって放棄された、一施設だった。
そこは資金不足によって開発が中止されたテーマパークであり、中世欧風をイメージした城郭の一角と、草木の伸び放題の庭園が残されているばかりである。
潜伏ではなく迎撃のために。
それはあたかも、かつての王とグリードの決戦の再現のようであった。
所謂、虫の知らせというものか。
異変と接近に真っ先に気付いたのは、ウヴァである。
頭に触覚を上下させ、次いで肩を大仰に揺すった。
「やはり来たか」
瞑目したまま待ち受けていたアンクは、正面から堂々とやってきた『火野映司』を塁壁の上から見下ろした。
だがその髪も瞳も、妖色に染まっている。かつて、比奈の兄に寄生した己のように。映司のしない薄笑いを浮かべながら。
「映司はどうした?」
アンクはグリードたちの中心で、直裁に尋ねる。
「あぁー、だいぶ手間取らせてくれたが……消えたよ」
自らのものとした左腕をひらつかせながら、そのグリード、ゴーダは言った。確かに、そこから映司の気配も抵抗も、消えている。
だがそれは果たして、紛れもない事実かブラフか。
突き詰める前に、ゴーダは妖眼を同類の者どもへ向ける。
「次は、お前らだ。お前らのコアも全て奪い、俺はオーズとしてもグリードとしても唯一無二の存在となる!」
熱っぽく高らかに宣言したゴーダに、メズールが
「生まれたばかりだっていうのに、随分と欲深いのねぇ」
と、呆れたような声音と共に、口元に当たる部位に指を這わす。
如何にも泰然と振る舞ってこそいるが、焦慮めいたものが声音に滲んでいる。
その映司の体内に秘めたる
その戦力の分析は置いて。
アンクは、ゴーダに言った。
「やっぱり、
そう、冷笑と共に。
「あ?」
対して映司の、ゴーダの顔から、一瞬余裕の笑みが消えた。
……そう、オーズになることそれ自体は、実のところ困難なことではない。
初期化されたベルトに、己を使い手として認証させる。それのみで済む。
だが、
コアメダルより抽出されしエナジー。それを使い続けることは、常に己が内を欲望の渦にかき乱されることになる。
結果、精神はその力に溺れ、やがては我を失って暴走する。
本来、装着者として想定されていた王でさえ。
だが、何の因果か運命か。
最初はその場しのぎの、使い捨ての駒として選んだ火野映司の精神性こそが、唯一の例外だったのだ。
政治家の一族に生まれ何不自由なく幼少期を過ごし、拡充させてきた器。それは現実の過酷さに打ちのめされ、一気に干上がった。代わり、その中身として彼が求め続けたのは純粋な力への渇望。それが、彼がオーズたりえる資質だった。
だからこそ、その映司の身体を乗っ取ったとして、他者がオーズとして振る舞えるわけではない。ましてや、欲望の権化のグリード、その生まれたての『嬰児』などに。
むしろ、童の喉に悪酒を注ぎ続けるようなものだ。現に、今の彼は尋常の様子には見えない。遠からずその精神は破綻し、かつての王のように暴走を始めるだろう。
「……まぁ良い。やることは変わらない」
それをあえて説く気もないアンクは、ただ冷ややかに映司の肉体を見下ろすだけだった。取り繕う様子のゴーダは、奪い取ったままのオーズのベルトに、自らの核を読み取らせる。
「変身」
〈ムカチリー! チリッチリッ! ムカチリー! チリッチリッ!〉
異色にして新型のコンボに姿を変えたゴーダは、
「お前らのメダルを肴に、念願のアイスを味わわせて貰うとするか。なぁアンク」
などと挑発し、グリード達を手招きする。
「味……? 分かるものか」
アンクは吐き捨てるように応じた。
「お前のような、グリードにはな」
その悪態の裏で、すでにしてグリードたちは既に本来の姿に戻っている。
「逆に、俺のコアもろとも、貴様のメダルを奪ってくれる!」
などとウヴァが息巻くも、それが虚勢であったのは明白だった。
一番に敵へ飛びかかるだけ、まだ勇は残されているだろうが。
だがアンクは、泉信吾の似姿のまま、右腕だけ異形化させて佇んでいる。
その手に、王より奪取したベルトを持ちつつ。
……王であれ、謀反人であれ。
おそらくこのベルトは、オーズのベルトの後発として作られている。なればこそ、コアメダルの多用乱用による、グリード化のリスクも想定の上で開発されているはずだ。
つまり、グリードになっても、グリードでも扱えるように。
だから、
(俺が変身する)
正義や情けなどではない。自分がやりたいことのための、起死回生の切り札として。
手順は、常に間近で見続けてきた。
だが、当然のことながら、躊躇はあった。ベルトを身につけた、その瞬間に。
使うのは、その右手より排出した己のメダルで統一。だからこそ暴走のリスクは抑えられるが、ゼロではない。
それを冒してまで、扱う覚悟があるのか――と。
一度深く息をつき、思案する。だが、答えは決まっている。
「楽して助かる命がないのは、いつの時代も同じだな」
精神の変化に感応してか、それともベルトによる相乗効果か。
右手に載せた、三枚のコアメダルが、円を描くように炎を躍らせ、五彩を得る。
それをベルトにまとめて押し込み、バックルを傾ける。
腕を交差させ、スキャナで読み取る。
「変身……!」
己の内に渦巻く、清濁の万感。それを併せ呑み、アンクは吼えた。
〈タカ! クジャク! コンドル! タージャードルー! エーターニティ!〉
その気炎に従い、ベルトは新たな欲望の王として彼を認め、迸る力の波は歌となり、光輝となってその輪郭を包み込む。そしてグリードならざるへ姿と、オーズの装甲へと変えた。
彼本来の赤のコンボを昇華させた、歌になぞらえればタジャドルコンボエタニティ。
アンクの要素をその外見に取り入れ、虹色の孔雀羽が鮮やかに彩る。
左手に装着したタジャスピナーの進化器を立てるように突き出し、新たなるオーズは飛翔する。