仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

11 / 21
10.迎撃と分からない味と新たなる王

 明くる朝。

 移動したグリード達が拠って立つのは、同じく人間たちによって放棄された、一施設だった。

 そこは資金不足によって開発が中止されたテーマパークであり、中世欧風をイメージした城郭の一角と、草木の伸び放題の庭園が残されているばかりである。

 潜伏ではなく迎撃のために。人間(オーズ)ではなく、そこから逸脱した『何者か』と相対するために。

 それはあたかも、かつての王とグリードの決戦の再現のようであった。

 

 所謂、虫の知らせというものか。

 異変と接近に真っ先に気付いたのは、ウヴァである。

 頭に触覚を上下させ、次いで肩を大仰に揺すった。

 

「やはり来たか」

 瞑目したまま待ち受けていたアンクは、正面から堂々とやってきた『火野映司』を塁壁の上から見下ろした。

 

 だがその髪も瞳も、妖色に染まっている。かつて、比奈の兄に寄生した己のように。映司のしない薄笑いを浮かべながら。

 

「映司はどうした?」

 アンクはグリードたちの中心で、直裁に尋ねる。

「あぁー、だいぶ手間取らせてくれたが……消えたよ」

 自らのものとした左腕をひらつかせながら、そのグリード、ゴーダは言った。確かに、そこから映司の気配も抵抗も、消えている。

 だがそれは果たして、紛れもない事実かブラフか。

 突き詰める前に、ゴーダは妖眼を同類の者どもへ向ける。

 

「次は、お前らだ。お前らのコアも全て奪い、俺はオーズとしてもグリードとしても唯一無二の存在となる!」

 熱っぽく高らかに宣言したゴーダに、メズールが

「生まれたばかりだっていうのに、随分と欲深いのねぇ」

 と、呆れたような声音と共に、口元に当たる部位に指を這わす。

 如何にも泰然と振る舞ってこそいるが、焦慮めいたものが声音に滲んでいる。

 その映司の体内に秘めたる(メダル)、今ここに結集するグリード達のいずれにも劣るものではない。いや、こうして合力して当たったとしても、太刀打ちできるかどうか。

 

 その戦力の分析は置いて。

 アンクは、ゴーダに言った。

 

「やっぱり、()()()()なぁ」

 そう、冷笑と共に。

 

「あ?」

 対して映司の、ゴーダの顔から、一瞬余裕の笑みが消えた。

 

 ……そう、オーズになることそれ自体は、実のところ困難なことではない。

 初期化されたベルトに、己を使い手として認証させる。それのみで済む。

 

 だが、()()()()()()ことは、その限りではない。

 

 コアメダルより抽出されしエナジー。それを使い続けることは、常に己が内を欲望の渦にかき乱されることになる。

 結果、精神はその力に溺れ、やがては我を失って暴走する。

 本来、装着者として想定されていた王でさえ。

 

 だが、何の因果か運命か。

 最初はその場しのぎの、使い捨ての駒として選んだ火野映司の精神性こそが、唯一の例外だったのだ。

 

 政治家の一族に生まれ何不自由なく幼少期を過ごし、拡充させてきた器。それは現実の過酷さに打ちのめされ、一気に干上がった。代わり、その中身として彼が求め続けたのは純粋な力への渇望。それが、彼がオーズたりえる資質だった。

 

 だからこそ、その映司の身体を乗っ取ったとして、他者がオーズとして振る舞えるわけではない。ましてや、欲望の権化のグリード、その生まれたての『嬰児』などに。

 むしろ、童の喉に悪酒を注ぎ続けるようなものだ。現に、今の彼は尋常の様子には見えない。遠からずその精神は破綻し、かつての王のように暴走を始めるだろう。

 

「……まぁ良い。やることは変わらない」

 それをあえて説く気もないアンクは、ただ冷ややかに映司の肉体を見下ろすだけだった。取り繕う様子のゴーダは、奪い取ったままのオーズのベルトに、自らの核を読み取らせる。

 

「変身」

〈ムカチリー! チリッチリッ! ムカチリー! チリッチリッ!〉

 

 異色にして新型のコンボに姿を変えたゴーダは、

「お前らのメダルを肴に、念願のアイスを味わわせて貰うとするか。なぁアンク」

 などと挑発し、グリード達を手招きする。

 

「味……? 分かるものか」

 アンクは吐き捨てるように応じた。

「お前のような、グリードにはな」

 

 その悪態の裏で、すでにしてグリードたちは既に本来の姿に戻っている。

「逆に、俺のコアもろとも、貴様のメダルを奪ってくれる!」

 などとウヴァが息巻くも、それが虚勢であったのは明白だった。

 一番に敵へ飛びかかるだけ、まだ勇は残されているだろうが。

 

 だがアンクは、泉信吾の似姿のまま、右腕だけ異形化させて佇んでいる。

 その手に、王より奪取したベルトを持ちつつ。

 

 ……王であれ、謀反人であれ。

 おそらくこのベルトは、オーズのベルトの後発として作られている。なればこそ、コアメダルの多用乱用による、グリード化のリスクも想定の上で開発されているはずだ。

 つまり、グリードになっても、グリードでも扱えるように。

 

 だから、

(俺が変身する)

 正義や情けなどではない。自分がやりたいことのための、起死回生の切り札として。

 

 手順は、常に間近で見続けてきた。

 だが、当然のことながら、躊躇はあった。ベルトを身につけた、その瞬間に。

 使うのは、その右手より排出した己のメダルで統一。だからこそ暴走のリスクは抑えられるが、ゼロではない。

 それを冒してまで、扱う覚悟があるのか――と。

 

 一度深く息をつき、思案する。だが、答えは決まっている。

「楽して助かる命がないのは、いつの時代も同じだな」

 

 精神の変化に感応してか、それともベルトによる相乗効果か。

 右手に載せた、三枚のコアメダルが、円を描くように炎を躍らせ、五彩を得る。

 

 それをベルトにまとめて押し込み、バックルを傾ける。

 腕を交差させ、スキャナで読み取る。

 

「変身……!」

 己の内に渦巻く、清濁の万感。それを併せ呑み、アンクは吼えた。

 

〈タカ! クジャク! コンドル! タージャードルー! エーターニティ!〉

 その気炎に従い、ベルトは新たな欲望の王として彼を認め、迸る力の波は歌となり、光輝となってその輪郭を包み込む。そしてグリードならざるへ姿と、オーズの装甲へと変えた。

 

 彼本来の赤のコンボを昇華させた、歌になぞらえればタジャドルコンボエタニティ。

 アンクの要素をその外見に取り入れ、虹色の孔雀羽が鮮やかに彩る。

 左手に装着したタジャスピナーの進化器を立てるように突き出し、新たなるオーズは飛翔する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。