仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱 作:大島海峡
ウヴァの放電が、群がる二種の虫コンボたちを押しのける。怯んだところに、
先までの弱気弱音は何処へやら。形勢が転じつつあることをその触覚を介し、本能で察知した彼は、勢いを得て反撃に転じたのだった。
こうなった時の、彼は強い。
普段は粗忽で短慮であるが、力を振るう条件さえ整えば。
グリードの中でも最強格とも言える破壊力が、ようやく発揮される時を得て、ウヴァは勇躍する、
その背に、再び蜂の針が突き立てられる。
だがその不意打ちは、表面のセルメダルを腐食させ、削るのみである。
「なけなしのセル。全部つぎ込んで来てやった! そう何度もやらせはせん!」
と、勇ましいんだか情けないんだか分からない宣言と共に、翻って爪撃を見合わせる。
そのウヴァから散ったセルメダルが浮き上がり、その内の三枚ばかりを、飛翔したオーズとアンクはキャッチする。
〈トリプル! スキャニングチャージ!〉
真一文字に振り下ろされるメダジャリバー。断裂する空間。それが引き戻るために生じるエネルギーが、害虫を切り除く。
〈エタニティスキャン!〉
ガタキリバの一体に、接近とともにスピナーを密着させたタジャドルエタニティは、そのままエネルギーを送り込み、爆ぜさせた。
「はんッ、馬鹿と何とかは使いようだな」
とアンクが笑うと、
「フン、借りを返してやっただけだ」
とウヴァも憎まれ口を叩き、虚勢を張る。
そんな彼らの合間をすり抜けて、オレンジ色の蛇が突出する、
ゴーダの分身体の、ターバン状に装甲を巻いた頭部から伸びてきているそれは、映司の襟首をつかみ上げ、胴を巻き取り宙へと釣った。
「のわ~!? 蛇ニガテなのに!」
甲高く叫ぶオーズに、アンクは舌打ちして、つい今しがた回収したメダルを、
「映司ッ! 真ん中をコイツに換えろ!」
金属音と共に、映司の手元に弾き飛ばす。
まだ自由の利く可動域でそれを掴み取った映司は、手早く言われた通りにメダルを取り換える。
幾度となく繰り返した動作。身体がそれを、覚えている。
〈タカ! カマキリ! バッタ!〉
瞬間、拘束の内側で膨れ上がった翠の刃風が、蛇の胴体を寸断した。
「あ~、切れちゃった」
敵か味方か分からない、緊張感のない独語は、ガメルのものである。
それに構うゆとりなく、着地と同時に地を蹴った映司は、両手首の甲に展開した鎌刃で追い立てるように蛇を輪切りにしていき、その基たるオレンジのコンボのゴーダに斬撃を届かせた。
一方で、積み上げられた建築資材の頂点。そこで地の利を確保していたカザリを、挟み込む形で二形態のオーズが迫っていた。
いずれも黄色を基調とした、草食肉食の獣達。
その内の片割れ、ライオンの鬣から散布された閃光の粒が、カザリの足下で爆ぜた。
支えを失って傾き、倒壊する。高みより振り落とされた彼を追い討つべく、持ち前の脚力でその背に回り込み、頭角を槍の如く突き出した。
空中で翻りながらカザリは、同じく『頭』で応対する。その角に向けて伸び上がった触手が絡め取り、地面へと叩きつけた。
着地したところで高機動性を活かした猛獣コンボが押し迫る。
蛇行をつけて小賢しく幻惑しようとしてはいるが、その動きは直線的。かつ向かうべき対象は一人なのだから、タイミングさえ合わせれば問題ない。
自身の眼前に爪撃をくり出したゴーダに、自らのそれを打ち合わせる。読めてもなお、殺し切れない勢いが、カザリの身体をのけ反らせた。
転瞬、その爪の間より生じた鉄砲水と重力波と組み合わさってゴーダに叩き込まれ、吹き飛ばす。
彼独自の能力ではない。水と灰のメダルによる特性だ。
「……うん、久々に使ったけど、やっぱ良いね」
「ちょっと! それ私たちのメダルじゃないッ?」
身を起こして快さげに爪を翻す彼に、メズールが抗議の声をあげる。
「もう増え過ぎて誰が誰のメダルか区別つかないでしょ?」
悪びれない調子で返しながらカザリは、次から次へと襲い来るオーズ軍団をいなしていくのだった。
「……まったく」
腰に手を当て、毒づく。そんな彼女を隙だらけと見て、海洋生物とコンボ達は、そのハープーンから斬撃を飛ばし、多脚を伸ばす。
だがそれらが接する手前で、メズールの身体は液状化し、鯨を模るその腕を絡め取り、武器を奪い取る。そして片割れへと投げつけ、突き立たせる。
その実体化の瞬間に、白熊の手より生じた冷気が、再び彼女の手足を凍り付かせた。
〈ファイヤーホーク!〉
しかしてその彼女を、救う小粒の影が飛ぶ。
鴻上コープレーションの新作、タカウォッチロイドは、旋回しながら火を振り撒き、氷を融解せしめた。
「あら、ありがとう」
メズールはその献身を言葉と手つきで愛でた。
「グリードが、今更人間の道具に頼るかッ!」
分身体の一体が非難の声をあげるが、
「人間の愛と欲とに寄り添い、利用する。そうやって生きてきたのよ、私たちは……生まれた坊やには、ちょっと早かったかしら?」
挑発的に笑みを含ませながら、メズールは答えた。
その彼女に、逆上したオーズ軍団が、灰色のコンボを主軸として殺到する。
それらから彼女を護る盾となりしは、ガメル。
「そんな鳥より、おれのほうがメズールを守れるぞ!」
子どもじみた嫉妬からその呼気を荒くしつつ、それらを正面から抑え込み、跳ね返す。
一旦退いたゴーダは、左右より拳型のユニットを飛ばす。
それを受けてもなお怯まず、ガメルは鼻息荒く彼へとにじり寄り、自らの剛腕の中へと彼を閉じ込めた。締め上げた。
純粋な腕力によるものか。それとも完全体としての特性か。
その腕の中で、ゴーダの分身体は、セルとコアの塊となって崩れ落ちた。
そして、その硬貨の山を、飛び込んできたバースが空になったマガジンで掬い取る。
「あぁ〜! またバースがおれのメダル盗った!」
というガメルの訴えは聞き流し、それをバースバスターにセットした後藤は、一切のブレもない熟達の連射を四方に浴びせかけて牽制しつつ、自身のドライバーにセルメダルを連投していく。
〈クレーンアーム〉
〈カッターウイング〉
〈キャタピラレッグ〉
二つの翼がその頭上で組み合わさり、飛行ユニットとなり、そこにさらにアームが垂れ下がるように加えられた。ターザンよろしく、そこに飛びついたバースは、脚部に展開したキャタピラで甲殻類や紫のコンボを蹴り飛ばす。
「馬鹿な……ッ! 何故押し負ける!?」
敗退の末に足下に転がってきた分身体を見回しつつ、ゴーダの本体は狼狽する。
「ハッ、やっぱり素人のガキだな! 欲望の並列化が出来てないから雑な木偶人形しか作れていない!」
右腕を下から突き出すようにして、アンクが嘲る。
「……だったら、もう一度力を集中させるだけだ!」
それを受けて気を吐いたゴーダの周りで、アンクの言うところの『木偶人形』がメダルに分解されて本体に取り込まれていく。
代わり、彼の体内から吐き出されたのは、彼自身の核。より力を蓄え、今新たに力を結集したのに呼応して、より毒々しい鮮やかさを得ている。
先に嵌め込まれている緑のコアメダルを弾き出す形で、ベルトにその三枚を換装したゴーダは、荒々しい呼気と共にスキャンする。
〈ゴーダ! ゴーダ! ゴーオーダー!〉
内包するコアメダルが、その内部で蠢く様子が傍目からでも見てとれる。
それは内側からゴーダの姿を変異させていく。より凶猛なフォルムに。禍々しき形態へ。
紫のムカデに張り付かれたようなマスク。両肩にそびえ立つ鬼のごとき角。爪先や付け根から触覚を生やした脚部。
そして体の中心に描かれたリングには動植物もグリードも表さず。ただ
オーズとしての規格を、枠組みを、完全に超えていた。
――ゴーダ。
彼は、己としての姿を確立し、唯一無二の姿と力を手に入れたのだった。
一喝と共に、漲るエネルギーは四方へと発散され、詰めに入っていたオーズやバース、グリードなどの悉くを吹き飛ばす。
「なんて力だ……っ!」
予想だにしない出力に驚嘆する映司は、再びタトバコンボへと戻り、虎の鉤爪で我が身を押し留める。
そしてアンクもまた、コンドルの爪先で自らの後退を食い止めた。
〈スキャニングチャージ!〉
濁った音声と共に、ゴーダの身体が直立したまま高々と浮かび上がる。
急降下と共に次の一撃を地面に叩き込み、その衝撃でまとめて一掃する算段だろう。そして、それは能うと想わせるだけの力と欲望の圧が、その身を分厚く覆っていた。
「……お前が余計なコト言うから」
それを呆れたように仰ぎ見ながらぼやく映司に、アンクは隠さず舌打ちした。
「元をたどればお前が原因だろうがッ。せめて最後の始末ぐらいは自分でつけろ」
そう悪態を吐くアンクの手前には、吸収されずに残った赤と紫のコンボ、そして紫にその眼を光らせたタトバのオーズが立ち塞がる。
その二体を受け持つと、暗に告げるがごとく、半歩前に進み出る。
「火野! これを使え!」
と、ライドベンダーに乗りつけてきた後藤が背より声をあげる。
そんな二人への『貸し』を甘んじて受け入れ、頷く。
「――俺はもう……自分の欲望に負ける気はない!」
と、その意をあらたに。
後藤と入れ替わった映司は車輪を切り返し、駆け出した。
タカウォッチロイドの先導のもと、何処からともなく現れた無数にして種々様々なカンドロイドたちが、天空へと至る道を舗装する。
その階の下を、アンクは低く飛行する。
火炎弾、トリケラの角、そして氷柱に冷気に直接的な斬撃。あらゆる手段をもって映司たちを阻まんとする地上のオーズたち。その大小の猛攻の網をかいくぐる。
〈セルバースト!〉
「ブレストキャノン……シューット!」
その網の目を、後藤のバースがさらに穿ち開ける。
拡張された胸部装甲、そこから射放たれた波動の光は、三オーズを吹き飛ばし、地を這わせた。
それを機としてアンクは自らのスキャナーをベルトのバックルに滑らせた。
〈スキャニングチャージ!〉
燃える翼をその背に広げ、かつ推進力として、起き上がりかけの紫眼のタトバへと、一息に蹴撃を見舞う。
〈エタニティスキャン!〉
その分け身が爆散すると同時に、残る二体の中間に着地したアンクは、そのまま光り輝くスピナーを旋回させた。
渦巻く刃は両オーズの胴を抜いて両断した。
その爆風に押し上げられる形で、映司はさらなる高みへ。ゴーダの頭上に至る。
だがそこは、彼の死角ではない。発せられる瘴気は一切の接近を許さず。溢れ出る力の余波に当てられて、カンドロイドやライドベンダーが爆散していく。
その直前に飛び出した映司の眼前に、その分厚い弾幕と防壁が差し迫る。
〈トリプル! スキャニングチャージ!〉
だが映司は臆せず突き進む。
その不可侵の防壁へ、銀の一閃を放つ。
だが切り裂くのは障壁ではない。それを内包する、空間そのものである。
その断裂の中に、映司は我が身を飛び込ませた。そして、障壁の裏側へ。最後の抵抗とばかりに撃ち出された光弾が、ジャリバーを弾く。だがもはや、オーズとゴーダを阻む何者も、存在しない。
〈スキャニングチャージ!〉
空いたその手にスキャナーを手にし、ベルトを読ませる。
巨大な翼を生やし打ち、空を滑る。
オーズとゴーダを繋ぐ軌道上には、三色の光の輪が連なって現れ、それを通り抜けるたびに輝度を高め、加速する。
――タトバキック。
外すことなく、防ぐ間も無き、直撃だった。
確かな手ごたえがあった。
意識とエネルギーの比重を地上に置いていたゴーダは、野太い呻き声と共に、オーズの飛蹴によって突き落とされていく。
「バカな……ッ!? ありえない……多くのコアメダルを手中に収めたこの俺が……何故ッ、たかが、タトバごときに!?」
現実を受け容れざるゴーダにに答えたのは、アンクだった。
「俺たちの方が、欲が張っていた……それだけの単純な話だろ」
映司の勝利を確信するがゆえに、一顧だにせず宣う。
彼の言葉を証するように、映司はその脚にさらなる力を加え、重ねていく。
烙印のごときサインを、胸部に焼き付けて、そこから力を流し込んでいく。
「セイヤーッッッ!」
そして気炎を放つや、三彩の煌めきとなってゴーダを貫いた。
胸から背にかけて大きな穴を穿たれたゴーダは、裏返ったような断末魔と共に、取り込んでいたメダルと共に、その四肢を爆散させたのだった。