仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

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15.合流と復活とOの形

「無い」

 そう言い切ったアンクを、映司は眉根を寄せて見返した。

「いやいや、あるだろ。そこに。ケチくさいこと言うなって」

 ある意味アンク自身とも呼べる右腕が掴んでいるのは、他でも無い、王のベルトだ。たとえ映司自身のそれがゴーダに奪われたままだとしても、それを使えば変身できるのではないか、と映司は訝しんだのだ。

「ケチじゃないッ! こいつはもう俺のベルトにしたから、お前には使えないんだよ!」

 呆れ半分に怒鳴り返したアンクが告げる、思いの外深刻な事実。

「そんなぁ~!」

 と嘆く映司は、縋るようにアンクを見つめ、

「……なんとかなんない?」

 と無茶を振る。

「なるか、バカッ。先に言っておくが、俺はお前の中に入るなんて気色悪いマネ、二度と御免だからな」

「気色悪いって何だよ!」

 

 喧々諤々といがみ合う二人の背に、一台のバイク、一人の男が行き着いた。後藤だった。

「……心配するだけ無駄だったようだな」

 そんな両者のやりとりに、安堵と呆れの入り交じる呟きを漏らす。

 

「後藤さん?」

「何しに来た、今更」

 冷笑と共に迎えたアンクを軽く睨み返し、

「考えることは同じだったということだ」

 とため息混じりに答える。

 そしてライドベンダーの負わせていたケースを手に取り、解錠と同時に蓋を開けた。

 

 中には馴染みのある赤黄緑三色のメダル、そしてそれを収めるための口が設けられたバックル。だがその外縁は、鮮やかなオレンジ色に塗り替えられている。

 

「馬鹿な……三つ目の……ドライバー?」

「これって……」

「会長からのプレゼントだ」

 その中身を覗き込み、驚き訝る二人に、後藤は答えた。

 

「嘘か本当か、現代にも錬金術師の寄り合いみたいなところがあって、十年ぐらい前に蒸発したある裏切者とかいうのが自分たちのドライバーを作るためにサンプルとして複製したものだとか……本来だったらそれにまつわる記憶が消されるべきところなのに流出したとか……詳しいことは俺も知らん。とにかく、もう一つオーズのベルトはあったってことだ。まぁ、丁度良いだろ。ベルトが取られたなら、これを使え」

 少し歯切れ悪く続けた彼に、

「えっと、良いんですか?」

 と映司は問う。

 

 先に後藤は、『考えることは同じ』と言った。

 それが意味することはすなわち、彼もまたアンクと同様のアイデア……オーズの力を共鳴させて、映司とゴーダを分断させるという答えに至ったことを意味していた。

 そしてその時、オーズに変身するのは後藤だったはずだ。

 かつて、その力で世界を平和にしたいと切望した。

 

「つまらないことを気にするな」

 その映司の逡巡を、後藤は一笑に付した。

「お前が変身しろ。そして、また一からスタートすれば良い……ここからな」

 不器用な優しさを、その声調に滲ませて。

 映司は謝意と共にそれを手にした。自らの前に据え、展開したベルトとホルダーが腰に巻かれた。

 

「はッ、だったらお前はバースにでもなってろ」

 これ見よがしに自らのベルトを持ち出し、首を反らして揶揄する。

「言われなくてもそのつもりだ」

 そんな彼には一瞥も呉れないまま、十年前から自身のものとしている、そのベルトを手に掴む。

「覚悟を決めて伊達さんから譲り受けたその日からずっと、俺は仮面ライダーバースだ」

 と、気を吐きながら。

 

「どうでも良いけどッ、少しは尻ぬぐいする気があるならさっさと加勢してくれる……!?」

 自身と同じ機動力と猛爪を駆使する黄色のコンボと苦闘を繰り広げながら、カザリが苦言と皮肉を呈する。

 

「あ、ごめん」

 素でそれに謝った映司は、残る二人と共に前へと進み出る。

 そのカザリの声で、映司が再びベルトを手にしたことを、ゴーダも知った。

 本体たる、甲虫のオーズが顧みて低く嗤い声を立てた。

 

「またアンクの口車に乗せられるまま、オーズになるか……だが、そうしたところでお前の罪は帳消しにはならんぞ」

 その揶揄に、映司は少し表情に陰を落とす。

「知ってるよ。俺は取り返しのつかないことをした。決して、償うことの出来ない罪だってのも分かってる」

 だが顔を上げたまま歩みを止めない。

「それでも、俺は……こんな俺を支えて、信じて待って背を押して、この手を繋ぎ止めてくれる人たちと、昨日とは違う明日を進みたい。一緒に夢を見たい。たとえそれが、筋の通らない俺自身の我儘でも。許されることがなかったとしても」

 ――比奈ちゃん

 ――信吾さん、伊達さん、智代子さん

 ――鴻上さん、里中さん

 そして今隣に立ってくれる、後藤さん――アンク。

 一歩ごとに、関わる人々の顔が思い浮かび、その歩みに力が加わる。

 

「そうして都合よく目を逸らすのか!? 決して埋められない、お前自身の欲望の穴からっ!」

 鋭く問いかけるゴーダに、映司は静かに首を振った。

 今、ようやく分かった。己の内に蟠っていたものの正体を。映司は三枚のメダルをドライバーに投じていく。

 嗚呼、きっとそれは、とても単純なことだった。

 

 

 

「穴なんかじゃない――これが俺の、欲望の形だッ!」

 

 

 

 という気炎と共に、剣を鞘走らせるように、スキャナーを抜き取り、傾けたバックルを読み込ます。

「変身!」

〈タカ・トラ・バッタ!〉

 映司の背後、横一列に、三色のOがヴィジョンとなって浮かび上がる。並び、重なり連なる。

 

「変身っ!」

〈タージャードルー! エーターニティ!〉

 それに応じてアンクも再び、自身のコアを己のベルトに収め、異形の右手に握りしめたスキャナーで読み取らせる。五彩の焔が、久遠に燃え盛らんばかりに彼を包み、極光の煌めきが神秘の化身へと彼を転じさせる。

 

「変身!」

 後藤が自身のリストより取り外したセルメダルを、ドライバーに投じ、一気に手元でグリップを押し回す。

 泡の爆ぜるような音と共に、転がり出たカプセルに格納されてい兵装の一切が彼に施され、その身に馴染んでいく。

 

 ――そして……

 

〈タートバ! タ・ト・バ! タートバー! タトバ!〉

 背に広がる三色の刻印が力の奔流となって、映司という器はそれを呑んでいく。より豪壮さを増した歌が鳴り響き空気を震わせる。

 蒸気にも似た白煙が全身の関節部より吹き出し、その向こうで円盤が舞い、映司のシルエットをオーズへと変えた。

 それが晴れた時に明らかとなったその姿も、既存のタトバコンボとはわずかに趣を変えている。

 緑のバイザーの周りをオレンジのアイラインが彩って、取り戻した意志力を反映させて、より鮮やかに照り返している。

 

 その三人は一気に我が身を跳ね上げさせると、グリードたちの間に割って入る。

 

「みんな――行くよ!」

 二人のライダー、四体のグリードを率いるように背に負い、オーズは腰を溜めて剣を携えた。

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