仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

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13.穴と雁字搦めと欲望の解放

 思えば、欲望の化身を謳いつつ。

 欲望と、こうした形で、直接的に触れ合うのは初めてだった。

 

 ゴーダに呑まれかけ、大量のセルやコアを呑み人ともグリードと知れぬ渾然一体となった映司の内部。欲望の渦。否、砂漠。

 

 気づけば白砂の如きものの上に立っていたアンクは四方に首を巡らせる。

 大罪を犯した映司はその器を再び枯らし、その器さえゴーダに奪われつつある。さながら、害虫が大樹の幹を喰らい、空洞化させるように。これは、その状態をアンクの感性が視覚化させたものに過ぎない。

 

 天地は何方か。進んでいるのか退がっているのか。上っているのか下っているのか。それさえも判別がつかないほどの、虚無。

 

 だが、アンクには関係のないことだった。

 目指すべきものは、見えている。それで十分だった。

 

 世界に開けられた、巨大な虚穴。

 その上に、目当ての男はいた。ムカデの如く連なる硬貨に、罪人の如く括られて浮かんでいる。

 

「ただで身体明け渡すようなタマじゃないとは分かっていたが……毎度妙なところで気を失ってるな」

 皮肉まじりにそう呟くと、項垂れたままのその男……火野映司の核とも言うべきそのイコンに、アンクは翼を広げて飛んだ。

 

「おい映司! このままじゃ本当に吞まれちまうぞ! いい加減目ぇ覚ませっ」

 間近でそう大声で呼ばわる彼に、

「アン、ク……」

 うっすらと目を開いて、映司は呼び返す。

「どうして」

 痩せ細った声音にて問い掛けるのを無視して、アンクは戒めを掴んだ。引き千切ろうにも、頑なに拒まれる。

 そして彼らの足下では、穴はますます広がり、白砂に混じってメダルの類を呑んでいく。恐らくはその中心に、ゴーダの核が潜んでいる。

 

 アンクは舌打ちする。

 これは、力づくではどうにもならない。映司自身が、ゴーダとの断固たる決別の意志を、前へと進む精神を見せない限り、どうともならない。

 

「どうして」

 映司は、再び問うた。何故、危険を冒してまでこんな内部(ところ)まで来たのか、と。

 アンクにしても、とんだ馬鹿をしているという自覚はある。

 

「お前、俺を恨んでたんじゃ」

 そしてそう問いを重ねる。

 アンクの右腕が掴む拘束が、ずしりと重量を増した。

 

「……俺がお前を蘇らせたのは、自分の欲望を優先させたからだ。お前はあの時、満足して死んだって、そう聞いていたはずなのに、その想いを無視してまで、俺は自分の後悔と贖罪を優先させた……だからお前に恨まれて、見限られるのだって無理ないって……」

「あぁ、まったくだ」

 

 冷ややかに映司を睨み据えて、アンクは言った。

 再び沈黙した映司に、彼は続ける。

 

「それとも、『そんなことはない』とでも否定して欲しかったか? ハ! そんな訳あるかっ。お前が今言った通りだ。せっかく俺は満たされた気分で消えたのに、台無しにしやがって……このまま八つ裂きにしてやりたいぐらいだ!」

 

 それは、偽らざる本心。映司にとっては烈しく、残酷な答え。

 そして、その襟首を捻りあげて顔を寄せ、続けた。

 

「だが、それで良い」

 と。

「他を押し除けて、思いを踏み躙って、そして自分が傷ついてでも叶えたい願い。それが欲望だ。それが人間だ。そこに善も悪もあるか。腹は立つが……俺はそれを否定しない。お前も、やっとまっとうな望みを持てたってことだ」

 怒りとも冷笑ともつかぬ青年の面持ちを、アンクは引き攣らせる。

 ストールを絞り、声を張る。

 

「だから、こんな下らないところで燻ってないで、最後までその欲を張り通してみせろ――映司!」

 その発破もまた、真である。

 アンクが発した言霊に感応するかのように、映司の瞳で生気が閃く。光が揺れる。

 

「なんか……やっぱ、アンクはアンクなんだな……ちょっと、拍子抜けするぐらいに」

「あ?」

 訝る彼へと、映司は顔を上げた。

 そして魂の血肉に戒めが食い込むのも厭わず、手を伸ばす。十年切望し、追い続けたその影を、その右腕を掴む。今度こそ。

 

「じゃあお前も、もっと欲しがれよっ! 死んで満足なんて言うんじゃなくて、自分の命を諦めるなって!」

 そう言い返す映司に、アンクは双眸を光らせて不敵に笑う。

「あぁ、それが俺の、新しい欲望だ。そのためにまたお前を使ってやる。せいぜい覚悟しておけ」

 

 映司は強く頷く。

 そして力を込めて互いを握り締める。それを阻む戒めに亀裂が奔り、崩れていく。映司の身体が、精神が、自由へ、先へ、解き放たれていく。

 

 甲高い断末魔が、虚穴より轟く。

 その穴の中に蓄えられていた無数のメダルが、間欠泉の如く溢れ出て、そこに潜んでいた三枚のメダルが、映司の内部より切り離され、押し出されたのだった。

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