仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

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2.再生と贋作と旧き欲望たち

 件の『爆心地』より、少し外れたところに位置するうらさびれたビルの、廃店となって久しいバー。

 おそらくは経営的な理由で、諸々の権利をもったままオーナーが高飛びでもしたのか、あるいは債務者に捕まって『処分』されたのか。

 とかく、放置されたままのその店内に、四人の若い男女が転がり込んだ。

 ――正確には『若い男女』に扮した何者か、である。

 

「最悪の目覚めだ……」

 腹の底から忌々しげに、グリーンのレザージャケットを身に着けたオールバックの男が呟いた。

「感謝して欲しいね。(ヤツ)の中で僕が意識を保っていなければ、そもそも君、目覚めることさえ無かったよ?」

 そう皮肉を言いながら一番奥に自分の席を確保したのは、髪を金に染め上げ、キャップ帽をかぶった若者。

 いかにも夜の街にたむろしているような不良少年といったところだが、その眼には尋常ならざる理智と野心でほの暗い闇の中、不気味に輝いていた。

「いいや、俺の実力だ」

 何の根拠もなく、ただ意地だけでそう胸を張るジャケットの男を、黒髪の少女が冷ややかな目で見ている。一見清楚でもっとも幼少に見えるが、その内部に潜むモノは、精神年齢で言うならばその中でもっとも年長者然としているだろう。

 尋常の状態ならば皮肉や窘めの言葉を飛ばしていただろうが、気だるさがそれに勝る。

 

「メズール、しっかり」

 と、大男が彼女をぎこちなく、だが彼なりに細心の所作で青い敷物の上にもたれかけさせた。

「ありがとう、ガメル。でも言ったでしょう? 私たちの親子ごっこは、もう終わったの。別々の道を行くのだと」

「うぅー、よくわからない……メズールは、メズールだぁ」

 間延びした調子でそう言い、あどけなく笑いかける。彼女とは対照的に、もっとも中身が幼く素朴な個体が、このガメルだった。

 そして彼女、メズールは何度となく裏切られ、滅びようとも彼女に対する忠愛の情を改めない彼に、嘆息する。

 互いのために、そして自分自身の障りとなるために、強いて跳ね除けるのが正解なのだろうが、それが今は出来ない。もし刺激して暴れられでもしたら、まず自分の現状では太刀打ちできまい。

 

「僕らのコアに、妙なものが混じっている」

 そう仕切りだしたのは、奥座の少年――もといカザリだった。

 おもむろに虚空にかざしたその手が擦れ合う金属音とともに裏返り、鋭い爪となって伸びる。

 ドレッドヘアのような鬣。猫科の猛獣であること以外は何をモチーフにしたのか容易に断じかねる狂猛な貌。

 どここなく金属質なボディこそが、彼の本当の姿にして、満たされた形態――のはずだった。

 

 移動時ならばともかく、もはや擬態は不要だった。

 彼が変異したのに合わせて、他の彼らも表面のセルメダルの偽装を解き、本当の姿を露わとした。

 ウヴァ、カザリ、メズール、ガメル。

 皆、八百年前より蘇り、そして十年前に滅ぼされた欲望の怪物――グリードであった。

 それぞれのパーソナルカラーを帳として下ろされる。

 各々のスペースが、誰が他の誰と示し合わせるでもなく確保された。

 それを見届けてから、あらためてカザリは言った。

 

「見てくれこそ完全体だけど、一部が『粗悪品』と置き換わってる。あるいは、破損した本物のメダルは修復できなかったか。オーズが持ち去ったか」

「じゃあ、私たちの不調はそれが原因?」

「多分ね……あるいは、自覚がないだけでこの『人格』も、王が復活させたものじゃなくて、コピーされたものかもね」

「おれは、本物だぞっ!」

「気にしなくて大丈夫よガメル。いつものカザリの冗談よ……いつものね」

 長い鼻を逆立てて憤慨するガメルを、メズールが宥めすかす。

 その声は少女のものから一転して、嫣然とした調子になっていて、『余計なことを言うな』という鋭さが語尾に込められている。

 

「だと良いけど」

 そのニュアンスを知りつつ、冷笑めいた調子でカザリは返した。

 その隣で、打ち捨てられた椅子を蹴り上げ、ウヴァが背の触覚を翻した。

 

「くだらん! 何をゴチャゴチャと……要はオーズたちから俺たちのメダルを取り戻し、人間どもからセルメダルを回収するだけのことだ! 何もやることは変わっていない!」

 そう怒号を放つや、肩で風を切るようにして、急ごしらえのその拠点から出て行った。

 

「ちょっと、外の様子なんて何もわかっていないでしょうっ?」

「だからその視察を、ウヴァがしてくれるってさ……自分を犠牲に」

 メズールが制止をかけるも、カザリは肩をすくめる。ガメルはその図体に見合わず、おたおたと左右を見渡すばかりだ。

「あの単純な虫頭、この状況じゃ羨ましいね」

 言外の皮肉と、言葉通りの羨望を織り交ぜて、カザリはぼやいた。

 

 ……そう、彼らは今こうして再結集したわけだが、必ずしも互いに仲間意識があるわけではない。

 己の欲望がために、時に帯同し、時に背を撃つ真似をし、あるいは人間とさえも手を組んだ末に、今こうして停戦状態に落ち着いているに過ぎないのだ。

 強欲を司る彼らにとっては、損得がすべてにおいて優先される。

 

「――へぇ」

 だからこそ。

 ウヴァと入れ替わりに現れた『裏切者(コウモリ)』のことも、カザリはわだかまりを捨てて受け入れる。

 相手の目論見を探ったうえで、当面の利害が一致するならば。

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