仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱 作:大島海峡
落下と同時に、夥しい土煙と火の粉が舞い上がった。
そして、その煙幕の向こう側に、二つの影が立ち上がった。
一方は、この戦いの勝利者たるオーズ。
そしてもう一人は、一体は――ゴーダ。
映司としての、ライダーとしての姿が混ざり合い、そしてメダルとなっていく、その様。
「なん、で……」
崩れゆく指先と腕を振るわせ、半身を沈ませながら、残された顔で必死と苦悶の表情を表しながら、映司へとにじり寄る。
「俺は、お前から生まれたのに……お前の、欲望なのに……なんで俺は、お前に……」
言い終えることは能わず、それが、彼の最後の言葉となった。
けたたましい音と共に、内から爆散した彼の偽りのボディ。その中心で、オーズのベルトは黄金の煌めきを放ち、やがてメダルとなった彼を、その光の中に吸い込んでいく。
その吸引力は際限なく範囲を広げていく。散らばったセルメダルやコアメダルの多くを、呑み込んでいく。
「うっ、これは……!」
そしてそれはグリードたちとて例外ではなく、その表皮からセルメダルが引き剥がされていく。
「……ッ、アンク!」
咄嗟に映司は、アンクの右腕に手を伸ばす。
その身を引きずり込まれようとするのを押し留めんと、アンクもまた苦渋の声を漏らしながら
互いに伸ばした手は、一たび指先が触れ合い、ふたたび手が手をすり抜け合い――そして今度こそ、繋ぎ止める。
ほどなくして暴風は止んだ。ゴーダが斃れたその位置に鎮座していたのは石櫃だった。
かつて、財団関連の美術館で見覚えがある造形だ。おそらくは、グリードたちを封じていた装置。錠前代わりに、石化したオーズのベルトがその口を堅く閉じていた。
――ということは……
「アンクッ!」
変身が解けて、地に臥せていた映司は跳ね起きた。
「ぃだっ!?」
その拍子に、強く掴んでいた赤い右腕を無自覚に引っ張ってしまう。
その腕の先で、同じように横倒しになっていた青年の貌が、痛ましげに映司を睨み返していた。
見覚えしかないその姿に、ほっと胸を撫で下ろす。
「良かった~、また0からやり直しかと思った」
だが、そうではない。ここから、1からのスタートとなるのだ。
「……いい加減放せッ、痛いんだよ!」
そう怒鳴りつけたアンクは、乱暴に映司の腕を振りほどいた。そして異形の右を含めた四肢を投げ出し、大仰に息を吐く。
「他のグリードは?」
「さぁな。さっきのに呑み込まれたか。しぶとく逃げおおせたか……どっちにしろ、もうこの一帯に気配はない」
「そっか……」
復活した脅威とはいえ、今回については彼らもまた、映司のしでかしの被害者だった。
それがまた空しく封印されたとなった場合、負い目がないといえば嘘になる。
「……あいつらの手も、いつか繋ぐ日が来るのかな」
「馬鹿か」
ぽつりと漏らした映司の呟きを、アンクは一言で斬り捨てた。
そんなことが不可能なことは、ここまで奴らと戦い続けてきた映司自身が、一番よく分かっていることではないか、と。
だが――
「あぁ」
やや間を置いてアンクは、得心がいった様子で声をあげた。
「それがお前の、欲望の一つか」
と。
「お前がOKなんだから、割とイケそうだろ?」
「ちっ」
減らず口に返って来たのは、舌打ち。
「どーでも良いが、何か忘れてることがあるんじゃないか?」
「……忘れてること……あっ! 明日のパンツ、忘れてた」
「それ以上にどーでも良いことだな……」
「どーでも良くないッ、あそこには、お前のアイス代もあるんだからな」
「その俺に、何か言うことがあるんじゃないかってことだよ」
「言うこと……? えーと……『迷惑かけて、ごめん』?」
返って来たのは、またも舌打ち。これは、否定の意。察せという圧力。
どこか焦れた様子で、それでいて自らそれを口に出すことはプライドが許さない。
そんな調子のアンクを見つつ、己を顧みた映司は、ふと思い当たる。
あー、と間の伸びた声が、知れずあがった。
「そういえば、忘れてた」
「はッ」
苦笑する映司に、心底アンクは呆れたような声をあげる。
あまりに多くのことがありすぎて。そして、そうあることがあまりに自然過ぎて。
だが、それでも。
この十年間、喉の奥に押し込み続けてきた言葉ではあった。
それはきっと、今、ドロイド達の先導のもと、後藤に伴われて集まってきた、仲間たちにとっても。
彼らの様子から、すべてが終わったことと、そして新たなスタートを悟った比奈が、誰よりも先んじて駆け出した。
そして今度こそ曇りのない、十年前と変わらない笑顔で彼らの前に立つと、両手を差し出した。
アンクと共にその手を掴みながら、他ならぬ自分が待ち望んでいたその言葉を、映司は満面の笑みを咲かせて口にした。
「おかえり、アンク」
今回でほぼほぼラストですが、ちょっとオマケ+あとがきで完結とさせていただきます。