仮面ライダーオーズ10thIF 大罪と欲望の輪唱   作:大島海峡

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3.影と急報と病み上がり

 意識が、半ば浮上する。

 か細く声が聴こえる。やがてその音の形は己の名となり、何度と繰り返される。

 

「映司君……! 映司君!」

 薄く目を開ければ、比奈の顔がある。

 張り裂けんばかりの心細げな表情が七割、直後の安堵が三割という複雑な面持ちで見下ろすその向こう側には、低い天井が見えた。

 

「あれ……ここ、は……」

 意識が覚醒に近づけば、問うまでもないことだった。

 そこは朝夕は知れないものの太陽の差し込む、クスクシエの物置兼屋根裏部屋。かつてはアンクが寝起きしていた場所だった。

 今は、あのまま倒れていたらしい映司が、その身を寝台の上に横たえられていた。

 

「良かった……気がついた」

 そう胸を撫で下ろした様子の比奈は、

「映司君、あの後倒れてたの……覚えてる?」

 と、端的に説明し、問いかける。

 映司は首を振る。困惑と期待が同時に押し寄せてきた。

 やはり、あれは夢だったのか。抱えた秘密(つみ)の大きさが、あのような幻影を作り出したのか、と。

 

「――なんて、都合の良い(コト)、あるわけないだろ」

 だが、すぐに後者の方は儚く打ち破られた。

 比奈の背の向こう側に、己の影が立っている。

 

「お前……っ!」

 顔色を変えて跳ね起きた映司に、比奈は驚いて身を退いた。

「映司君……?」

 戸惑い、映司が目を向けた先を顧みるも、不審げに眉をひそめるばかりだ。

 おそらく、視えていない。これは、髪と目の色以外自分そのものの姿形を持つこの『幻』は、己の網膜の内に居る。

 

「安心しろ」

 映司自身の声音に、そうではない軽薄な調子を乗せると共に、幻ならぬその影――ゴーダは両手を持ち上げる素振りを見せた。

「あくまで俺は、お前の欲望を成就させるために造られた、意識(メダル)だけのグリードだ。実体は存在しない。元となったグリードは逆に意思のない身体だけの人形だったから、それで釣り合いをとった、てとこか?」

「……」

「そう……実体が無いんだ。俺には」

 二重の声を低めて、ゴーダは言った。

 

「人の欲望として生まれ落ち、そしてお前と記憶を共有しながら、俺には自分でそれを味わうための肉体がない。ひどい話もあったもんだ」

 と大仰に嘆きつつ、次の瞬間には子どものように表情を明るくさせて映司に向かって手を伸ばす。

「この状況自体はアクシデントみたいなもんだが、これはむしろWin-Winの関係じゃないか」

(Win-Win……? 何処がっ)

「言っただろ。お前の欲望を知り、それを満たすことが出来るのは、俺だけだ。そのための力を、俺が貸してやる」

(ふざけるな! 誰がお前に叶えてもらう欲望なんか!)

 心の内で拒絶の言葉を吐く映司に、ゴーダは堪えた様子もなく、

「隠すなって。何でそんな頑なになる? ……その理由は、この女か?」

 比奈に視線を投げた時、映司の顔から血の気が消えた。

 

「それとも他の奴らか? もしそうなら、つまらない後ろめたさがお前の欲望を小さくするっていうのなら……」

 と、その指先が比奈の頬に爪を立てるように伸びていき

「やめろッ!」

 実体を持たない。おそらくそれは嘘ではない。つまり実害も与えられない。それは理解しているのだが、反射的に映司は叫んだ。

 

「冗談だ、怒るなって」

 そんな彼をせせら笑うようにして、ゴーダは比奈から離れた。

「ただ……忘れるなよ。俺はお前の欲であり、罪であり、お前自身だ。決して切り離すことなんて出来ないってことをなぁ」

 

 脅しとしかとれない忠告と共に、幻影は霞となって消える。

 後に残されたのは、急に映司が声を張ったことに、戸惑いの表情を見せる比奈のみである。

 

「あ、ごめん……なんか、まだ寝ぼけてたみたいで」

 咄嗟に考え付いた言い訳で誤魔化そうとするも、その不審は完全には拭い切れないようだった。

 だが幸か不幸か、深く追及されるより先に、後藤が部屋に入って来た。

 

「休んでるところすまん。今から出られるか、火野」

 口早にそう言った彼はいつになく深刻げな皺を眉間に寄せつつ、重い口調で伝えた。

 

「悪い予感的中だ。ウヴァが街で暴れてる」

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