仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱 作:大島海峡
〈カニアーム!〉
「うおォォォ!」
雄叫びと共に、伊達は腕に展開した鋏の間から、エネルギー弾を連射する。迎え撃つは、真木の掌より繰り出される魔弾である。
虚無に由来するその紫光は、的確に伊達の弾を呑んで相殺していく。
だがそれで良かった。間を詰め、本来己の得意とする肉弾戦に持ち込めれば。
だが、それも真木にとっては案の内だったのだろう。その射撃が止んだ後も、光射の数を、威力をより増していく。
〈タートラーラ!〉
その弾雨を、新たなるバースは潜り抜ける。本来あり得ぬ機動性と柔軟性をもって。一陣の風となって。
かろうじて追いつく反応によって、振り返った真木は、バースのエネルギーラインが総じて黄色に変じていることに気づいた。その脚部が斑の如く、強化装置らしきボルトが打ち込まれている点を認めた。
そしてコアメダル用の補助ユニットに、黄色の
次の瞬間、バースバスターからの高速斉射が、余す所なく恐竜グリードの全身に浴びせかけられた。
「大したもんだろ、あんたが抜けた後の財団も」
と、何故か己が得意げに嘯く伊達目掛けて、有無も言わず裏拳が飛ぶ。
〈ドルジャタ! タカレッグ!〉
それを、バースらしからぬ軽妙なハイキックが迎撃する。跳躍する。飛翔した真木と空中で競り合い、双方、繰り出された手足からの爪撃によって互いを撃墜せしめる。
〈ゾゴーサ! ゴリラアーム!〉
着地したバースのラインに鈍色の光が流し込まれて、その両手にはオーズの拳撃武装、ゴリバゴーンが展開された。
そして再び肉薄し、伊達は真木に寄った。
「あのさぁっ、ダメ元で言ってみるけどさ!」
そして怪力でもって組み付きながら、伊達は声を張り上げた。
「やっぱ戻ってきて来んないかなっ! まだやり直し出来るんじゃないの!?」
「……」
返ってくるものは、無かったので、なお言い募る。
「俺や火野やアンコ、知世子さんとかと色んなとこ旅して、色んなもん見てさ! 世界終わらした方が良いかなんて、そっからじゃないとわかんねぇだろ!」
「……分かっていませんね、伊達君」
ややあって、重い声。
「私は、すでに死んでいるのですよ。オーズに敗れた時ではなく、グリードになった時ではなく、姉を手に掛けたその日から。それ以降の私は、抜け殻。ただ
「抜け殻ねぇ……俺と暮らしてた頃のあんたは、とてもそうは見えなかったけどな!」
そのまま胴を挟み込むようにして持ち上げようとしたバースXを、逆に真木は掌底でもって吹き飛ばす。その間際に、伊達もまた置き土産としてロケットパンチを飛ばした。
その衝撃で地を滑りながらも踏みとどまり、完全に止まってから、真木はその手に破滅の輝き集約させる。
「覚悟を決めて下さい、伊達君。君自身の欲望のために」
平坦な声で、言い放つ。
「ドクター……っ」
渦巻く感情を基本の形態に戻す。覚悟を決める。もうあの日々は、決して返って来ないのだと。明日に向かって、自分の人生を歩むしかないのだと。
〈サソリキャノン!〉
そして胸部に展開したのは、ブレストキャノンの進化系。バースデイの設計、サソリの造形を組み込んだ、青光りする砲口。
〈ソガビ! コアバースト!〉
そこに充溢した力を、雄声と共に、伊達は一気に解き放つ。その反動で、揺らぎ退く我が身を叱咤し、食い止めながら。
そして真木もまた、それに対して応射した。
二色の光柱が交錯し、互いへ向けて飛んでいく。
そして、着弾と共に爆火が彼らを覆い尽くす。
「なんで……」
それが和らいだ時、伊達の変身は解け、力無く両腕を垂らした。
「らしくないこと止めてよ、ドクター」
と、呆然と呟く彼の足下で、大穴が穿たれている。
対して、グリードの身体が、その脇腹は、半身は、砲撃の熱によって抉られていた。
「加減、してくれるなんてさ……」
あれほどの撃ち合いで、自分だけが無傷ということはあり得ない。
つまり、足下を撃ち抜く砲撃は、衝撃で的を外した訳ではなく、意図的に逸らされていた、と即座に気づく。
「いいえ……正真正銘、君の勝ちです」
そう力無く呟きながら、真木は人であった頃の姿に戻って、膝をついた。
そのまま頽れそうになる身体を、伊達は駆け寄り支え持った。
「先ほど誘われた時……あの病院で語った絵空事。ほんの一瞬ですが、『それも悪くない』と思ってしまった……だからこそ、私の負けです……」
「ドクター……」
「まったく、会うべきではありませんでした」
低く嘆きながら、真木はゆっくりと、哀愁に曇る伊達の顔を見、目線を合わせた。
「ですが……二度目にしては……そう悪くはない、終末でした……」
という言葉を残響に、真木は目を細め、メダルの塊に戻る。
一度は接着していた彼のコアは再び二つに砕け、粒子となって風に流れていく。
「あんたこそ、分かってないよ」
伊達の語る展望に対して、『それも悪くない』と思った。それの意味することを。思わずそれを紡ぎ出した、自分自身の感情を。
「それが、生きたいってことなんじゃないの」
わずかな寂寥と共に呟いた伊達、その彼を見つめるように、旅姿の『キヨちゃん人形』が、片隅のベンチに腰掛けている。
それに気づいた伊達は立ち上がり、その首根を摘み上げて、「なっ?」と、殊更に明るく、返ってくることのない同意を求めたのだった。