仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱 作:大島海峡
火花が散る。銀貨が舞う。その中で、ゴーダが嗤い、メダジャリバーが閃く。
「んがぁッ!」
鼻息荒く、ガメルが剛腕をもって地面を叩く。
磁場が歪み、地が割れる。その亀裂は際限なく広がり、ゴーダに向かって伸び、底へと引きずり込まんとする。だが、生じた重力などまるで感じさせない跳躍力で飛びあがった毒蟲のオーズは、刃を躍動させる。飛んだ剣閃は、ガメルに叩きつけられ、その屈強な図体を退かせた。
着地と同時に、ゴーダの体の節々から、毒霧が溢れる。
「ウッ、また……!」
先の敗戦を想起したウヴァが呻きながら退き、それと入れ替わる形で、カザリが前面に推し出た。
「なるほど……今までにいなかったタイプのグリード、そしてコアメダルってところか」
そうす素直に認めつつ、爪の先で自らの鬣の辺りを弾く。
「まぁ僕には関係ないけどッ!」
その爪から、突風が発せられた。
それは砂を巻き上げ嵐となって、毒霧を一掃。そのうえで、その風圧はゴーダに直撃する。
だが、彼はそれを蜂の巣の盾で受け止めるや、ゆったりとした動きで、少しずつその軌道を歪ませていき、跳ね除けた。
転じて、間合いを詰める。奸智と速攻に長けたカザリをして、応じきれないほどの速攻でもって。
何度かの攻防、応酬の後、瞬く間にカザリを追い詰めたゴーダは、もう片方の針をもって彼を刺し貫く。
「グゥッ!」
獣の呻き声を漏らすカザリだったが、
「……この代償、高くつくよ……!」
となお、減らず口を叩く。
自身を貫くゴーダに対してか、このような事態を招いたアンクに対してか。
――それとも、己を囮にして敵の死角に潜り込んでいるメズールに対してか。
地面の性質それ自体を変容させ『海』となし、そこを潜行していた彼女は、そこから飛びあがって仕掛けた。
そして、妖笑を含ませながら一撃、二撃と奇襲を加えていく。
――そう、一撃、二撃は、確かに有効だった。
だが三度目は無かった。
「ふん……」
マスクの奥、映司の肉体の内で冷たく鼻哂するゴーダは、カザリを蹴り飛ばしてその勢いで針を抜くや、三枚の新型コアメダルを指に挟み込み、その一式とベルトのそれを取り換える。
〈セイウチ! シロクマ! ペンギン! セイ、シロギン! セイ、シロギン!〉
瞬間、オーズの姿は獣とも魚類ともつかない様相となり、青きヒレのついた足が地を叩けば、急速に気化を始めたそれが白い氷霧を生み、霜を奔らせ、メズールの水路を凍てつかせた。
〈セイシロギン!〉
それが、正式なコンボの名であるらしい。
引き抜いた紫の斧が、それを教えてくれる。
「くっ……う!」
周りを凍らされて身動きがとれなくなったメズールを、その斧刃が嘲りと共に振り下ろされる。
身を屈めるようにして存分に叩きつけられた後、強烈なローキックが彼女の半身を襲った。
「ああっ!?」
甲高い悲鳴と共に、地下に沈んだままの胴体から分かたれたその上半身が地を転がる。
突き詰めれば、グリードとはメダルの集合体である。
だからたとえ半身に引き裂かれようと、その身を針が貫通しようとも、意識を司るコアさえ欠損しなければ再生は出来る。
だが、その圧倒的な戦力差は、数を恃んでオーズを取り巻くグリードの包囲陣を、自然遠のかせて綻ばせた。
その内で、孤立しがちのカザリに、オーズは狙いを絞った。
凍った空気が氷の礫と化して、斧に纏わる。それを振りかざすや、体勢をようやく立て直しかけていた彼の四肢に叩き込まれる。
それはそのまま氷結して彼の手の自由を枷として奪い脚首を地に縫い付ける。
〈スキャニングチャージ!〉
斧を打ち捨てたオーズは、その猛獣の爪を氷嵐を取り巻かせ、振りかざしながら踏み込み、無慈悲に迫った。
が――
その背に、回り込む紅い影。その戦士は旋回と同時に円盤型の武装――タジャニティスピナーで同型に扮した怪物に横撃を加えた。
そのうえで、背より広げた孔雀の羽を射出した。
その乱舞が二体のオーズの身体を迂回し、カザリに命中する。正確には、彼を縛る氷塊を、だったが。
解放されたカザリは、わずかな当惑と共に退いた。
「お前が、仲間を盾に隙を伺っていたことは知っていた」
首を傾ける様は、脅嚇の如く。しかし声音には嘲笑と増長を込めて。而して、戦況を見極める目に油断無し。
ゴーダは冷静に三の矢たるそいつ――アンクのオーズのスピナーを、爪で挟み込んで防いでいた。
「……あぁ、そっちが反応してくることも算段の範囲内だ」
そう言って、アンクは己の腰から、スキャナを抜き取った。
そしてスピナーの内部で回転を始めたメダルを読み込ませた。
〈エタニティスキャン!〉
その表面から、エンブレムから発せられた極光が、ゴーダを眩ませた。
咄嗟に離れた彼を、何処からとも知れず劫火が襲う。
段階を踏んで爆撃が展開される、柱となり、渦を成し、毒蟲を苛む。
空気を焼く音と共に、
「はぁッ!」
もはや相手の正体定かならないほどに大となった火勢だったが、手は緩めない。
さらなる火弾を投じる。低く飛翔するとともに追い討ちをかけつつ、間違いなくなお健在であろうゴーダに再度の肉薄を試み、吶喊した。
〈プ・ト・ティラーノ・ザウルース!〉
だが、その進撃を、極寒の向かい風が阻んだ。
件の寒冷生物コンボではない。新たなるコアが加わったとて尚、もっとも恐るべきものとして頂点に座します異端の三枚。王さえも屠る、脅威。
それも同じく氷を司る存在ではあるが、それはただの冷気ではない。
虚無。
あらゆる運動、エネルギーを無に帰して静止させることこそが、それ――紫のコンボの本質である。
その影響に巻き込まれて失速、失墜するアンクの首根を、屈強な恐竜の怪力が掴む。肩より伸び上がった双角が、彼を射抜いた。そして極めつけに、溶かすことのできない氷が、彼の移動も飛行も封じた。
「無駄だ。お前らとは、持っているメダルの数も質も違うんだよ」
そう嘯くと同時に、ゴーダのもう一方の手が、アンクの胸を抉る。その装甲を抉り、グリードとしての身体をまさぐり、セルの中からアンクのコアを収奪するべく。
「あぁ――願ったり、だな」
アンクはか細い声、荒げた呼気の中、そう宣った。
転瞬。そのベルトが彼の意思に、そして同型機に反応して光輝を見せた。
互いの内より、かすかな数条の光が、身体を突き抜けて漏れ始めた。
「これはっ!?」
動揺を見せるゴーダに、アンクは平静に続ける。平素の得意げな様子ではない。覚悟はしていたとして、そんな余裕などあろうはずもないし――ここまでが、計算の内だった。
「やっと、本当の隙を見せてくれたな……」
と。手にしたスキャナを、ゴーダの腹に叩きつける。
「こうでもしなきゃ、さすがの俺でも……映司の身体からお前のコアを見つけることができなくてな」
そう……二つのベルトを共鳴させて、その体内のメダルを読み取り、位置を確かめることでも、しなければ。
――映司とゴーダを分離させることなど、とても。
「まさか貴様、最初からそのために、王のベルトを……っ!」
その身を戦慄かせるゴーダの腕を、渾身の力で捩じる。それこそが、言葉以上の、何よりの肯定だった。
「止めろっ! そんなことをして、今更お前に、映司に、なんの得があるっていうんだぁ!」
ゴーダもまた、決死の反撃を見せる。アンクを引き剥がそうと、拘束する彼に奪ったエネルギーを一気に押し込み、破裂させんとする。
果たして、アンクの身体はそれに耐えきれず四散する。ただ自我とコアを移した、その右腕だけを残して。
「そんなに俺のメダルが欲しけりゃくれてやる。だがその前に、お前が奪ったもん、返してもらうぞ!」
声をあげる鳥のグリードの右腕は、自ら飛び込むかたちで、ゴーダの、そして映司の身体に呑み込まれていったのだった。